説明

容器詰ブラックコーヒー飲料

【課題】ヒドロキシヒドロキノンの生成が抑制された容器詰ブラックコーヒー飲料を提供すること。
【解決手段】次の成分(A)〜(B);
(A)クロロゲン酸類:0.05〜5質量%、並びに
(B)リジン及びアルギニンから選択される少なくとも1種の塩基性アミノ酸:0.005〜1質量%
を含有し、pHが4〜5.8である、容器詰ブラックコーヒー飲料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容器詰ブラックコーヒー飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
コーヒー飲料には、ポリフェノールの一種である、クロロゲン酸、カフェ酸、フェルラ酸等のクロロゲン酸類が含まれており、このクロロゲン酸類は優れた生理活性を有することが知られている。しかしながら、クロロゲン酸類による生理活性は、コーヒー飲料に含まれているヒドロキシヒドロキノンにより阻害されることが報告されている(特許文献1)。
【0003】
したがって、クロロゲン酸類による生理活性を有効に発現させるためには、コーヒー飲料中のクロロゲン酸類を高濃度化し、かつヒドロキシヒドロキノン量を低減することが有利である。しかしながら、コーヒー飲料中のヒドロキシヒドロキノン量を低減しても、容器詰する際の加熱殺菌工程や、流通及び保存時においてヒドロキシヒドロキノンが再び生成してしまう。
【0004】
そこで、コーヒー飲料中のクロロゲン酸類量を一定範囲に保持し、ヒドロキシヒドロキノン含量を通常含まれる量より十分少ない一定量以下に低減させた上で、更にpHを一定範囲とするか、あるいはコーヒー固形分に占めるクロロゲン酸類の比率を一定以上とした容器詰コーヒー飲料が提案されている(特許文献2、3)。すなわち、これらはコーヒー飲料の液性や特定成分の濃度を制御して容器詰コーヒー飲料中のヒドロキシヒドロキノンの生成を抑制する技術であり、ヒドロキシヒドロキノンの生成を抑制し得る添加剤については一切検討されていない。
【0005】
一方、リジン、アルギニン及びヒスチジンから選択される少なくとも1種の塩基性アミノ酸を含有する乳入りコーヒー飲料が提案されているが(特許文献2、3)、加熱殺菌処理後に生ずる沈澱物の発生を抑制することを目的とするものであり、これら塩基性アミノ酸がヒドロキシヒドロキノンの生成抑制に有効であるとの記載は存在しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−204192号公報
【特許文献2】特開2002−186425号公報
【特許文献3】特開2006−54062号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者は、容器詰ブラックコーヒー飲料を開発すべく検討した結果、乳入りコーヒー飲料など液性が中性領域にあるコーヒー飲料では問題とならないが、液性が酸性であるブラックコーヒー飲料の場合には容器詰する際の加熱殺菌工程や、流通及び保存時においてヒドロキシヒドロキノンが生成しやすくなり、更にコーヒー飲料中のクロロゲン酸類を高濃度化すると、ヒドロキシヒドロキノンの生成がより一層顕著になるとの知見を得た。
したがって、本発明の課題は、ヒドロキシヒドロキノンの生成が抑制された容器詰ブラックコーヒー飲料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、高濃度のクロロゲン酸類を含有する容器詰ブラックコーヒー飲料のヒドロキシヒドロキノン(以下、「HHQ」とも称する)の生成を抑制すべく種々検討したところ、塩基性アミノ酸の中で特定のものが容器詰ブラックコーヒー飲料のHHQの生成抑制に有効であり、かつ、保存前後の風味変化のないことを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は、次の成分(A)〜(B);
(A)クロロゲン酸類:0.05〜5質量%、並びに
(B)リジン及びアルギニンから選択される少なくとも1種の塩基性アミノ酸:0.005〜1質量%
を含有し、pHが4〜5.8である、容器詰ブラックコーヒー飲料を提供するものである。
【0010】
本発明はまた、リジン及びアルギニンから選択される少なくとも1種の塩基性アミノ酸を有効成分として含有する、容器詰ブラックコーヒー飲料のヒドロキシヒドロキノンの生成抑制剤を提供するものである。
【0011】
本発明は更に、リジン及びアルギニンから選択される少なくとも1種の塩基性アミノ酸をコーヒー抽出物に添加する工程を含む、容器詰ブラックコーヒー飲料のヒドロキシヒドロキノンの生成抑制方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、HHQの生成が有効に抑制されるとともに、保存前後の風味変化のない容器詰ブラックコーヒー飲料が提供される。したがって、本発明の容器詰ブラックコーヒー飲料は、容器詰ブラックコーヒー飲料の加熱殺菌時や、流通及び長期保存時におけるHHQの生成が抑制されるため、クロロゲン酸類による生理活性がHHQにより阻害され難く、クロロゲン酸類による生理効果を十分に期待でき、しかも嗜好性の高いものである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の容器詰ブラックコーヒー飲料は、(A)クロロゲン酸類を高濃度で含有するものである。具体的には、容器詰ブラックコーヒー飲料中の(A)クロロゲン酸類の含有量は0.05〜5質量%であるが、生理活性及び風味の観点から、上限は3質量%、更に2質量%、特に1.5質量%であることが好ましく、他方下限は0.08質量%、更に0.1質量%、特に0.12質量%であることが好ましい。なお、クロロゲン酸類の含有量は、後掲の実施例に記載の「クロロゲン酸類の分析」により測定された値である。ここで、本明細書において「クロロゲン酸類」とは、3−カフェオイルキナ酸、4−カフェオイルキナ酸及び5−カフェオイルキナ酸のモノカフェオイルキナ酸と、3−フェルラキナ酸、4−フェルラキナ酸及び5−フェルラキナ酸のモノフェルラキナ酸と、3,4−ジカフェオイルキナ酸、3,5−ジカフェオイルキナ酸及び4,5−ジカフェオイルキナ酸のジカフェオイルキナ酸を併せての総称である。クロロゲン酸類含量は上記9種の合計量に基づいて定義される。
【0014】
本発明の容器詰ブラックコーヒー飲料は、容器詰する際の加熱殺菌工程、流通及び長期保存時におけるヒドロキシヒドロキノンの生成を抑制するために、(B)リジン及びアルギニンから選択される少なくとも1種の塩基性アミノ酸を含有する。
本発明の容器詰ブラックコーヒー飲料中のリジン及びアルギニンの合計含有量は0.005〜1質量%であるが、HHQ生成抑制及び風味の観点から、上限が0.8質量%、更に0.4質量%、特に0.1質量%であることが好ましく、他方下限が0.008質量%、更に0.01質量%、特に0.02質量%であることが好ましい。
【0015】
また、本発明の容器詰ブラックコーヒー飲料中の成分(B)と、成分(A)との含有質量比[(B)/(A)]は、生理活性及び風味の観点から、上限は4.5、更に3、更に1、特に0.5であることが好ましく、他方下限は0.01、更に0.03、更に0.05、特に0.1であることが好ましい。
【0016】
本発明の容器詰ブラックコーヒー飲料は液性が酸性であり、pH(20℃)は4〜5.8であるが、HHQの生成抑制及び風味の観点から、4.3〜5.7、特に4.5〜5.6であることが好ましい。
【0017】
さらに、本発明の容器詰ブラックコーヒー飲料はHHQを含有していてもよいが、HHQ含量は通常含まれる量よりも十分低減されていることが好ましい。具体的には、当該容器詰ブラックコーヒー飲料中の(C)ヒドロキシヒドロキノンの含有量は、生理活性阻害抑制及び生産効率の観点から、上限が0.000059質量%未満、更に0.000058質量%未満、更に0.000057質量%未満、特に0.000056質量%未満であることが好ましく、他方下限は特に限定されないが、0.00001質量%であることが好ましい。なお、ヒドロキシヒドロキノンの含有量は、後掲の実施例に記載の「ヒドロキシヒドロキノンの分析」により測定された値であるが、検出手段として電気化学検出器を使用するため高感度に検出される。また、HPLCによるHHQ分析においては、容器詰ブラックコーヒー飲料を濃縮した後に測定してもよい。
【0018】
また、本発明の容器詰ブラックコーヒー飲料中の成分(C)と、成分(A)との含有質量比[(C)/(A)]は、生理活性阻害抑制の観点から、4.1×10-4以下、更に4.0×10-4以下、特に3.9×10-4以下であることが好ましく、他方下限は特に限定されないが0.5×10-4であることが好ましい。
【0019】
このような容器詰ブラックコーヒー飲料は、例えば、コーヒー抽出物に(B)リジン及びアルギニンから選択される少なくとも1種の塩基性アミノ酸を配合し、(A)クロロゲン酸類及び塩基性アミノ酸の各濃度、並びにpHを調整して得ることができる。
【0020】
コーヒー抽出物として、焙煎コーヒー豆から抽出したコーヒー抽出物、インスタントコーヒーの水溶液などを用いることができる。
本発明で使用するコーヒー抽出物は、当該コーヒー抽出物100g当たりコーヒー豆を生豆換算で1g以上、更にコーヒー豆を2.5g以上、特に5g以上使用しているものが好ましい。なお、抽出方法及び抽出条件は特に限定されず、公知の方法及び条件で行うことが可能であり、例えば、特開2009−153451号公報に記載の方法及び条件を採用することができる。また、得られたコーヒー抽出物は、必要により濃縮又は水希釈してもよい。
【0021】
抽出に使用するコーヒー豆種としては、アラビカ種、ロブスタ種、リベリカ種が例示される。コーヒー豆の産地は特に限定されないが、例えば、ブラジル、コロンビア、タンザニア、モカ、キリマンジェロ、マンデリン、ブルーマウンテンが例示される。また、コーヒー豆は、1種でもよいし、複数種をブレンドして用いてもよい。
コーヒー豆として焙煎コーヒー豆を使用することが好ましく、焙煎度としては、例えば、ライト、シナモン、ミディアム、ハイ、シティ、フルシティ、フレンチ、イタリアンが例示される。中でも、ライト、シナモン、ミディアム、ハイ、シティがクロロゲン酸類を多く含み、飲用しやすい点で好ましい。
コーヒー豆の焙煎方法は特に制限はなく、焙煎温度、焙煎環境についても何ら制限はなく、通常の方法を採用できる。
【0022】
また、本発明においては、コーヒー抽出物として、HHQ含量を十分に低減したものが好適に使用される。HHQ含量を低減したコーヒー抽出物とするには、コーヒー抽出物を吸着剤で処理すればよい。
吸着剤としては、活性炭、逆相クロマトグラフ担体等を使用することができる。処理方法としては、コーヒー抽出物又はインスタントコーヒーの水溶液に、吸着剤を加え0〜100℃で10分〜5時間撹拌した後、吸着剤を除去すればよい。吸着剤の使用量は、コーヒー豆の質量に対して、活性炭の場合は0.02〜1.0倍、逆相クロマトグラフ担体の場合は2〜100倍であることが好ましい。
【0023】
活性炭の種類としては、ヤシ殻活性炭が好ましく、更に水蒸気賦活化ヤシ殻活性炭が好ましい。活性炭の市販品として、白鷺WH2C(日本エンバイロケミカルズ(株))、太閣CW(二村化学(株))、クラレコールGW(クラレケミカル(株))等を用いることができる。逆相クロマトグラフ担体としては、YMC・ODS−A(YMC(株))、C18(ジーエルサイエンス(株))等が例示される。
【0024】
本発明の容器詰ブラックコーヒー飲料のブリックス値は、1〜2.5、特に1.5〜2.2であることが好ましい。ブリックス値は上記範囲内であると、風味に優れ、沈殿が生成し難いため好ましい。ここで、「ブリックス(Brix)値」とは、後掲の実施例に記載の「ブリックスの測定」により測定された値である。
【0025】
また、本発明の容器詰ブラックコーヒー飲料には、必要により、甘味料、苦味抑制剤、酸化防止剤、香料、有機酸類、有機酸塩類、無機酸類、無機酸塩類、無機塩類、色素類、乳化剤、保存料、調味料、酸味料、アミノ酸、pH調整剤、品質安定剤等の添加剤の1種又は2種以上を配合してもよい。
【0026】
本発明の容器詰ブラックコーヒー飲料は、シングルストレングスであることが好ましい。ここで、「シングルストレングス」とは、容器詰ブラックコーヒー飲料を開封した後、薄めずにそのまま飲めるものをいう。
【0027】
本発明の容器詰ブラックコーヒー飲料は、ポリエチレンテレフタレートを主成分とする成形容器(いわゆるPETボトル)、金属缶、金属箔やプラスチックフィルムと複合された紙容器、瓶等の通常の包装容器に充填して提供することができる。
また、容器詰ブラックコーヒー飲料は、例えば、金属缶のような容器に充填後、加熱殺菌できる場合にあっては適用されるべき法規(日本にあっては食品衛生法)に定められた殺菌条件で製造できる。PETボトル、紙容器のようにレトルト殺菌できないものについては、あらかじめ上記と同等の殺菌条件、例えばプレート式熱交換器などで高温短時間殺菌後、一定の温度迄冷却して容器に充填する等の方法が採用できる。
【0028】
以上、本発明の容器詰ブラックコーヒー飲料について説明したが、本発明の容器詰ブラックコーヒー飲料のヒドロキシヒドロキノン生成抑制剤、及び容器詰ブラックコーヒー飲料のヒドロキシヒドロキノンの生成抑制方法においても上記と同様の構成を採用することができる。
【実施例】
【0029】
(1)クロロゲン酸類の分析
分析機器はHPLCを使用した。装置の構成ユニットの型番は次の通りである。
UV−VIS検出器:L−2420((株)日立ハイテクノロジーズ)、
カラムオーブン:L−2300((株)日立ハイテクノロジーズ)、
ポンプ:L−2130((株)日立ハイテクノロジーズ)、
オートサンプラー:L−2200((株)日立ハイテクノロジーズ)、
カラム:Cadenza CD−C18 内径4.6mm×長さ150mm、粒子径3μm(インタクト(株))。
【0030】
分析条件は次の通りである。
サンプル注入量:10μL、
流量:1.0mL/min、
UV−VIS検出器設定波長:325nm、
カラムオーブン設定温度:35℃、
溶離液A:0.05M 酢酸、0.1mM 1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸、10mM 酢酸ナトリウム、5(V/V)%アセトニトリル溶液、
溶離液B:アセトニトリル。
【0031】
濃度勾配条件
時間 溶離液A 溶離液B
0.0分 100% 0%
10.0分 100% 0%
15.0分 95% 5%
20.0分 95% 5%
22.0分 92% 8%
50.0分 92% 8%
52.0分 10% 90%
60.0分 10% 90%
60.1分 100% 0%
70.0分 100% 0%
【0032】
HPLCでは、試料1gを精秤後、溶離液Aにて10mLにメスアップし、メンブレンフィルター(GLクロマトディスク25A,孔径0.45μm,ジーエルサイエンス(株))にて濾過後、分析に供した。
クロロゲン酸類の保持時間(単位:分)
(A1)モノカフェオイルキナ酸:5.3、8.8、11.6の計3点
(A2)モノフェルラキナ酸:13.0、19.9、21.0の計3点
(A3)ジカフェオイルキナ酸:36.6、37.4、44.2の計3点。
ここで求めた9種のクロロゲン酸類の面積値から5−カフェオイルキナ酸を標準物質とし、クロロゲン酸類の含有量(質量%)を求めた。
【0033】
(2)HPLC−電気化学検出器によるヒドロキシヒドロキノンの分析
分析機器はHPLC−電気化学検出器(クーロメトリック型)であるクーロアレイシステム(モデル5600A、米国ESA社製)を使用した。装置の構成ユニットの名称・型番は次の通りである。
アナリティカルセル:モデル5010、クーロアレイオーガナイザー、
クーロアレイエレクトロニクスモジュール・ソフトウエア:モデル5600A、
溶媒送液モジュール:モデル582、グラジエントミキサー、
オートサンプラー:モデル542、パルスダンパー、
デガッサー:Degasys Ultimate DU3003、
カラムオーブン:505、
カラム:CAPCELL PAK C18 AQ 内径4.6mm×長さ250mm 粒子径5μm((株)資生堂)。
【0034】
分析条件は次の通りである。
サンプル注入量:10μL、
流量:1.0mL/min、
電気化学検出器の印加電圧:0mV、
カラムオーブン設定温度:40℃、
溶離液C:0.1(W/V)%リン酸、0.1mM 1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸、5(V/V)%メタノール溶液、
溶離液D:0.1(W/V)%リン酸、0.1mM 1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸、50(V/V)%メタノール溶液。
【0035】
溶離液C及びDの調製には、高速液体クロマトグラフィー用蒸留水(関東化学(株))、高速液体クロマトグラフィー用メタノール(関東化学(株))、リン酸(特級、和光純薬工業(株))、1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸(60%水溶液、東京化成工業(株))を用いた。
【0036】
濃度勾配条件
時間 溶離液C 溶離液D
0.0分 100% 0%
10.0分 100% 0%
10.1分 0% 100%
20.0分 0% 100%
20.1分 100% 0%
50.0分 100% 0%
【0037】
試料5gを精秤後、0.5(W/V)%リン酸、0.5mM 1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸、5(V/V)%メタノール溶液にて10mLにメスアップし、この溶液について遠心分離を行い、上清を分析試料とした。この上清について、ボンドエルートSCX(固相充填量:500mg、リザーバ容量:3mL、ジーエルサイエンス(株))に通液し、初通過液約0.5mLを除いて通過液を得た。この通過液について、メンブレンフィルター(GLクロマトディスク25A,孔径0.45μm,ジーエルサイエンス(株))にて濾過し、速やかに分析に供した。
【0038】
HPLC−電気化学検出器の上記の条件における分析において、ヒドロキシヒドロキノンの保持時間は、6.38分であった。得られたピークの面積値から、ヒドロキシヒドロキノン(和光純薬工業(株))を標準物質とし、ヒドロキシヒドロキノンの含有量(質量%)を求めた。
【0039】
(3)アミノ酸の測定
分析機器は(株)日立ハイテクノロジーズ L−8800A形高速アミノ酸分析計を用いた。分析条件は次の通りである。
アミノ酸分析器では、試料1mLと0.2M塩酸1mLを混合後、イオン交換水にて10mLにメスアップし、メンブレンフィルター(GLクロマトディスク25A,孔径0.45μm,ジーエルサイエンス(株))にて濾過後、分析に供した。
アミノ酸分析計の測定モードは、PHモードで行った。
塩基性アミノ酸の保持時間(単位:分)
(A1)リジン:23.5
(A2)アルギニン:30.6
ここで求めた2種の塩基性アミノ酸の面積値からアミノ酸混合標準液(和光純薬工業製)、H型を標準物質とし、塩基性アミノ酸の含有量(質量%)を求めた。
【0040】
サンプル注入量:20μL、
流量:PUMP A 0.40mL/min、 PUMP B 0.35mL/min
UV−VIS検出器設定波長:440nm、570nm
カラムオーブン設定温度:57℃。
【0041】
ここでPUMP Aは下記の溶離液を使用し、またPUMP Bは下記の反応液を使用した。
溶離液:PH−1、PH−2、PH−3、PH−4、PH−RG(三菱化学社製)、
反応液:ニンヒドリン試薬R1(Wako社製)及び緩衝液R2(Wako社製)。
【0042】
(4)ブリックスの測定
試料を、20℃における糖用屈折計示度(Brix)を、糖度計(Atago RX-5000(Atago社製))を用いて測定した。
【0043】
(5)官能試験
60℃で2週間保存前後における各容器詰ブラックコーヒー飲料の風味の変化の有無について、パネラー5名により評価し、その後協議により判定した。
【0044】
実施例1
焙煎度L22のアラビカ種コーヒー豆を95℃のイオン交換水で抽出し、コーヒー抽出物を得た。次に、コーヒー抽出物のBrixを測定し、Brixに対して50質量%の量の活性炭(白鷺WH2C、日本エンバイロケミカルズ(株))を充填したカラム(内径45mm、長さ150mm)を準備した。その後、活性炭を充填したカラムに温度25℃、SV=3[h-1]の条件下でコーヒー抽出物を通液し、ヒドロキシヒドロキノンを除去したコーヒー抽出物を得た。
次に、ヒドロキシヒドロキノンを除去したコーヒー抽出物をイオン交換水で希釈し、重曹にてpH5.5に調整した後、コーヒー飲料中のリジン含有量が0.05質量%となるようにリジンを配合してブラックコーヒー飲料を調製した。加熱殺菌前のクロロゲン酸量及びヒドロキシヒドロキノン量を分析した。
次に、得られたブラックコーヒー飲料を190g缶に充填後、密封し、レトルト殺菌処理(124℃、21分)を施し、容器詰ブラックコーヒー飲料を得た。次に、加熱殺菌後のクロロゲン酸量及びヒドロキシヒドロキノン量を分析した。次に、容器詰ブラックコーヒー飲料を60℃で1週間保存した後、保存後のクロロゲン酸量及びヒドロキシヒドロキノン量を分析し、官能試験を行った。その結果を表1に併せて示す。
【0045】
実施例2
リジンに換えてアルギニンを配合したこと以外は、実施例1と同様に容器詰ブラックコーヒー飲料を製造した。そして、60℃で1週間保存前後の容器詰ブラックコーヒー飲料を分析し、官能試験を行った。その結果を表1に併せて示す。
【0046】
比較例1
リジンを配合しなかったこと以外は、実施例1と同様に容器詰ブラックコーヒー飲料を製造した。そして、60℃で1週間保存前後の容器詰ブラックコーヒー飲料を分析し、官能試験を行った。その結果を表1に併せて示す。
【0047】
比較例2
リジンに換えてヒスチジン(塩基性アミノ酸)を配合したこと以外は、実施例1と同様に容器詰ブラックコーヒー飲料を製造した。そして、60℃で1週間保存前後の容器詰ブラックコーヒー飲料を分析し、官能試験を行った。その結果を表1に併せて示す。
【0048】
【表1】

【0049】
表1から、リジン又はアルギニンを一定量配合した高濃度クロロゲン酸類含有容器詰ブラックコーヒー飲料においては、加熱殺菌時だけなく、長期保存時においてもヒドロキシヒドロキノンの生成が抑制されることが確認され、また保存前後において風味変化も認められなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の成分(A)〜(B);
(A)クロロゲン酸類:0.05〜5質量%、並びに
(B)リジン及びアルギニンから選択される少なくとも1種の塩基性アミノ酸:0.005〜1質量%
を含有し、pHが4〜5.8である、容器詰ブラックコーヒー飲料。
【請求項2】
成分(B)と、成分(A)との含有質量比[(B)/(A)]が0.01〜4.5である、請求項1記載の容器詰ブラックコーヒー飲料。
【請求項3】
リジン及びアルギニンから選択される少なくとも1種の塩基性アミノ酸を有効成分として含有する、容器詰ブラックコーヒー飲料のヒドロキシヒドロキノンの生成抑制剤。
【請求項4】
リジン及びアルギニンから選択される少なくとも1種の塩基性アミノ酸をコーヒー抽出物に添加する工程を含む、容器詰ブラックコーヒー飲料のヒドロキシヒドロキノンの生成抑制方法。

【公開番号】特開2011−125286(P2011−125286A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−288127(P2009−288127)
【出願日】平成21年12月18日(2009.12.18)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】