説明

対物レンズアクチュエータ及びそれを備えた光ピックアップ

【課題】簡単な構造変更で駆動感度の向上を図れる対物レンズアクチュエータを提供する。
【解決手段】対物レンズアクチュエータ22は、ベース1と、対物レンズ5を保持するレンズホルダ2と、レンズホルダ2を挟むようにベース1に対して固定配置される一対の永久磁石3a、3bと、ベース1を折曲げ形成してなり、一対の永久磁石3a、3bの背面に配置される一対のバックヨーク8a、8bと、レンズホルダ2に固定され、一対の永久磁石3a、3bと協働してレンズホルダ2を移動可能とするコイル6、7と、を備える。一対のバックヨーク8a、8bのそれぞれは、端部が永久磁石3a、3bの無い側に折り返されて、バックヨーク8a、8bと永久磁石3a、3bとが重なる部分の少なくとも一部の厚みがベース1の厚みよりも厚くなっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対物レンズアクチュエータ及びそれを備えた光ピックアップに関し、詳細には、対物レンズアクチュエータの駆動感度を向上する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光ディスクに記録される情報を読み取ったり、光ディスクに情報を書き込んだりするために光ピックアップが使用されている。光ピックアップには、光源から出射された光を光ディスクの情報記録面に集光するための対物レンズが備えられる。この対物レンズは、対物レンズアクチュエータに搭載され、光ディスクの情報記録面と略垂直な方向であるフォーカス方向や、光ディスクの径方向と略平行な方向であるトラック方向に移動可能とされる。
【0003】
対物レンズをフォーカス方向やトラック方向に移動可能とするのは、対物レンズの焦点位置が常に情報記録面に合うように制御(フォーカスサーボ制御)を行ったり、対物レンズによって集光された光スポットが、光ディスクに形成されるトラックに常に追随するように制御(トラックサーボ制御)を行ったりできるようにするためである。
【0004】
ここで、図7、図8及び図9を参照しながら従来の対物レンズアクチュエータの構成について説明する。図7は、従来の対物レンズアクチュエータの構成例を示す概略平面図である。図8は、従来の対物レンズアクチュエータの構成例を示す概略側面図である。図9は、図8のA−A位置で切った概略断面図である。
【0005】
従来の対物レンズアクチュエータ100は、大きくは、強磁性を有する金属製のベース1と、樹脂成型品であるレンズホルダ2と、を備える。ベース1は、光ピックアップが備える半導体レーザ、光学系、光検出器等が装着される可動部材(図示せず)に固定されるものであって、そのほぼ中央に、半導体レーザからのレーザ光を通過させる貫通孔(不図示)が形成されている。なお、この貫通孔の上に、詳細は後述するレンズホルダ2が配置されている。
【0006】
また、ベース1上には、レンズホルダ2を挟むように、所定間隔をあけて一対の永久磁石3a、3bが対向配置されている。なお、一対の永久磁石3a、3bは、同一の磁極(例えばN極)が向かい合うように配置されている。この一対の永久磁石3a、3bは、各々、外面がベース1から折曲形成されてなるバックヨーク12a、12bに磁着されることで、ベース1と磁性的に一体化された状態で接着固定されている。このバックヨーク12a、12bは、一対の永久磁石3a、3bからの磁束を効率良く利用するために配置されている。
【0007】
また、ベース1には、一対の永久磁石3a、3bの間に、一対の永久磁石3a、3bの対向方向(図7では上下方向、図9では左右方向)と略垂直な方向で対向する一対のフロントヨーク4a、4bが立設されている。各フロントヨーク4a、4bは、ベース1を折曲げ形成することで得られている。各フロントヨーク4a、4bは、各永久磁石3a、3bからの磁束を有効に引き込んで、詳細は後述するフォーカスコイル6やトラックコイル7に高密度の磁束を与えている。このフロントヨーク4a、4bは、上述したバックヨーク12a、12bと共に、レンズホルダ2の駆動感度を高める役割を担っている。
【0008】
また、ベース1上には、一方の永久磁石3bが磁着されたバックヨーク12bの外面側に、ポリカーボネイト等の樹脂によって形成されるゲルホルダ9(樹脂成型品)が固定されている。ゲルホルダ9には、導電性を有するワイヤ(棒状弾性支持部材)11が挿通されると共にゲル材が充填される一対のゲル材充填用貫通孔9a、9bが形成されている。
【0009】
なお、本例では、一対のゲル材充填用貫通孔9a、9bのそれぞれには、3本のワイヤ11が挿通されている。また、ゲル材充填用貫通孔9a、9bに充填されるゲル材としては、例えばシリコンを主成分とするものが用いられる。そして、詳細には、このゲル材は低粘度のゲル材(ゾル)がゲルホルダ9の各ゲル材充填用貫通孔9a、9bに注入された後、所定時間の紫外線照射によってゲル状に硬化して得られたものである。
【0010】
また、ベース1上にはゲルホルダ9の外側に隣接するように、回路基板10が固定配置されており、この回路基板10には各ワイヤ11の一端が半田付けにて固着される。すなわち、この回路基板10はワイヤ11の一端を固定する固定部としての機能も果たしている。本例では、一対のゲル充填用貫通孔9a、9bのそれぞれを挿通する3本ずつのワイヤ11の各一端が、回路基板10の左右(図7参照)の端部のそれぞれにおいて、上下方向(図8参照)に並ぶように3箇所で固着されている。そして、左右3箇所の固着位置は、回路基板10を2等分する紙面と垂直な線(図7を参照した表現)を基準に略対称となっている。
【0011】
外形が略直方体形状に形成されるレンズホルダ2は、その上面の中央部に対物レンズ5を載せるレンズ載せ面2aが形成されている。レンズ載せ面2aの下部には、図9に示されるように光透過用貫通孔2bが形成されている。また、対物レンズ5を挟むように配置されることになる各フロントヨーク4a、4bが貫通できるように、フロントヨーク用貫通孔2c、2dも形成されている。
【0012】
このレンズホルダ2の側壁の内側には、対物レンズ5の光軸を取り巻くように巻回されたフォーカスコイル6が配置され、このフォーカスコイル6はレンズホルダ2に対して接着剤等で固着されている。また、レンズホルダ2の外側の側壁のうち、一対の永久磁石3a、3bと対向する2つの側壁には、それぞれ略矩形状に巻回されるトラックコイル7が一対ずつ接着剤等で固着されている。各側壁に一対ずつ設けられるトラックコイル7はレンズホルダ2を挟んで対称配置となっており、更に図7に示されるように、各側壁に一対設けられるトラックコイル7は左右の端部側に配置されている。なお、レンズホルダ2に固着された4つのトラックコイル7は、全体として1本の線でつながっている。
【0013】
ここで、トラックコイル7と永久磁石3a、3bとの関係について、図9を参照しながら説明しておく。略矩形状に巻回される4つのトラックコイル7のそれぞれは、縦方向(紙面と垂直な方向)の2つ辺7a、7bのうち、一方の辺7aは永久磁石3a、3bと対面するが、他方の辺7bは永久磁石3a、3bと対面しないようにはみ出た状態となっている。このため、トラックコイル7の縦方向の2つの辺7a、7bのうち、一方の辺7aは永久磁石3a、3bからの磁束と作用して電磁力を発生する有効辺となっている。これに対し、他方の辺7bは永久磁石3a、3bからの磁束とは実質的に作用せず、電磁力を発生しない無効辺となっている。
【0014】
レンズホルダ2の一対の永久磁石3a、3bと対向しない2つの側壁のそれぞれには、ワイヤ11の端部(回路基板10に固着される側の端部に対して反対側となる端部)を半田付けにて固定するワイヤ固定部2eが形成されている。これにより、レンズホルダ2は、左右に3本ずつ設けられるワイヤ11によって揺動可能(ベース1に対して揺動可能という意味である)に支持された状態となっている。なお、上段の2本のワイヤ11はフォーカスコイル6と電気的に接続された状態とされ、下段の2本のワイヤ11はトラックコイル7と電気的に接続された状態とされている。
【0015】
このような対物レンズアクチュエータ100においては、対物レンズ5をフォーカス方向(図7において紙面と垂直な方向が該当)やトラック方向(図7において左右方向が該当)に移動する場合、回路基板10及びワイヤ11を介してフォーカスコイル6及びトラックコイル7に電流が供給される。そして、供給される電流の大きさ及び向きに応じた電磁力が発生して、レンズホルダ2は所望の方向に所望の量だけ移動される。
【0016】
なお、フォーカス方向への推力は、矩形状に形成されるフォーカスコイル6の4つの辺のうち、一対の永久磁石3a、3bと対向する2つの辺に対して同一方向に発生する電磁力によって得られる。また、トラック方向への推力は、トラックコイル7の上述した各有効辺7aに同一方向に発生する電磁力によって得られる。
【0017】
以上のような対物レンズアクチュエータ100において、レンズホルダ2をフォーカス方向及びトラック方向に移動させる推力を大きくするためには、フォーカスコイル6やトラックコイル7に供給する電流を大きくしたり、永久磁石3a、3bの磁力を向上したりすることが考えられる。
【0018】
しかし、フォーカスコイル6やトラックコイル7(以下、これらを単に駆動コイルと表現する場合がある)に供給する電流を大きくしすぎると、駆動コイル6、7における発熱量が大きくなりすぎて望ましくない。また、永久磁石3a、3bの磁力の向上には限界がある。このようなことから、レンズホルダ2をフォーカス方向やトラック方向に移動させる推力を向上させるために、従来、対物レンズアクチュエータの感度を向上することが行われている。
【0019】
対物レンズアクチュエータの感度を向上させる例として、従来、バックヨーク12a、12bに駆動コイルへと向かう延設部を設ける構成が提案されている(特許文献1、2参照)。そして、このような構成とすると、従来に比べてトラックコイルを有効に使用(従来無効辺としていた部分を有効辺として使用)できたり、磁束密度分布を適正化できたりするので、対物レンズアクチュエータの駆動感度が向上するとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】特開2006−179085号公報
【特許文献2】特開2002−342957号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
ところで、製造コスト抑制といった観点からは、上述した従来の対物レンズアクチュエータ100の構成から、簡単な構成変更で対物レンズアクチュエータの駆動感度を高めることが求められる。このような観点で考えた場合、特許文献1や2に提案されるようなバックヨークに駆動コイルへと向かう延設部を設ける構成は、永久磁石、バックヨーク及びトラックコイルの位置関係や構造等について現状の構成から見直す必要が生じる場合があると考えられる。このため、簡単な構成変更で対物レンズアクチュエータの感度を向上する点について、更なる検討の余地があるものと考えられる。
【0022】
そこで、本発明は、簡単な構造変更で駆動感度の向上を図れる対物レンズアクチュエータを提供することを目的とする。また、本発明は、そのような対物レンズアクチュエータを備えた高品質の光ピックアップを提供することを他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
上記目的を達成するために本発明は、ベースと、対物レンズを保持するレンズホルダと、前記レンズホルダを挟むように前記ベースに対して固定配置される一対の永久磁石と、前記ベースを折曲げ形成してなり、前記一対の永久磁石の背面に配置される一対のバックヨークと、前記レンズホルダに固定され、前記一対の永久磁石と協働して前記レンズホルダを移動可能とするコイルと、を備える対物レンズアクチュエータにおいて、前記一対のバックヨークのそれぞれは、端部が前記永久磁石の無い側に折り返されて、前記バックヨークと前記永久磁石とが重なる部分の少なくとも一部の厚みが前記ベースの厚みよりも厚くなっていることを特徴している。
【0024】
この構成では、永久磁石とベースを折曲げ形成してなるバックヨークとが重なる部分の厚みを厚くするための工夫として、バックヨークの端部を永久磁石の無い側に折り返すこととしている。永久磁石の背面に配置されるバックヨークの厚みを厚くするとコイル周辺の磁束密度を高めて対物レンズアクチュエータの駆動感度を高められるが、折曲げ等の加工が施されるベースの厚みを厚くするのには限界がある。このため、単にベースの厚みを厚くして永久磁石の背面に配置されるバックヨークの厚みを厚くするのには限界があり、本構成はこのような問題点を解消しているのである。すなわち、本構成の対物レンズアクチュエータによれば、バックヨークの端部を永久磁石の無い側に折曲げるという簡単な構造変更で、対物レンズアクチュエータの駆動感度を向上することが可能となる。
【0025】
上記構成の対物レンズアクチュエータの具体的な構成として、前記レンズホルダは、前記レンズホルダに設けられるワイヤ固定部に一端が固定されて他端が前記ベースに対して固定配置される固定部に固定される棒状弾性支持部材によって、前記ベースに対して揺動可能に支持されており、前記コイルには、前記一対の永久磁石と協働して前記レンズホルダを、前記対物レンズの光軸に沿った方向と前記一対の永久磁石の対向方向との両方向に略直交するトラック方向へと移動可能とする略矩形状のトラックコイルが含まれ、前記トラックコイルは、前記レンズホルダの前記一対の永久磁石と対向する2つの側壁に2つずつ設けられ、前記2つの側壁のそれぞれにおいては、前記トラック方向の両端部に1つずつ前記トラックコイルが配置されており、4つの前記トラックコイルは、いずれも前記トラック方向に対向する2つの辺の一方が前記永久磁石と対面しないようにはみ出た無効辺となり、他方が前記永久磁石と対面した有効辺となるように配置されており、前記一対のバックヨークのそれぞれは、前記トラック方向の両端部が前記永久磁石の無い側に折り返されていることとしてもよい。このように構成することで、いわゆるワイヤ支持方式の対物レンズアクチュエータについて、簡単な構造変更で駆動感度の向上が図れる。
【0026】
上記構成の対物レンズアクチュエータにおいて、前記対物レンズの光軸に沿った方向と前記一対の永久磁石の対向方向との両方向に略直交する方向をトラック方向とした場合に、前記永久磁石の前記トラック方向の長さと、折り返された状態における前記バックヨークの前記トラック方向の長さとが略同一であるのが好ましい。このように構成することで、ベースのサイズを無駄に大きくすることなく、コイル周辺の磁束密度を効率良く向上することが可能である。
【0027】
上記構成の対物レンズアクチュエータにおいて、前記バックヨークの端部が折り返される角度がほぼ90°であることとしてもよいし、前記バックヨークの端部が前記バックヨークの背面と当接するように折り返されていることとしてもよい。
【0028】
上記構成の対物レンズアクチュエータにおいて、前記ベースを折曲げ形成してなるフロントヨークが、前記一対の永久磁石に挟まれるように配置されているのが好ましい。この構成によれば、永久磁石からの磁束をフロントヨークに引き込んで、コイル周辺の磁束密度を向上できるために、対物レンズアクチュエータの駆動感度をより一層向上することが可能である。
【0029】
また、上記目的を達成するために本発明は、上記構成の対物レンズアクチュエータを備える光ピックアップであることを特徴としている。
【0030】
本構成によれば、駆動感度が向上された対物レンズアクチュエータを備えるために、高品質の光ピックアップとできる。また、そのような高品質の光ピックアップを簡単な構造変更で得られるために、コストアップすることなく高品質の光ピックアップを得られる。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、簡単な構造変更で駆動感度の向上を図れる対物レンズアクチュエータを提供できる。また、本発明によれば、そのような対物レンズアクチュエータを備えた高品質の光ピックアップを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本実施形態の光ピックアップの外観構成を示す概略図
【図2】本実施形態の対物レンズアクチュエータの構成を示す概略平面図
【図3】本実施形態の対物レンズアクチュエータが備える永久磁石、バックヨーク、及びトラックコイルの関係を説明するための模式図
【図4】対物レンズアクチュエータを本実施形態の構成とした場合の効果を示すシミュレーション結果
【図5】図4に示すシミュレーション結果を得るために用いた構成を説明するための図である。
【図6】本実施形態の対物レンズアクチュエータの変形例を説明するための図
【図7】従来の対物レンズアクチュエータの構成例を示す概略平面図
【図8】従来の対物レンズアクチュエータの構成例を示す概略側面図
【図9】図8のA−A位置で切った概略断面図
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の対物レンズアクチュエータ及び光ピックアップの実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0034】
まず、本発明の対物レンズアクチュエータが適用された光ピックアップの構成について図1を参照しながら説明する。図1は、本実施形態の光ピックアップの外観構成を示す概略図で、図1(a)は概略平面図、図1(b)は概略側面図である。図1に示すように、本実施形態の光ピックアップ20は、ピックアップベース21と、ピックアップベース21上に固定配置される対物レンズアクチュエータ22と、を備える。
【0035】
ピックアップベース21には、図示しないが、光源となる半導体レーザ、光を検出して光電変換を行う光検出器、半導体レーザから出射されたレーザ光を光ディスクDの情報記録面RSへと導くと共に、光ディスクDからの戻り光を光検出器へと導くための光学系を構成する光学部材等が搭載されている。
【0036】
なお、前記光学系を構成する光学部材のうち、半導体レーザからのレーザ光を光ディスクDの情報記録面RSへと集光する対物レンズ5は、対物レンズアクチュエータ22に搭載された状態でピックアップベース21上に搭載されている。
【0037】
ピックアップベース21の左右には、光ディスクDの径方向(トラック方向と平行な方向)に延びて所定の間隔をあけて平行配置される2本のガイドシャフト101と係合する軸受け部21a、21bが設けられている。ピックアップベース21は、軸受け部21a、21bによってガイドシャフト101に摺動可能に支持され、光ディスクDの径方向に移動可能となる。そして、これにより、光ピックアップ20は、光ディスクDの所望のアドレスにアクセスして情報の読み取りや書き込みが可能となる。
【0038】
光ピックアップ20においては、上述したようにフォーカスサーボ制御やトラックサーボ制御を行う必要がある。このために、対物レンズ5は対物レンズアクチュエータ22に搭載されて、フォーカス方向及びトラック方向に移動可能となっている。本実施形態の対物レンズアクチュエータ22は、一部の構成を除き、図7〜図9に示す従来の対物レンズアクチュエータ100と同様の構成である。このため、従来の構成と重複する部分については同一の符号を付して、その説明を省略する。
【0039】
図2は、本実施形態の対物レンズアクチュエータの構成を示す概略平面図である。本実施形態の対物レンズアクチュエータ22は、ベース1を折曲げ形成してなるバックヨーク8a、8bの構成が従来の対物レンズアクチュエータ100のバックヨーク12a、12b(例えば図7参照)と異なる構成となっている。この点を除いて、本実施形態の対物レンズアクチュエータ22は、従来の対物レンズアクチュエータ100と同様である。以下、従来の構成との相違点であるバックヨーク8a、8bの構成に絞って説明する。
【0040】
図2に示すように、本実施形態の対物レンズアクチュエータ22が備える各バックヨーク8a、8bは、そのトラック方向の両端部が永久磁石3a、3bの無い側に折り返されている。そして、各バックヨーク8a、8bのトラック方向の両端部のそれぞれが折り返される角度は、ほぼ90°となっている。
【0041】
なお、トラック方向は、対物レンズ5の光軸に沿った方向(図2において紙面と垂直な方向)及び一対の永久磁石3a、3bの対向方向(図2において上下方向)に略直交する方向が該当する。
【0042】
このように各バックヨーク8a、8bのトラック方向の両端部が折り返されることにより、バックヨーク8a、8bは、バックヨーク8a、8bと永久磁石3a、3bとが重なる部分の一部の厚みがベース1の厚みよりも厚くなっている。なお、一対のバックヨーク8a、8bはレンズホルダ2を挟んで対称的に設けられている。
【0043】
図3は、本実施形態の対物レンズアクチュエータが備える永久磁石、バックヨーク、及びトラックコイルの関係を説明するための模式図である。なお、図3においては、レンズホルダ2を挟んで両側に存在する永久磁石3a、3b、トラックコイル7、及びバックヨーク8a、8bのうちの一方側のみを示して他方側を省略している。これは、一対のバックヨーク8a、8b等が、図2を見てわかるようにレンズホルダ2を挟んで対称的となっており、一方側の構成を説明すれば、他方側についても理解できるからである。このため、以下では、上記一方側のみを説明し、上記他方側については説明を省略する。
【0044】
図3に示すように、本実施形態の対物レンズアクチュエータ22においては、永久磁石3aの背面に配置されるバックヨーク8aの幅は、永久磁石3aのトラック方向の幅とほぼ同一となるように形成されている。なお、ここでいう「幅」は、トラック方向の長さのことである。また、バックヨーク8aの幅は、両端部が折り返された状態にあるバックヨーク8aのトラック方向の長さのことである。
【0045】
また、バックヨーク8aは、バックヨーク8aと永久磁石3aとが重なる部分の一部(両端部が折り返された状態にあるバックヨーク8aの両端部側が該当)の厚みが、ベース1の厚みtよりもΔtだけ厚くなっている。なお、上述のようにバックヨーク8aはベース1を折曲げ形成してなるために、厚みtがベース1の厚みに相当している。そして、このtとΔtを合わせた厚みTが、ベース1の厚みtのほぼ3倍となるようにバックヨーク8aの折り返しは行われている。なお、本実施形態では、厚みTがベースの厚みtのほぼ3倍となるようにしているが、この厚みTは適宜変更してよいものである。
【0046】
バックヨーク8aを以上のような構成とする理由について説明する。一対の永久磁石3aの背面に配置されるバックヨークは、永久磁石3aからの磁束を効率良く利用するという目的において、その厚みがなるべく厚い方が好ましい。この点、バックヨーク8aはベース1を折曲げ形成してなる構成であるために、バックヨーク8aの厚みを厚くしようとすると、ベース1の厚みを厚くする必要がある。しかしながら、ベース1には複数の曲げや貫通孔が設けられるために、ベース1の厚みを厚くできる量には限界がある。
【0047】
そこで、ベース1の厚みを厚くする量に限界があることを補うために、バックヨーク8aのトラック方向の両端部側を永久磁石3aの無い方向に折り返して、バックヨーク8aと永久磁石3aとが重なる部分の厚みを稼ぐ構成としたのである。ところで、本実施形態の対物レンズアクチュエータ22においては、永久磁石3aの両端部側と重なる一部のみの厚みが増すようにバックヨーク8aの折り返しを行っている。これは、次の理由による。
【0048】
すなわち、本実施形態の対物レンズアクチュエータ22においては、トラックコイル7の有効辺7aが一対の永久磁石3a、3bのトラック方向の端部側に対応する位置に配置される。このため、少なくとも永久磁石3a、3bのトラック方向の端部側での磁束密度を高めることが望まれる。このために、永久磁石3aの両端部側と重なる一部のみの厚みが増すようにバックヨーク8aの折り返しを行う構成としたのである。
【0049】
図4は、対物レンズアクチュエータを本実施形態の構成とした場合の効果を示すシミュレーション結果である。なお、このシミュレーションは、市販の解析ソフトである「Ansys(電磁場解析用)」(Ansys Inc.製)を用いて行った。図4においては、本実施形態の場合の結果(白抜きの四角で示す結果)と、従来の構成の場合の結果(白抜きの三角で示す結果)とを示しているが、それぞれのシミュレーションに用いた構成について図5を参照して説明する。
【0050】
図5に示すように、本実施形態の構成(図5(a)と従来の構成(図5(b)とは、バックヨークの形状が異なるが、その他は同一である。すなわち、いずれの場合も永久磁石3aの幅Wは8mmで、厚みDは3mmとした。また、図示しないが、永久磁石3aの高さ(図5の紙面と垂直な方向の長さ)は5.35mmとした。更に、永久磁石3aの極性については、トラックコイル側がN極、バックヨーク8a側がS極となるように配置した。
【0051】
また、本実施形態と従来とで、いずれも、バックヨーク8a、12aの幅は永久磁石3aの幅Wと同じとした。従来のバックヨーク12aの厚みtは1mmとした。また、本実施形態のバックヨーク8aについては、折り返しによる厚みが増した部分について厚みを3mmとし、厚みが増していない部分について厚みを1mmとした。更に、シミュレーションにあたって、トラック方向と平行な方向をX方向、一対の永久磁石3a、3bの対向方向と平行な方向をY方向とした。
【0052】
図4に示すシミュレーション結果は、永久磁石3aからトラックコイル7側に0.5mm離れた位置であって、永久磁石3aの高さ方向(図5において紙面と垂直な方向)の中間位置(上から2.675mm)で、X方向の位置を変更しながら、各位置で測定される磁束密度を計算によって得たものである。なお、X方向の基準(X=ゼロとする位置)は、永久磁石3aのX方向の中間位置としている。また、図4における縦軸はY方向の磁束密度を示し、Y方向の座標を図5に示すように定めたために、マイナスの値が大きき程、磁束密度が大きいことを示すようになっている。
【0053】
図4に示すシミュレーション結果から、従来の対物レンズアクチュエータ100のバックヨーク12a、12bの構成を本実施形態の構成(バックヨーク8a、8b)へと変更することで、X方向のいずれの位置でも磁束密度の向上が見られている。このために、本実施形態の対物レンズアクチュエータ22は、従来の対物レンズアクチュエータ100に比べてアクチュエータの駆動感度の向上が図れる。
【0054】
そして、このような駆動感度の向上を図るにあたって、構造を変更した点は、基本的には、バックヨーク8a、8bの構造だけであり、他の構成は従来の構造から変更していない。このために、非常に簡単な構造変更で対物レンズアクチュエータの駆動感度の向上を図れ、本発明は有益である。なお、詳細には、バックヨーク8bの厚み方向の長さが増した分、ゲルホルダ9の大きさを変更しているが、この点はほとんどコストアップ等の不利な要因とはならない。
【0055】
本発明の適用範囲は以上に示した実施形態に限定される趣旨ではなく、本発明の目的を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0056】
例えば、以上に示した実施形態では、バックヨーク8a、8bのトラック方向の両端部を永久磁石3a、3bの無い側に折り返すにあたって、バックヨーク8a、8bが折り返される角度が90°となるようにした。しかしながら、本発明はこの構成に限定されるものではない。すなわち、バックヨークの端部側を永久磁石の無い側に折り返すことで、バックヨークと永久磁石とが重なる部分の少なくとも一部の厚みが厚くなるようにバックヨークが構成されれば、他の構成でも構わない。
【0057】
図6は、本実施形態の対物レンズアクチュエータ22の変形例を説明するための図である。図6に示すように、バックヨーク8aのトラック方向の両端部を永久磁石3aの無い側に折り返すにあたって、バックヨーク8aの端部がバックヨークの背面に当接するように折り返された構成を本実施形態の構成の代わりに採用しても構わない。
【0058】
また、以上に示した実施形態では、永久磁石3a、3bの幅と、折り返された状態におけるバックヨーク8a、8bの幅とがほぼ同一となる構成としたが、必ずしもこの構成に限定される趣旨ではなく、適宜変更しても構わない。要は、上述のように、バックヨークの端部側を永久磁石の無い側に折り返すことで、バックヨークと永久磁石とが重なる部分の少なくとも一部の厚みが厚くなるようにバックヨークが構成されれば、他の構成でも構わないのである。
【0059】
また、本実施形態の対物レンズアクチュエータ22においては、フロントヨーク4a、4bが配置される構成としたが、このフロントヨーク4a、4bがない対物レンズアクチュエータに対しても、本発明は適用可能である。更に、本発明は、永久磁石の背面にバックヨークを配置する構成の対物レンズアクチュエータに広く適用可能なものである。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、光ピックアップの分野で広く利用することができる。
【符号の説明】
【0061】
1 ベース
2 レンズホルダ
3a、3b 永久磁石
4a、4b フロントヨーク
5 対物レンズ
6 フォーカスコイル
7 トラックコイル
7a 有効辺
7b 無効辺
8a、8b バックヨーク
10 回路基板(固定部)
11 ワイヤ(棒状弾性支持部材)
20 光ピックアップ
22 対物レンズアクチュエータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベースと、
対物レンズを保持するレンズホルダと、
前記レンズホルダを挟むように前記ベースに対して固定配置される一対の永久磁石と、
前記ベースを折曲げ形成してなり、前記一対の永久磁石の背面に配置される一対のバックヨークと、
前記レンズホルダに固定され、前記一対の永久磁石と協働して前記レンズホルダを移動可能とするコイルと、
を備える対物レンズアクチュエータにおいて、
前記一対のバックヨークのそれぞれは、端部が前記永久磁石の無い側に折り返されて、前記バックヨークと前記永久磁石とが重なる部分の少なくとも一部の厚みが前記ベースの厚みよりも厚くなっていることを特徴とする対物レンズアクチュエータ。
【請求項2】
前記レンズホルダは、前記レンズホルダに設けられるワイヤ固定部に一端が固定されて他端が前記ベースに対して固定配置される固定部に固定される棒状弾性支持部材によって、前記ベースに対して揺動可能に支持されており、
前記コイルには、前記一対の永久磁石と協働して前記レンズホルダを、前記対物レンズの光軸に沿った方向と前記一対の永久磁石の対向方向との両方向に略直交するトラック方向へと移動可能とする略矩形状のトラックコイルが含まれ、
前記トラックコイルは、前記レンズホルダの前記一対の永久磁石と対向する2つの側壁に2つずつ設けられ、前記2つの側壁のそれぞれにおいては、前記トラック方向の両端部に1つずつ前記トラックコイルが配置されており、4つの前記トラックコイルは、いずれも前記トラック方向に対向する2つの辺の一方が前記永久磁石と対面しないようにはみ出た無効辺となり、他方が前記永久磁石と対面した有効辺となるように配置されており、
前記一対のバックヨークのそれぞれは、前記トラック方向の両端部が前記永久磁石の無い側に折り返されていることを特徴とする請求項1に記載の対物レンズアクチュエータ。
【請求項3】
前記対物レンズの光軸に沿った方向と前記一対の永久磁石の対向方向との両方向に略直交する方向をトラック方向とした場合に、
前記永久磁石の前記トラック方向の長さと、折り返された状態における前記バックヨークの前記トラック方向の長さとが略同一であることを特徴とする請求項1又は2に記載の対物レンズアクチュエータ。
【請求項4】
前記バックヨークの端部が折り返される角度がほぼ90°であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の対物レンズアクチュエータ。
【請求項5】
前記バックヨークの端部が前記バックヨークの背面と当接するように折り返されていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の対物レンズアクチュエータ。
【請求項6】
前記ベースを折曲げ形成してなるフロントヨークが、前記一対の永久磁石に挟まれるように配置されていることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の対物レンズアクチュエータ。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の対物レンズアクチュエータを備えることを特徴とする光ピックアップ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−3239(P2011−3239A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−145395(P2009−145395)
【出願日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【出願人】(000201113)船井電機株式会社 (7,855)
【Fターム(参考)】