説明

射出成形機を用いて溶融樹脂の溶融粘度を測定するための装置

【課題】 実際に射出成形を行う射出成形機における溶融樹脂の溶融粘度を測定するための装置を提供する。
【解決手段】 射出成形機の型締め機構に対し、固定型として取り付け可能な測定部110を有する。測定部110には、射出成形機から供給される溶融樹脂の流路先端に、溶融樹脂を吐出させるための細孔1103aを有するキャピラリー部1102が設けられている。また、測定部110には、流路における溶融樹脂の温度及び圧力を測定する温度センサ及び圧力センサが設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は溶融樹脂(溶融状態の樹脂)の溶融粘度を測定するための装置に関し、特には射出成形機を用いて溶融樹脂の溶融粘度を測定するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、溶融樹脂の流動特性、代表的には溶融粘度を測定する装置として、キャピラリーレオメータが知られている(特許文献1)。キャピラリーレオメータは、細管状の空洞を先端に取り付けたシリンダーに溶融樹脂を充填し、ピストンで圧力をかけて溶融樹脂を押し出すことにより、溶融粘度と剪断応力の関係を特定する装置である。
【0003】
具体的には、溶融粘度ηは、
η=(ΔPπR4)/(8QL)
により求められる。ここで、ΔPは空洞の入口と出口の圧力差(MPa)、Lは空洞の長さ(cm)、Rは空洞の半径(cm)、Qは空洞を流れる溶融樹脂の流量(cm3/s)である。なお、出口の圧力は0MPaと考え、ΔPには空洞の入口の圧力(シリンダー内の溶融樹脂の圧力)を用いることが多い。従って、キャピラリーレオメータでは、上式のパラメータのうちΔPとQを測定することで、ある剪断速度(4Q/πR)における溶融樹脂の溶融粘度を求めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−63663号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】佐々木 英幸、外1名、"高せん断レオメータを用いた溶融樹脂の粘度測定"、[online]、岩手県工業技術センター研究報告 第9号(2002)、[平成22年1月22日検索]、インターネット<URL:http://www.pref.iwate.jp/~kiri/infor/theme/2001/pdf/H13-48-capiro.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
溶融粘度は剪断速度に応じて変化するが、従来のキャピラリーレオメータで測定可能な剪断速度の範囲は101/s〜103/s程度である。一方、射出成形時の溶融樹脂の剪断速度は一般に103/s〜106/s程度である。従って、キャピラリーレオメータで測定した溶融粘度を用い、実機における射出成形条件を設定する場合には、キャピラリーレオメータで測定した、ある剪断速度範囲に対応する溶融粘度を外挿するなどして、射出成形時の剪断速度における溶融粘度を求めなくてはならない。そのため、手間がかかり、精度も低下する。
【0007】
また、溶融樹脂の状態は射出成形に用いる射出成形機の型式はもちろん、同一型式であっても厳密には一台ごとに異なるのに対し、キャピラリーレオメータで測定できる粘度は、射出成形機と異なる、かつ単一の環境での測定値である。
【0008】
射出成形機のような高剪断速度範囲に対応したキャピラリーレオメータとして、射出成形機の型締め機構を除去し、シリンダーヘッドにキャピラリーと圧力センサを設けたものが知られている(非特許文献1)。しかし、非特許文献1記載の測定装置は、ある特定の射出成形機を改造したものであり、他の射出成形機での測定はできない。また、当該測定装置に用いられている射出成形機には成形用の金型を取り付けることはできず、もはや射出成形機本来の機能を持たない。
【0009】
このように、従来、実際に射出成形を行う射出成形機における溶融樹脂の溶融粘度を測定するための装置は存在していなかった。
【0010】
本発明はこのような従来技術の課題に鑑みなされたものであり、実際に射出成形を行う射出成形機における溶融樹脂の溶融粘度を測定することを可能にする装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述の目的を達成するため、本発明に係る、射出成形機を用いて溶融樹脂の溶融粘度を測定するための装置は、
射出成形機の型締め機構に対して固定型として取り付けるための測定部を有し、
前記測定部は、
前記射出成形機が供給する溶融樹脂の流路と、
前記流路中の樹脂温度を測定するための温度センサと、
前記流路中の樹脂圧力を測定するための圧力センサと、
前記流路の先端に設けられ、前記流路中の溶融樹脂を外部に吐出させるための細孔を有するキャピラリー部と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る装置によれば、射出成形機の型締め機構に対して金型の固定型として取り付けるための測定部を有することにより、射出成形機を改造することなく、実際に射出成形を行う射出成形機における溶融樹脂の溶融粘度を測定することを可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態に係る、射出成形機を用いて溶融樹脂の溶融粘度を測定するための装置を、測定対象の射出成形機に取り付けた状態の一例を模式的に示す斜視図。
【図2】本発明の実施形態に係る装置の、測定時の状態を模式的に示す水平断面図。
【図3】本発明の実施形態に係る装置を射出成形機と共に用いて溶融粘度を測定するシステムの機能構成例を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の例示的な実施形態について詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る、射出成形機を用いて溶融樹脂の溶融粘度を測定するための装置100(以下、単に装置100という)を、測定対象の射出成形機に取り付けた状態の一例を模式的に示す斜視図である。
【0015】
図示するように、本実施形態に係る装置100は、射出成形機に対して通常の金型と同様に(金型として)取り付け可能な構成を有している。図1に示す構成において、装置100は、金型の固定型(キャビティ)に対応する測定部110と、可動型に対応する樹脂受け部120とから構成される。
【0016】
測定部110は、射出成形機の型締め機構における固定型取り付け部11に対して固定側取付板111を介して取り付けられる。具体的には、固定側取付板111が射出成形機の固定プラテン(固定ダイプレート)11にネジ止めされ、固定プラテン11に測定部110がネジ止めされる。
【0017】
樹脂受け部120もまた、射出成形機の型締め機構における可動プラテン(可動ダイプレート)12に対して可動側取付板121を介して取り付けられる。具体的には、可動側取付板121が可動型取り付け部12にネジ止めされ、可動型取り付け部12に樹脂受け部120がネジ止めされる。なお、樹脂受け部120は、コア受け板部120a及びスペーサーブロック部120bとから構成され、図示しないネジによって固定されている。
【0018】
固定プラテン11と可動プラテン12とは4本のタイバー13(便宜上図1には1本のみ示している)によって連結されており、図示しないピストンなどにより、可動プラテン12がタイバー13に沿って紙面左右方向に移動する。また、測定部110と樹脂受け部120との位置合わせを行うために、ガイドピン1101が測定部110に、ガイドピン1101が嵌り込むガイドピンブッシュ1201がコア受け板部120aにそれぞれ設けられている。
【0019】
このように、本実施形態に係る装置100は、一般的なプレート式金型と基本的な構成を共通にすることが当業者には理解されよう。一方、本実施形態においては、測定部110において、溶融樹脂の流路末端にキャピラリー部1102が設けられている。
【0020】
また、コア受け板部120aには、型締め時(すなわち、測定時)において、測定部110から突き出ているキャピラリー部1102がコア受け板部120aに当たらないように切り欠き部1202が設けられている。切り欠き部1202は、コア受け板部120aの厚み方向に貫通するように設けられている。スペーサーブロック部120bは通常突き出しピンなどを設けるための空間を中央部に有しており、本実施形態では、この空間に、ボウル状の溶融樹脂の受け皿1203を設けている。従って、キャピラリー部1102の先端1109から突出した溶融樹脂は溶融樹脂の受け皿1203に到達し、冷却固化する。
【0021】
次に、本実施形態の特徴である測定部110の構成の詳細について、図2を参照して説明する。図2は、本実施形態に係る装置100の、測定時の状態を模式的に示す水平断面図であり、図1と共通する構成には同じ参照数字を付してある。また、図2は、装置100の、キャピラリー部1102の中心軸を通る水平断面を、鉛直上方から見た状態を示している。
【0022】
キャピラリー部1102は、測定部110に取り付けられるベース部1102bと、ベース部1102bの先端に取り付けられるオリフィス固定具1102aとから構成される。オリフィス固定具1102aとベース部1102bとは例えばオリフィス固定具1102aの基端部周囲とベース部1102bの先端部内周に設けられたネジ山とネジ溝により分離可能に取り付けられている。オリフィス固定具1102aは中空円筒形状を有し、内部にオリフィス1103が交換可能に取り付けられている。オリフィス1103は、例えばその根元部分に鍔状部が設けられ、オリフィス固定具1102aによってベース部1102bに押し付けて固定されている。また、オリフィス1103にはオリフィス1103を貫通する細孔1103aが設けられている。細孔1103aはオリフィス1103における溶融樹脂の流路を形成する。
従って、本実施形態の装置100において、長さや径の異なるオリフィス1103を用いた測定を行う場合、型締め機構を開き、キャピラリー部1102のオリフィス固定具1102aのみを取り外し、オリフィス1103を交換してオリフィス固定具1102aを再度取り付ければよい。装置100を型締め機構に装着した状態で容易にオリフィス1103が交換可能であるため、使い勝手がよい。
【0023】
中空円筒形状を有するキャピラリー部1102のベース部1102bは、基端(射出成形機側端部)に設けられた鍔部1107により、固定部110に固定されている。ベース部1102bはオリフィス固定具1102aと同様、溶融樹脂の流路1106が設けられている。また、ベース部1102bには、流路1106内の樹脂圧力を測定するための、例えばダイヤフラム式である圧力センサ1108と、流路1106における溶融樹脂の温度を測定するための温度センサとしての熱電対1105がそれぞれ設けられている。圧力センサ1108及び熱電対1105の信号は、キャピラリー部1102の周囲の空間から孔1110を通じ、図示しない配線によって、後述する温度制御装置320や、溶融粘度の測定装置などの外部機器に出力される。
【0024】
また、キャピラリー部1102の外周にはバンドヒーター1104が、キャピラリー部1102の長さ方向に沿って3箇所設けられており、熱電対1105の出力値に応じて、必要に応じて加熱される。バンドヒーター1104に対する外部の電源等からの電力供給(温度制御)もまた、孔1110を通じて接続される温度制御装置320(図示せず)の制御に従って行われる。
【0025】
固定側取付板111は、図示しない射出成形機のノズル14から供給される溶融樹脂が、キャピラリー部1102のベース部1102bに設けられた樹脂流路に対して正しく流入するように、測定部110が射出成形機に対して正しい位置で取り付けられるように設けられている。
【0026】
図3は、本発明の実施形態に係る装置を射出成形機と共に用いて、溶融樹脂の溶融粘度を測定するシステムの機能構成例を示すブロック図である。
溶融粘度は、装置100から得られる温度並びに圧力の値と、射出成形機200から得られる樹脂流量とを用いて算出することが可能である。そのため、図3に示すシステムでは、これらのパラメータから溶融粘度を算出する算出部300と、バンドヒーター1104の温度制御を行う温度制御装置320とを有している。
【0027】
上述のように、溶融粘度を測定(算出)する場合、射出成形機200の運転条件を所望の条件に設定し、通常の射出成形動作と同様に、型締めを行い、射出成形機200から溶融樹脂を装置100に対して供給する。なお、バンドヒーター1104の温度は、熱電対1105からの信号を温度制御装置320に供給し、熱電対1105からの信号が所定温度を表す値となるように温度制御装置320がバンドヒーター1104への電力供給を制御することで実現できる。
そして、キャピラリー部1102から樹脂を押し出す際の、キャピラリー部1102のベース部1102bにおける樹脂流路で測定した樹脂温度、圧力を、装置100の熱電対1105及び圧力センサ1108から取得する。
【0028】
一方、射出成形機200からは、溶融樹脂の流量を取得する。溶融樹脂の流量は、射出成形機200から直接取得しても良いし、射出成形機200から射出速度(押出速度)を取得し、既知であるスクリュー径半径r(cm)と射出速度v(cm/s)とから、
Q=πr2
として流量Qを求めてもよい。
【0029】
上述のように、溶融粘度η(見かけ粘度)は、
η=(ΔPπR4)/(8QL)
により求められる。
具体的には、ΔPに圧力センサ1108から取得した圧力(MPa。なお、出口圧力は0MPaとする)を、Lに既知である細孔1103aの流路長さ(cm)、Rに既知である細孔1103aの流路半径(cm)、Qに射出成形機200から取得した溶融樹脂の流量(cm3/s)を代入することにより、溶融粘度ηを求めることができる。
【0030】
求めた溶融粘度ηは、表示装置、印刷装置、記憶装置、通信装置の少なくとも1つである出力部310を通じて各種出力媒体に対して出力される。
【0031】
このように、本実施形態に係る装置100は、一般的なプレート式金型と基本的な構成を共通にする。従って、射出成形機に対して何ら改造などを行うことなく、金型と同様に取り付けることができる。また、実際の測定も、射出成形と同様に型締めを行い、溶融樹脂を金型(装置100)に供給することにより実施可能である。
【0032】
(他の実施形態)
上述の実施形態においては、通常の射出成形動作を行って、溶融粘度の算出に用いる溶融樹脂の圧力及び温度を測定するために、装置100が固定型である測定部110と可動型である樹脂受け部120から構成される形態について説明した。
【0033】
しかしながら、溶融粘度の算出に用いる溶融樹脂の圧力及び温度は、必ずしも型締め動作を行わなくても測定可能であることは容易に理解されよう。実際、上述の構成において、樹脂受け部120は単にキャピラリー部1102の先端1109(細孔1103a)から吐出した溶融樹脂を、溶融樹脂の受け皿1203で受け止める機能を有するのみである。
【0034】
従って、型締めを行わなくても溶融樹脂を金型へ供給可能な射出成形機とともに装置100を用いる場合、可動型である樹脂受け部120は必須でなく、固定型である測定部110を単独で用いてもよい。この場合も、従来は不可能であった、実機での溶融粘度の測定を可能とする効果は達成できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
射出成形機を用いて溶融樹脂の溶融粘度を測定するための装置であって、
前記射出成形機の型締め機構に対して固定型として取り付けるための測定部を有し、
前記測定部は、
前記射出成形機が供給する溶融樹脂の流路と、
前記流路中の樹脂温度を測定するための温度センサと、
前記流路中の樹脂圧力を測定するための圧力センサと、
前記流路の先端に設けられたキャピラリー部とを備え、
前記キャピラリー部は、前記流路中の溶融樹脂を外部に吐出させるための細孔を有することを特徴とする装置。
【請求項2】
さらに、前記型締め機構に対して可動型として取り付けるための樹脂受け部を有し、
前記樹脂受け部は、前記型締め機構により型締めされ、前記測定部と係合した状態で前記細孔から吐出する溶融樹脂を受ける樹脂受け手段を有することを特徴とする請求項1記載の装置。
【請求項3】
前記キャピラリー部は、前記測定部に固定されるベース部と、前記細孔が設けられたオリフィスと、前記ベース部と着脱可能に取り付けられるオリフィス固定具とを有し、前記オリフィスは、前記オリフィス固定具に対して交換可能に取り付けられることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の装置。
【請求項4】
前記温度センサから得られる温度と、前記圧力センサから得られる圧力と、前記射出成形機の動作条件から求まる溶融樹脂の流量と、前記細孔の流路半径及び流路長さを用いて、前記溶融樹脂の溶融粘度を算出する手段をさらに有することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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