説明

射出成型用金型

【課題】高い加工精度技術を必要とすることなく、容易に形成可能なガス抜きピンを有する射出成型用金型を提供することを課題とする。
【解決手段】射出成型用金型1は、固定型4及び該固定型4と分離可能に形成された可動型5を有する金型本体6と、金型本体6に貫設されたガス抜き孔3と、ガス抜き孔3に摺動可能に挿設されるガス抜きピン2とを主に具備する。ガス抜きピン2は、球面形状の先頂部9及び先頂部9から孔壁10に対して拡開した拡開部12を有するピン頭部13と、ピン頭部13から延設されたピン軸部15とを備えている。さらに、ガス抜きピン2は、挿設されたガス抜き孔3に対してピン摺動部16によって摺動可能に形成されている。係る構成により、拡開部12及び孔壁10の間のクリアランスをガス21のみを通過させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成型用金型に関するものであり、特に、溶融樹脂を高圧でキャビティ内に射出する際に、キャビティに残存するガスによる不良発生を抑制するための、ガス抜き機構を備える射出成型用金型に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、高温で加熱された溶融樹脂を所望の形状に内部が型彫りされた金型内に高圧で射出し、冷却することにより、金型のキャビティに対応する形状の樹脂成型品を製造することの可能な射出成型技術(インジェクション)が知られ、各種工業製品等の製造に用いられている。ここで、使用される溶融樹脂は、予め加熱され、液状または流動状を呈している。そして、金型と接続したランナーから金型内部の空間(キャビティ)へ瞬間的に射出が行われ、係る状態を保持することにより、高温の溶融樹脂から徐々に熱が奪われ、熱の喪失とともに、溶融樹脂の流動性が低下し、最終的に固体へと相転移(固化)することになる。その後、金型から固化した樹脂成型品を型抜きすることにより、樹脂成型品の製造が完了することとなる。
【0003】
ここで、溶融樹脂の射出前のキャビティには、ガス(エア)が存在している。そのため、この状態でキャビティ内に高温の溶融樹脂を射出すると、ランナーからキャビティ内に導入された溶融樹脂によって、当該ガスはランナーとは逆方向に押出される。しかしながら、キャビティには、基本的にガスを排出する機構は備えられておらず、キャビティの内壁面に到達し、行き場所を失ったガスは射出された溶融樹脂がキャビティ内を充填することを阻害して充填不良を発生させたり、或いは溶融樹脂と混合し、樹脂成型品の表面に気泡、シワ、凹凸等の欠陥を発生させたり、或いは樹脂成型品の寸法精度を低下させる等の不具合を生じさせることがあった。
【0004】
そこで、上記不具合を解消するために、キャビティ内に残存するガスを速やかに金型外部の空間に排出するための機構を設ける試みが行われている。ここで、一般的な射出成型用の金型には、溶融樹脂の射出成型後に固化した樹脂成型品を金型から取り出すための突き出しピン(エジェクタピンとも称される)が備えられていることが多い。係る突き出しピンは、キャビティに対して進退自在に摺動させるピン摺動部によって、成型後の樹脂成型品を物理的に押出すものである。そして、係る型抜きピン及び突き出しピンを摺動自在に挿設させるピン孔を利用し、キャビティ内のガスを排出する技術及び機構の開発が既になされている(例えば、特許文献1乃至特許文献3参照)。
【0005】
具体的に説明すると、突き出しピンの挿設され、キャビティ及び金型外部の空間とを連通するガス抜き孔を金型に貫設し、当該突き出しピン及びガス抜き孔の孔壁との間の一部に、非常に僅かな隙間(クリアランス)を設けたもの(特許文献1参照)、突き出しピンの先端部近傍の外周面に環状の「エア逃し溝」を設け、「エア逃し溝」より先端側をガス抜き孔に対して小径となるように形成し、さらにキャビティ内のエアを「エア逃し溝」に逃がすための「第1のエア逃し部」と、「エア逃し溝」より基端側にカット面を形成し、「エア逃し溝」のエアを金型本体の排気通路に逃がす「第2のエア逃し部」を有するもの(特許文献2参照)、突き出しピンの周縁の一部に一箇所以上、斜めに切り欠いた切り欠き部を形成するもの(特許文献3参照)が知られている。
【0006】
これにより、キャビティ内のガス(エア)を射出成型時の溶融樹脂によって押出すことができ、溶融樹脂の射出と同時にガス抜き処理も実施することができることとなり、ガス抜きを効率的に行うことができる。なお、上記のクリアランスやエア逃がし溝等の構成は、キャビティ内の気体状のガスのみを選択的に下流側(外部の空間)へ通過させ、液体状の溶融樹脂の通過を規制することの可能なように調整されている。これにより、ガスによる上記不具合を解消することができる。なお、係るガスの中には、長期間にわたってキャビティ内に滞留することによって、キャビティ表面の腐食や変色等を引き起こす可能性の高い反応性の高い成分も含まれる場合があり、このような場合であっても当該ガスによる影響を抑えることができる。さらに、従来は、ガスによる影響を小さくするために、溶融樹脂の射出圧を比較的高めに設定する対策がなされていたのに対し、ガス抜き機構を設けることにより、従来の射出圧よりも低い圧力で溶融樹脂の射出が可能となる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記のガス抜きに対する対策及び機構は、下記に掲げる問題点を生ずることがあった。すなわち、溶融樹脂の射出直後は、溶融樹脂に押出されるようにしてキャビティ内のガスがガス抜き溝等のガス排出機構から金型の外部に排出されることになる。ところが、キャビティ内の全空間に溶融樹脂が完全に行き渡った場合、ガス抜き溝等にも溶融樹脂が到達し、係る箇所で固化することとなる。このとき、係るガス抜き溝等は、前述したように、ガス(エア)のみを通過させ、溶融樹脂の通過を遮るように僅かなクリアランスを保持して形成されているものであり、係るクリアランスの精度を維持することは極めて高い技術が要求される。そのため、クリアランスの精度が低い場合は、溶融樹脂であっても通過するおそれがあり、通過後に固化した樹脂によって目詰まり等の不具合を発生させる可能性があった。
【0008】
さらに、突き出しピンの周縁の一部を切り欠いた切り欠き部を形成し、切り欠き部の後端部に向かって、ガス抜き孔の断面積に対する突き出しピン以外の断面積が最も狭い部分が突き出しピンの後端部に向かってガス抜き溝が開口するように穿設されているものは、特に突き出しピンに対して精細な加工を施す必要があり、熟達した加工技術を有する職人しか、規定された性能を発揮する突き出しピンの製造(加工)が行えないものことがあった。そのため、突き出しピンの製作及びコストの双方に大きな負担がかかることもあった。
【0009】
したがって、簡易な構成であって、かつ高い加工精度技術を必要とすることなく製作可能なガス抜きピンを有し、射出成型時の不良発生を抑制することが可能なガス抜き機能を備える射出成型用金型の提供を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するため、本発明の射出成型用金型は、「溶融樹脂がランナーを通じて高圧で射出充填される、型彫りされたキャビティが内部に形成された金型本体と、前記金型本体に貫設され、前記キャビティ及び前記金型本体の本体外空間を連通するガス抜き孔と、前記ガス抜き孔のキャビティ接続口の孔径よりも小径の截頭形状または錐形状を呈する先頂部、前記先頂部から前記本体外空間の方向に前記ガス抜き孔の孔壁に近接するように拡開した周面を含んで形成される拡開部を有するピン頭部、及び前記ピン頭部の一端から延設された棒軸状のピン軸部を備え、前記拡開部の外端部及び前記ガス抜き孔の前記孔壁の間に、前記キャビティ内のガスを通過させるともに、前記溶融樹脂の通過を規制する所定のクリアランスを保持して前記ガス抜き孔に挿設されたガス抜きピンと」を具備するものから主に構成されている。
【0011】
ここで、金型本体とは、プラスチックの成型品等を製造するための通常の金型を使用することが可能であり、一般に、基部に固定された固定型と当該固定型に対して摺動可能に形成された可動型とを有して構成されている。そして、溶融樹脂の射出時には、固定型及び可動型を型締めし、内部に成型対象の成型品の形状に型彫りされたキャビティを構成し、その後、成型後に溶融樹脂の冷却が完了した後に可動型を固定型から離間し、型抜き作業を行うことにより、成型品の製造を完了している。
【0012】
そして、ガス抜き孔は、係る金型本体の少なくとも一方(例えば、固定型)にキャビティと連通するように貫設されている。これにより、キャビティ内に射出された溶融樹脂は、当該ガス抜き孔を通じて本体外空間に漏出しようとする作用が働く。しかしながら、係るガス抜き孔には、所定のクリアランスを保持した状態でガス抜きピンが挿設されており、係るガス抜きピンによってキャビティ内のガスのみを本体外空間に排出(導出)し、一方、射出成型された溶融樹脂はクリアランスの手前の部分で本体外空間への排出が規制される。
【0013】
したがって、本発明の射出成型用金型によれば、ガス抜きピン及びガス抜き孔に係る構成により、ガス及び溶融樹脂のクリアランスの通過を選択的に規制することが可能となっている。ここで、ガス抜きピンのピン頭部の構成が、截頭形状または錐形状を呈するように構成された先頂部を有することにより、キャビティ内のガスは、係る先頂部及び先頂部に接続した拡開部によって徐々にガス及び溶融樹脂の流路が徐々に狭くなる。ここで、拡開部は、周面がいずれも孔壁に近接するように拡開して形成されているため、拡開部及び孔壁との相対的な関係は、断面が三角形状を呈するように構成されている。そのため、キャビティ内のガスは、始めに孔壁との間が広い距離の領域から徐々に狭い領域を進むことになる。
【0014】
そして、所定のクリアランス(隙間)付近に到達したガスは、ベルヌーイの原理によって速度が増し、これに対応するように当該付近が周囲に対して減圧された状態となる。これにより、クリアランス付近にガスが吸引されることになり、キャビティ内のガスを速やかに本体外空間に導出することが可能となる。さらに、先頂部が截頭形状または錐形状を呈して構成することができ、従来のガス抜き機能を有する突き出しピン等に比べ、先頂部の加工を比較的容易にすることができる。
【0015】
なお、係るクリアランスは、キャビティ内のガスのみを本体外空間に導出することが可能であり、溶融樹脂が係るクリアランスを通過して本体外空間に導出することがないように微細な調整がなされている。そのため、溶融樹脂が射出成型され、冷却された後のガス抜き孔及びガス抜きピンの近傍は、ガス抜きピンの先頂部にの形状に相対する中央部が窪んだ形状に溶融樹脂が固化している。
【0016】
さらに、本発明の射出成型用金型は、上記構成に加え、「挿設された前記ガス抜きピンを前記キャビティに対して進退自由に摺動させるピン摺動部を」具備するものであっても構わない。
【0017】
したがって、本発明の射出成型用金型によれば、型抜き作業時の突き出しピンとしてガス抜きピンを機能させることが可能となる。なお、ガス抜き孔に対してガス抜きピンを摺動させ、キャビティに進退自由に摺動させるためには、既存の油圧或いは空気圧、駆動モータ等の周知の駆動機構を採用することができる。
【0018】
さらに、本発明の射出成型用金型は、上記構成に加え、「前記ガス抜きピンは、少なくとも二段以上の前記拡開部を有して形成された多段拡開部を」具備するものであっても構わない。
【0019】
したがって、本発明の射出成型用金型によれば、拡開部を少なくとも二段以上有する多段拡開部が設けられている。これにより、孔壁と拡開部とが最も近接したクリアランスがガス抜き孔の複数箇所(少なくとも二箇所以上)に設けられていることになる。これにより、溶融樹脂のクリアランスの下流側への流出を段階的に規制することが可能となり、本体外空間へはガスのみを導出することが可能となる。
【0020】
さらに、本発明の射出成型用金型は、上記構成に加え、「前記先頂部は、球面状を呈して構成され、前記クリアランスに前記キャビティ内の前記ガスを整流して導出する」ものであっても構わない。
【0021】
したがって、本発明の射出成型用金型によれば、ピン頭部の先頂部が球面形状を呈して構成されている。これにより、溶融樹脂によってキャビティから押出されたガスは、係る球面形状の先頂部に到達し、球面に沿ってクリアランスの方向に導かれる。すなわち、先頂部に到達し、跳ね返って再びキャビティ側に戻ることがない。これにより、ガスの流れを乱すことなくクリアランスから本体外空間に流すことができる。
【0022】
さらに、本発明の射出成型用金型は、上記構成に加え、「前記ガス抜きピン及び前記ガス抜き孔の間に介設されるスリーブをさらに具備し、前記ピン摺動部は、前記ガス抜きピン及び前記スリーブを前記ガス抜き孔に対して摺動させる」ものであっても構わない。
【0023】
したがって、本発明の射出成型用金型によれば、ガス抜きピン及び該ガス抜きピンの周囲を包含するように配されたスリーブが共にガス抜き孔に対して摺動し、キャビティに突出することが可能となる。ここで、上記に示したように、ガス抜き孔に対し、直接ガス抜きピンを挿通し、摺動させた場合、ガス抜きピン及びガス抜き孔の間に非常にわずかな隙間しか形成していないため、摺動時に互いに当接し、両者が摩耗する可能性がある。その結果、ガス抜きピン及びガス抜き孔の間の距離が変化し、ガス抜きの作用が変化する場合がある。さらに、係る距離が大きくなると、キャビティ内に射出された樹脂が侵入するおそれがある。そこで、上記構成を採用し、ガス抜きピンとそれを囲むように取付けられたスリーブを同時にガス抜き孔に対して摺動させることにより、上記不具合を解消することが可能となる。
【発明の効果】
【0024】
以上、説明したように本発明の射出成型用金型によれば、キャビティ内のガスをガス抜きピンとガス抜き孔の間に設けられたクリアランスを介して金型本体の本体外空間に流すことができる。特に、ガス抜きピンのピン頭部が截頭形状または錐形状で形成されているため、ガスの流れ方向を整流化して、クリアランスへ導出することができ、ベルヌーイの原理を利用した吸引作用を有する安定したガス抜きができる。さらに、ガス抜きピンのピン頭部を従来に比べて比較的簡易な加工で形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本実施形態の射出成型用金型のガス抜きピンの構成を示す斜視図である。
【図2】ガス抜きピン及びガス抜き孔の構成を示す断面図である。
【図3】ガス抜きピン及びガス抜き孔の構成を示す拡大断面図である。
【図4】ガス抜きピンの別例構成を示す説明図である。
【図5】射出成型用金型の別例構成を示す(a)ガス抜きピン、(b)射出成型時、(c)ピン摺動時の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の一実施形態である射出成型用金型1について、図1乃至図4に基づいて説明する。ここで、図1は本実施形態の射出成型用金型1のガス抜きピン2の構成を示す斜視図であり、図2はガス抜きピン2及びガス抜き孔3の構成を示す断面図であり、図3はガス抜きピン2及びガス抜き孔3の構成を示す拡大断面図であり、図4はガス抜きピン2a,2bの別例構成を示す説明図である。
【0027】
本実施形態の射出成型用金型1は、図1乃至図3に主に示すように、溶融樹脂Pを高圧で射出充填することにより、キャビティ19に対応する所望の形状の樹脂成型品(図示しない)を製造するために利用されている。具体的に説明すると、固定型4及び該固定型4と分離可能に形成された可動型5から形成され、樹脂成型品の外観形状に合わせてそれぞれの型4,5の内側を型彫りし、キャビティ19を形成可能な金型本体6と、金型本体6に貫設され、キャビティ19及び金型本体6の本体外空間7を連通する円孔形状のガス抜き孔3と、ガス抜き孔3の孔縁とキャビティ19とが接続するキャビティ接続口8の孔径よりも小径に形成され、先端が球面状を呈する先頂部9、及び該先頂部9から本体外空間7の方向にガス抜き孔3の孔壁10に近接するように先頂部9の先端9aから斜め方向に放射状に拡開する周面11を含んで形成される拡開部12を有するピン頭部13、及びピン頭部13の縮径部14から延設された棒状のピン軸部15を備え、拡開部12の外端部12a及びガス抜き孔3の孔壁10の間に、キャビティ19内に残存するガス21を通過させ、溶融樹脂Pの通過を規制する所定のクリアランスCを保持し、前記ガス抜き孔3に挿設されたガス抜きピン2とを具備している。ここで、図1等に示すように、ガス抜きピン2は先端が削られた「鉛筆形状」を呈している。
【0028】
さらに、本実施形態の射出成型用金型1は、ピン軸部15の一端と接続し、ガス抜き孔3の孔壁10と所定のクリアランスCを保持して挿設されたガス抜きピン2を、キャビティ19に対して進退自在に摺動させ(図2における矢印A参照)、ガス抜きピン2を既存の突き出しピン(またはエジェクタピン等)として機能させるためのピン摺動部16を具備して構成されている。ここで、ガス抜きピン2の摺動機構は特に限定されないが、本実施形態では、エアーシリンダを採用し、エアー圧を利用してガス抜きピン2をキャビティ19に対して突出するものが採用されている。なお、キャビティ19に対して一部を突出させたガス抜きピン2を再び元の位置に復帰させるために、当該位置に付勢するための付勢バネ(図示しない)がピン摺動部16に設けられている。これにより、エアーシリンダーに対し、エアー圧の供給を解除することにより、上記付勢バネの付勢力に従ってガス抜きピン2は元の位置に速やかに戻ることとなる。
【0029】
金型本体6に貫設された孔縁形状のガス抜き孔3とガス抜きピン2の孔径はほぼ一致するように形成され、拡開部12の外端部12aとガス抜き孔3の孔壁10が所定のクリアランスCを維持して最近接している。しかしながら、上記ピン摺動部16による摺動の際に、外端部12a及び孔壁10が接触することはない。さらに、近接したクリアランスCの下流側(図2及び図3における紙面下方側に相当)にピン頭部13の縮径部14に接続したピン軸部15は、ガス抜き孔3の孔径に対して縮径して形成されている。そのため、クリアランスCを通過したガスは、係るピン軸部15及び孔壁10の間の導出空間17を通って、金型本体6の本体外空間に導出されることとなる。ここで、ピン軸部15は、図1等に示されるように、ピン頭部13の縮径部14を介して接続した断面略六角形状の六角軸部15aと、六角軸部15aの一端から延設された断面円形状の延軸部15bと、延軸部15bと接続したガス抜き孔3よりも大きな孔径で形成された円柱状の軸尾部15cと具備して構成されている。図2に示すように、金型本体2に貫設されたガス抜き孔3の孔長さは、ピン頭部13、六角軸部15a、延軸部15bの長さよりも短く設定され、延軸部15bの一部が固定型4から突出して形成されている。すなわち、突出した延軸部15bの長さがガス抜きピン2の摺動に係るストロークと一致することになる。そして、上記の導出空間17は、主に六角軸部15a及び孔壁10の間で形成されている。なお、六角軸部15aに接続した断面円形状の延軸部15bでは、孔壁10との間の導出空間17は、六角軸部15aとの間よりも狭小に設定されている。
【0030】
次に、本実施形態の射出成型用金型1を使用した射出成型の一例について説明する。始めに、図2及び図3に示すように、ガス抜き孔3にガス抜きピン2を所定のクリアランスCを保持した状態で挿設する。このとき、ガス抜きピン2の軸尾部15cはピン摺動部16と連結し、ガス抜きピン2の摺動が可能な状態となっている。さらに、図3に示すように、ガス抜きピン2の先頂部9の先端9aは、金型本体6(固定型4)のキャビティ19とガス抜き孔3とが接続したキャビティ接続口8と側方から見ると一致するようにセットされている。係る状態で固定型4に対し、可動型5を可動させ、相対する面同士を当接させて型締めを行う。これにより、成型対象の樹脂成型品(図示しない)に対応する形状を呈する前述のキャビティ19が金型本体6の内部に形成されることとなる。ここで、可動型5は高温で加熱され、溶融状態となった溶融樹脂Pの周知の樹脂射出機構(図示しない)とランナーRを通じて連結され、当該ランナーRを通じてキャビティ19内に溶融樹脂Pが充填(射出)されることとなっている。なお、本実施形態の射出成型用金型1において、説明を簡略化するために、ガス抜き機能を奏するガス抜きピン2及びガス抜き孔3等を、ランナーRに相対する位置の金型本体6に対して設けるものを示したが、これに限定されるものではなく、通常の突き出しピン等のように、キャビティ19内の各所に複数設けるものであっても構わない。
【0031】
上記設定の下、溶融樹脂Pを高圧でキャビティ19内にランナーRを介して射出充填する。これにより、ランナーから流動状態の溶融樹脂Pが順次押出されるようにして射出が行われる。このとき、固定型4及び可動型5によって型締めされた金型本体6の内部のキャビティ19は、大気及びその他一部に反応性気体を含むガス21が存在している。そのため、溶融樹脂Pによって係るガス21がランナーRと相対する溶融樹脂Pの射出方向のキャビティ19の内壁面に向かって押出されることとなる。その結果、キャビティ19内のガス21は、最終的にガス抜き孔3のキャビティ接続口8に到達する。
【0032】
このとき、ガス抜き孔3に挿設されたピン頭部13の先頂部9の先端9aと、キャビティ接続口8の位置がほとんど一致して形成されているため、ガス抜き孔3の孔径に対し、その占める割合は最も小さくなっている。そして、先端9aから孔壁10に向かって、拡開するように斜め方向(図2等において左右斜め下方向)に拡開した周面11によって拡開部12が形成されている。そのため、キャビティ接続口8の近傍に到達したガス21は、先頂部9の先端9aと孔壁10の間の比較的広い隙間18に進入し、徐々にこの隙間18が狭くなる空間をクリアランスCに向かって進むことになる。
【0033】
そして、最終的に、拡開部12の外端部12aと孔壁10とが最も近接したクリアランスCに到達し、係るクリアランスCを通過した広い導出空間17に導出される。このとき、クリアランスCが非常に微細に設定されているため、高圧で射出された溶融樹脂Pは、係るクリアランスCを越えて導出空間17に到達することができない。すなわち、クリアランスCは、溶融樹脂Pの導出空間17への導出を規制する機能を有している。さらに、クリアランスCから導出空間17へ導出するガス21の送出速度は大きくなっている。その結果、「流体の速度の上昇に応じて、当該流体の周囲の圧力が低下する」ベルヌーイの定理によって、クリアランスC付近、特に、クリアランスCの直近の導出空間17の付近の圧力が低下することとなる。そのため、キャビティ19内のガス21が係る負圧となった領域に吸引されることとなる。
【0034】
その後、六角軸部15a及び延軸部15bと孔壁10の間の導出空間17を通過し、ガス21は最終的に金型本体6の本体外空間7に排出される。これにより、キャビティ19内のガス21を溶融樹脂Pの射出操作と同一のタイミングで排出する処理が完了する。このとき、前述したように、射出成型された溶融樹脂Pは、先のクリアランスCの手前まで到達し、係る位置で冷やされて固化している。そして、型締めされた固定型4及び可動型5を解除し、ガス抜きピン2をピン摺動部16を稼働することにより、キャビティ19に対して突出するように作用させる。その結果、ガス抜きピン2の先頂部9の先端に樹脂成型品の一部が押させるようにして、固定型4からの型抜きが行われる。このとき、樹脂成型品の一部は、ガス抜き孔3及びガス抜きピン2の先頂部9に相対する形状(ここでは、すり鉢状)に形成されている。なお、係る部分は、樹脂成型品の本来の形状でないため、次工程において切断加工等の処理を行う必要がある。これにより、射出成型による樹脂成型品の製造が完了する。
【0035】
以上、説明したように、本実施形態の射出成型用金型1は、球面錐形状の先頂部9を有するピン頭部13によって、キャビティ19内のガス21を先頂部9から拡開部12の周面11に沿って安定した流れで送出し、クリアランスCまで導くことができる。そして、拡開部12の外端部12aと孔壁10とが近接したクリアランスCの間をガス21を通過させ、本体外空間7に排出することができる。これにより、射出成型時のキャビティ19内のガス21による不具合を解消することができる。
【0036】
さらに、本実施形態の射出成型用金型1におけるガス抜きピン2のピン頭部13の構成は、鉛筆のように先端を最も小径に形成し、先端から外側に向かって拡開するように形成されている。そのため、従来と比して、ガス抜きピン2の製作が容易に行えるようになる。
【0037】
以上、本発明について好適な実施形態を挙げて説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではなく、以下に示すように、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計の変更が可能である。
【0038】
すなわち、本実施形態の射出成型用金型1において、先端が球面形状のピン頭部13を有するガス抜きピン2を使用するものを例示したが、これに限定されるものではない。例えば、図4(a)に示すように、孔壁10と近接するクリアランスCを少なくとも二つ以上を有するように、拡開部を多段に形成した多段拡開部20を有する多段ピン頭部13aを具備するガス抜きピン2a、或いは、図4(b)に示すように、キャビティ接続口8の位置と一致する截頭面22を有する截頭形状(断面台形状)の截頭ピン頭部13bを具備するガス抜きピン2bを採用するものであっても構わない。
【0039】
係る構成を採用することにより、多段拡開部20では、ガス21のみを通過させ、溶融樹脂Pの進入規制を複数箇所のクリアランスCによって行うことが可能となり、本体外空間7に溶融樹脂Pが突出するような不具合を生じることがない。なお、図4(b)において、孔壁10とのそれぞれのクリアランスCを同一にするものを示したが、これに限定されるものではなく、キャビティ19に近接する側のクリアランスCを大きく採り、一方、ガス抜き孔3の下流側に相当する位置のクリアランスCを上記よりも小さく設定するものであっても構わない。これにより、溶融樹脂Pの目詰まり等の不良を防ぐことができる。
【0040】
さらに、本実施形態の射出成型用金型1において、ガス抜きピン2をキャビティ19に対して進退自由に摺動させるピン摺動部16に係る機構を有するものを示したが、これに限定されるものではなく、ガス抜き孔3に固定され、突き出しピンとしての機能を有さないものであってもよい。さらに、金型本体6の複数箇所にそれぞれ設けられるガス抜き孔3及びガス抜きピン2の設定位置に応じて、上記ピン摺動部16の有無を適宜選定するものであっても構わない。
【0041】
加えて、本発明の射出成型用金型は、図5に示すような態様を採用することも可能である。具体的に説明すると、射出成型用金型30において、金型本体31に設けられたガス抜き孔32に対し、摺動可能に設けられた円筒形状のスリーブ33を設置し、さらに当該スリーブ33にガス抜きピン34(図5(a)参照)を挿設したものである。このとき、ガス抜きピン34のピン頭部35の最大外形部35aとスリーブ33の内壁との間にはクリアランスCが設けられ、キャビティ36内のガス(図示しない)を通過させることができる(図5(b)拡大図参照)。なお、前述の場合と同様にキャビティ36に射出された溶融樹脂(図示しない)は係るクリアランスCを通過することはできない。
【0042】
ここで、ガス抜きピン34の後端部34aには、スリーブ33及びガス抜きピン34の間のクリアランスCを通過したガスが通過するガス穴部37の形成されたピン尾部38が形成されている。そして、ピン摺動部(図示しない)と係るガス抜きピン34及びスリーブ33が接続されている。これにより、射出成型時に溶融樹脂がスリーブ33及びガス抜きピン34の間のクリアランスCを通過して内部まで侵入することがない。一方、キャビティ36内のガスはガス抜きピン34のガス穴部37を通過し、ガス抜き通路39から外気に排出される。そして、射出成型が完了した後、ピン摺動部を駆動させ、ガス抜きピン34とスリーブ33を同時に摺動させる。これにより、射出成型され、キャビティ36内で冷却され、固化した樹脂成形品がガス抜きピン34によって押出され、型抜きが完了する。すなわち、上述した実施形態に比べ、ガス抜きピン34自体がガス抜き孔34に対して摺動することがない。その結果、ガス抜きピン34自体が摺動した場合に想定されるガス抜き孔32の孔壁との接触により、ガス抜きピン34が摩耗や摩滅し、クリアランスCが変化するおそれがない。そのため、キャビティ36内のガス抜きを安定して精度良く実施することができる。さらに、ガス抜きピン34を製造する際の加工が容易となる。
【符号の説明】
【0043】
1,30 射出成型用金型
2,2a,2b,34 ガス抜きピン
3,32 ガス抜き孔
4 固定型
5 可動型
6,31 金型本体
7 本体外空間
9 先頂部
10 孔壁
11 周面
12 拡開部
12a 外端部
13,35 ピン頭部
13a 多段ピン頭部
13b 截頭ピン頭部
14 縮径部
15 ピン軸部
16 ピン摺動部
17 導出空間
18 隙間
19,36 キャビティ
20 多段拡開部
21 ガス
22 截頭面
33 スリーブ
C クリアランス
P 溶融樹脂
【先行技術文献】
【特許文献】
【0044】
【特許文献1】特開昭61−235108号公報
【特許文献2】特開平8−197592号公報
【特許文献3】特許第4085182号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融樹脂がランナーを通じて高圧で射出充填される、型彫りされたキャビティが内部に形成された金型本体と、
前記金型本体に貫設され、前記キャビティ及び前記金型本体の本体外空間を連通するガス抜き孔と、
前記ガス抜き孔のキャビティ接続口の孔径よりも小径の截頭形状または錐形状を呈する先頂部、前記先頂部から前記本体外空間の方向に前記ガス抜き孔の孔壁に近接するように拡開した周面を含んで形成される拡開部を有するピン頭部、及び前記ピン頭部の一端から延設された棒軸状のピン軸部を備え、前記拡開部の外端部及び前記ガス抜き孔の前記孔壁の間に、前記キャビティ内のガスを通過させるともに、前記溶融樹脂の通過を規制する所定のクリアランスを保持して前記ガス抜き孔に挿設されたガス抜きピンと
を具備することを特徴とする射出成型用金型。
【請求項2】
挿設された前記ガス抜きピンを前記キャビティに対して進退自由に摺動させるピン摺動部をさらに具備することを特徴とする請求項1に記載の射出成型用金型。
【請求項3】
前記ガス抜きピンは、
少なくとも二段以上の前記拡開部を有して形成された多段拡開部をさらに具備することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の射出成型用金型。
【請求項4】
前記先頂部は、
球面状を呈して構成され、前記クリアランスに前記キャビティ内の前記ガスを整流して導出することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一つに記載の射出成型用金型。
【請求項5】
前記ガス抜きピン及び前記ガス抜き孔の間に介設されるスリーブをさらに具備し、
前記ピン摺動部は、
前記ガス抜きピン及び前記スリーブを前記ガス抜き孔に対して摺動させることを特徴とする請求項2乃至請求項4のいずれか一つに記載の射出成型用金型。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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