説明

密閉型鉛蓄電池用セパレータ及び密閉型鉛蓄電池

【課題】電解液吸液性や電解液保持性に優れた、製造の容易なセパレータとそれを用いた密閉型鉛蓄電池を提供する。
【解決手段】密閉型鉛蓄電池用セパレータは、平均繊維径3μm以下の微細ガラス繊維を主体とし未膨張の膨張性マイクロカプセルを混合して湿式抄造し、前記膨張性マイクロカプセルを膨張させてなる、前記微細ガラス繊維を主体とした不織布シート中に前記マイクロカプセルが略均一分散状態に混在した構造の密閉型鉛蓄電池用セパレータであって、前記マイクロカプセルの含有量が1〜10質量%であり、前記マイクロカプセルが膨張により透水性を有した平均粒子径40〜100μmの膨張済みマイクロカプセルであり、セパレータのクッション性(セパレータの19.6kPa加圧時の厚さに対する98kPa加圧時の厚さ保持率)が55%未満である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前記微細ガラス繊維を主体とした不織布シート中にマイクロカプセルが分散状態に混在してなる密閉型鉛蓄電池用セパレータとそれを用いた密閉型鉛蓄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、隔離板としての機能と電解液保持体としての機能を併せ持つようにした密閉型鉛蓄電池用セパレータとして、耐酸性、親水性に優れ、高空隙率で高い保液性能が得られる平均繊維径が3μm以下の微細ガラス繊維を主体とした不織布シートからなるセパレータが広く使用されている(例えば、特許文献1)。
【0003】
しかし、このような微細ガラス繊維を主体とした不織布セパレータの場合、電解液が注入されると、ガラス繊維同士の摩擦力が低下してガラス繊維が移動し易くなり、セパレータが極板に与える圧迫力が徐々に低下するため、セパレータと極板との密着性の低下による電池容量の低下や電池寿命の短縮を招き易い。
【0004】
このため、密閉型鉛蓄電池の組立てにおいては、電解液注入後もできるだけ高い圧迫力を維持できるように、正・負極板間にセパレータが介装された極板群を加圧状態にして電槽内に組み込むようにして対処しているが、極板群にかける加圧力が49kPa以上と高くなるため、電池組立て作業性が悪く、生産性が悪いという問題があった。
【0005】
そこで、このような問題点を解消するべく、本出願人は、微細ガラス繊維を主体とする不織布シート中に、膨張後に透水性を有して形状を維持し得るマイクロカプセルを分散状態に混在させるようにしてセパレータを構成し、マイクロカプセル内部に電解液を保持できる構造によりマイクロカプセルの充填による電解液保持量の低下を防ぎつつ、セパレータのクッション性を高めることで、電池組立て時の極板群にかける加圧力を小さくして、電池組立て作業性を向上させるようにした密閉型鉛蓄電池用セパレータと密閉型鉛蓄電池を先に提案した(特許文献2)。
【特許文献1】特開昭59−71255号公報
【特許文献2】国際公開第2004/75317号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2の密閉型鉛蓄電池用セパレータでは、マイクロカプセルを5〜50質量%混在させることで、クッション性(セパレータの19.6kPa加圧時の厚さに対する98kPa加圧時の厚さ保持率)を最良で45%(マイクロカプセル50質量%含有時)にまで良化することができたが、実際上は、マイクロカプセルの含有量が10質量%を超えると、セパレータの電解液濡れ性が著しく悪化し、電解液吸液性や電解液保持性、更には極板への電解液の供給効率を著しく悪化させてしまうという不都合を有する。
【0007】
マイクロカプセルの含有量を10質量%以下とすると、クッション性(セパレータの19.6kPa加圧時の厚さに対する98kPa加圧時の厚さ保持率)は55%未満にはならず、電解液濡れ性を犠牲にして多量のマイクロカプセルを含有させている割には思うようなクッション性の向上は図れず、クッション性の向上には限界があり、高い電解液濡れ性の確保と高いクッション性の付与の両立はできていない。
【0008】
よって、理想的には、マイクロカプセルの少ない含有量で、より高いクッション性を得られるようにし、つまり具体的には、マイクロカプセルの含有量が、セパレータの電解液濡れ性の著しい悪化を避けることのできる10質量%以下で、クッション性(セパレータの19.6kPa加圧時の厚さに対する98kPa加圧時の厚さ保持率)を55%未満にする方法が求められる。
【0009】
また、密閉型鉛蓄電池において、短時間大電流放電性能である高率放電性能を高めるには、セパレータと極板との密着性が高いこと、極板と接するセパレータの表面部付近に多くの電解液を保持していることが重要とされる。特許文献2のセパレータは、微細ガラス繊維の交絡によって形成される空間にマイクロカプセルが介在した(充填された)構造であるが、マイクロカプセルが透水性を有しマイクロカプセル内部に電解液を保持し得るため、特許文献1のような従来の微細ガラス繊維のみで構成されるセパレータと同等以上の電解液保持量を有しており、セパレータ表面部においても同様に高い電解液保持量を有するが、マイクロカプセル内部に保持された電解液では、高率放電時に極板側へスムーズに電解液を供給することが困難であり、結局のところ、高率放電時に極板側へ十分な量の電解液をスムーズに供給できず、良好な高率放電性能が発揮できない。
【0010】
このため、本出願人は、微細ガラス繊維を主体とする不織布シート中に、膨張後に透水性を有して形状を維持し得るマイクロカプセルを分散状態に混在させるようにしたセパレータにおいて、マイクロカプセルをセパレータの厚さ方向に偏在させセパレータの表面層にマイクロカプセルの低充填密度層を形成するようにして、セパレータ表面層の空間率が高くセパレータ表面層に多くの電解液を保持でき、高率放電時には十分な量の電解液を極板側へスムーズに供給でき良好な高率放電性能をもたらすことのできる密閉型鉛蓄電池用セパレータと密閉型鉛蓄電池を先に提案した(特願2005−104507号)。
【0011】
しかしながら、特願2005−104507号のようなセパレータを実際に工業的に製造するには、特願2005−104507号の実施例に記載されるように、マイクロカプセルを高充填密度に充填したシート層と、マイクロカプセルを低充填密度に充填あるいは充填しないシート層とを積層するようにして製造する必要があり、製造の容易性を欠くとともに、製造工程が複雑化して製造コストが高くなり製品コスト高を招くという不都合を有する。
【0012】
そこで、本発明は、前記従来の問題点に鑑み、微細ガラス繊維を主体とする不織布シート中にマイクロカプセルを分散状態に混在させるようにした密閉型鉛蓄電池用セパレータにおいて、マイクロカプセルの混在によるクッション性向上効果を最大限発揮しながら、マイクロカプセルの混在による電解液濡れ性の低下を最小限に抑えて良好な電解液吸液性や電解液保持性を確保し、しかも、製造の容易性を欠くことなく、また製造工程が複雑化して製造コストを高めるようなことなく、セパレータ表面層に疎水性の部分を多く作らず大きな空間率を確保してセパレータ表面層に多くの電解液を保持することでき、高率放電時には十分な量の電解液を極板側へスムーズに供給することが可能で良好な高率放電性能をもたらすことのできる密閉型鉛蓄電池用セパレータとそれを用いた密閉型鉛蓄電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者等は、前記目的を達成するべく、鋭意検討した結果、セパレータのクッション性は、マイクロカプセルの含有量に影響を受ける以外に、マイクロカプセルの膨張後の粒子径にも影響を受けることを知見し、本発明を完成させるに至った。
本発明の密閉型鉛蓄電池用セパレータは、かかる知見に基づくものであり、請求項1に記載の通り、平均繊維径3μm以下の微細ガラス繊維を主体とし未膨張の膨張性マイクロカプセルを混合して湿式抄造し、前記膨張性マイクロカプセルを膨張させてなる、前記微細ガラス繊維を主体とした不織布シート中に前記マイクロカプセルが略均一分散状態に混在した構造の密閉型鉛蓄電池用セパレータであって、前記マイクロカプセルの含有量が1〜10質量%であり、前記マイクロカプセルが膨張により透水性を有した平均粒子径40〜100μmの膨張済みマイクロカプセルであり、セパレータのクッション性(セパレータの19.6kPa加圧時の厚さに対する98kPa加圧時の厚さ保持率)が55%未満であることを特徴とする。
また、請求項2記載の密閉型鉛蓄電池用セパレータは、請求項1記載の密閉型鉛蓄電池用セパレータにおいて、前記微細ガラス繊維が90〜99質量%と、前記マイクロカプセルが10〜1質量%とで構成されることを特徴とする。
また、本発明の密閉型鉛蓄電池は、請求項3に記載の通り、正・負極板間に請求項1または2記載の密閉型鉛蓄電池用セパレータを介装したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の密閉型鉛蓄電池用セパレータは、平均繊維径3μm以下の微細ガラス繊維を主体とし未膨張の膨張性マイクロカプセルを混合して湿式抄造し、前記膨張性マイクロカプセルを膨張させてなる、前記微細ガラス繊維を主体とした不織布シート中に前記マイクロカプセルが略均一分散状態に混在した構造の密閉型鉛蓄電池用セパレータであって、前記マイクロカプセルの含有量が1〜10質量%であり、前記マイクロカプセルが膨張により透水性を有した平均粒子径40〜100μmの膨張済みマイクロカプセルであり、セパレータのクッション性(セパレータの19.6kPa加圧時の厚さに対する98kPa加圧時の厚さ保持率)が55%未満であるように構成したので、マイクロカプセルの混在によるクッション性向上効果を最大限発揮しながら、マイクロカプセルの混在による電解液濡れ性の低下を最小限に抑えて良好な電解液吸液性や電解液保持性を確保し、高い電解液濡れ性の確保と高いクッション性の付与を両立させ、しかも、製造の容易性を欠くことなく、また製造工程が複雑化して製造コストを高めるようなことなく、セパレータ表面層に疎水性の部分を多く作らず大きな空間率を確保してセパレータ表面層に多くの電解液を保持することができ、高率放電時には十分な量の電解液を極板側へスムーズに供給することが可能で良好な高率放電性能をもたらすことのできる密閉型鉛蓄電池用セパレータとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の密閉型鉛蓄電池用セパレータは、平均繊維径3μm以下の微細ガラス繊維を主体とし未膨張の膨張性マイクロカプセルを混合して湿式抄造し、前記膨張性マイクロカプセルを膨張させてなる、前記微細ガラス繊維を主体とした不織布シート中に前記マイクロカプセルが略均一分散状態に混在した構造の密閉型鉛蓄電池用セパレータでありながら、前記マイクロカプセルの膨張後の平均粒子径に着目し、前記マイクロカプセルの膨張後の平均粒子径を40μm以上とし、前記マイクロカプセルの含有量を、セパレータの電解液濡れ性の著しい悪化を避けることのできる10質量%以下とし、55%未満のクッション性(セパレータの19.6kPa加圧時の厚さに対する98kPa加圧時の厚さ保持率)としたものである。尚、膨張後のマイクロカプセル(膨張済みマイクロカプセル)の平均粒子径を100μm以下とするのは、膨張後のマイクロカプセルの平均粒子径が100μm超えであると、本来前記微細ガラス繊維の交絡によって形成されるはずの微細かつ均一な孔構造が壊れ、セパレータの強度低下を招いたり、セパレータの耐短絡性を損ねる危険性があるため好ましくないからである。尚、セパレータのクッション性が高いと、極板の厚さバラツキや極板表面の凹凸を吸収できる利点もある。
【0016】
前記微細ガラス繊維としては、平均繊維径が3μm以下、好ましくは1.5μm以下のCガラス組成のガラス短繊維を使用することができ、平均繊維径の異なる2種以上の繊維材料を混合使用してもよい。
【0017】
前記マイクロカプセルとしては、耐電解液性(耐酸性)を有し、カプセルの内部に、加熱によって膨張する膨張性材料(例えば、低沸点炭化水素)を内包した構造の膨張性マイクロカプセルを使用することが好ましい。尚、前記膨張性材料としては、カプセル外に漏出したとしても電解液や電池に悪影響を与えない材料を選択するのがよい。
【0018】
また、前記マイクロカプセルとしては、殻が耐酸性の熱可塑性樹脂からなるものを使用することが好ましい。前記耐酸性の熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリアクリロニトリル等が挙げられるが、耐酸性が優れる点で、ポリアクリロニトリルが好ましい。
【0019】
また、前記微細ガラス繊維との混合抄造に使用する前記未膨張の膨張性マイクロカプセルの平均粒子径としては、80μm以下であることが好ましい。なぜならば、前記未膨張の膨張性マイクロカプセルの平均粒子径が80μm超えであると、特に前記膨張性マイクロカプセルの配合量を少なくした場合に、前記微細ガラス繊維を主体とした不織布シート中に前記マイクロカプセルを略均一分散状態に混在させにくくなるため好ましくないからである。
【0020】
本発明の密閉型鉛蓄電池用セパレータは、例えば、次のような方法により製造することができる。所定量の微細ガラス繊維に、所定量の熱膨張性マイクロカプセルと必要に応じて少量の添加剤等を加えて、水中で混合・分散し、吸着剤を適量添加して前記微細ガラス繊維の表面に前記熱膨張性マイクロカプセルを吸着・担持させた後、酸性乃至中性条件で通常の抄紙機により湿式抄造し、所定温度にて乾燥し、前記熱膨張性マイクロカプセルを膨張させて透水性を有しつつ形状を維持した膨張済みマイクロカプセルにして、本発明の密閉型鉛蓄電池用セパレータを得る。尚、前記熱膨張性マイクロカプセルを加熱により膨張させる処理(以下、膨張処理と言う)は、前記熱膨張性マイクロカプセルの膨張温度に合わせて、前記乾燥工程で同時に行ってもよく、また、前記乾燥工程に続く熱処理工程を設けてそこで行うようにしてもよい。尚、前記膨張処理工程となり得る前記乾燥工程や前記熱処理工程の温度設定では、前記熱膨張性マイクロカプセルの膨張温度を十分考慮して、前記熱膨張性マイクロカプセルが破裂を生じずかつ透水性を有することができるような適当な温度に設定する必要がある。尚、前記破裂とは、マイクロカプセルの原形(球形等)が壊れる程度の形状変化のことを指しており、マイクロカプセルの原形(球形等)の大部分を維持したまま単に亀裂が生じたり孔が開いたりする程度の形状変化については含まない。
【0021】
尚、前記マイクロカプセルを含有したセパレータ中の膨張済みマイクロカプセルの状態については、セパレータ中に含まれる膨張済みマイクロカプセルの基本的にその全量が、膨張によって透水性を得つつ形状を維持した状態になっていることが望ましいが、このような制御を完璧に行うことは難しいことから、例えば、膨張済みマイクロカプセルの全量の中に、膨張によっても透水性が得られなかった膨張済みマイクロカプセルが一部存在したり、膨張により形状を維持し切れずに破裂してしまった膨張済みマイクロカプセルが一部存在していてもよい。また、前記膨張済みマイクロカプセルが有する透水性についても、必ずしも膨張済みマイクロカプセルの表面の全領域が透水性を有している必要はなく、透水性を有しない領域が一部存在していてもよい。
【実施例】
【0022】
次に、本発明の実施例について従来例と共に詳細に説明する。
(実施例1)
微細ガラス繊維として平均繊維径0.8μmのCガラス短繊維97質量%と、ポリアクリロニトリル系樹脂からなるカプセル内に低沸点炭化水素を内包した未膨張の熱膨張性マイクロカプセル(膨張後の平均粒子径40μm)3質量%とを、水中で分散・混合後、アクリルアミド系吸着剤を適量添加して前記熱膨張性マイクロカプセルを前記ガラス短繊維の表面に吸着・担持させた後、通常の抄紙機によりpH2.5の酸性条件で湿式抄造し、120℃で乾燥して熱膨張性マイクロカプセルを膨張させて透水性を有しつつ形状を維持した膨張済みマイクロカプセルとし、微細ガラス繊維を主体とした不織布シート中に平均粒子径40μmの膨張済みマイクロカプセルが略均一分散状態に3質量%混在した厚さ1.51mm、坪量133g/m2の密閉型鉛蓄電池用セパレータを得た。
【0023】
(実施例2)
微細ガラス繊維として平均繊維径0.8μmのCガラス短繊維93質量%と、ポリアクリロニトリル系樹脂からなるカプセル内に低沸点炭化水素を内包した未膨張の熱膨張性マイクロカプセル(膨張後の平均粒子径40μm)7質量%とを、水中で分散・混合後、アクリルアミド系吸着剤を適量添加して前記熱膨張性マイクロカプセルを前記ガラス短繊維の表面に吸着・担持させた後、通常の抄紙機によりpH2.5の酸性条件で湿式抄造し、120℃で乾燥して熱膨張性マイクロカプセルを膨張させて透水性を有しつつ形状を維持した膨張済みマイクロカプセルとし、微細ガラス繊維を主体とした不織布シート中に平均粒子径40μmの膨張済みマイクロカプセルが略均一分散状態に7質量%混在した厚さ1.52mm、坪量114g/m2の密閉型鉛蓄電池用セパレータを得た。
【0024】
(実施例3)
微細ガラス繊維として平均繊維径0.8μmのCガラス短繊維90質量%と、ポリアクリロニトリル系樹脂からなるカプセル内に低沸点炭化水素を内包した未膨張の熱膨張性マイクロカプセル(膨張後の平均粒子径40μm)10質量%とを、水中で分散・混合後、アクリルアミド系吸着剤を適量添加して前記熱膨張性マイクロカプセルを前記ガラス短繊維の表面に吸着・担持させた後、通常の抄紙機によりpH2.5の酸性条件で湿式抄造し、120℃で乾燥して熱膨張性マイクロカプセルを膨張させて透水性を有しつつ形状を維持した膨張済みマイクロカプセルとし、微細ガラス繊維を主体とした不織布シート中に平均粒子径40μmの膨張済みマイクロカプセルが略均一分散状態に10質量%混在した厚さ1.50mm、坪量98g/m2の密閉型鉛蓄電池用セパレータを得た。
【0025】
(従来例)
微細ガラス繊維として平均繊維径0.8μmのCガラス短繊維80質量%と、ポリアクリロニトリル系樹脂からなるカプセル内に低沸点炭化水素を内包した未膨張の熱膨張性マイクロカプセル(膨張後の平均粒子径15μm)20質量%とを、水中で分散・混合後、アクリルアミド系吸着剤を適量添加して前記熱膨張性マイクロカプセルを前記ガラス短繊維の表面に吸着・担持させた後、通常の抄紙機によりpH2.5の酸性条件で湿式抄造し、120℃で乾燥して熱膨張性マイクロカプセルを膨張させて透水性を有しつつ形状を維持した膨張済みマイクロカプセルとし、微細ガラス繊維を主体とした不織布シート中に平均粒子径15μmの膨張済みマイクロカプセルが略均一分散状態に20質量%混在した厚さ1.52mm、坪量119g/m2の密閉型鉛蓄電池用セパレータを得た。
【0026】
次に、上記にて得られた実施例1〜3及び従来例の各セパレータについて、以下の方法により、セパレータ諸特性を評価した。また、前記実施例1〜3及び従来例の各セパレータを、6M4(6V4Ahの略)の電池に組み込み電解液を注液して密閉型鉛蓄電池を作製し、以下の方法により、電池諸特性を評価した。結果を表1に示す。
[厚さ]
電池工業会規格SBA S 0406の方法に準じて測定した。
[坪量]
電池工業会規格SBA S 0406の方法に準じて測定した。
[密度]
電池工業会規格SBA S 0406の方法に準じて測定した。
[電気抵抗]
電池工業会規格SBA S 0406の方法に準じて測定した。
[吸液速度]
幅25mm、高さ10cm以上のセパレータを試料とし、試料を垂直状態にして比重1.30の硫酸中にその下端1cmを浸漬し、5分間に硫酸を吸い上げた高さを測定し、吸液速度(mm/5min)とした。
[クッション性]
10cm角にカットしたセパレータ10枚を1組とし、横型圧縮試験器を用いて0〜98kPaまで加圧し、19.6kPa加圧時の厚さ(T1)と、98kPa加圧時の厚さ(T2)を測定し、次式によりクッション性(セパレータの19.6kPa加圧時の厚さに対する98kPa加圧時の厚さ保持率)を算出した。
クッション性(%)=(T2/T1)×100
[サイクル寿命]
充電1A×2HR、放電0.4A×6HRを1サイクルとしてサイクル寿命試験を行った。寿命は、5.1Vまで1A放電して公称容量の50%を下回った時点を寿命と判定した。
[高率放電持続時間]
JIS試験法に準ずる高率放電を実施した。
【0027】
【表1】

【0028】
表1の結果から以下のことが分かった。
(1)実施例1〜3の密閉型鉛蓄電池用セパレータは、マイクロカプセルの膨張後の平均粒子径を40μmと大きく設定したので、マイクロカプセルの含有量を、セパレータの電解液濡れ性の著しい悪化を避けることのできる10質量%以下に設定したにも拘わらず、53%以下の高いクッション性(セパレータの19.6kPa加圧時の厚さに対する98kPa加圧時の厚さ保持率)を得ることができた。また、マイクロカプセルの膨張後の平均粒子径を40μmと大きく設定し、マイクロカプセルの含有量を10質量%以下に設定できたことで、疎水性のマイクロカプセルを含ませたことによるセパレータの電解液濡れ性の低下を最小限に留めることができ、電気抵抗が0.00090Ω・100cm2/枚以下となり、吸液速度が73mm/5min以上となった。
(2)微細ガラス繊維を主体とした不織布シート中に、電解液濡れ性を犠牲にしながらマイクロカプセルを混在させるようにしたことの主目的は、セパレータを低密度化してクッション性を高め良好な電池組立て作業性の下で電池組立て後の極板群に対してより高い圧迫力を与えることであり、従来例のセパレータでは、52%のクッション性を得るために、20質量%のマイクロカプセルを含有させる必要があったが、実施例のセパレータでは、実施例1に示す通り、3質量%のマイクロカプセル含有量で、ほぼ同等のクッション性(53%)を得ることができるという結果が得られた。よって、この実施例1と従来例の結果について更に比較評価してみると、実施例1の場合は、従来例に比較して、マイクロカプセル含有量を20質量%から3質量%に低減できたことで、セパレータの電解液濡れ性が飛躍的に向上し、密度が約13%向上したにも拘わらず電気抵抗が1/4以下に低減でき、吸液速度も2倍に向上した。また、実施例1の場合は、従来例に比較して、マイクロカプセル含有量を20質量%から3質量%に低減できたことで、セパレータ表面層に疎水性の部分を多く作らず大きな空間率を確保してセパレータ表面層に多くの電解液を保持することができたため、高率放電持続時間が20%向上し、良好な高率放電性能をもたらすことができた。
(3)実施例2及び実施例3の場合は、実施例1に比較して、マクロカプセル含有量を3質量%から、7〜10質量%にまで増量したものであり、その分セパレータの電解液濡れ性は低下し、電気抵抗が約1.5〜2倍に向上(悪化)し、吸液速度も10〜27%低下(悪化)したものの、クッション性(セパレータの19.6kPa加圧時の厚さに対する98kPa加圧時の厚さ保持率)は約9〜19%低下(良化)し、電池内圧迫力を23〜41%向上(良化)することができ、つまり、実施例1と同じ比較的良好な電池組立て作業性(電池組込圧力49kPa)の下で電池組立て後の極板群に対してより高い圧迫力を与えることができ、電池内でのセパレータと極板との密着性が向上し、サイクル寿命を20〜40%向上することができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均繊維径3μm以下の微細ガラス繊維を主体とし未膨張の膨張性マイクロカプセルを混合して湿式抄造し、前記膨張性マイクロカプセルを膨張させてなる、前記微細ガラス繊維を主体とした不織布シート中に前記マイクロカプセルが略均一分散状態に混在した構造の密閉型鉛蓄電池用セパレータであって、前記マイクロカプセルの含有量が1〜10質量%であり、前記マイクロカプセルが膨張により透水性を有した平均粒子径40〜100μmの膨張済みマイクロカプセルであり、セパレータのクッション性(セパレータの19.6kPa加圧時の厚さに対する98kPa加圧時の厚さ保持率)が55%未満であることを特徴とする密閉型鉛蓄電池用セパレータ。
【請求項2】
前記微細ガラス繊維が90〜99質量%と、前記マイクロカプセルが10〜1質量%とで構成されることを特徴とする請求項1記載の密閉型鉛蓄電池用セパレータ。
【請求項3】
正・負極板間に請求項1または2記載の密閉型鉛蓄電池用セパレータを介装したことを特徴とする密閉型鉛蓄電池。

【公開番号】特開2007−95372(P2007−95372A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−280393(P2005−280393)
【出願日】平成17年9月27日(2005.9.27)
【出願人】(000004008)日本板硝子株式会社 (853)
【Fターム(参考)】