説明

対向電極を設けた静電塗装用スプレーガン

【課題】接地された荷電電極を突設した霧化頭部に、スプレーガン胴部の電食を防ぎ効果的なイオン化圏域を形成する対向電極を、近接して着脱可能に取り付けた静電塗装用スプレーガンを提供する。
【解決手段】胴部内に高電圧発生器を内蔵し、塗料ノズルの先端に荷電電極を突設し、噴出する塗料の微粒子に高電圧が帯電されるイオン化圏域を形成する空気霧化式の静電塗装用スプレーガンであって、先端の荷電電極8と近接し、且つ直線で結んだとき空気キャップ9の角部11の干渉がない位置に対向電極15を着脱可能に取り付けた。また、対向電極15は抵抗体17とともに電極支持体18に保持され、スプレーガンの霧化頭部2に着脱可能な把持部材と接地されたガンステー24に取り付けが可能な嵌着片22を突設した一体型のワンタッチ式の対向電極ユニット20として形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶剤系塗料などの電気抵抗が比較的大きい塗料に適した静電塗装用スプレーガンに係わり、スプレーガンの霧化頭部に荷電電極と近接して対向電極を着脱可能に取付けたものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、空気霧化式の静電塗装用スプレーガンは、塗料ノズルと圧縮空気で塗料を霧化する空気キャップを備えた先端の霧化頭部と、接地された握り部及び前記霧化頭部と握り部を絶縁するための胴部とからなり、胴部には高電圧を発生させる高電圧発生器が内蔵され、先端の霧化頭部の塗料ノズルに荷電電極が突設され、この荷電電極に数十KVの負の高電圧を荷電することによりイオン化圏域が形成され、このイオン化圏域に空気キャップからの圧縮空気の噴射により微粒化された霧化塗料を通過させることで塗料に負の帯電をさせると共に、前記荷電電極と被塗物との間に形成される電界と、霧化及びパターン形成空気の搬送力によって塗料を被塗装物に塗着させるものである。
【0003】
ここで、前記荷電電極によって形成されるイオン化圏域が効果的に形成されるかどうかによって塗料への帯電効果が大きく異なってくる。そのため、従来より荷電電極と被塗装物との間の電界とは別に、荷電電極との間に別の電界を形成することにより強いイオン化圏域を形成する手段として対向電極が用いられてきた。即ち、塗着効率向上のために、先端の荷電電極から放電が促進されるよう対向電極を先端の荷電電極と離開して接地されたスプレーガンの胴部の上部または側部などに配置している。
【0004】
例えば、図7に示すように、手持ち式のスプレーガンにあっては対向電極Aをガン胴部Bの上方に突設したフック部Cの先端に設けたものがある。この場合、先端の荷電電極Dからの電流はガンの胴部Bに沿って沿面部Eを流れるため絶縁性樹脂からなるガン胴部表面が電食されやすい欠点がある。また、荷電電極と対向電極の間の距離が長いため、流れる電流は湿度の影響を受けやすく安定したイオン化形成を得にくい。ガン胴部内の高電圧発生器Fの昇圧回路付近に、接地された対向電極が位置することでガン胴部の絶縁破壊を起こしやすい。更に、ガンを引っ掛けておく金具にフック部が接触して対向電極を破損するおそれもある。
【0005】
また、特許文献1の特開平8−84942は静電自動スプレーガンであるが、先端に突出する荷電電極に対し、ガン胴部外側に抵抗体を内蔵した対向電極を先端に向け突設したものが開示されている。特許文献2の特開2007−203158には、荷電電極となるピン電極を中心とする空気キャップの外周円周上に、対向電極の作用を奏する導電性リングを着脱可能に取り付けた技術が示される。その他に、対向電極を使用する先行技術として、例えば、金属製の塗料パイプを対向電極とする特開昭58−80470号公報、金属製の塗料パイプの一部若しくは導電性のフック部の一部を対向電極とした特公昭61−40470号公報がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−84942号公報
【特許文献2】特開2007−203158号公報
【特許文献3】特開昭58−80470号公報
【特許文献4】特公昭61−40470号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記したように、スプレーガンの胴部の上部又は側部などに対向電極を配置すると、先端の荷電電極から放電されるイオンがガンの胴部などの沿面を伝い放電される結果、ガンの胴部は電食されることになる。電食を防ごうと対向電極をガン前方に配置すると、先端の荷電電極との距離が近くなり放電が促進されて荷電電極の電圧が降下してしまい、十分な放電を得ることができない。また、電食を防ぎ電圧を保持できる箇所に対向電極を配置すると、図8に示すように対向電極Aは先端の荷電電極Dを遠巻きにするため塗装作業の邪魔になる。
【0008】
本発明はこのような課題を考慮してなされたものであり、スプレーガンの胴部の電食を防ぐとともに、荷電電極の効果的な放電を維持してイオン化圏域を形成し帯電効率を維持する対向電極を、スプレーガンの外部であって塗装作業の邪魔にならない位置に、しかもワンタッチにて着脱可能に取り付けた静電塗装用スプレーガンを提供することを目的とするものである。その場合、対向電極をスプレーガンの先端に配置するとき、荷電電極との距離が近接するので電流の流れすぎにより電圧が下がらないように抵抗体を対向電極に内蔵することで放電する電流値の制御を可能とし、既存のスプレーガンにワンタッチで着脱可能な対向電極ユニットとしたものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、請求項1記載のスプレーガンは、胴部内に高電圧発生器を内蔵し、塗料ノズルの先端に荷電電極を突設し、噴出する塗料の微粒子に高電圧が帯電されるイオン化圏域を形成する空気霧化式の静電塗装用スプレーガンであって、先端の荷電電極に近接し、該荷電電極と直線で結んだとき空気キャップの角部の干渉がない位置に対向電極を着脱可能に取り付けたことを特徴とする。
【0010】
請求項2記載のスプレーガンは、請求項1に記載のスプレーガンであって、対向電極は抵抗体と共に電極支持体に保持され、霧化頭部に着脱可能な把持部材とガンステーに取り付け可能な嵌着片を有する対向電極ユニットとして形成したものをワンタッチにて着脱可能としたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、荷電電極と対向電極の両電極間の距離が近くなることで、湿度による電流の振れ(乾いた空気と湿った空気の場合とで、流れる電流値が異なる。)を抑えられる効果がある。また、抵抗体の挿入で電流値を制御し、電流の振れを抑えることで無駄な電流をなくし、塗料の微粒子に対する効果的な帯電が可能となると共に、高電圧発生器のトランスへの負荷低減につながる。また、対向電極は、既製品のスプレーガンに取り付けるためのビス等を用いないクリップ式にて固定できるユニット構造としたためワンタッチで着脱可能で、空気キャップの交換及びガンの先端部の洗浄時にも簡単に取り外しでき容易に対処できる。更に、対向電極ユニットが塗料パイプと重なる位置に取り付けられることで該塗料パイプがガードとなり、対向電極ユニットの破損の防止となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施例を示す対向電極ユニットを取り付けた静電塗装用スプレーガン(以下、静電ガンという。)の側面図である。
【図2】同静電ガンの正面図である。
【図3】同静電ガンの霧化頭部を拡大した断面図である。
【図4】同対向電極ユニットを取り付ける前の説明図である。
【図5】同静電ガンの霧化頭部を拡大した斜視図であり、空気キャップを縦吹きとした状態の荷電電極と対向電極の位置関係を示すものである。
【図6】静電ガンの霧化頭部を拡大した正面図で、荷電電極と対向電極の位置関係を示す。
【図7】対向電極をフック部に設けた従来の静電ガンの沿面放電を示す説明図である。
【図8】沿面放電を避けて電圧が下らない程度の距離を確保するも対向電極が塗装作業の邪魔になる一例を示す従来の静電ガンの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を図示する実施形態により具体的に説明する。図1は、本発明の一実施形態の静電ガンの概略を示す側面図で、静電ガン本体1は先端の霧化頭部2と絶縁材料から形成された胴部3と握り部4とで構成されている。胴部3内には昇圧回路、トランス及び保護抵抗を内蔵し絶縁性樹脂でモールドされたカートリッジ式の高電圧発生器5が収容されている。該高電圧発生器5の出力端子5aが導線5bと接続され、先端の霧化頭部2内の塗料ノズル6内を進退する接地されたニードル弁7と導通し、該ニードル弁7の先端に突設されたピン状の荷電電極8と電気的に接続される。かくして高電圧発生器5にて発生された高電圧は塗料ノズル6の先端に突出するピン状の荷電電極8に供給される。
【0014】
9は塗料ノズル6に嵌合された空気キャップで、塗料ノズル6との間に環状の空気噴出口10を備え、塗料を圧縮空気にて微粒化すると共に、対向する角部11のパターン形成空気孔11aから噴射される圧縮空気により塗装に適した長円形の噴霧パターンを形成する。12は空気キャップ9を外側から保持するカバーで、胴部3の先端部に螺挿され、該カバー12を緩めることで空気キャップ9の向きを90度の角度で回動し、噴霧の向きを縦吹き又は横吹きに変更できるようにしている。13は空気キャップ9に設けられた補助空気孔、14は霧化頭部2内に形成された空気通路である。
【0015】
15は霧化頭部2の荷電電極8に近接して空気キャップ9の外側に取付けられた対向電極で、先端に電極ピン16を突設し、該電極ピン16に近接して抵抗体17を電極支持体18内に内蔵する対向電極ユニット20を構成する。尚、抵抗体17の抵抗値は種々条件により適宜決定すればよいが、電圧−40kVで電流値が20μA程度流れるように抵抗値を算出した。本実施例によれば抵抗値は、3GΩ前後で塗着効率向上に顕著な効果が確認できた。
【0016】
対向電極ユニット20は、図4に分解して示すように、絶縁樹脂製の断面がC型を呈する把持部材19の基部にて対向電極15を保持すると共に、空気キャップ9のカバー12が嵌合された胴部3との凹段部21の周面に把持部材19がクリップ式に装着され、接地側となる基端は導電性のガンステー24に嵌着片22により装着されている。
【0017】
この嵌着片22は、ワンタッチでガンステー24に取り付け得るよう、例えば金属製の薄板にて形成した弾発を有する取付け片で構成し、導体23にて電極支持体18に連結した構成である。尚、該ガンステー24は握り部4の下方にあって空気ホースジョイント25、電源コネクタ26、塗料ホースジョイント27を一体的に保持する連結部材である。このように対向電極ユニット20は静電ガン本体1にワンタッチ式に着脱可能に取り付けられる。従って、既存の静電ガンにそのまま、即ち、ガンの構造を変えることなく装着が可能となる。
【0018】
尚、対向電極15の位置は、胴部3の電食防止の観点より先端の荷電電極8に対し直線距離において可及的に近接した空気キャップ9の周縁部とすることが好ましい。しかし、空気キャップ9の上部に取り付けた場合はフックの手前側に位置することからフック使用時に邪魔になったり破損の危険もある。従って、次の条件を満たす位置であることが必須となる。即ち、図6に示すように先端の荷電電極8と対向電極15の先端を直線Xで結んだとき、空気キャップ9の角部11の干渉が一切ないY1〜Y2の範囲の場所Yである必要がある。
【0019】
つまり、空気キャップ9には噴霧パターンを形成するパターン形成空気孔11aを有する角部11が対向して突設されており、被塗装物の形状によって縦吹き又は横吹きの噴霧パターンを選択するために、空気キャップ9を中心の荷電電極8に対し90度の角度で回動させることがある。図2の正面図における空気キャップ9の向きは横吹きのパターンを形成するための位置にあり角部11は垂直位置にある。また、図6の拡大斜視図における空気キャップ9の位置は縦吹きの噴霧パターンを形成するための位置にあり、角部11は水平位置にある。従って、荷電電極8を中心として90度の垂直、水平位置より内側となる斜め位置(図6のY1〜Y2の範囲)が空気キャップ9の角部11による干渉がない位置となる。
【0020】
尚、静電ガン本体1の構造は周知であり特に詳述しないが、図中28は塗料パイプで先端は霧化頭部2内の塗料ノズル6内の塗料流路6aに塗料ジョイント29により接続され、後端はガンステー24に取り付けられた塗料ホースジョイント27に接続されている。塗料ノズル6は内部に挿通されたニードル弁7の進退により開閉し、中心噴出口6aより噴出される塗料を制御する。30は握り部4内に形成された圧縮空気導入路で、引金31を引くことによりニードル弁7を作動すると共に空気弁32を作動し、霧化頭部2の空気通路14に圧縮空気を送出し、空気キャップ9の空気噴出口10より圧縮空気を噴射して、塗料ノズル6から噴出する塗料を微粒化すると共に、塗装に適した噴霧パターンを形成する。33は電源コネクタ26に接続する電気回路で、引金31が引かれると胴部3内の高電圧発生器5に高周波電圧が供給される。34は胴部3の上部に突設された静電ガン1を引っ掛けるためのフックである。
【0021】
図1、図2にて明らかなように、対向電極ユニット20は塗料パイプ28と略同様の傾斜度をもって塗料パイプ28に重なるように取り付けられる。従って、静電ガンの操作中に誤って周辺の機器に接触しても塗料パイプ28がガードとなり、対向電極ユニット20の破損を防止することができる。
【0022】
次に、本発明の使用方法を説明する。
引金31が引かれると電源コネクタ26及び電気回路33を通して高電圧発生器5に高周波電圧が供給され、−40kVの負の高電圧が出力端子5a、導線5bを経て霧化頭部2の先端のピン状の荷電電極8に供給される。塗料はニードル弁7が引かれ塗料ノズル6の中心口6aより噴出すると同時に空気キャップ9の環状の空気噴出口10との間から噴射される空気により微粒化される。また、微粒化を促進するため、空気噴出口10の円周上に設けた補助空気孔13からの空気が噴射される。このとき、ピン状の荷電電極8と空気キャップ9の外周下側に先端を臨ませる対向電極15との間に形成された電界によりイオン化圏域が形成され、塗料の微粒子には負の高電圧が帯電される。
【0023】
負の高電圧を帯電した塗料の微粒子は、空気キャップ9の対向する角部11のパターン形成空気孔11aから噴射されるパターン形成空気により塗装に適した長円形状の噴霧パターンに形成され、噴射空気の搬送力と荷電電極8と被塗装物間に形成された電気力線に乗り被塗装物に塗着され静電塗装が行われる。
【0024】
本発明にあっては、対向電極15を先端の荷電電極8と近接し、且つ荷電電極8との間を直線で結んだとき空気キャップ9の角部11の干渉がない位置に取り付けたことで、両電極間に電気力線が形成され、後方の静電ガン胴部2への沿面放電が防止できる。従って、静電ガン胴部の沿面の電食を防ぐことができると共に、胴部2への塗料微粒子の戻り付着を防止できる。
【0025】
また、対向電極15を既存の静電ガンに取付け可能とするため、対抗電極15に抵抗体17を接続した電極支持体18をクリップ式にワンタッチで取り付けできる対向電極ユニット20とした。これにより対向電極の取り付けが簡単にできると共に、空気キャップの交換時や洗浄時に容易に取外しができる。
【0026】
また、対向電極15に抵抗体17を接続して電極支持体18を構成したため、荷電電極8と対向電極15間の距離が近接するにも拘わらず急激な電圧降下を防ぐことができ、帯電効果を高めたイオン化圏域を形成することができる。
【0027】
更に、対向電極ユニット20が静電ガンに取り付けられたとき、既設の塗料パイプ28に重なるように取り付けられるため、該塗料パイプ28がガードとなり、対向電極ユニット20を破損から防止することができる。
【符号の説明】
【0028】
1 静電ガン本体
2 霧化頭部
3 胴部
4 握り部
5 高電圧発生器
6 塗料ノズル
7 ニードル弁
8 荷電電極
9 空気キャップ
10 空気噴出口
11 角部
12 カバー
15 対向電極
16 電極ピン
17 抵抗体
18 電極支持体
19 把持部材
20 対向電極ユニット
22 嵌着片
23 導体
24 ガンステー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
胴部内に高電圧発生器を内蔵し、塗料ノズルの先端に荷電電極を突設し、噴出する塗料の微粒子に高電圧が帯電されるイオン化圏域を形成する空気霧化式の静電塗装用スプレーガンであって、先端の荷電電極と近接し、且つ該荷電電極と直線で結んだとき空気キャップの角部の干渉がない位置に対向電極を着脱可能に取り付けたことを特徴とする対向電極 を設けた静電塗装用スプレーガン。
【請求項2】
対向電極は、抵抗体と共に電極支持体に保持され、スプレーガンの霧化頭部と、接地されたガンステーにそれぞれ着脱可能な固定手段を設けた一体型の対向電極ユニットとして形成したことを特徴とする請求項1に記載の対向電極を設けた静電塗装用スプレーガン。
【請求項3】
対向電極は、抵抗体と共に電極支持体に保持され、スプレーガンの霧化頭部に着脱可能な把持部材と、接地されたガンステーに取り付けが可能な嵌着片を突設した一体型の対向電極ユニットとして形成したことを特徴とする請求項1に記載の対向電極を設けた静電塗装用スプレーガン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−11298(P2012−11298A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−149437(P2010−149437)
【出願日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【出願人】(390028495)アネスト岩田株式会社 (224)
【Fターム(参考)】