説明

密封装置及びその製造方法

【課題】密封装置の製造コストが安価で、密封性能が良好な密封装置を提供することを目的としている。
【解決手段】金属材製の保持環にその外周側部が保持された円盤状に成形されたフッ素樹脂材製シールリップを有し、前記保持環が、前記ハウジング内周面に嵌合される円筒状部と、前記円筒状部の一端から第1の円弧状折り曲げ部を介して径方向内方に伸びる第1の径方向部と、前記円筒状部の他端から前記円筒状部の内周面に沿って伸びる折り返し部と、前記折り返し部の端部から第2の円弧状折り曲げ部を介して前記第1の径方向部と略平行に径方向内方に伸びる第2の径方向部とより構成され、前記シールリップの前記外周側部が、前記第1の径方向部と前記第2の径方向部との間で挟持されている密封装置において、前記シールリップの外周端部が、前記第1の円弧状折り曲げ部と前記第2の円弧状折り曲げ部との間で挟持されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は軸周を密封する密封装置及びその製造方法に関するものであって、特に、車両の排気ガス再循環システム(以下、EGRシステムという)に使用して有用な密封装置及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両のEGRシステムに用いられるバルブは、弁体を動作させる弁軸が、流路を形成するハウジングを貫通して設けられているため、このハウジングに開設した弁軸挿入孔と、この弁軸挿入孔に挿通した弁軸との隙間を通じて前記流路から流体が漏出することのないように、両者間には密封装置を設ける必要がある。
【0003】
特に、流路内は排ガスによる200℃の高温で、かつ強酸性の凝縮水を生じる環境になることから、密封装置のシールリップには、フッ素樹脂材であるPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)が用いられている。
【0004】
この様な環境に使用する密封装置としては、図5乃至図7に示す密封装置が知られている。
図5に示す密封装置は、SUS等の金属材製である断面略L字形状の外周側保持環450と断面略L字形状の内周側保持環460との間で、円盤状に形成されたフッ素樹脂材製シールリップ300の外周側部310を挟持する構成となっている。(特許文献1)
そして、外周側保持環450の軸方向端部(図上右端)を内周側保持環460にカシメ固定するカシメ部451を設ける事により、外周側保持環450と内周側保持環460との一体化を図っている。
【0005】
しかし、金属材製の保持環が、断面略L字形状の外周側保持環450と断面略L字形状の内周側保持環460の2部品となる為、製造コストのアップに繋がっている。
【0006】
また、この改善策として、図6及び図7に示す密封装置が提案された。(特許文献2)
この種密封装置は、1枚の保持環400により、円盤状に形成されたフッ素樹脂材製シールリップ300の外周側部310を挟持する構成となっている。
【0007】
すなわち、図7に示す様に、保持環400をまず(a)に示す様に断面L字状に形成し、
この第1の径方向部420の上にフッ素樹脂材製シールリップ300を配置した後、折り曲げ部430及び第2径方向部440を形成して、第1の径方向部420と第2径方向部440との間で、シールリップ300の外周側部310を挟持する構成となっている。
この為、シールリップ300の外周側部310を、第1の径方向部420と第2径方向部440との間で挟持する押圧力に、大きなバラツキが不可避的に生じる。
【0008】
この結果、保持環400とシールリップ300との間から漏洩が生ずる問題を惹起した。
そこで、シールリップ300の外周側部310を挟持している保持環400とシールリップ300との間からエアーが漏れる問題が有る為、保持環400全体をゴム被覆層500により覆う構成としている。
しかし、ゴム被覆層500を設ける為、製造コストのアップに繋がった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2010−65729号公報
【特許文献2】特開平9−257133 号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本発明が前述の状況に鑑み、密封装置の製造コストが安価で、密封性能が良好な密封装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために本発明にあっては、軸の周面と密封摺動可能に、前記軸が貫通するハウジング側に圧入固定される金属材製の保持環にその外周側部が保持された円盤状に成形されたフッ素樹脂材製シールリップを有し、前記保持環が、前記ハウジング内周面に嵌合される円筒状部と、前記円筒状部の一端から第1の円弧状折り曲げ部を介して径方向内方に伸びる第1の径方向部と、前記円筒状部の他端から前記円筒状部の内周面に沿って伸びる折り返し部と、前記折り返し部の端部から第2の円弧状折り曲げ部を介して前記第1の径方向部と略平行に径方向内方に伸びる第2の径方向部とより構成され、前記シールリップの前記外周側部が、前記第1の径方向部と前記第2の径方向部との間で挟持されている密封装置において、前記シールリップの外周端部が、前記第1の円弧状折り曲げ部と前記第2の円弧状折り曲げ部との間で挟持されていることを特徴とする。
【0012】
また、上記目的を達成するために本発明にあっては、円筒状部と、前記円筒状部の一端から折り曲げの起点となる薄肉部を介して軸方向に伸びる軸方向部と、前記円筒状部の他端から前記円筒状部の内周面に沿って伸びる折り返し部と、前記折り返し部の端部から第2の円弧状折り曲げ部を介して径方向内方に伸びる第2の径方向部を備えた金属材製の保持環を準備する工程と、前記第2の径方向部に添わせる形で円盤状に成形されたフッ素樹脂材製シールリップを配置する工程と、前記軸方向部を内周側に折り曲げることにより発生する第1の円弧状折り曲げ部と前記第2の円弧状折り曲げ部との間で前記シールリップの外周端部を挟持すると共に、前記軸方向部を前記第2の径方向部と略平行に変形させて第1の径方向部を形成して、前記第2の径方向部との間で前記シールリップの外周側部を挟持することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、以下に記載されるような効果を奏する。
請求項1記載の発明の密封装置によれば、密封装置の製造コストが安価で、密封性能が良好である。
また、請求項2記載の発明の密封装置によれば、シールリップの外周端部をより確実に挟持出来る為、シールリップと保持環との間からの漏洩をより確実に阻止出来る。
【0014】
更に、請求項3記載の発明の密封装置によれば、シールリップと保持環との間の良好な密封性能を維持できると共に、シールリップの保持環からの抜けを防ぐ事が出来る。
また、請求項4記載の発明の密封装置の製造方法によれば、密封性能が良好な密封装置を、安価な製造コストで提供出来る。
【0015】
更に、請求項5記載の発明の密封装置の製造方法によれば、第1の円弧状折り曲げ部と第2の円弧状折り曲げ部との間で、シールリップの外周端部を、確実に挟持出来る為、密封性能が良好な密封装置を安価に製造出来る。
更に、請求項6記載の発明の密封装置の製造方法によれば、シールリップの外周端部を、より円滑に第2の円弧状折り曲げ部側に変形させる事が出来る為、密封性能が良好な密封装置を安価に製造出来る。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る密封装置の断面図。
【図2】本発明に係る密封装置の成形工程を説明する図。
【図3】本発明に係る密封装置の成形工程を説明する図。
【図4】本発明に係る密封装置の成形工程を説明する図。
【図5】従来技術に係る密封装置の断面図。
【図6】従来技術に係る他の密封装置の断面図。
【図7】図6の密封装置の成形工程を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための最良の形態について説明する。
図1乃至図4に基づき発明を実施するための形態について説明する。
【0018】
図1において、本発明に係る密封装置は、軸(図示せず)の周面と密封摺動可能に、軸が貫通するハウジング(図示せず)側に圧入固定される金属材製の保持環1にその外周側部21が保持された円盤状に成形されたフッ素樹脂材製シールリップ2を有し、この保持環1が、ハウジング内周面に嵌合される円筒状部11と、この円筒状部11の一端から第1の円弧状折り曲げ部12を介して径方向内方に伸びる第1の径方向部13と、この円筒状部11の他端から円筒状部11の内周面に沿って伸びる折り返し部14と、この折り返し部14の端部から第2の円弧状折り曲げ部15を介して第1の径方向部13と略平行に径方向内方に伸びる第2の径方向部16とより構成されている。
【0019】
そして、シールリップ2の外周側部21は、第1の径方向部13と第2の径方向部16との間で挟持されている。
また、シールリップ2の外周端部22は、第1の円弧状折り曲げ部12と第2の円弧状折り曲げ部15との間で挟持されている。
更に、第1の円弧状折り曲げ部12と円筒状部11との接合点Xが、第2の径方向部16のシールリップ2と接する側面161よりも円筒状部11側(図上右側)に存在する。
【0020】
この様な構成とすることにより、シールリップ2の外周端部22は、第1の円弧状折り曲げ部12に沿って折り曲げられる。
この結果、シールリップ2の外周端部22は、第2の円弧状折り曲げ部15に沿って円弧状に折り曲げられた状態で、第1の円弧状折り曲げ部12と第2の円弧状折り曲げ部15との間で挟持される。
この為、シールリップ2と保持環1との間の良好な密封性能を維持できると共に、シールリップ2の保持環1からの抜けを防ぐ事が出来る。
【0021】
ついで、図2乃至図4に基づき本発明に係る密封装置の製造方法について説明する。
まず、図2に示す様に、円筒状部11と、この円筒状部11の一端から折り曲げの起点となる薄肉部18を介して軸方向に伸びる軸方向部17と、円筒状部11の他端から円筒状部11の内周面に沿って伸びる折り返し部14と、この折り返し部14の端部から第2の円弧状折り曲げ部15を介して径方向内方に伸びる第2の径方向部16を備えた金属材製の保持環1をプレス成形により準備する。
【0022】
ついで、図3に示す様に、第2の径方向部16に添わせる形で円盤状に成形されたフッ素樹脂材製シールリップ2を配置する。
そして、この軸方向部17内周面には、シールリップ2の外周部が当接して、シールリップ2の位置決めが行われるが、このシールリップ2の外周部が当接する位置から、折り曲げの起点となる薄肉部18に向かって拡径する円錐台形状面171が、形成されている。
この為、シールリップ2の外周端部を、より円滑に第2の円弧状折り曲げ部15側に変形させる事が出来、密封性能が良好な密封装置を安価に製造出来る。
更に、第1の円弧状折り曲げ部12に皺やうねりが発生する事を効果的に防ぐ事が出来る。
【0023】
ついで、図4に示す様に、軸方向部17を内周側に折り曲げることにより発生する第1の円弧状折り曲げ部12と第2の円弧状折り曲げ部15との間でシールリップ2の外周端部22を挟持する形でカシメ込む。
最後に、図1に示す様に、軸方向部17を第2の径方向部16と略平行に成るまで変形させる事により、第1の径方向部13を形成する。
【0024】
この事により、この第1の径方向部13と第2の径方向部16との間でシールリップ2の外周側部21を挟持した密封装置を提供するものである。
また、折り曲げの起点となる薄肉部18は、第2の径方向部16のシールリップ2と接する側面161よりも円筒状部11側(図上右側)に存在する為、第1の円弧状折り曲げ部12と第2の円弧状折り曲げ部15との間で、シールリップ2の外周端部を、確実に挟持出来る為、密封性能が良好な密封装置を安価に製造出来る。
【0025】
また、シールリップ2の内径は、シールリップ2を保持環1にカシメ固定した後に打ち抜き加工を行い、寸法出しをしても良いが、予めシールリップ2の内径を切削加工しておき、このシールリップ2の内径をガイドした状態で、シールリップ2を保持環1にカシメ固定することにより、カシメ固定した後の打ち抜き加工を省くことも出来る。
【0026】
シールリップ2の材質は、フッ素樹脂材の中で、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)が好適に用いられる。
保持環1の材質は、耐蝕性の良好なSUS材が使用されている。
【0027】
この事により、排ガスによる200℃の高温で、かつ強酸性の凝縮水を生じる排気ガス再循環システム(以下、EGRシステムという)に好適に用いられる。
【0028】
また、本発明は上述の発明を実施するための最良の形態に限らず本発明の要旨を逸脱することなくその他種々の構成を採り得ることはもちろんである。
【産業上の利用可能性】
【0029】
車両の排気ガス再循環システム(以下、EGRシステムという)に使用される密封装置として好適に用いられる。
【符号の説明】
【0030】
1 保持環
2 シールリップ
11 円筒状部
12 第1の円弧状折り曲げ部
13 第1の径方向部
14 折り返し部
15 第2の円弧状折り曲げ部
16 第2の径方向部
17 軸方向部
18 薄肉部
21 外周側部
22 外周端部
171円錐台形状面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸の周面と密封摺動可能に、前記軸が貫通するハウジング側に圧入固定される金属材製の保持環(1)にその外周側部(21)が保持された円盤状に成形されたフッ素樹脂材製シールリップ(2)を有し、前記保持環(1)が、前記ハウジング内周面に嵌合される円筒状部(11)と、前記円筒状部(11)の一端から第1の円弧状折り曲げ部(12)を介して径方向内方に伸びる第1の径方向部(13)と、前記円筒状部(11)の他端から前記円筒状部(11)の内周面に沿って伸びる折り返し部(14)と、前記折り返し部(14)の端部から第2の円弧状折り曲げ部(15)を介して前記第1の径方向部(13)と略平行に径方向内方に伸びる第2の径方向部(16)とより構成され、前記シールリップ(2)の前記外周側部(21)が、前記第1の径方向部(13)と前記第2の径方向部(16)との間で挟持されている密封装置において、
前記シールリップ(2)の外周端部(22)が、前記第1の円弧状折り曲げ部(12)と前記第2の円弧状折り曲げ部(15)との間で挟持されていることを特徴とする密封装置。
【請求項2】
前記第1の円弧状折り曲げ部(12)と前記円筒状部(11)との接合点(X)が、前記第2の径方向部(16)の前記シールリップ(2)と接する側面(161)よりも前記円筒状部(11)側に存在することを特徴とする請求項1記載の密封装置。
【請求項3】
前記シールリップ(2)の前記外周端部(22)が、前記第2の円弧状折り曲げ部(15)に沿って円弧状に折り曲げられていることを特徴とする請求項1または2記載の密封装置。
【請求項4】
円筒状部(11)と、前記円筒状部(11)の一端から折り曲げの起点となる薄肉部(18)を介して軸方向に伸びる軸方向部(17)と、前記円筒状部(11)の他端から前記円筒状部(11)の内周面に沿って伸びる折り返し部(14)と、前記折り返し部(14)の端部から第2の円弧状折り曲げ部(15)を介して径方向内方に伸びる第2の径方向部(16)を備えた金属材製の保持環(1)を準備する工程と、前記第2の径方向部(16)に添わせる形で円盤状に成形されたフッ素樹脂材製シールリップ(2)を配置する工程と、前記軸方向部(17)を内周側に折り曲げることにより発生する第1の円弧状折り曲げ部(12)と前記第2の円弧状折り曲げ部(15)との間で前記シールリップ(2)の外周端部(22)を挟持すると共に、前記軸方向部(17)を前記第2の径方向部(16)と略平行に変形させて第1の径方向部(13)を形成して、前記第2の径方向部(16)との間で前記シールリップ(2)の外周側部(21)を挟持することを特徴とする密封装置の製造方法。
【請求項5】
折り曲げの起点となる前記薄肉部(18)が、前記第2の径方向部(16)の前記シールリップ(2)と接する側面(161)よりも前記円筒状部(11)側に存在することを特徴とする請求項4記載の密封装置の製造方法。
【請求項6】
前記軸方向部(17)が、前記シールリップ(2)の外周部が当接する位置から折り曲げの起点となる前記薄肉部(18)に向かって拡径する円錐台形状面(171)を有していることを特徴とする請求項4または5記載の密封装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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