説明

射出成形用樹脂組成物および射出成形体

【課題】 軽量でかつ成形時における収縮率が小さい射出成形体が得るためのガラス微小中空体を含有する熱可塑性樹脂射出成形用組成物を提供する。
【解決手段】 SiO60〜80質量%、NaO2〜12.5質量%、CaO5〜15質量%、B4〜15質量%及びSO0.05〜1質量%を含み、かつB/NaO(質量比)が1.2〜3.5であるガラスの組成を有し、レーザー散乱式粒度測定による粒度分布における、D90が50μm以下であり、粒子密度が0.55〜0.75g/cmであり、かつ静水圧力500kg/cmでの体積破壊率が2%以下であるガラス微小中空体と、熱可塑性樹脂とを含み、上記ガラス微小中空体が上記熱可塑性樹脂100質量部に対して5〜90質量部含まれることを特徴とする射出成形用樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軽量でかつ成形時における収縮率が小さい射出成形体が得られるガラス微小中空体を含有する射出成形用樹脂組成物および射出成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス微小中空体は、一般にガラスバルーン、ガラスバブルという名称でも呼ばれており、超低比重であること、微細であること、比較的高強度であること等の特徴を生かし、軽量化、断熱性能等を付与するために樹脂等に添加することが行われている。ガラス微小中空体が添加される分野の例は、自動車、船舶、航空機等の移動体用の樹脂成形体、各種建築材料等の用途に広がっている。
【0003】
近年、各種の素材の軽量化が望まれているなか、特に、ガラス微小中空体を添加した熱可塑性樹脂成形体は移動体用の素材部品として期待されている。しかしながら、ガラス微小中空体を熱可塑性樹脂成形体に混入するためには、溶融した熱可塑性樹脂に比重の小さいガラス微小中空体を均一に分散混合し成形する必要があるが、これは必ずしも容易ではない。この問題を解決するために、特許文献1には、熱可塑性樹脂とガラス微小中空体を主成分とし、ガラス微小中空体の表面に滑り性のある表面被覆材を被覆し、均一に混合することが提案されている。
【0004】
また、ガラス微小中空体を添加した熱可塑性樹脂成形体については、一般に、表面の平滑性や外見の美観上が要求される成形体や、厚みが規制される成形体がある。このような要求にこたえるために、特許文献2には、平均粒径が小さく、粒度分布がシャープなガラス微小中空体が提案されている。しかしながら、地球環境保全を目指す移動体の低燃費化のために素材の大きい軽量化が期待されているにも拘らず、ガラス微小中空体を添加した熱可塑性樹脂成形体は、今ひとつ広く使用されていない。
【0005】
【特許文献1】特開昭6−226771号公報
【特許文献2】特開2001−172031号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記したように、ガラス微小中空体を添加した熱可塑性樹脂成形体は期待ほど広くは使用されていないが、その理由の一つは、ガラス中空体を樹脂に添加した場合に、その成形過程でガラス微小中空体が破壊してしまうことにある。ガラス微小中空体が破壊した場合、ガラスの殻のみとなり、その密度はガラスの密度の2.5g/cm程度になってしまい、軽量化どころか逆になってしまう。特に、移動体部材用の樹脂成形体は,多くの場合、熱可塑性樹脂の射出成形で製作されるが、この射出成形では、成形過程で高い圧力が印加される。しかし、従来のガラス微小中空体では、このような射出成形に耐えられる強度の大きいものは実質上提供されていなかった。
【0007】
更に、一般に、熱可塑性樹脂の射出成形品を製作する場合、射出成形する過程において射出成形の実施直後に、射出成形の金型内で成形体の収縮する現象が多かれ少なかれ生じる。しかし、従来のガラス微小中空体を含む熱可塑性樹脂の射出成形の場合はこれが著しく、特に、金型内の樹脂の押出し方向である横方向の収縮が大きく、所望の寸法を有する射出成形体が得られにくいという問題があった。
【0008】
本発明の目的は、上記のような射出成形過程で含有するガラス微小中空体が破壊せず、また金型内で成形体が収縮せず所望の寸法を有しかつ均一な特性を有する射出成形体が得られ、更には、表面の平滑性や外見の美観上が要求される成形体や、厚みが規制される射出成形体をも容易に得られる、ガラス微小中空体含有射出成形用樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、鋭意研究を進めたところ、特定の組成及び物性を有するホウ珪酸ガラスからなる新規なガラス微小中空体を使用することにより上記の目的を達成できることを見出し、本発明に到達したもので、本発明は下記の要旨を有する。
(1)SiO60〜80質量%、NaO2〜12.5質量%、CaO5〜15質量%、B4〜15質量%及びSO0.05〜1質量%を含み、かつB/NaO(質量比)が1.2〜3.5であるガラスの組成を有し、レーザー散乱式粒度測定による粒度分布における、D90が50μm以下であり、粒子密度が0.55〜0.75g/cmであり、かつ静水圧力500kg/cmでの体積破壊率が2%以下であるガラス微小中空体と、熱可塑性樹脂とを含み、上記ガラス微小中空体が上記熱可塑性樹脂100質量部に対して5〜90質量部含まれることを特徴とする射出成形用樹脂組成物。
(2)ガラス微小中空体が、有機シラン化合物、有機チタネート化合物又は有機アルミネート化合物によって表面処理されている上記(1)に記載の射出成形用樹脂組成物。
(3)強化繊維が、熱可塑性樹脂100質量部に対して1〜70質量部含有されている上記(1)又は(2)に記載の射出成形用樹脂組成物。
(4)ガラス微小中空体のアルカリ溶出度が0.08ミリ当量/g以下である、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の射出成形用樹脂組成物。
(5)熱可塑性樹脂が、ポリアミド、ポリプロピレン、ポリオキシメチレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエチレンテレフタレート、変性ポリフェニレンエーテル、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエーテルエーテルケトン、およびエチレン/テトラフルオロエチレン共重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種である請上記(1)〜(4)のいずれかに記載の射出成形用樹脂組成物。
(6)射出成形体の重量が、ガラス微小中空体を含まない場合に比べて5〜30%小さい、上記(1)〜(5)のいずれかに記載の射出成形用樹脂組成物を射出成形してなる射出成形体。
(7)射出成形過程における射出成形体の収縮率が、1%以下である請求項1〜5のいずれかに記載の射出成形用樹脂組成物を射出成形してなる射出成形体。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、射出成形過程で、含有されるガラス微小中空体が破壊せず、また金型内で成形体が収縮せず所望の寸法を有しかつ均一な特性を有する射出成形体が得られ、更には、表面の平滑性や外見の美観上が要求される成形体や、厚みが規制される射出成形体をも容易に得られる、射出成形用樹脂組成物が提供される。
【0011】
また、本発明の射出成形用樹脂組成物を使用して得られる射出成形体の重量は、ガラス微小中空体含有を含まない場合に比べて5〜30%小さく、射出成形過程における射出成形体の収縮率が、1%以下である射出成形体が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の射出成形用樹脂組成物に含有されるガラス微小中空体は、ガラスの組成として、SiO:60〜80質量%、NaO:2〜12.5質量%、CaO:5〜15質量%、B:4〜15質量%、及びSO:0.05〜1質量%を含み、かつB/NaO(質量比)が1.2〜3.5を有する。かかる組成を有することにより、上記した特性が発現するとともに、吸湿性が小さく、またアルカリ溶出度の小さいガラス微小中空体になる。また、ガラス微小中空体を熱可塑性樹脂等に混入した場合に、成形時の流動性が低下し、成形性等の低下を抑制できる。
【0013】
なかでも、本発明で使用されるガラス微小中空体は、ガラスの組成として、SiO:65〜75質量%、NaO:3〜6質量%、CaO:8〜13質量%、B:6〜9.5質量%、及びSO:0.05〜1質量%を含み、かつB/NaO(質量比)が1.35〜3である組成を有するのが好ましい。また、全アルカリ金属の酸化物は2〜12.5質量%、好ましくは4〜8質量%であり、全アルカリ土類金属の酸化物は5〜15質量%、好ましくは8〜15質量%であるのが好適である。
【0014】
また、ガラス微小中空体を形成するガラスは、次のような他の成分を含むことができ、それにより、ガラス微小中空体の特性を制御することができる。KO:0〜3質量%、好ましくは0.5〜1.5質量%、LiO:0〜3質量%、好ましくは0.5〜1.2質量%、MgO:0〜3質量%、好ましくは0〜1.5質量%、ZnO:0〜3質量%、好ましくは1.0〜2.5質量%、Al:0〜3質量%、好ましくは0.5〜1.5質量%、P:0〜3質量%、好ましくは1.1〜2.0質量%、Sb:0〜1質量%、As:0〜1質量%。
【0015】
ガラス微小中空体は、レーザー散乱式粒度測定又はJIS標準篩による粒度分布における、通過積算割合D90が50μm以下であることが必要である。この粒度分布は、ガラス微小中空体粒子密度、耐圧強度そして最終製品の品質に与える影響は大きく、D90が、50μmを超える場合には、一般に粒子密度も小さく、耐圧強度も小さくなり、射出成形における高圧下での使用は困難となる場合が大きい。D90は45μm以下が好ましく、特には42μm以下が好ましい。また、ガラス微小中空体のレーザー散乱式粒度測定による粒度分布における、通過積算割合D50は、好ましくは25〜35μm、特に好ましくは25〜30μmが好適である。
【0016】
また、ガラス微小中空体は、粒子密度が0.55〜0.75g/cmが必要であり、なかでも、0.55〜0.65g/cmが好ましい。粒子密度が0.75g/cmより大きい場合には、素材に添加した場合、軽量効果が小さくなる。また、粒子密度が0.55g/cmより小さい場合には、ガラス微小中空体を熱可塑性樹脂に添加し、高圧力にて射出成形する場合、中空体が破壊し、十分な軽量効果を得ることが困難となる。
【0017】
本発明で使用されるガラス微小中空体の強度は、体積破壊率が2%に達する静水圧力は500kg/cm以上であることが必要であり、特に、該静水圧力は600kg/cmで以上であることが好適である。上記の静水圧力が500kg/cmより小さい場合には、射出成形過程でガラス微小中空体が破壊し、成形品の比重が増大し、また成形体の収縮も大きくなる。一方、ガラス微小中空体の強度は大きい方が望ましいが、通常、強度が大き過ぎると粒子密度も大きくなるので、体積破壊率が2%に達する静水圧力は、1200kg/cm以下、好ましくは1000kg/cm以下であることが好ましい。
【0018】
また、本発明のガラス微小中空体は、アルカリ溶出度が小さく、0.08ミリ当量/g以下、特には、0.06ミリ当量/g以下であることが好ましい。これにより、ガラス微小中空体は、吸水性や耐水性が改善され、また、樹脂に添加した場合に、樹脂が発泡したり、成形の際の流動性を阻害されたりすることがない。
【0019】
本発明のガラス微小中空体の製造方法は限定されることはないが、好ましくは、以下のようにして製造される。すなわち、本発明では、SiO:58〜75質量%、NaO:3〜12.5質量%、CaO:5〜15質量%、B:11〜15質量%及びSO:0.05〜1質量%を含み、かつB/NaOが1.7〜4である組成を有するガラスフリットを使用することにより製造される。かかる組成を有するガラスフリットは、ガラス微小中空体を製造する際の発泡率も適度であり、また、得られるガラス微小中空体の粒子密度やアルカリ溶出を小さくするのに効果的である。
【0020】
上記ガラスフリットは、なかでも、SiO:58〜70質量%、NaO:3〜8質量%、CaO:7〜12質量%、B:12〜15質量%、及びSO:0.05〜1質量%を含み、かつB/NaOが1.35〜3である組成を有するのが好ましい。また、全アルカリ金属の酸化物は3〜15質量%、好ましくは3〜10質量%であり、全アルカリ土類金属の酸化物は5〜15質量%、好ましくは7〜12質量%であるのが好適である。
【0021】
また、ガラスフリットは、次のような他の成分を含むことができ、それにより、製造されるガラス微小中空体の特性を制御することができる。KO:0〜3質量%、好ましくは0.5〜1.5質量%、LiO:0〜3質量%、好ましくは0.5〜1.2質量%、MgO:0〜3質量%、好ましくは0〜1.5質量%、ZnO:0〜3質量%、好ましくは1.0〜2.5質量%、Al:0〜3質量%、好ましくは0.5〜1.5質量%、P:0〜3質量%、好ましくは1.2〜2.0質量%、Sb:0〜1質量%、As:0〜1質量%。
【0022】
ガラスフリットの粒度分布は、得られるガラス微小中空体に影響を与えるので、ガラスフリットの粒子径はD90が35μm以下が好ましい。D90が35μmより大きくなると、発泡後に得られるガラス微小中空体の粒度分布として所望の範囲のものが得られない。また、原料ガラスフリットの平均粒子径D50も発泡後の粒子密度に影響し、D50は15〜20μmが好ましく、特には17〜20μmが好適である。D50が、15μmより小さい場合には、得られるガラス微小中空体の粒子密度が大きくなり、軽量充填材としては不適である。また、D50が20μmを超えると、粒子密度は小さくなるが、耐圧強度が弱くなる。
【0023】
上記の原料ガラスフリットを発泡させてガラス微小中空体を製造する方法は好ましくは以下のようにして行われる。すなわち、上記原料フリットを分散用空気にて分散させ、LPG/燃焼空気の混合気体とともに、1000〜1200℃の火炎中に導入する。そして火炎中に、この原料フリットを0.1〜5秒間通過させることにより、発泡率が70%以上、特には75%以上にてガラス微小中空体が製造される。なお、ここで発泡率とは、ガラスフリットの発泡工程から得られる無発泡品を含む生産物における水浮上品であるガラス微小中空体の重さの百分率を意味する。かかる場合、ガラス微小中空体が、篩操作を行うことなく高い歩留が得られるが、必要に応じて、篩による分級を行い、更なる粒度分布の調整を行ってもよい。
【0024】
本発明においてガラス微小中空体が添加される熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ABS樹脂、AS樹脂、アクリル系樹脂、塩化ビニル樹脂、各種ポリアミド、ポリオキシメチレン、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、超高分子量ポリエチレン、ポリビニールアセテート、ポリ塩化ビニリデン、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリアリレート、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリイミド、ポリエーテルエーテルケトン、各種液晶樹脂、テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体樹脂、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン/クロロトリフルオロエチレン共重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種である樹脂が挙げられる。
【0025】
なかでも、熱可塑性樹脂としては、ポリアミド、ポリプロピレン、ポリオキシメチレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエチレンテレフタレート、変性ポリフェニレンエーテル、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエーテルエーテルケトン、およびエチレン/テトラフルオロエチレン共重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種である樹脂が好ましい。
【0026】
熱可塑性樹脂にガラス微小中空体を添加して本発明の射出成形用樹脂組成物とする場合、ガラス微小中空体の含有量は、熱可塑性樹脂100質量部に対して、5〜90質量部含有されることが好ましい。ガラス微小中空体の含有量が5質量部より小さい場合には、軽量効果が小さくなり、逆に90質量部より大きい場合には、射出成形用樹脂組成物の流動性が低下し成形が困難となる。なかでも、ガラス微小中空体の含有量は10〜60質量部が好ましい。
【0027】
本発明において、熱可塑性樹脂にガラス微小中空体を添加して本発明の射出成形用樹脂組成物とする場合、好ましくは、2軸押出機、ミキサー、単軸押出機等の混練機を使用し、熱可塑性樹脂を溶融し、該溶融物にガラス微小中空体を添加、混練することにより行う。この場合、熱可塑性樹脂は粘調な溶融物であり、また、ガラス微小中空体とは比重が異なり、均一に分散混合することが一般に困難であるが、これを解消するために、ガラス微小中空体を有機シラン化合物、有機チタネート化合物又は有機アルミネート化合物の表面処理剤によって表面処理するのが好ましい。
【0028】
表面処理剤に使用される有機シラン化合物としては、好ましくは、ビニルトリエトキシシラン、ビニル−トリス−(2−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタアクリロキシプロピルメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシランが挙げられる。また、有機チタネート化合物としては、好ましくは、テトラ−i−プロピルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネート、ブチルチタネートダイマー、テトラステアリルチタネート、トリエタノールアミンチタネート、チタニウムアセチルアセトネート、チタニウムラクチート、オクチレンブリコールチタネート、イソプロピル(N−アミノエチルアミノエチル)チタネートが挙げられる。また、有機アルミネート化合物としては、例えば、アセトアルコキシアルミニウムジイソプロピネート等を挙げられる。これらの表面処理剤は一種以上を用いることもできる。
【0029】
ガラス微小中空体の表面処理は、上記の表面処理剤を、例えば、水や各種有機溶媒に溶解又は分散させた液を使用して行うことができる。溶液又は分散液中の表面処理剤の濃度は、好ましくは0.0001〜10質量%が用いられる。この溶液又は分散液にガラス微小中空体を好ましくは浸漬して表面被覆する。浸漬は一度のみならず、数度にわたって行うこともできる。ガラス微小中空体に対する表面処理剤の使用量は、ガラス微小中空体と表面被覆剤との合計量に対し、0.001〜2質量%、好ましくは0.005〜1質量%が適当である。
【0030】
本発明の射出成形用樹脂組成物には、必要に応じて、他の物質を添加することができる。例えば、強化繊維、他の充填材又は他の添加剤を単独もしくは合わせて使用できる。なかでも、強化繊維は成形物の強度を向上させることができるために使用することが好ましい。強化繊維の含有量は、熱可塑性樹脂100質量部に対して好ましくは1〜70質量部、特に好ましくは15〜60質量部が好適である。強化繊維としては、ガラス繊維、カーボン繊維、チタン酸カリウム繊維、アスベスト繊維、炭化ケイ素繊維、窒化ケイ素繊維、メタケイ酸カルシウム繊維、又はアラミド繊維等が使用される。なかでも、ガラス繊維は、他の繊維に比べて経済的であるので好ましい。
【0031】
上記他の充填材としては、酸化チタン、三酸化アンチモン、クレー、ベントナイト、セリサイト、ゼオライト、石膏、タルク、マイカ、カオリン、カーボンブラック、二硫化モリブデン、石英粉、ガラスビーズ、ガラスフレーク、又は、亜鉛、アルミニウム、銅、マグネシウム、カルシウム若しくは鉄等の金属の単体、酸化物、炭酸化物又は水酸化物の粉末等を使用し得る。上記他の添加剤としては、難燃剤、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等を使用し得る。更にその他分散剤や着色剤等を添加することもできる。
【0032】
本発明の射出成形用樹脂組成物を成形して射出成形体を得る方法は既知の手段が採用される。即ち、射出成形用樹脂組成物は、上記したように均一に混練して製造されるが、通常、混練と同時に押出し成形機等により線状に押出し、これを切断することによりペレットにせしめられる。
ペレットの形状は、通常、好ましくは、直径が2〜3mm、長さが3〜5mmの円柱状が選ばれる。しかし、これに制限されず、角柱状、その他の形状が選ばれる。
【0033】
本発明の射出成形用樹脂組成物を射出成形する場合、本発明で使用されるガラス微小中空体は、下記に具体的に示すように、従来にない大きい強度を有するが、射出成形における圧力が過度に大きい場合には、それでも破壊する恐れがあるので、射出成形圧は、好ましくは65MPa以下、特に好ましくは60MPa以下であるのが好適であり、通常、50〜65MPaの圧力が使用される。かくした場合、本発明の射出成形用樹脂組成物は射出成形過程で破壊されることなく射出成形され、得られる射出成形体の質量は、ガラス微小中空体含有を含まない場合に比べて5〜30%軽いことが好ましい。また、射出成形過程における、特に横方向の射出成形体の収縮率が1.0%以下、特には0.9%以下であることが好ましい。
【実施例】
【0034】
次に、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、これは例示であって、本発明の解釈を制限するものではない。なお、以下において、ガラス微小中空体のガラス組成の分析、アルカリ溶出度、粒度分布、粒子密度、及び体積破壊率は、次のようにして求めた。
(1)ガラス組成の分析:
蛍光X線分析又はICP発光分析により各成分の定量分析を行った。
(2)アルカリ溶出度:
ガラス微小中空体の水浮上品(バブル)をANS/ASTN D3100−78に従って測定した。
(3)粒度分布:
レーザー散乱式粒度測定装置又はJIS標準篩による篩い分けによる方法により測定した。
(4)ガラス微小中空体の粒子密度:
ガス置換式測定方法により測定した。
(5)ガラス微小中空体の体積破壊率:
静水圧力をかけ、その圧力を負荷する前後の試料密度の体積変化率を求め、次の式に従って算出した。
体積破壊率=(圧力負荷後の密度−圧力負荷前の密度)×100
/圧力負荷後の密度
【0035】
また、射出成形体の各種特性は次のようにして求めた。
(1) 収縮率:試験版ASTM D638 1号形ダンベルを使用した。
金型寸法:縦方向216.10mm、横方向12.53mmに対応する試験片の収縮を求めた。
(2) 引張特性:インストロン社製、「INSTRON」5582型の装置を使用し、試験規格ASTM D638に従い、強度、弾性率、破断伸びを測定した。試験片は1号形ダンベルを使用した。
(3) 曲げ特性:引張試験と同じ装置を使用し、試験片より12.5×64×3.1(t)mmを切出し試験片とした。試験方法は試験規格ASTM D790に従って測定した。
(4) アゾット衝撃値:東洋製機製アイゾット衝撃試験機を用い、ASTM D256の試験規格により測定した。
(5) 軽量効果:ガラス微小中空体を添加しない試験片の比重をBとし、ガラス微小中空体を添加し軽量化した試験片の比重をBとし、次の式で算出した。
軽量効果(%)=((B−B)/B)×100
【0036】
実施例1
以下の原料物質を混合し、坩堝に入れ、炉内温度1300℃にて4時間溶解した。次いで、溶解物を水槽に投入して急冷し、水砕ガラスフリット8000gを得た。
二酸化珪素:5030g、 石灰:1210g、
ほう砂(5水塩):2590g、 酸化アルミニウム:30g
第二リン酸カルシウム:339g、炭酸リチウム:138g
炭酸カリウム:118g 酸化亜鉛:82g
ボウ硝 :36g
【0037】
水砕ガラスフリットの水を切り150℃に保持した乾燥機にて2時間乾燥させた。乾燥後、このガラスフリット8kgをアルミナボールミル40kgとともに乾式ボールミルにて投入し、表1に記載した粒度分布(D90,D50)になるように粉砕した。粉砕されたガラスフリットを本発明では原料パウダーと呼ぶ。なお、原料パウダーは、以下の組成(単位;質量%)を有しており、D90は34μm、D50は19μmであった。
SiO:62.3 NaO: 7.2 LiO: 0.7
O : 1.0 CaO :10.1 ZnO: 1.0
:14.9 Al: 0.4 P: 2.2
SO : 0.2 B/NaO:2.1(質量比)
【0038】
原料パウダーを25g/分の投入量で、空気及びLPGの混合ガス(空気/LPGの体積比=21)500リットル/分とともに連続的に発泡炉に供給し、急冷後、バッグフィルターにより直ちに捕集した。捕集されたガラス微小中空体A−1は以下の組成(単位;質量%)を有し、D90は48μm、粒子密度0.57g/cm、体積破壊率は、500Kg/cmで1.7%、600Kg/cmで3.6%であり、また、アルカリ溶出度は0.07ミリ当量/gであった。
SiO:72.2 NaO: 4.2 LiO:0.5
O : 0.8 CaO :11.1 ZnO: 1.0
: 8.2 Al: 0.6 P:1.3
SO : 0.1 B/NaO:2.0(質量比)
【0039】
上記のガラス微小中空体A−1の2kgを、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン(信越化学社製、KBM−603)20gをメタノールに希釈して60gとし、ヘンシェルミキサーで2分間攪拌した。次いで、120℃で2時間乾燥した。得られたガラス微小中空体A−2は、熱分析の結果、0.6質量%アミノシランで表面被覆されていた。
【0040】
かかるガラス微小中空体A−2を2kgと、ポリアミド66樹脂(ガラスチョップドストランド繊維30質量%含有)8kgとを260℃に保持された同方向回転二軸混練押出し機で圧力0.7〜0.8MPaにて混練押出した。水冷後、ペレタイザーで直径2mm、長さ3mmの円柱状に切りペレットを得た。このペレットを80℃で24時間乾燥した。このペレットを270℃に保持された成形機(金型温度:100〜110℃)に投入し、圧力58.7MPaにて試験片(幅12.5mm、長さ216.1mm、厚さ3.1mmの板状)を射出成形した。得られた成形体片を割って状態を観察したところ、ガラス微小中空体が均一に含まれていた。このものの物性は表1に記載のとおりである。
なお、表1において、A欄は、ガラス微小中空体を表面処理しない場合の結果であり、また、B欄は、ガラス微小中空体を表面処理した場合の結果である。
【0041】
実施例2
以下の原料物質を坩堝に入れ、炉内温度1300℃にて4時間溶解した。次に溶解物を水槽に投入して急冷し、水枠ガラスフリット8000gを得た。
二酸化珪素 :5,106g 石灰:1,211g
ほう砂(5水塩):2,495g 酸化アルミニウム:30g
第二リン酸カルシウム:339g 炭リチ:139g
炭酸カリウム:118g 酸化亜鉛:82g
ボウ硝:29g
【0042】
水枠ガラスフリットの水を切り、150℃に保持した乾燥機にて2時間乾燥させた。乾燥後、ガラスフリット8kgをアルミナボールミル40kgとともに乾式ボールミルに投入し、粉砕した。ここに粉砕されたガラスフリットを本発明では原料パウダーと呼ぶ。原料パウダーは以下の組成(単位:質量%)を有しており、D90は30μm D50は16μmであった。
:63.7 Na2O:6.8 Li2O:0.7
O:1.0 CO:9.8 ZO:1.0
:14.8 Al:0.4 PO:1.7
SO:0.1 B/NaO:2.2(質量比)
【0043】
原料パウダーを25g/分の投入量で、空気及びLPG混合ガス(空気/LPGの体積比=21)500リットル/分とともに連続的に発泡炉に供給し、急冷後バックフィルターにより直ちに捕集した。捕集されたガラス微小中空体A−1は以下の組成(単位:質量%)を有し、D90は39μm、粒子密度は0.72g/cm、体積破壊強度は500kg/cm及び600kg/cmのいずれでも0%であった。また、アルカリ溶出度は0.7ミリ当量/gであった。
:72.8 Na2O:3.9 Li2O:0.5
O:0.8 CO:10.9 ZO:1.0
: 8.1 Al: 0.6 P:1.3
SO : 0.08 B/NaO: 2.1(質量比)
上記のガラス微小中空体A−1を実施例1と同様な方法で円柱状のペレットを試作し、その後成形機により成形体を得た。この成形体の物性を実施例1と同様に表1に示す。
【0044】
比較例1
実施例1において、ガラス微小中空体を使用しないほかは同様に実施した。結果を表1に示す。
【0045】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の射出成形用樹脂組成物を使用することにより、軽量でかつ成形時における収縮率が小さい、特に、自動車、船舶、航空機等の移動体用の射出樹脂成形体が得られる。このような軽量化射出樹脂成形体は、移動体の低燃費化をもたらし、これを通じて、地球の温暖化防止や環境保全上に大きく貢献する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiO60〜80質量%、NaO2〜12.5質量%、CaO5〜15質量%、B4〜15質量%及びSO0.05〜1質量%を含み、かつB/NaO(質量比)が1.2〜3.5であるガラスの組成を有し、レーザー散乱式粒度測定による粒度分布における、D90が50μm以下であり、粒子密度が0.55〜0.75g/cmであり、かつ静水圧力500kg/cmでの体積破壊率が2%以下であるガラス微小中空体と、熱可塑性樹脂とを含み、上記ガラス微小中空体が上記熱可塑性樹脂100質量部に対して5〜90質量部含まれることを特徴とする射出成形用樹脂組成物。
【請求項2】
ガラス微小中空体が、有機シラン化合物、有機チタネート化合物又は有機アルミネート化合物によって表面処理されている請求項1に記載の射出成形用樹脂組成物。
【請求項3】
強化繊維が、熱可塑性樹脂100質量部に対して1〜70質量部含有されている請求項1又は2に記載の射出成形用樹脂組成物。
【請求項4】
ガラス微小中空体のアルカリ溶出度が0.08ミリ当量/g以下である請求項1〜3のいずれかに記載の射出成形用樹脂組成物。
【請求項5】
熱可塑性樹脂が、ポリアミド、ポリプロピレン、ポリオキシメチレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエチレンテレフタレート、変性ポリフェニレンエーテル、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエーテルエーテルケトン、およびエチレン/テトラフルオロエチレン共重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1〜4のいずれかに記載の射出成形用樹脂組成物。
【請求項6】
射出成形体の質量が、ガラス微小中空体を含まない場合に比べて5〜30%小さい、請求項1〜5のいずれかに記載の射出成形用樹脂組成物を射出成形してなる射出成形体。
【請求項7】
射出成形過程における射出成形体の収縮率が、1%以下である請求項1〜5のいずれかに記載の射出成形用樹脂組成物を射出成形してなる射出成形体。

【公開番号】特開2006−256258(P2006−256258A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−80097(P2005−80097)
【出願日】平成17年3月18日(2005.3.18)
【出願人】(390006932)東海工業株式会社 (3)
【Fターム(参考)】