説明

容器詰め炭酸ガス含有アルコール飲料

【課題】単式蒸留焼酎由来の独特で豊かな風味を維持しつつ、爽快かつエグミのない、単式蒸留焼酎を用いた容器詰め炭酸ガス含有アルコール飲料を提供する。
【解決手段】飲料中に含まれるパルミチン酸エチル及びリノール酸エチルの濃度の総和を0.1ppm以下に調整し、かつ、ノルマルプロパノール、イソブチルアルコール、及びイソアミルアルコールの濃度の総和を140ppm以上に調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乙類焼酎を含む容器詰め炭酸ガス含有アルコール飲料に関する。詳細には、脂肪酸エチルエステル含有量を低減させた乙類焼酎を含む、容器詰め炭酸ガス含有アルコール飲料に関する。さらに詳細には、脂肪酸エチルエステル含有量を低減させた乙類焼酎と、少量のクエン酸とを含む、容器詰め炭酸ガス含有アルコール飲料に関する。また、脂肪酸エチルエステル含有量を低減させた乙類焼酎を用いることにより、エグミが低減され、かつ風味豊かな容器詰め炭酸ガス含有アルコール飲料を製造する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、蒸留酒類の中でも焼酎の人気が高まっており、中でも乙類焼酎(単式蒸留焼酎)は、焼酎製造技術の高度化によって洗練された品質が実現できるようになったことと、消費者の嗜好の多様化によってその独特の風味が広く一般に受け入れられるようになったことから、人気を博している。この乙類焼酎の人気の拡大を一時のブームに終わらせず、より多くの消費者に受け入れられるようにするために、乙類焼酎の従来にはない多様な飲み方を提案していく必要がある。
【0003】
焼酎の中でも甲類焼酎(連続蒸留焼酎)は、連続蒸留を行うため、単式蒸留で製造される乙類焼酎に比べて原料由来の風味がほとんどなく、あっさりとした味わいである。甲類焼酎は、そのまま飲用されるだけではなく、ウォッカやジン、ラムなどのスピリッツ類と同様にカクテルベースの原料としても使用される。例えば、甲類焼酎を炭酸水で割ったアルコール飲料は、「チューハイ」と呼ばれ、居酒屋などの飲食店で提供されるだけではなく、缶入り飲料としても広く親しまれている。
【0004】
乙類焼酎も甲類焼酎のようにカクテルベースとしての使用が期待されるが、乙類焼酎は甲類焼酎に比べて原料由来の個性が非常に強いため、他の材料と組み合わせて良好な風味のカクテル飲料を作成することは困難であり、一般に、カクテルベースとしては使用されていない。
【0005】
乙類焼酎のように個性の強い蒸留酒として、ウイスキーが挙げられる。ウイスキーでは、氷を入れたタンブラーにウイスキーを注ぎ、冷やしたソーダ水を満たして軽くステアすることにより作られる、「ウイスキー・ハイボール」というカクテルレシピが知られている(非特許文献1)。ウイスキー・ハイボールは、ソーダ水で割るという手軽な手段で爽快な風味を有するカクテルを作成できるので人気があり、居酒屋などの飲食店で提供されるだけではなく、缶入り飲料としても親しまれている。
【0006】
炭酸ガスを含有するアルコール飲料としては、蒸留したアルコール飲料に、炭酸ガス圧力が0.5kg/cm2(20℃でのゲージ圧)未満となる程度に炭酸ガスを含有させた飲料が開示されている(特許文献1)。この飲料は、一般の人が飲んでも炭酸ガスが入っていることに気付かない濃度で炭酸ガスを僅かに含有させることにより、水等で割っても蒸留酒本来の味と香りが保持されると記載されている。
【0007】
また、清酒由来のアルコールを含む炭酸ガス含有アルコール飲料に、果糖を含有させることにより、炭酸ガス含有アルコール飲料の苦味を低減させたアルコール飲料が開示されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平6−253811号公報
【特許文献2】特開2003−125749号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】NBAオフィシャルカクテルブック、社団法人日本バーテンダー協会編著、株式会社柴田書店、1990年9月1日発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
乙類焼酎の原料に由来する独特な強い個性を活かしながら、爽快かつ風味豊かな飲料を製造することを目的とし、本発明者は鋭意検討を行った。まず、ウイスキー・ハイボールのように、乙類焼酎をソーダ水で割ることを検討した。しかし、乙類焼酎を単にソーダ水で割った場合には、ウイスキーをソーダ水で割った場合(ウイスキー・ハイボール)とは異なり、炭酸ガスの爽快感の中に乙類焼酎の強い個性からくるエグミが感じられ、非常に飲みにくい飲料となった。これは、個性の強い乙類焼酎に炭酸ガスを組み合わせたことにより、口中での炭酸ガスのはじける触感が乙類焼酎の独特な風味を過度に増強し、エグミとして感じられるようになったのではないかと考えられる。また、ウイスキーでは、樽での熟成によって生成されるヴァニリンなどの甘い芳香成分により原料由来のエグミが緩和されるが、乙類焼酎ではそのような成分の量が比較的少ないためエグミが緩和されないと考えられる。このように、乙類焼酎を単にソーダ水(炭酸水)で割るだけでは、乙類焼酎の独特で個性豊かな風味を活かしながら、爽快でエグミのない飲料を製造することができなかった。
【0011】
また、特許文献1に記載の方法では、一般の人が飲んでも炭酸ガスが入っていることに気付かない程度の濃度でアルコール飲料に炭酸ガスを含有させるものであるから、炭酸ガスに起因するはじけるような爽快感が得られない。さらに、特許文献2に記載の方法は、果糖による甘味が加わるため、乙類焼酎由来の独特な風味のバランスが害される。
【0012】
以上のように、従来知られた技術では、乙類焼酎独特の風味を保持しつつ、かつ乙類焼酎に炭酸ガスを加えることによって明らかとなるエグミを低減させる方法は知られていなかった。また、乙類焼酎独特の風味を維持しつつ、爽快でエグミのない、乙類焼酎を用いた容器詰め炭酸ガス含有アルコール飲料も知られていなかった。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、乙類焼酎の原料に由来する独特な強い個性を活かしながら、爽快かつ風味豊かな飲料を製造することを目的として更に検討を進めた結果、乙類焼酎に含まれる脂肪酸エチルエステル、特にパルミチン酸エチルとリノール酸エチルが、乙類焼酎と炭酸ガスとを組み合わせた際のエグミの顕現に関与することを見出し、これら成分の量を低減させることによって乙類焼酎を用いた炭酸ガス含有アルコール飲料のエグミを低減させることができることを見出した。また、さらに、飲料中に、ノルマルプロパノール、イソブチルアルコール、及びイソアミルアルコールを一定量含有させることにより、乙類焼酎由来の豊かな風味を維持しつつ爽快感のある炭酸ガス含有アルコール飲料が得られることを見出した。
【0014】
すなわち、本発明は以下に関する。
1. 単式蒸留焼酎及び炭酸ガスを含有し、
飲料中に含まれるパルミチン酸エチル及びリノール酸エチルの濃度の総和が0.1ppm以下であり、かつ
飲料中に含まれるノルマルプロパノール、イソブチルアルコール、及びイソアミルアルコールの濃度の総和が140ppm以上である、
容器詰め炭酸ガス含有アルコール飲料。
2. 50〜200ppmのクエン酸をさらに含む、上記1に記載の容器詰め炭酸ガス含有アルコール飲料。
3. 炭酸ガスの圧力が、0.5〜3.0kg/cm2である、上記1又は2に記載の容器詰め炭酸ガス含有アルコール飲料。
4. (1)単式蒸留焼酎に含まれる脂肪酸エチルエステルを低減する工程
(2)前記(1)からの脂肪酸エチルエステルが低減された単式蒸留焼酎に、少なくとも炭酸ガスを添加し、かつ、得られる炭酸ガス含有アルコール飲料のパルミチン酸エチル及びリノール酸エチルの濃度の総和を0.1ppm以下とし、ノルマルプロパノール、イソブチルアルコール、及びイソアミルアルコールの濃度の総和を140ppm以上に調整する工程
(3)前記(2)からの炭酸ガス含有アルコール飲料を容器詰めする工程
を含む、容器詰め炭酸ガス含有アルコール飲料の製造方法。
5. 前記工程(1)において、単式蒸留焼酎に活性炭を添加することを含む、上記4に記載の製造方法。
6. 前記工程(2)において、さらに炭酸ガス含有アルコール飲料のクエン酸濃度を50〜200ppmに調整する、上記4又は5に記載の製造方法。
7. 飲料中に含まれるパルミチン酸エチル及びリノール酸エチルの濃度の総和を0.1ppm以下に調整し、かつ、飲料中に含まれるノルマルプロパノール、イソブチルアルコール、及びイソアミルアルコールの濃度の総和を140ppm以上に調整することを含む、
単式蒸留焼酎及び炭酸ガスを含有するアルコール飲料の風味を改善する方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、乙類焼酎の持つ独特で個性豊かな風味を保持しつつ、爽快感があり、エグミのない、優れた品質の新規な炭酸ガス含有アルコール飲料を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の飲料は、少なくとも単式蒸留焼酎(乙類焼酎)と炭酸ガスとを含有するものであり、飲料におけるパルミチン酸エチル及びリノール酸エチルの濃度の総和が0.1ppm以下であり、かつ、ノルマルプロパノール、イソブチルアルコール、及びイソアミルアルコールの濃度の総和が140ppm以上であることを特徴とする。そのような飲料は、まず、単式蒸留焼酎に含まれる脂肪酸エチルエステルの量を任意の手法で低減させ、次いで、得られた脂肪酸エチルエステル量が低減された単式蒸留焼酎に、少なくとも炭酸ガスを加え、また、上記成分の濃度を調整することにより、製造することができる。
【0017】
(単式蒸留焼酎)
本発明でいう単式蒸留焼酎(本願明細書では、乙類焼酎ともいう。)は、平成18年3月31日改正日本国酒税法第3条第10号に記載の「単式蒸留しょうちゅう」をいう。ただし、前記酒税法には「アルコール分が45度以下のもの」との記載があるが、本発明では、アルコール分を45度以下に調整しない、いわゆる「焼酎原酒」も、単式蒸留焼酎に含むこととする。
【0018】
単式蒸留焼酎は、米、麦等の穀類や、甘藷等のイモ類など、多様な原料を使用して製造することができ、例えば、麦焼酎、芋焼酎、米焼酎、泡盛、蕎麦焼酎、黒糖焼酎、粕取焼酎、紫蘇焼酎などの多様な種類が知られている。本発明では、これら原酒の種類は特に限定されないが、芋焼酎や麦焼酎、米焼酎、泡盛などを用いると、元の焼酎の芳醇さと炭酸ガスによる爽快感との良好なコントラストが感じられるため、好ましい。また、単式蒸留焼酎を製造する際に用いる麹の種類や、蒸留方法、熟成方法などの製造方法についても多様なものが知られているが、本発明では、上記酒税法の定義を満たすものであれば、特に限定されない。
【0019】
(脂肪酸エチルエステルの低減処理)
本発明の飲料を製造するに際しては、まず、単式蒸留焼酎におけるパルミチン酸エチル及びリノール酸エチルといった脂肪酸エチルエステルの含有量を低減させる。脂肪酸エチルエステル量の低減処理は、任意の手法で行なうことができ、例えば、イオン交換樹脂や活性炭等を用いることができる。使用できるイオン交換樹脂や活性炭等の種類としては、脂肪酸エチルエステル量を低減させることができ、かつ、酒類などの飲料に用いることができるものであれば特に限定されず、原酒の種類や品質に応じて適宜選択することができる。しかし、単式蒸留焼酎における脂肪酸エチルエステル以外の成分、特に単式蒸留焼酎の独特な風味の元となるような成分に関しては、過度に除去しないことが好ましいことから、脂肪酸エチルエステル量の低減に際しては、活性炭を用いることが最も好ましい。活性炭を用いることにより、単式蒸留焼酎の独特な風味成分を過度に除去することなく、脂肪酸エチルエステル量を低減させることができる。また、活性炭による処理は、操作が簡便であり、特殊な設備を必要としないことからも好ましい。活性炭の種類は、上記の通り特に限定されないが、例えば、カルボラフィン、強力白鷺、精製白鷺、特製白鷺(日本エンバイロケミカルズ社製)などが挙げられる。これらの活性炭は、それぞれの特性に応じて、脂肪酸エチルエステルだけでなく、他の香気成分も多少除去するので、使用する単式蒸留焼酎の種類や、目標とする飲料の風味や香味といった品質に応じて、その量や種類を適宜選択することが好ましい。例えば、単式蒸留焼酎として芋焼酎や麦焼酎、又は米焼酎を用いる場合には、日本エンバイロケミカルズ社製の特製白鷺や精製白鷺、強力白鷺などを500〜3000ppm程度添加して、30分〜3時間程度処理すると、他の香気成分を過度に失うことなく、目的の脂肪酸エチルエステル量を低減させることができるため、好ましい。
【0020】
(炭酸ガスの添加と所定成分の濃度の調整)
本発明では、単式蒸留焼酎に由来する脂肪酸エチルエステル量を低減させることにより、飲料の「エグミ」(飲用時のセッケン様の苦い風味と飲用後の舌の荒れを感じるような好ましくない風味や、油脂っぽいべたっとした感じ)を低減することができる。特に、最終製品である炭酸ガス含有アルコール飲料中のパルミチン酸エチル及びリノール酸エチルの濃度の総和を0.1ppm以下、好ましくは0〜0.06ppm、さらに好ましくは0〜0.03ppmとなるように調整すると、単式蒸留焼酎と炭酸ガスとを組み合わせた際に特に目立つようになる飲料の「エグミ」を低減することができ、かつ、単式蒸留焼酎の豊かな風味を際立たせることができ、好ましい。
【0021】
また、本発明では、最終製品である炭酸ガス含有アルコール飲料中のノルマルプロパノール、イソブチルアルコール、及びイソアミルアルコールの濃度の総和を、140ppm以上、好ましくは、160ppm以上、さらに好ましくは190ppm以上に調整することにより、単式蒸留焼酎に由来する豊かな風味を最終飲料中に保持させることができる。なお、ノルマルプロパノール、イソブチルアルコール、及びイソアミルアルコールは、発酵によって生成する成分であり、単式蒸留焼酎に多く含まれる成分である。これらの成分は、単式蒸留焼酎の独特の風味に寄与する成分であり、その含有量の上限は特に限定されないが、通常の単式蒸留焼酎であれば、350ppm程度が上限となると考えられる。
【0022】
脂肪酸エチルエステル、並びに、ノルマルプロパノール、イソブチルアルコール及びイソアミルアルコールの濃度は、炭酸ガス含有アルコール飲料から、例えば超音波洗浄機などの任意の手段を用いて炭酸ガスを脱気した後に、ガスクロマトグラフィー(GC)分析を行うことにより、測定することができる。GC分析の条件は特に限定されないが、例えば、次の条件によって分析することができる。
【0023】
<脂肪酸エチルエステルのGC分析条件>
使用機器:アジレント・テクノロジー社 GC:6890N
使用カラム:HP−ULTRA2(J&W社製)内径0.32mm、長さ50m、膜厚0.52μm
キャリアガス:ヘリウムガス
Flow:3.2mL/min
注入口温度:250℃
カラム温度:40℃(9分間保持)〜230℃(10分間保持)、昇温速度10℃/min
キャリアガス制御:線速度一定(40cm/s)
カラム初期温度入口圧:133kPa
注入方法:スプリット法(スプリット比15:1)
注入量:2.0μL
検出器:FID
検出温度:260℃
<ノルマルプロパノール、イソブチルアルコール及びイソアミルアルコールのGC分析条件>
使用機器:アジレント・テクノロジー社 GC:6890N
使用カラム:SUPELCO 5% CARBOWAX 20Mon 80/120 Carbopack B AW 8FT x 1/4IN x2mmID GLASS Packed Column
キャリアガス:窒素ガス
Flow:18.8mL/min
注入口温度:200℃
カラム温度:70℃(0分間保持)〜154℃(10分間保持)、昇温速度4℃/min
注入量:1.0μL
検出器:FID
検出温度:210℃
脂肪酸エチルエステルの濃度、並びに、ノルマルプロパノール、イソブチルアルコール及びイソアミルアルコールの濃度の調整は、脂肪酸エチルエステルの低減処理をした単式蒸留焼酎に、必要に応じて原料用アルコール、水、又は炭酸水などを添加して希釈するなどにより、行うことができる。希釈することにより、単式蒸留焼酎由来の脂肪酸エチルエステル量をさらに低減させ、エグミをさらに低減させることができる。しかし、希釈しすぎると単式蒸留焼酎由来の独特な風味や豊かな旨みも失われるので、希釈の度合いは、最終飲料におけるノルマルプロパノール、イソブチルアルコール、及びイソアミルアルコールの濃度の総和が、上記の通り、特定の範囲となるように制限する必要がある。
【0024】
希釈に用いることができる原料用アルコール、水、炭酸水などは、飲料に適したものであれば特に限定されない。例えば、原料用アルコールとしては、廃糖蜜、精製糖蜜、及び甜菜糖蜜などの糖質原料や、米、サツマイモ、及びトウモロコシなどのでんぷん質原料を連続式蒸留機で蒸留したものを用いることができる。また、水は、硬水、軟水、純水など、硬度の如何を問わず、用いることができる。
【0025】
炭酸ガスの添加は、当業者に通常知られる方法を用いることができ、例えば、これらに限定されないが、二酸化炭素を加圧下で飲料に溶解させてもよいし、ツーヘンハーゲン社のカーボネーターなどのミキサーを用いて配管中で二酸化炭素と飲料とを混合してもよいし、また、二酸化炭素が充満したタンク中に飲料を噴霧することにより二酸化炭素を飲料に吸収させてもよいし、飲料と炭酸水とを混合して炭酸ガス含有飲料としてもよい。
【0026】
本発明の炭酸ガス含有飲料における炭酸ガスの圧力は、炭酸ガスに由来するはじけるような爽快感が感じられる程度の圧力であることが好ましく、後述する炭酸ガス圧測定方法で0.5〜3.0kg/cm2、より好ましくは1.5〜3.0kg/cm2程度がよい。
【0027】
本発明において、炭酸ガス圧は、京都電子工業製ガスボリューム測定装置GVA−500Aを用いて測定した。試料温度を20℃にし、前記ガスボリューム測定装置において容器内空気のガス抜きをし(スニフト)、振とう後、炭酸ガス圧を測定した。
【0028】
さらに、本発明では、クエン酸を、クエン酸の酸味が気にならない程度に少量添加することにより、単式蒸留焼酎由来の豊かな風味を保持しつつ、かつエグミが少ないという本発明の飲料の効果をより増強させることができる。クエン酸は、最終製品である炭酸ガス含有アルコール飲料おけるクエン酸の濃度が50〜200ppm、より好ましくは50〜150ppm、さらに好ましくは100〜150ppmとなるように添加するとよい。
【0029】
本発明に使用するクエン酸は、飲食用に適したものであればいずれでもよく、一水和物や無水物の形態であってもよく、また、塩の形態であってもよい。クエン酸の濃度は、当業者に知られる通常の方法を用いて測定することができ、例えば、滴定や、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)等を用いて測定することができる。
【0030】
また、本発明の飲料には、単式蒸留焼酎由来の独特な豊かな風味を妨げない範囲で、飲料に一般に用いられる種々の添加物を使用することができる。そのような添加物としては、例えば、甘味料、酸味料、保存料、色素類、酸化防止剤などが挙げられる。
【0031】
(容器詰め炭酸ガス含有アルコール飲料)
本発明では、上記により得られた炭酸ガス含有アルコール飲料を容器に詰めて、容器詰め炭酸ガス含有アルコール飲料としてもよい。容器の種類は特に限定されず、缶、ガラス瓶、PETボトル等の炭酸ガス含有飲料に一般に使用される容器を用いることができる。また、大型の容器(例えばステンレス製の樽)に充填し、飲食店等で顧客の求めに応じて適当量を分注しながら提供してもよい。
【0032】
本発明の容器詰め炭酸ガス含有アルコール飲料におけるアルコール度数は、特に限定されないが、一般の低アルコール飲料に近い飲用形態が好ましいとの観点から、5〜20v/v%、好ましくは5〜15v/v%、さらに好ましくは5〜10v/v%程度である。
【実施例】
【0033】
以下、実施例に基づき本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0034】
乙類芋焼酎原酒A(アルコール度数:37v/v%、パルミチン酸エチル濃度:0.174ppm、リノール酸エチル濃度:0.381ppm、ノルマルプロパノール、イソブチルアルコール、及びイソアミルアルコールの濃度の総和:1119ppm)に、活性炭(日本エンバイロケミカルズ社製、特製白鷺)を2000ppm添加し、常温にて2時間撹拌した後、濾紙濾過によって活性炭を除去して、原酒Aの脂肪酸エチルエステル低減処理を行なった。得られた原酒(原酒Eと呼ぶ。)のパルミチン酸エチル及びリノール酸エチル濃度は、いずれも0ppmであり、ノルマルプロパノール、イソブチルアルコール、及びイソアミルアルコールの濃度の総和は1101ppmであった。
【0035】
これら2種類の芋焼酎原酒を、容量比でA:E=3:1、1:1、1:3の割合で混和して、それぞれ原酒B、C、Dのサンプルを得た。
これらの原酒A〜Eのそれぞれ450mLに対して、イオン交換水470mLを添加して希釈した後、炭酸水(炭酸ガス圧:4.8kg/cm2)を加えて全量を2000mLとした。
【0036】
これを250mL容量缶に缶詰し、容器詰め炭酸ガス含有アルコール飲料サンプル1〜5(アルコール度数:8.3v/v%、炭酸ガス圧:1.8〜2.0kg/cm2)を得た。
【0037】
これらのサンプル1〜5における、パルミチン酸エチル及びリノール酸エチル濃度の総和と、ノルマルプロパノール、イソブチルアルコール、及びイソアミルアルコールの濃度の総和を、表1に示す。
【0038】
次に、これらの容器詰め炭酸ガス含有アルコール飲料の官能評価を行った。官能評価は、専門パネラー2名によって、エグミの感覚と焼酎の風味の豊かさに関して、次の基準に従って5点満点で採点し、平均点を求めた。平均点が3点以上で合格とした。
【0039】
(エグミの感覚)
1点:エグミが強く、飲みにくい。
2点:エグミを感じる。
3点:エグミを若干感じる。
4点:ほとんどエグミを感じない。
5点:エグミを全く感じない。
【0040】
(風味の豊かさ)
1点:焼酎らしい味わいが非常に少ない。
2点:焼酎らしい味わいが少ない。
3点:焼酎らしい味わい、原料の素材感を感じる。
4点:焼酎らしい味わい、原料の素材感をやや強く感じる。
5点:焼酎らしい味わい、原料の素材感を非常に強く感じる。
【0041】
官能評価の結果を、専門パネラーのフリーコメントとともに表1に示す。
【0042】
【表1】

【0043】
以上の結果から、パルミチン酸エチル及びリノール酸エチルの濃度の総和が0.1ppm以下のときエグミがあまり感じられなくなり、一方で、乙類芋焼酎らしい風味や素材感が感じられるようになるため、好ましく、0.06ppm以下でエグミが感じられなくなって味の厚みとおいしさが増えるためより好ましく、0.03ppm以下で後味がすっきりとして焼酎の風味や素材感が強く感じられるようになるため更に好ましいことがわかる。
【実施例2】
【0044】
実施例1で用いた乙類芋焼酎原酒E(アルコール度数:37v/v%)と、ニュートラルスピリッツNS(甲類焼酎、アルコール度数:37v/v%)を用いて、ノルマルプロパノール、イソブチルアルコール、及びイソアミルアルコールの濃度の総和を変化させ、これら成分の量による容器詰め炭酸ガス含有アルコール飲料の風味の変化について調べた。
【0045】
ニュートラルスピリッツNSに対する乙類芋焼酎原酒Eが容量比で0%、10%、50%、60%、70%、80%、100%となるように混和し、それぞれの原酒450mLに対して、イオン交換水470mLを添加して希釈した後、炭酸水(炭酸ガス圧:4.8kg/cm2)を加えて全量を2000mLとした。
【0046】
これを250mL容量缶に缶詰し、容器詰め炭酸ガス含有アルコール飲料サンプル6〜12(アルコール度数:8.3v/v%、炭酸ガス圧:1.8〜2.0kg/cm2)を得た。
【0047】
これらのサンプル6〜12における、パルミチン酸エチル及びリノール酸エチル濃度の総和と、ノルマルプロパノール、イソブチルアルコール、及びイソアミルアルコールの濃度の総和を、表2に示す。
【0048】
また、これらのサンプル6〜12について、実施例1に記載の方法に従って行った官能評価の結果も、表2に示す。
【0049】
【表2】

【0050】
以上の結果から、ノルマルプロパノール、イソブチルアルコール、及びイソアミルアルコールの濃度の総和が140ppm以上のとき乙類芋焼酎らしい風味や素材感が感じられるようになって好ましく、160ppm以上で味の厚みが増え、かつ、焼酎らしさが強くなるためより好ましく、190ppm以上で乙類芋焼酎らしい味わいが増すため更に好ましいことがわかる。
【実施例3】
【0051】
実施例1で調製したサンプル5及び2に対して、各種濃度のクエン酸を添加し、容器詰め炭酸ガス含有アルコール飲料の品質に対するクエン酸の効果を調べた。
サンプル5及び2の各々に、50ppm、100ppm、150ppm、200ppmのクエン酸(無水クエン酸、三栄源エフ・エフ・アイ社)を添加し、実施例1に記載の方法に従って官能評価を行った。結果を、フリーコメントとともに表3及び表4に示す。
【0052】
【表3】

【0053】
【表4】

【0054】
以上の結果から、パルミチン酸エチル及びリノール酸エチルの濃度の総和が0ppmである場合も0.09ppmである場合も、クエン酸を50ppm〜200ppm添加すると、後味のすっきりさを維持しながら焼酎の風味の豊かさも維持することができ、好ましいことがわかる。さらに、50〜150ppm、更には100ppm〜150ppmのクエン酸を添加すると、風味の豊かさを特に増強することができ、また、エグミも改善することができるため、より好ましいことがわかる。
【実施例4】
【0055】
乙類麦焼酎原酒及び乙類米焼酎原酒を、実施例1と同様にして、活性炭:特製白鷺(日本エンバイロケミカルズ社製)によって脂肪酸エチルエステル低減処理してパルミチン酸エチル及びリノール酸エチルの濃度の総和を0ppmとし、イオン交換水を添加して希釈した。このとき、液を2分割して、一方にはクエン酸を添加せず、他方にはクエン酸を最終濃度で150ppmになるように添加した。得られた焼酎原液にイオン交換水を加え、全量を250mLとし、炭酸ガスを圧入して缶詰し、容器詰め炭酸ガス含有アルコール飲料サンプル21〜24(アルコール度数:8.3v/v%、炭酸ガス圧:1.8〜2.0kg/cm2)を得た。
【0056】
これらのサンプル21〜24におけるパルミチン酸エチル及びリノール酸エチルの濃度の総和と、ノルマルプロパノール、イソブチルアルコール、及びイソアミルアルコールの濃度の総和を、表5に示す。また、実施例1に記載の方法に従って行った官能評価の結果も、表5に示す。
【0057】
【表5】

【0058】
以上の結果から、麦焼酎、米焼酎ともに、パルミチン酸エチル及びリノール酸エチルの濃度を減少させることによって、エグミが少なく後味がすっきりとしており、かつ原料の素材感や風味の豊かさを感じられる容器詰め炭酸ガス含有アルコール飲料を得ることができることがわかる。また、クエン酸を150ppm添加することによって、さらに後味のすっきりさと、原料の素材感を増強させることができることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単式蒸留焼酎及び炭酸ガスを含有し、
飲料中に含まれるパルミチン酸エチル及びリノール酸エチルの濃度の総和が0.1ppm以下であり、かつ
飲料中に含まれるノルマルプロパノール、イソブチルアルコール、及びイソアミルアルコールの濃度の総和が140ppm以上である、
容器詰め炭酸ガス含有アルコール飲料。
【請求項2】
50〜200ppmのクエン酸をさらに含む、請求項1に記載の容器詰め炭酸ガス含有アルコール飲料。
【請求項3】
炭酸ガスの圧力が、0.5〜3.0kg/cm2である、請求項1又は2に記載の容器詰め炭酸ガス含有アルコール飲料。
【請求項4】
(1)単式蒸留焼酎に含まれる脂肪酸エチルエステルを低減する工程
(2)前記(1)からの脂肪酸エチルエステルが低減された単式蒸留焼酎に、少なくとも炭酸ガスを添加し、かつ、得られる炭酸ガス含有アルコール飲料のパルミチン酸エチル及びリノール酸エチルの濃度の総和を0.1ppm以下とし、ノルマルプロパノール、イソブチルアルコール、及びイソアミルアルコールの濃度の総和を140ppm以上に調整する工程
(3)前記(2)からの炭酸ガス含有アルコール飲料を容器詰めする工程
を含む、容器詰め炭酸ガス含有アルコール飲料の製造方法。
【請求項5】
前記工程(1)において、単式蒸留焼酎に活性炭を添加することを含む、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記工程(2)において、さらに炭酸ガス含有アルコール飲料のクエン酸濃度を50〜200ppmに調整する、請求項4又は5に記載の製造方法。
【請求項7】
飲料中に含まれるパルミチン酸エチル及びリノール酸エチルの濃度の総和を0.1ppm以下に調整し、かつ、飲料中に含まれるノルマルプロパノール、イソブチルアルコール、及びイソアミルアルコールの濃度の総和を140ppm以上に調整することを含む、
単式蒸留焼酎及び炭酸ガスを含有するアルコール飲料の風味を改善する方法。