説明

密閉型電池

【課題】電極体を収納する金属製の電池ケースが腐食しやすい環境下に設置される密閉型電池において、ポリエチレンテレフタレート製の外装カバーを用いた場合でも電池ケースの腐食を防止可能な構成を得る。
【解決手段】密閉型電池(1)は、電極体(30)が収納される金属製の電池ケース(1a)と、該電池ケース(1a)の外表面を覆うポリエチレンテレフタレート製の外装カバー(40)とを備える。外装カバー(40)の外表面上及び該外装カバー(40)によって覆われていない電池ケース(1a)の外表面上に、該電池ケース(1a)の腐食を防止するための保護層(60)を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極体を収納する電池ケースが腐食しやすい環境下に設置される密閉型電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、電極体を収納する電池ケースが腐食しやすい環境下に設置される密閉型電池が知られている。このような密閉型電池では、例えば特許文献1に開示されるように、鉄やステンレスなどの金属製の電池ケース内に、電極体が封入されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−192524号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述の特許文献1のように電池ケースが金属製の場合、ユーザーが該電池ケースに接触した際に感電しないように、一般的に、該電池ケースの外表面はポリエチレンテレフタレートなどの樹脂製の外装カバーによって覆われる。
【0005】
一方、上述の特許文献1のように電池ケースを金属製にすると、結露が生じやすい屋外などの環境下では、該電池ケースに腐食が生じやすい。そのため、このような環境下では、電池ケースの外表面をポリエチレンテレフタレート製の外装カバーによって覆った場合でも、該外装カバーを水分が透過したり、該外装カバーと電池ケースとの間の隙間から水分が浸入したりして電池ケースを腐食させる可能性がある。
【0006】
本発明では、電極体を収納する金属製の電池ケースが腐食しやすい環境下に設置される密閉型電池において、ポリエチレンテレフタレート製の外装カバーを用いた場合でも電池ケースの腐食を防止可能な構成を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施形態にかかる密閉型電池は、電極体が収納される金属製の電池ケースと、前記電池ケースの外表面を覆うポリエチレンテレフタレート製の外装カバーとを備えていて、前記外装カバーの外表面上及び該外装カバーによって覆われていない前記電池ケースの外表面上には、該電池ケースの腐食を防止するための保護層が形成されている(第1の構成)。
【0008】
この構成により、金属製の電池ケースの外表面をポリエチレンテレフタレート製の外装カバーによって覆う構成でも、電池ケースの外表面の腐食を防止することができる。すなわち、ポリエチレンテレフタレートは、ポリ塩化ビニル等の他の樹脂材料に比べて高い透湿性を有するが、上述のように、ポリエチレンテレフタレート製の外装カバーを保護層によって覆うことで、電池ケースの外表面まで水分が到達するのを阻止できる。
【0009】
しかも、ポリエチレンテレフタレートは、他の樹脂材料に比べて熱収縮しにくく電池ケースに沿って変形しにくいため、ポリエチレンテレフタレート製の外装カバーと電池ケースとの間には隙間が生じやすい。これに対し、上述の構成のように、電池ケース及び外装カバーの外表面上に保護層を形成することで、該電池ケースと外装カバーとの隙間を保護層によって覆うことができるため、該隙間から水分が入り込むのを防止できる。よって、上述の構成により、ポリエチレンテレフタレート製の外装カバーを用いた場合でも、電池ケースの外表面に腐食が生じるのを防止できる。
【0010】
前記第1の構成において、前記保護層は、ポリオレフィン系樹脂によって構成される(第2の構成)。これにより、ポリオレフィン系樹脂は、ポリウレタン系樹脂に比べて、経時変化が小さく且つ熱による劣化も少ないため、電池ケースの外表面をより確実に保護することができる。また、ポリオレフィン系樹脂は、ポリウレタン系樹脂に比べて粘度も低いため、小さな隙間や凹凸のある電池の表面でも、より確実に覆うことができる。さらに、ポリオレフィン系樹脂の場合に用いる溶媒は、例えばメチルシクロヘキサンなどの極性の低い溶媒なので、電池ケースの外周に配置される樹脂製の外装カバーなどを溶かしたり、該外装カバーに印字された文字を消したりすることがない。
【0011】
前記第1または第2の構成において、前記電池ケースに一端側が取り付け固定される引き出し端子をさらに備えていて、前記引き出し端子の一端側にも、前記保護層が形成されている(第3の構成)。
【0012】
これにより、電池から引き出し端子を介して電力を取り出すことが可能になる。しかも、引き出し端子のうち、電池ケースに取り付け固定される一端側には保護層が形成されるため、電池ケースとの取付部分で腐食が生じるのを防止できる。また、引き出し端子は、電池ケースに取り付け固定される一端側のみに保護層が形成されるため、該引き出し端子の他端側を機器の端子等に電気的に接続することができる。
【0013】
前記第1から第3の構成のうちいずれか一つの構成において、前記電池ケース上には、該電池ケースと前記引き出し端子とを電気的に絶縁するための絶縁部材が配置されていて、前記絶縁部材は、その一部が前記外装カバーによって覆われることにより、前記電池ケース上に固定されている(第4の構成)。
【0014】
こうすることで、電池ケースと引き出し端子との間を、絶縁部材によって電気的に絶縁することができる。ここで、絶縁部材は、その一部が外装カバーによって覆われることによって電池ケース上に固定されるため、電池ケースと絶縁部材との間、該絶縁部材と外装カバーとの間には、それぞれ、隙間が生じやすい。このような構成においても、上述の第1の構成のように保護層を形成することで、該保護層によって隙間を埋めることができ、該隙間から水分が浸入するのを防止できる。したがって、上述のような構成でも、電池ケースの外表面に腐食が生じるのを防止できる。
【0015】
前記第1から第4の構成のうちいずれか一つの構成において、前記電池ケースは、軸線方向に延びる略円柱状に形成されていて、前記引き出し端子は、前記電池ケースの軸線に対して交差する方向に延びるように、該電池ケースに対して取り付け固定されている(第5の構成)。
【0016】
これにより、電池ケース及び外装カバーの外表面上に保護層を形成する際に、引き出し端子を把持しつつ、該保護層を構成する液体中に電池ケースをディッピングすることが可能になる。したがって、電池ケース及び外装カバーの外表面上に保護層を容易に且つより確実に形成することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の一実施形態にかかる密閉型電池によれば、電池ケースの外表面をポリエチレンテレフタレート製の外装カバーによって覆うとともに、該電池ケース及び外装カバー上に保護層を形成した。これにより、ポリエチレンテレフタレート製の外装カバーを用いた場合でも、電池ケースの外表面に腐食が生じるのを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、本発明の一実施形態にかかる密閉型電池の概略構成を示す断面図である。
【図2】図2は、密閉型電池の外観の概略を示す斜視図である。
【図3】図3は、容器内の混合液に密閉型電池を浸漬させた状態を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照し、本発明の実施の形態を詳しく説明する。図中の同一または相当部分については同一の符号を付してその説明は繰り返さない。
【0020】
(全体構成)
図1は、本発明の一実施形態である密閉型電池1の概略構成を示す図である。この密閉型電池1は、内部に電極体30が収納された有底円筒状の外装缶10の開口側に封口体20が取り付けられたものである。すなわち、密閉型電池1は、外装缶10と、封口体20と、該外装缶10及び封口体20によって形成される空間内に収納される電極体30とを備えている。外装缶10と封口体20とによって、軸線方向に延びる略円柱状の電池ケース1aが構成される。この電池ケース1a内に形成される空間には、電極体30以外に、非水電解液(図示省略)も封入されている。
【0021】
外装缶10は、プレス成形によって有底円筒状に形成された鉄製の部材である。すなわち、外装缶10は、円形状の底部11と、円筒状の周壁部12とが一体形成されてなる。この外装缶10の周壁部12には、後述する電極体30の最外周部分が周壁部12の内周面の周方向全体に亘って接触している。なお、詳しくは後述するように、電極体30の最外周部分には、負極が位置しているため、外装缶10は負極の電位を有する。
【0022】
外装缶10の底部11には、引き出し端子2が溶接によって固定されている。この引き出し端子2は、ステンレスなどの金属材料からなる平板状部材であり、外装缶10の底部11に接続固定される端子本体部2aと、外部の配線等に接続される接続部2bとを備えている。すなわち、引き出し端子2は、軸線方向に延びる略円柱状の電池ケース1aに対して、軸線と交差する方向に延びるように取り付けられている。
【0023】
引き出し端子2の接続部2bは、その幅が端子本体部2aの幅に比べて小さくなるように形成されている(図2参照)。端子本体部2aは、図1に示すように、外装缶10の底部11との接続部分が、引き出し端子2の厚み方向で且つ外装缶10の底部11側に膨出するように形成されている。
【0024】
封口体20は、外装缶10の周壁部12の開口端部に固定される蓋板21と、該蓋板21の平面視で中央部に設けられた開口内にゴム製の絶縁パッキン24を介して装着された端子22と、該端子22の電池内方側に配置された絶縁体23とを備えている。この絶縁体23は、有底円筒状に形成されていて、底部の央部分にはガス通気口23aが設けられている。蓋板21は、絶縁体23の開口端部によって支えられた状態で、外装缶10の周壁部12の開口端部に、レーザ溶接等によって固定されている。なお、この蓋板21は、外装缶10の開口端に対して段差を生じるように、該外装缶10の周壁部12に固定されている。この段差によって生じたスペースに、後述するように絶縁板25が配置される。
【0025】
端子22は、軸部22aと、その両端に位置するフランジ部22b,22cとを有する。端子22は、これらのフランジ部22b,22cによって、蓋板21の開口周縁部に係合されている。端子22の電池内方側に位置するフランジ部22cは、軸部22aの先端部を潰して平坦化することによって形成される。すなわち、端子22は、絶縁パッキン24を蓋板21の開口周縁部に配置し且つ該蓋板の開口内に軸部22aを挿通させた状態で、該軸部22aの先端部を潰すことによって、蓋板21の開口周縁部に係合される。これにより、絶縁パッキン24は、端子22の軸部22aと蓋板21との間に挟み込まれる。したがって、絶縁パッキン24は、端子22と蓋板21とを電気的に絶縁するとともに、該端子22と蓋板21との間をシールしている。
【0026】
端子22の電池外方側のフランジ部22bには、上述の外装缶10の底部11と同様、外部の配線等に接続される引き出し端子3が溶接によって固定されている。この引き出し端子3は、ステンレスなどの金属製の平板状部材であり、密閉型電池1の端子22に接続される端子本体部3aと、外部の配線等に接続される接続部3bとを備えている。すなわち、この引き出し端子3も、軸線方向に延びる略円柱状の電池ケース1aに対して、軸線と交差する方向に延びるように取り付けられている。
【0027】
引き出し端子3の接続部3bは、引き出し端子2の接続部2bと同様、幅が端子本体部3aの幅よりも小さくなるように形成されている。また、引き出し端子3の端子本体部3aも、上述の引き出し端子2の端子本体部2aと同様、密閉型電池1の端子22との接続部分が、引き出し端子3の厚み方向で該端子22側に膨出するように形成されている。
【0028】
前記蓋板21上には、略ドーナツ状に形成された絶縁板25(絶縁部材)が配置されている。この絶縁板25は、外装缶10の開口端と蓋板21との間に形成される段差を埋めるように、該蓋板21上に配置される。すなわち、絶縁板25は、外装缶10の開口端と蓋板21との間に形成される段差の高さと同等の厚みを有している。例えば、絶縁板25は、0.3mmの厚みを有する。
【0029】
上述のような絶縁板25を蓋板21上に配置することにより、該蓋板21と端子22及び引き出し端子3とを絶縁板25によって電気的に絶縁することができる。すなわち、本実施形態では、蓋板21は外装缶10に接続されているとともに、後述するように該外装缶10は負極の電位を有している。そのため、蓋板21は、負極の電位を有している。これに対し、端子22及び引き出し端子3は、後述するように正極リード15を介して正極31に電気的に接続されているため、正極の電位を有している。これらの電位が異なる蓋板21と端子22及び引き出し端子3とを、上述の絶縁板25によって、電気的に絶縁することができる。
【0030】
また、絶縁板25は、その外周側部分が後述する外装カバー40によって覆われている。これにより、絶縁板25は、一部が外装カバー40と蓋板21との間に挟まれて該蓋板21上に固定される。
【0031】
なお、特に図示しないが、封口体20の蓋板21または外装缶10の底部11のいずれか一方には、密閉型電池1の内圧が上昇したときに開裂するベントが設けられている。このベントは、密閉型電池1の内圧が上昇した際に開裂するように薄肉に形成されていて、開裂することによって密閉型電池1内のガスを外部へ排出するように構成されている。
【0032】
電極体30は、特に図示しないが、シート状の正極31及び負極36がセパレータ35を介して厚み方向に積層された状態で、渦巻状に捲回されたものである。電極体30は、正極31が正極活物質を有する一方、負極36が負極活物質を有する。
【0033】
正極31は、帯状の正極集電体32と、該正極集電体32を挟みこむように設けられていて、互いに同一の厚み寸法を有する帯状の2枚の正極シート33とを有する。正極シート33は、正極活物質層を構成していて、例えば、正極活物質に導電助剤やバインダを配合し、必要に応じて水等を添加してなる正極合剤をロール等で圧延し、これを乾燥及び粉砕して再度圧延してシート状に成形することによって得られる。なお、正極活物質としては、二酸化マンガン、フッ化カーボン、リチウムコバルト複合酸化物またはスピネル型リチウム複合酸化物等を挙げることができる。また、導電助剤としては、黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラックまたはケッチェンブラック等から選択される一種または二種以上の複合物を挙げることができる。さらに、バインダとしては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)またはゴム系バインダを用いることができる。正極集電体32としては、ステンレス鋼からなる平織り金網、エキスパンドメタル、ラス鋼、パンチングメタルまたは金属箔等を用いることができる。
【0034】
正極シート33は、幅方向寸法(図1における密閉型電池1の長手方向)が正極集電体32の幅方向寸法よりも大きくなるように形成されている。また、図1に示すように、電極体30の正極31と端子22の下面とは、正極リード15によって接続されている。これにより、端子22及び該端子22に溶接固定された引き出し端子3は、正極の電位を有する。
【0035】
負極36は、帯状の負極集電体37と、該負極集電体37を挟み込むように設けられていて、互いに同一の厚み寸法を有する帯状の2枚の負極シート38とを有する。負極シート38は、金属リチウムをシート状に形成してなる。負極集電体37としては、銅、ニッケル、鉄またはステンレス等からなる金属箔を用いることができる。
【0036】
負極集電体37は、幅方向寸法(図1における密閉型電池1の長手方向)が負極シート38の幅方向寸法よりも大きくなるように形成されている。
【0037】
電極体30は、図1に示すように、負極36の負極集電体37が外部に露出するように、正極31及び負極36を重ね合わせた状態で巻回されてなる。これにより、電極体30の最外周面と接触する外装缶10の周壁部12は、負極36の負極集電体37と電気的に接続されて、負極となる。よって、外装缶10の底部11に溶接固定された引き出し端子2は、負極の電位を有する。
【0038】
また、電極体30において、軸線方向の両端部及び正極31と負極36との間に、セパレータ35が配置されている。詳しい説明を省略するが、このセパレータ35は、不織布と微孔性フィルムとを重ね合わせることによって構成されている。
【0039】
(保護層)
上述のような構成を有する密閉型電池1において、電池ケース1aの外表面上には、図1及び図2に示すように、ポリエチレンテレフタレート(PET)製の外装カバー40が取り付けられている。この外装カバー40には、密閉型電池1の型番等の文字41が印字されている。外装カバー40は、外装缶10の底部11において引き出し端子2が取り付けられる中央部分及び封口体20の引き出し端子3が取り付けられる端子22の周辺には設けられていない。すなわち、外装缶10の底部11及び封口体20はそれぞれ中央部分が露出した状態である。
【0040】
ここで、電池ケース1aの外表面上への外装カバー40の取り付けは、ポリエチレンテレフタレートの熱収縮を利用して行う。具体的には、ポリエチレンテレフタレート製の円筒部材を電池ケース1aに被せて、その状態で熱を加えて該円筒部材を熱収縮させることにより、外装カバー40を電池ケース1aの外表面上に密着させる。
【0041】
外装カバー40の外表面上には、結露等によって生じる水分から密閉型電池1を保護するための保護層60が形成されている。すなわち、保護層60は、図1に密閉型電池1の外表面上に太線で示すように、外装缶10の周壁部12上に設けられた外装カバー40上に形成されているとともに、該外装缶10の底部11や封口体20の外表面、取り付け端子2,3の一部を覆うように形成されている。詳しくは、保護層60は、取り付け端子2,3の接続部2b,3bの先端部分を除いて、密閉型電池1の外表面全体に形成されている。この取り付け端子2,3の接続部2b,3bの先端部分は外部の配線等に接続されるため、該先端部分には保護層60が形成されていない。
【0042】
保護層60は、ポリオレフィン系エラストマーを用いて構成される。具体的には、例えば、保護層60は、ポリプロピレン中に、EPDM(エチレン−プロピレン−ジエンゴム)やEPM(エチレン−プロピレンゴム)を微分散させた熱可塑性エラストマーを用いて構成される。なお、保護層60は、ポリオレフィン系樹脂であれば、上述の樹脂以外の樹脂であってもよい。
【0043】
このように、保護層60にポリオレフィン系エラストマーを用いることで、後述するように、メチルシクロヘキサンやエチルシクロヘキサンなどの極性の低い溶媒を用いることができる。これにより、酢酸ルチルのように極性の高い溶媒を用いないため、電池ケース1aの外表面を覆うポリエチレンテレフタレート製の外装カバー40が溶けたり、該外装カバー40に印字された文字41が消えたりするのを防止できる。
【0044】
また、保護層60にポリオレフィン系エラストマーを用いることで、ウレタン系樹脂を用いる場合に比べて水分を透過しにくくなるため、本実施形態のようにポリエチレンテレフタレートによって外装カバー40を構成しても、電池ケース1aの腐食を抑制することができる。すなわち、本実施形態で用いるポリエチレンテレフタレートは、ポリ塩化ビニル(PVC)等の他の樹脂に比べて透湿性が高いが、上述のようにポリオレフィン系エラストマーによって保護層60を形成することで、水分の透過を抑制して、電池ケース1aの腐食を防止することができる。
【0045】
さらに、保護層60にポリオレフィン系エラストマーを用いることで、ウレタン系樹脂に比べて、硬化前の液体状態での柔軟性が高くなるため、隙間等に入り込みやすくなる。したがって、本実施形態のように熱収縮しにくく変形しにくいポリエチレンテレフタレートによって外装カバー40を構成した場合でも、保護層60を形成する際に、隙間内にポリオレフィン系エラストマーが入り込んで、水分の浸入をより確実に防止できる。したがって、保護層60にポリオレフィン系エラストマーを用いることで、電池ケース1aに腐食が生じにくくすることができる。
【0046】
また、保護層60内には、該保護層60が密閉型電池1の外表面上に形成されているかどうかを確認するための蛍光塗料61(判別用塗料)が含まれている。この蛍光塗料61には、例えば、蛍光顔料としてバリウムまたはストロンチウムを含んだ材料が用いられる。この蛍光塗料61は、透明だが、所定の波長(波長380nm〜450nm)を有する紫外線を照射することによって、発光する。
【0047】
上述のような材質の蛍光塗料61を用いることで、該蛍光塗料61は紫外線を照射しない場合には発光せずに、保護層60は透明である。これにより、密閉型電池1の外装カバー40に印字された文字41が、保護層60の蛍光塗料61によって視認されにくくなるのを防止できる。
【0048】
そして、保護層60内に蛍光塗料61を含むことで、該保護層60が密閉型電池1の外表面上に形成されているかどうかを確認することが可能になる。すなわち、蛍光塗料61の発光を確認することによって、密閉型電池1の外表面全体に保護層60が形成されているかどうかを容易に確認することができる。特に、上述の構成により、密閉型電池1のうち金属が露出している部分(引き出し端子2,3、密閉型電池1の封口体20及び外装缶10の底部11)に保護層60が形成されているかどうかを確認できるため、当該部分が水分等によって腐食するのをより確実に防止できる。
【0049】
次に、保護層60の形成方法について説明する。
【0050】
まず、上述のポリオレフィン系エラストマーに、メチルシクロヘキサンやエチルシクロヘキサンなどの溶媒を混合するとともに、蛍光塗料61も混合する。このとき、溶媒に対して、ポリオレフィン系エラストマーを、約50%の重量比になるように混合する。本実施形態では、溶媒として、メチルシクロヘキサンにエチルシクロヘキサンを混ぜ合わせたものを用いる。しかしながら、これに限らず、溶媒として、メチルシクロヘキサンを100%用いてもよい。
【0051】
そして、図3に示すように、引き出し端子2,3の接続部2b,3bの先端部分のみがマスクされた密閉型電池1を、該先端部分を把持した状態で、上述のように形成された混合液62内に浸漬させる。これにより、密閉型電池1の外表面上に混合液62を付着させる。このように、引き出し端子2,3の接続部2b,3bの先端部分をマスクすることによって、外部の配線等と接続される当該先端部分に保護層が形成されるのをより確実に防止できる。なお、図3において、符号45が引き出し端子2,3の接続部2b,3bの先端部分を覆うマスク部であり、符号62が上述の混合液を、符号63が容器を、それぞれ示す。
【0052】
本実施形態では、引き出し端子2,3の接続部2b,3bの先端部分にマスク部45を設けている。しかしながら、この限りではなく、マスク部45を設けずに、先端部分を把持した状態で該先端部分を混合液62に浸漬させないようにしてもよい。
【0053】
その後、密閉型電池1の外周面上に付着した混合液62を所定時間(例えば室温で約3時間)、乾燥させて混合液62内の溶媒を蒸発させることにより、上述の保護層60を形成する。このように、混合液62内に密閉型電池1を浸漬させることによって、該密閉型電池1の外表面上に保護層60を均一に形成することができる。
【0054】
このとき、保護層60の厚みは、混合液62の粘度に大きく影響される。すなわち、混合液62の粘度が大きければ、密閉型電池1の外表面上に付着する混合液62が多くなり、その分、該密閉型電池1の外表面上に形成される保護層60の厚みも大きくなる。そして、混合液62の粘度は、溶媒に対するポリオレフィン系エラストマーの混合比率(溶媒に対するエラストマーの重量比)によって決まる。
【0055】
発明者らは、密閉型電池1の外表面に付着させる混合液62の混合比率の影響を調べるために、以下のような試験を行った。なお、以下の説明において、密閉型電池1の外表面上に形成された保護層60の膜厚は、密閉型電池1の重量変化に基づいて算出される。具体的には、密閉型電池1における保護層60の形成前後の重量変化の測定結果から、密閉型電池1の表面積と樹脂の比重とを用いて、保護層60の膜厚を算出する。
【0056】
まず、発明者らは、混合比率を変更した混合液を2種類(10%、25%)、作り、各混合液内に密閉型電池1を浸漬させた後、乾燥させることにより、2種類の密閉型電池を製作した。なお、密閉型電池の外表面に形成された保護層を、混合液の塗布前後(塗布前と塗布後22時間経過)の密閉型電池の重量差から算出すると、混合比率10%の場合には膜厚が1μm未満で、混合比率25%の場合には膜厚が約5μmであった。
【0057】
上述のように製作した各密閉型電池を水に漬けて、錆が発生するかどうかを確認した。試験結果を表1に示す。
【表1】

【0058】
表1から分かるように、混合比率10%の混合液を用いて保護層を形成した密閉型電池では、1週間程度で錆が発生した。一方、混合比率25%の混合液を用いて保護層を形成した密閉型電池では、1週間程度、水に漬けても錆は発生しなかった。よって、混合液の混合比率は、保護層の膜厚及び成形性の観点から20%以上が好ましく、25%以上がより好ましい。なお、混合液の粘度が高すぎても、密閉型電池の外表面上に混合液が無駄に付着するだけなので、混合液の混合比率は100%以下が好ましい。
【0059】
また、保護層の膜厚としては、上述の結果より、1μm以上が好ましい。より確実に密閉型電池の外表面上に保護層が形成されるためには、膜厚を5μm以上にするのがより好ましい。一方、保護層の膜厚は、無駄に厚くてもあまり意味がないため、30μm以下が好ましい。
【0060】
次に、保護層の膜厚の違いによる効果の違いを確認するために、膜厚が20μmの保護層を有する密閉型電池と、膜厚が10μmの保護層を有する密閉型電池とを製作した。これらの電池を、それぞれ水に漬けて、錆の発生の有無及びOCV(Open Circuit Voltage)の低下を確認した。表2に結果を示す。なお、密閉型電池の定格電圧は、いずれも3Vである。また、膜厚10μmの保護層は、膜厚20μmの保護層を形成する際に用いた混合液に比べて半分の濃度の混合液を用いて形成した。
【表2】

【0061】
この表2から分かるように、45日後には、保護層の膜厚がいずれの場合でも錆が発生していた。しかしながら、膜厚が10μmの場合には、OCVの低下は32mVであるのに対し、膜厚が20μmの場合には、OCVの低下は3mVであった。このことより、保護層の膜厚が大きい方が、高い耐環境性を有し、密閉型電池の性能低下をより抑制することができる。
【0062】
また、保護層の効果を確認するために、保護層が形成されていないステンレス製外装缶の密閉型電池も製作した。このステンレス製外装缶の密閉型電池(比較例1)と、混合比率25%の混合液を用いて5μmの膜厚の保護層を形成した本実施形態の密閉型電池(実施例1)とを、それぞれ水に漬けて、錆の発生の有無及びOCVの低下を確認した。表3に結果を示す。なお、ステンレス製外装缶の密閉型電池は、外表面上に外装カバーが形成されておらず、外装缶が表面に露出した状態である。
【表3】

【0063】
表3から分かるように、ステンレス製外装缶の密閉型電池(比較例1)では、約2週間で錆が発生するとともに、OCVの低下が39mVであった。一方、保護層が形成された本実施形態の密閉型電池(実施例1)では、約2週間で錆が発生したが、OCVの低下は5mVであった。これらの結果から分かるように、保護層が形成された本実施形態の密閉型電池(実施例1)は、ステンレス製外装缶よりも高い耐環境性を有する。なお、密閉型電池の定格電圧は、いずれも3Vである。
【0064】
さらに、ポリエチレンテレフタレート(PET)製の外装カバー40における保護層60の効果を確認するために、保護層60が形成されていない密閉型電池も製作した。なお、参考として、ポリ塩化ビニル(PVC)製の外装カバーを有し且つ保護層が形成されていない密閉型電池も製作した。これらの密閉型電池を、温度が85度で湿度が90%の炉内に入れて、錆の発生の有無を目視で確認した。表4に結果を示す。なお、この表4における実施例2では、保護層の厚みを約10μmとした。また、ポリエチレンテレフタレート(PET)製の外装カバーの厚みは0.08mmであり、ポリ塩化ビニル(PVC)製の外装カバーの厚みは0.04mmである。
【表4】

【0065】
表4から分かるように、保護層が形成されていないポリエチレンテレフタレート(PET)製の外装カバーを有する密閉型電池(比較例2)では、5日ですでに錆が発生しているのに対し、保護層を形成した密閉型電池(実施例2)では、20日を過ぎても錆が発生しなかった。また、ポリ塩化ビニル(PVC)製の外装カバーを有する密閉型電池(比較例3)は、10日を過ぎるまで錆が発生していない。このことから、ポリエチレンテレフタレート(PET)製の外装カバーは、ポリ塩化ビニル(PVC)製の外装カバーに比べて、水分を透過しやすく、電池ケース1aに錆が発生しやすいことが分かる。以上の結果から、水分を透過しやすいポリエチレンテレフタレート(PET)製の外装カバー上に、本実施形態のような保護層を設けることにより、電池ケース1aの腐食を効果的に防止できることが分かる。
【0066】
(実施形態の効果)
以上の構成により、電池ケース1aの外表面上にポリエチレンテレフタレート製の外装カバー40を設けるとともに、電池ケース1a及び外装カバー40の表面上に、結露等によって生じる水分から密閉型電池1を保護するための保護層60を設けた。これにより、密閉型電池1が結露等によって腐食するのを抑制することができる。すなわち、水分を透過しやすいポリエチレンテレフタレートによって外装カバー40を構成した場合でも、保護層60を設けることにより、電池ケース1aが腐食するのを防止できる。また、ポリエチレンテレフタレートは、比較的、熱収縮しにくく変形しにくい材料であるため、外装カバー40をポリエチレンテレフタレート製にすると、該外装カバー40と電池ケース1aとの間に隙間が生じやすい。これに対し、上述の構成のように、保護層60を設けることにより、外装カバー40と電池ケース1aとの間に生じた隙間を該保護層60によって塞ぐことができ、電池ケース1aの腐食の発生を効果的に防止できる。
【0067】
また、上述の保護層60を透湿性が低く柔軟性の高いポリオレフィン系エラストマーによって構成することで、上述のようにポリエチレンテレフタレート製の外装カバー40を用いた場合でも、電池ケース1aの表面まで水分が浸入するのを効果的に防止できる。これにより、ポリエチレンテレフタレート製の外装カバー40を用いた場合でも、密閉型電池1の腐食を防止することができる。
【0068】
さらに、保護層60を、ポリオレフィン系エラストマーによって構成することで、メチルシクロヘキサンやエチルシクロヘキサンなどの極性の低い溶媒を用いることができる。これにより、密閉型電池1の側面を覆う樹脂製の外装カバー40が溶媒によって溶けたり、該外装カバー40上に印字された文字41が消えたりするのを防止できる。
【0069】
また、全体として軸線方向に延びる略円柱状の電池ケース1aに対して、軸線と交差する方向に延びるように引き出し端子2,3を取り付けることで、該引き出し端子2,3を把持した状態で密閉型電池1を混合液62内に浸漬させることができる。これにより、密閉型電池1の表面全体に保護層60を形成することができる。しかも、引き出し端子2,3と外装缶11の底部11及び端子22との接続部分にも、保護層60を形成できるため、密閉型電池1に腐食が生じるのをより確実に防止できる。
【0070】
また、蓋板21上に絶縁板25を配置してその外周側を外装カバー40によって覆うことで、蓋板上に絶縁部を一体形成する場合に比べて円柱状の密閉型電池1の端部において構成の簡略化及びコンパクト化を図ることができる。しかも、このように、外装カバー40によって絶縁板25を蓋板21上に固定する構成では、絶縁板25と蓋板21との間、絶縁板25と外装カバー40との間にそれぞれ隙間が生じるが、上述の保護層60を設けることにより、それらの隙間を埋めることができる。これにより、このような構成においても電池ケース1aに腐食が生じるのを防止できる。
【0071】
しかも、保護層60内に蛍光塗料61を入れることにより、該保護層60が密閉型電池1の外表面全体に形成されているかどうかを容易に検出することができる。これにより、電池ケース1aを保護層60によってより確実に保護することができる。
【0072】
したがって、密閉型電池1の外装缶10を、ステンレス製ではなく、鉄製にしても、該外装缶10の腐食を抑制することが可能になる。よって、密閉型電池1の製造コストの低減を図れる。
【0073】
また、保護層60内に含まれる蛍光塗料61は、無色透明であり、紫外線を照射すると発光する。このように、紫外線を照射していないときには透明な蛍光塗料61を用いることによって、密閉型電池1の側面の外装カバー40上に印字された文字41等が認識しづらくなるのを防止できる。
【0074】
(その他の実施形態)
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。よって、本発明は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変形して実施することが可能である。
【0075】
前記実施形態では、両端に引き出し端子2,3が設けられた密閉型電池1の外表面上に保護層60を形成している。しかしながら、引き出し端子2,3が設けられていない電池など、他の構成の電池の外表面上に保護層を形成してもよい。
【0076】
前記実施形態では、保護層60内に、紫外線を照射すると発光する蛍光塗料61を含んでいる。しかしながら、保護層60内に、他の波長の光によって発光する蛍光塗料など、密閉型電池1の外表面上に形成されていることを検出できるような塗料であれば、どのような塗料を含んでいてもよい。また、保護層60内に、このような塗料を含んでいなくてもよい。
【0077】
前記実施形態では、密閉型電池1は、封口体20の端子22が正極の電位となる一方、外装缶10が負極の電位となるように構成されている。しかしながら、封口体の端子が負極の電位となり、且つ、外装缶が正極の電位となるように、密閉型電池を構成してもよい。
【0078】
前記実施形態では、外装缶10を鉄によって構成しているが、この限りではなく、底部11によって電極体30と引き出し端子2とを電気的に接続可能な構成であれば、他の金属材料によって構成してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明による密閉型電池は、屋外などの結露しやすい場所に設置される密閉型電池に利用可能である。
【符号の説明】
【0080】
1:密閉型電池、1a:電池ケース、2,3:引き出し端子、10:外装缶、20:封口体、21:蓋板、25:絶縁板(絶縁部材)、30:電極体、40:外装カバー、60:保護層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極体が収納される金属製の電池ケースと、
前記電池ケースの外表面を覆うポリエチレンテレフタレート製の外装カバーとを備えていて、
前記外装カバーの外表面上及び該外装カバーによって覆われていない前記電池ケースの外表面上には、該電池ケースの腐食を防止するための保護層が形成されている、密閉型電池。
【請求項2】
請求項1に記載の密閉型電池において、
前記保護層は、ポリオレフィン系樹脂によって構成される、密閉型電池。
【請求項3】
請求項1または2に記載の密閉型電池において、
前記電池ケースに一端側が取り付け固定される引き出し端子をさらに備えていて、
前記引き出し端子の一端側にも、前記保護層が形成されている、密閉型電池。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一つに記載の密閉型電池において、
前記電池ケース上には、該電池ケースと前記引き出し端子とを電気的に絶縁するための絶縁部材が配置されていて、
前記絶縁部材は、その一部が前記外装カバーによって覆われることにより、前記電池ケース上に固定されている、密閉型電池。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一つに記載の密閉型電池において、
前記電池ケースは、軸線方向に延びる略円柱状に形成されていて、
前記引き出し端子は、前記電池ケースの軸線に対して交差する方向に延びるように、該電池ケースに対して取り付け固定されている、密閉型電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−190756(P2012−190756A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−55634(P2011−55634)
【出願日】平成23年3月14日(2011.3.14)
【出願人】(511084555)日立マクセルエナジー株式会社 (212)
【Fターム(参考)】