説明

対象物内部処置装置及び対象物内部処置システム

【課題】内視鏡及び処置具を本体部から直進延出させることができる対象物内部処置装置を提供する。
【解決手段】対象物内部に導入される可撓性を有する管状の本体部に、対象部位を観察するための内視鏡、及び、対象部位を処置する処置具をそれぞれ備えた複数の可撓性管状部材が内挿されてなる対象物内部処置装置であって、内視鏡又は処置具が本体部から対象部位側へ延出する孔部において、内視鏡又は処置具が孔部から直進延出するように内視鏡又は処置具を支持する支持手段を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象物内部の対象部位の切除等を行う対象物内部処置装置及び対象物内部処置システムに関し、とくに患者体内の病変部を治療するための装置及びシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
患者体内の病変部の外科的治療においては、複数の処置具を切開部分に同時に導入する必要がある場合がある。このような場合に、複数の処置具が同時に導入される切開部分の長さが大きくなることを防止し、かつ、複数の処置具を導入しても視野を確保することができるように、内視鏡又は処置具を挿入すべく可撓性管状の本体部端面中央に形成された中央孔部と、本体部端面の中央孔部の周囲において、それぞれ内視鏡又は処置具を挿入すべく形成された複数の周辺孔部と、を備えた対象物処置装置及び対象物内部処置システムが提案されている(特許文献1)。
【特許文献1】特開2005−46361号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述の対象物処置装置及び対象物内部処置システムでは、可撓性の本体部に挿通させるために、内視鏡及び処置部の管状部分が可撓性となっている。このため、中央孔部及び周辺孔部から延出した内視鏡及び処置具は、延出直後からその自重により重力方向に撓んでしまっていた。このような状態では、内視鏡及び処置具を所望の方向に向けること、及び、所望の位置に配置することが容易でないため、内視鏡又は処置具の操作を時間をかけて慎重に行わなければならなかった。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するために、本発明の対象物内部処置装置は、対象物内部に導入される可撓性を有する管状の本体部に、対象部位を観察するための内視鏡、及び、対象部位を処置する処置具をそれぞれ備えた複数の可撓性管状部材が内挿されてなる対象物内部処置装置であって、内視鏡又は処置具が本体部から対象部位側へ延出する孔部において、内視鏡又は処置具が孔部から直進延出するように内視鏡又は処置具を支持する支持手段を備えることを特徴としている。
【0005】
上記対象物内部処置装置は、支持手段を、直進延出方向に沿って、孔部の内外へ移動自在とする移動手段を備えることが好ましい。
【0006】
上記移動手段は、支持手段を直進延出方向に沿って孔部から延出させるように付勢する付勢手段と、付勢手段による付勢力に抗して支持手段が孔部から延出することを規制する規制手段と、を備えるとよい。
【0007】
上記付勢手段は付勢方向に伸縮可能な弾性部材であることが好ましく、コイルばねを用いることができる。
【0008】
上記規制手段は弾性部材に接続された操作ワイヤであるとよい。
【0009】
上記支持手段は、軟性管状部材が内挿される硬性の筒状部材であることが好ましく、プラスチックや硬性のゴムで形成することができる。
【0010】
上記本体部は、本体部の端面中央において、対象部位を観察する内視鏡を挿入する円形断面の中央孔部と、中央孔部の周りに等間隔に本体部に設けられ、対象部位を処置する処置具を挿入する複数の周辺孔部と、を備えることができる。
【0011】
上記直進延出方向は、本体部の先端が向く方向に沿うものとすることができる。
【0012】
本発明の対象物内部処置システムは、対象物内部に導入される可撓性を有する管状の本体部と、本体部に内挿され、対象部位を観察するための内視鏡と、本体部に内挿され、対象部位を処置する処置具をそれぞれ備えた複数の可撓性管状部材と、内視鏡又は処置具が本体部から対象部位側へ延出する孔部において、内視鏡又は処置具が孔部から直進延出するように内視鏡又は処置具を支持する支持手段と、対象物の外部において本体部又は内視鏡を操作する操作手段と、対象物の外部において処置具を操作する処置具操作手段と、を備えることを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、本体部から直進延出可能な支持手段によって、内挿された内視鏡又は処置具を支持するため、内視鏡及び処置具を本体部から直進延出させることができる。さらに、支持手段の位置を制御することによって、内視鏡及び処置具を所望の方向に向け、かつ、所望の位置に配置することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明にかかる実施形態を図1〜5を参照しつつ詳しく説明する。本実施形態にかかる対象物内部処置装置200、対象物内部処置システム250は、対象物としての患者の体内の病変部(対象部位)の治療を行うためのものであって、中央孔部20及び周辺孔部30を備える本体部10を有し、対象物内部処置システム250はさらに本体部操作手段60、内視鏡操作手段70、及び、処置具操作手段81〜85を有する。なお、本実施形態では、周辺孔部30が5つの孔部からなる場合について説明するが、周辺孔部30を構成する孔部の数は任意に設定することができる。
【0015】
本体部10は、患者(対象物)の体内に導入される可撓性を有する管状部材であり、例えば外径5cmで形成することができる。この本体部10は、図2に示すように、先端に行くほど外径が小さくなる円形断面を備える先端部11と、先端部11の後端面11aに固定された湾曲自在な湾曲部12とを備えている。本体部10は先端部11の先端面(前端面)11bから患者体内に導入され、病変部の位置に応じて体内の深部まで導入することができる。本体部10は、その後端部において接続された本体部操作手段60(図3)により、本体部10の患者体内への導入および導出のほか、湾曲部12の湾曲具合の調整を行うことができる。本体部操作手段60としては、例えば術者による手動操作、自動送出、巻取装置があり、これにより、本体部10は本体部操作手段60により外部から操作可能となる。
【0016】
本体部10には、先端部11の先端面11bから、その断面中央を貫通して設けられ、病変部(対象部位)を観察する内視鏡を挿入するように円形断面の中央孔部20と、中央孔部20の中心20aに関して等角度間隔(72度間隔)に本体部10を貫通するように設けられ、病変部を処置する処置具を挿入する5つの孔部31、32、33、34、35からなる周辺孔部30と、が設けられている。例えば、本体部10の外径が5cmであるとき、孔部31、32、33、34、35それぞれの内径を1.2cmとすることができる。また、先端部11及び中央孔部20は断面が円形でなくてもよい。この場合は、5つの孔部31、32、33、34、35は、中央孔部20を囲むようにして配置し、隣り合う孔部との間隔が同一であることが好ましい。なお、中央孔部20および周辺孔部30は先端部11のみを貫通し、湾曲部12は中空としてもよい。
【0017】
中央孔部20には、立体視内視鏡21が抜き差し可能に挿入、貫通されている。この立体視内視鏡21は、湾曲可能な円筒状の管状本体部21aに、病変部を立体的に観察するための二つの観察光学系21b、21cと、病変部を照らすための照明光学系21d、21eと、観察光学系21b、21cの表面の曇りの除去、洗浄のための送水、および、患者体内への送気を行うための送気送水系21f、21gと、が挿通固定されている。このように、立体視内視鏡21を採用したことにより病変部およびその周辺を立体的に観察することができるため、治療を的確かつスムーズに行うことができる。また、この立体視内視鏡21は、その後端部において管状本体部21aの導入、導出、観察光学系21b、21cの焦点、視野、ズーミングの調節、照明光学系21d、21eの明るさ、方向、角度の調整、観察光学系21b、21cの表面の曇りの除去、洗浄のための送水、ならびに、患者体内への送気などの操作を行うための内視鏡操作手段70に接続されており(図3)、立体視内視鏡21は内視鏡操作手段70により外部から操作可能となる。観察光学系21b、21cは、立体視内視鏡21の後端部においてこれらによる病変部およびその周辺の画像を立体的に表示可能な画像表示手段87に接続されている(図3)。なお、治療の内容等によっては、観察光学系は一つとすることもできる。
【0018】
孔部31、32、33、34、35には、それぞれ、処置具41、42、43、44、45が抜き差し可能に挿入、貫通されている。この処置具41、42、43、44、45は、湾曲自在な管状本体部41a、42a、43a、44a、45aを有し、それぞれの後端部において、これらの操作を行うための処置具操作手段81、82、83、84、85に接続されている(図3)。なお、処置具41、42、43,44、45は、治療順序、病変部の形状等に応じて孔部31、32、33、34、35のいずれに挿入してもよい。また、処置具41、42、43,44、45以外の処置具も孔部31、32、33、34、35に挿入可能である。ここで、例えば、孔部31、32、33、34、35それぞれの内径を1.2cmとしたとき、処置具41、42、43,44、45それぞれの外径を1cmとすることができる。
【0019】
処置具41は、例えば病変部の周辺を把持して処置具42や処置具45による切開の用に供するためのものであって、この処置具41は、湾曲可能な円筒状の管状本体部41aに、物体を把持可能な把持鉗子41b、把持鉗子41b先端付近を観察するための観察光学系(観察手段)41cと、把持鉗子41b先端付近を照らすための照明光学系(照明手段)41d、41eと、観察光学系41cの表面の曇りの除去、洗浄のための送水、および、患者体内への送気を行うための送気送水系(送気送水手段)41f、41gと、が挿通固定されている(図2)。処置具41は、その後端において、管状本体部41aの導入、導出、湾曲、把持鉗子41bによる把持動作の制御、観察光学系41cの焦点、視野、ズーミングの調節、照明光学系41d、41eの明るさ、方向、角度の調整、観察光学系41cの表面の曇りの除去、洗浄のための送水、ならびに、患者体内への送気などの操作を行うための処置具操作手段81に接続され、この処置具操作手段81により外部から操作可能である。観察光学系41cは、処置具41の後端部において、観察光学系41cによる把持鉗子41b先端付近の画像を表示可能な画像表示手段91に接続されている(図3)。なお、観察光学系を二つにして把持鉗子41b先端付近を立体的に観察できるようにすることもできる。あるいは、赤外光観察、蛍光観察、ズーム観察、超音波観察、共焦点観察、オプティカル・コヒーレント・トモグラフィ観察(OCT)などを行うようにすることもできる。
【0020】
処置具42は、例えば処置具41により周辺を把持された病変部を切除するためのものであって、この処置具42は、湾曲可能な円筒状の管状本体部42aに、物体を切除可能な鋏鉗子42b、鋏鉗子42b先端付近を観察するための観察光学系(観察手段)42cと、鋏鉗子42b先端付近を照らすための照明光学系(照明手段)42d、42eと、観察光学系42cの表面の曇りの除去、洗浄のための送水、および、患者体内への送気を行うための送気送水系(送気送水手段)42f、42gと、が挿通固定されている(図2)。処置具42は、その後端において、管状本体部42aの導入、導出、湾曲、鋏鉗子42bによる切除動作の制御、観察光学系42cの焦点、視野、ズーミングの調節、照明光学系42d、42eの明るさ、方向、角度の調整、観察光学系42cの表面の曇りの除去、洗浄のための送水、ならびに、患者体内への送気などの操作を行うための処置具操作手段82に接続され、この処置具操作手段82により外部から操作可能である。観察光学系42cは、処置具42の後端部において、観察光学系42cによる鋏鉗子42b先端付近の画像を表示可能な画像表示手段92に接続されている(図3)。なお、観察光学系を二つにして鋏鉗子42b先端付近を立体的に観察できるようにすることもできる。あるいは、赤外光観察、蛍光観察、ズーム観察、超音波観察、共焦点観察、オプティカル・コヒーレント・トモグラフィ観察(OCT)などを行うようにすることもできる。
【0021】
処置具43は、病変部およびその周辺を洗浄するための送水、および、病変部およびその周辺の血液、洗浄水などの液体の吸引を行うためのものであって、この処置具43は、湾曲可能な円筒状の管状本体部43aに、病変部およびその周辺を洗浄するときには水を送水し、病変部およびその周辺の血液、洗浄水などの液体を吸引するときには外部から吸引するための洗浄水送入吸引チューブ43b、洗浄水送入吸引チューブ43b先端付近を観察するための観察光学系(観察手段)43cと、洗浄水送入吸引チューブ43b先端付近を照らすための照明光学系(照明手段)43d、43eと、観察光学系43cの表面の曇りの除去、洗浄のための送水、および、患者体内への送気を行うための送気送水系(送気送水手段)43f、43gと、が挿通固定されている(図2)。処置具43は、その後端において、管状本体部43aの導入、導出、湾曲、洗浄水送入吸引チューブ43bによる送水、吸引動作の制御、観察光学系43cの焦点、視野、ズーミングの調節、照明光学系43d、43eの明るさ、方向、角度の調整、観察光学系43cの表面の曇りの除去、洗浄のための送水、ならびに、患者体内への送気などの操作を行うための処置具操作手段83に接続され、この処置具操作手段83により外部から操作可能である。観察光学系43cは、処置具43の後端部において、観察光学系43cによる洗浄水送入吸引チューブ43b先端付近の画像を表示可能な画像表示手段93に接続されている(図3)。なお、観察光学系を二つにして洗浄水送入吸引チューブ43b先端付近を立体的に観察できるようにすることもできる。あるいは、赤外光観察、蛍光観察、ズーム観察、超音波観察、共焦点観察、オプティカル・コヒーレント・トモグラフィ観察(OCT)などを行うようにすることもできる。
【0022】
処置具44は、所望の箇所を局所的に止血するためのものであって、この処置具44は、湾曲可能な円筒状の管状本体部44aに、所望の箇所に局所的に高周波をかけて発熱により止血を行うための高周波止血鉗子44b、高周波止血鉗子44b先端付近を観察するための観察光学系(観察手段)44cと、高周波止血鉗子44b先端付近を照らすための照明光学系(照明手段)44d、44eと、観察光学系44cの表面の曇りの除去、洗浄のための送水、および、患者体内への送気を行うための送気送水系(送気送水手段)44f、44gと、が挿通固定されている(図2)。処置具44は、その後端において、管状本体部44aの導入、導出、湾曲、高周波止血鉗子44bによる止血動作の制御、観察光学系44cの焦点、視野、ズーミングの調節、照明光学系44d、44eの明るさ、方向、角度の調整、観察光学系44cの表面の曇りの除去、洗浄のための送水、ならびに、患者体内への送気などの操作を行うための処置具操作手段84に接続され、この処置具操作手段84により外部から操作可能である。観察光学系44cは、処置具44の後端部において、観察光学系44cによる高周波止血鉗子44b先端付近の画像を表示可能な画像表示手段94に接続されている(図3)。なお、観察光学系を二つにして高周波止血鉗子44b先端付近を立体的に観察できるようにすることもできる。あるいは、赤外光観察、蛍光観察、ズーム観察、超音波観察、共焦点観察、オプティカル・コヒーレント・トモグラフィ観察(OCT)などを行うようにすることもできる。
【0023】
処置具45は、所望の箇所を切開するためのものであって、この処置具45は、湾曲可能な円筒状の管状本体部45aに、高周波で振動する先端部を所望の位置に押し当てることによって切開を行うための切開用高周波メス45b、切開用高周波メス45b先端付近を観察するための観察光学系(観察手段)45cと、切開用高周波メス45b先端付近を照らすための照明光学系(照明手段)45d、45eと、観察光学系45cの表面の曇りの除去、洗浄のための送水、および、患者体内への送気を行うための送気送水系(送気送水手段)45f、45gと、が挿通固定されている(図2)。処置具45は、その後端において、管状本体部45aの導入、導出、湾曲、切開用高周波メス45bによる切開動作の制御、観察光学系45cの焦点、視野、ズーミングの調節、照明光学系45d、45eの明るさ、方向、角度の調整、観察光学系45cの表面の曇りの除去、洗浄のための送水、ならびに、患者体内への送気などの操作を行うための処置具操作手段85に接続され、この処置具操作手段85により外部から操作可能である。観察光学系45cは、処置具45の後端部において、観察光学系45cによる切開用高周波メス45b先端付近の画像を表示可能な画像表示手段95に接続されている(図3)。なお、観察光学系を二つにして切開用高周波メス45b先端付近を立体的に観察できるようにすることもできる。あるいは、赤外光観察、蛍光観察、ズーム観察、超音波観察、共焦点観察、オプティカル・コヒーレント・トモグラフィ観察(OCT)などを行うようにすることもできる。
【0024】
なお、孔部31、32、33、34、35には、例えば、把持鉗子41b、鋏鉗子42b、洗浄水送入吸引チューブ43b、高周波止血鉗子44b、切開用高周波メス45bのみを、可撓性の管状部材に装着して、又は、可撓性の管状部材として、抜き差し可能に挿入、貫通することもできる。
【0025】
図4を参照しつつ、孔部31の内部構造並びに孔部31内に挿通される管状支持部材410、コイルばね412、及び操作ワイヤ414について説明する。この内部構造並びに管状支持部材410、コイルばね412、及び操作ワイヤ414は、孔部31を例にとって説明するものであって、孔部32〜35及び中央孔部20についてもそれぞれ同様の構成となっているが、もちろん、孔部31〜35及び中央孔部20の一部のみをこの構成とすることもできる。また、この内部構造は先端部11の内部のみに形成してもよいし、先端部11及び湾曲部12の内部に形成してもよい。
【0026】
孔部31は、先端面11b側から順に、第1孔部310、第2孔部311、第3孔部312が連設されてなる貫通孔であり、処置具41が内挿される。第1孔部310は先端面11bから本体部10の内側へ向けて、本体部10の中心軸に沿って穿設されている。第2孔部311は、第1孔部310と同軸となるように、第1孔部310の後端面(先端面11bから最も遠い内壁)310aに連なって本体部10の内側へ向けて、穿設されている。さらに、第3孔部312は、第1孔部310及び第2孔部311と同軸となるように、第2孔部311の後端面311aに連なって本体部10の内側へ向けて、貫設されている。第1孔部310、第2孔部311、及び第3孔部312の軸直交断面は円形であって、それらの内径は、第1孔部310が最も大きく、第2孔部311、第3孔部312の順に小さくなっている。第3孔部312の内径は、処置具41の管状本体部41aの外径と略同一である。第1孔部310の後端面310aからは、本体部10の内側へ向けて、操作ワイヤ414が挿通される第4孔部313が貫設されている。
【0027】
孔部31内には、硬性、中空の管状支持部材(支持手段)410と、弾性部材としてのコイルばね(付勢手段)412と、可撓性の操作ワイヤ(規制手段)414が内挿される。コイルばね412と操作ワイヤ414により、管状支持部材410を本体部10の内外へ移動自在とする移動手段が構成される。
【0028】
管状支持部材410は、内径が処置具41の外径と略同一の中空円筒状部材であり、例えばプラスチックや硬性のゴムで形成される硬性部材である。この管状支持部材410の外周には、管状支持部材410と同心状に外方へ突出するように円板状の凸部410aが形成されている。この凸部410aの外径は第1孔部310の内径と略同一である。このような構成の管状支持部材410は、処置具41を内挿した状態で第1孔部310内に収容される。管状支持部材410は、凸部410aの外周と第1孔部310の内壁とを摺動させつつ、第1孔部310内で処置具41に対して相対移動可能であり、その移動方向は、本体部10の先端が向く方向(先端面11bと直交する方向)に沿っている。したがって、管状支持部材410に内挿された処置具41は、管状支持部材410に支持された部分では直線状に配置され、管状支持部材410を先端面11bから外部へ直進延出させた状態では、管状支持部材410に支持された処置具41も直進延出方向、すなわち本体部10の先端が向く方向に沿うこととなる。さらに、先端面11bからの管状支持部材410の延出量を増減制御することにより、管状支持部材410に支持されていない部分の処置具41が自重により撓んだとしても、処置具41の先端側を所望の方向に向け、かつ、所望の位置に配置することができる。
【0029】
コイルばね412は、内径が処置具41の外径と略同一の圧縮コイルばねであり、外径が第2孔部311の内径と略同一である。このコイルばね412は、その後端側が第2孔部311内に収容され、前端は管状支持部材410の後端面と当接するように配置される。コイルばね412の前端及び後端を、管状支持部材410の後端面及び第2孔部311の後端面311aに、例えば接着、溶着により、それぞれ固定すると管状支持部材410の移動がスムーズかつ安定したものとなり、かつ、管状支持部材410が第1孔部310から飛び出してしまうことを防止することができるため好ましい。
【0030】
操作ワイヤ414は、前端が凸部410aの端面に固定された状態で第4孔部313内に挿通されて、後端が本体部10の外部に延出する金属製のワイヤである。操作ワイヤ414は、例えば、接着、溶着により凸部410aの後端面に固定される。
【0031】
つづいて、操作ワイヤ414を用いた管状支持部材410の移動について説明する。
まず、操作ワイヤ414を牽引していない状態では、コイルばね412は収縮していない自然状態であって、管状支持部材410に対してコイルばね412の弾性力がかかっていない。このとき、コイルばね412は、後端が第2孔部311内に、前端側が第1孔部310内にあって、凸部410aは第1孔部310の前方側(先端面11bに近い側)に位置し、管状支持部材410は先端面11bから延出している(図4(b))。よって、管状支持部材410に内挿された処置具41は、管状支持部材410により先端面11bから直進延出するように支持されている。
【0032】
これに対して、コイルばね412の弾性力に抗して、操作ワイヤ414の後端を操作者が牽引すると、凸部410aは、第2孔部311側へ、処置具41に対して相対移動し、コイルばね412は徐々に収縮する。操作ワイヤ414を牽引してコイルばね412が収縮するにつれて、管状支持部材410の先端面11bからの延出量は減少し、収縮したコイルばね412がすべて第2孔部311内に収容されたとき、管状支持部材410はその全体が第1孔部310内に収容される。操作ワイヤ414の牽引量は任意に設定することができ、これにより、先端面11bからの管状支持部材410の延出量を調整することができる。このように延出量を調整することにより、管状支持部材410よりも前方で自重で撓む処置具41の先端側部分の向く方向及びその位置を調整することができる。
【0033】
管状支持部材410における凸部410aの前後方向位置、並びに、第1孔部310、第2孔部311、及びコイルばね412の軸方向長さは、必要とされる処置具41の直進延出量に応じて任意に設定することができる。また、管状支持部材410が第1孔部310から抜けることを防止するために、例えば、第1孔部310の前端部分において、管状支持部材410の外周と第1孔部310の内周との間に嵌合可能な円環状フランジ部を備えた部材を配置することが好ましい。
【0034】
また、第1孔部310は、本体部10の先端が向く方向に対して、本体部10の外周側へ向くように傾斜させることもできる。また、コイルばねは、引張コイルばねでもよい。さらにまた、コイルばね412及び第2孔部311を設けることなく、本体部10の外部における操作ワイヤ414の後端の位置を調整することにより、管状支持部材410の先端面11bからの延出量を調整してもよい。また、コイルばね412に代えて、例えば第2孔部311内に電磁石を配置し、この電磁石に対する電流の印加をオンオフすることにより、永久磁石を備えた管状支持部材410を処置具41に対して相対移動させることもできる。
【0035】
つづいて、以上の構成の対象物内部処置装置200、対象物内部処置システム250を用いた病変部の外科的治療の手順について説明する。まず、患者体内の病変部を治療するために適切な箇所を切開する。複数の処置具を必要とする治療であっても、対象物内部処置装置200を用いれば、対象物内部処置装置200を患者体内に導入するのに必要な分だけ(例えば、本体部10の外径が5cmであれば約5cm)切開をすれば済むため患者にかかる負担が少なくて済む。
【0036】
次に、対象物内部処置装置200を切開部から患者100の体内へ導入する。対象物内部処置装置200は、あらかじめ、本体部操作手段60、内視鏡操作手段70、処置具操作手段81〜85、画像表示手段87、及び、画像表示手段91〜95を、本体部10、立体視内視鏡21、及び、処置具41〜45に接続してある(図3)。また、孔部31においては、コイルばね412が第2孔部311に挿通され、凸部410aに固定された操作ワイヤ414が第4孔部313に内挿され、管状支持部材410が第1孔部310内に挿通される。孔部32〜35及び中央孔部20においても、管状支持部材410、コイルばね412、及び操作ワイヤ414と同様の部材が同様に配置される。
【0037】
立体視内視鏡21の視野範囲22が、図5に示すような病変部110およびその周辺、ならびに、処置具41、42、43、44、45それぞれの先端部分が観察可能となる位置で導入を止めて治療を開始する。対象物内部処置装置200は、立体視内視鏡21を囲むようにして処置具41〜45を配置してあり、治療中は立体視内視鏡21の視野範囲の全周囲に処置具41〜45が配置されることとなる。さらに、処置具41、42、43、44、45、及び、立体内視鏡21を、先端面11bから所望量だけ直進延出させることができるため、これらを所望の方向に向け、所望の位置に配置することができる。すなわち、本体部10の先端面11bから病変部までの距離が長いときは支持部材410の延出量を大きくし、病変部までの距離が短いときは支持部材410を本体部10内に牽引することにより、病変部までの距離が変わっても処置具41、42、43、44、45の操作を容易にすることができる。よって、術者は病変部110、処置具41〜45を認識しやすくなり、これにより操作が行いやすくなる。また、処置具を自在に入れ替えることができるため、例えば図5に示すように2つの把持鉗子41b、41bで左右から病変部110を持ち上げて、その下側から切開用高周波メス45bで切除し、出血したら高周波止血鉗子44bで止血し、上方からは洗浄水送入吸引チューブ43bで洗浄水をかけることで、容易に手術を行うことができる。さらに、病変部110が患者100の体内の深部にあっても、対象物内部処置装置200を患者100の体内の深部へ導入することによって、図5のような視野範囲とすることができるため治療を安全かつスムーズに行うことができる。
【0038】
以下に変形例について説明する。
管状本体部41a、42a、43a、44a、45aに代えて、それぞれ、内視鏡の挿入部を用いることもできる。このように構成すると、既存の内視鏡を利用できるため製造コストを削減することができる。
【0039】
本体部操作手段60、内視鏡操作手段70、処置具操作手段81〜85に代えて、本体部10、立体視内視鏡21、処置具41〜45を一括してまたは選択的に操作することができる操作手段(不図示)を設けてもよい。さらに、画像表示手段87、画像表示手段91〜95に代えて、立体視内視鏡21、処置具41〜45の観察光学系21b、21c、観察光学系41c、42c、43c、44c、45cからの画像を一括して、または、選択的に表示可能な画像表示装置(不図示)を設けてもよい。このように構成することによって、省スペース化可能でコンパクトなシステムとなり、より少ない人数の術者によって効率的に治療を行うことができる。
【0040】
本発明について上記実施形態を参照しつつ説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、改良の目的または本発明の思想の範囲内において改良または変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の実施形態に係る対象物内部処置装置の本体部の先端部先端面の構成を示す正面図である。
【図2】本発明の実施形態に係る対象物内部処置装置の構成を示す斜視図であって、管状支持部材が中央孔部及び周辺孔部から延出していない状態を示す図である。
【図3】本発明の実施形態に係る本体部、内視鏡、処置具と、本体部操作手段、内視鏡操作手段、処置具操作手段、画像表示手段との関係を示すブロック図である。
【図4】本発明の実施形態に係る周辺孔部又は中央孔部の内部構造を示した孔部の軸を含む断面図である。
【図5】本発明の実施形態に係る内視鏡の視野範囲における治療の状態の例を示す図である。
【符号の説明】
【0042】
10 本体部
11 先端部
11b 先端面
20 中央孔部
21 立体視内視鏡(内視鏡)
30 周辺孔部
31 孔部
32 孔部
33 孔部
34 孔部
35 孔部
41 処置具
41a 管状本体部
42 処置具
42a 管状本体部
43 処置具
43a 管状本体部
44 処置具
44a 管状本体部
45 処置具
45a 管状本体部
60 本体部操作手段
70 内視鏡操作手段
81 処置具操作手段
82 処置具操作手段
83 処置具操作手段
84 処置具操作手段
85 処置具操作手段
100 患者(対象物)
110 病変部(対象部位)
200 対象物内部処置システム
250 対象物内部処置装置
310 第1孔部
311 第2孔部
312 第3孔部
313 第4孔部
410 管状支持部材(支持手段)
410a 凸部
412 コイルばね(付勢手段、移動手段)
414 操作ワイヤ(規制手段、移動手段)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物内部に導入される可撓性を有する管状の本体部に、対象部位を観察するための内視鏡、及び、前記対象部位を処置する処置具をそれぞれ備えた複数の可撓性管状部材が内挿されてなる対象物内部処置装置であって、
前記内視鏡又は前記処置具が前記本体部から前記対象部位側へ延出する孔部において、前記内視鏡又は前記処置具が前記孔部から直進延出するように前記内視鏡又は前記処置具を支持する支持手段を備えることを特徴とする対象物内部処置装置。
【請求項2】
前記支持手段を、前記直進延出方向に沿って、前記孔部の内外へ移動自在とする移動手段を備える請求項1記載の対象物内部処置装置。
【請求項3】
前記移動手段は、前記支持手段を前記直進延出方向に沿って前記孔部から延出させるように付勢する付勢手段と、前記付勢手段による付勢力に抗して前記支持手段が前記孔部から延出することを規制する規制手段と、を備える請求項2記載の対象物内部処置装置。
【請求項4】
前記付勢手段は付勢方向に伸縮可能な弾性部材である請求項3記載の対象物内部処置装置
【請求項5】
前記弾性部材はコイルばねである請求項4記載の対象物内部処置装置。
【請求項6】
前記規制手段は前記弾性部材に接続された操作ワイヤである請求項3記載の対象物内部処置装置。
【請求項7】
前記支持手段は、前記管状部材が内挿される筒状部材である請求項1記載の対象物内部処置装置。
【請求項8】
前記支持手段は、プラスチックで形成された管状部材である請求項7記載の対象物内部処置装置。
【請求項9】
前記支持手段は、硬性のゴムで形成された管状部材である請求項7記載の対象物内部処置装置。
【請求項10】
前記本体部は、前記本体部の端面中央において、対象部位を観察する内視鏡を挿入する円形断面の中央孔部と、前記中央孔部の周りに等間隔に前記本体部に設けられ、前記対象部位を処置する処置具を挿入する複数の周辺孔部と、を備える請求項1〜9のいずれか1項記載の対象物内部処置装置。
【請求項11】
前記直進延出方向は、前記本体部の先端が向く方向に沿っている請求項1記載の対象物内部処置装置。
【請求項12】
対象物内部に導入される可撓性を有する管状の本体部と、
前記本体部に内挿され、前記対象部位を観察するための内視鏡と、
前記本体部に内挿され、前記対象部位を処置する処置具をそれぞれ備えた複数の可撓性管状部材と、
前記内視鏡又は前記処置具が前記本体部から前記対象部位側へ延出する孔部において、前記内視鏡又は前記処置具が前記孔部から直進延出するように前記内視鏡又は前記処置具を支持する支持手段と、
前記対象物の外部において前記本体部又は前記内視鏡を操作する操作手段と、
前記対象物の外部において前記処置具を操作する処置具操作手段と、
を備えることを特徴とする対象物内部処置システム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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