説明

密封装置の取付構造

【課題】密封装置30を、簡易な構造で、容易迅速かつ確実に固定可能とする。
【解決手段】第一部材10に開設された挿入口11とその内周に挿入された第二部材20の間を密封する密封装置30が、挿入口11へ挿入される挿入筒部311を有する取付環31と、これに一体的に設けられて内周が第二部材20の外周面に密接される第一リップ32と、取付環31に一体的に設けられて先端が挿入口11の外周の座面12aに密接される第二リップ33とを備え、挿入口11に円周方向複数の係止突起13が形成され、挿入筒部311に、係合突起13の間を軸方向へ通過させてから取付環31を適宜回転させることによって係止突起13と軸方向に係合可能な円周方向複数の被係止突起314が形成され、係止突起13と被係止突起314の係合によって、第二リップ33が取付環31と座面12aとの間で軸方向に圧縮される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばエンジンのヘッドカバー等の第一部材に開設された挿入口と、その内周に挿入された例えばプラグチューブあるいはインジェクションパイプ等の第二部材との間を密封する密封装置を、容易に取り付けるための取付構造に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンのヘッドカバーには、点火プラグを取り付けるためのプラグチューブが挿入されており、また、直噴エンジンでは、前記ヘッドカバーには、シリンダの燃焼室へ燃料を噴射するインジェクタも挿入されている。したがって、これらプラグチューブやインジェクタと、ヘッドカバーに開設された挿入口との間の隙間は、確実に密封する必要がある。
【0003】
エンジンのヘッドカバーに開設された挿入口と、これ挿入されたプラグチューブとの間を密封する密封装置としては、従来、例えば特許文献1に記載されたようなものが知られている。
【特許文献1】特開2004−52705号公報
【0004】
図6は、上記特許文献1に記載された従来の密封装置の取付構造を、プラグチューブの軸心を通る平面で切断して示す半断面図である。この図6において、密封装置(プラグチューブシール)100は、取付環101に一体的に設けられて内周がプラグチューブ201の外周面に密接される第一リップ102と、前記取付環101に一体的に設けられて先端がヘッドカバー202に密接される第二リップ103とを備え、取付環101の外周に張出形成されたフランジ部101aを、複数のボルト104を介して、ヘッドカバー202における挿入口202aの外周側の座面に取り付けられている。
【0005】
しかしながら、従来の密封装置100の取付構造においては、ヘッドカバー202への取付の際に複数のボルト104の緊結作業が必要であり、作業が煩雑であった。また、ヘッドカバー202へのボルト104の挿入筒部を密封するため、各ボルト104の装着箇所にOリング105を設ける必要があり、これら複数のボルト104及びOリング105によって、部品数も多くなるといった問題が指摘される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、以上のような点に鑑みてなされたものであって、その技術的課題とするところは、密封装置を、簡易な構造で、相手部材に対して容易迅速に、かつ確実に固定可能とすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した技術的課題を有効に解決するための手段として、請求項1の発明に係る密封装置の取付構造は、第一部材に開設された挿入口とその内周に挿入された第二部材の間を密封する密封装置が、前記挿入口へ挿入される挿入筒部を有する取付環と、この取付環に一体的に設けられて内周が前記第二部材の外周面に密接される第一リップと、前記取付環に一体的に設けられて先端が前記挿入口の外周の座面に密接される第二リップとを備え、前記挿入口に円周方向複数の係止突起が形成され、前記取付環の挿入筒部に、前記係合突起の間を軸方向へ通過させてから前記取付環を適宜回転させることによって前記係止突起と軸方向に係合可能な円周方向複数の被係止突起が形成され、前記係止突起と被係止突起の係合によって、前記第二リップが前記取付環と前記座面との間で軸方向に適宜圧縮されるものである。
【0008】
上記構成によれば、第一部材に開設された挿入口と、その内周の第二部材との間へ、密封装置を挿入するに際して、取付環の挿入筒部に形成された被係止突起を挿入口の係合突起の間を軸方向へ通過させてから、取付環を適宜回転させることによって被係止突起を係止突起と軸方向に係合させるだけで、密封装置を第一部材に取り付けることができる。このとき、第二リップが前記取付環と前記第一部材の座面との間で軸方向に適宜圧縮されるため、第二リップに所要の密封面圧が付与されると共に、その圧縮反力によって被係止突起と係止突起との係合が保持される。
【0009】
請求項2の発明に係る密封装置の取付構造は、請求項1に記載の構成において、係止突起及び被係止突起が、互いの係合解除方向への相対回転を規制するカムロック構造をなすものである。このようにすることによって、密封装置の不用意な回転によって係止突起と被係止突起との係合状態が解除されるのを、確実に防止することができる。
【発明の効果】
【0010】
請求項1及び2の発明に係る密封装置の取付構造によれば、密封装置を、ボルト等の結合手段を用いることなく、第一部材に容易迅速に取り付け、かつ確実に固定することができるので、作業性を向上させることができる。しかも、ボルト等の結合手段が不要になるばかりでなく、第一部材にはボルト挿通孔を開設する必要もないので、ボルト挿通孔を密封する他の密封手段も不要であり、部品数を削減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明に係る密封装置の取付構造の好ましい実施の形態について、図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の実施の形態による密封装置の取付構造を、プラグチューブの軸心を通る平面で切断して示す半断面図、図2は、図1の密封装置を未装着状態で示す側面図、図3は、図2におけるIII方向の矢視図、図4は、図2におけるIV−IV断面図、図5は、図1に示されるヘッドカバーのV方向の矢視図である。
【0012】
まず図1において、参照符号10は、自動車用エンジンのヘッドカバー、参照符号20は、このヘッドカバー10に開設された挿入口11の内周に挿入されたインジェクタで、そのノズル先端部が、エンジンの不図示のシリンダヘッドに形成されたインジェクタ取付孔に取り付けられており、参照符号30は、前記挿入口21とインジェクタ30との間を密封する密封装置である。なお、ヘッドカバー10は、請求項1に記載された第一部材に相当するものであり、インジェクタ20は、請求項1に記載された第二部材に相当するものである。
【0013】
ヘッドカバー10の外側面10aには、挿入口11より大径の円形の凹部12が、この挿入口11と同心に形成されており、挿入口11の内周面には、図1及び図5に示されるように、円周方向へ延びる複数(図示の例では2つ)の係止突起13が、円周方向等間隔で形成されている。
【0014】
密封装置30は、ヘッドカバー10の挿入口11に取り付けられる取付環31と、この取付環31に一体的に設けられて先端内周がインジェクタ20の外周面に密接される第一リップ32と、前記取付環31に一体的に設けられて先端33aが前記挿入口11の凹部12の座面12aに密接される第二リップ33とを備える。
【0015】
密封装置30における取付環31は金属又は合成樹脂からなるものであって、ヘッドカバー10の挿入口11へ挿入される円筒状の挿入筒部311と、その一端から円盤状に展開した鍔部312と、この鍔部312に、前記挿入筒部311と反対側へ向けて突出形成された治具係合部313とを備える。挿入筒部311は、挿入口11に形成された係止突起13の内周に挿入可能なように、図4に示される外径φが、図5に示される係止突起13の内径φより僅かに小径となっており、その外周面には、複数(図示の例では2つ)の被係止突起314が円周方向等間隔形成されている。また鍔部312は、挿入口11よりも大径であると共に凹部12より僅かに小径であり、治具係合部313は、図3に示されるように、外周面に多数の凹凸313aが円周方向へ反復形成され、メガネレンチ等を係合可能となっている。
【0016】
取付環31の挿入筒部311の外周面に形成された被係止突起314について、更に詳しく説明すると、この被係止突起314は、図4に示される外径φが、図5に示される係止突起13の内径φより大径であると共に、挿入口11の内径φより僅かに小径となっており、図4に示される円周方向長さLが、図5に示される係止突起13,13間の円周方向長さLよりも短いものとなっている。したがって、取付環31の挿入筒部311を、ヘッドカバー10の挿入口11へ挿入する際に、取付環31を適当に回転させて、被係止突起314の円周方向位置を係止突起13,13の間に合わせることによって、この被係止突起314が係止突起13,13間を軸方向へ通過可能となっている。
【0017】
また、この被係止突起314は、図2及び図4に示されるように、前記挿入筒部311の先端近傍の外周面を円周方向へ延びる円弧状本体部314aと、その一端から、取付環31の鍔部312側へ向けて延びるストッパ部314bとを備え、円弧状本体部314aの先端部における、鍔部312側を向いた面には、この鍔部312側へ向けて立ち上がった掛合段差部314cと、そこから先端側へ向けて円弧状本体部314aの軸方向幅を減少させるように傾斜した斜面314dが形成されている。そして、図5に示される係止突起13の円周方向長さLは、図4に示される被係止突起314のストッパ部314bと掛合段差部314cの間の円周方向長さLよりも僅かに短いものとなっている。
【0018】
すなわち被係止突起314は、係止突起13,13間をヘッドカバー10の内側へ向けて軸方向に通過させてから、取付環31(密封装置30)を、図4における時計回りの方向へ回転させることによって、円弧状本体部314aにおける鍔部312側を向いた面が、ストッパ部314bと掛合段差部314cの間で、係止突起13に係合されるカムロック構造となっている。
【0019】
密封装置30における第一リップ32は、ゴム状弾性材料で加硫成形されたものであって、図1に示されるように、取付環31における挿入筒部311の内周面に一体的に加硫接着された基部321と、この基部321からヘッドカバー10の内側空間へ向けて円筒状に延びる可撓筒部322と、その先端内周に突出形成された環状のシールエッジ323とを備え、シールエッジ323の内周端部が全周にわたってインジェクタ20の外周面20aに密接されるものである。可撓筒部322の先端部には、シールエッジ323の外周側に位置して、金属からなりインジェクタ20の外周面20aに対するシールエッジ323の面圧を補償するガータスプリング324が一体的に設けられている。
【0020】
密封装置30における第二リップ33も、第一リップ32と同じゴム状弾性材料で環状に加硫成形されたものであって、図1に示されるように、取付環31の鍔部312に一体的に加硫接着されており、取付環31の挿入筒部311と同方向へ、断面が山形をなして突出形成されている。そして、前記挿入筒部311に形成された被係止突起314が、ヘッドカバー10の挿入口11に形成された係止突起13に係合された状態では、第二リップ33は、その先端33aが、ヘッドカバー10の凹部12の座面12aに密接されると共に、この座面12aと、取付環31の鍔部312との間で軸方向に適宜圧縮されるようになっている。また、この状態では、取付環31の治具係合部313は、前記凹部12からヘッドカバー10の外側へ突出されるようになっている。
【0021】
以上の構成において、密封装置30を図1に示される状態に取り付けるには、まず、この密封装置30を、第一リップ32を先頭にして、ヘッドカバー10の外側(図1における上側)から挿入口11へ挿入して行く。
【0022】
この挿入過程では、取付環31の治具係合部313にメガネレンチ等を係合させて、この取付環31(密封装置30)を適当に回転させ、被係止突起314の円周方向位置を係止突起13,13の間に合わせることによって、この被係止突起314が係止突起13,13間を軸方向へ通過しながら、取付環31の挿入筒部311が、ヘッドカバー10の挿入口11へ挿入されて行く。
【0023】
また、被係止突起314が係止突起13,13間を軸方向へ通過する過程では、第二リップ33の先端33aが、ヘッドカバー10における凹部12の座面12aに密接される。そして、その後も密封装置30の挿入を続行することによって、第二リップ33は、ヘッドカバー10の凹部12の座面12aと、取付環31の鍔部312との間で軸方向に圧縮されて行く。
【0024】
次に、被係止突起314が係止突起13,13間を軸方向へ完全に通過したら、取付環31の治具係合部313に係合させたメガネレンチ等によって、この取付環31(密封装置30)を、図4における時計回りの方向へ回転させると、係止突起13が、被係止突起314の回転移動に伴って、その先端部の斜面314dへ相対的に乗り上がって行く。そして、更に回転させて行くことによって、被係止突起314の掛合段差部314cが、係止突起13の端部に達した時点で、取付環31が、圧縮された第二リップ33の復元力によってヘッドカバー10の外側へ向けて軸方向変位し、これによって被係止突起314の円弧状本体部314aにおける鍔部312側を向いた面が、ストッパ部314bと掛合段差部314cの間で、係止突起13に衝合して係合される。
【0025】
この状態では、第二リップ33の復元力によって被係止突起314の円弧状本体部314aが係止突起13に押し付けられ、ストッパ部314b及び掛合段差部314cによって係止突起13の回転が規制されるカムロック構造となっているので、ヘッドカバー10に対して取付環31(密封装置30)が不用意に回転して係止突起13に対する被係止突起314の係合状態が解除されてしまうようなことはない。
【0026】
すなわち、取付環31の挿入筒部311に形成された被係止突起314を、係合突起13,13の間で軸方向へ通過させてから、取付環31を適宜回転させるだけで、被係止突起314と係止突起13が互いに係止された状態となる。そしてその過程で、第二リップ33が取付環31の鍔部312とヘッドカバー10の座面12aとの間で軸方向に圧縮されるため、第二リップ33に所要の密封面圧が付与されると共に、その圧縮反力によって、被係止突起314と係止突起13のカムロック構造による係合状態が確実に保持される。したがって、密封装置30を、ボルト等の結合手段を用いることなく、ヘッドカバー10に容易迅速に取り付け、かつ確実に固定することができるので、作業効率が向上する。
【0027】
上述のようにして取り付けられた密封装置30は、その内周に挿入されたインジェクタ20の外周面20aに、第一リップ32におけるシールエッジ323の内周が密接すると共に、第二リップ33が軸方向に適当に圧縮された状態で、ヘッドカバー10の凹部12の座面12aに密接されることによって、ヘッドカバー10とインジェクタ20との間の隙間を密封するものである。そして、上述のように、ボルト等の結合手段が不要であるため、ヘッドカバー10にはボルト挿通孔を開設する必要もなく、したがって、ボルト挿通孔を密封するためのOリングなどを別途に設ける必要もない。
【0028】
なお、上述の実施の形態では、請求項1に記載された第二部材が燃料インジェクタ20である場合について説明したが、本発明による取付構造は、前記第二部材が点火プラグを挿入するプラグチューブである場合についても、同様に実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施の形態による密封装置の取付構造を、プラグチューブの軸心を通る平面で切断して示す半断面図である。
【図2】図1の密封装置を未装着状態で示す側面図である。
【図3】図2におけるIII方向の矢視図である。
【図4】図2におけるIV−IV断面図である。
【図5】図1に示されるヘッドカバーのV方向の矢視図である。
【図6】従来の密封装置の取付構造を、プラグチューブの軸心を通る平面で切断して示す半断面図である。
【符号の説明】
【0030】
10 ヘッドカバー(第一部材)
11 挿入口
12 凹部
12a 座面
13 係止突起
20 インジェクタ(第二部材)
30 密封装置
31 取付環
311 挿入筒部
312 鍔部
313 治具係合部
314 被係止突起
314a 円弧状本体部
314b ストッパ部
314c 掛合段差部
314d 斜面
32 第一リップ
33 第二リップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一部材(10)に開設された挿入口(11)とその内周に挿入された第二部材(20)の間を密封する密封装置(30)が、前記挿入口(11)へ挿入される挿入筒部(311)を有する取付環(31)と、この取付環(31)に一体的に設けられて内周が前記第二部材(20)の外周面に密接される第一リップ(32)と、前記取付環(31)に一体的に設けられて先端が前記挿入口(11)の外周の座面(12a)に密接される第二リップ(33)とを備え、前記挿入口(11)に円周方向複数の係止突起(13)が形成され、前記取付環(31)の挿入筒部(311)に、前記係合突起(13)の間を軸方向へ通過させてから前記取付環(31)を適宜回転させることによって前記係止突起(13)と軸方向に係合可能な円周方向複数の被係止突起(314)が形成され、前記係止突起(13)と被係止突起(314)の係合によって、前記第二リップ(33)が前記取付環(31)と前記座面(12a)との間で軸方向に適宜圧縮されることを特徴とする密封装置の取付構造。
【請求項2】
係止突起(13)及び被係止突起(314)が、互いの係合解除方向への相対回転を規制するカムロック構造をなすことを特徴とする請求項1に記載の密封装置の取付構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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