説明

容器詰茶類飲料の製造方法

【課題】 天然型カテキン類が良好に保存され、茶本来の風味と色調が損なわれることがなく、しかも重曹臭のない容器詰茶類飲料の製造方法を提供する。
【解決手段】 茶類の茶葉を抽出用水で抽出した茶抽出液または抽出用水にL−アスコルビン酸を添加することにより茶抽出液のpHを5以下に調節した後加熱処理を施し、次いで茶抽出液に電気分解または電気透析を施すことにより茶抽出液のpHを5.5以上に調節した後容器に充填密封する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容器詰茶類飲料の製造方法に関する。さらに詳しくは、茶類特有の機能的成分である天然型カテキン類が良好に保存され風味と色調に優れた容器詰茶類飲料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の緑茶無菌充填システムでは、茶抽出液に中性塩であるL−アスコルビン酸ナトリウムを酸化防止剤として添加した後プレート式熱交換機等による超高温短時間殺菌法(UHT)により加熱処理(130〜150℃、1〜60秒)することにより殺菌し、プラスチックボトルや紙パック、金属缶等に対し無菌充填することが行われている。
【0003】
このように加熱処理前から容器に充填されるまで茶抽出液が中性域に保たれるシステムによって製造される容器詰茶類飲料においては、加熱殺菌時に天然型カテキン類の異性化が進み、茶本来の風味や色調が損なわれるという問題があった。
【0004】
そこで本出願人は、上記問題を解決するために、特許文献1記載の発明を提案した。特許文献1の発明に係る容器詰茶類飲料の製造方法は、茶類の茶葉を抽出用水で抽出した茶抽出液または抽出用水にL−アスコルビン酸を添加することにより茶抽出液のpHを5以下に調節した後130〜150℃、1〜60秒で加熱処理し、次いで茶抽出液にアルカリを添加することにより茶抽出液のpHを5.5以上に調節した後無菌的雰囲気下で容器に充填密封するものである。
【0005】
特許文献1の発明によれば、茶抽出液の超高温短時間加熱処理前に茶抽出液または抽出用水に従来使用されていた中性塩であるL−アスコルビン酸ナトリウムに替えて酸であるL−アスコルビン酸を添加して茶抽出液のpHを5以下の酸性域に調節することにより加熱処理による天然型カテキン類の異性化反応を抑制し、天然型カテキン類の保存率を向上させるとともに、加熱処理後の茶抽出液にアルカリを添加することにより茶抽出液をpH5.5以上の中性域に調節して容器に充填するので、酸味が抑制され、長期間保存に際しても茶類飲料の風味と色調を保存することができるという効果がある。
【0006】
しかしながら、特許文献1の発明においては、pHを調節するために殺菌後にアルカリを添加するので、このアルカリを予め滅菌処理する必要があり、手間とコストがかかる上に調合するために実質的にバッチ式の設備が必要となる。さらに、アルカリ添加で使用するものは通常重曹であるが、これにより微量ではあるが茶抽出液に重曹の味が付与されてしまうという新たな問題が生じる。
【特許文献1】特開2002−84973号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来技術の問題点にかんがみなされたものであって、天然型カテキン類が良好に保存され、茶本来の風味と色調が損なわれることを防止するとともに、アルカリ添加のための滅菌処理やバッチ式設備の手間とコストを省き、かつアルカリが重曹である場合の重曹臭の付与を防止することができる容器詰茶類飲料の製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために本発明者等は鋭意研究と実験を重ねた結果、pHを調節するためにインラインで可能な電気分解または電気透析の技術を適用することにより、上記問題点を解決することができることを発見し、本発明に到達した。
【0009】
すなわち、上記本発明の目的を達成する容器詰茶類飲料の製造方法は、茶類の茶葉を抽出用水で抽出した茶抽出液または抽出用水にL−アスコルビン酸を添加することにより茶抽出液のpHを5以下に調節した後加熱処理を施し、次いで茶抽出液に電気分解または電気透析を施すことにより茶抽出液のpHを5.5以上に調節した後容器に充填密封することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、L−アスコルビン酸を添加して茶抽出液のpHをpH5以下の酸性域に調節することにより加熱処理による茶抽出液の異性化反応を抑制し、天然型カテキン類の保存率を向上させるとともに、加熱処理後の茶抽出液に電気分解または電気透析を施すことにより茶抽出液のpHを5.5以上の中性域に調節して容器に充填するので、酸味が抑制され、長期間保存しても茶類飲料の風味と色調を保存することができるとともに、アルカリ添加のための滅菌処理やバッチ式設備の手間とコストを省き、かつアルカリが重曹である場合の重曹臭の付与を防止することができる。
【0011】
また、本発明によれば、酸であるL−アスコルビン酸の添加により一旦酸性とした茶抽出液を加熱処理後電気分解または電気透析により中性域に戻すので、茶抽出液を単に酸性にしたままで中性に戻さない場合には風味や色調の点から実施が不適当な低いpH値にまで茶抽出液を酸性化することが可能となり、これによって加熱殺菌後の天然型カテキン類の残存率をより高めることが可能となる。また、長期間保存の場合抽出液が酸性〜弱酸性領域にあると、煎茶の場合は特有の黄色が失われ透明化する傾向があるが、電気分解または電気透析により中性化することにより、鮮やかな黄色を維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明は、煎茶、番茶、釜入り茶等緑茶類の他ウーロン茶、紅茶等容器詰茶類飲料の製造に適用される。
本発明の製造方法においては、L−アスコルビン酸は茶葉を抽出用水で抽出した茶抽出液に添加するかまたは抽出用水に添加することにより茶抽出液のpHを5以下に調節する。抽出用水にL−アスコルビン酸を添加する場合は、抽出用水に予め添加・溶解しておいてもよいし、抽出用水に茶葉を入れて抽出する際に茶葉と同時に添加してもよいし、茶葉にL−アスコルビン酸を予め混合しておいて茶葉を抽出用水に入れた時にL−アスコルビン酸が溶解するようにしてもよい。
【0013】
L−アスコルビン酸の添加により調節するpHの範囲は、20〜25℃において5以下、好ましくは4.5以下3.7以上の範囲である。pHが5を超えると、天然型カテキン類の異性化が進行し、従来のL−アスコルビン酸ナトリウム添加緑茶飲料に比べて天然カテキン類の残存率において顕著な差異を見出すことができない。また、L−アスコルビン酸の添加量を増加することによりpHが3.7未満となっても、天然型カテキン類残存率は90%を僅かに上回るレベルで飽和してそれ以上有意に上昇しないことが判った。したがって、茶抽出液のpHを3.7未満の酸性域にすることはL−アスコルビン酸の添加量をいたずらに増大させりだけで意味がない上に不経済である。
【0014】
こうして茶抽出液のpHを5以下に調節した後プレート式熱交換機等による公知の超高温短時間殺菌法(UHT)により130〜150℃、1〜60秒の加熱殺菌処理を行う。
【0015】
加熱処理した茶抽出液を冷却後pHを中性域に調節するために電気分解または電気透析を施す。
【0016】
電気分解または電気透析に使用する装置には特に限定はなく、多くの公知の装置の中から対象となる茶葉の種類等に応じて適当な装置を選択すればよい。たとえば、特開2002−361260号公報の図4に示されるような、カチオン膜隔膜電解槽を使用して電気化学的な還元処理を行う装置等を使用することができる。
【0017】
電気分解または電気透析により調節する茶抽出液のpHの範囲は5.5以上、好ましくは5.5〜6.5である。pHが5.5未満では容器詰茶類飲料に酸味が感じられ、製品の風味や色調を害することになり、またpHが6.5を超えると長期保存中に天然型カテキン類の異性化が進行する。
【0018】
電気分解または電気透析でpHを調節した茶抽出液は無菌的雰囲気下でプラスチックボトルや紙バック、金属缶等の容器に充填密封して容器詰茶類飲料製品とする。
【実施例】
【0019】
以下本発明を容器詰煎茶飲料の製造に適用した実施例について説明する。
実施例
市販の煎茶茶葉を1%相当使用し、イオン交換水により60℃、3.5分間抽出後、ナイロンろ布でろ過して茶抽出液を得た。これに、L−アスコルビン酸を濃度が40mg/100mLとなるように添加してpHを4.8程度に下げた。次いで、パワーポイント社製のUHT殺菌機により135℃、30秒の加熱殺菌処理を施した。次いでこの茶抽出液に電気分解を施すことにより、pHを約6.0まで戻した後容器に充填密封した。
【0020】
電気分解には、図1に模式的に示す実験装置を使用して電気分解を施した。この電気分解装置のイオン隔膜としては、旭硝子株式会社製のセレミオン(商標)を使用した。これは、膜の微細孔にマイナスまたはプラス荷電を帯びた官能基が固定されたもので、固定電荷と同荷電のイオンの膜内の透過が阻害されるため、透過イオンの選択性が得られるものである。
【0021】
陽極液は、飽和食塩水を使用した(陽イオン交換膜を通過できるイオンはナトリウムイオンのみ)。
【0022】
電気分解条件は、殺菌処理後の茶抽出液200gを陰極側として、100mAで、pHが約6に戻るまでの時間(成り行き)とした。
【0023】
比較例
比較のため、上記殺菌処理後の茶抽出液を、炭酸水素ナトリウム(重曹)水溶液にてpHを約6まで戻したもの(特許文献1記載の方法)と、上記茶抽出液にアスコルビン酸ナトリウムをアスコルビン酸としての濃度が40mg/100mLとなるように添加し(pHは約6のまま変化しない)、上記と同様の加熱殺菌処理をしたもの(従来一般法)の2種類を試作した。
【0024】
カテキンの異性化率の比較
これら2種類の比較例と実施例のサンプルをHPLC法によりカテキンの分析を行った。結果を表1に示す。
【0025】
【表1】

【0026】
表1から、従来一般法ではカテキンの異性化が顕著に認められるのに対し、特許文献1記載の方法はカテキンの異性化は微量であり、本法によるものは特許文献1記載の方法とほぼ同等の値を示すことがわかる。これによって、アルカリ添加にかえて電気分解によりpH調整を行っても天然型カテキン類が良好に保存された茶類飲料が製造できることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】電気分解装置を模式的に示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
茶類の茶葉を抽出用水で抽出した茶抽出液または抽出用水にL−アスコルビン酸を添加することにより茶抽出液のpHを5以下に調節した後加熱処理を施し、次いで茶抽出液に電気分解または電気透析を施すことにより茶抽出液のpHを5.5以上に調節した後容器に充填密封することを特徴とする容器詰茶類飲料の製造方法。


【図1】
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