説明

対物レンズ駆動装置

【課題】フォーカスコイル、又はトラッキングコイル自身の共振を抑えるために、コイル同士またはボビンとの間に接着剤を塗布し固定する必要があった。
【解決手段】対物レンズ1、フォーカスコイル3及びトラッキングコイルを保持するボビン2が、サスペンションワイヤ7で弾性係合され、磁石5が成す磁気回路にフォーカスコイル3及びトラッキングコイル4に電流を流すことで駆動する対物レンズ駆動装置であって、フォーカスコイル3をボビン2に巻回し、巻回したトラッキングコイル4をフォーカスコイル3の一部に重ね合わせる際に、フォーカスコイル3とトラッキングコイル4とを直接接触して巻きつける構成を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CDプレーヤ、DVDプレーヤ及びDVDドライブなどのいわゆる光ディスク装置に搭載される光ピックアップに適用する対物レンズ駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に円盤状情報媒体(以下、ディスクと称す)が備える情報層に対してフォーカス制御及び/またはトラッキング制御をすることで、情報層に記録された情報信号の再生及び/または情報層に所望の情報信号の記録を行うため、対物レンズ駆動装置が備えるフォーカスコイル及びトラッキングコイルには断続的に高周波振動が印加される。この高周波振動の印加は、フォーカスコイル及びトラッキングコイル(以下、両者を併せて述べる場合には単にコイルと称す)に流れる電流と、当該コイル近傍に対峙する永久磁石からの磁場と出発生する力に起因するため、コイルを構成する導線それぞれに振動が加わる。このため、コイルを巻き付けるボビンに対し力を印加して巻回したとしても、重ね合わせただけでは振動力により巻回状態を維持できなくなり、コイルの巻回状態が崩れると正確なフォーカス制御やトラッキング制御が不可能になる。
【0003】
このことから従来の光ピックアップでは、例えば特許文献1に開示されているように、フォーカスコイルとトラッキングコイルは一定の隙間を設けてボビンに配置した後に、接着剤でコイル同士又はコイル巻き枠であるボビンに固定することにより、振動に起因する巻回乱れを抑制していた。
【特許文献1】特開平10−312558号公報(段落番号0019〜0020及び図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記従来の構成では接着剤を塗布、及び硬化硬化させなければならず、組立工数が長くなるばかりでなく、接着剤の塗布量及び/または塗布位置等の塗布条件を厳密に管理する必要があるため、高価な光ピックアップになってしまうという製造面での課題を有していた。また、単に製造面の課題だけに留まらず、次に説明するように、力学的な課題もあった。すなわち、前述したように永久磁石からの磁場によりコイルに力が加わるが、フォーカス方向の力(すなわち、対物レンズの光軸方向)とトラッキング方向の力(すなわち、対物レンズの光軸に直交する面方向)とが異なるため、フォーカスコイルとトラッキングコイルとの間に隙間を備える従来の構成ではこの隙間での合力が働き、フォーカスコイルとトラッキングコイルとが交叉する隙間部分に複雑な力(すなわち、単にフォーカス方向及びトラッキング方向というそれぞれ1軸的な力だけではなく、これらが合成されることによってねじれ方向の力も含まれる)が加わり、この複雑な力の印加に起因して隙間部の接着剤が劣化し、フォーカスコイルとトラッキングコイルそれぞれの巻き乱れのきっかけとなり、例えば接着剤に塗布ムラ等がある場合にはフォーカスコイルまたはトラッキングコイルが分離してしまい、フォーカス制御及び/またはトラッキング制御に支障を来す場合があった。
【0005】
本発明は、前記従来の課題を解決するもので、接着剤が不要なコイル構成により安価で高信頼性な光ピックアップを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記従来の課題を解決するために、本発明の対物レンズ駆動装置は、情報媒体が備える情報層に光ビームの光束を集光する対物レンズと、前記情報層が成す面に対して前記対物レンズを近接または離隔する方向に駆動するフォーカスコイルと、前記対物レンズを前記面方向に駆動するトラッキングコイルと、前記フォーカスコイルを巻回及び/または前記トラッキングコイルを巻回するボビンとを備え、前記フォーカスコイル及び前記トラッキングコイルを前記ボビンに巻回する際に、前記フォーカスコイルを巻回したフォーカスコイル束と前記トラッキングコイルを巻回したトラッキングコイル束とを直接接触させた直接接触部を備える構成である。この構成により、厳密な管理が必要な接着剤が不要で、安定してコイル共振を抑えることができる高信頼性な対物レンズ駆動装置が実現できる。
【発明の効果】
【0007】
本発明の対物レンズ駆動装置によれば、アクチュエータ特性を著しく悪化させるコイル共振をコイルの構成を工夫することにより簡単に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の対物レンズ駆動装置を光ピックアップに適用した例における最良の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0009】
(実施の形態1)
図1は、本発明の対物レンズ駆動装置を光ピックアップに適用した一実施形態の要部斜視図、図2はそのアクチュエータ部の要部断面図である。これらの図において、1は対物レンズ、2は対物レンズ1と巻き付けたコイルとを保持するコイル巻き枠(以下、ボビンと称す)、3はボビン3に対し外環状に巻回したフォーカスコイル、4はボビン2に巻き付けられフォーカスコイル3の巻回方向に対し直交方向に巻回したトラッキングコイル、5は一対の永久磁石、6はアクチュエータ基板(以下、ACT基板と称す)、7はボビン3を弾性支持するサスペンションワイヤ(以下、ワイヤと称す)、8はワイヤ7が貫通しACT基板6に固定されるサスペンションホルダ、9はワイヤ7を固定しサスペンションホルダ8に固着された基板である。このように構成されたアクチュエータ部の動作は公知であり、しかも本発明の本質とは異なるため詳細な説明は割愛するが、トラッキングコイル4はめがね型とも称されるボビン2に巻回されない構成で、フォーカスコイル3とトラッキングコイル4とが交差する部分はコイル同士が直接接触(図2参照)している。
【0010】
かかる構成によれば、直交するように巻き付けるフォーカスコイル3とトラッキングコイル4とが直接接触するように配置することにより、フォーカスコイル3及びトラッキングコイル4に振動力が印加されたとしても、お互いのコイル表面の摩擦力によりコイル共振を抑制することができ、コイルの巻き乱れの発生を抑制することができ、以てフォーカス制御特性及びトラッキング制御特性の変化を回避することができる。
【0011】
なお、図示は省略したが、フォーカスコイル3とトラッキングコイル4との直接接触部(本実施形態では、フォーカスコイル3を巻回したフォーカスコイル束の積層方向における最外周部及びトラッキングコイル4を巻回したトラッキングコイル束の側面最外周部)が形成する空隙部に、加熱により粘性を出現し冷却で固着する融着材を充填すると、直接接触部の接触強度が向上するため好ましい。なお、融着材の形成に際しては、上述したように直接接触面における摩擦力に起因する強度向上であるため、少なくとも界面に存在するだけでよく、供給量を厳密に管理する必要はない。過剰に供給した場合であっても、対物レンズ駆動装置を駆動する際にコイルに電流が流れ、コイルが加熱され、融着剤が融着しフォーカスコイル3及び/またはトラッキングコイル4の束に浸透し、束自体の強度も向上させることができる。さらにコイル表面に融着層を備えたボンドコイルであれば、加熱によりコイル同士を固着することができるので、安定してコイル共振を防ぐことができる。
【0012】
なお、本実施形態において、フォーカスコイル3の外側にトラッキングコイル4を配置したが、その逆の配置、つまりトラッキングコイル4が内側でフォーカスコイル3の外側としても良い。また、ボビン2は対物レンズ1が固定され、磁気回路により不図示のディスク上の信号を追従、読み取るムービングコイル方式であるが、ボビン2に対物レンズ1及びマグネット5を固定し、フォーカスコイル3及びトラッキングコイル4を固定側に配置したムービングマグネット方式の場合でも同じ効果が得られる。
【0013】
(実施の形態2)
図3は、本発明の対物レンズ駆動装置の他の実施形態を示す要部斜視図、図4はそのアクチュエータ部の要部断面図である。これらの図において、先の実施形態での説明と同じ構成要素については同じ符号を用い、説明を省略する。トラッキングコイル4はボビン2の横断面外環状に、フォーカスコイル3に接触するように巻かれ、磁石5、ヨーク6からなる単純な磁気回路中に配置される。ボビン2は先の実施形態と同じく4本のサスペンションワイヤー7により、サスペンションホルダー8を貫通し、ACT基板9に固定される構成となっている。トラッキングコイル4と磁石5とが構成する磁気回路の構成が先の実施形態とは異なるが、この構成も既に公知であるため動作等の説明は割愛する。
【0014】
本実施形態においても、フォーカスコイル3とトラッキングコイル4とが直接接触しているため、この接触部での摩擦力により先の実施形態と同様の作用及び効果が得られる。さらにコイル表面に融着層を備えたボンドコイルであれば、加熱によりコイル同士を固着することができるので、安定してコイル共振を防ぐことができる。
【0015】
このように、本発明の対物レンズ駆動装置によれば、接着剤の塗布工程と接着剤の効果工程等を省略できるため、材料費と生産性とを向上させることができ、安価な対物レンズ駆動装置の提供を可能とすることができる。また、フォーカスコイル及びトラッキングコイルの固定を従来常識として適用していた接着剤を採用するという従来の常識技術を逆転の発想で従来の構成よりも単純化した構成を採用し、上述の生産に関する効果だけではなく、フォーカスコイル制御特性及びトラッキングコイル制御特性の経時的な変化を抑制することができ、高性能の対物レンズ駆動装置を実現することができる。
【産業上の利用可能性】
【0016】
本発明の対物レンズ駆動装置は、構成が単純であるため、特に小型のピックアップのアクチュエータに好適に適用することができるのを始め、幅広く適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の対物レンズ駆動装置における一実施形態の要部構成斜視図
【図2】同実施形態における要部断面図
【図3】本発明の対物レンズ駆動装置における他の実施形態の要部構成斜視図
【図4】同実施形態のおける要部断面図
【符号の説明】
【0018】
1 対物レンズ
2 ボビン
3 フォーカスコイル
4 トラッキングコイル
5 磁石
6 ヨーク
7 サスペンションワイヤー
8 サスペンションホルダー
9 ACT基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
情報媒体が備える情報層に光ビームの光束を集光する対物レンズと、前記情報層が成す面に対して前記対物レンズを近接または離隔する方向に駆動するフォーカスコイルと、前記対物レンズを前記面方向に駆動するトラッキングコイルと、前記フォーカスコイルを巻回及び/または前記トラッキングコイルを巻回するボビンとを備え、
前記フォーカスコイル及び前記トラッキングコイルを前記ボビンに巻回する際に、前記フォーカスコイルを巻回したフォーカスコイル束と前記トラッキングコイルを巻回したトラッキングコイル束とを直接接触させた直接接触部を備える対物レンズ駆動装置。
【請求項2】
前記接触部を構成する前記フォーカスコイル束及び前記トラッキングコイル束との前記接触部が形成する空隙に、融着材を備える請求項1記載の対物レンズ駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−287270(P2007−287270A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−115183(P2006−115183)
【出願日】平成18年4月19日(2006.4.19)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】