説明

対数変換回路

【課題】パルス系検出器の数え落としに対する補正を極力理想通りに行うことができて、高精度の放射線計測が可能な対数変換回路を提供する。
【解決手段】対数変換回路3は、放射線を検出するパルス系検出器1から出力されるパルス信号がパルス数に応じた電流値に変換された後に入力される信号を対数変換して出力するもので、演算増幅器30を備え、この演算増幅器30の入力信号が入力される一方の入力端側には第1のトランジスタ31が、演算増幅器30の出力端側には当該演算増幅器30の出力により直流電源からの電流量が制御される第2のトランジスタ32がそれぞれ接続されるとともに、両トランジスタ31,32に対しては両トランジスタからの出力電流が合流する抵抗33が共通に接続されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線を検出するパルス系検出器から出力されるパルス信号がパルス数に応じた電流値に変換された後に対数圧縮して出力する対数変換回路に係り、特には、パルス系検出器のパルス数の数え落としを自動的に補正することができる対数変換回路に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、中性子などの放射線を検出する比例計数管などのパルス系検出器から出力されるパルス信号を検出して放射線強度などを計測するための信号処理回路として、図5に示す構成のものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この信号処理回路は、パルス系検出器1から放射線強度に応じたパルス数をもつパルス信号が出力されるので、このパルス信号を図示しない前段増幅器等で増幅した後、F/I変換器2に入力し、このF/I変換器2でパルス信号のパルス数に応じた電流値に変換する。次いで、対数変換回路3でこの入力信号を対数変換して電圧信号として出力する。
【0004】
ここに、対数変換回路3を設けているのは、パルス系検出器1から出力されるパルス数は、10cps〜10cps程度の範囲の広いタイナミックレンジをもつため、対数変換により信号圧縮して後段の信号処理を容易にする必要があるためである。
【0005】
ところで、上記のパルス系検出器1においては、放射線入力に伴う電離現象などを利用してパルスを発生させる機構であるので、パルス数が多くなる高計数率の領域でパルスの数え落としが発生し、検出器1から本来発生すべきパルス数に対して実際に出力されるパルス数が減少するという現象が発生する。
【0006】
そこで、従来技術では、対数変換回路3において、演算増幅器3aの負極性端子と出力端子との間に、対数特性を有するトランジスタ3bに直列に抵抗3cを接続したものを接続し、これにより、パルスの数え落としを補正するようにしている。すなわち、対数変換回路3の入力電流をIin、対数変換回路3の出力電圧をVout、抵抗3cの抵抗値をR、lnを自然対数とすると、
Vout=−[ln(Iin)+R・Iin] (1)
となるので、対数変換された信号ln(Iin)がR・Iinにより線形補正される。
【0007】
図6は、対数変換回路の出力Voutと、この出力Voutに基づいて演算処理によって放射線強度(計数率)を求めた場合の関係を示す特性図である。
【0008】
図5に示した構成の対数変換回路3において、抵抗3cを設けずに入力電流を単純に対数変換(ln(Iin))して得られる出力電圧Voutから放射線強度(計数率)を求めた場合には、図中の符合L0(細実線)で示すような直線的な関係になるが、前述のごとく、パルス系検出器1はパルス数が多くなると数え落としが発生するので、L0に示す関係によって放射線強度を求めた場合には、パルス系検出器1で本来検出すべきパルス数を計測したことにはならず、計測誤差を生じる。
【0009】
これに対して、図5に示したように、対数変換回路3においてトランジスタ3bに抵抗3cを直列接続した場合には、上記の(1)式のようになるため、その出力電圧Voutから放射線強度(計数率)を求める場合には、図中の符合L1(二点鎖線)で示すような関係となり、パルス系検出器1のパルスの数え落としをある程度補正することが可能である。
【0010】
【特許文献1】特開平5−232007号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、図5に示した構成の対数変換回路3は、(1)式から分かるように、対数変換された信号ln(Iin)をR・Iinにより線形補正して出力電圧Voutとして生成するものであるから、放射線強度が弱くてパルス系検出器1が数え落としを生じない場合でも出力電圧Voutが補正される一方、数え落としが多くなる高計数率の領域では、補正量が少なくなって、図6中の符合L2(太実線)で示す理想的な数え落とし補正の関係から外れてしまい、数え落としを精度良く補正することができず、計測精度が悪くなるという不具合を生じている。
【0012】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたもので、パルス系検出器の数え落としに対する補正を極力理想通りに行うことができて、高精度の放射線計測が可能な対数変換回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的を達成するために、本発明は、放射線を検出するパルス系検出器から出力されるパルス信号がパルス数に応じた電流値に変換された後に入力される信号を対数変換して出力する対数変換回路において、次の構成を採用している。
【0014】
すなわち、第1の発明では、演算増幅器を備え、この演算増幅器の上記入力信号が入力される一方の入力端側には第1のトランジスタが、上記演算増幅器の出力端側には当該演算増幅器の出力により直流電源からの電流量が制御される第2のトランジスタがそれぞれ接続されるとともに、両トランジスタに対しては両トランジスタからの出力電流が合流する抵抗が共通に接続されてなることを特徴としている。
【0015】
また、第2の発明では、演算増幅器を備え、この演算増幅器の上記入力信号が入力される一方の入力端側には直流電源からの電流が流入する第1のトランジスタが、上記演算増幅器の出力端側には当該演算増幅器の出力により上記直流電源からの電流量が制御される第2のトランジスタがそれぞれ接続されるとともに、両トランジスタと直流電源との間に抵抗が共通に接続されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、パルス系検出器の数え落としに対する補正を理想通りに行うことができるので、放射線計測を高精度に行える対数変換回路を提供することが可能となる。特に、第1の発明では対数変換回路に対する入力電流が正極性の場合に、第2の発明では入力電流が負極性の場合にそれぞれ対応することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
実施の形態1.
図1は本発明の実施の形態1における対数変換回路を備えた信号処理回路を示す構成図である。
【0018】
この信号処理回路は、放射線を検出する比例計数管などのパルス系検出器1、このパルス系検出器1から放射線強度に応じたパルス数をもつパルス信号をパルス数に応じた電流値に変換するF/I変換器2、およびこのF/I変換器2から出力される信号を対数変換して電圧信号として出力する対数変換回路3を備えている。
【0019】
上記の対数変換回路3は、演算増幅器30、NPN形の第1、第2のトランジスタ31,32、および抵抗33を備える。そして、演算増幅器30のF/I変換器2からの信号が入力される一方の入力端側(負極性端子)に第1のトランジスタ31のコレクタが接続され、演算増幅器30の他方の入力端側(正極性端子)は接地され、演算増幅器30の出力端側(出力端子)には第2のトランジスタ32のベースが接続されている。また、第1、第2のトランジスタ31,32のエミッタには抵抗33の一端側が共通に接続され、この抵抗33の他端側には直流電源の負極(−V1)が接続されている。さらに、第1のトランジスタ31のベースは接地され、また第2のトランジスタ32のコレクタには直流電源の正極(+V1)が接続されている。
【0020】
上記構成において、パルス系検出器1から出力されるパルス信号は、次段のF/I変換器2でパルス数に応じた電流値に変換されて出力される。次いで、対数変換回路3は、この入力信号を対数変換して電圧信号として出力する。
【0021】
この場合、対数変換回路3に着目すると、F/I変換器2からの入力電流Iinは、演算増幅器30の負極性端子(−)に入力されるとともに、第1トランジスタ31および抵抗33を介して直流電源の負極(−V1)に流れる。これにより、演算増幅器30の両入力端子間に電位差が生じると、演算増幅器30からはその電位差に応じた電圧が出力される。そして、この演算増幅器30の出力によって第2のトランジスタ32が電流制御されて、直流電源の正極(+V1)から第2のトランジスタ32および抵抗33を介して直流電源の負極(−V1)に電流が流れる。
【0022】
ここで、抵抗33に流れる電流をIfとし、F/I変換器2からの入力電流をIin、第2のトランジスタ32に流れる電流をIcとすると、Ic=If−Iinであり、第1、第2のトランジスタ31,32の対数特性により、対数変換回路3の出力電圧をVout、lnを自然対数とすると、
Vout=−[ln(Iin)−ln(Ic)]
=−[ln(Iin)−ln(If−Iin)]
=−ln{Iin/(If−Iin)} (2)
となる。
【0023】
一方、パルス系検出器1における数え落とし補正式は、次式で与えられることが一般に知られている。
N=Nx/(1−Nx・τ) (3)
ここに、Nは数え落とし補正されたパルス数、Nxはパルス系検出器1で検出されるパルス数、τはパルス系検出器1の分解能である。
【0024】
(3)式の両辺の対数をとると、
ln(N)=ln{Nx/(1−Nx・τ)}
=ln[Nx/{τ・(1/τ−Nx)}]
=ln{(Nx)/(1/τ−Nx)}−ln(τ) (4)
となる。
【0025】
上記(2)式と(4)式の右辺の第1項とを比較すると、Iin=Nx、If=1/τとみなせば、両者は正負の極性の違いを除くと等価となる。そして、F/I変換器2からの入力電流Iinはパルス系検出器1で検出されるパルス数Nxに対応しており、また、抵抗33に流れる電流Ifが1/τに対応するように、その抵抗値と直流電源の負極(−V1)の電圧を調整することは可能である。さらに、上記(4)式の右辺の第2項のln(τ)は、放射線強度の変化に依存せず、パルス系検出器1固有の値をもつ一定値であるので、対数変換回路3の出力Voutに対して、図示しない後段の演算処理回路によりln(τ)に相当する分だけ信号加算することが可能である。
【0026】
したがって、対数変換回路3の出力Voutに基づいて最終的に演算処理により放射線強度(計数率)を求めた場合、高計数率の領域においても、図6中の符合L2(太実線)で示す理想的な数え落とし補正の関係を維持することができ、数え落としを精度良く補正することができる。
【0027】
実施の形態2.
図2は本発明の実施の形態2における対数変換回路を備えた信号処理回路を示す構成図であり、図1に示した実施の形態1と対応する構成部分には同一の符合を付す。
【0028】
この実施の形態2の特徴は、対数変換回路3において、第1、第2のトランジスタ31,32と抵抗33との間の位置において、抵抗33にNPN形の第3のトランジスタ34が直列に接続されて定電流回路が構成されていることである。すなわち、第3のトランジスタ34は、そのコレクタが第1、第2のトランジスタ31,32のエミッタに共通に接続され、エミッタが抵抗33に接続され、さらに、ベースが直流電源の負極(−V2)に接続されている。
その他の構成は実施の形態1と同様であるから、ここでは詳しい説明は省略する。
【0029】
図6中の符合L2(太実線)で示す理想的な数え落とし補正の関係を維持する上では、上記(2)式と(4)式の右辺の第1項との対応関係から分かるように、抵抗33に流れる電流Ifは常に安定化されていることが好ましい。よって、抵抗33に第3のトランジスタ34を直列に接続することにより常にここに流れる電流Ifを安定化させることができる。これにより、実施の形態1の場合と比べると、トランジスタの数が若干増加するものの、数え落とし補正を一層精度良く行うことが可能となる。
【0030】
実施の形態3.
図3は本発明の実施の形態3における対数変換回路を備えた信号処理回路を示す構成図であり、図1に示した実施の形態1と対応する構成部分には同一の符合を付す。
【0031】
実施の形態1、2では、対数変換回路3に対する入力電流が正極性の場合であるが、この実施の形態3では、対数変換回路3に対する入力電流が負極性の場合に対応できるようにしたものである。
【0032】
すなわち、この実施の形態3において、対数変換回路3は演算増幅器30、PNP形の第1、第2のトランジスタ36,37、および抵抗38を備える。そして、演算増幅器30のF/I変換器2からの信号が入力される一方の入力端側(負極性端子)に第1のトランジスタ36のコレクタが接続され、演算増幅器30の他方の入力端側(正極性端子)は接地され、演算増幅器30の出力端側(出力端子)には第2のトランジスタ37のベースが接続されている。また、第1、第2のトランジスタ36,37のエミッタに抵抗38の一端側が共通に接続され、この抵抗38の他端側には直流電源の正極(+V3)が接続されている。さらに、第1のトランジスタ36のベースは接地され、また、第2のトランジスタ37のコレクタには直流電源の負極(−V3)が接続されている。
【0033】
この実施の形態3の場合においても、抵抗38に流れる電流をIfとし、F/I変換器2からの入力電流をIin、第2のトランジスタ37に流れる電流をIc、対数変換回路3の出力電圧をVoutとすると、前述の(2)式が得られる。
【0034】
よって、この実施の形態3の場合も実施の形態1,2の場合と同様に、対数変換回路3の出力Voutに基づいて最終的に演算処理により放射線強度(計数率)を求めた場合、高計数率の領域においても、図6中の符合L2(太実線)で示す理想的な数え落とし補正の関係を維持することができ、数え落としを精度良く補正することができる。
【0035】
実施の形態4.
図4は本発明の実施の形態4における対数変換回路を備えた信号処理回路を示す構成図であり、図3に示した実施の形態3と対応する構成部分には同一の符合を付す。
【0036】
この実施の形態4の特徴は、対数変換回路3において、第1、第2のトランジスタ36,37と抵抗38との間の位置において、抵抗38にPNP形の第3のトランジスタ39が直列に接続されて定電流回路が構成されていることである。すなわち、第3のトランジスタ39は、そのコレクタが第1、第2のトランジスタ36,37のエミッタに共通に接続され、エミッタが抵抗に接続され、さらに、ベースが直流電源の負極(−V4)に接続されている。
その他の構成は実施の形態3と同様であるから、ここでは詳しい説明は省略する。
【0037】
この実施の形態4においても、抵抗38に第3のトランジスタ39を直列に接続することにより、常に抵抗38に流れる電流Ifを安定化させることができる。これにより、図6中の符合L2(太実線)で示す理想的な数え落とし補正の関係を維持することができ、実施の形態3の場合と比べると、トランジスタの数が若干増加するものの、数え落とし補正を一層精度良く行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の実施の形態1における対数変換回路を備えた信号処理回路を示す構成図である。
【図2】本発明の実施の形態2における対数変換回路を備えた信号処理回路を示す構成図である。
【図3】本発明の実施の形態3における対数変換回路を備えた信号処理回路を示す構成図である。
【図4】本発明の実施の形態4における対数変換回路を備えた信号処理回路を示す構成図である。
【図5】従来の対数変換回路を備えた信号処理回路を示す構成図である。
【図6】対数変換回路の出力Voutと、この出力Voutに基づいて演算処理により放射線強度(計数率)を求めた場合の関係を示す特性図である。
【符号の説明】
【0039】
1 パルス系検出器、2 F/I変換器、3 対数変換回路、30 演算増幅器、
31,36 第1のトランジスタ、32,37 第2のトランジスタ、
33,38 抵抗、34,39 第3のトランジスタ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線を検出するパルス系検出器から出力されるパルス信号がパルス数に応じた電流値に変換された後に入力される信号を対数変換して出力する対数変換回路であって、
演算増幅器を備え、この演算増幅器の上記入力信号が入力される一方の入力端側には第1のトランジスタが、上記演算増幅器の出力端側には当該演算増幅器の出力により直流電源からの電流量が制御される第2のトランジスタがそれぞれ接続されるとともに、両トランジスタに対しては両トランジスタからの出力電流が合流する抵抗が共通に接続されてなることを特徴とする対数変換回路。
【請求項2】
放射線を検出するパルス系検出器から出力されるパルス信号がパルス数に応じた電流値に変換された後に入力される信号を対数変換して出力する対数変換回路であって、
演算増幅器を備え、この演算増幅器の上記入力信号が入力される一方の入力端側には直流電源からの電流が流入する第1のトランジスタが、上記演算増幅器の出力端側には当該演算増幅器の出力により上記直流電源からの電流量が制御される第2のトランジスタがそれぞれ接続されるとともに、両トランジスタと直流電源との間に抵抗が共通に接続されていることを特徴とする対数変換回路。
【請求項3】
上記抵抗にはトランジスタが直列に接続されて定電流回路が構成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の対数変換回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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