説明

容器詰青汁飲料を製造する方法

【課題】常温で流通させても鮮やかな緑色を保持しており、かつ青汁特有の異臭を低減させた容器詰青汁飲料を提供すること。
【解決手段】容器詰青汁飲料を製造する方法であって、青汁に金属イオンを添加する工程と、青汁のpHを調整する工程と、青汁を直接殺菌する工程とを含むことを特徴とする容器詰青汁飲料を製造する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、常温で流通させても鮮やかな緑色を保持しており、かつ青汁特有の異臭を低減させた容器詰青汁飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の食生活の変化に伴い、現代人は野菜の摂取量が減少する傾向にある。そのような野菜不足を、野菜を搾汁して野菜飲料として手軽に摂取することで補う動きがある。また、緑黄色野菜の代わりに、いわゆる青汁と呼ばれているケール、大麦若葉、小麦若葉、明日葉、クワ若葉などの緑葉が食品素材として人気が高まっている。これらの緑葉は食物繊維、ビタミン類、ミネラル類などに富み、健康食品素材として注目を浴びている。中でも大麦若葉は青汁の代表的な素材であり、大麦若葉や茎部を微粉砕して得た液状の大麦若葉の青汁、大麦若葉や茎部をそのまま乾燥粉末化した大麦若葉乾燥粉末、さらに搾汁を濃縮化あるいは乾燥粉末化して得られたペースト状のものや搾汁乾燥粉末など、多様な形態の青汁食品が提案されている。しかしながら、乾燥粉末形態は、食物繊維がまるごと入って健康に良い反面、飲用前に水に溶解させるなどの手間がかかる。また水に溶かしても繊維分がザラザラした食感となり、のど越しが悪いため飲用しにくいといった問題がある。一方で、青汁を容器詰飲料にすると、野菜飲料のように手軽に摂取できるが、常温で保存すると青汁特有の鮮やかな緑色が保持できず、商業的販売には適さなかった。加えて青汁自体はえぐみや苦味といった、味・臭いに関する欠点が問題となっており、青汁食品として改良が求められていた。例えば、ケール青汁に大豆加工品を添加する方法が知られている(特許文献1参照。)。その他、麦類若葉の微粉末化(特許文献2参照。)、ケールを凍結した後、粗粉砕し磨砕式粉砕機で微粉砕する加工方法(特許文献3参照。)などが提案されている。しかし、常温で流通させても鮮やかな緑色を保持しており、かつ青汁特有の異臭を低減させた容器詰青汁飲料は存在しない。
【0003】
【特許文献1】特開2004−215607号公報
【特許文献2】特開2003−9812号公報
【特許文献3】特開2002−186441号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
したがって、本発明は、常温で流通させても鮮やかな緑色を保持しており、かつ青汁特有の異臭を低減させた容器詰青汁飲料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記問題を解決すべく鋭意研究を行った結果、製造方法において、金属イオンを添加し、pHを特定範囲に調整し、かつ直接殺菌の3つのポイントを組み合わせることにより、常温で流通させても鮮やかな緑色を保持しており、かつ青汁特有の異臭を低減させ、食味を改善した容器詰青汁飲料が得られるという特有の顕著な効果を見出し、本発明を完成した。
より具体的には、本発明は以下のとおりである。
【0006】
1.容器詰青汁飲料を製造する方法であって、青汁に金属イオンを添加する工程と、青汁のpHを調整する工程と、青汁を直接殺菌する工程とを含むことを特徴とする容器詰青汁飲料を製造する方法。
2.前記青汁が大麦若葉由来である1に記載の容器詰青汁飲料を製造する方法。
3.前記大麦若葉が粉末状である2に記載の容器詰青汁飲料を製造する方法。
4.前記金属イオンが銅イオンまたは亜鉛イオンである1〜3のいずれかに記載の容器詰青汁飲料を製造する方法。
5.前記青汁のpHを調整する工程が、前記青汁のpHを5.5〜7.1に調整する工程である1〜4のいずれかに記載の容器詰青汁飲料を製造する方法。
6.1〜5のいずれかの方法により製造された容器詰青汁飲料。
【発明の効果】
【0007】
本発明の容器詰青汁飲料の製造方法は、常温で流通させても鮮やかな緑色を保持しており、かつ青汁特有の異臭を低減させ、食味を改善した容器詰青汁飲料を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
1.青汁
本発明の容器詰青汁飲料及びその製造方法における青汁とは、ケール、大麦若葉、小麦若葉、明日葉、クワ若葉、ホウレンソウ、モロヘイヤ、メキャベツ、ケールなどの緑葉野菜である。好ましくは大麦若葉、ホウレンソウ、モロヘイヤ、メキャベツ、ケール、最も好ましくは大麦若葉である。これらのうちの1種又は複数を組み合わせて使用してもよい。これらの原料は、搾汁液をそのまま使用しても良いが、好ましくは葉部や茎部等の可食部をそのまま乾燥後、ミル及び臼等の機械的手法により粉末化したものや、同様に葉部や茎部等の可食部を搾汁して、濃縮化あるいは乾燥粉末化して得られたペースト状のものや搾汁乾燥粉末などを水等の溶媒に溶解させて用いることができる。分散性の観点から、ジェットミル等で破砕した粒径75μm以下が90%以上の乾燥粉末、好ましくは粒径32μm以下が90%以上の乾燥粉末を用いるとよい。本発明の容器詰青汁飲料における青汁の添加量は、0.5〜10.0重量%、好ましくは1.0〜8.0重量%、さらに好ましくは1.2〜6.2重量%である。大麦若葉の含有量は1.0〜2.0重量%、好ましくは1.2〜1.6重量%である。この範囲であると、期待される栄養成分を十分摂取することができ、かつ味覚上及び緑色保持の観点からも良好である。
【0009】
2.金属イオン
本発明の容器詰青汁飲料及びその製造方法においては、金属イオンを添加することを特徴とする。金属イオンを添加することにより、青汁特有の鮮やかな緑色を保持することが可能となる。
金属イオンとは、二価の金属陽イオンを用いることができ、銅イオン、亜鉛イオン、マグネシウムイオン、鉄イオン、コバルトイオン、ニッケルイオン及びマンガンイオンから選択され、いずれを単独で、または組み合わせて添加してもよい。緑色保持の観点から、銅イオン及び亜鉛イオンが好ましく、とりわけ銅イオンが光を照射した場合であっても最も効果的に緑色を保持し、好ましい。これらの金属イオンはグルコン酸塩、硫酸塩、クエン酸塩等の水溶性塩の形態で添加することが好ましく、例えばグルコン酸亜鉛、塩化亜鉛、硫酸亜鉛等の亜鉛塩類、グルコン酸銅等の銅塩類を使用することが好ましい。
添加量は金属イオンの種類により若干異なるが、金属イオン量で5〜50ppm、好ましくは10〜50ppm、さらに好ましくは20〜50ppm、最も好ましくは30〜50ppmである。この範囲であると青汁特有の鮮やかな緑色を保持することが可能となる。
金属イオンの添加は青汁飲料が容器に充填されるまでに行えば特に問題ないが、早い段階で添加する方が青汁特有の鮮やかな緑色を保持することができる。例えば青汁(搾汁液または乾燥粉末)を水等の溶媒に溶解させる場合の溶媒に添加しておくことが好ましい。
【0010】
3.pH
本発明の容器詰青汁飲料及びその製造方法においては、pHの調整は重要である。pHを一定の範囲内に調整することにより、品質を安定し、青汁特有の鮮やかな緑色を長期間保持することが可能となる。したがって、最終製品のpHを、5.5〜7.1に調整する必要がある。好ましくは5.6〜7.0、より好ましくは5.5〜6.8、さらに好ましくは5.8〜6.6、最も好ましくは6.2〜6.5に調整することにより、青汁特有の鮮やかな緑色をさらに安定的に保持することができる。pHの調整は、重曹を添加する等の一般的な方法に基づいて行うことができる。
【0011】
4.殺菌方法
本発明の容器詰青汁飲料及びその製造方法においては、食品衛生法に定められた殺菌条件で製造させる必要がある。殺菌方法には、レトルト殺菌等の間接殺菌と飲料に高温の蒸気を封入する直接殺菌とがあるが、本発明における容器詰青汁飲料の殺菌方法は直接殺菌である。直接殺菌は野菜飲料にはほとんど用いられない方法であるが、熱履歴を間接殺菌よりも短くすることができるという利点がある。直接殺菌は140〜160℃、好ましくは145〜155℃で0.5〜3分、好ましくは0.5〜1分処理すると、殺菌しつつ青汁特有の異臭を十分に低減させることができる。
【0012】
5.容器詰青汁飲料の色調の指標
容器詰青汁飲料の色調は鮮やかな緑色であることが好ましい。色調(緑色)の指標は−a/bで表すことができる。a及びbは色調(L,a,b)の値であり、市販の一般的な機器を用いて容器詰青汁飲料を測定することができる。−a/bは1に近いほど鮮やかな緑色であることを示す。許容できる−a/bの範囲は0.7〜1.0、好ましくは0.8〜1.0、最も好ましくは、0.85〜1.0である。
【0013】
本発明の容器詰青汁飲料及びその製造方法においては、果汁・果実飲料、コーヒー飲料、烏龍茶飲料、緑茶飲料、紅茶飲料、麦茶飲料、野菜飲料、雑穀茶飲料等の他の飲料と組み合わせることで、幅広い範囲の飲料を提供することが可能である。例えばソフトドリンクである炭酸飲料、果実エキス入り飲料、野菜エキス入りジュースや、ニアウォーター、スポーツ飲料、ダイエット飲料等に適宜添加することもできる。また消費者の嗜好にあわせて茶葉の微粉末のような不溶性化合物をあえて懸濁させた形態も使用できる。さらに、該成分の摂取について携帯性、保存性を考慮に入れた場合、該当成分を含有させた粉末飲料や、該当成分を利用者自らの操作による浸出により飲用が可能となるような食品とすることもできる。
【0014】
飲料には、処方上添加して良い成分として、酸化防止剤、香料、各種エステル類、有機酸類、有機酸塩類、無機酸類、無機酸塩類、無機塩類、色素類、乳化剤、保存料、調味料、甘味料、酸味料、果汁エキス類、野菜エキス類、花蜜エキス類、pH調整剤、品質安定剤等の添加剤を単独、又は併用して配合しても良い。
【0015】
飲料を容器詰飲料にする場合、使用される容器は、一般の飲料と同様にポリエチレンテレフタレートを主成分とする成形容器(いわゆるPETボトル)、金属缶、金属箔やプラスチックフィルムと複合された紙容器、瓶等の通常の形態で提供することができる。ここでいう容器詰飲料とは希釈せずに飲用できるものをいう。
【0016】
以下に、本発明の実施の態様について実施例をあげて説明するが、本発明は以下の例に限定されるものではない。
【実施例】
【0017】
(実施例1)
容器詰青汁飲料の色調と金属イオンの添加の有無との関係
大麦若葉の生葉を収穫後、乾燥させてジェットミルで粉砕し、粒径32μm以下が90%以上の大麦若葉粉末とした。水100gに大麦若葉粉末を1.2重量%の割合で添加した。その後グルコン酸銅を10ppm添加したもの、グルコン酸亜鉛を40ppm添加したもの及び金属イオン無添加のものを作製した。さらに炭酸水素ナトリウムを添加することにより、それらの最終製品pHを5.5、6.0、6.5及び7.5に変動させたサンプルを作製した。これらのサンプルを缶容器に充填し、121℃10分にわたって加熱処理を行った。これらのサンプルの色調(−a/b)と金属イオンの添加の有無との関係を図1に示す。
【0018】
図1から明らかなとおり、pH5.5〜7.1の範囲においては金属イオンの添加により色調(−a/b)が向上し、色調保持の効果があることが確認された。pHは高ければ高い程緑色を保持し、pH6.5を越えると−a/b=0.9付近で平衡に達した。しかし、pH7.2以上のサンプルについては緑色保持の点では良好であったものの、pHが変動しやすい等品質の安定性が良好でなかった。このことから好適なpHは5.5〜7.1であることがわかる。また、銅イオン(10ppm)は亜鉛イオン(40ppm)の4分の1の添加量で同様の効果を発揮していることから、添加する金属イオンは銅イオンが好ましいことがわかった。
【0019】
(実施例2)
殺菌方法の比較
水6000gに実施例1の大麦若葉粉末を1.2重量%の割合で添加し、その後グルコン酸亜鉛を50ppm添加してpHを炭酸水素ナトリウムにて6.8に調整し、サンプルを作製した。
一方のサンプルをテトラパック社製直接加熱兼用加熱殺菌機(VTIS 100)にて140℃、30秒間直接殺菌し、もう一方のサンプルを同機械にて140℃、30秒間間接殺菌した。その後5℃で4週間にわたって糖度(Bx)及び色調(L,a,b)の経時変化を観察した。4週間後のサンプルのみ外観及び官能評価を行った。外観及び官能評価は20人のパネラーが以下の評価方法に基づいて評価し、最も多かった評価を記載した。結果を以下に示す。
【0020】
<評価>
色 調:1:黄色、2:黄緑、3:緑
わら臭:1:ある、2:ややある、3:ない
うま味:1:ない、2:ややある、3:ある
【0021】
【表1】

【0022】
この結果、直接殺菌処理したサンプルは、いずれも−a/bが0.7を越えており、間接殺菌したサンプルと比較して、1ヶ月経過した後でも鮮やかな緑色の外観を維持していた。また、青汁特有の異臭である「わら臭」が抑えられていた一方で、「うま味」は残っており、全体としての評価が良かった。以上の結果より、容器詰青汁飲料の殺菌には直接殺菌が適していることが分かった。
【0023】
(実施例3)
容器詰青汁飲料の緑色の変化と金属イオンの添加の順番との関係
金属イオンの添加時期が、容器詰青汁飲料の外観に与える影響を検討した。
双方とも大麦若葉1.2重量%及びグルコン酸亜鉛50ppmを含有する容器詰青汁飲料であるが、一方は水3000gに実施例1の大麦若葉粉末を1.2重量%の割合で添加し、その後グルコン酸亜鉛を50ppm添加してサンプルを作製し、炭酸水素ナトリウムにてpHを6.5に調整後、Power Point社製小型滅菌UHT装置にて145℃、30秒間殺菌した(金属イオン後添加区)。
もう一方は、水3000gにまずグルコン酸亜鉛を50ppm添加した後、実施例1の大麦若葉粉末を1.2重量%の割合で添加して炭酸水素ナトリウムにてpHを6.5に調整後、Power Point社製小型滅菌UHT装置にて145℃、30秒間殺菌した(金属イオン先添加区)。その結果を以下に示す。
【0024】
【表2】

【0025】
この結果、金属イオンを添加する順番に係わらず、加熱後の−a/bは0.8を越え、鮮やかな緑色の外観を保持していた。さらに詳細には、加熱殺菌前の外観の緑色は金属イオンを添加する順番に係わらず共に0.95であったが、加熱殺菌後は金属イオン先添加区が若干良く緑色を保持している傾向があった。したがって、金属イオン添加のタイミングは、水と青汁を混合する後よりも、水に最初から添加しておく方がさらに緑色保持に効果的であることがわかった。
【0026】
(実施例4)
以下の配合に基づいて容器詰青汁飲料を製造し、152℃、30秒間直接殺菌し、紙容器に充填して、20人のパネラーに外観及び官能評価を行わせた。外観及び官能評価は20人のパネラーが以下の評価方法に基づいて評価し、その平均を記載した。なお、官能評価の「わら臭及びうま味」は、前述と同じように評価した。結果を以下に示す。
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明の容器詰青汁飲料の製造方法は、常温で流通させても鮮やかな緑色を保持しており、かつ青汁特有の異臭を低減させた容器詰青汁飲料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】金属イオンの添加の有無及びpHを変動させた場合の外観の緑色との関係を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器詰青汁飲料を製造する方法であって、
青汁に金属イオンを添加する工程と、
青汁のpHを調整する工程と、
青汁を直接殺菌する工程と
を含むことを特徴とする容器詰青汁飲料を製造する方法。
【請求項2】
前記青汁が大麦若葉由来である請求項1に記載の容器詰青汁飲料を製造する方法。
【請求項3】
前記大麦若葉が粉末状である請求項2に記載の容器詰青汁飲料を製造する方法。
【請求項4】
前記金属イオンが銅イオンまたは亜鉛イオンである請求項1〜3のいずれかに記載の容器詰青汁飲料を製造する方法。
【請求項5】
前記青汁のpHを調整する工程が、前記青汁のpHを5.5〜7.1に調整する工程である請求項1〜4のいずれかに記載の容器詰青汁飲料を製造する方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかの方法により製造された容器詰青汁飲料。


【図1】
image rotate