説明

容器詰め麺類の製造方法及び加熱処理装置

【課題】保存性を低下させることなく、食感に優れ且つ喫食時の麺のほぐれが良好な麺類が得られる容器詰め麺類の製造方法を提供すること。
【解決手段】調理済みの麺類を容器に充填し、該容器を開口状態で加熱庫内に入れて過熱水蒸気及び飽和水蒸気を交互に麺類と接触させて、麺類を加熱処理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食感に優れ且つ喫食時の麺のほぐれが良好な麺類が得られる容器詰め麺類の製造方法及び該方法に用いられる加熱処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子レンジ等により再加熱調理して喫食される「容器詰めされた調理済みの麺類」は、保存性を高めるために、有機酸を添加して麺類のpHを低下させたり、加熱殺菌処理した後、無菌的に容器を密封することが行われている。この加熱殺菌処理方法の一般的な方法としては、100℃以上の飽和水蒸気を用いて高温・高圧下で加熱殺菌する方法がある(特許文献1参照)。しかし、この加熱殺菌処理により、麺類の食感や喫食時の麺のほぐれが悪くなる等の問題が生じることがある。
【0003】
【特許文献1】特開2005−143495号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、保存性を低下させることなく、食感に優れ且つ喫食時の麺のほぐれが良好な麺類が得られる容器詰め麺類の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、種々検討した結果、麺類の加熱殺菌処理を、過熱水蒸気及び飽和水蒸気で交互に行うことにより、上記目的が達成されることを知見した。
【0006】
本発明は、上記知見に基づいてなされたもので、調理済みの麺類を容器に充填し、該容器を開口状態で加熱庫内に入れて過熱水蒸気及び飽和水蒸気を交互に麺類と接触させて、麺類を加熱処理することを特徴とする容器詰め麺類の製造方法を提供するものである。
【0007】
また本発明は、上記の容器詰め麺類の製造方法における麺類の加熱処理に好適に用いられる加熱処理装置として、調理済みの麺類が充填された容器を収容可能な加熱庫と、該加熱庫内に過熱水蒸気及び飽和水蒸気を交互に供給する手段とを備えることを特徴とする容器詰め麺類の加熱処理装置を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の製造方法によれば、保存性を低下させることなく、食感に優れ且つ喫食時の麺のほぐれが良好な容器詰め麺類を提供することができる。
また本発明の加熱処理装置によれば、本発明の製造方法における麺類の加熱処理を容易に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に、本発明の容器詰め麺類の製造方法及び加熱処理装置について、好ましい実施形態に基づいて図面を参照しながら説明する。
【0010】
本発明が対象とする容器詰め麺類は、電子レンジ等で加熱する、炒める等の再加熱調理をして喫食するように加工された、常温乃至冷蔵で流通される麺類である。麺類の種類としては、特に限定されるものではなく、例えば、スパゲッティ、マカロニ、うどん、そば、中華麺等が挙げられるが、本発明はスパゲッティに適用した場合に特に好ましい。
【0011】
本発明の容器詰め麺類の製造方法を実施するには、まず、調理済みの麺類を容器に充填する。
本発明で用いられる調理済み麺類は、電子レンジ等の再加熱調理によって喫食しうるように調理されたものであり、従来の容器詰め麺類の製造に用いられるものと同様のものである。該調理済み麺類としては、保存性の点から、有機酸を含む液体に浸漬させる方法等により有機酸を含有させた低pH麺類が好ましい。
また、該調理済み麺類が充填される容器としては、特に制限されるものではなく、例えば、パウチ類、トレー類、丸型や角型等の合成樹脂製又は金属製の成形容器等が挙げられるが、過熱水蒸気及び飽和水蒸気と麺類との接触を均一にする観点から、トレー類を用いるのが好ましい。
【0012】
次いで、調理済みの麺類が充填された容器を開口状態で加熱庫内に入れて過熱水蒸気及び飽和水蒸気を交互に麺類と接触させて、麺類を加熱処理する。
加熱庫は、上記容器が収容可能で、且つ過熱水蒸気及び飽和水蒸気の供給及び排出が可能な構造のものであればよく、例えば図1に示す構造のものを挙げることができる。図1は、本発明で用いられる加熱庫の構造を、上記容器を収容した状態で示す概略断面図であり、図中、11は加熱庫1の収容部本体、12は加熱庫1の蓋体、13は蓋体12に設けられた過熱水蒸気供給口、14は蓋体12に設けられた飽和水蒸気供給口、2は調理済みの麺類3が充填された容器である。該加熱庫1は、収容部本体11の底面に複数個の通気孔15が穿設されており、供給口13又は14から加熱庫1内に供給された過熱水蒸気及び飽和水蒸気が、該通気孔15から排出される開放系となしてある。
【0013】
過熱水蒸気及び飽和水蒸気を交互に麺類と接触させるには、加熱庫内に過熱水蒸気及び飽和水蒸気を交互に供給すればよく、過熱水蒸気と飽和水蒸気の切換えは瞬時に行うことが好ましい。
過熱水蒸気としては、105〜250℃、特に150〜200℃の過熱水蒸気を用いることが好ましく、飽和水蒸気としては、100℃以上の飽和水蒸気を用いることが好ましい。過熱水蒸気の温度が高すぎると、麺類の表面が乾燥し過ぎたり、焦げが生じたり、容器が変形したりする。また、過熱水蒸気の温度が低すぎると、麺類の食感の向上又は麺類のほぐれの向上の効果が得られない場合や、処理に時間がかかる場合がある。飽和水蒸気の温度が低すぎると、麺類の食感の向上又は麺類のほぐれの向上の効果が得られない場合や、処理に時間がかかる場合がある。
【0014】
過熱水蒸気及び飽和水蒸気による麺類の加熱処理は、過熱水蒸気による1回当たりの加熱処理時間を好ましくは10秒間〜30分間、より好ましくは30秒間〜15分間とし、飽和水蒸気による1回当たりの加熱処理時間を好ましくは10秒間〜30分間、より好ましくは30秒間〜15分間とし、過熱水蒸気による加熱処理1回及び飽和水蒸気による加熱処理1回を1サイクルとする加熱処理を好ましくは2サイクル以上、より好ましくは3〜20サイクル繰り返すとよい。
過熱水蒸気による1回当たりの加熱処理時間が長すぎると、麺類の表面が乾燥し過ぎたり、焦げが生じたり、容器が変形したりする。また、この加熱処理時間が短すぎると、麺類の食感の向上又は麺類のほぐれの向上の効果が得られない場合や、処理に時間がかかる場合がある。飽和水蒸気による1回当たりの加熱処理時間が長すぎると、麺類の表面が乾燥し過ぎたり、焦げが生じたり、容器が変形したりする。また、この加熱処理時間が短すぎると、麺類の食感の向上又は麺類のほぐれの向上の効果が得られない場合や、処理に時間がかかる場合がある。また、上記加熱処理のサイクル数が多すぎると、使用する装置が複雑となる場合があり、またこのサイクル数が少なすぎると、麺類の表面が乾燥しやすくなったり、麺類の食感の向上又は麺類のほぐれの向上の効果が得られない場合がある。
【0015】
上記の過熱水蒸気による加熱処理と飽和水蒸気による加熱処理との先後順は、特に限定されない。
上記の過熱水蒸気及び飽和水蒸気による麺類の加熱処理は、後述する本発明の容器詰め麺類の加熱処理装置を用いることにより好適に実施することができる。
【0016】
このようにして過熱水蒸気及び飽和水蒸気で加熱処理された麺類は、常法により、容器の開口部を無菌的に密封して製品(容器詰め麺類)とされる。
【0017】
次に、上記の過熱水蒸気及び飽和水蒸気による麺類の加熱処理に好適に用いられる本発明の容器詰め麺類の加熱処理装置を、図2に示す好ましい一実施形態について説明する。図2は、本発明の加熱処理装置の一実施形態の構成概略図である。
図2に示すように、本実施形態の加熱処理装置は、加熱庫1と、該加熱庫1内に過熱水蒸気及び飽和水蒸気を交互に供給する手段4(図2中、点線の枠で囲まれた部分)とから構成されている。
【0018】
上記加熱庫1は、上記で説明した図1に示す構造の加熱庫である。また、上記手段4は、図2に示すように、飽和水蒸気製造用ヘッダー5と、該ヘッダー5で製造された飽和水蒸気を加熱して過熱水蒸気とするための加熱ヒーター6を具備し、該ヘッダー5と該加熱ヒーター6とは配管7及び分岐管8により接続されている。そして、上記加熱ヒーター6は、配管10により上記加熱庫1の過熱水蒸気供給口13(図1参照)に接続されている。さらに、上記ヘッダー5は、配管7及び分岐管9により上記加熱庫1の飽和水蒸気供給口14(図1参照)に接続されている。
【0019】
上記分岐管9には、加熱庫1への飽和水蒸気の供給を開放又は閉止するためのバルブAが設けられ、且つバルブAの上流側に、飽和水蒸気を排出するためのバルブBを有する分岐管21が接続されている。一方、上記配管10には、加熱庫1への過熱水蒸気の供給を開放又は閉止するためのバルブCが設けられ、且つバルブCの上流側に、過熱水蒸気を排出するためのバルブDを有する分岐管22が接続されている。
【0020】
図2に示す本実施形態の加熱処理装置を用いて調理済み麺類を加熱処理するには、まず、ヘッダー5で飽和水蒸気を発生させ、且つ該飽和水蒸気の一部を加熱ヒーター6で加熱して過熱水蒸気を製造しておく。このとき、製造された過熱水蒸気及び飽和水蒸気の温度を一定状態に保持しておくため、バルブA〜Dを「バルブA:閉止、バルブB:開放、バルブC:閉止、バルブD:開放」に設定し、過熱水蒸気及び飽和水蒸気を分岐管22及び21よりそれぞれ系外に排出させておくことが好ましい。
次いで、図1に示すように、加熱庫1内の収容部本体11の底面上に、調理済みの麺類3が充填された容器2を載置し、蓋体12を被せる。
【0021】
そして、過熱水蒸気及び飽和水蒸気の順で加熱処理する場合は、まずバルブA〜Dを(1)「バルブA:閉止、バルブB:開放、バルブC:開放、バルブD:閉止」に設定して、過熱水蒸気を加熱庫1内に所定時間噴込んで供給し、過熱水蒸気による加熱処理を行い、次にバルブA〜Dの設定を(2)「バルブA:開放、バルブB:閉止、バルブC:閉止、バルブD:開放」に瞬時に切換えて、飽和水蒸気を加熱庫1内に所定時間噴込んで供給し、飽和水蒸気による加熱処理を行う。このバルブA〜Dの(1)及び(2)の設定の切換え操作を交互に繰り返して、過熱水蒸気による加熱処理と飽和水蒸気による加熱処理を交互に所定回数繰り返す。過熱水蒸気又は飽和水蒸気を使用しない間は、それぞれ分岐管22又は21より系外に排出させておくことにより、加熱庫1内に供給する過熱水蒸気及び飽和水蒸気の温度を一定状態に保持することができる。
加熱処理後、バルブA〜Dを「バルブA:閉止、バルブB:開放、バルブC:閉止、バルブD:開放」に設定して加熱庫1内への過熱水蒸気及び飽和水蒸気の供給を停止し、加熱庫1内から容器2ごと麺類を取り出し、次工程に付す。
【0022】
本発明の加熱処理装置は、上記の図2に示す実施形態に限定されることなく種々の変更が可能である。例えば、上記実施形態では、過熱水蒸気の供給口と飽和水蒸気の供給口を別個に設けたが、これらの供給口を一つにして該供給口に分岐管9及び配管10を接続してもよい。要は、調理済みの麺類が充填された容器を収容可能な加熱庫と、該加熱庫内に過熱水蒸気及び飽和水蒸気を交互に供給する手段とを備えた装置であればよい。
【実施例】
【0023】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例等によって何ら限定されるものではない。
【0024】
〔実施例1〜4及び比較例1〕
乾スパゲティを茹でて、歩留り220%の茹でスパゲティを得た。得られた茹でスパゲティを発酵乳酸0.8質量%、グルコン酸0.8質量%、食塩0.5質量%及び糖0.5質量%を含有する混合水溶液に1分間浸漬し、低pHスパゲティを得た。次いで該低pHスパゲティをそれぞれ、以下の表1に示す条件で加熱処理し、電子レンジ対応スパゲティをそれぞれ得た。
【0025】
【表1】

【0026】
得られた実施例1〜4及び比較例1の各電子レンジ対応スパゲティについて、次のようにして食感及び麺のほぐれをそれぞれ評価した。
電子レンジ対応スパゲティを、常温で10日間保存後、電子レンジを用いて調理し、10名のパネラーに喫食させ、その際の食感(硬さ及び弾力)、及び麺のほぐれを下記に示す評価基準に従って評点させた。その評価結果(10名のパネラーの平均点)を表2に示す。
【0027】
(食感(硬さ)の評価基準)
5点:硬さが茹でたての麺に近く、優れている。
4点:硬さが良好である。
3点:麺特有の硬さが感じられる。
2点:麺特有の硬さに劣る。
1点:麺特有の硬さに極めて劣る。
【0028】
(食感(弾力)の評価基準)
5点:弾力が茹でたての麺に近く、優れている。
4点:弾力が良好である。
3点:麺特有の弾力が感じられる。
2点:麺特有の弾力に劣る。
1点:麺特有の弾力に極めて劣る。
【0029】
(麺のほぐれの評価基準)
5点:とても良くほぐれる。
4点:良くほぐれる。
3点:ほぐれる。
2点:ややほぐれにくい。
1点:ほぐれない。
【0030】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明で用いられる加熱庫の構造の一例を示す概略断面図である。
【図2】本発明の加熱処理装置の一実施形態の構成概略図である。
【符号の説明】
【0032】
1 加熱庫
2 容器
3 麺類
4 過熱水蒸気及び飽和水蒸気を交互に供給する手段
5 ヘッダー
6 加熱ヒーター
7 配管
8 分岐管
9 分岐管
10 配管
11 収容部本体
12 蓋体
13 過熱水蒸気供給口
14 飽和水蒸気供給口
15 通気孔
21 分岐管
22 分岐管
A,B,C,D バルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
調理済みの麺類を容器に充填し、該容器を開口状態で加熱庫内に入れて過熱水蒸気及び飽和水蒸気を交互に麺類と接触させて、麺類を加熱処理することを特徴とする容器詰め麺類の製造方法。
【請求項2】
過熱水蒸気として105〜250℃の過熱水蒸気を用い、飽和水蒸気として100℃以上の飽和水蒸気を用いる請求項1記載の容器詰め麺類の製造方法。
【請求項3】
過熱水蒸気による1回当たりの加熱処理時間が、10秒間〜30分間であり、飽和水蒸気による1回当たりの加熱処理時間が、10秒間〜30分間であり、過熱水蒸気による加熱処理1回及び飽和水蒸気による加熱処理1回を1サイクルとする加熱処理を2サイクル以上繰り返す請求項1又は2記載の容器詰め麺類の製造方法。
【請求項4】
調理済みの麺類が充填された容器を収容可能な加熱庫と、該加熱庫内に過熱水蒸気及び飽和水蒸気を交互に供給する手段とを備えることを特徴とする容器詰め麺類の加熱処理装置。

【図1】
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【図2】
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