説明

容器詰飲料

【課題】従来よりも美味しいショウガエキス含有容器詰飲料を提供すること。
【解決手段】次の成分(A)及び(B);
(A)6−ジンゲロール、及び
(B)6−ショウガオール
を含み、
成分(A)と成分(B)の量が1.5〜9.3質量ppmであり、
成分(A)と成分(B)の総量に対する成分(B)の質量比が0.015〜0.035である、容器詰飲料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容器詰飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
ショウガ(Zingiber officinale)には辛味物質であるジンゲロールやショウガオールが含まれており、香辛料のひとつとして様々な食品に利用されている。
【0003】
一方、ショウガに含まれるジンゲロールやショウガオールは、鎮痛作用、抗炎症作用、血小板凝集抑制作用等の生理効果を有することが知られており、ショウガエキスを、例えば、乳酸菌飲料(特許文献1)や健康飲食品(特許文献2及び3)等に配合して摂取することが提案されている。
【0004】
また、ジンゲロールは、貯蔵時や50〜70℃の加熱時に脱水してショウガオールへ変換することが知られており、ジンゲロールのショウガオールへの変換を防止することがショウガエキスの品質を保証する上で重要であり、ジンゲロールの中で主成分を構成する6−ジンゲロールと、6−ショウガオールとの比率は品質関連パラメーターとなり得ることが報告されている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−133746号公報
【特許文献2】特開2007−222116号公報
【特許文献3】特開2004−321171号公報
【特許文献4】特開2005−511641号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、健康志向の高揚や消費者の嗜好の多様化により、嗜好性が高く、かつ生理効果が期待できる飲料の需要が増大している。
したがって、本発明の課題は、従来よりも美味しいショウガエキス含有容器詰飲料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、ショウガエキスの成分について分析を行った結果、従来とは全く異なる新たな知見を得た。すなわち、ショウガエキスを加熱すると、ジンゲロールからショウガオールへの脱水反応だけでなく、ショウガオールからジンゲロールへの水付加応が起こり、この脱水反応と水付加反応は平衡状態にあり、加熱する際のpH環境の僅かな違いにより、平衡がショウガオール側、あるいはジンゲロール側に偏ることを見出した。更に、本発明者は、6−ジンゲロールと6−ショウガオールの質量比が風味に影響を与えるとの知見を得、前記文献4に開示されている比率とは大幅に異なる特定比率の範囲内に制御することで、従来に比して風味が良好で、嗜好性の高い飲料が得られることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、次の成分(A)及び(B);
(A)6−ジンゲロール、及び
(B)6−ショウガオール
を含み、
成分(A)と成分(B)の総量が1.5〜9.3質量ppmであり、
成分(A)と成分(B)の総量に対する成分(B)の質量比が0.015〜0.035である容器詰飲料を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、甘味及び酸味が適度にバランスされ、かつキレがよく、従来よりも美味しいショウガエキス含有容器詰飲料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の容器詰飲料は、成分(A)として6−ジンゲロールを、成分(B)として6−ショウガオールを、それぞれ含有する。下記式(1)で表わされる化合物が6−ジンゲロールと称され、また下記式(2)で表わされる化合物が6−ショウガオールと称され、いずれもショウガエキス中に含まれる成分である。
【0011】
【化1】

【0012】
本発明者は、ショウガエキスを加熱する際のpH環境の僅かな違いにより、スキーム1に示す平衡が、ショウガオール側、あるいはジンゲロール側に偏ることを見出した。
具体的には、ショウガエキスのpH(20℃、以下、同様である)が3〜4.3である場合、スキーム1に示す平衡は加熱により左側に偏り、6−ショウガオールの水付加反応が進行して6−ジンゲロールを与え、他方pHが3未満又は4.3超の場合、スキーム1に示す平衡は加熱により右側に偏り、6−ジンゲロールの脱水反応が進行して6−ショウガオールを与える。加熱温度は80℃以上、更に85℃以上、特に90℃以上であることが好ましく、他方上限は140℃、特に110℃が好ましい。また、加熱時間は、3〜60分、特に5〜30分であることが好ましい。従来このような知見について一切報告がなく、全く予測し得ないことであった。
【0013】
原料とするショウガエキスは、例えば、ショウガ科(Zingiberaceae)の植物であるショウガ(Zingiber officinale)の根茎から抽出して得ることができる。抽出する際には、根茎をそのまま使用しても、粉砕、切断、乾燥等の前処理を行ってもよい。
抽出方法としては公知の方法を採用することが可能であるが、例えば、水、有機溶媒又は有機溶媒水溶液で抽出する方法、水蒸気蒸留で抽出する方法、超臨界抽出で抽出する方法が挙げられる。なお、抽出に使用する有機溶媒としては、例えば、エタノール等のアルコール、アセトン等のケトン、酢酸エチル等のエステルが挙げられる。これらは1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。ショウガエキス中には、通常(A)6−ショウガオールと(B)6−ジンゲロールが総量で0.5〜6質量%含まれている。
また、市販のショウガエキスを原料ショウガエキスとして使用してもよく、例えば、日本粉末薬品社製のショウガエキス等が挙げられる。
【0014】
そして、原料のショウガエキスをpH3〜4.3において加熱処理し、(A)6−ジンゲロールと(B)6−ショウガオールの総量に対する(B)6−ショウガオールの質量比{(B)/[(A)+(B)]}を0.015〜0.035、更に0.02〜0.034、特に0.022〜0.033、殊更0.025〜0.033に制御すると、より嗜好性の高いショウガエキスを製造することができる。
【0015】
本発明の容器詰飲料中の(A)6−ジンゲロール及び(B)6−ショウガオールの総量は1.5〜9.3質量ppmであるが、より一層の嗜好性向上の観点から、1.55〜6質量ppmが好ましい。上限については、更に5質量ppm、特に4質量ppmであることが好ましい。
【0016】
また、本発明の容器詰飲料中の(A)6−ジンゲロール及び(B)6−ショウガオールの総量に対する(B)6−ショウガオールの質量比{(B)/[(A)+(B)]}は0.015〜0.035であるが、より一層の嗜好性向上の観点から、0.02〜0.034、更に0.022〜0.033、特に0.025〜0.033であることが好ましい。
【0017】
本発明の容器詰飲料のpH(20℃)は、風味及び保存安定性の観点から、3〜4.3、更に3〜4、特に3〜3.5であることが好ましい。
【0018】
更に、本発明の容器詰飲料には、所望により、酸味料、甘味料、ビタミン、ミネラル、酸化防止剤、起泡剤、泡安定剤、各種エステル類、色素類、乳化剤、保存料、調味料、野菜エキス類、花蜜エキス類、品質安定剤等の添加剤を単独で又は2種以上を組み合わせて含有させることができる。なお、添加剤の含有量は、本発明の目的を妨げない範囲内で適宜設定可能である。
【0019】
次に、本発明の容器詰飲料の製造方法について説明する。
本発明の容器詰飲料は、前記加熱処理したショウガエキスを調製し、それを飲料に配合することにより製造することが、製造効率の点から好ましい。当該操作により、ショウガエキス中の(A)6−ジンゲロールと(B)6−ショウガオールの質量比{(B)/[(A)+(B)]}を上記範囲内に調整することができる。
本発明の容器詰飲料とするには、ショウガエキスを調製する際の希釈倍率にもよるが、前記のようにして得られたショウガエキスを0.01〜0.35質量%、更に0.03〜0.33質量%、特に0.05〜0.3質量%配合するのが、飲料の風味の点から好ましい。この際、容器詰飲料中の(A)6−ジンゲロールと(B)6−ショウガオールの総量が1.5〜9.3ppmとなるようにするが、更に1.55〜6ppm、特に1.55〜3.1とするのが、風味の点から好ましい。
また、原料ショウガエキスを、容器詰飲料中の(A)6−ジンゲロールと(B)6−ショウガオールの総量を前記範囲内となるようにし、pHを前記範囲内に調製したうえで、前記の条件で加熱処理する方法でも製造することができる。
更に、原料ショウガエキスを、容器詰飲料に適量配合したうえ、(A)6−ジンゲロール及び(B)6−ショウガオールの試薬等を用いて、(A)6−ジンゲロール及び(B)6−ショウガオールの総量並びに質量比{(B)/[(A)+(B)]}を上記範囲内に調整することで製造することもできる。
【0020】
本発明においては、原料ショウガエキスを、更にカラムクロマトグラフィー等に供して6−ジンゲロールと、6−ショウガオールとに分画して使用してもよい。例えば、原料ショウガエキスを、ヘキサンとエーテルの混合比が1〜3:1で溶出すると主として6−ショウガオールを含む画分を、またエーテルで溶出すると主として6−ジンゲロールを含む画分を得ることができる。これらは薄層クロマトグラフィー等により更に精製することも可能である。
【0021】
また、本発明の容器詰飲料に使用できる容器としては、ポリエチレンテレフタレートを主成分とする成形容器(いわゆるPETボトル)、金属缶、金属箔やプラスチックフィルムと複合された紙容器、瓶等の通常の包装容器が挙げられる。
更に、容器に充填後、例えば、金属缶のような加熱殺菌できる場合にあっては適用されるべき法規(日本にあっては食品衛生法)に定められた条件で殺菌することができる。他方、PETボトル、紙容器のようにレトルト殺菌できないものについては、あらかじめ上記と同等の殺菌条件、例えばプレート式熱交換器などで高温短時間殺菌後、一定の温度迄冷却して容器に充填する等の方法が採用できる。また無菌下で、充填された容器に別の成分を配合して充填してもよい。
【実施例】
【0022】
1.ジンゲロール及びショウガオールの分析
ジンゲロール及びショウガオールの分析は、高速液体クロマトグラフ法により、次に示す方法にて行った。
分析機器はX−LC(日本分光社製)を使用した。
分析機器の装置構成は次の通りである。
オートサンプラー:3159型AS、
デガッサー:3080型DG、
カラムオーブン:3067C0型カラムオーブン、
カラム:ZORBAX Eclipse Plus C18、内径4.6mm×長さ50mm、粒子径3.5μm(アジレント・テクノロジー社製)。
【0023】
分析条件は次の通りである。
検出波長:228nm
恒温槽 :30℃
流量 :移動相A、移動相Bの合計で0.5mL/min
試料注入量:1μL
移動相A:0.05%トリフルオロ酢酸を含有する20%アセトニトリル
移動相B:0.05%トリフルオロ酢酸を含有する70%アセトニトリル
【0024】
グラジエントは以下のように調整した。
i)初期条件をA液100%(体積比)とする。
ii)0分から0.5分:A液100%から65%に混合比を直線的に変化させる。
iii)0.5分から4分:A液65%から25%に混合比を直線的に変化させる。
iv)4分から5分:A液25%から0%に混合比を直線的に変化させる。
【0025】
以下の手順にて分析用試料を調製した。
i)試料に40質量倍のエタノールを添加する。
ii)20分間ソニケーションして抽出する。
iii)エタノール抽出液を遠心分離後、上清をフィルタに通過させる。
iv)ろ液を高速液体クロマトグラフ分析に供する。
【0026】
6−ジンゲロール及び6−ショウガオールの標準品を(各Sigma社製)を用いて検量線を作成した。これら検量線と、HPLCクロマトグラフとを用いて、試料中の6−ジンゲロール量及び6−ショウガオール量を求めた。
【0027】
3.官能評価
容器詰飲料の甘味、酸味及びキレについて、専門パネル5人による飲用試験を行い、下記基準に従って評価し、5人の協議により評価値を決定した。「キレ」については、口中に後味が残らないという観点で評価した。なお、評点の値が大きいほど、良好であることを意味し、全サンプル中最も良いものを「5」、最も悪いものを「1」とし、相対評価により行った。
【0028】
甘味の評価基準
評点5:甘味が強い。
4:甘味がやや強い。
3:標準の甘味
2:甘味がやや弱い。
1:甘味が弱い。
【0029】
酸味の評価基準
評点5:酸味が強い。
4:酸味がやや強い。
3:標準の酸味
2:酸味がやや弱い。
1:酸味が弱い。
【0030】
キレの評価基準
評点5:キレが強い。
4:キレがやや強い。
3:標準のキレ
2:キレがやや弱い。
1:キレが弱い。
【0031】
製造例1
ショウガエキスaの製造
市販のショウガエキス(6−ジンゲロール及び6−ショウガオールの合計量3.1質量%:日本粉末薬品株式会社製)をイオン交換水で8倍に希釈した。pH(20℃)は5.5であった。次いで、溶液のpHをクエン酸及びクエン酸ナトリウムで4.9に調整した。次いで、イオン交換水でバランスさせて市販のショウガエキスの10倍希釈溶液とし、ショウガエキスaを得た。ショウガエキスaの製造条件及び分析値を表1に示す。
【0032】
製造例2
ショウガエキスbの製造
市販のショウガエキス(日本粉末薬品株式会社製)をイオン交換水で8倍に希釈し、その後pHをクエン酸及びクエン酸ナトリウムで4.9に調整した。次いで、イオン交換水でバランスさせて市販のショウガエキスの10倍希釈溶液を得た。次いで、それを90℃で5分加熱処理を行い、ショウガエキスbを得た。ショウガエキスbの製造条件及び分析値を表1に示す。
【0033】
製造例3
ショウガエキスcの製造
pHを4.3に調整したこと以外は、製造例2と同様の操作によりショウガエキスcを得た。ショウガエキスcの製造条件及び分析値を表1に示す。
【0034】
製造例4
ショウガエキスdの製造
pHを3.2に調整したこと以外は、製造例2と同様の操作によりショウガエキスdを得た。ショウガエキスdの製造条件及び分析値を表1に示す。
【0035】
製造例5
ショウガエキスeの製造
pHを3.2に調整し、90℃で30分加熱処理を行ったこと以外は、製造例2と同様の操作によりショウガエキスeを得た。ショウガエキスeの製造条件及び分析値を表1に示す。
【0036】
製造例6
ショウガエキスfの製造
pHを2.6に調整したこと以外は、製造例2と同様の操作によりショウガエキスfを得た。ショウガエキスfの製造条件及び分析値を表1に示す。
【0037】
【表1】

【0038】
実施例1〜8及び比較例1〜4
表2に示す割合のショウガエキスを、必要によりクエン酸及びクエン酸ナトリウムで表2に示すpHに調整し、イオン交換水でバランスさせた後、PETボトルに充填して容器詰飲料を調製した。得られた容器詰飲料の分析及び官能評価の結果を表2に示す。
【0039】
【表2】

【0040】
表1及び2から、ショウガエキスをpH3〜4.3の条件下で加熱処理し6−ショウガオールを6−ジンゲロールに変換させて、(A)6−ジンゲロール及び(B)6−ショウガオールの総量、該総量に対する(B)ショウガオールの質量比を特定範囲内に制御することで、甘味及び酸味が適度にバランスされ、かつキレのよい容器詰飲料が得られることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の成分(A)及び(B);
(A)6−ジンゲロール、及び
(B)6−ショウガオール
を含み、
成分(A)と成分(B)の総量が1.5〜9.3質量ppmであり、
成分(A)と成分(B)の総量に対する成分(B)の質量比が0.015〜0.035である、容器詰飲料。
【請求項2】
pHが3〜4.3である、請求項1記載の容器詰飲料。
【請求項3】
ショウガエキスのpHを3〜4.3に調整し、80℃以上、3〜60分加熱するショウガエキスの製造方法。
【請求項4】
ショウガエキスのpHを3〜4.3に調整し、80℃以上、3〜60分加熱したショウガエキスを配合する、請求項1又は2記載の容器詰飲料の製造方法。