説明

密着強度評価方法および密着強度評価装置

【課題】評価対象に対する制約の少ない、積層フィルムの2層間の界面での密着性を定量的に評価する密着強度評価方法を提供する。
【解決手段】複数のフィルム単位体を下方から上方へ積層してなる積層フィルム1において複数のフィルム単位体の積層方向で互いに隣接するフィルム単位体間の界面の密着強度を評価する装置であって、積層フィルム1が固定されるステージ22と、ステージ22に対し、剥離すべきフィルム単位体12と下層フィルム単位体11との界面Bと平行な一方向に相対移動可能に設けられた剥離具21と、剥離具21を界面Bと平行な一方向に移動して、剥離すべき上層フィルム単位体12を下層フィルム単位体11との界面Bから剥離する時に剥離具21に加わる荷重を測定する測定手段25とを備える構成にした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2層以上から成る積層フィルムの2層間の界面の密着強度評価方法および密着強度評価装置に関する。
【背景技術】
【0002】
2層以上から成る積層フィルムの2層間の界面の密着性を評価する方法として、クロスカット法が知られている(JIS K5600−5−6)。この密着評価方法は、積層フィルム上層に縦及び横方向に等間隔の碁盤目状の切り込み線を形成し、上層表面に透明感圧付着テープを貼り、該テープの一端を持って上層表面から所定の角度で瞬間的に引き剥したときの上層の剥離状況によって積層フィルムの密着性を評価するものである(例えば特許文献1参照)。
【0003】
また、従来の密着強度評価方法として、ピール試験法も知られている(JIS K6854−1)。この評価方法は、積層フィルム片の下層を固定し上層端を引っ張る、もしくは上層端と下層端をそれぞれ引っ張ることで上層と下層を剥離し、剥離に必要な荷重値を上層と下層の界面の密着強度とする評価方法である(例えば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−183528号公報
【特許文献2】特開2000−323804号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、クロスカット法による密着性の評価では、積層フィルムの上層表面と透明感圧付着テープの間の密着力が評価結果に影響を与えるという問題がある。また、該テープと上層表面との密着性が不十分な場合には、基材フィルム単位体と薄膜の密着性を正確に評価することができなくなる。
また、ピール試験法による密着性の評価では、積層フィルムの上層もしくは下層の強度が不十分な場合には、上層もしくは下層が破断するという問題がある。このように上層もしくは下層が破断した場合、正確な界面の密着強度を測定することができなくなり、定量的な評価を行うことができなくなる。
【0006】
本発明は上記のような課題を解決するためになされたもので、評価対象に対する制約の少ない、積層フィルムの2層間の界面での密着性を定量的に評価することが可能な密着強度評価方法および密着強度評価装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために請求項1の発明は、複数のフィルム単位体を下方から上方へ積層してなる積層フィルムにおいて前記複数のフィルム単位体の積層方向で互いに隣接するフィルム単位体間の界面の密着強度を評価する方法であって、前記積層フィルムをステージ上に固定する第1の工程と、前記固定された積層フィルムを構成する任意のフィルム単位体の厚さ方向と直交する方向における端面に剥離具を押し当てる第2の工程と、前記剥離具を前記フィルム単位体の下方に位置する下層フィルム単位体との界面に対して平行な一方向に移動させて前記フィルム単位体を前記下層フィルム単位体との界面から剥離する第3の工程と、前記剥離具の移動時に該剥離具に加わる荷重値を測定し前記フィルム単位体が前記下層フィルム単位体から剥離されるのに伴い前記荷重値が一定となった荷重値を密着強度とする第4の工程とを備えることを特徴とする。
【0008】
請求項2の発明は、請求項1記載の密着強度評価方法において、前記剥離具が押し当てられる前記フィルム単位体の端面と、最も下位となる前記積層フィルムの裏面とで形成される角度θ1が20°以上70°以下の範囲であることを特徴とする。
【0009】
請求項3の発明は、請求項1または2記載の密着強度評価方法にいて、前記剥離具は鋭角をもって交差する第1の面と第2の面とで構成された刃先を有し、前記任意のフィルム単位体の厚さ方向と直交する方向における端面に押し当てられる箇所は前記刃先であり、前記刃先を前記フィルム単位体の端面に押し当てたときに前記第1の面が前記端面に対向し、前記刃先を前記フィルム単位体の端面に押し当てたときに、前記積層フィルムの上面から見て前記第1の面は、前記フィルム単位体の端面となす角度θ2が20°以上55°以下の範囲であることを特徴とする。
【0010】
請求項4の発明は、請求項1乃至3に何れか1項記載の密着強度評価方法において、前記積層フィルムの最も上位に位置する表面に、前記剥離すべきフィルム単位体を厚さ方向に貫通して前記界面まで達する平行な2本の切り込みを前記界面と平行な方向に延在形成し、前記2本の切り込み間に存在する前記フィルム単位体の端面に前記刃が押し当てられることを特徴とする。
【0011】
請求項5の発明は、複数のフィルム単位体を下方から上方へ積層してなる積層フィルムにおいて前記複数のフィルム単位体の積層方向で互いに隣接するフィルム単位体間の界面の密着強度を評価する装置であって、前記積層フィルムが固定されるステージと、前記積層フィルムまたは前記ステージに対し、剥離すべき前記フィルム単位体と当該フィルム単位体の下方に位置する下層フィルム単位体との界面と平行な一方向に相対移動可能に設けられた剥離具と、前記剥離具を前記界面と平行な一方向に移動して前記剥離すべきフィルム単位体を前記下層フィルム単位体との界面から剥離する時に該剥離具に加わる荷重を測定する測定手段とを備えることを特徴とする。
【0012】
請求項6の発明は、請求項5記載の積層フィルムの密着強度評価装置において、前記剥離具で前記剥離すべきフィルム単位体が前記下層フィルム単位体から剥離されるのに伴い前記測定手段で測定される荷重が一定となる荷重値を密着強度とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の方法および装置によれば、積層フィルムを構成する複数のフィルム単位体の積層方向で互いに隣接するフィルム単位体間の界面での密着性を、評価対象を選ぶことなく、定量的に評価することができる。
【0014】
また、請求項2および請求項3に記載の本発明によれば、容易に積層フィルムの界面剥離を行うことができる。
また、請求項4に記載の本発明によれば、積層フィルムの剥離すべきフィルム単位体と下層フィルム単位体間の密着強度が弱い場合にも、密着強度を評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明にかかる積層フィルムの模式断面図である。
【図2】(a)は本発明にかかる積層フィルムの密着強度評価方法を説明するための模式上面図、(b)は本発明にかかる積層フィルムの密着強度評価方法を説明するための模式側面図である。
【図3】本発明の密着強度評価方法の工程を説明するフローチャートである。
【図4】高温高湿下で保管前の積層フィルムに対して本発明の密着強度評価方法を行った際に得られた、剥離距離に対する荷重値のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明にかかる積層フィルムの密着強度評価方法および装置の実施の形態について図1乃至図4を参照して説明する。
まず、本実施の形態に示す積層フィルムについて説明する。
積層フィルム1は、図1に示すように、積層フィルム1の最も上方に位置する上層のフィルム単位体12(以下、上層フィルム単位体という)と、このフィルム単位体12の下方に位置する下層フィルム単位体11を備え、2層以上のフィルム単位体を積層してなる構成をもつ。この場合、上層フィルム単位体12と下層フィルム単位体11の間の界面を界面Bとする。
また、本発明の積層フィルム1にあっては、一方の層を基材フィルム単位体とし、もう一方の層を機能層とすることができる。基材フィルム単位体の両面に機能層が形成されていても良い。また、機能層は複数層であってもよい。さらに、プラスチックフィルム単位体等の2枚以上の基材フィルム単位体が貼り合わされたものを積層フィルムとしてもよい。
【0017】
次に、本発明の密着強度評価方法について、図2及び図3に基づき説明する。
積層フィルム1は、ステージ22上に固定される(図3:第1の工程S10)。具体的には、基板23を介して積層フィルム1がステージ22上に固定されている。基板23と積層フィルム1は接着層24によって固定されている。この場合、積層フィルム1の両面のうち、接着層24に貼り合わされる側を裏面Cとし、その反対側を表面Aとする。
【0018】
そして、上層フィルム単位体12の剥離具21を、上層フィルム単位体12の厚さ方向と直行する方向における端面12aに押し当てる(図3:第2の工程S12)。その後、剥離具21を上層フィルム単位体12をせん断し剥離する方向に相対的に移動させる(図3:第3の工程S14)。この場合、剥離具21を界面Bと平行に矢印X1方向に移動させる。また、剥離具21ではなくステージ22を界面Bと平行に矢印X2方向に移動させてもよい。そして、剥離具21に加わる荷重が測定手段25で測定され、上層フィルム単位体12の端面12aに剥離具21を押し当ててから上層フィルム単位体12が剥離されるまでの間に剥離具21に加わった荷重のうち一定となった荷重値を密着強度とする(図3:第4の工程S16)。この荷重値は、上層フィルム単位体12が一定距離剥離された後に一定となる。
【0019】
次に、上層フィルム単位体12の端面12aに剥離具21を押し当て、上層フィルム単位体12を剥離する方法について説明する。以下に述べる方法を用いることにより、簡単に剥離具21を上層フィルム単位体12に押し当て、界面Bで剥離をすることができる。
上層フィルム単位体12に際しては、上層フィルム単位体12の膜厚を予め測定しておく。そして、まず、剥離具21を表面Aに当てる。その後、剥離具21を矢印X1と逆の矢印X2方向に、もしくはステージ22を矢印X1方向に移動させ、剥離具21と積層フィルム1を十分に離す。
次に、剥離具21を上層フィルム単位体12の膜厚分だけ矢印Z方向に移動させる。そして、剥離具21を矢印X1方向に、もしくはステージ22を矢印X1と逆の矢印X2方向に移動させることで、剥離具21を上層フィルム単位体12に押し当てることができる。そして、上層フィルム単位体12に押し当てた剥離具21を矢印X1方向に移動し、上層フィルム単位体12を剥離する。このとき、剥離具21には荷重検出器(測定手段25)が設けられており、剥離具21に加わる荷重値を測定する。
【0020】
このような密着強度評価方法によれば、接着層24の膜厚を測定することなく、正確に上層フィルム単位体12の端面12aに剥離具21を押し当てることができる。これに対して、接着層24の膜厚は、積層フィルム1を固定する度に異なる。このため、接着層24の膜厚を毎回測定し、剥離具21を上層フィルム単位体12の端面12aに押し当てるのに非常に手間がかかる。したがって、本発明の密着強度評価方法により上層フィルム単位体12の端面12aに剥離具21を押し当てることが好ましい。
【0021】
なお、本実施の形態では、剥離具21を上層フィルム単位体12に押し当てる際に、上層フィルム単位体12の膜厚分だけ剥離具21を矢印Z方向に移動させると記載したが、膜厚が厚くなると積層フィルム1に加わる力が、界面Bではなく表面Aに加わる傾向があることが応力解析の計算から確かめられている。そこで、剥離具21を上層フィルム単位体12に押し当てる際に、上層フィルム単位体12の膜厚分より少し大きい距離だけ剥離具21を矢印Z方向に移動させることにより、界面Bでの剥離成功率を上げることができる。
【0022】
剥離具21を矢印X1方向に移動させる際には、時間あるいは剥離距離に対する荷重値を測定する。上層フィルム単位体12が一定距離剥離された後、荷重値は一定値をとり続けるが、本発明の密着強度評価方法にあっては、その時の値を密着強度と定義する。
得られる荷重値の一例を図4に示す。図4に示すように、荷重値が一定値となる前に、荷重値が最大値をとることがある。この最大値は、基板23と積層フィルム1の接着の仕方などで大きく変化する値であり、適切な密着強度を評価するための指標として適切ではない。そこで、荷重値が一定値をとり続けるまで剥離を行い、密着強度を読み取る必要がある。正しく界面Bで剥離したかは、例えば、正確かつ簡単に測定できるDEKTAK(登録商標)のような触針式表面粗さ計で試験後に段差測定を行うなどして確認する。
【0023】
本発明の密着強度評価方法によれば、上層フィルム単位体12を剥離し、一定距離剥離された後に一定となった荷重値を上層フィルム単位体12と下層フィルム単位体11の間の密着強度として得るので、測定結果は密着強度の差異を定量的に示すことができる。例えば、クロスカット法で剥離数が共に0である場合や、ピール試験で上層フィルム単位体もしくは下層フィルム単位体が破断する場合のように、クロスカット法やピール試験で密着性に差が見られない積層フィルム間の結果でも、本発明の評価方法では定量的に差を見ることができる。
【0024】
積層フィルム1を基板23上に固定するにあたっては、以下の2点に注意する。
まず、1点目は、接着層24に用いる接着剤の選定である。基板23と積層フィルム1を接着剤で固定する場合には、裏面Cと基板23との密着性が非常に重要となる。裏面Cと基板23の密着が不十分な場合、界面Bではなく裏面Cと基板23との間で剥離が起こってしまう。
【0025】
積層フィルム1と基板23との間で十分な密着性が得られない場合は、裏面Cをスパッタリング等により荒らすことで密着性を上げる方法がある。また、スチールウールによって裏面Cを擦り荒らすことで密着性を上げる方法もある。スチールウールによって裏面Cを擦り荒らす方法は、真空中に積層フィルム1を入れることにより物性が変化する場合にも有効に用いることができる。
【0026】
2点目は、積層フィルム1のうち、どちらの層を上層フィルム単位体12、下層フィルム単位体11とするかである。これは各層の層物性と各層の膜厚の2条件によって決められる。
本発明の密着強度評価方法にあっては、上層フィルム単位体12と下層フィルム単位体11の間の密着力を比較したいため、剥離する上層フィルム単位体12自体の物性値は同じとした方が複数の積層フィルム間での密着性の比較が容易となるため好ましい。また、複数のフィルム単位体間でどちらの層も層物性が同じ場合には、膜厚が大きいほど剥離具21の応力が表面Aに加わりやすく界面Bでの剥離失敗率が高くなるため、膜厚が薄い方を上層フィルム単位体12とする方が良い。
【0027】
基板23上に固定する積層フィルム1は、以下の形状にすることが望ましい。
基板23上に固定する積層フィルム1の大きさは、少なくとも剥離具21の3倍程度の幅と、荷重値が一定となるような剥離を行える十分な奥行きがあればいい。積層フィルム1の幅が、剥離具21に対して十分大きい場合、剥離具21を押し当てる場所を変えることで、1つの積層フィルム1に対して複数回の試験を行うことができる。ただし、積層フィルム1が大きすぎる場合、接着層24に空気が入りやすくなり、積層フィルム1を基板23上に固定することが難しくなる。
【0028】
積層フィルム1の厚さ方向の断面は、剥離具21を押し当てる断面と裏面Cで形成される角度θ1が20°以上70°以下の範囲であることが好ましい。θ1を、90°ではなく、20°以上70°以下の範囲とすることにより、上層フィルム単位体12を剥離させた際の界面Bでの剥離成功率を向上させることができる。特に、上層フィルム単位体12が厚い場合に、θ1を20°以上70°以下の範囲とすることにより、界面Bでの剥離成功率を向上させることができる。
【0029】
積層フィルム1の厚さ方向の断面は、表面Aから見て、剥離具21を押し当てる断面と刃がなす角度θ2が20°以上55°以下の範囲内であることが好ましい。θ2を20°以上55°以下の範囲とすることにより、界面Bでの剥離成功率を向上させることができる。
剥離具21は、図2に示すように、鋭角をもって交差する第1の面2102と第2の面2104とで構成された刃先2106を有し、上層フィルム単位体12の厚さ方向と直交する方向における端面12aに押し当てられる箇所は前記刃先2106であり、この刃先2106を上層フィルム単位体12の端面12aに押し当てたときに第1の面2102が端面12aに対向し、刃先2106を上層フィルム単位体12の端面12aに押し当てたときに、第1の面2102と、上層フィルム単位体12の端面12aとなす角度がθ2である。
【0030】
積層フィルム1の上層フィルム単位体12と下層フィルム単位体11の密着が弱い場合、剥離具21を移動させて剥離を行うと、上層フィルム単位体12のうち剥離具21の当たっていない部分も剥離し、正しい荷重値を得られないことがある。この場合、上層フィルム単位体12に界面Bに届く平行な2本の切り込みを、剥離具21の幅よりも少し大きい間隔で作り、2本の切り込みの間を剥離具21が移動し、上層フィルム単位体12を剥離するようにすることで、剥離具21の当たっていない部分の剥離を防ぐことができる。
【0031】
積層フィルム1は、大きめのサイズの積層フィルム1を基板23に接着層24によって固定し、その後、カッターナイフやカミソリの刃で積層フィルム1を削ることにより、測定試料とすることが好ましい。このような手順で積層フィルム1を加工することにより、θ1を20°以上70°以下の範囲内としたり、θ2を20°以上55°以下の範囲内としたりすることを容易に行える。また、接着層24に用いる接着剤の表面Aへの回り込みを防ぐことができる。
【0032】
本発明の密着強度評価装置としては、積層フィルム1が固定されるステージ24と、ステージ24と平行に一方向に相対的に移動できる剥離具21と、剥離具21にかかる荷重を測定することのできる測定手段25とを備える装置を用いることができる。例えば、万能型ボンドテスター(デイジ社製:シリーズ4000)を用いることができる。
【0033】
(実施例)
以下に本発明の薄膜の密着強度評価方法の実施例を説明する。
積層フィルム1として、透明なポリエチレンテレフタレートからなる厚さ250μmの基材フィルム単位体の一方の面に、ウレタン樹脂を塗布した積層フィルムを2枚用意した。2枚の積層フィルムのうち1枚を高温高湿下にて2000時間保管し、積層フィルムの界面の密着強度を低下させた。
【0034】
高温高湿下で保管前後の積層フィルムについて、幅0.5mmの剥離具21と万能型ボンドテスター(デイジ社製:シリーズ4000)を用いて図2に示したような形で、本発明の密着強度評価法を行った。ウレタン樹脂層を上層フィルム単位体12、基材フィルム層を下層フィルム単位体11、瞬間接着剤を接着層24、ガラス基板を基板23として、積層フィルムをステージ22上に固定した。このとき、積層フィルムは各辺1cmの正方形状としてガラス基板に固定したあと、θ1が20°以上70°以下、θ2が20°以上55°以下となるようにカッターナイフで加工を行った。各積層フィルムについて、同一の辺に対して場所を変えて5回ずつ、本発明の密着強度評価法を行った。
【0035】
図4に、高温高湿下で保管前の積層フィルムに対して、本発明の密着強度評価方法を行った際に得られた、剥離距離に対する荷重値のグラフのうちの1つを示した。図4において、剥離距離0.4mm以後に荷重値が一定となっており、一定となった剥離距離0.4mm以後の荷重値の平均値1.70Nを密着強度とした。各測定について同様に密着強度を測定した結果、高温高湿下で保管前の積層フィルムの密着強度は1.70±0.02N、高温高湿下での保管後の積層フィルムの密着強度は1.58±0.01Nとなった。
【0036】
また、高温高湿下で保管前後の積層フィルムに対して、ピール試験によりウレタン樹脂層と基材フィルム単位体層の密着性を評価した結果、高温高湿下で保管前の積層フィルムは、ウレタン樹脂層と基材フィルム層の密着性が十分高かったため、ウレタン樹脂層が破断し、密着強度を定量的に得ることができなかった。高温高湿下での保管後の積層フィルムの密着強度は3.9N/cmとなった。
【0037】
本発明の密着強度評価方法により測定した密着強度から、高温高湿下での保管によって基材フィルムとウレタン樹脂の間の界面における密着強度が低下していることが確認された。ピール試験でも同様の結果が得られた。高温高湿下での保管により、密着強度は低下することが知られており、この傾向が本密着性評価方法からも確認できた。また、高温高湿下で保管前の積層フィルムの密着強度は、ピール試験では定量的に評価することができなかったが、本発明の密着強度評価法では定量的に値を得ることができた。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明の密着強度評価方法は、評価対象に対する制約の少ない、積層フィルムの2層間の界面での密着性を定量的に評価する測定法とし利用できる。
【符号の説明】
【0039】
1……積層フィルム、11……下層フィルム単位体、12……上層フィルム単位体、12a……端面、21……剥離具、2102……第1の面、2104……第2の面、2106……刃先、22……ステージ、23……基板、24……接着層、A……積層フィルムの表面、B……上層と下層の間の界面、C……積層フィルムの裏面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のフィルム単位体を下方から上方へ積層してなる積層フィルムにおいて前記複数のフィルム単位体の積層方向で互いに隣接するフィルム単位体間の界面の密着強度を評価する方法であって、
前記積層フィルムをステージ上に固定する第1の工程と、
前記固定された積層フィルムを構成する任意のフィルム単位体の厚さ方向と直交する方向における端面に剥離具を押し当てる第2の工程と、
前記剥離具を前記フィルム単位体の下方に位置する下層フィルム単位体との界面に対して平行な一方向に移動させて前記フィルム単位体を前記下層フィルム単位体との界面から剥離する第3の工程と、
前記剥離具の移動時に該剥離具に加わる荷重値を測定し前記フィルム単位体が前記下層フィルム単位体から剥離されるのに伴い前記荷重値が一定となった荷重値を密着強度とする第4の工程と、
を備えることを特徴とする積層フィルムの密着強度評価方法。
【請求項2】
前記剥離具が押し当てられる前記フィルム単位体の端面と、最も下位となる前記積層フィルムの裏面とで形成される角度θ1が20°以上70°以下の範囲であることを特徴とする請求項1記載の密着強度評価方法。
【請求項3】
前記剥離具は鋭角をもって交差する第1の面と第2の面とで構成された刃先を有し、
前記任意のフィルム単位体の厚さ方向と直交する方向における端面に押し当てられる箇所は前記刃先であり、
前記刃先を前記フィルム単位体の端面に押し当てたときに前記第1の面が前記端面に対向し、
前記刃先を前記フィルム単位体の端面に押し当てたときに、前記積層フィルムの上面から見て前記第1の面は、前記フィルム単位体の端面となす角度θ2が20°以上55°以下の範囲であることを特徴とする請求項1または2記載の密着強度評価方法。
【請求項4】
前記積層フィルムの最も上位に位置する表面に、前記剥離すべきフィルム単位体を厚さ方向に貫通して前記界面まで達する平行な2本の切り込みを前記界面と平行な方向に延在形成し、前記2本の切り込み間に存在する前記フィルム単位体の端面に前記刃が押し当てられることを特徴とする請求項1乃至3に何れか1項記載の密着強度評価方法。
【請求項5】
複数のフィルム単位体を下方から上方へ積層してなる積層フィルムにおいて前記複数のフィルム単位体の積層方向で互いに隣接するフィルム単位体間の界面の密着強度を評価する装置であって、
前記積層フィルムが固定されるステージと、
前記積層フィルムまたは前記ステージに対し、剥離すべき前記フィルム単位体と当該フィルム単位体の下方に位置する下層フィルム単位体との界面と平行な一方向に相対移動可能に設けられた剥離具と、
前記剥離具を前記界面と平行な一方向に移動して前記剥離すべきフィルム単位体を前記下層フィルム単位体との界面から剥離する時に該剥離具に加わる荷重を測定する測定手段と、
を備えることを特徴とする積層フィルムの密着強度評価装置。
【請求項6】
前記剥離具で前記剥離すべきフィルム単位体が前記下層フィルム単位体から剥離されるのに伴い前記測定手段で測定される荷重が一定となる荷重値を密着強度とすることを特徴とする請求項5記載の積層フィルムの密着強度評価装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−227016(P2011−227016A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−99434(P2010−99434)
【出願日】平成22年4月23日(2010.4.23)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】