説明

射出成形金型及びその成形品

【課題】成形品の銀条を防止する射出成形金型を提供する。
【解決手段】型締めされる固定型2と可動型3の間で画成されるキャビティ6に溶融樹脂を流して成形品を得る射出成形金型1において、固定型2には成形品の突部を形成する凹部4が設けられ、凹部4の溶融樹脂の進行方向の終縁に、凹部4の幅よりも狭い所定の幅の溝部5を形成し、所定の幅は、溝部5内に流入した溶融樹脂が凹部4に侵入した溶融樹脂よりも早く冷却されるように設定される。溝部5に溜まったガスは、溝部5内の溶融樹脂が早期に冷却・固化されることにより、溝部5内に閉じ込められる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形金型及びその成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、キャビティ内の溶融樹脂の流れが急激に拡大される部分に、溶融樹脂の流れに逆らう方向に堰を設け、溶融樹脂の流れを抑制して樹脂圧の急激な低下による溶融樹脂内の水分、揮発性の低分子化合物のガス化現象を防止し、銀条(シルバーストリーク)の発生を防止した射出成形金型が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−232351号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
射出成形金型において、成形品が突部を備える場合には、図4に示すように、一方の型に凹部が形成される。この場合、図5に示すように、凹部の溶融樹脂の進行方向の終縁には、溶融樹脂が充填され難く、ガスが溜まり易い。そして、凹部の終縁に溜まったガスは、溶融樹脂の進行に伴い何れは凹部から押し出される。このとき、押し出されたガスが成形品の表面層を破壊して、図6に示すように、銀条(シルバーストリーク)が発生する虞がある。
【0005】
このようにして発生する銀条は、毎回異なる個所に発生し、発生箇所が一定に定まらない。従って、成形品に銀条が発生していないかを広範囲に渡って注意深く確認する必要があり、面倒である。また、発生した銀条は、そのままでは成形品の外観が損なわれるため、塗装する等して成形品の外観を整える必要があるが、塗装しても銀条の跡が残る場合もある。
【0006】
本発明は、以上の点に鑑み、銀条を防止する射出成形金型及びその成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明は、型締めされる2つの型の間で画成されるキャビティに溶融樹脂を流して固化させることにより成形品を得る射出成形金型において、前記2つの型の一方には、前記成形品の突部を形成する凹部が設けられ、前記凹部の前記溶融樹脂の進行方向の終縁に、前記凹部の幅よりも狭い所定の幅の溝部を形成し、該所定の幅は、該溝部内に流入した溶融樹脂が前記凹部に侵入した溶融樹脂よりも早く冷却されるように設定されることを特徴とする。
【0008】
また、本発明の成形品は、上記射出成形金型により成形されるものであって、前記凹部によって形成される突部と、前記溝部によって、前記突部の溶融樹脂の進行方向の終縁に形成される突片とを備えることを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、従来、凹部の終縁に溜まっていたガスは溝部内に流入する。溝部は凹部よりも幅が狭く形成されているため、溝部に流入した溶融樹脂が他の部分よりも早く冷却され固化する。このため、溝部内に流入したガスは、溝部内に流入した溶融樹脂の固化によって溝部内に閉じ込められる。従って、その後、溝部内のガスが溶融樹脂の流動によって溝部外に飛び出すことを防止し、銀条の発生を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】(a)は本発明の射出成形金型の実施形態を模式的に示す断面図。(b)は本実施形態の固定型の一部を模式的に示す斜視図。
【図2】本実施形態の射出成形金型のキャビティ内に溶融樹脂が充填されていく状態を模式的に示す説明図。
【図3】本実施形態の射出成形金型で成形された成形品の一部を模式的に示す斜視図。
【図4】(a)は参考例の射出成形金型を模式的に示す断面図。(b)は参考例の射出成形金型の固定型の一部を模式的に示す斜視図。
【図5】参考例の射出成形金型のキャビティ内に溶融樹脂が充填されていく状態を模式的に示す説明図。
【図6】参考例の射出成形金型で成形された成形品の一部を模式的に示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1に示すように、本発明の実施形態の射出成形金型1は、下方に位置する固定型2と、固定型2の上方に配置されるとともに、図示省略した昇降装置で昇降される可動型3とを備える。固定型2には、下方に凹み、溶融樹脂の進行方向に沿って延びる凹部4が形成されている。また、凹部4の溶融樹脂の進行方向の終縁には、凹部4よりも幅の狭い所定の幅に設定された溝部5が形成されている。
【0012】
この溝部5は、例えば、幅0.5mm、高さ(溶融樹脂の進行方向寸法)3mmに設定してもよい。可動型3を固定型2に向かって下降させて型締めしたときに、固定型2の上面2aと可動型3の下面3aとの間で画成される空間がキャビティ6となる。図1(a)においては、図面左側から溶融樹脂がキャビティ6に供給され、図面右側が負圧となっており、溶融樹脂はキャビティ6内を図面左側から図面右側に向かって進行する。
【0013】
図2を参照して、キャビティ6に溶融樹脂7を充填させていくと、凹部4における溶融樹脂7の進行方向の終縁には、ガス(空気)が溜まり易い。本実施形態の射出成型金型1においては、このガスが溜まり易い凹部4の終縁に、溝部5を形成している。このため、凹部4の終縁に溜まったガスは、溶融樹脂7の進行に伴い溝部5内に入り込む。
【0014】
溝部5は、その内部に入り込んだ溶融樹脂7が早期に冷却されるように設定された所定の幅に形成されている。このため、溝部5に入り込んだガスは、溝部5に入り込んだ溶融樹脂7が早期に冷却されて固化することにより溝部5内に封じ込まれる。これにより、凹部4の終縁に溜まったガスが、溶融樹脂7の進行に伴って飛び出すことによる銀条の発生を防止することができる。
【0015】
図3は、本実施形態の射出成形金型1により成形された成形品8を示している。成形品8は、固定型2の凹部4により形成される突部9と、溝部5に入り込んで早期に冷却・固化されることにより、突部9の溶融樹脂7の進行方向の終縁に形成された突片10とを備えている。
【0016】
次に、図4から図6を参照して、従来の射出成形金型1’及びこの金型1’で成形された成形品8’を参考例として説明する。図4に示すように、参考例の射出成形金型1’は、固定型2’が溝部を備えていない点を除き、上述した本発明の実施形態の射出成型金型1と同様に構成されている。
【0017】
図5に示すように、参考例の射出成型金型1’では、キャビティ6に溶融樹脂7を充填させていくと、成形品8’の突部9(図6参照)を形成するための凹部4における溶融樹脂7の進行方向の終縁には、溶融樹脂7が充填され難く、ガスが溜まり易い。凹部4の終縁に溜まったガスは、溶融樹脂7の進行に伴い、何れは凹部4から押し出される。このとき、図6に示すように、押し出されたガスが成形品8’の表面層を破壊して、成形品8’に銀条11(シルバーストリーク)が発生する虞がある。銀条11は、成形品8’の外観を損ねるため、塗装等により補修する必要がある。また、銀条11は、成形品8’のどこに発生するか分からないため、成形品8’に銀条11が発生していないかを広範囲に渡って注意深く確認する必要がある。
【符号の説明】
【0018】
1…射出成形金型、2…固定型、3…可動型、4…凹部、5…溝部、6…キャビティ、7…溶融樹脂、8…成形品、9…突部、10…突片、11…銀条(シルバーストリーク)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
型締めされる2つの型の間で画成されるキャビティに溶融樹脂を流して固化させることにより成形品を得る射出成形金型において、
前記2つの型の一方には、前記成形品の突部を形成する凹部が設けられ、
前記凹部の前記溶融樹脂の進行方向の終縁に、前記凹部の幅よりも狭い所定の幅の溝部を形成し、
該所定の幅は、該溝部内に流入した溶融樹脂が前記凹部に侵入した溶融樹脂よりも早く冷却されるように設定されることを特徴とする射出成形金型。
【請求項2】
請求項1記載の射出成形金型により成形される成形品であって、
前記凹部によって形成される突部と、
前記溝部によって、前記突部の溶融樹脂の進行方向の終縁に形成される突片とを備えることを特徴とする成形品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−18248(P2013−18248A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−155317(P2011−155317)
【出願日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】