説明

容積式流量計

【課題】 本発明は、1サイクルごとに一定量の流体を流し出す計量子を繰り返し動作させて流量を計測する容積式流量計に関し、流量計測誤差を小さく抑える。
【解決手段】 流路内で動作を循環的に繰り返し流入してきた流体を1サイクルの動作ごとに一定量だけ流出させる計量子と、その計量子に流入する流体とその計量子から流出する流体との差圧を検出する差圧検出器と、計量子の動作に応じた信号を出力する動作検出器と、計量子の動作を補助するモータと、動作検出器の出力信号に基づいて、差圧検出器の応答周波数を越える周波数成分を含む波形を生成する波形生成部と、差圧検出器で検出された差圧と波形生成部で生成された波形との双方に基づいて、計量子に流入する流体と計量子から流出する流体との差圧がゼロになるようにモータの動作を制御する動作制御部とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1サイクルごとに一定量の流体を流し出す、ピストンや回転子等の計量子を、循環的に繰り返し動作させて流量を計測する容積式流量計に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、上記の容積式流量計が知られている(例えば特許文献1)。
【0003】
容積式流量計では、計量子への流入側流体と計量子からの流出側流体との間の差圧を計測し、その差圧がゼロになるように計量子を駆動することが行なわれている。計量子をこのように駆動すると、流体の圧力損失なしに流量を計測することができる。特許文献1には、小流量域から大流量域までの広い流量域における器差特性改善の提案がなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−50146号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
容積式流量計では、上述の通り、流入側と流出側との間の流体の差圧を計測し、その差圧がゼロとなるように計量子が駆動される。この容積式流量計では、その差圧を高精度にゼロに抑えることが流量計測精度の向上につながっている。しかしながら、差圧を計測するセンサの応答性能の限界や、差圧を計測してからその差圧をゼロにすべく計量子を駆動するまでの時間遅れに起因して、差圧の変動が幾分か残り、これが流量計測精度の限界を定める1つの要因となっている。差圧計測センサとして十分な高速応答性能を持ったセンサを使うと、その分コスト高となり、また、それでもなお、時間遅れに起因する流量計測誤差の低下は免れない。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑み、応答性能が必ずしも十分ではない差圧検出センサを使用した場合であっても、流量計測誤差を小さく抑えることのできる容積式流量計を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成する本発明の容積式流量計は、
流路内で動作を循環的に繰り返し流入してきた流体を1サイクルの動作ごとに一定量だけ流出させる計量子と、
上記計量子に流入する流体とその計量子から流出する流体との差圧を検出する差圧検出器と、
上記計量子の動作に応じた信号を出力する動作検出器と、
上記計量子の動作を補助するモータと、
上記動作検出器の出力信号に基づいて、差圧検出器の応答周波数を越える周波数成分を含む第1の波形を生成する第1の波形生成部と、
上記差圧検出器で検出された差圧と上記第1の波形生成部で生成された第1の波形との双方に由来する信号に基づいて、計量子に流入する流体と計量子から流出する流体との差圧がゼロになるようにモータの動作を制御する動作制御部とを有することを特徴とする。
【0008】
本発明の容積式流量計は、差圧検出器の応答周波数を越える周波数成分を含む波形を生成し、差圧検出器で検出された差圧のみに基づくのではなく、その差圧と、上記波形との双方に由来する信号に基づいて差圧がゼロになるようにモータの動作を制御するものである。これにより差圧検出器で検出しきれない差圧の高周波成分もキャンセルされ流量計測誤差の小さい容積式流量計を得ることができる。
【0009】
ここで、本発明の容積式流量計において、上記差圧検出器が、計量子への流入前の流体と計量子からの流出後の流体を両端面それぞれに受け流入前の流体と流出後の流体との差圧に応じて移動するフリーピストンと、そのフリーピストンの位置を検出する位置センサとを有するものであってもよい。
【0010】
フリーピストンは容積式流量計に従来より広く使われており、本発明の容積式流量計はこのフリーピストンをそのまま用いて高精度な流量計測を行なうことができる。
【0011】
また、本発明の容積式流量計において、上記動作検出器が、計量子の動作量に応じた数のパルス信号を出力するエンコーダであってもよい。
【0012】
容積式流量計には、エンコーダが装備されていてそのエンコーダの出力パルスを計数することにより流量を検出したり表示することが広く行われている。
【0013】
本発明の容積式流量計によれば、そのエンコーダをそのままモータ制御用の波形生成のために採用することができる。
【0014】
また、本発明の容積式流量計において、上記計量子が、1サイクルの動作で一定量の流体を流出させる、動作の位相が順次異なる複数の個別計量子を有し、上記第1の波形生成部が、それら複数の個別計量子全体としての動作の一周期に対応した周波数の波形を基本波としたときのその基本波に対する複数次数の高調波の混合からなる第1の波形を生成するものであることが好ましい。
【0015】
容積式流量計における、計量子は、動作の位相が異なる、複数のピストンや複数の回転子などからなる、複数の個別計量子で構成されているものが多い。この場合、それら複数の個別計量子全体としての動作の一周期分の差圧波形を基本波としたとき、差圧波形には、それら複数の個別計量子の数と同じ次数、又はその数の整数分の1や整数倍の次数の高調波成分が含まれることが多い。例えば4個の個別流量子で構成されている場合、それら4個の個別流量子全体としての動作の一周期に対応した周波数の波形を基本波としたとき、差圧波形には、2次、4次、8次等の高調波が含まれることが多い。
【0016】
そこでこれら複数の次数の高調波の混合からなる波形を生成してモータの制御に用いることにより、計量子の流入側と流出側との間の差圧の時間変動を一層高精度に抑えることができ、流量計測精度を一層向上させることができる。
【0017】
さらに、本発明の容積式流量計において、上記動作制御部が、前記第1の波形生成部で生成された第1の波形のゲインを調整する第1の波形ゲイン調整部と、差圧検出器で検出された差圧に対し比例、積分、および微分それぞれの演算を行なうことにより第2の波形を生成する第2の波形生成部と、第2の波形生成部で生成された第2の波形のゲインを調整する波形ゲイン調整部と、第1の波形生成部で生成され、第1の波形ゲイン調整部によりゲイン調整された後の第1の波形と、第2の波形生成部で生成され、第2の波形ゲイン調整部でゲインが調整された後の第2の波形とを合成する波形合成部とを有し、その波形合成部で合成された第3の波形に基づいてモータを制御するものであって、
第1の波形ゲイン調整部が、動作検出器の出力信号に基づいて、計量子の動作速度が第1の動作速度を超える動作速度のときに動作速度の上昇に応じて第1の波形のゲインを単調に上昇させ、
第2の波形ゲイン調整部が、動作検出器の出力信号に基づいて、計量子の動作速度が第2の動作速度を超える動作速度のときに動作速度の上昇に応じて第2の波形のうちの差圧検出器で検出された差圧の微分演算により生成される微分波形のゲインを単調に減少させるものであることが好ましい。
【0018】
容積式流量計の場合、流量計測誤差は、小流量側と大流量側で生じ易い。小流量側の計測誤差はP(比例)、I(積分)、D(微分)制御により計量子に流入する流体とその計量子から流出する流体との差圧をゼロにすることで改善されることが知られている。しかし、大流量側、すなわち計量子の動作速度が速い側ではPID制御だけでは改善されない。本発明での第1の波形を生成する第1の波形生成部では、差圧検出器の応答周波数を越える周波数成分を含む波形が生成される。したがってこの第1の波形は、いわば、第2の波形生成部で生成される第2の波形のうちの、微分波形と競合する(微分波形に代えて採用される)波形と考えられる。
【0019】
そこで、上記の第1の波形については、第1の動作速度を超える動作速度のときに動作速度の上昇に応じてゲインを単調に上昇させ、第2の波形生成部で生成される微分波形については第2の動作速度を超える動作速度のときに動作速度の上昇に応じて単調にゲインを減少させる。
【0020】
このような制御を行なうことにより、特に大流量側について流量計測精度を一層向上させることができる。
【発明の効果】
【0021】
以上の通り、本発明によれば、従来と同程度の応答性の差圧検出器を用いた場合であっても、低流量から大流量まで高精度な流量計測が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】ピストンタイプの容積式流量計を構成する流量検出器の模式図である。
【図2】図1に示す流量検出器を備えた容積式流量計のフリーピストンの説明図である。
【図3】図1に動作原理を示す容積式流量計の全体構成図である。
【図4】比較例としての制御方式を示すブロック図である。
【図5】差圧等の時間波形の一例を示す図である。
【図6】本実施形態の容積式流量計で実行されるモータ回転制御の制御方式を示すブロック図である。
【図7】フィードフォワード制御部における波形生成の説明図である。
【図8】FF(フィードフォワード)ゲインと流量誤差との関係を示すグラフである。
【図9】PID波形のうちの、微分波形のゲイン(A)と、(1)〜(3)の式に従って生成されて合成された合成波形のFFゲイン(B)を示す図である。
【図10】図4に示す比較例の制御方式を採用したときと、図6に示す本実施形態における制御方式を採用したときの各流量ごとの流量誤差を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態を説明する。ここでは、一例としてピストンタイプの容積式流量計を取り上げて説明する。
【0024】
図1は、ピストンタイプの容積式流量計を構成する流量検出器の模式図である。
【0025】
ここに示す流量検出器10には、90°ずつ順次異なる方向に向いた4つのシリンダ11_1〜11_4と、それらのシリンダ11_1〜11_4内で往復移動する4つのピストン12_1〜12_4が示されている。これらのピストン12_1〜12_4はそれぞれが本発明にいう個別計量子の一例に対応し、それらのピストン12_1〜12_4の集合体が本発明にいう計量子の一例に対応する。これらの4つのピストン12_1〜12_4は、図1(A)〜(D)に示すように、各シリンダ11_1〜11_4内で位相が順次90°ずつずれた往復動作を行なう。4つのシリンダ11_1〜11_4の中央には、クランクシャフト13が備えられており、各ピストン12_1〜12_4は、各コネクティングロッド14_1〜14_4により、クランクシャフト13の、回転軸から偏心した位置に連結されている。クランクシャフト13には、コネクティングロッド14_1〜14_4を介してピストン12_1〜12_4の動きが伝達され、クランクシャフト13はそれらのピストン12_1〜12_4の動きにより矢印X方向に回転する。
【0026】
この容積式流量計に流入してきた流体は、各シリンダ11_1〜11_4のクランクシャフト13側の空間に流入する。各シリンダ11_1〜11_4の頭部側には、各流路の15_1〜15_4のポートP1〜P4が接続されている。また、それらの流路15_1〜15_4は隣接するシリンダ11_1〜11_4に接続されており、それら隣接するシリンダ11_1〜11_4の、流路15_1〜15_4の出口に隣接した位置には、この容積式流量計の流出口につながるポートE1〜E4が設けられている。この容積式流量計に流入してきた流体は、各ピストン12_1〜12_4の動きに伴って図1(A)〜(D)に示す各矢印(クランクシャフト13の回転を表わす矢印Xを除く)の方向に流れ、クランクシャフト13の一回転あたり一定量の流体が出口側に流出する。
【0027】
図2は、図1に示す流量検出器を備えた容積式流量計のフリーピストンの説明図である。
【0028】
流入路21を通ってこの容積式流量計に流入してきた流体は紙面に垂直な方向の穴H1を通って図1に示す流量検出器10の中央側に流入し、図1の各ポートE1〜E4を通って流出してきた流体は穴H2を通り、さらに流出路22を通ってこの容積式流量計の外部に流出する。ここで、流体の入口側と出口側とをバイパスする流路23が設けられており、その流路23内には、その流路23内で自由に動くことのできるフリーピストン24が配置されている。このフリーピストン24は、その両端面にそれぞれ流入側の流体と流出側の流体の圧力を受け、それら流入側の流体と流出側の流体の差圧に応じて流路23内を移動する。図2(A)は、その差圧が小さく、フリーピストン24が流路23の中央に位置している状態が示されており、図2(B)は流入側の圧力の方が高くフリーピストン24が流出側に寄った位置にある状態を示している。
【0029】
またここには、流路23内のフリーピストン24を取り巻くように高周波コイル25が配備されている。この高周波コイル25には高周波電流が流されてフリーピストン24により生じる過電流損失の変化が検出され、これによりフリーピストン24の位置が検出される。すなわち、このフリーピストン24と高周波コイル25により差圧検出器26が構成されている。
【0030】
図3は、図1に流量検出器および図2に差圧検出器を示す容積式流量計の全体構成図である。
【0031】
この図3に示す容積式流量計100の上部には、図2を参照して説明した、フリーピストン24と高周波コイル25とからなる差圧検出器26が配置されている。また、この差圧検出器26の直ぐ下には、図1に示す全体、すなわちシリンダ11_1〜11_4やピストン12_1〜12_4等からなる流量検出器10が配置されている。
【0032】
その流量検出器10からは、クランクシャフト13(図1を合わせて参照)が延出し、モータ41の出力軸に連結されている。クランクシャフト13とモータ41の出力軸との連結部分にはロータリエンコーダ42が配備されている。このロータリエンコーダ42からはクランクシャフト13が一定の微小角度回転するごとにパルス信号が出力される。また、このロータリエンコーダ42からは、そのロータリエンコーダ42の一回転、すなわちクランクシャフト13の一回転ごとに1つのパルス信号(Z相パルスと称する)も出力される。このロータリエンコーダ42からの出力パルス信号は表示装置50に入力される。この表示装置50では、ロータリエンコーダ42からの出力パルスの数が計数されて流量が算出され、その算出された流量が表示される。
【0033】
差圧検出器26で検出された差圧は、制御装置60に入力される。詳細は後述するが、この制御装置60では、流入側の流体と流出側の流体との間の差圧がゼロになるように、具体的にはフリーピストン24が図2(A)に示すようにバイパスの流路23の中央に位置するようにモータ41の回転が制御される。こうすることにより流体の流量が圧力損失なしに測定される。
【0034】
ここで、図3に示す容積式流量計100の、後述する比較例と本発明の一実施形態との相違点は、比較例ではロータリエンコーダ42から出力されるパルス信号は表示装置50には伝達されるものの制御装置60での制御には用いられていないのに対し、本発明の実施形態では、ロータリエンコーダ42から出力されるパルス信号は、図3に破線の矢印で示すように制御装置60にも入力されてモータ41の制御にも利用されることと、それに伴って制御装置60における制御方式が比較例とは異なっていることである。
【0035】
以下では、図1〜図3を参照して説明してきた容積式流量計100におけるモータ41の制御方式について説明する。ここでは先ず、比較例の制御方式について説明する。
【0036】
図4は、比較例としての制御方式を示すブロック図である。
【0037】
ここでは、図3の差圧検出器26からフリーピストン24の位置を表わす信号を得て基準位置と比較され、基準位置との差分がPID制御部101に入力される。PID制御部101は、その差分に相当する信号に比例する信号(P)、その差分に相当する信号の積分信号(I)、および、その差分に相当する信号の微分信号(D)を生成して、それらの信号からなるPID信号を生成する。そのPID信号はモータドライバ102に送られ、モータドライバ102はそのPID信号に応じてモータ41の回転を制御する。これによりフリーピストン24の両端面にかかる圧力の差分(流体の流入側と流出側の差圧)がゼロとなるようにモータ41の回転が制御される。
【0038】
図5は、差圧等の時間波形の一例を示す図である。
【0039】
この図5中、(A)は、ロータリエンコーダ42(図3参照)から出力されるZ相のパルス(ロータリエンコーダ42やクランクシャフト13の一回転ごとに1パルスだけ出力されるパルス信号)を示している。また、(B)は、高周波コイル25で計測したフリーピストン24の動きを示すグラフである。また、(C)は、フリーピストン24とは別に、この容積式流量計100への流入側の流路21(図2参照)、およびこの容積式流量計100からの流出側の流路22(図2参照)に応答速度の速い圧力計を実験的に配置して、それらの圧力計による差圧を計測したグラフである。さらに、(D)は、モータ41の駆動電流(図4におけるモータドライバ102からモータ41に向けて出力される電流)の波形を示している。
【0040】
この図5の(B)と(C)を比較すると分かるように、フリーピストン24はその質量等により差圧の高周波変動分には追随せず、ある程度ゆっくりとした差圧変動にのみ反応している。これに対し、実際の差圧は、(C)に示すように、より高い周波変動分を含んで変動している。
【0041】
ここで、図4に示す比較例としての制御方式の場合、差圧検出器26からのフリーピストン24の位置信号のみに基づくPIDフィードバック制御によりモータ41を回転させている。この場合、流入側と流出側との平均的な差圧をゼロに近づけることはできるが、フリーピストン24が追随できない程度に瞬時的な差圧変動に応答することはできない。図8を参照しながら後述するが、図5(B)の波形、すなわち高周波成分を含んだ差圧変動波形の変動幅(peak−to−peak)を抑えると流量計測精度が向上することが確かめられている。しかしながら、図4に示す制御方式の場合、この変動幅を抑えるには限界がある。仮に、フリーピストン24と高周波コイル25とからなる差圧検出器26に代えて、図5(C)に示す差圧を検出することのできる圧力計を組み込むことを考えると、差圧を検出する圧力計のゼロ点ドリフトによる流量計測誤差の問題があり、またフリーピストン24が組み込まれた従来型の流量計をそのまま採用することはできず、設計変更や部品追加等を伴うことになりコストアップとなる。
【0042】
また、コストアップにとどまらず、図5(C)に示す差圧波形に基づいてフィードバック制御を行なったとしてもフィードバック系の時間遅れ等に起因してその差圧波形の変動幅を十分に抑えきることができないおそれが強い。
【0043】
以上で比較例の制御方式の説明を終了し、次に本実施形態における制御方式について説明する。
【0044】
図6は、本実施形態の容積式流量計の制御装置60(図3参照)で実行されるモータ回転制御の制御方式を示すブロック図である。
【0045】
ここでは、差圧検出器26から出力されるフリーピストン位置信号に加え、ロータリエンコーダ42(図3参照)からのパルス信号(エンコーダ信号)も利用される。
【0046】
フリーピストン位置信号は基準位置と比較され、基準位置との差分を表わす信号をPID制御部101に入力されて、比較信号(P)、積分信号(I)、および微分信号(D)が生成される。これらの信号(PID信号)は、PIDゲイン調整部103に入力される。このPIDゲイン調整部103では、PID信号のうちの微分信号(D)のゲインが調整される。より詳細には、このPIDゲイン調整部103では、ある閾値以上の流量(具体的には例えば図9に示す100L/h(リットル/時)以上の流量)のときに流量が増大するほど微分信号(D)のゲインを減少させ、図9に示す例では140L/hでゲインゼロとする。
【0047】
ここで、PID制御部101は、本発明における第2の波形生成部の一例に相当し、PID信号が、本発明における第2の波形の一例に相当する。また、PIDゲイン調整部103は、本発明における第2の波形ゲイン調整部の一例に相当する。
【0048】
ロータリエンコーダ42から出力されたエンコーダ信号からは、パルスの繰返し周波数f[Hz]の算出と、Z相パルスを基準とした位相の検出が行なわれる。パルスの繰返し周波数f[Hz]からは、さらに流体の流量Q[L/h]が算出される。この算出された流量Q[L/h]は、PIDゲイン調整部103と、フィードフォワードゲイン調整部105に入力される。フィードフォワードゲイン調整部105については後述する。PIDゲイン調整部103では、微分信号のゲインが上述の通りに調整される。
【0049】
エンコーダ信号から算出又は検出された繰り返し周波数f[Hz]と位相は、フィードフォワード制御部104に入力される。このフィードフォワード制御部104では、以下に説明するようにして、ロータリエンコーダ42の隣接する2つのZ相パルスの時間間隔で表わされるクランクシャフト13(図3参照)の一回転に対応した周波数の波形を基本波としたときの、その基本波に対する複数次数(ここの例では、2次と4次と8次)の高調波の混合からなる、流体の差圧の時間変動を模擬した波形が生成される。
【0050】
図7は、フィードフォワード制御部における波形生成の説明図である。
【0051】
隣接するZ相パルスの時間間隔をTとしたとき、図7(A),(B),(C)には、それぞれ、
【0052】
【数1】

【0053】
【数2】

【0054】
【数3】

【0055】
で表わされる2次高調波、4次高調波、および8次高調波に相当する各サイン波形が示されている。
【0056】
後述する図10に示すように、図4に示すPIDのフィードバック制御のみを行なった場合(図10(A)参照)、ここに示す例では140[L/h]のときの流量誤差が最大となっている。そこでここでは、実験的に、140[L/h]の流量の流体を流してPIDのフィードバック制御を行なったときの、高周波成分まで含む差圧波形(図5の波形(C)参照)を分析して、2次、4次、8次高調波のZ相パルスを基準とした各位相φ,φ,φと、各振幅A,A,Aを求めてフィードフォワード制御部106(図6参照)に記憶しておく。実際の流量計測時には、流量が時々刻々変化することによりエンコーダ信号に基づいて算出される周波数f[Hz]が時々刻々と変化し、これにより(1)〜(3)式中のTが変化する。そこで、フィードフォワード制御部104では、現時点のTを使って(1)〜(3)の波形が生成されて合成され、エンコーダ信号から検出された位相に応じた位相を持った合成波形が出力される。その合成波形は、フィードフォワードゲイン調整部105に入力される。このフィードフォワードゲイン調整部105では、その入力されてきた合成波形に、エンコーダ信号に基づいて算出された周波数f[Hz]からさらに算出された流量Q[L/h]に基づいて算出されたゲイン(ここではFF(フィードフォワード)ゲインと称する)が乗算される。そのFFゲインは、具体的には、ある閾値以上の流量、例えば図9に示すように10[L/h]以上の流量のときに、流量が増大するほどFFゲインが単調増加し、100[L/h]でFFゲインが60%にクリップされる。
【0057】
ここで、フィードフォワード制御部104は、本発明における第1の波形生成部の一例に相当し、このフィードフォワード制御部104で生成された合成波形が、本発明における第1の波形の一例に相当する。また、フィードフォワードゲイン調整部105が、本発明にいう第1の波形ゲイン調整部の一例に相当する。
【0058】
PIDゲイン調整部103で得られた、微分波形のゲインが調整された後のPID波形とフィードフォワードゲイン調整部105でゲインが調整された後の合成波形は、互いに加算されてモータドライバ102に入力される。モータドライバ102はその加算された信号に基づいてモータの回転を制御する。
【0059】
図8は、FFゲインと流量誤差との関係を示すグラフである。
【0060】
ここで、FFゲインは、フィードフォワードゲイン調整部105での合成波形のゲイン調整に用いられるゲインである。
【0061】
横軸はFFゲイン[%]を表わし、縦軸は、流量誤差[%]を表わしている。流量誤差は容積式流量計から実際に流出した流体の質量を計測してその質量から換算した真の流量と、その容積式流量計で計測された流量とから算出されたものである。この図8には、比較例の制御方式において誤差の大きい(図10の(A)のグラフを参照)、140[L/h]付近の流量誤差が示されている。
【0062】
ここでは、0.2%以下の誤差に抑えることを目標としており、余裕を見て0.15%で区切ると、FFゲインは48%〜73%の範囲内にあることが望ましいことが分かる。ここでは、流量誤差が最小となるFFゲイン60%を選択することとする。
【0063】
この図8は、FFゲインに対する流量誤差[%]を示すグラフであるが、高周波成分を含む差圧波形(図5(C)参照)の振幅幅(peak−to−peak)を測定すると、この振幅幅(peak−to−peak)も、図8に示す流量誤差と強い相関を持って変化する。すなわち、本実施形態では、フィードフォワード制御部104で流体の差圧の高周波成分を模擬した波形を生成してその差圧の高周波成分もキャンセルするようにモータを制御することで流量誤差を低下させている。
【0064】
図9は、PID波形のうちの微分波形のゲイン(A)と、(1)〜(3)の式に従って生成されて合成された合成波形のFFゲイン(B)を示す図である。
【0065】
前述の通り、微分波形のゲインは100[L/h]以下の流量では100%であり、100[L/h]を越えると直線的にゲインが減少し140[L/h]でゲイン0%となる。一方、合成波形のゲイン(FFゲイン)(B)は、10[L/h]以下の流量では0%、10[L/h]を越えると徐々に増加して100[L/h]で60%に達し、それ以上の流量では60%に固定される。すなわち、ここでは、10[L/h]以下の流量のときはモータ41(図3参照)の回転は、差圧検出器26からのフリーピストン位置信号に基づくPIDフィードバック制御のみで制御され、流量が10[L/h]を越えるとフィードフォワード制御部104で生成された合成波形が徐々に加わり、100[L/h]を越えると、PID波形のうちの微分波形が急激に減少するとともに合成波形は60%のFFゲインに固定される。
【0066】
図10は、図4に示す比較例の制御方式を採用したときと、図6に示す本実施形態における制御方式を採用したときの、各流量[L/h]に対する流量誤差を示す図である。
【0067】
図4に示す比較例の制御方式を採用したときのグラフ(A)では、流量100[L/h]〜200[L/h]の大流量域で大きな誤差を有するのに対し、図6に示す本実施形態の制御方式を採用したときのグラフ(B)によれば、大きな誤差を示す流量域は存在せず、計測範囲内の全流域域にわたって低い誤差に抑えられていることが分かる。
【0068】
尚、上記実施形態では、2次、4次、および8次の高調波成分を合成した波形をモータ制御に用いているが、本発明は、2次、4次、8次の組合せに限定されるものではなく、差圧検出器の応答周波数を越える、実現すべき精度に応じた周波数成分を含む波形を生成してモータ制御に用いればよい。
【符号の説明】
【0069】
10 流量検出器
11_1〜11_4 シリンダ
12_1〜12_4 ピストン
13 クランクシャフト
14_1〜14_4 コネクティングロッド
15_1〜15_4,21,22,23 流路
24 フリーピストン
25 高周波コイル
26 差圧検出器
41 モータ
42 ロータリエンコーダ
50 表示装置
60 制御装置
101 PID制御部
102 モータドライバ
103 PIDゲイン調整部
104 フィードフォワード制御部
105 フィードフォワードゲイン調整部



【特許請求の範囲】
【請求項1】
流路内で動作を循環的に繰り返し流入してきた流体を1サイクルの動作ごとに一定量だけ流出させる計量子と、
前記計量子に流入する流体と該計量子から流出する流体との差圧を検出する差圧検出器と、
前記計量子の動作に応じた信号を出力する動作検出器と、
前記計量子の動作を補助するモータと、
前記動作検出器の出力信号に基づいて、前記差圧検出器の応答周波数を越える周波数成分を含む第1の波形を生成する第1の波形生成部と、
前記差圧検出器で検出された差圧と前記第1の波形生成部で生成された第1の波形との双方に由来する信号に基づいて、前記計量子に流入する流体と該計量子から流出する流体との差圧がゼロになるように前記モータの動作を制御する動作制御部とを有することを特徴とする容積式流量計。
【請求項2】
前記差圧検出器が、前記計量子への流入前の流体と該計量子からの流出後の流体を両端面それぞれに受け該流入前の流体と該流出後の流体との差圧に応じて移動するフリーピストンと、該フリーピストンの位置を検出する位置センサとを有することを特徴とする請求項1記載の容積式流量計。
【請求項3】
前記動作検出器が、前記計量子の動作量に応じた数のパルス信号を出力するエンコーダであることを特徴とする請求項1又は2記載の容積式流量計。
【請求項4】
前記計量子が、1サイクルの動作で一定量の流体を流出させる、動作の位相が順次異なる複数の個別計量子を有し、
前記第1の波形生成部が、前記複数の個別計量子全体としての動作の一周期に対応した周波数の波形を基本波としたときの該基本波に対する複数次数の高調波の混合からなる第1の波形を生成するものであることを特徴とする請求項1から3のうちいずれか1項記載の容積式流量計。
【請求項5】
前記動作制御部が、前記第1の波形生成部で生成された第1の波形のゲインを調整する第1の波形ゲイン調整部と、前記差圧検出器で検出された差圧に対し比例、積分、および微分それぞれの演算を行なうことにより第2の波形を生成する第2の波形生成部と、前記第2の波形生成部で生成された第2の波形のゲインを調整する第2の波形ゲイン調整部と、前記第1の波形ゲイン調整部でゲインが調整された後の第1の波形と前記第2の波形ゲイン調整部でゲインが調整された後の第2の波形とを合成する波形合成部とを有し、該波形合成部で合成された第3の波形に基づいて前記モータを制御するものであって、
前記第1の波形ゲイン調整部が、前記動作検出器の出力信号に基づいて、前記計量子の動作速度が第1の動作速度を超える動作速度のときに動作速度の上昇に応じて前記第1の波形のゲインを単調に上昇させ、
前記第2の波形ゲイン調整部が、前記動作検出器の出力信号に基づいて、前記計量子の動作速度が第2の動作速度を超える動作速度のときに動作速度の上昇に応じて、前記第2の波形のうちの前記差分の微分演算により生成される微分波形のゲインを単調に減少させるものであることを特徴とする請求項1から4のうちいずれか1項記載の容積式流量計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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