説明

密閉形蓄電池

【課題】ガスを外部に導くことが可能な管状部材を容易に上蓋に取付けることができ、かつ取付け後には管状部材を抜け難くすることが可能となる密閉形蓄電池を提供する。
【解決手段】密閉形蓄電池は、電槽3と、電槽3に溶着された上蓋2と、上蓋2に設けられ電槽3内に発生したガスを外部に排出する排気口5を規定する開口端を有する筒状部とを備える。筒状部には、ガスを外部に導き、外周に嵌合凸部13aを有する接続管13の端部が挿着される。また筒状部は、開口端から当該筒状部の軸方向に延びる切欠き部5aと、内周に嵌合凸部13aを受け入れる嵌合溝5bとを有する。そして、筒状部の開口端からの切欠き部5aの深さd1と、開口端から嵌合溝5bまでの深さd2とを等しくする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、密閉形蓄電池に関し、特に、密閉形蓄電池の内部で発生したガスを外部に排出する排気部の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、蓄電池においては、電槽内で発生したガスを外部に排出するための様々な手法が提案されている。その中の1つに、電槽内で発生したガスを集めるガス流路を電槽内部に設け、このガス流路に排気管を連結し、該排気管を介して外部にガスを排出するという手法がある。このタイプのガス排気構造の一例が、たとえば特開2003−45380号公報等に記載されている。
【特許文献1】特開2003−45380号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
図11に、上記特開2003−45380号公報に記載のガス排気構造と類似のガス排気構造を有する密閉形蓄電池の排気口5およびその近傍の構造例を示す。図11に示す密閉形蓄電池では、上蓋2の側面から外方に突出する筒状部で排気口5が規定される。筒状部は、切欠き部5aと、嵌合溝5bとを有する。
【0004】
図12に、図11のXII−XII線に沿う断面構造を示す。図12に示すように、筒状部の開口端からの切欠き部5aの深さd1が、筒状部の開口端から嵌合溝5bまでの深さd2よりも大きくなっている。排気口5は、上蓋2の側壁に設けられた連通孔12を介して排気通路11と連通し、上蓋2は、溶着部19を介して電槽3と接続される。
【0005】
図13に示すように、排気口5を規定する筒状部には、排気管と接続される接続管13の端部が挿着されるが、接続管13の外周には嵌合溝5bと嵌合する嵌合凸部13aが設けられているので、嵌合凸部13aによって筒状部を外方に押し広げるように変形させながら接続管13は筒状部に挿着されることとなる。このとき、筒状部は、切欠き部5aの底部近傍の変形起点20を中心として外方に変形するものと考えられる。同様に、接続管13を筒状部から引き抜く際にも、筒状部は変形起点20を中心として変形するものと考えられる。
【0006】
図13の例では、変形起点20が筒状部の開口端から離れた深い位置に存在するので、筒状部への接続管13の挿着の際に筒状部が容易に変形し、接続管13を小さな力で筒状部に挿着することができるものと考えられる。しかしながら、接続管13を引き抜く際にも小さな力で行なえるものと考えられるので、接続管13が容易に外れることが懸念される。
【0007】
そこで、本発明は、ガスを外部に導くことが可能な管状部材を容易に上蓋に取付けることができ、かつ取付け後には管状部材を抜け難くすることが可能となる密閉形蓄電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る密閉形蓄電池は、電槽と、電槽に溶着された上蓋と、上蓋に設けられ電槽内に発生したガスを外部に排出する排気口を規定する開口端を有する筒状部とを備える。筒状部には、ガスを外部に導き、外周に嵌合凸部を有する管状部材の端部が挿着される。また筒状部は、開口端から当該筒状部の軸方向に延びる切欠き部と、内周に前記嵌合凸部を受け入れる嵌合溝とを有する。そして、筒状部の開口端からの切欠き部の深さと、開口端から嵌合溝までの深さとを等しくする。
【0009】
ここで、上記「筒状部の開口端からの切欠き部の深さと、開口端から嵌合溝までの深さとを等しくする」とは、筒状部の開口端からの切欠き部の深さと実質的に等しい深さ位置に嵌合溝の一部が存在するという意味である。したがって、筒状部の開口端からの切欠き部の深さと実質的に等しい深さ位置に、嵌合溝の深さ方向の上端部(筒状部の開口端側の端部)が位置する場合や、嵌合溝の深さ方向の中央部が上記深さ位置に存在する場合や、嵌合溝の深さ方向の下端部が上記深さ位置に存在する場合の全ての場合が含まれる。
【0010】
上記筒状部の周方向に等間隔で複数の切欠き部を設けることが好ましい。この場合、嵌合溝は、筒状部の開口端から離れた側の切欠き部の端部間を接続するように筒状部の周方向に延在することが好ましい。上記筒状部を含む排気口パーツを上蓋に溶着することで上蓋に筒状部を形成してもよい。
【発明の効果】
【0011】
上記のように筒状部の開口端からの切欠き部の深さと、開口端から嵌合溝までの深さとを等しくすることで、ガスを外部に導くことが可能な管状部材を容易に上記筒状部に取付けることが可能となる一方で、取付け後には上記管状部材を筒状部から抜け難くすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について図1〜図10を用いて説明する。
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1における密閉形蓄電池1の一部を示す斜視図であり、図2は、図1のII−II線に沿う断面図である。図3は、上蓋2に設けた筒状部およびその近傍の拡大図であり、図4は、接続管13を上記筒状部に接続した状態の部分断面図である。
【0013】
図1に示すように、密閉形蓄電池1は、電槽3と、電槽3の上端開口を閉じるように電槽3に取付けられた上蓋2とを備える。
【0014】
電槽3は、直方体形状の容器であり、たとえば合成樹脂で構成される。図2に示すように、電槽3の内部には、リブ7を有する隔壁6や極群8等の各種要素が収容される。上蓋2は、電槽3の上端開口に対応した矩形の平面形状を有し、合成樹脂で構成される。該上蓋2は、図4に示すように溶着部19を介して電槽3と接続される。上蓋2の上面には、図1に示すように、覆い板4を取付ける。上蓋2の側壁には、電槽3内に発生したガスを外部に排出する排気口5を規定する開口端を有する筒状部を設ける。
【0015】
図2に示すように、覆い板4の下には排気通路11が設けられる。排気通路11と、上記の極群8等を収容する各セル室とを区画する壁部に排気筒9を立設する。排気筒9の上端には、ゴム弁10を装着する。また、上蓋2の側壁には、排気通路11と排気口5とを連通する連通孔12を設ける。
【0016】
図3に示すように、排気口5を規定する筒状部は、円筒形状を有しているが、筒状であれば円筒以外の任意の形状を採用可能である。この筒状部は、その開口端から筒状部の軸方向に延びる切欠き部(スリット)5aと、嵌合溝(凹部)5bとを有する。この筒状部に、電槽3の内部で発生したガスを外部に導き、外周に嵌合凸部13aを有する接続管(ジョイント:管状部材)13の端部が挿着される。図3の例では、接続管13は、L形の形状を有し、合成樹脂製であり、該接続管13にはゴム等で形成される排気管14が接続されるが、接続管13や排気管14の形状や材質も任意に選択可能である。
【0017】
切欠き部5aは、典型的には、筒状部の周方向に等間隔で複数設けられるが、切欠き部5aの形成位置等は任意に選択可能である。また図3の例では、4つの直線状の切欠き部5aを設けているが、切欠き部5aの数、形状、長さ等も任意に選択可能である。筒状部の開口端からの切欠き部5aの深さ(筒状部の軸方向の長さ)はd1である。
【0018】
嵌合溝5bは、筒状部の周方向に延びるように設けられ、接続管13の嵌合凸部13aを受け入れる。図3の例では、嵌合溝5bは環状の形状を有し、筒状部の開口端から離れた側の切欠き部5aの端部間を接続するように筒状部の周方向に延在しているが、この嵌合溝5bの形状も任意に選択可能である。たとえば筒状部の周方向に断続的に嵌合溝5bを設けることも可能である。嵌合溝5bは、筒状部の開口端から深さd2の位置に形成される。
【0019】
図4に示すように、本実施の形態では、切欠き部5aの深さd1と、筒状部の開口端から嵌合溝5bまでの深さd2とを等しくしている。しかし、筒状部の開口端からの切欠き部5aの深さd1の位置に嵌合溝5bの一部が存在するように切欠き部5aと嵌合溝5bの形成位置を設定すればよい。
【0020】
図5に示すように、接続管13の端部を筒状部に挿着する際には筒状部が変形することとなるが、筒状部は、切欠き部5aの端部や嵌合溝5bが位置する部分あるいはその近傍を変形起点20として変形するものと考えられる。図13に示す場合と比較すると、変形起点20が筒状部の浅い位置に存在するので、図5の場合の方が筒状部を変形させるために必要となる力は大きくなるものと考えられる。また、接続管13を筒状部から引き抜く際も、同様に、図13に示す場合よりも大きな力が必要となるものと考えられる。
【0021】
ここで、接続管13を挿入する際に要する力(挿入力)については3.0kgf以下程度(挿入力目標範囲)であれば接続管13を手で容易に筒状部に挿着することができ、接続管13を引き抜く際に要する力(引抜力)が3.0kgf以上4kgf未満程度(引抜力目標範囲)であれば接続管13が容易に筒状部から外れないことを、本願発明者等は様々な試み等を通じて経験的に知得している。
【0022】
上記の数値を目標として、本願発明者等が図1〜5に示す構造を作製して実際に接続管13を筒状部に挿着したところ、筒状部への接続管13の挿着の際にはある程度大きな力が必要となるものの、挿入力および引抜力のいずれについても、目標とする上記の数値範囲を満足できることがわかった。
【0023】
ここで、本願発明者等は、図9(a)〜(c)に示すように切欠き部5aの深さの異なる3種類の筒状部(試料1〜3)を作製し、一般的に用いられている接続管13を挿入する際に必要となる力(挿入力)と、接続管13を引き抜く際に必要となる力(引抜力)とをプッシュプル(Push Pull)ゲージを用いて測定したので、その結果について説明する。なお、図9(a)は本件実施例に相当し、図9(b),(c)は従来例に相当する部分モデルである。
【0024】
また、図9(a)に示す試料1では、切欠き部5aの深さd3は3.8mmであり、図9(b)に示す試料2では、切欠き部5aの深さd4は6.15mmであり、図9(c)に示す試料3では、切欠き部5aの深さd5は8.5mmである。また、嵌合溝5bの中央部までの深さは、いずれも3.8mmである。各試料1〜3は、ポリプロピレン(PP)製であり、筒部外径はφ12.6mm、内径はφ8.1mm、嵌合溝の深さは0.3mm程度である。
【0025】
図10および表1に上記測定結果を示す。図10および表1に示すように、嵌合溝5bの深さを維持した状態で、切欠き部5aの深さd3〜d5を浅くしていくことで、挿入力と引抜力は共に大きくなり、また挿入力よりも引抜力の増大の程度が大きいことがわかる。
【0026】
【表1】

【0027】
その結果、切欠き部の深さが最も深い試料3では、挿入力よりも引抜力の方が小さかったものが、試料1,2では、挿入力と引抜力の関係が逆転し、引抜力の方が挿入力よりも大きくなっている。
【0028】
より具体的には、試料3では挿入力が0.66kgfに対し、引抜力は0.48kgfであった。また、試料2では挿入力が1.71kgfに対し、引抜力は1.98kgfであった。これら両方の試料について、いずれも挿入力については目標数値の3.0kgf以下を満足しているが、引抜力については目標数値の3.0kgf以上4.0kgf未満を満足していなかった。
【0029】
一方、試料1については、挿入力が2.80kgfに対し、引抜力は3.83kgfであり、挿入力および引抜力のいずれについても、目標数値の範囲内であった。
【0030】
以上より、図9(a)に示す試料1の構造、つまり筒状部の開口端からの切欠き部5aの深さと、上記開口端からの嵌合溝5bの深さとが等しい構造を採用することで、接続管13を手で容易に筒状部に挿着することができ、かつ筒状部への取付け後には接続管13を抜け難くすることが可能となる。なお、図10等の結果より、上記切欠き部5aや嵌合溝5bの深さが若干変動した場合でも、同様の効果が得られるものと推察される。
【0031】
(実施の形態2)
次に、図6〜図8を用いて、本発明の実施の形態2について説明する。図6は、本発明の実施の形態2における密閉形蓄電池1の一部を示す斜視図である。
【0032】
図6に示すように、本実施の形態2では、排気口5の周囲の構造が、上述の実施の形態1とは異なっている。具体的には、本実施の形態2では、上蓋2の側面に筒状受部15を設け、該筒状受部15に排気口パーツ16を装着している。
【0033】
図8に、図6のVIII−VIII線に沿う拡大断面図を示す。図8に示すように、排気口パーツ16は、排気口5を規定する筒状部と、この筒状部の開口端側を囲むように筒状部の外周から外方に張出す外側筒状部と、この外側筒状部の開口端に設けたフランジ部とを備える。筒状部の底部と上蓋2の側壁とは離隔しており、筒状部の底部には連通孔18を設け、上蓋2の側壁には連通孔12を設ける。この連通孔12と連通孔18とを介して、筒状部内の排気口と、排気通路11とが連通することとなる。また、外側筒状部のフランジ部は、溶着部17を介して上蓋2と接続される。
【0034】
図6および図7に示すように、外側筒状部のフランジ部は、排気口5を取り囲むように排気口5の周囲に設けられ、該フランジ部の外周形状は四角形である。排気口パーツ16を筒状受部15に取付けるには、筒状受部15の開口端上に排気口パーツ16のフランジ部を載置した状態で超音波溶着を行なえばよい。上記以外の構成は、実施の形態1の場合と基本的に同様である。
【0035】
本実施の形態2においても、図8に示すように、筒状部の開口端からの切欠き部5aの深さと、上記開口端からの嵌合溝5bの深さとを等しくする。それにより、実施の形態1の場合と同様に、接続管13を手で容易に筒状部に挿着でき、かつ筒状部への取付け後には接続管13を抜け難くすることが可能となる。
【0036】
以上のように本発明の実施の形態について説明を行なったが、上記の実施の形態の各構成要素は、全てが必須のものであるとは限らず、一部の構成要素を省略可能な場合があることも当初から予定している。また、今回開示した実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の実施の形態1における密閉形蓄電池の一部を示す斜視図である。
【図2】図1のII−II線に沿う断面図である。
【図3】蓄電池の上蓋に設けた筒状部およびその近傍の拡大図である。
【図4】図3に示す筒状部に接続した状態の断面図である。
【図5】図3に示す筒状部に接続管を挿着している状態を示す断面図である。
【図6】本発明の実施の形態2における密閉形蓄電池の一部を示す斜視図である。
【図7】上蓋に設けた筒状受部に排気口パーツを装着している状態を示す斜視図である。
【図8】図6のVIII−VIII線に沿う拡大断面図である。
【図9】(a)〜(c)は、挿入力と引抜力の測定用の試料1〜3の構造を示す断面図である。
【図10】試料1〜3についての挿入力と引抜力の測定結果を示す図である。
【図11】密閉形蓄電池の上蓋に設けた従来の筒状部の構造例を示す斜視図である。
【図12】図11のXII−XII線に沿う断面図である。
【図13】図11に示す筒状部に接続管を挿着している状態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0038】
1 密閉形蓄電池、2 上蓋、3 電槽、4 覆い板、5 排気口、5a 切欠き部、5b 嵌合溝、6 隔壁、7 リブ、8 極群、9 排気筒、10 ゴム弁、11 排気通路、12,18 連通孔、13 接続管、13a 嵌合凸部、14 排気管、15 筒状受部、16 排気口パーツ、17,19 溶着部、20 変形起点。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電槽と、
前記電槽に溶着された上蓋と、
前記上蓋に設けられ、前記電槽内に発生したガスを外部に排出する排気口を規定する開口端を有する筒状部とを備え、
前記筒状部には、前記ガスを外部に導き、外周に嵌合凸部を有する管状部材の端部が挿着され、
前記筒状部は、前記開口端から当該筒状部の軸方向に延びる切欠き部と、内周に前記嵌合凸部を受け入れる嵌合溝とを有し、
前記筒状部の開口端からの前記切欠き部の深さと、前記開口端から前記嵌合溝までの深さとを等しくした、密閉形蓄電池。
【請求項2】
前記筒状部の周方向に等間隔で複数の前記切欠き部を設け、
前記嵌合溝は、前記筒状部の開口端から離れた側の前記切欠き部の端部間を接続するように前記筒状部の周方向に延在する、請求項1に記載の密閉形蓄電池。
【請求項3】
前記筒状部を含む排気口パーツを前記上蓋に溶着することで前記上蓋に前記筒状部を形成した、請求項1または請求項2に記載の密閉形蓄電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2008−47344(P2008−47344A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−220014(P2006−220014)
【出願日】平成18年8月11日(2006.8.11)
【出願人】(000161312)宮川化成工業株式会社 (13)
【Fターム(参考)】