説明

対震ピボットヒンジ装置及びそれを用いた扉装置

【課題】扉の上部、下部を持ち出し形式で吊りこむピボットヒンジにおいて、地震等により枠体が変形しても扉を開くことができるようにした対震ピボットヒンジ装置を提供する。
【解決手段】扉1の上部、下部を上部ピボットヒンジ3および下部ピボットヒンジ4で枠体に吊りこむ。このとき、各ピボットヒンジ3、4の枠側ヒンジ8、12と扉側ヒンジ19、26の間に変形吸収間隙δ1、δ2を形成するよう下部枠側ヒンジ12と下部扉側ヒンジ26を離間させる方向に付勢する付勢ばね37を設ける。このばねの付勢力は、扉の重量に余裕の力を加えた力である。扉の重量より大きな力が作用すると、上記付勢ばねが撓みながら上記変形吸収間隙で変形を吸収することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、扉を枠体に開閉自在に取りつけるためのピボットヒンジに関し、地震等で扉の枠体が変形して扉に外力が作用し開閉できなくなるような場合にも、ピボットヒンジが変形分を吸収して扉を開くことができるようにした対震ピボットヒンジ装置及びそれを用いた扉装置に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、扉の枠体は上枠と下枠及び両側に位置する竪枠により矩形状に形成されており、通常の旗丁番では、この竪枠と扉側面小口に丁番の羽根板を取り付けて扉を吊り込むよう構成されている。そして、地震の際に枠体が変形しても扉を開くことができるよう羽根板を相対的に軸方向に移動できるようにした対震丁番が種々知られているが、扉の吊元側上面小口と下面小口に扉側ヒンジを取り付けて、扉の上下部分で扉を持ち出し吊り形式に支持する構成のピボットヒンジでは地震の際に枠体の変形分を吸収して扉を開くことができるようにしたものは知られていない。地震等の対策として、非常時にピボットヒンジの軸をヒンジ部分から分離して脱出できるようにした非常時脱出機構付きピボットヒンジが提案されている(例えば、特許文献1参照)が、構成が複雑であり、経済的に得られない。
【0003】
一般的に、扉の上部と下部に設けたピボットヒンジで扉を枠体に対して開閉可能に連結する通常の形式のピボットヒンジでは、地震等で枠体が変形すると、扉に枠体が当って扉に外力を及ぼすため扉を開けることができなくなるが、扉に作用する変形荷重を上部、下部のピボットヒンジが変形することで吸収できれば、ピボットヒンジで吊り込んだ扉でも開くことができるはずである。しかし、ピボットヒンジは持ち出し吊り形式で、扉の回動中心が扉の開き方向に突出しているので、従来の対震丁番と同じような構造にすると、外形が大きくなり、見た目もよくないし、蹴飛ばしたり、つまずいたりし易く、安全面でも問題があり実現できていない。従来の対震丁番の場合は、枠体の竪枠と扉の側面小口間で複数組の丁番により扉を吊り込む構成のため、地震等で枠体が変形して扉に外力が作用したときでも、扉と竪枠の関係は変わらないので、それぞれの丁番が変形分を吸収できる構造になっていればよいが、ピボットヒンジの場合は、扉の上部、下部で扉を支持しているので、上部、下部のピボットヒンジで全体として変形分を吸収できる構成にする必要がある。
【0004】
地震の際、建屋の床面に拘束されている下枠に対して、建屋の開口部の上方に拘束されている上枠は建屋の振動にともなって前後左右方向に勝手に変位する。従来の対震丁番では、枠体の一つの竪枠に複数の丁番を取り付けて扉の吊元側を吊り込んでいるため、竪枠が上枠や下枠に対して傾斜することになっても、扉と竪枠は常に一体となって変位するから、従来の対震丁番では丁番の変位は丁番の軸方向の変位を考慮すればよいが、通常のピボットヒンジでは同じように考えることができない。すなわち、通常のピボットヒンジ装置は、上部ピボットヒンジと下部ピボットヒンジで構成され、上部ピボットヒンジは、上枠の下面と扉の吊元側の上面小口間に設けられ、下部ピボットヒンジは下枠上面又は竪枠下端部と扉の吊元側の下面小口間に設けられているから、地震で枠体が変形して上枠と下枠が勝手に変位すると、上部ピボットヒンジの回転中心と下部ピボットヒンジの回転中心の位置がずれるおそれが大きい。したがって、ピボットヒンジの場合には、従来の対震丁番のように軸方向の変形吸収を考慮するだけでなく、回転中心のずれを吸収することも考慮しなければ、扉を開くことはむずかしい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−144320号公報(請求項1、図1、図9)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の解決課題は、上記のように扉を持ち出し吊り形式で吊り込むピボットヒンジにおいて、地震等により枠体が変形し扉に変形荷重が作用しても扉を開くことができるようにしたピボットヒンジ装置を提供することであり、特に、枠体の上枠や下枠が勝手に変形することにより上部ピボットヒンジと下部ピボットヒンジの回転中心が狂っても扉を開くことができるようにした対震ピボットヒンジ装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、上部ピボットヒンジと下部ピボットヒンジで扉の上部・下部を枠体に回動可能に持ち出し形式で吊り込むようにしたピボットヒンジ装置において、枠体の上部に上部ピボットヒンジの上部枠側ヒンジを固定し、扉の吊元側の上部に上部ピボットヒンジの上部扉側ヒンジを固定し、上部扉側ヒンジに設けた上部軸を上部枠側ヒンジの軸受部に設けた軸受に挿入し、下枠又は竪枠の下部に下部ピボットヒンジの下部枠側ヒンジを固定し、扉の吊元側の下部に下部ピボットヒンジの下部扉側ヒンジを固定し、上記下部枠側ヒンジに下部軸を設け、下部扉側ヒンジの軸受部に上記下部軸を支持する軸受を設け、上記上部枠側ヒンジの下面と上部扉側ヒンジの上面間及び下部枠側ヒンジの上面と下部扉側ヒンジ扉の下面間にそれぞれ変形吸収間隙を形成するよう扉に作用する荷重よりも大きな荷重で下部扉側ヒンジと下部枠側ヒンジを離間する方向に付勢する付勢ばねを設けたことを特徴とする対震ピボットヒンジ装置が提供され、上記課題が解決される。
【0008】
また、本発明によれば、上記上部枠側ヒンジと下部枠側ヒンジを、それぞれ枠体の竪枠の上方端と下方端に取り付けた上記対震ピボットヒンジ装置が提供される。さらに、上記上部ピボットヒンジの上部枠側ヒンジを枠体の上枠に固定し、下部ピボットヒンジの下部枠側ヒンジを枠体の下枠若しくは竪枠の下方端に取り付けた上記対震ピボットヒンジであって、上部軸又は下部軸の軸受又は軸支部には自動調芯機構が設けられている上記対震ピボットヒンジ装置が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明は上記のように構成され、上部ピボットヒンジと下部ピボットヒンジで扉の上部・下部を枠体に回動可能に持ち出し形式で吊り込むようにしたピボットヒンジ装置において、枠体の上部に上部ピボットヒンジの上部枠側ヒンジを固定し、扉の吊元側の上部に上部ピボットヒンジの上部扉側ヒンジを固定し、上部扉側ヒンジに設けた上部軸を上部枠側ヒンジの軸受部に設けた軸受に挿入し、下枠又は竪枠の下部に下部ピボットヒンジの下部枠側ヒンジを固定し、扉の吊元側の下部に下部ピボットヒンジの下部扉側ヒンジを固定し、上記下部枠側ヒンジに下部軸を設け、下部扉側ヒンジの軸受部に上記下部軸を支持する軸受を設け、上記上部枠側ヒンジの下面と上部扉側ヒンジの上面間及び下部枠側ヒンジの上面と下部扉側ヒンジ扉の下面間にそれぞれ変形吸収間隙を形成するよう扉に作用する荷重よりも大きな荷重で下部扉側ヒンジと下部枠側ヒンジを離間する方向に付勢する付勢ばねを設けたから、地震等で枠体に外力が作用し、扉に変形荷重がかかるような場合でも、上部枠側ヒンジの下面と上部扉側ヒンジの上面間及び下部枠側ヒンジの上面と下部扉側ヒンジ扉の下面間には、下部ピボットヒンジに設けた付勢ばねによって変形吸収間隙が形成されているので、この間隙内で枠体の変形を吸収することができ、扉を開放することができる。
【0010】
また、上部ピボットヒンジと下部ピボットヒンジの各枠側ヒンジをそれぞれ枠体の竪枠の上端部及び下端部に取り付ければ、地震の際、扉と竪枠は一体となって変位するので、上部ピボットヒンジと下部ピボットヒンジの回動中心に狂いを生じることがなく、地震等で枠体が変形しても変形吸収間隙で枠体の変形を吸収して扉を開くことができる。一方、上部ピボットヒンジの枠側ヒンジを枠体の上枠に固定し、下部ピボットヒンジを枠体の下枠若しくは竪枠の下端部に固定した場合には、枠体が変形すると、上枠、下枠、竪枠が勝手に変形するため、上部ピボットヒンジと下部ピボットヒンジの回動中心に狂いを生じることがあるが、このような場合には、上記のように、上部ピボットヒンジの上部軸又は下部軸の軸受又は軸支部に自動調芯機構を組み込んでおくことにより、枠体の傾きに応じて上部ピボットヒンジの上部軸と下部ピボットヒンジの下部軸を同一直線上に自動的に配列でき、回動中心のずれは解消され、上記のように変形吸収間隙で枠体の変形を吸収して扉を開くことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施例を示し、上部ピボットヒンジと下部ピボットヒンジの各枠側ヒンジを枠体の竪枠に固定した場合の断面図。
【図2】図1の上部ピボットヒンジと下部ピボットヒンジの各枠側ヒンジを竪枠に固定している状態を示す説明図。
【図3】(A)から(B)は、それぞれ下部ピボットヒンジ軸受部の他の実施例を示す各説明図。
【図4】(A)、(B)は下部ピボットヒンジ軸受部のさらに他の実施例を示す説明図。
【図5】上部ピボットヒンジの軸受に自動調芯機構を組み込んだ実施例を示す断面図。
【図6】(A)から(E)は自動調芯機構の作用を示す説明図。
【図7】上部ピボットヒンジの軸支部に自動調芯機構を組み込んだ実施例を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
上述したように、ピボットヒンジ装置は、扉1を持ち出し吊り形式で枠体2に吊り込むために、扉の上端を支持する上部ピボットヒンジ3と扉の下端を支持する下部ピボットヒンジ4で構成され、各ピボットヒンジは、枠体に固定される枠側ヒンジと扉に固定される扉側ヒンジを具備している。そして、この枠側ヒンジを取り付ける位置は、上部ピボットヒンジ3及び下部ピボットヒンジ4の各枠側ヒンジをそれぞれ枠体2の竪枠5の上方端、下方端に取り付ける場合と、上部ピボットヒンジ3の上部枠側ヒンジを枠体の上枠6に取り付け、下部ピボットヒンジ4の下部枠側ヒンジを下枠7若しくは竪枠5の下方端に取り付ける場合がある。
【0013】
図1は、上部ピボットヒンジ3及び下部ピボットヒンジ4の各枠側ヒンジをそれぞれ枠体の竪枠5の上方端、下方端に取り付けた場合を示し、図2に示すように、上部ピボットヒンジ3の上部枠側ヒンジ8は、枠体の竪枠5の上方端にねじ等で取り付けられる羽根部9と、該羽根部9の上端から水平方向に持ち出し形式で延びる軸受部10を有し、該軸受部10には軸受11が設けられているが、単なる孔を設けて軸受としてもよい。また、下部ピボットヒンジ4の下部枠側ヒンジ12は、上記竪枠5の下方端にねじ等で取り付けられる羽根部13と該羽根部13の下方端から水平方向に持ち出し形式で延びる軸取付部14があり、該軸取付部14に設けた取付孔15に、扉1の荷重を支える段付き面16と回動周面17を形成した下部軸18の基部が挿入固定される。
【0014】
また、上部ピボットヒンジ3の上部扉側ヒンジ19は、図1に示すように、扉1の吊元側上面小口にねじ等で取り付けられる腕部20と該腕部20から水平方向に持ち出された軸取付部21を有し、該軸取付部21に設けたねじ孔22には上部軸23が下方からねじ込まれ、上部軸のねじ部間に形成した溝24部に止めねじ25を係合して固定され、該上部軸23の先端は上記上部枠側ヒンジ8の軸受11に回動自在にかつ上下方向に摺動可能に挿入される。なお、上部軸23の下端面にはドライバーや六角レンチ等の工具を差し込むための溝や孔(図示略)が形成されており、軸取付部21と上部軸23との嵌合長さや軸受部10との嵌合長さ(軸の突出高さ)を調整した後、上記止めねじで固定される。該上部軸23は、扉1の荷重を支えているわけではなく、扉の回動支持と倒れ方向に力を支えているものである。
【0015】
上記下部ピボットヒンジ4の下部扉側ヒンジ26は、図1に示すように、扉1の吊元側下面小口にねじ等で取り付けられる腕部27と該腕部27から水平方向に持ち出され扉1の回動中心となる軸受部28を有している。該軸受部28は、下方に開口する円筒状の受孔29を形成したハウジング30を有し、該ハウジング30の下端近くには止め輪溝31が形成され、天板32には周縁部を残して孔33が開口されているが、該孔は閉塞されていてもよい。該ハウジング30の受孔29には軸受ホルダー34が上下動可能に嵌合しており、該軸受ホルダー34に軸受35が組み込まれ、上記下部軸18の先端が該軸受35に回動自在に挿入されている。該ハウジング30の止め輪溝31には軸受ホルダー34が脱落しないよう止め輪34が装着されている。
【0016】
上記上部ピボットヒンジ3の上部枠側ヒンジ8と上部扉側ヒンジ19の間に変形吸収間隙δ2を形成し、かつ下部ピボットヒンジ4の下部枠側ヒンジ12と下部扉側ヒンジ26の間に変形吸収間隙δ1を形成するよう上記下部ピボットヒンジ4の下部枠側ヒンジ12と下部扉側ヒンジ26を離間する方向に付勢する付勢ばね37が下部枠側ヒンジ12と下部扉側ヒンジ26間の適所に設けられている。この付勢ばね37としては、圧縮コイルばねや皿ばねが好適に使用され、図1に示す実施例では上記軸受ホルダー34とハウジング30の天板32間に設けられている。この付勢ばねによる付勢力は、上記変形吸収間隙δ1、δ2を確保するため扉の重量に余裕をプラスした予圧を加えることが必要である。
【0017】
上記の構成により、枠体2に扉1を取り付ける際、下部ピボットヒンジ4の下部枠側ヒンジ12の上面と下部扉側ヒンジの下面間に間隙δ1を保持すると共に上部ピボットヒンジ3の上部枠側ヒンジ8と上部扉側ヒンジ19の間に間隙δ2を保持するように設計されていれば、下部ピボットヒンジ4の下部枠側ヒンジ12に設けた下部軸18は、下部扉側ヒンジ26の軸受ホルダー34に組み込んだ軸受35に回動自在に嵌合しているので、扉の重量を支えることができ、かつ扉の重量+余裕以上の荷重が加わると下部軸は付勢ばね37の予圧に打ち勝って軸受ホルダー35を押し上げることができる。これにより、地震等で外力が枠体に加わり、扉に扉の重量+余裕以上の力が加わった場合、上記間隙δ2が変形を吸収しつつ上記付勢ばね37が撓んで上記間隙δ1が変形を吸収する。このようにして、全体として変形吸収代はδ1+δ2の寸法となるので、容易に扉を開くことができる。
【0018】
図3は、下部ピボットヒンジ4の軸受部28の他の実施例を示し、図3(A)に示す実施例では、ハウジング30は開口部の下端にフランジ38を有し、該フランジ38に当る位置まで軸受ホルダー34が上下動可能であり、軸受ホルダー34の中心部に設けた筒部39の周囲に嵌着した付勢ばね(皿ばね)37により下方に付勢されている。該皿ばねの上部には座金40が装着され、該座金40が脱落しないよう止め輪41がハウジング30に形成した止め輪溝42に係合している。下部軸18の構成は上記図2に示す実施例と同じであり、上記皿ばねにより、下部扉側ヒンジ26と下部枠側ヒンジ12を扉の重量+余裕の付勢力で離間する方向に付勢している。この際、図3(B)に示すように、軸受ホルダー34の上部に筒状部43を形成し、この筒状部43に圧縮コイルばね付勢ばね37として装着することもできる。
【0019】
また、上記図2に示すように、ハウジング30の上部に天板32を設けて付勢ばね(圧縮コイルばね)37を収納し、下部開口部に軸受ホルダー34を抜け止めする止め輪36を設けた構成において、図3(C)に示すようにハウジング30の内面に拡径部44を形成し、この拡径部44に内接する外径の軸受ホルダー34が、止め輪36と拡径部44の端縁45間で上下動可能にしたり、上記図3(A)のように軸受ホルダー34の中心部に形成した筒部39の周囲の上記天板32と軸受ホルダー34間に付勢ばね(皿ばね)37を装着するようにしてもよい。
【0020】
上記実施例では、圧縮コイルばねや皿ばね等の付勢ばねをハウジング内に収納するようにしたが、このような付勢ばねを下部扉側ヒンジ26と下部枠側ヒンジ12の間に装着することもできる。図4は、そのような一実施例を示し、下部枠側ヒンジ12に形成した凹陥部46の底部に下部軸18の下端を挿入しかしめて固定し、その周囲の凹陥部に付勢ばね(皿ばね)37を装着する。下部軸18の上端には、段部47を介し頭部48が形成され、該段部47に当接するばね受49が設けられており、上記皿ばねの上方部はこのばね受49内に収納される。ばね受49は下方が開口する筒状に形成され、段部50を介して凹陥部46の上方に形成した拡径部51に入り込み、下端が段部50に当接する位置まで上下動可能である。上記下部扉側ヒンジ26の天板52には上記下部軸18の頭部48が挿通可能な孔53が形成され、該下部軸18の頭部48を支持する軸受54と上記ばね受49間にはプレート55が設けられている。上記付勢ばね(皿ばね)37は、上記実施例と同様に扉の重量+余裕の付勢力を具備しており、下部扉側ヒンジ26に大きな変形荷重が作用すると、図4(B)に示すように、下部軸18の頭部48と軸受54間で摺動して下部扉側ヒンジ26と下部枠側ヒンジ12が接近するよう相対的に移動し、変形を吸収することができる。
【0021】
上記実施例では、上部ピボットヒンジ3の上部枠側ヒンジ8を枠体2の竪枠5に固定しているが、通常のように、該上部枠側ヒンジ8を枠体2の上枠6に固定することもできる。この場合、上述したように、地震等で枠体が変形すると、上部ピボットヒンジ3と下部ピボットヒンジ4の回動中心がずれるおそれが大きい。図5は、そのような場合に好適に使用できるピボットヒンジ装置を示し、下部ピボットヒンジ4は基本的に上記実施例を同じであり、下部ピボットヒンジの下部扉側ヒンジ26は、扉1の吊元側下面小口に取り付けられる腕部27と該腕部27から水平方向に持ち出される軸受部28を有し、軸受部28に設けたハウジング30内には軸受35、軸受ホルダー34、付勢ばね(圧縮コイルばね)37、止め輪36等が設けられている。また、下部ピボットヒンジ4の下部枠側ヒンジ12は枠体の下枠7や竪枠5の下端近くに固定される羽根部13と該羽根部13から水平方向に持ち出され下部軸18を設けた軸取付部14を有し、該下部軸18が上記軸受35に挿入され、下部軸18の段付き面16が軸受35が当接している。上記圧縮コイルばねによる付勢力は、上記図1に示す実施例と同じように、扉の重量+余裕であり、下部扉側ヒンジ26と下部枠側ヒンジ12は、両者間に変形吸収間隙δ1を形成できるように扉と枠体に取り付けられる。
【0022】
一方、上部ピボットヒンジ3の上部扉側ヒンジ19は、扉の吊元側上面小口に取り付ける腕部20と、該腕部20から水平方向に持ち出され上部軸23を取り付ける軸取付部21を具備し、上部枠側ヒンジ8は、枠体の上枠6に取り付けられる羽根部9と該羽根部9から水平方向に持ち出された軸受部10を有し、該軸受部10には自動的に軸の支持部を移動できる自動調芯機構56が設けられている。該自動調芯機構56は種々に構成することができる。図に示す実施例では、軸受部10に扉1の回動中心となる位置に下面に開口する孔57を設け、該孔57から上面に向かって径が大きくなるすり鉢状のテーパー面58を形成し、すり鉢状のテーパー面58が終わった位置から上方は円筒状に形成され、上端近くに止め輪溝59が形成されたハウジング60となっている。このハウジング60内には、上記上部軸23と嵌合する軸受61が形成されたテーパースリーブ62と、該テーパースリーブ62と座金63間に挿入される与圧ばね(圧縮コイルばね又皿ばね)64が収納され、該与圧ばね64により予圧を加えた状態で、該ばね64の上端に接する座金63を介し止め輪65で固定されている。枠体に扉1を取り付ける際、上記テーパースリーブ62に上部軸23を嵌合し、上部枠側ヒンジ8と上部扉側ヒンジ19間に変形吸収間隙δ2を保持するように取り付ける。
【0023】
上記実施例のように、上部ピボットヒンジ3に自動調芯機構56を設けると、地震等で枠体が変形して上部ピボットヒンジ3と下部ピボットヒンジ4の回動中心が狂った場合、上部軸23は図6に示すように自動調芯される。図6(A)は、中心が一致している状態を示し、上部軸23の先端が図において時計方向に傾斜したときは、図6(B)のようにテーパースリーブ62がテーパー面58内で傾いて軸を回動可能状態に支持し、反時計方向の傾斜したときには図6(B)のようにテーパースリーブ62が傾いて軸を回動可能状態に支持する。また、軸が図6(D)のように中心から左方に移動したときには、テーパースリーブ62は左方に偏りながら上昇し、中心から右方に移動したときには、テーパースリーブ62は右方に偏りながら上昇し、軸の支持部を自動的に移動して回動可能状態に保持する。
【0024】
図7は、自動調芯機構56を上部扉側ヒンジ19の軸支部に設けた実施例を示している。図7において、上部ピボットヒンジ3の上部枠側ヒンジ8は、羽根部9から水平方向に持ち出し形式に延びる軸受部10に上部軸23の軸受11を有する。上部扉側ヒンジ19は、腕部20から水平方向に持ち出し形式で延びる軸取付部21にハウジング66が形成されている。該ハウジング66は扉の回動中心となる孔67を上部に有し、該孔67から下方に広がるテーパー面68が形成され、該テーパー面68の下端から筒状の内壁面が形成されている。該テーパー面68には、上部軸23を固定したテーパースリーブ69が嵌合しており、該テーパースリーブ69と座金70の間にはテーパースリーブ69に与圧を加えるための与圧ばね(皿ばね)64が挿入され、座金70は溝71係合した止め輪72で抜け止めされている。このような構成において、下部ピボットヒンジ4の回動中心と上部ピボットヒンジ3の回動中心が狂った場合、上部扉側ヒンジ19内でテーパースリーブ69が移動することにより、上記図5に示す実施例とほぼ同様に回動中心を揃えることができる。
【0025】
上記のように上部ピボットヒンジに自動調芯機構を設けると、地震等で枠体が変形し荷重が扉に作用して上部ピボットヒンジと下部ピボットヒンジの回動中心にずれを生じても、上記自動調芯機構のテーパースリーブが移動して上部軸の狂いが補整され、変形が変形間隙δ1+δ2の範囲内であれば、扉を開くことができる。なお、上記の如き自動調芯機構は下部ピボットヒンジの下部軸の軸受や軸支部にも適宜設けることもできる。
【符号の説明】
【0026】
1 扉
2 枠体
3 上部ピボットヒンジ
4 下部ピボットヒンジ
5 竪枠
6 上枠
7 下枠
8 上部枠側ヒンジ
12 下部枠側ヒンジ
18 下部軸
19 上部扉側ヒンジ
23 上部軸
26 下部扉側ヒンジ
34 軸受ホルダー
37 付勢ばね
56 自動調芯機構
62、69 テーパースリーブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部ピボットヒンジと下部ピボットヒンジで扉の上部・下部を枠体に回動可能に吊り込むようにしたピボットヒンジ装置において、枠体の上部に上部ピボットヒンジの上部枠側ヒンジを固定し、扉の吊元側の上部に上部ピボットヒンジの上部扉側ヒンジを固定し、上部扉側ヒンジに設けた上部軸を上部枠側ヒンジの軸受部に設けた軸受に挿入し、下枠又は竪枠の下部に下部ピボットヒンジの下部枠側ヒンジを固定し、扉の吊元側の下部に下部ピボットヒンジの下部扉側ヒンジを固定し、上記下部枠側ヒンジに下部軸を設け、下部扉側ヒンジの軸受部に上記下部軸を支持する軸受を設け、上記上部枠側ヒンジの下面と上部扉側ヒンジの上面間及び下部枠側ヒンジの上面と下部扉側ヒンジ扉の下面間にそれぞれ変形吸収間隙を形成するよう扉に作用する荷重よりも大きな荷重で下部扉側ヒンジと下部枠側ヒンジを離間する方向に付勢する付勢ばねを設けたことを特徴とする対震ピボットヒンジ装置。
【請求項2】
上記上部ピボットヒンジの上部枠側ヒンジ及び下部ピボットヒンジの下部枠側ヒンジは枠体の竪枠に固定されている請求項1に記載の対震ピボットヒンジ装置。
【請求項3】
上記上部ピボットヒンジの上部枠側ヒンジは枠体の上枠に固定され、下部ピボットヒンジの下部枠側ヒンジは下枠若しくは竪枠の下端に固定され、該上部ピボットヒンジ又は下部ピボットヒンジには上部軸又は下部軸の支持部を自動的に移動できるよう自動調芯機構が設けられている請求項1に記載の対震ピボットヒンジ装置。
【請求項4】
上記下部ピボットヒンジの軸受は、軸受ホルダーに保持され、該軸受ホルダーは下部扉側ヒンジのハウジング内に上下動可能に収納され、該軸受ホルダーを付勢ばねにより下部枠体側ヒンジ方向に付勢している請求項1から3のいずれかに記載の対震ピボットヒンジ装置。
【請求項5】
上記下部ピボットヒンジの下部枠側ヒンジに設けた下部軸は、下部扉側ヒンジに設けた軸受に上下動可能に嵌合しており、下部扉側ヒンジと下部枠側ヒンジの間には付勢ばねがている請求項1から3のいずれかに記載の対震ピボットヒンジ装置。
【請求項6】
上記自動調芯機構は、一方のヒンジのハウジング内に形成したテーパー面とこのテーパー面に嵌合するテーパースリーブを含み、他方のヒンジに固定された上部軸又は下部軸は上記テーパースリーブに設けた軸受に支持されている請求項3に記載の対震ピボットヒンジ装置。
【請求項7】
上記自動調芯機構は、一方のヒンジのハウジング内に形成したテーパー面とこのテーパー面に嵌合するテーパースリーブを含み、該テーパースリーブには上部軸又は下部軸が固定され、該上部軸又は下部軸は他方のヒンジに設けた軸受に挿入されている請求項3に記載の対震ピボットヒンジ装置。
【請求項8】
上記請求項1から7のいずれかに記載の対震ピボットヒンジを備えた扉装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−36304(P2013−36304A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−175754(P2011−175754)
【出願日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【出願人】(501433619)中西産業株式会社 (12)
【出願人】(598081045)フジメタル株式会社 (23)
【Fターム(参考)】