説明

容器

【課題】紫外線等の照射がなくとも十分な親水性を有し、簡単な水洗にて汚れを除去できる容器を提供する。
【解決手段】容器10,20は、容器本体11,21とその表面に形成された親水性能膜12、22から構成され、親水性能膜12,22は、非カップリング部位に少なくとも1個以上の硫黄を含むオルガノシランおよび/またはその加水分解物の、単体および2量体以上の縮合物から形成されたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繰り返し洗浄して用いられる容器に関する。
【背景技術】
【0002】
食器をはじめ、各種容器に付着した油汚れは一般に洗浄が困難である。例えば、一般家庭では、中性洗剤にしばらく食器を浸漬して油分を浮かせてから水洗いすることがよく行われている。あるいは、適当な洗剤を投入して自動食器洗浄機により洗浄する場合もある。しかし、いずれの方法によっても洗浄効果は必ずしも十分ではない。
そこで、光触媒粒子からなる表面層または光触媒粒子を含む表面層が形成された食器が提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載された食器の表面層に紫外線等を照射すると、表面層が親水性を呈し表面に薄い水膜が形成される。さらに、光触媒粒子による物質の分解作用により食器表面に固着した汚れが除去されるものである。また、表層部がシリカゲル構造を有するとともに、非架橋酸素を有する酸化物を含む食器が提案されている(例えば、特許文献2参照)。特許文献2に記載された食器では、シリカゲル構造を有し、非架橋酸素を有する酸化物が表層部に存在することにより非架橋酸素部に水分子が吸着して親水性が向上する。それ故、食器表面に固着した汚れが除去されやすくなる。
【0003】
【特許文献1】特開平9−187359号公報
【特許文献2】特開2000−226281号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の食器では、触媒を活性化するために紫外線が必要であり、十分な紫外線が得られない場合や汚れの負荷量が非常に多い場合は、汚染物質を水洗、湯洗、シャワー洗浄などの方法で除去できない場合があった。また、特許文献2の食器では、紫外線がなくとも親水性を発揮できるが、汚れの除去効果は十分ではない。
そこで、本発明の目的は、紫外線等の照射がなくとも十分な親水性を有し、簡単な水洗にて汚れを除去できる容器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記した課題を解決すべく、本発明は、表面に親水性能膜を形成してなる容器であって、前記親水性能膜は、非カップリング部位に少なくとも1個以上の硫黄を含むオルガノシランおよび/またはその加水分解物の、単体および2量体以上の縮合物から形成されたものであることを特徴とする。
本発明の容器によれば、単体で存在する非カップリング部位に少なくとも1個以上の硫黄を含むオルガノシランおよび/またはその加水分解物が、該容器本体表面に対して化学的に結合するとともに、2量体以上の縮合物間、2量体以上の縮合物と単体分子間および、単体分子間で反応し、隙間を埋める糊の役目を果たす。これにより、該容器本体表面に親水成分を固定化するための部位、および、膜内で架橋する部位が均一に存在する親水性能膜となる。それ故、本発明の容器は、紫外線等の照射がなくとも、その表面が十分な親水性能を有するので、油性成分を含んだ汚染物質が固着したとしても、簡単な水洗で容易に汚染物質を除去することが可能となる。しかも、親水性能膜自体の耐久性にも優れているので、長期間に渡って易洗浄性を発揮する。
【0006】
本発明では、該容器が食器であることが好ましい。
この発明によれば、簡単な水洗だけで容易に汚染物質を除去することが可能な食器を提供できる。従来、汚染した食器を洗浄する際には合成系あるいは天然系の洗剤を使用することが一般化しているが、この発明によれば、洗剤自体の使用量を削減したり、あるいは全く洗剤を使用せずとも優れた洗浄効果が得られるので、環境に対する負荷を大幅に低減できる。
【0007】
本発明では、該容器本体の少なくとも表面が金属、セラミックスおよびプラスチックのいずれかであることが好ましい。
ここで、本発明における親水性能膜は、前記した構成を有するので、種々の材質の表面に化学的に固着させることが可能である。
それ故、この発明によれば、容器本体の少なくとも表面の材質が金属、セラミックスおよびプラスチックのいずれかであるので、各々の材質の特徴を生かした易洗浄性容器を提供できる。特にプラスチック製食器の場合、軽くて錆びないなど種々の利点はあるものの汚れが落ちにくいことがあるので、本発明における親水性能膜を表面に形成することは非常に有効である。
【0008】
本発明では、前記親水性能膜を形成する非カップリング部位に少なくとも1個以上の硫黄を含むオルガノシランおよび/またはその加水分解物の単体および2量体以上の縮合物のうち、前記非カップリング部位に少なくとも1個以上の硫黄を含むオルガノシランおよび/またはその加水分解物の、2量体以上の縮合物が、オルガノシラン総量の1質量%以上70質量%未満であることが好ましい。
この発明によれば、より優れた親水性能を有するとともに、膜自体の耐久性もより優れた親水性能膜を備えた容器の提供が可能である。それは、単体で存在する非カップリング部位に少なくとも1個以上の硫黄を含むオルガノシランおよび/またはその加水分解物は、該容器本体表面への膜の固定化に加え、2量体以上の縮合物間、2量体以上の縮合物と単体分子間および、単体分子間で反応し、隙間を埋める糊の役目を果たすためである。すなわち、非カップリング部位に少なくとも1個以上の硫黄を含むオルガノシランの2量体以上の縮合物が、オルガノシラン総量の1質量%以上70質量%未満、それ以外の非カップリング部位に少なくとも1個以上の硫黄を含むオルガノシランが単体である場合、該容器本体表面に親水成分を固定化するための部位、および、膜内で架橋する部位がバランスよく存在することにより、優れた親水性能のみならず膜自体の耐久性を備えた親水性能膜が得られるのである。
【0009】
本発明では、前記親水性能膜を形成する非カップリング部位に少なくとも1個以上の硫黄を含むオルガノシランおよび/またはその加水分解物が、スルホン酸エステル基、チオール基、スルフィド基、ジスルフィド基、およびスルホン酸基から選ばれる1種以上の官能基を含有することが好ましい。
この発明によれば、良好な親水性を示すスルホン酸エステル基、チオール基、スルフィド基、ジスルフィド基、およびスルホン酸基から選ばれる少なくとも1種以上の官能基を非カップリング部位に少なくとも1個以上含有することで、より優れた親水性能を有する親水性能膜が得られる。従って、そのような親水性能膜を備えた容器は、長期間に渡って安定して親水性能、すなわち、易洗浄性を発揮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の容器について説明する。本実施形態における容器は、例えば食器である。
〔食器の構成〕
図1、図2に、本実施形態に係る食器としてのティーカップ10と受け皿20を示す。いずれも内表面および外表面には後述する親水性能膜が形成されている。なお、ティーカップ10と受け皿20の本体はいずれもセラミックス製(陶磁器製)である。
図3には、前記した食器(ティーカップ10、受け皿20)の断面を模式的に示す。ティーカップ10と受け皿20は、いずれもティーカップ本体11および受け皿本体21の内外表面全体に渡って均一に親水性能膜12,22が形成されている。なお、親水性能膜12,22の厚みには特に制限はないが、後述する効果と耐久性の観点より0.001〜0.5μm程度が好ましく、より好ましくは、0.001〜0.03μmである。
【0011】
〔親水性能膜〕
次に、前記した食器表面に形成された親水性能膜について説明する。まず、親水性能膜を形成するために使用される処理液(以下、「本処理液」ともいう)について説明する。
【0012】
本処理液中の非カップリング部位に少なくとも1個以上の硫黄を含むオルガノシランは、単体および2量体以上の縮合物を含有する。2量体以上の縮合物は、膜内の親水性基の密度を向上させる。また、単体で存在するオルガノシランは、基材と膜の固定化に加え、2量体以上の縮合物間、2量体以上の縮合物と単体分子間および、単体分子間で反応し、隙間を埋める糊の役目を果たす。これにより、膜強度および、容器本体表面との高い密着性を発現する作用がある。さらに、糊として働く単体には親水性基が含有されるため、膜における親水性基の密度を低下させず、優れた親水性能を示すことが可能である。
【0013】
また、本処理液中の非カップリング部位に少なくとも1個以上の硫黄を含むオルガノシランの2量体以上の縮合物は、2量体以上であれば充分な親水性基の密度が得られる。より高い親水性基の密度を得るため、2量体以上の様々な縮合度の縮合物を含むことが望ましく、さらに好ましくは、様々な2量体以上の縮合物のうち、縮合度の小さいものを大きいものよりも多く含み、膜内の充填率が低下しないことが好ましい。
【0014】
本処理液で用いられる適当な親水性(有機)溶剤としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類、エチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類、グリセリン、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールエーテル類、アセトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、水などである。親水性(有機)溶剤は、1種のみでも、2種以上の混合溶媒でも良い。
【0015】
非カップリング部位に少なくとも1個以上の硫黄を含むオルガノシラン含有量は0.1質量%以上25質量%以下とすることが好ましい。0.1質量%以下では、親水性能膜が薄くなり、耐久性に問題がある。25質量%以上の濃度で用いても、親水性能膜の性能に変化が見られず、経済的にもデメリットとなってしまう。特に、親水性能膜を形成した容器を食器に用いると、表面に形成される膜の膜厚によっては表面の反射特性が変化して、食器本来の色調が変化してしまう場合もあり、食器の商品価値を損なってしまうこともあり得る。この場合、オルガノシラン含有量は0.1質量%以上2質量%以下とすることが好ましい。
【0016】
また、本処理液中の非カップリング部位に少なくとも1個以上の硫黄を含むオルガノシランおよび/またはその加水分解物の2量体以上の縮合物は、オルガノシラン総量の1質量%以上70質量%未満である。1質量%未満である場合、膜内の親水性基密度が低くなり、充分な親水性能が得られないおそれがある。また、70質量%以上である場合、単体のオルガノシランが糊としての充分な役割を果たせず、充分な膜強度が得られないおそれがある。より高い親水性能および膜強度を得るためには、非カップリング部位に少なくとも1個以上の硫黄を含むオルガノシランおよび/またはその加水分解物単体と、2量体以上の縮合物の存在比が重要である。しかし、用いるオルガノシランの種類によって、最適比率が存在するため、限定はできないが、2量体以上の縮合物が5質量%以上50質量%未満であることがなお好ましい。
【0017】
また、本処理液中には、非カップリング部位に少なくとも1個以上の硫黄を含むオルガノシランおよび/またはその加水分解物は、スルホン酸エステル基、チオール基、スルフィド基、ジスルフィド基、スルホン酸基から選ばれる1種以上の官能基を含有する。スルホン酸エステル基、チオール基、スルフィド基、ジスルフィド基は、酸化してスルホン酸基または硫酸基とすることが好ましい。
【0018】
スルホン酸エステル基、チオール基、スルフィド基、ジスルフィド基はオルガノシランおよび/またはその加水分解物のどの位置に存在しても良いが、親水性が発現し易いためには、スルホン酸または硫酸基に変換したときに末端にあることが好ましい。オルガノシランの反応部位は、クロロシランやアルコキシシラン、シラザンの様にシラノールに変換し、縮合および、基材表面の活性基と反応することが可能な基である。
【0019】
非カップリング部位に少なくとも1個以上の硫黄を含むオルガノシランの例として、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルジメチルメトキシシラン、2−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、2−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、2−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、2−メルカプトプロピルジメチルメトキシシラン、2−メルカプトエチルトリエトキシシラン、2−メルカプトエチルトリメトキシシラン、2−メルカプトエチルメチルジメトキシシラン、2−メルカプトエチルジメチルメトキシシラン、2−(2−クロロエチルチオエチル)トリエトキシシラン、メルカプトメチルトリメトキシシラン、ジメトキシ−3−メルカプトプロピルメチルシラン、2−(2−アミノエチルチオエチル)ジエトキシメチルシラン、ジメトキシメチル−3−(3−フェノキシプロピルチオプロピル)シラン、3−(2−アセトキシエチルチオプロピル)ジメトキシメチルシラン、2−(2−アミノエチルチオエチル)トリエトキシシラン、3−トリメトキシシリルプロパンスルホン酸イソプロピルエステル、ビス[3−(トリエトキシシリル)プロピル]テトラスルフィド、ビス[3−(トリエトキシシリル)プロピル]ジスルフィド、ビス[3−(トリエトキシシリル)プロピル]スルフィド、および3−トリメトキシシリルプロピルスルホン酸などが挙げられる。
【0020】
また、本処理液中の非カップリング部位に少なくとも1個以上の硫黄を含むオルガノシランのカップリング部位は、親水性有機溶剤中で低温ではゆっくりと、高温になるほど速く加水分解および縮合が進む。0℃未満では縮合が非常に遅く、2量体以上の縮合物を作製するのに非常に長い時間がかかり、作業性が良くない。70℃を超える温度では縮合が非常に速く進むため、制御が難しい。よって、非カップリング部位に少なくとも1個以上の硫黄を含むオルガノシランおよび/またはその加水分解物を親水性有機溶剤に希釈した後、0℃以上70℃以下で0.1時間以上200時間以下保持することが好ましい。さらに、より縮合度の制御を安定的に行うためには、0℃以上40℃以下で2時間以上200時間以下保持するのが好ましい。
【0021】
非カップリング部位に少なくとも1個以上の硫黄を含むオルガノシランの2量体以上の縮合物を作製する際、保管環境によって制御する方法とともに、酸触媒、アルカリ触媒、アミン系触媒、金属化合物触媒から選ばれる1種以上の触媒を用いる方法を組み合わせても良い。
【0022】
処理液中の非カップリング部位に少なくとも1個以上の硫黄を含むオルガノシランおよび/またはその加水分解物のカップリング部位の縮合および加水分解を、酸触媒、アルカリ触媒、アミン系触媒、金属化合物触媒から選ばれる1種以上の触媒によって制御することにより、非カップリング部位に少なくとも1個以上の硫黄を含むオルガノシランの2量体以上の縮合物がオルガノシラン総量の1質量%以上70質量%未満であるような処理液の作製を更に容易に行うことが可能となる。
【0023】
酸触媒としては、塩酸、硫酸、硝酸、酢酸、蟻酸、酒石酸、クエン酸、炭酸があげられる。塩酸、硫酸、硝酸、炭酸等のカルボキシル基を持たない酸については、オルガノシランの加水分解を促進する効果があり、カルボキシル基を持つ酸は、オルガノシランに対し、配位するため、縮合を抑える効果がある。よって、カルボキシル基を持たない酸と、カルボキシル基を混合して用いると、より縮合度の制御を容易に行うことが可能である。
【0024】
アルカリ触媒としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、アンモニウム化合物等があげられる。アミン系触媒は、具体的には、エチレンジアミン、N,N−ジメチルベンジルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリペンチルアミン、n−ブチルアミン、トリエチルアミン、グアニジンなどのアミン、グリシンなどのアミノ酸、2−メチルイミダゾール、2,4−ジエチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾールなどのイミダゾールのいずれでもよいが、加水分解、および縮合物に対し、水素結合を作り、縮合反応を制御する効果から、ヒドロキシル基を含有するアミンが好ましい。
【0025】
金属化合物触媒としては、アルミニウムアセチルアセトネート、チタンアセチルアセトネート、クロムアセチルアセトナートなどの金属アセチルアセトネート、酢酸ナトリウム、ナフテン酸亜鉛、オクチル酸スズなどの有機酸金属塩、SnCl4、TiCl4、ZnCl2などのルイス酸、過塩素酸マグネシウムなどがあげられる。3級アミン、有機錫化合物触媒については、その効果を高めるために混合して用いても良いことが一般的に知られている。触媒の量は、それぞれの触媒によって効果が異なるため、一概にはいえないが、膜の親水性能を阻害しないで用いるのが望ましく、具体的には、処理液中の固形分に対して、75質量%以下で混合するのが好ましい。
【0026】
上述したように、食器本体表面に形成する膜の膜厚によっては表面の反射特性が変化して、食器の色調が変化してしまうおそれがある。しかし、非カップリング部位に少なくとも1個以上の硫黄を含むオルガノシランおよび/またはその加水分解物の単体および2量体以上の縮合物を親水性有機溶剤に希釈した処理液により形成した親水性能膜は、非常に薄いため、食器の色調に影響しない。
【0027】
〔食器の製造方法〕
本実施形態における食器の製造方法は、非カップリング部位に少なくとも1個以上の硫黄を含むオルガノシランおよび/またはその加水分解物の単体および2量体以上の縮合物を親水性有機溶剤に希釈した処理液を作成した後、該処理液を食器本体表面に塗布する工程と、前記処理液を塗布した食器を加熱処理して乾燥硬化する工程とを含む。図4に、この食器の製造工程フロー図(A)を示す。
【0028】
塗布工程においては、非カップリング部位に少なくとも1個以上の硫黄を含むオルガノシランおよび/またはその加水分解物の単体および2量体以上の縮合物を親水性有機溶剤に希釈した処理液を基材表面に塗布する。塗布方法はディップコーティング法、スプレーコーティング法等があげられるが、生産性、塗布後の均一性を重視した場合、ディップコーティング法が好ましい。
【0029】
非カップリング部位に少なくとも1個以上の硫黄を含むオルガノシランおよび/またはその加水分解物の単体および2量体以上の縮合物を親水性有機溶剤に希釈した処理液を基材表面に塗布する前に、処理液に含まれるオルガノシランと基材表面の反応性を高める工程を実施しても良い。具体的には、プラズマ処理、アルカリ処理等で、食器本体表面を活性化する。
【0030】
処理液を塗布した食器を加熱処理して乾燥硬化する工程は、非カップリング部位に少なくとも1個以上の硫黄を含むオルガノシランおよび/またはその加水分解物を親水性有機溶剤に希釈した処理液内の溶媒を除去し、オルガノシランの反応を完結させるために行う。加熱処理の条件については、溶媒が蒸散し、オルガノシランの反応が好適に起こる条件で、かつ、食器本体自体に影響がない範囲であれば、特に限定しない。好ましくは、50℃以上300℃以下の温度範囲で1分以上24時間以下の加熱処理を行う。反応速度が温度に依存することから、加熱温度が低いほど長時間の処理が好ましい。加熱温度が300℃を越える場合、非カップリング部位に少なくとも1個以上の硫黄を含むオルガノシランおよび/またはその加水分解物が分解するなどの影響があるため、避けた方が良い。50℃以上150℃以下で1分以上12時間以下の加熱処理であれば、工程を設計する上でなお好ましい。
【0031】
また、本実施形態における第2の食器の製造方法は、図5の製造工程フロー図(B)に示すように、非カップリング部位に少なくとも1個以上の硫黄を含むオルガノシランおよび/またはその加水分解物を親水性有機溶剤に希釈した処理液の、非カップリング部位に含有される、スルホン酸エステル基、チオール基、スルフィド基、ジスルフィド基から選ばれる1種以上の官能基をスルホン酸基に変換する工程と、スルホン酸エステル基、チオール基、スルフィド基、ジスルフィド基から選ばれる1種以上の官能基をスルホン酸基に変換した処理液を食器本体表面に塗布する工程と、前記処理液を塗布した食器を加熱処理して乾燥硬化する工程とを含む。
【0032】
本実施形態おける処理液中の非カップリング部位に少なくとも1個以上の硫黄を含むオルガノシランおよび/またはその加水分解物の、スルホン酸エステル基、チオール基、スルフィド基、ジスルフィド基は、更に良好な親水性を示すスルホン酸基に変換することで、更に良好な親水性能を持たせることが可能である。酸化は、一般的に用いられる酸化反応(過マンガン酸ナトリウム、過酸化水素水、塩酸、臭化水素、オゾン含有ガス等による酸化)によって行われる。
【0033】
また、本実施形態における第3の食器の製造方法は、図6の製造工程フロー図(C)に示すように、非カップリング部位に少なくとも1個以上の硫黄を含むオルガノシランおよび/またはその加水分解物の単体および2量体以上の縮合物を親水性有機溶剤に希釈した処理液を食器本体表面に塗布する工程と、前記処理液を塗布した食器を加熱処理して乾燥硬化する工程と、食器本体表面に形成された、非カップリング部位に少なくとも1個以上の硫黄を含むオルガノシランの非カップリング部位に含有される、スルホン酸エステル基、チオール基、スルフィド基、ジスルフィド基から選ばれる1種以上の官能基をスルホン酸基に転化する工程とを含む。
【0034】
スルホン酸エステル基、チオール基、スルフィド基、ジスルフィド基の酸化は、オルガノシランおよび/またはその加水分解物を縮合する前でも、縮合した後でも構わないが、より効率的に酸化を行うため、オルガノシランおよび/またはその加水分解物を縮合する前に行うことが好ましい。
【0035】
本実施形態によれば以下のような効果を奏する。
非カップリング部位に少なくとも1個以上の硫黄を含むオルガノシランおよび/またはその加水分解物の単体および2量体以上の縮合物からなる処理液を食器本体表面に処理することにより、化学的に食器本体表面に結合した均一な親水性能膜を有する食器を提供できる。
【0036】
さらに、非カップリング部位に少なくとも1個以上の硫黄を含むオルガノシランおよび/またはその加水分解物の2量体以上の縮合物は、オルガノシラン総量の1質量%以上70質量%未満とすることにより、膜内に効率的に親水性基が配置され、膜強度および食器本体表面との密着性がより向上した食器とできる。
【0037】
前記したような親水性能膜を備えた食器は、紫外線等の照射がなくとも、その表面が優れた親水性能を有するので、例えば油性成分を含んだ汚染物質が固着したとしても、簡単な水洗で容易に汚染物質を除去することが可能となる。しかも、親水性能膜自体の耐久性にも優れているので、長期間に渡って易洗浄性を発揮する。
【0038】
本発明を実施するための最良の構成などは、以上の記載で開示されているが、本発明は、これに限定されるものではない。すなわち、本発明は、主に特定の実施形態に関して特に図示され、かつ、説明されているが、本発明の技術的思想および目的の範囲から逸脱することなく、以上述べた実施形態に対し、形状、材質、数量、その他の詳細な構成において、当業者が様々な変形を加えることができるものである。
したがって、上記に開示した形状、材質、数量などを限定した記載は、本発明の理解を容易にするために例示的に記載したものであり、本発明を限定するものではない。
【0039】
例えば、食器本体の材質としてはセラミックス製(陶磁器製)としたが、プラスチック製でも金属製でもよい。プラスチック製の食器としては、メラミン樹脂のような熱硬化型樹脂でもよく、ポリプロピレン樹脂や塩化ビニル樹脂のような熱可塑性樹脂でもよい。食器本体の材質としてプラスチックを用いる場合は、必要に応じてプライマー処理を行うことが好適である。プライマー処理剤としては、例えば、信越化学工業株式会社製プライマーPC7などがある。
【実施例】
【0040】
次に、実施例および比較例により本発明をさらに詳しく説明する。具体的には、以下に示す方法で親水性能膜が形成された食器を製造して、汚れの落ちやすさを評価した。食器本体としては、実施形態の図1、図2に示すセラミックス製のティーカップ10と受け皿20を用いた。なお、ティーカップ10と受け皿20については、必要のない限り、親水性能膜の形成前後で特に符号を変えない。
【0041】
〔実施例1〕
(処理液の作製)
3−トリメトキシシリルプロパンスルホン酸イソプロピルエステル0.01molを氷酢酸60mlに溶解し、ここに、30質量%濃度の過酸化水素水35gを、液温を25〜30℃に保った状態で1時間かけて滴下した。滴下終了後、25℃で一昼夜攪拌した。この液をFT−NMRにて分析したところ、スルホン酸エステル基が酸化、メトキシ基が加水分解され、トリシロキシプロパンスルホン酸が合成されていることがわかった。また、トリシロキシプロパンスルホン酸溶液の固形分濃度を測定したところ、4質量%であった。
このトリシロキシプロパンスルホン酸溶液をエタノールにて0.2質量%に希釈し、150gとした。ここにN−アミノエチルエタノールアミン0.1gを混合し、30℃で2時間攪拌した(A−1液)。このA−1液の一部を純水で20倍に希釈し、LC/MSで分析したところ、2量体以上の縮合物の存在が確認され、その比率は全化合物量中の40質量%であることを確認した。次にA−1液にラウリル硫酸ナトリウムを処理液総量に対し、50質量ppmとなるように加え、処理液Aとした。
【0042】
(ディップコーティングにより容器本体表面に塗布する工程)
40℃の1.6N水酸化カリウム水溶液に3分間浸漬し、純水で充分に洗浄したティーカップ10と受け皿20を処理液Aに各々浸漬することにより、各々の表面に処理液Aを塗布した。
【0043】
(加熱処理して乾燥硬化する工程)
処理液Aを塗布したティーカップ10と受け皿20を熱風循環式恒温槽内で、120℃で1時間保持し、食器本体と処理液との反応を完結させ、親水性能膜が形成されたティーカップ10と受け皿20を得た。
【0044】
〔比較例1〕
前記した親水性能膜を形成しないティーカップ10と受け皿20をそのまま用いた。
【0045】
〔評価方法および評価結果〕
実施例1および比較例1におけるティーカップ10と受け皿20について、図7、図8のティーカップ10’と受け皿20’に示すように、市販の油性太マジックインキ(登録商標)で線画を描いた。ティーカップ10’と受け皿20’を一昼夜放置後、水道水を線画に触れるように流したところ、実施例1におけるティーカップ10’と受け皿20’からはすぐに線画が除去された。一方、比較例1におけるティーカップ10’と受け皿20’については、水道水を流しながら手でこすっても線画は除去できず、中性洗剤をつけてスポンジで何度もこすることによりようやく線画を除去できた。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の容器は、繰り返し洗浄される食器等の分野で好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の実施形態に係る食器(ティーカップ)を示す図。
【図2】前記実施形態における食器(受け皿)を示す図。
【図3】前記実施形態における食器の概略断面図。
【図4】前記実施形態における食器の製造工程フロー図(A)
【図5】前記実施形態における食器の製造工程フロー図(B)
【図6】前記実施形態における食器の製造工程フロー図(C)
【図7】実施例において汚染した食器(ティーカップ)を示す図。
【図8】実施例において汚染した食器(受け皿)を示す図。
【符号の説明】
【0048】
10,10’…容器(食器、ティーカップ)、11,21…容器(食器)本体、12,22…親水性能膜、20,20’…容器(食器、受け皿)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に親水性能膜を形成してなる容器であって、
前記親水性能膜は、非カップリング部位に少なくとも1個以上の硫黄を含むオルガノシランおよび/またはその加水分解物の、単体および2量体以上の縮合物から形成されたものである
ことを特徴とする容器。
【請求項2】
請求項1に記載の容器において、
該容器が食器である
ことを特徴とする容器。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の容器において、
該容器本体の少なくとも表面が金属、セラミックスおよびプラスチックのいずれかである
ことを特徴とする容器。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれかに記載の容器において、
前記親水性能膜を形成する非カップリング部位に少なくとも1個以上の硫黄を含むオルガノシランおよび/またはその加水分解物の単体および2量体以上の縮合物のうち、
前記非カップリング部位に少なくとも1個以上の硫黄を含むオルガノシランおよび/またはその加水分解物の、2量体以上の縮合物が、オルガノシラン総量の1質量%以上70質量%未満である
ことを特徴とする容器。
【請求項5】
請求項4に記載の容器において、
前記親水性能膜を形成する非カップリング部位に少なくとも1個以上の硫黄を含むオルガノシランおよび/またはその加水分解物が、スルホン酸エステル基、チオール基、スルフィド基、ジスルフィド基、およびスルホン酸基から選ばれる1種以上の官能基を含有する
ことを特徴とする容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−100319(P2010−100319A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−273997(P2008−273997)
【出願日】平成20年10月24日(2008.10.24)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】