説明

対物レンズ駆動装置

【課題】磁界発生手段に通電して発生する熱により、集光レンズに光学収差変動が発生して安定した制御ができない。
【解決手段】光情報記録媒体1に集光する集光レンズ3と、レンズ保持部材8と、レンズ保持部材8に具備された複数のコイル手段7と、複数の磁石2と、防塵機能を有する遮蔽部材4で構成された対物レンズ駆動装置10であって、遮蔽部材4の屈曲部4aをレンズ保持部材8の集光レンズ3とコイル手段7の間隙8bに配置することにより、コイル手段7より発生する熱の集光レンズ3への伝導を抑え、光学収差の変動を抑えることができ、光スポットの焦点ズレを防ぎ、安定して光スポットの制御を行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光情報記録媒体(以下、光ディスクと称する)の情報層に光学的に情報の記録、再生を行う光ピックアップ内の対物レンズ駆動装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の対物レンズ駆動装置としては、コイルなどの磁界発生手段を、熱を放熱させる放熱手段上に形成されているものがあった(例えば、特許文献1参照)。図6は、前記特許文献1に記載された従来の対物レンズ駆動装置50を模式的に示す図である。
【0003】
同図において、51は光情報記録媒体、52は光ビーム、53は対物レンズ、54aは透過性の基板の光学ガラス、54bは熱伝導層である放熱手段、57はコイルなどの磁界発生手段、58はレンズホルダであり、周囲に放熱溝59が形成されアルミニウム製である。光学ガラス54aは、光ビーム52の光路部以外の領域に成膜された放熱手段54bの表面の少なくとも一部がレンズホルダ58の端面60と接触した状態で保持され、放熱手段54bの表面には磁界発生手段57が構成されている。
【0004】
次に、従来の対物レンズ駆動装置の動作について説明する。図示しない光源から放射された光ビーム52は、対物レンズ53によって集光され、光情報記録媒体51に照射される。対物レンズ53により集光された光スポットを光情報記録媒体51の所望のトラックに追従制御する際に、磁界発生手段57に通電するため、磁界発生手段57に発熱が生じる。通電によって発生した熱は、放熱手段54bによりレンズホルダ58の端面60に伝わり、レンズホルダ58の放熱溝59から空気中に放熱される機能を有していた。
【特許文献1】特開2000−173123号公報(段落番号0019〜同0026及び図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら前記した特許文献1に開示の構成では、放熱手段54bよりレンズホルダ58に熱伝導させて放熱させるため、レンズホルダ58の材料はアルミニウム等の金属にしなければならず、質量が増加して対物レンズ駆動装置50のフォーカス方向、トラッキング方向へ駆動するための感度が低下するという課題がある。また低下した駆動感度を補うために磁界発生手段57に通電する電流を増加させなければならない必要があるため、発生する熱も増加し、レンズホルダ58の放熱溝59で空気中に放熱しきれなくなるという課題も有していた。
【0006】
図7は従来の構成にて、磁界発生手段57に通電量を増加させていった場合の光スポットの光学収差変動を示している。横軸は消費電力、縦軸は光学収差(3次の球面収差)の変動量である。磁界発生手段57に通電していくと熱が発生し、対物レンズ53の屈折率変動が発生し、その結果光学収差(3次の球面収差)の変動が大きくなる。対物レンズ駆動装置の定格0.3Wの通電状態で、3次の球面収差の変動量は−0.02λであり、この変動量は0.2μmの光スポットの焦点ズレに相当する。焦点ズレが大きいとジッター特性が劣化し、記録再生動作ができないという課題がある。一方、安定した記録再生特性を維持するためには、焦点ズレは0.1μm以下に抑える必要がある。従って、従来の構成では、発生する熱による3次の球面収差の変動を抑えなければならないという課題も有していた。
【0007】
このように、特許文献1に開示の放熱構成の課題を解消するためには、レンズホルダ58や磁界発生手段57を大きくして駆動感度を低下させず、かつ発生する熱を効率よく放熱させなければならないという課題があった。
本発明は、前記従来の課題を解決するもので、小型軽量化を達成しながら、光ピックアップの光学収差の変動を抑制した対物レンズ駆動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記従来課題を解決するために、本発明に係る対物レンズ駆動装置は、光源から放射される光ビームを光情報記録媒体に集光する集光レンズと、前記集光レンズを保持するレンズ保持部材と、前記レンズ保持部材に具備されたコイル手段と、前記コイル手段に対向して配置された磁石と、前記レンズ保持部材をそれぞれ一方の側で支持する複数の支持部材と、前記複数の支持部材を前記レンズ保持部材に対してそれぞれ他方の側で保持する保持部材と、前記磁石と前記保持部材を固定する基台と、前記基台に取り付けられ、前記集光レンズの光軸中心に対し直交する上面部と、当該集光レンズ及び前記コイル手段の間隙に当該上面部から屈曲した屈曲部とを備える。また、上述の屈曲部の面積が、前記集光レンズの前記コイル手段への投影面積以上であることが好ましい。また、上述の上面部から前記光軸中心における前記光ビームの進行方向に凸状に突出した複数の突出部を前記上面部に備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、遮蔽部材の一部が集光レンズと複数のコイル手段の間隙に配置することにより、遮蔽部材の上面部が光ピックアップ内部へのごみやほこりの浸入を防ぐ防塵機能を有すると共に、屈曲部がコイル手段より発生する熱を遮熱し、集光レンズへの熱伝導を抑え、有害な光ピックアップの光学収差の変動を抑制した対物レンズ駆動装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明に係る対物レンズ駆動装置においては、光源から放射される光ビームを光情報記録媒体に集光する集光レンズと、前記集光レンズを保持するレンズ保持部材と、前記レンズ保持部材に具備されたコイル手段と、前記コイル手段に対向して配置された磁石と、前記レンズ保持部材をそれぞれ一方の側で支持する複数の支持部材と、前記複数の支持部材を前記レンズ保持部材に対してそれぞれ他方の側で保持する保持部材と、前記磁石と前記保持部材を固定する基台と、前記基台に取り付けられ、前記集光レンズの光軸中心に対し直交する上面部と、当該集光レンズ及び前記コイル手段の間隙に当該上面部から屈曲した屈曲部とを備える。このため、遮蔽部材の上面部がコイル手段より発生する熱を遮熱する機能を有しているため、当該上面部が光ピックアップ内部へのごみやほこりの浸入を防ぐ防塵機能を有する。しかも遮蔽部材の屈曲部が集光レンズへの熱伝導を抑え、有害な光ピックアップの光学収差の変動を抑えることができ、光スポットの焦点ズレを防ぐことができる。
【0011】
以下、図面を参照して本発明の好まし実施形態を説明する。図1は本実施形態における対物レンズ駆動装置の構成を示す要部斜視図、図2は同実施形態における対物レンズ駆動装置の分解斜視図、図3は同実施形態における対物レンズ駆動装置の要部断面構成図である。
【0012】
図1から図3において、1は所望の情報信号を記録及び再生される光情報記録媒体、2は複数の磁気回路を構成するよう複数着磁した磁石、3は光情報記録媒体1の盤面上に光スポットを投影する機能を持ち、樹脂やガラスで形成された集光レンズ、4は図示しない光ピックアップ内部にごみやほこりが浸入するのを防ぐ防塵機能を有する遮蔽部材、4aは遮蔽部材の上面部4bから折り曲げた屈曲部である。遮蔽部材4は金属や熱伝導性の樹脂等の材料で形成され、屈曲部4aと上面部4bとは切り欠きを介して連設している。5は磁石2、遮蔽部材4を固定する基台、6は基台5に固定された保持部材、7は磁石2と対向するように配置され、複数の磁気回路を構成するよう銅線などで複数種類巻き線したコイルをプリント基板などの電気接続手段に貼り付けたコイル手段、8は集光レンズ3及びコイル手段7を保持するレンズ保持部材、8aはレンズ保持部材8に取り付けられコイル手段7と電気的接続をする端子P板、9は一方で端子P板8aと半田付けされてレンズ保持部材8を支持し、コイル手段7へ給電し、かつ他方を保持部材6で保持された線状のワイヤなどの支持部材である。図3の断面図に示すように、遮蔽部材4の屈曲部4aはレンズ保持部材8の集光レンズ3とコイル手段7の間隙8bに配置されている。以上の部材にて、対物レンズ駆動装置10が構成されている。
【0013】
次に、図1から図3の各構成要素の働きを説明する。図示しない光源から放射された光ビームは、集光レンズ3によって集光され、光情報記録媒体1の盤面上に照射される。集光レンズ3により集光された光スポットを光情報記録媒体1の所望のトラックに追従制御させるため、磁石2およびコイル手段7で複数の磁気回路を構成している。磁石2に対向するように配置されたコイル手段7は、図示しない電流供給源より電流が供給され、支持部材9を介して通電し、集光レンズ3及びレンズ保持部材8を、光情報記録媒体1の面ぶれ方向(フォーカス方向と称する)、光情報記録媒体1の偏心方向(トラッキング方向と称する)、及び光情報記録媒体1の回転方向(接線方向)を軸に傾斜する方向(チルティング方向と称する)に動作するようコイル巻き線されている。
【0014】
ここで、光情報記録媒体1の所望のトラックに光スポットを投影するためコイル手段7が通電されると、熱が発生する。発生した熱は遮蔽部材4の屈曲部4aが、熱発生源であるコイル手段7と集光レンズ3との間隙に配置されているため、集光レンズ3へ直接熱伝導せず、屈曲部4aによって熱が吸収され、遮蔽部材4の光情報記録媒体1側の上面部4bの方へ熱伝導していく。上面部4bからの熱放射により、伝導した熱を放熱することができる。さらに、不図示のスピンドルモータにより光情報記録媒体1が回転することで、光情報記録媒体1と遮蔽部材4の上面部4bの間には回転による風が発生するため、その風によって上面部4bに伝導した熱を冷却することができる。
【0015】
図4Aは、本実施形態の構成にて、コイル手段7に通電量を増加させた場合の光スポットの光学収差変動を示してる。横軸は消費電力、縦軸は光学収差(3次の球面収差)の変動量である。コイル手段7に通電していくと熱が発生するが、遮蔽部材4の屈曲部4aにより集光レンズ3への熱伝導を抑え、集光レンズ3の屈折率変動が抑えられ、その結果光学収差(3次の球面収差)の変動も小さくなる。なお、図4Bに3次の球面収差の様子を示している。本実施形態の場合、対物レンズ駆動装置10の定格0.3Wの通電状態で、3次の球面収差の変動量は−0.003λであり、この変動量は0.03μmの光スポットの焦点ズレに相当し、変動量としては非常に小さく記録及び再生特性を劣化させることはない。
【0016】
係る構成によれば、従来のようにレンズホルダをアルミニウム等の金属材料にする必要はなく、レンズ保持部材8に軽量な樹脂材料を用いて対物レンズ駆動装置の駆動感度(消費電力)を損なうことなく小型軽量化が図れ、また遮蔽部材4の上面部4bが光ピックアップ内部へのごみやほこりの浸入を防ぐ防塵機能を有すると共に、屈曲部4aによって集光レンズへの熱伝導を抑えることで光学収差の変動を抑えることができ、光スポットの焦点ズレを防ぎ、安定して光スポットの制御を行い安定した記録再生特性を維持することができる。
【0017】
なお、本実施形態において、遮蔽部材4の屈曲部4aの面積は、コイル手段7からの熱を直接集光レンズ3へ伝導しないよう、集光レンズ3のコイル手段への投影面積以上としておくと、広い放熱路が確保できるため好ましい。
【0018】
なお、本実施形態において、図5A及び図5Bに示すように、遮蔽部材4に、屈曲部4aに加えて上面部4bに複数の凸状の突起部4cを備えると、当該突起部4cが放熱フィンとしての機能を有するためさらに放熱効率を向上させることができる。なお、光情報記録媒体1が回転する方向を長手に形成することで、光情報記録媒体1の回転による風の影響を受けやすくし、冷却効果を高めることができる。
【0019】
また、本実施形態において、レンズ保持部材8がフォーカス方向へ動作したとき、制御が利かずに飛び出してしまい光情報記録媒体1に衝突して傷つけてしまう場合があるが、レンズ保持部材8に当て面8cを形成して異常可動したとき、当て面8cと屈曲部4aとを当てることによりレンズ保持部材8が係止するよう、遮蔽部材4の屈曲部4aに係止機能を付加した構成も、構成可能である。
【0020】
さらに、上記実施形態は基本的な構成であり、本発明の権利の範囲において細部の変更を加え、また従来公知の技術に加えて実施することができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0021】
以上のように、本発明にかかる対物レンズ駆動装置は、複数種類の高記録密度の光情報記録媒体を記録または再生する光ピックアップ内の装置として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の対物レンズ駆動装置に係る一実施形態の構成を示す要部斜視図
【図2】同実施形態における要部分解斜視図
【図3】同実施形態における対物レンズ駆動装置の要部断面図
【図4A】同実施形態における対物レンズ駆動装置の光学収差変動量の相関図
【図4B】同実施形態における3次の球面収差の正負方向を説明する図
【図5A】同実施形態における対物レンズ駆動装置の上部平面図
【図5B】他の実施形態における対物レンズ駆動装置の要部断面図
【図6】従来の対物レンズ駆動装置の要部構成図
【図7】同対物レンズ駆動装置の光学収差変動量の相関図
【符号の説明】
【0023】
1 光情報記録媒体
2 磁石
3 集光レンズ
4 遮蔽部材
4a 屈曲部
4b 上面部
4c 突起部
5 基台
6 保持部材
7 コイル手段
8 レンズ保持部材
9 支持部材
10 対物レンズ駆動装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源から放射される光ビームを光情報記録媒体に集光する集光レンズと、
前記集光レンズを保持するレンズ保持部材と、
前記レンズ保持部材に具備されたコイル手段と、
前記コイル手段に対向して配置された磁石と、
前記レンズ保持部材をそれぞれ一方の側で支持する複数の支持部材と、
前記複数の支持部材を前記レンズ保持部材に対してそれぞれ他方の側で保持する保持部材と、
前記磁石と前記保持部材を固定する基台と、
前記基台に取り付けられ、前記集光レンズの光軸中心に対し直交する上面部と、当該集光レンズ及び前記コイル手段の間隙に当該上面部から屈曲した屈曲部とを備えることを特徴とする対物レンズ駆動装置。
【請求項2】
前記屈曲部の面積が、前記集光レンズの前記コイル手段への投影面積以上であることを特徴とする請求項1記載の対物レンズ駆動装置。
【請求項3】
前記上面部から前記光軸中心における前記光ビームの進行方向に凸状に突出した複数の突出部を前記上面部に備えることを特徴とする請求項1記載の対物レンズ駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−35174(P2007−35174A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−218263(P2005−218263)
【出願日】平成17年7月28日(2005.7.28)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】