寿命判定機能を有するマグネトロンの駆動装置
【課題】 マグネトロンの寿命時間が終わる直前で寿命判定が可能な寿命判定機能を有するマグネトロンの駆動装置を提案すること。
【解決手段】 寿命判定スイッチ28の投入操作にしたがって動作し、陽極トランス22のタップを切り換えるリレースイッチ26を備え、タップ切り換えに伴う陽極トランス22の出力電圧によってマグネトロン10の陽極電流を減少させる電流制御手段と、陽極電流の減少によってマグネトロン10にモーディングが発生したとき、異常発振のマイクロ波電力を検出する電力検出手段と、当該電力検出手段の検出信号に応動してアラームを発生する表示手段とからなる寿命判定装置を備え、陽極電極の減少時にマグネトロン10がモーディングしたとき、このモーディング検出しマグネトロン10の寿命到来が接近していることを判定する寿命判定機能を有するマグネトロンの駆動装置となっている。
【解決手段】 寿命判定スイッチ28の投入操作にしたがって動作し、陽極トランス22のタップを切り換えるリレースイッチ26を備え、タップ切り換えに伴う陽極トランス22の出力電圧によってマグネトロン10の陽極電流を減少させる電流制御手段と、陽極電流の減少によってマグネトロン10にモーディングが発生したとき、異常発振のマイクロ波電力を検出する電力検出手段と、当該電力検出手段の検出信号に応動してアラームを発生する表示手段とからなる寿命判定装置を備え、陽極電極の減少時にマグネトロン10がモーディングしたとき、このモーディング検出しマグネトロン10の寿命到来が接近していることを判定する寿命判定機能を有するマグネトロンの駆動装置となっている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグネトロンの寿命を寿命到来直前に検出し、マグネトロンの発振停止や出力低下などの弊害が発生する前にマグネトロンの交換を可能としたマグネトロンの寿命判定機能付きの駆動装置に係わる。
【背景技術】
【0002】
マグネトロンは消耗品であるため、マイクロ波電力を利用して加熱、乾燥し、或いは、エッチング処理等を行うマイクロ波応用装置では、所定期間の経過によってマグネトロンを交換することが行なわれている。
ところが、マグネトロン各々の寿命時間には長短があり、寿命(寿命時間の終わり)が明確でないために、寿命時間が充分にあるにもかかわらず交換してしまったり、また、寿命により故障となった後に交換するなど、実用的には様々な取り扱いがなされている。
【0003】
この結果、寿命時間を充分に残して交換する場合は経済的に好ましくないし、また、故障となった後で交換することも、マイクロ波処理される製品の歩留まりが悪くなったり、さらには、マグネトロン故障のための装置の停止時間が長くなったりする等の問題が生じる。
【0004】
上記の事情から、マグネトロンの寿命検出については、従来から様々な検出方法や検出装置が提案されている。
一例を述べれば、マグネトロンが冷えている状態で、通常運転起動電圧より低いヒーター電圧(フィラメント電圧)を印加すると共に、陽極にはヒーター電圧よりも高い電圧を印加し、この状態で、マグネトロンに発振停止又は出力低下が生じれば、マグネトロンの寿命と判定する寿命検出方法がる。
【0005】
【特許文献1】特許第2553424号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記した従来の寿命検出方法は、検出結果として残りの寿命時間、つまり、余寿命については具体的に分からないから、例えば、寿命時間が1000時間以上も残っているにもかかわらず寿命の到来と判定してしまうことがある。
したがって、寿命と判断すれば、残りの寿命時間に関係なくマグネトロンの交換が行われている。
【0007】
しかしながら、マグネトロンは、高価な商品であり、また、複数個使用されたものが多いから、可能なるかぎり寿命(異常発振または発振停止)が近づいたときに交換することが好ましい。
【0008】
また、上記した従来の寿命検出方法は、低いヒーター電圧をわざわざ供給する回路を必要となる他、マグネトロンの特性によっては、通常運転起動電圧より低いフィラメント電圧を印加することができないものがあるから、上記の寿命検出方法は限られたマグネトロンの寿命判定に適用できるに止まる。
【0009】
図13は、5kW出力のマグネトロンを一例として示した出力Po―平均陽極電流Ibの特性図、図14はそのマグネトロンのフィラメント電圧Ef―平均陽極電流Ibの特性図である。
図14より分かるように、このマグネトロンは、5kW出力時には920mAの平均陽極電流がながれ、また、920mAの平均陽極電流がながれるときは、図14に示されるように、0.4Vのフィラメント電圧を加えることが推奨されている。
【0010】
この結果、上記した従来例の寿命検出方法では、推奨フィラメント電圧0.4Vよりも更に低いフィラメント電圧に設定して寿命検出しなければならないため、フィラメント電圧の設定が困難となり、このようなマグネトロンの寿命検出には適さないことが分かる。
【0011】
本発明は、上記の実情にかんがみ、マグネトロンの寿命到来(寿命時間の終わり)を、可能なるかぎり寿命時間の終わりに近い時点で検出できるようにした寿命判定機能を有するマグネトロンの駆動装置を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記した目的を達成するため、本発明では、第1の発明として、マイクロ波電力を出力させるマグネトロンの駆動装置において、推奨されるフィラメント電圧と陽極電流とで正常発振するマグネトロンの陽極電流を一定の範囲で減少させる電流制御手段と、前記電流制御手段による陽極電流の減少制御によりマグネトロンが異常発振したとき、異常発振のマイクロ波電力を検出する電力検出手段と、前記電力検出手段の検出信号に応動する表示手段とからなる寿命判定装置を備え、前記電流制御手段による陽極電流の減少制御によってマグネトロンが異常発振に移ったとき、前記表示手段の表示変化からマグネトロンの寿命到来が接近したことを判定する寿命判定機能を有するマグネトロンの駆動装置を提案する。
【0013】
第2の発明としては、上記した第1の発明のマグネトロンの駆動装置において、前記電流制御手段は、マグネトロンのマイクロ波電力が92%程度となる陽極電流に減少制御する構成としたことを特徴とする寿命判定機能を有するマグネトロンの駆動装置を提案する。
【0014】
第3の発明としては、上記した第1の発明のマグネトロンの駆動装置において、マグネトロンが出力するマイクロ波電力の伝送路にフイルタを設け、マグネトロンが異常発振したとき、正常発振のマイクロ波周波数を超えた所定周波数の高周波電力を前記フイルタによって分離し、分離した高周波電力を異常発振のマイクロ波電力として検出して検出信号を出力する電力検出手段を設けたことを特徴とする寿命判定機能を有するマグネトロンの駆動装置を提案する。
【0015】
第4の発明としては、上記した第1の発明のマグネトロンの駆動装置において、マグネトロンが出力するマイクロ波電力をアプリケータに送る伝送路に少なくとも方向性結合器とアイソレータとを設け、前記方向性結合器の反射波結合側に高周波電力が現れたとき、異常発振のマイクロ波電力を検出する電力検出手段を設けたことを特徴する寿命判定機能を有するマグネトロンの駆動装置を提案する。
【0016】
第5の発明としては、上記した第4の発明のマグネトロンの駆動装置において、前記方向性結合器をパワーモニターとして構成したことを特徴とするマグネトロンの駆動装置を提案する。
【発明の効果】
【0017】
第1の発明の駆動装置は、推奨されるフィラメント電圧と陽極電流を与えて所定のマグネトロン電力を出力するマグネトロンについて、陽極電流を一定の範囲で減少させて寿命到来の検出を試みる。
この検出操作において、マグネトロンがモーディングすれば、出力するマイクロ波電力の周波数が、正常発振時のマイクロ波周波数に比べて高くなり、電力検出手段がその周波数変化から異常発振のマイクロ波電力を検出する。
【0018】
したがって、電力検出手段の検出信号に応動して表示手段が表示変化し、マグネトロンの寿命到来が近いことを知らせる。
寿命到来が近いことが分かれば、マグネトロンが通常運転で発振停止したり、モーディングの発生などで故障となる前に交換することが可能になるし、また、表示手段に表示変化があれば、マグネトロンの寿命と判定し、マグネトロンを交換することもできる。
なお、陽極電流を減少させたとき、マグネトロンがモーディングしないときは、出力するマイクロ波電力の周波数にほとんど変化がなく、表示手段が動作しないから、マグネトロンが充分に余寿命を残していることになる。
【0019】
このように、寿命到来を判定する本発明は、マグネトロンのモーディングの開始を検出して寿命の到来が近いことを判定する。
今少し詳細に述べれば、マグネトロンはフィラメント(陰極)の電子放出量が所定のマイクロ波電力の出力を維持できなくなったとき異常発振(モーディング)して寿命の到来となる。
【0020】
そして、電子放出量はフイラメント温度が上昇するバックヒーテング量に影響されることから、この発明では、陽極電流を一定の範囲で減少させることで、バックヒーテング量を減らすことを試み、そのとき、所定のマイクロ波電力を出力できる電子放出量が得られるか否かを検出するもので、充分な電子放出量が得られなければ、モーディングが発生してマイクロ波電力の周波数が上昇することから、この周波数の変化を検出して寿命の到来が近いことを知らせる構成となっている。
【0021】
第2の発明によれば、マグネトロンのマイクロ波電力が92%程度となる陽極電流に減少制御する構成としたので、概略95%以上の寿命を有効に利用することができる駆動装置となる。
【0022】
したがって、このように陽極電流を減少制御したとき、前記表示手段が表示変化した場合、そのときをマグネトロンの寿命到来と判定することも可能である。
【0023】
第3の発明は、マグネトロンが出力する高周波電力の伝送路に設けたフイルタにとって、正常発振の高周波電力と異常発振の高周波電力を分離し、分離された異常発振の高周波電力を検出し、その検出信号に応動するアラームなどの表示手段の表示変化からマグネトロンの寿命到来が接近していることを認識することができる。
【0024】
第4の発明は、マグネトロンが異常発振すると、アプリケータから送られる異常発振のマイクロ波電力である反射波はアイソレレータによっては消失されないため、方向性結合器の反射波結合側端子に高周波電力が現れる。
したがつて、反射波結合側端子に現れた高周波電力よりマグネトロンの寿命到来が近づいていることを検出することができる。
【0025】
第5の発明は、パワーモニターとアイソレータとを組み合せた電力検出手段となっているので、マグネトロンが正常発振している間は、パワーモニターの進行波測定端子に高周波電力が現れ、また、マグネトロンが異常発振すると、パワーモニターの反射波測定端子に高周波電力が現れるから、反射波測定端子から検出信号を出力させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
図1は、本発明の第一実施形態を示すマイクロ波応用装置の簡略図である。
このマイクロ波応用装置は、マグネトロン10が出力するマイクロ波電力が導波管系回路(マイクロ波伝送路)11を通してアプリケータ12に送られ、被処理物がこのアプリケータ12内でマイクロ波処理される。
【0027】
この実施形態のマイクロ波応用装置では、陽極電流の切り換え可能なマグネトロン10の駆動装置13と、導波管系回路11に設けたアイソレータ14とマグネトロン10との間に設けた寿命判定装置15が配置してある。
なお、寿命判定装置15は、電力検出部16と表示部17とから構成してある。
【0028】
図2は、上記駆動装置13の回路例を示した図である。
図示するように、マグネトロン10には、フィラメントトランス21の出力電圧をフィラメント電圧として給電し、陽極トランス22の出力電圧を陽極電圧として供給する。
【0029】
そして、フィラメントトランス21は、入力電圧を切り換えて予熱電圧(例えば、5V)から推奨される通常運転のフィラメント電圧(例えば、0.4V)に切り換える。
陽極トランス22は、出力電圧を高電圧整流回路23により整流し、さらに、平滑回路24で平滑してマグネトロン10の陽極に供給するが、この陽極トランス22の入力電圧を切り換えて寿命判定を行う。
【0030】
さらに、この駆動回路は、リレースイッチ25とリレースイッチ26とを備え、リレースイッチ25によってフィラメントトランス21の入力電圧を切り換え、リレースイッチ26によって陽極トランス22の入力電圧を切り換える。
【0031】
そして、リレースイッチ25は、非動作時に接片25a、25b、25cが開放、接片25dが閉成しており、タイマー27のスイッチ27aが閉成することで動作し、各接片が切り変わる。
リレースイッチ26は、非動作時に接片26aが閉成、接片26bが開放しており、寿命判定スイッチ28を投入することで動作し、各接片が切り変わる。
【0032】
その他、この駆動回路において、29はマグネトロンを冷却する冷却ファン、30はメインスイッチ31である。
【0033】
この駆動回路は、AC電源(例えば、AC200V)に接続され、メインスイッチ30を投入することで、回路各部が給電される。
先ず、メインスイッチ30を投入すると、冷却ファン29とタイマー27が始動し、また、リレースイッチ25の接片25dを介してフィラメントトランス21の入力コイル部分に電源電圧が供給される。
したがって、フィラメントトランス21の出力電圧によってマグネトロン10のフィラメントが予熱される
【0034】
タイマー27のカウント時間が終わると、そのスイッチ27aが閉成することから、リレースイッチ25のリレーコイルに電流が流れ、このリレースイッチ25が動作状態となる。
これより、各接片25a〜25dが切り替わり、接片25a、25b、25cが閉成し、接片25dが開放となる。
このため、フィラメントトランス21がタップ切り換えされ、その入力電圧が接片25cを介して入力コイル全体に供給されるので、このトランスから出力されるフィラメント電圧が予熱電圧から通常運転のフィラメント電圧に切り変わる。
【0035】
一方、リレースイッチ25の接片25a、25bが閉成することから、リレースイッチ26の接片26aを介して陽極トランス22の入力コイル部分に入力電圧が供給される。
これより、陽極トランス22の出力電圧が整流、平滑されてマグネトロン10の陽極に供給され、このマグネトロン10からマイクロ波電力が出力される。
【0036】
このようにしてマグネトロン10から出力するマイクロ波電力を導波管係回路11を通してアプリケータ12に送り、このアプリケータ12内で被処理物をマイクロ波処理する。
【0037】
この駆動回路は、寿命判定スイッチ28を投入操作してマグネトロン10の寿命を判定する。
すなわち、寿命判定スイッチ28を閉成させると、リレースイッチ26のリレーコイルに電流が流れ、このリレースイッチ26が動作状態となり、接片26aが開放、接片26bが閉成する。
【0038】
これより、陽極トランス22がタップ切り換えされ、入力コイル全体に入力電圧が供給されるため、その出力電圧が減少し、マグネトロン10の陽極電圧が減少する。したがって、陽極電流も減少する。
【0039】
このように、陽極電流を減少させたとき、マグネトロン10が正常発振を続ける場合は、フィラメントからの電子放出量レベルが充分にあり、マグネトロン10には余寿命が充分あると判定する。
なお、マグネトロン10に余寿命があるときは、寿命判定スイッチ28を開放させ、駆動回路を通常運転状態に復帰させる。
【0040】
陽極電流の減少に伴ってマグネトロン10が異常発振した場合は、フィラメントの電子放出量が少なくなっており、マグネトロン10の寿命の到来が間もないと判定する。
このときは、故障となる前にマグネトロン10を交換することができる。
【0041】
上記のように、陽極電流を減少させたときに、マグネトロン10が正常発振を続けるか、また、異常発振となったか否かの判断は、マグネトロン10にモーディングが発生したか否かで判断することができる。
すなわち、導波管系回路11に配置した寿命判定装置15によってモーディングの発生を検出する。
【0042】
次に寿命判定装置15について説明するが、先ず、異常発振(または、モーディング)について詳述する。
マグネトロン10は異常発振するようになったとき寿命が到来したことになる。
具体的には、マグネトロン10は、通常状態において正常発振し、2.45GHz帯のマイクロ波電力(正常発振のマイクロ波)を出力するが、経年使用によって異常発振するようになる。
【0043】
つまり、フィラメントからの電子放出量が正常発振を維持するのに必要なレベル以下になったとき異常発振(モーディング)が生じ、正常発振のマイクロ波に比べ高い周波数のマイクロ波電力(異常発振のマイクロ波)が出力するようになる。
【0044】
図3は、電子レンジ用や工業用に使用されるマグネトロンの陽極空洞40の模式図である。このマグネトロンは導電性のストラップリング41、42を備えることが特徴となっている。
陽極空洞40には、8枚のベイン40a〜40hが放射状に設けられ、内側のストラップリング41がベイン40a、40c、40e、40gに電気接続され、外側のストラップリング42がベイン40b、40d、40f、40hに電気接続されている。
【0045】
各ベインの先端側に付した+(プラス)と−(マイナス)は、マグネトロンが正常発振しているとき、ある瞬間にベイン先端に現れるマイクロ波電界の極性を示し、例えば、図示の如く、ベイン40aの先端がプラスの最大値を示すときは、隣のベイン40bの先端がマイナスの最大値を示すと言うように、隣り合うベインの先端に現れるマイクロ波電界の位相が180°(π)ずれる状態となる。
【0046】
この発振状態では、ストラップリング41、42による各ベインの接続点が同電位となるように強制されるので、位相がπだけずれたマイクロ波電界によって安定した発振が行われ、このように発振することをマグネトロンの正常発振と言う。
なお、陽極空洞40のベイン数は偶数で、電子レンジ用や工業用に使用されるマグネトロンは8枚から24枚のものが一般的で、特に10枚から14枚のものが多い。
【0047】
一方、図3において、ベイン40aの先端がプラス、ベイン40cの先端がマイナス、ベイン40eの先端がプラス、ベイン40gの先端がマイナスとなる発振モード、或いは、ベイン40aの先端がプラス、ベイン40eの先端がマイナスとなる発振モードがあるが、このような発振モードを総称して異常発振、あるいは、モーディングと言う。
したがって、以下の説明では、マグネトロンが正常発振以外のモードで発振することを異常発振又はモーディングと言う。
【0048】
なお、ストラップリング41、42は、上記したように正常発振を強制的に促し、発振の安定化に有利であるが、異常発振が生じときは、ベインの接続点が異なる電位となるので、大きなマイクロ波電流が流れ熱疲労破壊の原因となり、極端な場合は溶断などに至る。
【0049】
図4は、ストラップリングを備えるマグネトロンの陽極電流ibと陽極電圧ebとの関係を示す特性図である。
図示するように、正常発振A0が最も低い陽極電圧で発生し、異常発振A1、A2のときは、正常発振A0のときに比べ高い陽極電圧となる。
なお、異常発振の種類はベイン枚数に応じて増すが、この特性図では、2種類の異常発振A1、A2の特性が示してある。
【0050】
本発明は、正常発振A0の特性に最も近い異常発振A1の特性に着眼し、正常発振A0により出力されるマイクロ波電力の周波数(2.45GHz帯)と異常発振A1により出力されるマイクロ波電力の周波数を有効に利用する。
その理由は、フィラメントからの電子放出量が正常発振を維持するために必要なレベル以下になったとき異常発振するが、このとき異常発振A1のマイクロ波発振が最も強く必ず発生することを確認したからである。
【0051】
下記する表1は、工業用マグネトロンが正常発振A0で出力されるマイクロ波電力の周波数と異常発振A1で出力されるマイクロ波電力の周波数の測定結果を示す。
【表1】
なお、家庭用電子レンジが備えるマグネトロンが異常発振によって出力するマイクロ波電力の周波数は、4.2GHz〜5.0GHzであることも確認された。
【0052】
この表1より分かるように、2.45GHzのマイクロ波電力と、3.5GHz以上のマイクロ波電力を分離し、3.5GHz以上のマイクロ波電力を検出すれば、マグネトロンが異常発振したことが判明し、この結果、マグネトロンの寿命到来を認識することができる。
【0053】
正常発振のマイクロ波電力と異常発振のマイクロ波電力は、導波管をハイパスフイルタとして簡単に分離することができる。
図5はハイパスフイルタの構成例を示す方形導波管43で、断面の長辺寸法Dを4.3cmとしたものは、3.5GHz以下のマイクロ波電力を遮断し、3.5GHzを超えるマイクロ波電力を伝搬する。
同様に、長辺寸法Dを5cmにしたものは、3GHz以下のマイクロ波電力を遮断し、3GHzを超えるマイクロ波電力を伝搬する。
さらに、長辺寸法Dを6cmとしたものは、2.5GHz以下のマイクロ波電力を遮断し、2.5GHzを超えるマイクロ波電力を伝搬する。
【0054】
したがって、長辺寸法Dが4.3cmから6cmまでの方形導波管を用いれば、表1から分かるように、1.5kWから6kWまでのマグネトロンが出力する異常発振のマイクロ波電力を分離し、検出することができる。
具体的には、異常発振のマイクロ波電力に合わせた長辺寸法の方形導波管を使用する。
【0055】
図6、図7は、上記したハイパスフイルタである方形導波管を利用した寿命判定装置15の電力検出部16を示す。
この電力検出部16は、胴体部16aが図5に示す方形導波管と同様に正常発振のマイクロ波電力を遮断し、異常発振のマイクロ波電力を通過させる有底のフイルタとなっている。
また、胴体部16aには、結合金属棒44を備えた同軸線用端子45が設けてあり、結合金属棒44の胴体部内挿入長Hと短絡板からの距離Lは、異常発振のマイクロ波電力が結合する長さに調整してある。
【0056】
この電力検出部16は図8に示す如く、導波管系回路11の一部11aに設置してある。
具体的には、導波管系回路11は、正常発振のマイクロ波電力、つまり、2.45GHz帯のマイクロ波電力が伝播する導波管構成となっており、したがって、その一部11aの長辺寸法Dも60〜120cmの導波管となっている。
【0057】
導波管係回路11の一部11aには、異常発振のマイクロ波電力の波長に対し、1/2波長に近い長さに形成したスロットアンテナ46が設けてある。
このスロットアンテナ46は異常発振のマイクロ波電力に対し共振するので、異常発振の多くのマイクロ波電力を放出する。
【0058】
マグネトロン10が正常発振し、2.45GHz帯のマイクロ波電力をアプリケータ12に送っている間は、スロットアンテナ46から漏れる少ないマイクロ波電力(安全基準以下)は電力検出部16によって遮断されるから、同軸線端子45には検出信号が現れない。
【0059】
マグネトロン10が異常発振に移った時、異常発振のマイクロ波電力が導波管系回路11を介してアプリケータ12に送られるが、この時にスロットアンテナ46から多くの異常発振のマイクロ波電力が漏れ出て電力検出部16内に伝搬する。
したがつて、異常発振のマイクロ波電力が結合金属棒44に結合するから、同軸線端子45に検出信号(異常発振のマイクロ波電力)が現れる。
【0060】
同軸線端子45には、表示部17を接続し、この表示部17が同軸線端子45から出力される検出信号に応動してアラームを動作させる。
図9は表示部17の回路例を示す図である。
この表示回路は、電力検出部16から出力される検出信号をアンプ47によって検波増幅し、この増幅信号をトランジスタ48のベースに入力し、増幅信号が一定レベルを超えたとき、トランジスタ48をONさせる。
【0061】
トランジスタ48のONにより、リレー49が励起されてその端子49a、49bがOFFからONになり、ランプ50が点灯してモーディングの発生を表示する。
また、トランジスタ48に並列接続した常閉型のスイッチ51とリレー端子49aの回路体は、ランプ50の点灯保持回路である。
【0062】
すなわち、トランジスタ48が一旦ONすると、電力検出部16からの検出信号が消失してもスイッチ51と端子49aの閉成によりリレー49が動作を継続するから、ランプ50が点灯したままとなる。
なお、表示部17はアラームを発生すればよいので、上記のランプ50に換えてブザーなどのその他の表示部材を設けることができる。
【0063】
上記した通り、本実施形態の駆動回路は、マグネトロン10を通常運転し、マグネトロン10が正常発振しているかぎり、寿命判定装置15が非動作のままとなっている。
寿命判定スイッチ28を投入して寿命判定操作を行うと、陽極電流の減少に伴ってマグネトロン10が異常発振したとき、異常発振のマイクロ波電力を電力検出部16が検出し、その検出信号に応動して表示部17が表示動作する。
したがって、表示部17のランプ50の点灯から、マグネトロン10のモーディングの発生を検出し、マグネトロン10の寿命到来が近いことを判定する。
【0064】
このように行う寿命判定は、マグネトロン10が出力するマイクロ波電力が92%程度となるように、陽極電流を減少させる。
これにより、概略95%以上の寿命を有効に利用することができ、その上、マグネトロン10が故障してマイクロ波処理物に影響が出る前にマグネトロン10を交換することができる。
【0065】
図10は、本発明の第二実施形態を示し、この実施形態は、導波管系回路11に設けた方向性結合器61を利用した寿命判定装置15を備える図1同様のマイクロ波応用装置となっている。
本実施形態は、図11に示す通り、導波管系回路11の一部11aのH面に、管軸方向に沿って2つの孔63a、63bを設け、この孔63a、63bを覆うようにして方向性結合器61を設置した構成としてある。
なお、2つの孔63aと63bの間隔は、正常発振のマイクロ波電力が導波管系回路11を伝播するときの波長(管内波長)λgの1/4に設定してある。
【0066】
また、図12に示す如く、導波管系回路11の一部11aは、マグネトロン10のアンテナから放射したマイクロ波電力が入り口11bから進入してその出口11cに向かい、その出口11cにはアイソレータ14が接続される。
【0067】
さらに、この方向性結合器61は、H面に形成した孔63a、63bに対向する関係にある同軸線内導体64の位置を各々64a、64bとし、かつ、その位置64aから位置64bまでの長さを導波管系回路11の一部11aの管内波長λgの3/4に設定してある。
なお、孔63aと位置64aのマイクロ波電力の結合率(カップリング)と、孔63bと位置64bのマイクロ波電力の結合率(カップリング)は同じになるようにしてある。
【0068】
上記のように構成した方向性結合器64は、孔63aを通って位置64aに結合した正常発振のマイクロ波電力(2.45GHz帯)は、同軸線内導体64の同軸端子65aと65bとに等分に伝播する。そして、位置64bでは、波長がλg・3/4進む。
また、導波管内を孔63bまで進み、つまり、波長がλg・1/4進み孔63bから入って位置64bに結合する正常発振のマイクロ波電力も同軸端子65a、65bに等分に伝播する。
そして、位置64aでは、導波管内のλg・1/4の波長と同軸線内導体64のλg・3/4波長が加わり合計λg進むことになる。
【0069】
したがって、位置64aを通過して同軸端子65a側に進むマイクロ波電力は位相差がλgの同じ大きさ(結合率が同じであるから)の正常発振のマイクロ波電力が加わることになるので、導波管入り口11bから入った正常発振のマイクロ波電力が同軸端子65aで検出可能になる。
結合率が予め求めてあれば、導波管系回路11の一部11aを伝播するマイクロ波電力を同軸端子65aの出力から測定することができる。
【0070】
一方、位置64bを通過して同軸端子65b側に進む正常発振のマイクロ波電力は、孔63aで位置64aに結合したマイクロ波電力がλg・3/4進んで位置64bに到達し、導波管内をλg・1/4進んで孔63bから位置64bに結合したマイクロ波電力が加わる。
したがって、2つのマイクロ波電力の位相差がλg・1/2となって打ち消し合うため、位置64bを通過して同軸端子65b側に進むマイクロ波電力はない。
【0071】
言い換えれば、導波管入り口11bから進入した正常発振のマイクロ波電力については、同軸端子65aによって検出でき、導波管出口11cから進入した正常発振のマイクロ波電力は同軸端子65bによって検出することができる。
しかし、異常発振のマイクロ波電力は、位置64a、64bで結合しても位相が合っていないため、打ち消し合うことがないから、同軸端子65a、65bの両方に伝播する。
【0072】
上記構成の方向性結合器61を備えるマイクロ波応用装置は、マグネトロン10が正常発振している間は、2.45GHz帯のマイクロ波電力が同軸端子65aから検出できる。
なお、マグネトロンが正常発振しているかぎり、同軸端子65bにはマイクロ波電力は現れない。
【0073】
アプリケータ12から方向性結合器61に向かう正常発振のマイクロ波電力の反射波はアイソレータ14によって吸収されるから、アプリケータ12から方向性結合器61に向かうマイクロ波電力がなく、したがって、同軸端子65bにはマイクロ波電力が現れない。
【0074】
他方、マグネトロン10に異常発振が生じ、正常発振のマイクロ波電力と異常発振のマイクロ波電力が出力されると、同軸端子65aには、正常発振のマイクロ波電力と異常発振のマイクロ波電力が現れ、同軸端子65bには、異常発振のマイクロ波電力だけが現れる。
【0075】
このことから、同軸端子65bから出力されるマイクロ波電力信号(検出信号)に応動する表示部17のランプ点灯によってマグネトロン10のモーディングの発生が検出できるから、第一実施形態と同様に寿命判定操作することによって、マグネトロン10の寿命について判定できる。
【0076】
なお、本実施形態は、方向性結合器61に換えてパワーモニターを使用し、このパワーモニターとアイソレータ14とを組み合わせて寿命判定装置15の電力検出部16を構成することができる。
このように実施した場合は、進行波電力の取出端子には正常発振のマイクロ波電力が現われ、反射波の取出端子には異常発振のマイクロ波電力が現れる。
【0077】
なお、第一実施形態では、導波管を利用した周波数検出部16を用いた寿命判定装置15について説明したが、2.45GHz帯のマイクロ波電力を遮断し、異常発振のマイクロ波電力を通過させるフイルタであればよいので、例えば、表面波伝送線路、マイクロ波電界強度測定用のホーンアンテナなどを利用しても同様に構成することができる。
【産業上の利用可能性】
【0078】
マグネトロン応用装置などに備えるマグネトロンの寿命判定機能を有するマグネトロンの駆動装置として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】第一実施形態を示し、マグネトロンの寿命判定装置を備えたマグネトロン応用装置の概略図である。
【図2】寿命判定装置を備えるマグネトロンの駆動回路を示す図である。
【図3】電子レンジ用や工業用に使用されるマグネトロンの陽極空洞の模式図である。
【図4】ストラップリングを備えるマグネトロンの陽極電流ibと陽極電圧ebとの関係を示す特性図である。
【図5】異常発振のマイクロ波電力を分離するハイパスフイルタの構成例を示す方形導波管の斜視図である。
【図6】異常発振のマイクロ波電力を検出する電力検出部の斜視図である。
【図7】上記した電力検出部の断面図である。
【図8】導波管系回路の一部に上記した電力検出部を配置する構成を示した斜視図である。
【図9】上記した寿命判定装置を構成する表示部の回路例を示した図である。
【図10】第二実施形態を示し、マグネトロンの寿命判定装置を備えたマグネトロン応用装置の概略図である。
【図11】方向性結合器を利用した寿命判定装置の電力検出部の配置構成を示した斜視図である。
【図12】上記した方向性結合器の断面図である。
【図13】マグネトロンの出力と平均陽極電流の関係を示す特性図である。
【図14】マグネトロンのフィラメント電圧と平均陽極電流の関係を示す特性図である。
【符号の説明】
【0080】
10 マグネトロン
11 導波管系回路
13 駆動装置
14 アイソレータ
15 寿命判定装置
16 電力検出部
17 表示部
21 フィラメントトランス
22 陽極トランス
25、26 リレースイッチ
28 寿命判定スイッチ
61 方向性結合器
65a、65b 同軸端子
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグネトロンの寿命を寿命到来直前に検出し、マグネトロンの発振停止や出力低下などの弊害が発生する前にマグネトロンの交換を可能としたマグネトロンの寿命判定機能付きの駆動装置に係わる。
【背景技術】
【0002】
マグネトロンは消耗品であるため、マイクロ波電力を利用して加熱、乾燥し、或いは、エッチング処理等を行うマイクロ波応用装置では、所定期間の経過によってマグネトロンを交換することが行なわれている。
ところが、マグネトロン各々の寿命時間には長短があり、寿命(寿命時間の終わり)が明確でないために、寿命時間が充分にあるにもかかわらず交換してしまったり、また、寿命により故障となった後に交換するなど、実用的には様々な取り扱いがなされている。
【0003】
この結果、寿命時間を充分に残して交換する場合は経済的に好ましくないし、また、故障となった後で交換することも、マイクロ波処理される製品の歩留まりが悪くなったり、さらには、マグネトロン故障のための装置の停止時間が長くなったりする等の問題が生じる。
【0004】
上記の事情から、マグネトロンの寿命検出については、従来から様々な検出方法や検出装置が提案されている。
一例を述べれば、マグネトロンが冷えている状態で、通常運転起動電圧より低いヒーター電圧(フィラメント電圧)を印加すると共に、陽極にはヒーター電圧よりも高い電圧を印加し、この状態で、マグネトロンに発振停止又は出力低下が生じれば、マグネトロンの寿命と判定する寿命検出方法がる。
【0005】
【特許文献1】特許第2553424号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記した従来の寿命検出方法は、検出結果として残りの寿命時間、つまり、余寿命については具体的に分からないから、例えば、寿命時間が1000時間以上も残っているにもかかわらず寿命の到来と判定してしまうことがある。
したがって、寿命と判断すれば、残りの寿命時間に関係なくマグネトロンの交換が行われている。
【0007】
しかしながら、マグネトロンは、高価な商品であり、また、複数個使用されたものが多いから、可能なるかぎり寿命(異常発振または発振停止)が近づいたときに交換することが好ましい。
【0008】
また、上記した従来の寿命検出方法は、低いヒーター電圧をわざわざ供給する回路を必要となる他、マグネトロンの特性によっては、通常運転起動電圧より低いフィラメント電圧を印加することができないものがあるから、上記の寿命検出方法は限られたマグネトロンの寿命判定に適用できるに止まる。
【0009】
図13は、5kW出力のマグネトロンを一例として示した出力Po―平均陽極電流Ibの特性図、図14はそのマグネトロンのフィラメント電圧Ef―平均陽極電流Ibの特性図である。
図14より分かるように、このマグネトロンは、5kW出力時には920mAの平均陽極電流がながれ、また、920mAの平均陽極電流がながれるときは、図14に示されるように、0.4Vのフィラメント電圧を加えることが推奨されている。
【0010】
この結果、上記した従来例の寿命検出方法では、推奨フィラメント電圧0.4Vよりも更に低いフィラメント電圧に設定して寿命検出しなければならないため、フィラメント電圧の設定が困難となり、このようなマグネトロンの寿命検出には適さないことが分かる。
【0011】
本発明は、上記の実情にかんがみ、マグネトロンの寿命到来(寿命時間の終わり)を、可能なるかぎり寿命時間の終わりに近い時点で検出できるようにした寿命判定機能を有するマグネトロンの駆動装置を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記した目的を達成するため、本発明では、第1の発明として、マイクロ波電力を出力させるマグネトロンの駆動装置において、推奨されるフィラメント電圧と陽極電流とで正常発振するマグネトロンの陽極電流を一定の範囲で減少させる電流制御手段と、前記電流制御手段による陽極電流の減少制御によりマグネトロンが異常発振したとき、異常発振のマイクロ波電力を検出する電力検出手段と、前記電力検出手段の検出信号に応動する表示手段とからなる寿命判定装置を備え、前記電流制御手段による陽極電流の減少制御によってマグネトロンが異常発振に移ったとき、前記表示手段の表示変化からマグネトロンの寿命到来が接近したことを判定する寿命判定機能を有するマグネトロンの駆動装置を提案する。
【0013】
第2の発明としては、上記した第1の発明のマグネトロンの駆動装置において、前記電流制御手段は、マグネトロンのマイクロ波電力が92%程度となる陽極電流に減少制御する構成としたことを特徴とする寿命判定機能を有するマグネトロンの駆動装置を提案する。
【0014】
第3の発明としては、上記した第1の発明のマグネトロンの駆動装置において、マグネトロンが出力するマイクロ波電力の伝送路にフイルタを設け、マグネトロンが異常発振したとき、正常発振のマイクロ波周波数を超えた所定周波数の高周波電力を前記フイルタによって分離し、分離した高周波電力を異常発振のマイクロ波電力として検出して検出信号を出力する電力検出手段を設けたことを特徴とする寿命判定機能を有するマグネトロンの駆動装置を提案する。
【0015】
第4の発明としては、上記した第1の発明のマグネトロンの駆動装置において、マグネトロンが出力するマイクロ波電力をアプリケータに送る伝送路に少なくとも方向性結合器とアイソレータとを設け、前記方向性結合器の反射波結合側に高周波電力が現れたとき、異常発振のマイクロ波電力を検出する電力検出手段を設けたことを特徴する寿命判定機能を有するマグネトロンの駆動装置を提案する。
【0016】
第5の発明としては、上記した第4の発明のマグネトロンの駆動装置において、前記方向性結合器をパワーモニターとして構成したことを特徴とするマグネトロンの駆動装置を提案する。
【発明の効果】
【0017】
第1の発明の駆動装置は、推奨されるフィラメント電圧と陽極電流を与えて所定のマグネトロン電力を出力するマグネトロンについて、陽極電流を一定の範囲で減少させて寿命到来の検出を試みる。
この検出操作において、マグネトロンがモーディングすれば、出力するマイクロ波電力の周波数が、正常発振時のマイクロ波周波数に比べて高くなり、電力検出手段がその周波数変化から異常発振のマイクロ波電力を検出する。
【0018】
したがって、電力検出手段の検出信号に応動して表示手段が表示変化し、マグネトロンの寿命到来が近いことを知らせる。
寿命到来が近いことが分かれば、マグネトロンが通常運転で発振停止したり、モーディングの発生などで故障となる前に交換することが可能になるし、また、表示手段に表示変化があれば、マグネトロンの寿命と判定し、マグネトロンを交換することもできる。
なお、陽極電流を減少させたとき、マグネトロンがモーディングしないときは、出力するマイクロ波電力の周波数にほとんど変化がなく、表示手段が動作しないから、マグネトロンが充分に余寿命を残していることになる。
【0019】
このように、寿命到来を判定する本発明は、マグネトロンのモーディングの開始を検出して寿命の到来が近いことを判定する。
今少し詳細に述べれば、マグネトロンはフィラメント(陰極)の電子放出量が所定のマイクロ波電力の出力を維持できなくなったとき異常発振(モーディング)して寿命の到来となる。
【0020】
そして、電子放出量はフイラメント温度が上昇するバックヒーテング量に影響されることから、この発明では、陽極電流を一定の範囲で減少させることで、バックヒーテング量を減らすことを試み、そのとき、所定のマイクロ波電力を出力できる電子放出量が得られるか否かを検出するもので、充分な電子放出量が得られなければ、モーディングが発生してマイクロ波電力の周波数が上昇することから、この周波数の変化を検出して寿命の到来が近いことを知らせる構成となっている。
【0021】
第2の発明によれば、マグネトロンのマイクロ波電力が92%程度となる陽極電流に減少制御する構成としたので、概略95%以上の寿命を有効に利用することができる駆動装置となる。
【0022】
したがって、このように陽極電流を減少制御したとき、前記表示手段が表示変化した場合、そのときをマグネトロンの寿命到来と判定することも可能である。
【0023】
第3の発明は、マグネトロンが出力する高周波電力の伝送路に設けたフイルタにとって、正常発振の高周波電力と異常発振の高周波電力を分離し、分離された異常発振の高周波電力を検出し、その検出信号に応動するアラームなどの表示手段の表示変化からマグネトロンの寿命到来が接近していることを認識することができる。
【0024】
第4の発明は、マグネトロンが異常発振すると、アプリケータから送られる異常発振のマイクロ波電力である反射波はアイソレレータによっては消失されないため、方向性結合器の反射波結合側端子に高周波電力が現れる。
したがつて、反射波結合側端子に現れた高周波電力よりマグネトロンの寿命到来が近づいていることを検出することができる。
【0025】
第5の発明は、パワーモニターとアイソレータとを組み合せた電力検出手段となっているので、マグネトロンが正常発振している間は、パワーモニターの進行波測定端子に高周波電力が現れ、また、マグネトロンが異常発振すると、パワーモニターの反射波測定端子に高周波電力が現れるから、反射波測定端子から検出信号を出力させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
図1は、本発明の第一実施形態を示すマイクロ波応用装置の簡略図である。
このマイクロ波応用装置は、マグネトロン10が出力するマイクロ波電力が導波管系回路(マイクロ波伝送路)11を通してアプリケータ12に送られ、被処理物がこのアプリケータ12内でマイクロ波処理される。
【0027】
この実施形態のマイクロ波応用装置では、陽極電流の切り換え可能なマグネトロン10の駆動装置13と、導波管系回路11に設けたアイソレータ14とマグネトロン10との間に設けた寿命判定装置15が配置してある。
なお、寿命判定装置15は、電力検出部16と表示部17とから構成してある。
【0028】
図2は、上記駆動装置13の回路例を示した図である。
図示するように、マグネトロン10には、フィラメントトランス21の出力電圧をフィラメント電圧として給電し、陽極トランス22の出力電圧を陽極電圧として供給する。
【0029】
そして、フィラメントトランス21は、入力電圧を切り換えて予熱電圧(例えば、5V)から推奨される通常運転のフィラメント電圧(例えば、0.4V)に切り換える。
陽極トランス22は、出力電圧を高電圧整流回路23により整流し、さらに、平滑回路24で平滑してマグネトロン10の陽極に供給するが、この陽極トランス22の入力電圧を切り換えて寿命判定を行う。
【0030】
さらに、この駆動回路は、リレースイッチ25とリレースイッチ26とを備え、リレースイッチ25によってフィラメントトランス21の入力電圧を切り換え、リレースイッチ26によって陽極トランス22の入力電圧を切り換える。
【0031】
そして、リレースイッチ25は、非動作時に接片25a、25b、25cが開放、接片25dが閉成しており、タイマー27のスイッチ27aが閉成することで動作し、各接片が切り変わる。
リレースイッチ26は、非動作時に接片26aが閉成、接片26bが開放しており、寿命判定スイッチ28を投入することで動作し、各接片が切り変わる。
【0032】
その他、この駆動回路において、29はマグネトロンを冷却する冷却ファン、30はメインスイッチ31である。
【0033】
この駆動回路は、AC電源(例えば、AC200V)に接続され、メインスイッチ30を投入することで、回路各部が給電される。
先ず、メインスイッチ30を投入すると、冷却ファン29とタイマー27が始動し、また、リレースイッチ25の接片25dを介してフィラメントトランス21の入力コイル部分に電源電圧が供給される。
したがって、フィラメントトランス21の出力電圧によってマグネトロン10のフィラメントが予熱される
【0034】
タイマー27のカウント時間が終わると、そのスイッチ27aが閉成することから、リレースイッチ25のリレーコイルに電流が流れ、このリレースイッチ25が動作状態となる。
これより、各接片25a〜25dが切り替わり、接片25a、25b、25cが閉成し、接片25dが開放となる。
このため、フィラメントトランス21がタップ切り換えされ、その入力電圧が接片25cを介して入力コイル全体に供給されるので、このトランスから出力されるフィラメント電圧が予熱電圧から通常運転のフィラメント電圧に切り変わる。
【0035】
一方、リレースイッチ25の接片25a、25bが閉成することから、リレースイッチ26の接片26aを介して陽極トランス22の入力コイル部分に入力電圧が供給される。
これより、陽極トランス22の出力電圧が整流、平滑されてマグネトロン10の陽極に供給され、このマグネトロン10からマイクロ波電力が出力される。
【0036】
このようにしてマグネトロン10から出力するマイクロ波電力を導波管係回路11を通してアプリケータ12に送り、このアプリケータ12内で被処理物をマイクロ波処理する。
【0037】
この駆動回路は、寿命判定スイッチ28を投入操作してマグネトロン10の寿命を判定する。
すなわち、寿命判定スイッチ28を閉成させると、リレースイッチ26のリレーコイルに電流が流れ、このリレースイッチ26が動作状態となり、接片26aが開放、接片26bが閉成する。
【0038】
これより、陽極トランス22がタップ切り換えされ、入力コイル全体に入力電圧が供給されるため、その出力電圧が減少し、マグネトロン10の陽極電圧が減少する。したがって、陽極電流も減少する。
【0039】
このように、陽極電流を減少させたとき、マグネトロン10が正常発振を続ける場合は、フィラメントからの電子放出量レベルが充分にあり、マグネトロン10には余寿命が充分あると判定する。
なお、マグネトロン10に余寿命があるときは、寿命判定スイッチ28を開放させ、駆動回路を通常運転状態に復帰させる。
【0040】
陽極電流の減少に伴ってマグネトロン10が異常発振した場合は、フィラメントの電子放出量が少なくなっており、マグネトロン10の寿命の到来が間もないと判定する。
このときは、故障となる前にマグネトロン10を交換することができる。
【0041】
上記のように、陽極電流を減少させたときに、マグネトロン10が正常発振を続けるか、また、異常発振となったか否かの判断は、マグネトロン10にモーディングが発生したか否かで判断することができる。
すなわち、導波管系回路11に配置した寿命判定装置15によってモーディングの発生を検出する。
【0042】
次に寿命判定装置15について説明するが、先ず、異常発振(または、モーディング)について詳述する。
マグネトロン10は異常発振するようになったとき寿命が到来したことになる。
具体的には、マグネトロン10は、通常状態において正常発振し、2.45GHz帯のマイクロ波電力(正常発振のマイクロ波)を出力するが、経年使用によって異常発振するようになる。
【0043】
つまり、フィラメントからの電子放出量が正常発振を維持するのに必要なレベル以下になったとき異常発振(モーディング)が生じ、正常発振のマイクロ波に比べ高い周波数のマイクロ波電力(異常発振のマイクロ波)が出力するようになる。
【0044】
図3は、電子レンジ用や工業用に使用されるマグネトロンの陽極空洞40の模式図である。このマグネトロンは導電性のストラップリング41、42を備えることが特徴となっている。
陽極空洞40には、8枚のベイン40a〜40hが放射状に設けられ、内側のストラップリング41がベイン40a、40c、40e、40gに電気接続され、外側のストラップリング42がベイン40b、40d、40f、40hに電気接続されている。
【0045】
各ベインの先端側に付した+(プラス)と−(マイナス)は、マグネトロンが正常発振しているとき、ある瞬間にベイン先端に現れるマイクロ波電界の極性を示し、例えば、図示の如く、ベイン40aの先端がプラスの最大値を示すときは、隣のベイン40bの先端がマイナスの最大値を示すと言うように、隣り合うベインの先端に現れるマイクロ波電界の位相が180°(π)ずれる状態となる。
【0046】
この発振状態では、ストラップリング41、42による各ベインの接続点が同電位となるように強制されるので、位相がπだけずれたマイクロ波電界によって安定した発振が行われ、このように発振することをマグネトロンの正常発振と言う。
なお、陽極空洞40のベイン数は偶数で、電子レンジ用や工業用に使用されるマグネトロンは8枚から24枚のものが一般的で、特に10枚から14枚のものが多い。
【0047】
一方、図3において、ベイン40aの先端がプラス、ベイン40cの先端がマイナス、ベイン40eの先端がプラス、ベイン40gの先端がマイナスとなる発振モード、或いは、ベイン40aの先端がプラス、ベイン40eの先端がマイナスとなる発振モードがあるが、このような発振モードを総称して異常発振、あるいは、モーディングと言う。
したがって、以下の説明では、マグネトロンが正常発振以外のモードで発振することを異常発振又はモーディングと言う。
【0048】
なお、ストラップリング41、42は、上記したように正常発振を強制的に促し、発振の安定化に有利であるが、異常発振が生じときは、ベインの接続点が異なる電位となるので、大きなマイクロ波電流が流れ熱疲労破壊の原因となり、極端な場合は溶断などに至る。
【0049】
図4は、ストラップリングを備えるマグネトロンの陽極電流ibと陽極電圧ebとの関係を示す特性図である。
図示するように、正常発振A0が最も低い陽極電圧で発生し、異常発振A1、A2のときは、正常発振A0のときに比べ高い陽極電圧となる。
なお、異常発振の種類はベイン枚数に応じて増すが、この特性図では、2種類の異常発振A1、A2の特性が示してある。
【0050】
本発明は、正常発振A0の特性に最も近い異常発振A1の特性に着眼し、正常発振A0により出力されるマイクロ波電力の周波数(2.45GHz帯)と異常発振A1により出力されるマイクロ波電力の周波数を有効に利用する。
その理由は、フィラメントからの電子放出量が正常発振を維持するために必要なレベル以下になったとき異常発振するが、このとき異常発振A1のマイクロ波発振が最も強く必ず発生することを確認したからである。
【0051】
下記する表1は、工業用マグネトロンが正常発振A0で出力されるマイクロ波電力の周波数と異常発振A1で出力されるマイクロ波電力の周波数の測定結果を示す。
【表1】
なお、家庭用電子レンジが備えるマグネトロンが異常発振によって出力するマイクロ波電力の周波数は、4.2GHz〜5.0GHzであることも確認された。
【0052】
この表1より分かるように、2.45GHzのマイクロ波電力と、3.5GHz以上のマイクロ波電力を分離し、3.5GHz以上のマイクロ波電力を検出すれば、マグネトロンが異常発振したことが判明し、この結果、マグネトロンの寿命到来を認識することができる。
【0053】
正常発振のマイクロ波電力と異常発振のマイクロ波電力は、導波管をハイパスフイルタとして簡単に分離することができる。
図5はハイパスフイルタの構成例を示す方形導波管43で、断面の長辺寸法Dを4.3cmとしたものは、3.5GHz以下のマイクロ波電力を遮断し、3.5GHzを超えるマイクロ波電力を伝搬する。
同様に、長辺寸法Dを5cmにしたものは、3GHz以下のマイクロ波電力を遮断し、3GHzを超えるマイクロ波電力を伝搬する。
さらに、長辺寸法Dを6cmとしたものは、2.5GHz以下のマイクロ波電力を遮断し、2.5GHzを超えるマイクロ波電力を伝搬する。
【0054】
したがって、長辺寸法Dが4.3cmから6cmまでの方形導波管を用いれば、表1から分かるように、1.5kWから6kWまでのマグネトロンが出力する異常発振のマイクロ波電力を分離し、検出することができる。
具体的には、異常発振のマイクロ波電力に合わせた長辺寸法の方形導波管を使用する。
【0055】
図6、図7は、上記したハイパスフイルタである方形導波管を利用した寿命判定装置15の電力検出部16を示す。
この電力検出部16は、胴体部16aが図5に示す方形導波管と同様に正常発振のマイクロ波電力を遮断し、異常発振のマイクロ波電力を通過させる有底のフイルタとなっている。
また、胴体部16aには、結合金属棒44を備えた同軸線用端子45が設けてあり、結合金属棒44の胴体部内挿入長Hと短絡板からの距離Lは、異常発振のマイクロ波電力が結合する長さに調整してある。
【0056】
この電力検出部16は図8に示す如く、導波管系回路11の一部11aに設置してある。
具体的には、導波管系回路11は、正常発振のマイクロ波電力、つまり、2.45GHz帯のマイクロ波電力が伝播する導波管構成となっており、したがって、その一部11aの長辺寸法Dも60〜120cmの導波管となっている。
【0057】
導波管係回路11の一部11aには、異常発振のマイクロ波電力の波長に対し、1/2波長に近い長さに形成したスロットアンテナ46が設けてある。
このスロットアンテナ46は異常発振のマイクロ波電力に対し共振するので、異常発振の多くのマイクロ波電力を放出する。
【0058】
マグネトロン10が正常発振し、2.45GHz帯のマイクロ波電力をアプリケータ12に送っている間は、スロットアンテナ46から漏れる少ないマイクロ波電力(安全基準以下)は電力検出部16によって遮断されるから、同軸線端子45には検出信号が現れない。
【0059】
マグネトロン10が異常発振に移った時、異常発振のマイクロ波電力が導波管系回路11を介してアプリケータ12に送られるが、この時にスロットアンテナ46から多くの異常発振のマイクロ波電力が漏れ出て電力検出部16内に伝搬する。
したがつて、異常発振のマイクロ波電力が結合金属棒44に結合するから、同軸線端子45に検出信号(異常発振のマイクロ波電力)が現れる。
【0060】
同軸線端子45には、表示部17を接続し、この表示部17が同軸線端子45から出力される検出信号に応動してアラームを動作させる。
図9は表示部17の回路例を示す図である。
この表示回路は、電力検出部16から出力される検出信号をアンプ47によって検波増幅し、この増幅信号をトランジスタ48のベースに入力し、増幅信号が一定レベルを超えたとき、トランジスタ48をONさせる。
【0061】
トランジスタ48のONにより、リレー49が励起されてその端子49a、49bがOFFからONになり、ランプ50が点灯してモーディングの発生を表示する。
また、トランジスタ48に並列接続した常閉型のスイッチ51とリレー端子49aの回路体は、ランプ50の点灯保持回路である。
【0062】
すなわち、トランジスタ48が一旦ONすると、電力検出部16からの検出信号が消失してもスイッチ51と端子49aの閉成によりリレー49が動作を継続するから、ランプ50が点灯したままとなる。
なお、表示部17はアラームを発生すればよいので、上記のランプ50に換えてブザーなどのその他の表示部材を設けることができる。
【0063】
上記した通り、本実施形態の駆動回路は、マグネトロン10を通常運転し、マグネトロン10が正常発振しているかぎり、寿命判定装置15が非動作のままとなっている。
寿命判定スイッチ28を投入して寿命判定操作を行うと、陽極電流の減少に伴ってマグネトロン10が異常発振したとき、異常発振のマイクロ波電力を電力検出部16が検出し、その検出信号に応動して表示部17が表示動作する。
したがって、表示部17のランプ50の点灯から、マグネトロン10のモーディングの発生を検出し、マグネトロン10の寿命到来が近いことを判定する。
【0064】
このように行う寿命判定は、マグネトロン10が出力するマイクロ波電力が92%程度となるように、陽極電流を減少させる。
これにより、概略95%以上の寿命を有効に利用することができ、その上、マグネトロン10が故障してマイクロ波処理物に影響が出る前にマグネトロン10を交換することができる。
【0065】
図10は、本発明の第二実施形態を示し、この実施形態は、導波管系回路11に設けた方向性結合器61を利用した寿命判定装置15を備える図1同様のマイクロ波応用装置となっている。
本実施形態は、図11に示す通り、導波管系回路11の一部11aのH面に、管軸方向に沿って2つの孔63a、63bを設け、この孔63a、63bを覆うようにして方向性結合器61を設置した構成としてある。
なお、2つの孔63aと63bの間隔は、正常発振のマイクロ波電力が導波管系回路11を伝播するときの波長(管内波長)λgの1/4に設定してある。
【0066】
また、図12に示す如く、導波管系回路11の一部11aは、マグネトロン10のアンテナから放射したマイクロ波電力が入り口11bから進入してその出口11cに向かい、その出口11cにはアイソレータ14が接続される。
【0067】
さらに、この方向性結合器61は、H面に形成した孔63a、63bに対向する関係にある同軸線内導体64の位置を各々64a、64bとし、かつ、その位置64aから位置64bまでの長さを導波管系回路11の一部11aの管内波長λgの3/4に設定してある。
なお、孔63aと位置64aのマイクロ波電力の結合率(カップリング)と、孔63bと位置64bのマイクロ波電力の結合率(カップリング)は同じになるようにしてある。
【0068】
上記のように構成した方向性結合器64は、孔63aを通って位置64aに結合した正常発振のマイクロ波電力(2.45GHz帯)は、同軸線内導体64の同軸端子65aと65bとに等分に伝播する。そして、位置64bでは、波長がλg・3/4進む。
また、導波管内を孔63bまで進み、つまり、波長がλg・1/4進み孔63bから入って位置64bに結合する正常発振のマイクロ波電力も同軸端子65a、65bに等分に伝播する。
そして、位置64aでは、導波管内のλg・1/4の波長と同軸線内導体64のλg・3/4波長が加わり合計λg進むことになる。
【0069】
したがって、位置64aを通過して同軸端子65a側に進むマイクロ波電力は位相差がλgの同じ大きさ(結合率が同じであるから)の正常発振のマイクロ波電力が加わることになるので、導波管入り口11bから入った正常発振のマイクロ波電力が同軸端子65aで検出可能になる。
結合率が予め求めてあれば、導波管系回路11の一部11aを伝播するマイクロ波電力を同軸端子65aの出力から測定することができる。
【0070】
一方、位置64bを通過して同軸端子65b側に進む正常発振のマイクロ波電力は、孔63aで位置64aに結合したマイクロ波電力がλg・3/4進んで位置64bに到達し、導波管内をλg・1/4進んで孔63bから位置64bに結合したマイクロ波電力が加わる。
したがって、2つのマイクロ波電力の位相差がλg・1/2となって打ち消し合うため、位置64bを通過して同軸端子65b側に進むマイクロ波電力はない。
【0071】
言い換えれば、導波管入り口11bから進入した正常発振のマイクロ波電力については、同軸端子65aによって検出でき、導波管出口11cから進入した正常発振のマイクロ波電力は同軸端子65bによって検出することができる。
しかし、異常発振のマイクロ波電力は、位置64a、64bで結合しても位相が合っていないため、打ち消し合うことがないから、同軸端子65a、65bの両方に伝播する。
【0072】
上記構成の方向性結合器61を備えるマイクロ波応用装置は、マグネトロン10が正常発振している間は、2.45GHz帯のマイクロ波電力が同軸端子65aから検出できる。
なお、マグネトロンが正常発振しているかぎり、同軸端子65bにはマイクロ波電力は現れない。
【0073】
アプリケータ12から方向性結合器61に向かう正常発振のマイクロ波電力の反射波はアイソレータ14によって吸収されるから、アプリケータ12から方向性結合器61に向かうマイクロ波電力がなく、したがって、同軸端子65bにはマイクロ波電力が現れない。
【0074】
他方、マグネトロン10に異常発振が生じ、正常発振のマイクロ波電力と異常発振のマイクロ波電力が出力されると、同軸端子65aには、正常発振のマイクロ波電力と異常発振のマイクロ波電力が現れ、同軸端子65bには、異常発振のマイクロ波電力だけが現れる。
【0075】
このことから、同軸端子65bから出力されるマイクロ波電力信号(検出信号)に応動する表示部17のランプ点灯によってマグネトロン10のモーディングの発生が検出できるから、第一実施形態と同様に寿命判定操作することによって、マグネトロン10の寿命について判定できる。
【0076】
なお、本実施形態は、方向性結合器61に換えてパワーモニターを使用し、このパワーモニターとアイソレータ14とを組み合わせて寿命判定装置15の電力検出部16を構成することができる。
このように実施した場合は、進行波電力の取出端子には正常発振のマイクロ波電力が現われ、反射波の取出端子には異常発振のマイクロ波電力が現れる。
【0077】
なお、第一実施形態では、導波管を利用した周波数検出部16を用いた寿命判定装置15について説明したが、2.45GHz帯のマイクロ波電力を遮断し、異常発振のマイクロ波電力を通過させるフイルタであればよいので、例えば、表面波伝送線路、マイクロ波電界強度測定用のホーンアンテナなどを利用しても同様に構成することができる。
【産業上の利用可能性】
【0078】
マグネトロン応用装置などに備えるマグネトロンの寿命判定機能を有するマグネトロンの駆動装置として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】第一実施形態を示し、マグネトロンの寿命判定装置を備えたマグネトロン応用装置の概略図である。
【図2】寿命判定装置を備えるマグネトロンの駆動回路を示す図である。
【図3】電子レンジ用や工業用に使用されるマグネトロンの陽極空洞の模式図である。
【図4】ストラップリングを備えるマグネトロンの陽極電流ibと陽極電圧ebとの関係を示す特性図である。
【図5】異常発振のマイクロ波電力を分離するハイパスフイルタの構成例を示す方形導波管の斜視図である。
【図6】異常発振のマイクロ波電力を検出する電力検出部の斜視図である。
【図7】上記した電力検出部の断面図である。
【図8】導波管系回路の一部に上記した電力検出部を配置する構成を示した斜視図である。
【図9】上記した寿命判定装置を構成する表示部の回路例を示した図である。
【図10】第二実施形態を示し、マグネトロンの寿命判定装置を備えたマグネトロン応用装置の概略図である。
【図11】方向性結合器を利用した寿命判定装置の電力検出部の配置構成を示した斜視図である。
【図12】上記した方向性結合器の断面図である。
【図13】マグネトロンの出力と平均陽極電流の関係を示す特性図である。
【図14】マグネトロンのフィラメント電圧と平均陽極電流の関係を示す特性図である。
【符号の説明】
【0080】
10 マグネトロン
11 導波管系回路
13 駆動装置
14 アイソレータ
15 寿命判定装置
16 電力検出部
17 表示部
21 フィラメントトランス
22 陽極トランス
25、26 リレースイッチ
28 寿命判定スイッチ
61 方向性結合器
65a、65b 同軸端子
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロ波電力を出力させるマグネトロンの駆動装置において、
推奨されるフィラメント電圧と陽極電流とで正常発振するマグネトロンの陽極電流を一定の範囲で減少させる電流制御手段と、
前記電流制御手段による陽極電流の減少制御によりマグネトロンが異常発振したとき、異常発振のマイクロ波電力を検出する電力検出手段と、
前記電力検出手段の検出信号に応動する表示手段とからなる寿命判定装置を備え、
前記電流制御手段による陽極電流の減少制御によってマグネトロンが異常発振に移ったとき、前記表示手段の表示変化からマグネトロンの寿命到来が接近したことを判定する寿命判定機能を有するマグネトロンの駆動装置。
【請求項2】
請求項1に記載したマグネトロンの駆動装置において、
前記電流制御手段は、マグネトロンのマイクロ波電力が92%程度となる陽極電流に減少制御する構成としたことを特徴とする寿命判定機能を有するマグネトロンの駆動装置。
【請求項3】
請求項1に記載したマグネトロンの駆動装置において、
マグネトロンが出力するマイクロ波電力の伝送路にフイルタを設け、
マグネトロンが異常発振したとき、正常発振のマイクロ波周波数を超えた所定周波数の高周波電力を前記フイルタによって分離し、分離した高周波電力を異常発振のマイクロ波電力として検出して検出信号を出力する電力検出手段を設けたことを特徴とする寿命判定機能を有するマグネトロンの駆動装置。
【請求項4】
請求項1に記載したマグネトロンの駆動装置において、
マグネトロンが出力するマイクロ波電力をアプリケータに送る伝送路に少なくとも方向性結合器とアイソレータとを設け、
前記方向性結合器の反射波結合側に高周波電力が現れたとき、異常発振のマイクロ波電力を検出する電力検出手段を設けたことを特徴する寿命判定機能を有するマグネトロンの駆動装置。
【請求項5】
請求項4に記載したマグネトロンの駆動装置において、
前記方向性結合器をパワーモニターとして構成したことを特徴とするマグネトロンの駆動装置。
【請求項1】
マイクロ波電力を出力させるマグネトロンの駆動装置において、
推奨されるフィラメント電圧と陽極電流とで正常発振するマグネトロンの陽極電流を一定の範囲で減少させる電流制御手段と、
前記電流制御手段による陽極電流の減少制御によりマグネトロンが異常発振したとき、異常発振のマイクロ波電力を検出する電力検出手段と、
前記電力検出手段の検出信号に応動する表示手段とからなる寿命判定装置を備え、
前記電流制御手段による陽極電流の減少制御によってマグネトロンが異常発振に移ったとき、前記表示手段の表示変化からマグネトロンの寿命到来が接近したことを判定する寿命判定機能を有するマグネトロンの駆動装置。
【請求項2】
請求項1に記載したマグネトロンの駆動装置において、
前記電流制御手段は、マグネトロンのマイクロ波電力が92%程度となる陽極電流に減少制御する構成としたことを特徴とする寿命判定機能を有するマグネトロンの駆動装置。
【請求項3】
請求項1に記載したマグネトロンの駆動装置において、
マグネトロンが出力するマイクロ波電力の伝送路にフイルタを設け、
マグネトロンが異常発振したとき、正常発振のマイクロ波周波数を超えた所定周波数の高周波電力を前記フイルタによって分離し、分離した高周波電力を異常発振のマイクロ波電力として検出して検出信号を出力する電力検出手段を設けたことを特徴とする寿命判定機能を有するマグネトロンの駆動装置。
【請求項4】
請求項1に記載したマグネトロンの駆動装置において、
マグネトロンが出力するマイクロ波電力をアプリケータに送る伝送路に少なくとも方向性結合器とアイソレータとを設け、
前記方向性結合器の反射波結合側に高周波電力が現れたとき、異常発振のマイクロ波電力を検出する電力検出手段を設けたことを特徴する寿命判定機能を有するマグネトロンの駆動装置。
【請求項5】
請求項4に記載したマグネトロンの駆動装置において、
前記方向性結合器をパワーモニターとして構成したことを特徴とするマグネトロンの駆動装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2009−99494(P2009−99494A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−272315(P2007−272315)
【出願日】平成19年10月19日(2007.10.19)
【出願人】(000114031)ミクロ電子株式会社 (37)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年10月19日(2007.10.19)
【出願人】(000114031)ミクロ電子株式会社 (37)
【Fターム(参考)】
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