説明

密封構造

【課題】組立性が向上された密封構造を提供する。
【解決手段】軸1と、該軸1が挿入される軸孔20を有するハウジング2と、軸1の外周面に設けられた装着溝10に装着され、該装着溝10に装着された状態において軸孔20の径よりも大きな径方向の寸法を有し、軸1と軸孔20との間の環状隙間をシールするシール部材3と、を備え、シール部材3が装着溝10に装着された状態で軸1が軸孔20に挿入されることにより組み立てられる密封構造において、軸1が軸孔20に挿入される際にシール部材3が軸孔20内に収まるタイミングが、シール部材3の周方向における部分ごとに異なるように構成されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸と該軸が挿入される軸孔を有するハウジングとの間の環状隙間をシール部材によってシールする密封構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の密封構造として、種々の構成のものが知られている(特許文献1〜5参照)。ここで、図3を参照して、従来例に係る密封構造について説明する。図3は、従来例に係る密封構造の構成を示す模式的断面図である。
【0003】
図3に示すように、従来技術に係る密封構造は、軸100と、該軸100が挿入される軸孔201を有するハウジング200と、軸100と軸孔201との間の環状隙間をシールするシール部材300と、を備えている。
【0004】
シール部材300は、いわゆるOリング等のゴム状弾性体からなる環状部材であり、軸100の外周面に設けられた環状の装着溝101に装着される。シール部材300は、外径φCが軸孔201の径φDよりも大きく設定されており、装着時には、装着溝101の溝底面と軸孔201の内周面との間で径方向に圧縮された状態となる。したがって、シール部材300が装着溝101の溝底面と軸孔201の内周面にそれぞれ密着し、これにより、軸100とハウジング200の軸孔201との間の環状隙間がシールされる。
【0005】
以上のように構成される密封構造は、軸100が軸孔201に挿入される前に、予めシール部材300を軸100の装着溝101に装着し、シール部材300が取り付けられた軸100を軸孔201に挿入することにより組み立てられる。
【0006】
ところで、上述したように、シール部材300の外径が軸孔201の径よりも大きく設定されているため、軸100を軸孔201に挿入するに際しては、シール部材300を軸孔201の内周面に滑らせながら軸100を挿入しなければならない。しかも、装着溝101が軸100の周方向(軸線に垂直な方向)に沿って設けられているため、シール部材300が軸孔201または軸孔201の開口縁に接触するタイミングは、シール部材300の全周に渡って同じとなる。したがって、軸100の中心を軸孔201の中心に正確に合わせて真直ぐに挿入しなければ、シール部材300の一部に噛み込みを生じてしまう場合がある。
【0007】
しかし、中心を正確に合わせた状態を維持しながら軸100を真直ぐ挿入する作業は、装置の大きさ等によっては軸100を支えるためにある程度の腕力が必要となる場合がある。したがって、腕力の劣る、例えば、女性の作業員などでは作業が困難となる場合がある。また、両手で支えなければならないような場合には作業効率が悪くなる。
【特許文献1】実開昭62−106089号公報
【特許文献2】特開平08−061507号公報
【特許文献3】特開2003−194228号公報
【特許文献4】特開2004−218672号公報
【特許文献5】特開2004−218787号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記の従来技術の課題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、組立性が向上された密封構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明における密封構造は、
軸と、
該軸が挿入される軸孔を有するハウジングと、
前記軸の外周面に設けられた装着溝に装着され、該装着溝に装着された状態において前記軸孔の径よりも大きな径方向の寸法を有し、前記軸と前記軸孔との間の環状隙間をシールするシール部材と、
を備え、
前記シール部材が前記装着溝に装着された状態で前記軸が前記軸孔に挿入されることにより組み立てられる密封構造において、
前記軸が前記軸孔に挿入される際に前記シール部材が前記軸孔内に収まるタイミングが、前記シール部材の周方向における部分ごとに異なるように構成されていることを特徴とする。
【0010】
このように本発明は、シール部材が軸孔内に収まるタイミング、すなわち、シール部材が軸孔内周面または軸孔開口縁に接触するタイミングが、シール部材の周方向における部分ごとに異なるように構成されている。したがって、軸の挿入作業においては、シール部材において順次軸孔内周面または軸孔開口縁に接触するようになる部分についてだけ、噛み込みを生じないか否かを注意すればよい。これにより、軸の中心と軸孔の中心が正確に合っていなくても(多少ずれていたとしても)、シール部材の噛み込みを生じずに軸を軸孔に挿入することが可能となる。したがって、軸と軸孔の中心合わせにおいて要求される正確性が低減されることになり、腕力に劣る、例えば、女性の作業員などであっても挿入作業が容易となる。また、片手での挿入作業も可能となるので作業効率の向上を図ることができる。
【0011】
前記装着溝は、前記軸の外周面と軸方向および軸方向に直交する方向のそれぞれに対して傾斜した方向に延びる仮想平面とが交差することにより形成される環状の交差線に沿って形成される環状溝であるとよい。
【0012】
このような装着溝にシール部材を装着することにより、軸が軸孔に挿入される際にシール部材が軸孔内に収まるタイミングが、シール部材の周方向における部分ごとに異なるように構成することができる。
【0013】
前記装着溝は、前記軸の外周面上を蛇行しながら周方向に延びる波形の環状溝であり、
前記シール部材は、前記装着溝の形状に対応した形状に湾曲した環状のシール部材であるとよい。
【0014】
このように装着溝とシール部材を構成することにより、軸が軸孔に挿入される際にシール部材が軸孔内に収まるタイミングが、シール部材の周方向における部分ごとに異なるように構成することができる。
【0015】
前記軸孔の開口縁に形成されるテーパ面の軸方向における幅が、前記軸において前記装着溝が形成される領域の軸方向における幅よりも大きいとよい。
【0016】
これにより、シール部材の部分ごとに軸孔内に収まるタイミングをずらしたことによる噛み込みの発生を効果的に抑制することができる。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように、本発明により、組立性が向上される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に図面を参照して、この発明を実施するための最良の形態を、実施例に基づいて例示的に詳しく説明する。ただし、この実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0019】
(実施例1)
図1を参照して、本発明の実施例1に係る密封構造について説明する。図1は、本発明の実施例1に係る密封構造の構成について説明する模式図である。なお、図1では、軸が軸孔に挿入される前の状態を示している。
【0020】
本実施例に係る密封構造は、軸1と、該軸1が挿入される軸孔20を有するハウジング2と、軸1と軸孔20との間の環状隙間をシールするシール部材3と、を備えている。
【0021】
シール部材3は、いわゆるOリング等のゴム状弾性体からなる環状部材であり、軸1の外周面に設けられた環状の装着溝10に装着される。シール部材3は、装着溝10に装着された状態における径方向の寸法が軸孔20の径よりも大きく設定されており、密封構造が組み立てられた状態においては、装着溝10の溝底面と軸孔20の内周面との間で径方向に圧縮された状態となる。したがって、シール部材3は、装着溝10の溝底面と軸孔20の内周面にそれぞれ密着した状態となり、軸10とハウジング2の軸孔20との間の環状隙間をシールする。
【0022】
上述のように構成された密封構造は、軸1を軸孔20に挿入する前に、予めシール部材3を軸1の装着溝10に装着し、シール部材3が取り付けられた軸1を軸孔20に挿入することにより組み立てられる。図では、軸1の装着溝10にシール部材3が装着され、軸1が軸孔20に挿入される前の状態が示されている。軸1は、図の下方(図中の矢印で示す方向)に向かって軸孔20に挿入されることになる。
【0023】
軸孔20には、軸1の挿入性の向上、軸1挿入時におけるシール部材3の噛み込み抑制を図るため、その開口縁にテーパ面21が形成されている。軸1の装着溝10に装着されたシール部材3は、外周側が部分的に軸1の外周面よりも外側(外径方向に)にはみ出した状態となっており、また、上述したように、装着溝10に装着された状態における径方向の寸法が軸孔20の径よりも大きく設定されている。したがって、軸1が軸孔20に挿入される際には、シール部材3の一部(外周側の一部または全部)が、軸孔20の内周面またはテーパ面21に接触し摺動する。
【0024】
本実施例に係る密封構造においては、装着溝10が、従来の環状溝のように軸方向に対して垂直ではなく、傾斜して設けられている。すなわち、本実施例の装着溝10は、従来のように軸1の外周面と軸方向に垂直な仮想平面とが交差して形成される交差線に沿って形成されるのではなく、前記軸1の外周面と軸方向および軸方向に直交する方向のそれぞれに対して傾斜した方向に延びる仮想平面とが交差することによって形成される環状の交差線に沿って、環状に形成されている。言い換えると、装着溝10は、装着溝10において最も軸1先端側の点と最も軸1先端から離れた点とが軸1の軸線を含む1つの仮想平面上に位置し、かつ、該仮想平面の法線方向から該仮想平面に装着溝10を投影した場合に、装着溝10において最も軸1先端側の点と最も軸1先端から離れた点とを結ぶ線が、該仮想平面において軸線に直交する方向に対して傾斜する方向に延びるように、軸1の外周面上に形成されている。したがって、装着溝10は、軸方向の位置が周方向の部分ごとに異なるように構成されている。
【0025】
シール部材3は、上述のように構成された装着溝10に装着されることにより、軸1が軸孔20に挿入される際に軸孔20内に収まる(軸孔20の内周面またはテーパ面21に接触・摺動するようになる)タイミングが、周方向における部分ごとに異なることになる。
【0026】
シール部材3は、軸1が軸孔20に挿入されると、まず、シール部材3において軸1の先端側に近い部分、すなわち、図において符号31で示す部分およびその近傍の領域が、軸孔20の内周面またはテーパ面21に接触・摺動する状態となる。次に、図において符号32で示す部分およびその近傍の領域(軸中心を通る対向方向反対側の領域を含む)、すなわち、符号31で示す部分およびその近傍の領域に隣接する領域が、軸孔20の内周面またはテーパ面21に接触・摺動する状態となる。最後に、軸1の先端側から最も遠い部分、すなわち、図において符号33で示す部分およびその近傍の領域が、軸孔20の内周面またはテーパ面21に接触・摺動する状態となる。
【0027】
ここで、装着溝10の周方向に対する傾きは、軸1において装着溝10が形成される領域の軸方向における幅Aが、テーパ面21の軸方向における幅Bよりも小さくなるように設定されている。これにより、軸挿入時にシール部材3が軸孔20の内周面またはテーパ面21に接触する状態になったとき、すなわち、シール部材3において最初に軸孔20またはテーパ面21に接触する部分(符号31の部分およびその近傍)が軸孔20の内周面またはテーパ面21に接触したときに、シール部材3全体が、ハウジング2の軸孔開口縁周りの端面(テーパ面21に隣接する端面)よりも軸孔20内部側(テーパ面21に対向する領域内)に収まるように構成されている。
【0028】
本実施例によれば、シール部材3が軸孔20内に収まるタイミング、すなわち、シール部材3が軸孔20の内周面またはテーパ面21に接触するタイミングが、シール部材3の周方向における部分ごとに異なるように構成されている。したがって、軸1の挿入作業においては、シール部材3において順次軸孔20の内周面またはテーパ面21に接触するようになる部分についてだけ、噛み込みが生じないか否かを注意すればよい。本実施例では、シール部材3の符号31近傍、符号32近傍、符号33近傍の順に、噛み込みが生じないか注意して挿入作業をすればよい。
【0029】
これにより、軸1の中心と軸孔20の中心が正確に合っていなくても(多少ずれていたとしても)、シール部材3の噛み込みを生じずに軸1を軸孔20に挿入することが可能となる。したがって、軸1と軸孔20の中心合わせにおいて要求される正確性が低減されることになり、腕力に劣る、例えば、女性の作業員などであっても挿入作業が容易となる。また、片手での挿入作業も可能となるので作業効率の向上を図ることができる。すなわち、密封構造の組立性の向上を図ることができる。
【0030】
また、本実施例によれば、シール部材3において最初に軸孔20の内周面またはテーパ面21に接触する部分(符号31およびその近傍)が軸孔20の内周面またはテーパ面21に接触したときに、シール部材3全体が、ハウジング2の軸孔開口部周りの端面(テーパ面21に隣接する端面)よりも軸孔20側に収まるように構成されている。これにより、シール部材3において後から軸孔20の内周面またはテーパ面21に接触することになる部分(符号32、符号33およびそれらの近傍)がハウジング2の軸孔開口部周りの端面に引っかかって軸1とハウジング2との間に噛み込まれてしまうのがより確実に抑制される。すなわち、シール部材3の部分ごとに軸孔内に収まるタイミングをずらしたことによる噛み込みの発生を効果的に抑制することができる。
【0031】
(実施例2)
図2を参照して、本発明の実施例2に係る密封構造について説明する。図2は、本発明
の実施例2に係る密封構造の構成について説明する模式図である。なお、図2では、軸が軸孔に挿入される前の状態を示している。ここでは、上記実施例1と同様の構成については、同じ符号を付してその詳しい説明については省略し、実施例1と異なる部分についてのみ説明するものとする。
【0032】
本実施例では、装着溝およびシール部材の構成が実施例1と異なっている。本実施例では、装着溝10aが、軸1の外周面上を蛇行しながら周方向に延びる波形の環状溝となっている。また、本実施例では、シール部材3aが、上記装着溝10aの形状に対応して、波形に湾曲した環状のシール部材となっている。
【0033】
装着溝10aおよびシール部材3aのこのような構成により、軸1が軸孔20に挿入される際にシール部材3aが軸孔30内に収まるタイミングが、シール部材3aの周方向における部分ごとに異なるように構成されている。すなわち、シール部材3aは、概略、符号31aおよびその近傍、符号32aおよびその近傍、符号33aおよびその近傍の順に、軸孔20の内周面またはテーパ面31に接触・摺動する状態となる。
【0034】
また、本実施例では、最初に軸孔20内に収容される部分(符号31aおよびその近傍)と、最後に軸孔20内に収容される部分(符号33aおよびその近傍)とが、90°ごとに交互に形成される形状となっている。これにより、同じタイミングで軸孔20の内周面またはテーパ面21に接触する部分が、軸中心を通って対向する位置に対となって形成される構成となり、軸挿入時におけるシール部材3aの装着姿勢が安定し、噛み込み抑制効果をさらに向上させることができる。
【0035】
すなわち、軸挿入時において、仮に、シール部材3aが一点からのみ軸孔20内周面に圧縮される場合、シール部材3aにおいて装着溝10aに収まりきらない部分(余ってしまう部分)が形成されてしまうことが懸念される。しかし、本実施例では、シール部材3aが必ず軸中心を通って対向するそれぞれの位置で両側から圧縮されることになるので、シール部材3aの余りの発生が抑制され、噛み込みを生じにくくすることができる。
【0036】
なお、装着溝の波形形状は、本実施例の構成に限定されるものではなく、本実施例よりもさらに細かく波打つ(蛇行する)ようにしてもよいし、本実施例よりもより大きく波打つようにしてもよい。
【0037】
ただし、波打ち形状が細かくなり過ぎると、同じタイミングで軸孔20内に収まる部分が全周に渡っていくつも存在することになり、許容される軸と軸孔の中心ずれの範囲が狭くなってしまう。そうすると、結局、軸と軸孔の中心合わせに高い精度が要求されることになるため、組立性との兼ね合いで適宜構成することが好ましいといえる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】図1は、本発明の実施例1に係る密封構造の模式図である。
【図2】図2は、本発明の実施例2に係る密封構造の模式図である。
【図3】図3は、従来例に係る密封構造の模式的断面図である。
【符号の説明】
【0039】
1 軸
10 装着溝
2 ハウジング
20 軸孔
21 テーパ面
3 シール部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸と、
該軸が挿入される軸孔を有するハウジングと、
前記軸の外周面に設けられた装着溝に装着され、該装着溝に装着された状態において前記軸孔の径よりも大きな径方向の寸法を有し、前記軸と前記軸孔との間の環状隙間をシールするシール部材と、
を備え、
前記シール部材が前記装着溝に装着された状態で前記軸が前記軸孔に挿入されることにより組み立てられる密封構造において、
前記軸が前記軸孔に挿入される際に前記シール部材が前記軸孔内に収まるタイミングが、前記シール部材の周方向における部分ごとに異なるように構成されていることを特徴とする密封構造。
【請求項2】
前記装着溝は、前記軸の外周面と軸方向および軸方向に直交する方向のそれぞれに対して傾斜した方向に延びる仮想平面とが交差することにより形成される環状の交差線に沿って形成される環状溝であることを特徴とする請求項1に記載の密封構造。
【請求項3】
前記装着溝は、前記軸の外周面上を蛇行しながら周方向に延びる波形の環状溝であり、
前記シール部材は、前記装着溝の形状に対応した形状に湾曲した環状のシール部材であることを特徴とする請求項1に記載の密封構造。
【請求項4】
前記軸孔の開口縁に形成されるテーパ面の軸方向における幅が、前記軸において前記装着溝が形成される領域の軸方向における幅よりも大きいことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の密封構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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