導波路
【課題】 簡易な構成で、電波を3次元的に閉じ込めることが可能な導波路を提供する。
【解決手段】 第1の誘電体により、誘電体層2を構成する。また、誘電体層2中の所定の欠陥領域(導波路領域4)を取り囲むようにして、第1の誘電体の誘電率よりも高い誘電率を有する第2の誘電体により、複数の高誘電体柱3を周期的に配列する。さらに、誘電体層2の上下に、一対の導体層5A,5Bを設ける。所定の波長領域の電波W1に対して、誘電体層2の延在方向のみならず、この延在方向と直交する上下方向においても閉じ込めることができる。2次元フォトニック結晶を用い、伝播される波が電波(電波W1)の場合であっても、その波を3次元的に閉じ込めることができ、導波路領域4を選択的に伝播させることが可能な導波路を得る。
【解決手段】 第1の誘電体により、誘電体層2を構成する。また、誘電体層2中の所定の欠陥領域(導波路領域4)を取り囲むようにして、第1の誘電体の誘電率よりも高い誘電率を有する第2の誘電体により、複数の高誘電体柱3を周期的に配列する。さらに、誘電体層2の上下に、一対の導体層5A,5Bを設ける。所定の波長領域の電波W1に対して、誘電体層2の延在方向のみならず、この延在方向と直交する上下方向においても閉じ込めることができる。2次元フォトニック結晶を用い、伝播される波が電波(電波W1)の場合であっても、その波を3次元的に閉じ込めることができ、導波路領域4を選択的に伝播させることが可能な導波路を得る。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、簡易な構成で電波の閉じ込めおよび伝播が可能な導波路に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、所定の周期的構造を有するフォトニック結晶の研究が盛んに行われている。これらの中で、現在主に研究されているのは、このフォトニック結晶を光導波路として応用しようとするものである。
【0003】
これは、伝播させる光の波長に対してフォトニックバンドギャップを有するフォトニック結晶中に所定の線欠陥構造を設け、フォトニック結晶による波の閉じ込め効果を利用することにより、この所定の線欠陥構造の部分を光導波路として用いるものである。
【0004】
例えば、特許文献1および特許文献2には、高屈折率材料中に円柱孔を周期的に配列してフォトニック結晶を構成すると共に、その中に所定の線欠陥構造を設けるようにした光導波路が開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開2001−281480号公報
【特許文献2】特開2001−272555号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記のようなフォトニック結晶による波の閉じ込め効果のみにより、伝播される波を閉じ込めるには、3次元周期を有するフォトニック結晶(3次元フォトニック結晶)が必要となる。2次元周期を有するフォトニック結晶(2次元フォトニック結晶)の場合、その2次元の周期的構造と直交する方向(例えば、上下方向)に無限遠の構造を形成しなければならず、現実的にはその方向には波を閉じ込めることができないからである。
【0007】
しかしながら、このような3次元フォトニック結晶を作製するには、上記のように3次元の周期的構造を形成する必要があるため、製造するのが非常に困難であった。したがって、このような3次元フォトニック結晶を用いた光導波路は、実用的なものではなかった。
【0008】
ここで、伝播される波が光の場合には、上記特許文献1および特許文献2に記載のスラブ導波路のように、上記高屈折率材料よりも低屈折率の材料からなるクラッド層を2次元フォトニック結晶の上下方向に設け、伝播される光を全反射させることで、その方向へも光を閉じ込めることが可能である。したがって、このような構成をとれば、3次元フォトニック結晶の代わりに2次元フォトニック結晶を用い、簡易に光導波路を製造できる可能性がある。
【0009】
しかしながら、上記特許文献1および特許文献2に記載されているようなスラブ導波路の場合、フォトニック結晶の上下方向(厚み方向)が、無限の長さではなく有限の長さにより構成されているため、理想的な2次元フォトニック結晶により導波路を構成した場合と比べ、フォトニックバンドギャップの幅が狭くなってしまうという問題があった。
【0010】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、簡易な構成で、電波を3次元的に閉じ込めることが可能な導波路を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の導波路は、互いに対向する一対の面を有し、第1の誘電体からなる誘電体層と、この誘電体層中の所定の欠陥領域を取り囲むようにして周期的に配列され、上記第1の誘電体の誘電率よりも高い誘電率を有する第2の誘電体からなる複数の高誘電体柱と、誘電体層の一対の面にそれぞれ配設された一対の導体層とを備えたものである。
【0012】
ここで、「所定の欠陥領域を取り囲むようにして」とは、この所定の欠陥領域には周期的に配列されていないことを意味し、また、この欠陥領域の形状は、導波路として機能する限り任意の形状に形成することが可能である。また、周期的に配列とは、誘電体層の延在方向に周期的に配列していることを意味する。また、高誘電体柱とは、それらの形状が柱状になっていることを意味し、柱状とは、文字通りの柱の形状には限定されず、誘電体層の延在方向と直交する方向に長軸を有する形状を意味するものである。また、導体層とは、板状の形態のものも含む意味である。
【0013】
本発明の導波路では、第1の誘電体からなる誘電体層中に、第2の誘電体からなる複数の高誘電体柱が周期的に配列されていることで、2次元フォトニック結晶が構成され、所定の波長領域にバンドギャップを有するフォトニックバンドギャップが形成される。また、この周期的配列の中に、高誘電体柱に取り囲まれた所定の欠陥領域が形成されていることで、上記所定の波長領域の電波は、誘電体層の延在方向において、この領域に閉じ込められる。さらに、誘電体層の一対の面に一対の導体層が配設されていることで、上記所定の波長領域の電波が、誘電体層の延在方向と直交する方向においても、閉じ込められる。すなわち、この所定の波長領域の電波は、一対の導体層間に形成された欠陥領域内に3次元的に閉じ込められて、ここを選択的に伝播する。
【0014】
本発明の導波路では、上記誘電体層中の所定の欠陥領域を取り囲むようにして周期的に配列され、上記第1の誘電体の誘電率よりも低い誘電率を有する第3の誘電体からなる複数の低誘電体柱をさらに備えるように構成することが好ましい。このように構成した場合、誘電体層中の所定の欠陥領域を取り囲む領域において、低誘電体柱の存在により誘電体層の平均誘電率が小さくなるため、高誘電体柱をなす第2の誘電体の誘電率と、誘電体層の平均誘電率との差がより大きくなり、上記フォトニックバンドギャップの幅が、より広がる。この場合において、上記低誘電体柱は、空気からなる空気柱であることがより好ましい。なお、低誘電体柱とは、上記の「高誘電体柱」と同様、それらの形状が柱状になっていることを意味する。
【0015】
本発明の導波路では、上記高誘電体柱の周期的配列の外縁に沿って配列された導体柱をさらに備えるように構成することが可能である。このように構成した場合、フォトニック結晶の効果により上記所定の波長領域の電波に対して十分な減衰を施すことができないような場合でも、この導体柱を導体壁として機能させることができるので、その電波を十分に閉じ込めることができる。ここで、導体柱とは、その形状の内部が全て導電性材料で充填されているものには限定されず、少なくともその形状の表面が導電性材料で構成されているものを意味する。
【発明の効果】
【0016】
本発明の導波路によれば、誘電体層中に、所定の欠陥領域を取り囲むようにして2次元フォトニック結晶を構成すると共に、誘電体層の一対の面に一対の導体層を配設するようにしたので、所定の波長領域の電波を、所定の欠陥領域内に3次元的に閉じ込めることができる。よって、伝播される波が電波の場合であってもその波を3次元的に閉じ込めることができ、上記所定の欠陥領域を選択的に伝播させることが可能な導波路を簡易に得ることが可能となる。
【0017】
特に、複数の低誘電体柱をさらに設けるようにした場合には、フォトニックバンドギャップの幅をより広げ、上記所定の波長領域をより広げることが可能となる。
【0018】
また特に、高誘電体柱の周期的配列の外縁に沿って複数の導体柱をさらに設けるようにした場合には、所定の波長領域の電波を閉じ込める作用が強化されるので、導波路における放射損失をより減少させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための最良の形態(以下、単に実施の形態という。)について、図面を参照して詳細に説明する。
【0020】
図1は、本発明の一実施の形態に係る導波路(2次元フォトニック結晶導波路1)の構成を斜視図で表したものである。この2次元フォトニック結晶導波路1は、誘電体層2と、この誘電体層2中に所定の欠陥領域(導波路領域4)を取り囲むようにして周期的に配列された複数の高誘電体柱3と、誘電体層2の上下に形成された一対の導体層5A,5Bとを備えており、後述する所定の波長領域の電波(例えば、図1中の電波W1)に対して、導波路領域4のみを選択的に伝播させるものである。なお、この導波路領域4の形状は、このフォトニック結晶導波路1が導波路として機能する限り、任意の形状に形成することが可能である。
【0021】
誘電体層2は、第1の誘電体により構成されている。
【0022】
高誘電体柱3は、上記のように誘電体層2中の導波路領域4を取り囲むようにして周期的に配列されたものであり、誘電体層2をなす第1の誘電体よりも高い誘電率を有する第2の誘電体により構成されている。この第2の誘電体としては、第1の誘電体との誘電率差がより大きいものが好ましい。後述するフォトニックバンドギャップが広がり、この2次元フォトニック結晶導波路1をより広い波長領域の電波に適用することが可能となるからである。また、この高誘電体柱3の周期的配列としては、図2および図3に、導体層5A,5Bを除いた部分の上視図で示したように、例えば三角格子状配列(図2)や正方格子状配列(図3)のものが挙げられるが、これら以外の配列であっても、誘電体層2の延在方向に周期的に配列されていればよい。なお、この高誘電体柱3は、図1〜図3に示したような円柱状のものには限られず、導体層5A,5Bと直交する方向に長軸を有する形状のものであればよい。
【0023】
なお、この2次元フォトニック結晶導波路1の具体例として、例えば、誘電体層2を構成する第1の誘電体の誘電率=6、高誘電体柱3を構成する第2の誘電体の誘電率=74、高誘電体柱3の直径d1=0.72mm、高誘電体柱3における周期的配列の周期d2=1.8682mm、導波路領域4の幅d3=8.28mmとしたもの(図2,図3)が挙げられる。
【0024】
次に、このような構成からなる誘電体層2および高誘電体柱3の作用について説明する。
【0025】
この2次元フォトニック結晶導波路1では、誘電体層2および高誘電体柱3がこのような構成となっていることで、2次元フォトニック結晶が構成され、所定の波長領域(例えば、図1中の電波W1)にバンドギャップを有するフォトニックバンドギャップが形成される。したがって、高誘電体柱3が周期的に配列されている領域では、このバンドギャップ間の波長を有する電波W1は存在することができず、言い換えれば、この所定の波長領域の電波W1は、高誘電体柱3が周期的に配列されている領域を伝播することができない。
【0026】
一方、この周期的配列の中において、高誘電体柱3が周期的に配列されていない導波路領域4では、フォトニックバンドギャップが形成されていないことから、存在することができる電波の波長領域は限定されず、所定の波長領域の電波W1も、この導波路領域4を伝播することができる。よって、この所定の波長領域の電波W1は、誘電体層2の延在方向において、導波路領域4に閉じ込められる。
【0027】
ただし、この2次元フォトニック結晶導波路1では、高誘電体柱3の周期構造は2次元配列(誘電体層2の延在方向)であるので、上記のようなフォトニックバンドギャップによる効果だけでは、上下方向については、所定の波長領域の電波W1を閉じ込めることができない。このような2次元フォトニック結晶の効果だけで閉じ込めるには、誘電体層2および高誘電体柱3からなる構造を、上下方向に無限遠まで形成しなければならず、現実的にはその方向には電波W1を閉じ込めることはできないからである。そこで、本実施の形態の2次元フォトニック結晶導波路1では、図4(図2に示した2次元フォトニック結晶導波路1おけるA−A部分の矢視断面図)に示したように、誘電体層2の上下に、一対の導体層5A,5Bを設けている。
【0028】
これら一対の導体層5A,5Bは、上記のように、所定の波長領域の電波W1を上下方向について閉じ込めるためのものであり、例えば銀ペーストなどの金属材料により構成されるが、このような金属材料には限られず、導電性を有する材料であればよい。
【0029】
ここで、上記のようにフォトニックバンドギャップの効果により、誘電体層2の延在方向において導波路領域4に閉じ込められた所定の波長領域の電波W1では、例えば図5に斜視図で示したように、その磁界ベクトルMが誘電体層2の延在方向をなす一方、その電界ベクトルEは、上下方向、つまり高誘電体柱3との平行方向をなす(いわゆるTMモード)ようになっている。
【0030】
このように、TMモードの伝送モードにおいては、電界ベクトルEが高誘電体柱3との平行方向をなすことから、マクスウェル方程式の境界条件により、例えば図6に断面図で示したように、電界ベクトルEは、一対の導体層5A,5Bに対して必ず垂直入射することとなる。よって、前述のように誘電体層2および高誘電体柱3からなる構造を上下方向に無限遠まで形成する代わりに、このような一対の導体層5A,5Bを設けることで、所定の波長領域の電波W1を、誘電体層2の延在方向と直交する上下方向においても、有限長で閉じ込めることができる。
【0031】
なお、これら一対の導体層5A,5Bの間隔は、任意の値に設定することができ、例えば、従来のフォトニック結晶を用いた導波路よりも薄型の導波路を構成することも可能である。また、図6に示したように、この電界ベクトルEは、導波路領域4に沿った真ん中の領域から端の領域にいくにつれて、徐々にその大きさが減衰していくようになっている。
【0032】
次に、このような構成からなる2次元フォトニック結晶導波路1の特性について説明する。
【0033】
図7は、2次元フォトニック結晶導波路1の通過特性の一例を表したものであり、この2次元フォトニック結晶導波路1の構成を、前述のように、誘電体層2を構成する第1の誘電体の誘電率=6、高誘電体柱3を構成する第2の誘電体の誘電率=74、高誘電体柱3の直径d1=0.72mm、高誘電体柱3における周期的配列の周期d2=1.8682mm、導波路領域4の幅d3=8.28mmとした場合の通過特性である。図7において、横軸は、この導波路に適用する電波(例えば、電波W1)の周波数を、縦軸は、その電波の反射率および透過率を示している。また、図7中の符号S11,S21で示したのは、それぞれこの導波路の反射特性(すなわちSパラメータのS11特性)、および通過特性(すなわちSパラメータのS21特性)を示したものである。このように、この2次元フォトニック結晶導波路1では、約29GHz程度までの周波数の電波W1に対して、低損失特性を実現できることが分かる。
【0034】
次に、このような構成からなる2次元フォトニック結晶導波路1の製造方法の一例について説明する。
【0035】
まず、例えばセラミックグリーンシートを所定の層数で積層し、誘電体層2を形成する。その際、下から数層目に該当するセラミックグリーンシートの上面に、導体層5Bを形成するため、例えば銀ペーストなどからなる導電ペーストを印刷しておくようにする。なお、このようにして導体層5Bだけを予め形成しておくのは、一対の導体層5A,5Bのうちの下層であるこの導体層5Bを、後の工程において、セラミックグリーンシートを反転させながら形成するようにするのが困難だからである。
【0036】
次いで、例えば機械的加工やレーザ加工などにより、導波路領域4となる領域を取り囲むようにして、周期的な配列で複数のスルーホールを形成する。そしてこれら複数のスルーホールに対して、前述した第2の誘電体からなる誘電体ペーストを充填し、高誘電体柱3を形成する。
【0037】
次いで、積層されたセラミックグリーンシートの最上面に、導体層5Aを形成するため、やはり例えば銀ペーストなどからなる導電ペーストを印刷する。そして最後にこれらを焼成することにより、図1に示した構成の2次元フォトニック結晶導波路1が完成する。
【0038】
この2次元フォトニック結晶導波路1では、第1の誘電体からなる誘電体層2中に、この第1の誘電体の誘電率よりも高い誘電率を有する第2の誘電体からなる高誘電体柱3が周期的に配列されていることで、2次元フォトニック結晶が構成され、所定の波長領域(例えば、図1中の電波W1)にバンドギャップを有するフォトニックバンドギャップが形成される。したがって、高誘電体柱3が周期的に配列されている領域では、このバンドギャップ間の波長を有する電波W1は、高誘電体柱3が周期的に配列されている領域を伝播することができない。また、この周期的配列の中において、高誘電体柱3が周期的に配列されていない導波路領域4では、フォトニックバンドギャップが形成されていないことから、存在することができる電波の波長領域は限定されず、所定の波長領域の電波W1も、この導波路領域4を伝播することができる。よって、この所定の波長領域の電波W1は、誘電体層2の延在方向において、導波路領域4に閉じ込められる。
【0039】
ここで、誘電体層2の上下に、一対の導体層5A,5Bが設けられていることで、導波路領域4における所定の波長領域の電波W1(TMモード)の電界ベクトルEが、これら一対の導体層5A,5Bに対して垂直入射し、所定の波長領域の電波W1が、誘電体層2の延在方向と直交する上下方向においても閉じ込められる。すなわち、この所定の波長領域の電波W1は、導波路領域4内に3次元的に閉じ込められて、ここを選択的に伝播する。
【0040】
以上のように、本実施の形態では、誘電体層2中に、所定の欠陥領域(導波路領域4)を取り囲むようにして2次元フォトニック結晶を構成すると共に、誘電体層2の上下に、一対の導体層5A,5Bを設けるようにしたので、所定の波長領域の電波(例えば、電波W1)に対しては、誘電体層2の延在方向のみならず、この延在方向と直交する上下方向においても閉じ込めることができる。よって、2次元フォトニック結晶を用い、伝播される波が電波(電波W1)の場合であってもその波を3次元的に閉じ込めることができ、導波路領域4を選択的に伝播させることが可能な導波路を得ることが可能となる。
【0041】
また、この2次元フォトニック結晶導波路1は、従来の2次元に周期的に配列されたフォトニック結晶に対して、上下に一対の導体層5A,5Bを設けるだけでよいので、特に従来のものと比べて製造工程を複雑化させることなく、簡易に形成することが可能である。
【0042】
以上、実施の形態を挙げて本発明を説明したが、本発明はこの実施の形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。
【0043】
例えば、本発明の2次元フォトニック結晶導波路では、例えば図8に示したように、誘電体層2中において導波路領域4を取り囲む領域、すなわち高誘電体柱3が周期的に配列されている領域に、誘電体層2をなす第1の誘電体の誘電率よりも低い誘電率を有する第3の誘電体によって、周期的に配列された複数の低誘電体柱6をさらに設けるように構成してもよい。この場合、この低誘電体柱6は、誘電率が最も低い(誘電率=1)空気からなる空気柱であることが好ましい。このように構成した場合、上記実施の形態における効果に加え、誘電体層2中の導波路領域4を取り囲む領域において、低誘電体柱6の存在により誘電体層2の平均誘電率が小さくなるため、高誘電体柱3をなす第2の誘電体の誘電率と、誘電体層2の平均誘電率との差がより大きくなることから、フォトニックバンドギャップの幅をより広げ、この導波路に適用することが可能な電波の波長領域をより広げることが可能となる。なお、この低誘電体柱6は、図8に示したような三角格子状配列のものには限定されず、正方格子状配列のものや、その他の誘電体層2の延在方向に周期的配列のものでもよい。さらに、この低誘電体柱6は、図8に示したような円柱状のものには限られず、高誘電体柱3と同様に、導体層5A,5Bと直交する方向に長軸を有する形状のものであればよい。
【0044】
また、本発明の2次元フォトニック結晶導波路では、例えば図9に示したように、誘電体層2中における高誘電体柱3の周期的配列の外縁に沿って、例えば銀ペーストなどの金属材料を含む導電性材料からなる複数の導体柱7をさらに設けるように構成してもよい。なお、導体柱7同士の間隔gは、導体柱7の直径d4以下となるように設定される。このように構成した場合、フォトニック結晶の効果により所定の波長領域の電波に対して十分な減衰を施すことができないような場合でも、この導体柱7を導体壁とすることでその電波を閉じ込める作用を強化することができ、導波路における放射損失をより減少させることが可能となる。なお、図9に示した例では、導体柱7の内部は全て導電性材料で充填されているが、このような場合には限定されず、少なくともその形状の表面を導電性材料により構成するようにすればよい。また、この導体柱7は、図9に示したような円柱状のものには限られず、高誘電体柱3や低誘電体柱6と同様に、導体層5A,5Bと直交する方向に長軸を有する形状のものであればよい。
【0045】
また、上記実施の形態において説明した各構成要素の材料、厚みおよび長さなどは限定されるものではなく、他の材料、厚みおよび長さとしてもよく、また他の成膜方法および成膜条件としてもよい。
【0046】
さらに、上記実施の形態では、2次元フォトニック結晶導波路の構成を具体的に挙げて説明したが、全ての構成要素または全ての層を備える必要はなく、また、他の構成要素または他の層を備えていてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の一実施の形態に係る導波路の構成を表す斜視図である。
【図2】導波路の構成を表す上視図である。
【図3】導波路の他の構成例を表す上視図である。
【図4】導波路の構成を表す断面図である。
【図5】電界ベクトルおよび磁界ベクトルの方向を説明するための斜視図である。
【図6】電界ベクトルの方向を説明するための断面図である。
【図7】導波路の通過特性の一例を表す特性図である。
【図8】導波路の他の構成例を表す上視図である。
【図9】導波路の他の構成例を表す上視図である。
【符号の説明】
【0048】
1…2次元フォトニック結晶導波路、2…誘電体層、3…高誘電体柱、4…導波路領域、5A,5B…導体層、6…低誘電体柱、7…導体柱、W1…電波、E…電界ベクトル、M…磁界ベクトル。
【技術分野】
【0001】
本発明は、簡易な構成で電波の閉じ込めおよび伝播が可能な導波路に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、所定の周期的構造を有するフォトニック結晶の研究が盛んに行われている。これらの中で、現在主に研究されているのは、このフォトニック結晶を光導波路として応用しようとするものである。
【0003】
これは、伝播させる光の波長に対してフォトニックバンドギャップを有するフォトニック結晶中に所定の線欠陥構造を設け、フォトニック結晶による波の閉じ込め効果を利用することにより、この所定の線欠陥構造の部分を光導波路として用いるものである。
【0004】
例えば、特許文献1および特許文献2には、高屈折率材料中に円柱孔を周期的に配列してフォトニック結晶を構成すると共に、その中に所定の線欠陥構造を設けるようにした光導波路が開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開2001−281480号公報
【特許文献2】特開2001−272555号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記のようなフォトニック結晶による波の閉じ込め効果のみにより、伝播される波を閉じ込めるには、3次元周期を有するフォトニック結晶(3次元フォトニック結晶)が必要となる。2次元周期を有するフォトニック結晶(2次元フォトニック結晶)の場合、その2次元の周期的構造と直交する方向(例えば、上下方向)に無限遠の構造を形成しなければならず、現実的にはその方向には波を閉じ込めることができないからである。
【0007】
しかしながら、このような3次元フォトニック結晶を作製するには、上記のように3次元の周期的構造を形成する必要があるため、製造するのが非常に困難であった。したがって、このような3次元フォトニック結晶を用いた光導波路は、実用的なものではなかった。
【0008】
ここで、伝播される波が光の場合には、上記特許文献1および特許文献2に記載のスラブ導波路のように、上記高屈折率材料よりも低屈折率の材料からなるクラッド層を2次元フォトニック結晶の上下方向に設け、伝播される光を全反射させることで、その方向へも光を閉じ込めることが可能である。したがって、このような構成をとれば、3次元フォトニック結晶の代わりに2次元フォトニック結晶を用い、簡易に光導波路を製造できる可能性がある。
【0009】
しかしながら、上記特許文献1および特許文献2に記載されているようなスラブ導波路の場合、フォトニック結晶の上下方向(厚み方向)が、無限の長さではなく有限の長さにより構成されているため、理想的な2次元フォトニック結晶により導波路を構成した場合と比べ、フォトニックバンドギャップの幅が狭くなってしまうという問題があった。
【0010】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、簡易な構成で、電波を3次元的に閉じ込めることが可能な導波路を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の導波路は、互いに対向する一対の面を有し、第1の誘電体からなる誘電体層と、この誘電体層中の所定の欠陥領域を取り囲むようにして周期的に配列され、上記第1の誘電体の誘電率よりも高い誘電率を有する第2の誘電体からなる複数の高誘電体柱と、誘電体層の一対の面にそれぞれ配設された一対の導体層とを備えたものである。
【0012】
ここで、「所定の欠陥領域を取り囲むようにして」とは、この所定の欠陥領域には周期的に配列されていないことを意味し、また、この欠陥領域の形状は、導波路として機能する限り任意の形状に形成することが可能である。また、周期的に配列とは、誘電体層の延在方向に周期的に配列していることを意味する。また、高誘電体柱とは、それらの形状が柱状になっていることを意味し、柱状とは、文字通りの柱の形状には限定されず、誘電体層の延在方向と直交する方向に長軸を有する形状を意味するものである。また、導体層とは、板状の形態のものも含む意味である。
【0013】
本発明の導波路では、第1の誘電体からなる誘電体層中に、第2の誘電体からなる複数の高誘電体柱が周期的に配列されていることで、2次元フォトニック結晶が構成され、所定の波長領域にバンドギャップを有するフォトニックバンドギャップが形成される。また、この周期的配列の中に、高誘電体柱に取り囲まれた所定の欠陥領域が形成されていることで、上記所定の波長領域の電波は、誘電体層の延在方向において、この領域に閉じ込められる。さらに、誘電体層の一対の面に一対の導体層が配設されていることで、上記所定の波長領域の電波が、誘電体層の延在方向と直交する方向においても、閉じ込められる。すなわち、この所定の波長領域の電波は、一対の導体層間に形成された欠陥領域内に3次元的に閉じ込められて、ここを選択的に伝播する。
【0014】
本発明の導波路では、上記誘電体層中の所定の欠陥領域を取り囲むようにして周期的に配列され、上記第1の誘電体の誘電率よりも低い誘電率を有する第3の誘電体からなる複数の低誘電体柱をさらに備えるように構成することが好ましい。このように構成した場合、誘電体層中の所定の欠陥領域を取り囲む領域において、低誘電体柱の存在により誘電体層の平均誘電率が小さくなるため、高誘電体柱をなす第2の誘電体の誘電率と、誘電体層の平均誘電率との差がより大きくなり、上記フォトニックバンドギャップの幅が、より広がる。この場合において、上記低誘電体柱は、空気からなる空気柱であることがより好ましい。なお、低誘電体柱とは、上記の「高誘電体柱」と同様、それらの形状が柱状になっていることを意味する。
【0015】
本発明の導波路では、上記高誘電体柱の周期的配列の外縁に沿って配列された導体柱をさらに備えるように構成することが可能である。このように構成した場合、フォトニック結晶の効果により上記所定の波長領域の電波に対して十分な減衰を施すことができないような場合でも、この導体柱を導体壁として機能させることができるので、その電波を十分に閉じ込めることができる。ここで、導体柱とは、その形状の内部が全て導電性材料で充填されているものには限定されず、少なくともその形状の表面が導電性材料で構成されているものを意味する。
【発明の効果】
【0016】
本発明の導波路によれば、誘電体層中に、所定の欠陥領域を取り囲むようにして2次元フォトニック結晶を構成すると共に、誘電体層の一対の面に一対の導体層を配設するようにしたので、所定の波長領域の電波を、所定の欠陥領域内に3次元的に閉じ込めることができる。よって、伝播される波が電波の場合であってもその波を3次元的に閉じ込めることができ、上記所定の欠陥領域を選択的に伝播させることが可能な導波路を簡易に得ることが可能となる。
【0017】
特に、複数の低誘電体柱をさらに設けるようにした場合には、フォトニックバンドギャップの幅をより広げ、上記所定の波長領域をより広げることが可能となる。
【0018】
また特に、高誘電体柱の周期的配列の外縁に沿って複数の導体柱をさらに設けるようにした場合には、所定の波長領域の電波を閉じ込める作用が強化されるので、導波路における放射損失をより減少させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための最良の形態(以下、単に実施の形態という。)について、図面を参照して詳細に説明する。
【0020】
図1は、本発明の一実施の形態に係る導波路(2次元フォトニック結晶導波路1)の構成を斜視図で表したものである。この2次元フォトニック結晶導波路1は、誘電体層2と、この誘電体層2中に所定の欠陥領域(導波路領域4)を取り囲むようにして周期的に配列された複数の高誘電体柱3と、誘電体層2の上下に形成された一対の導体層5A,5Bとを備えており、後述する所定の波長領域の電波(例えば、図1中の電波W1)に対して、導波路領域4のみを選択的に伝播させるものである。なお、この導波路領域4の形状は、このフォトニック結晶導波路1が導波路として機能する限り、任意の形状に形成することが可能である。
【0021】
誘電体層2は、第1の誘電体により構成されている。
【0022】
高誘電体柱3は、上記のように誘電体層2中の導波路領域4を取り囲むようにして周期的に配列されたものであり、誘電体層2をなす第1の誘電体よりも高い誘電率を有する第2の誘電体により構成されている。この第2の誘電体としては、第1の誘電体との誘電率差がより大きいものが好ましい。後述するフォトニックバンドギャップが広がり、この2次元フォトニック結晶導波路1をより広い波長領域の電波に適用することが可能となるからである。また、この高誘電体柱3の周期的配列としては、図2および図3に、導体層5A,5Bを除いた部分の上視図で示したように、例えば三角格子状配列(図2)や正方格子状配列(図3)のものが挙げられるが、これら以外の配列であっても、誘電体層2の延在方向に周期的に配列されていればよい。なお、この高誘電体柱3は、図1〜図3に示したような円柱状のものには限られず、導体層5A,5Bと直交する方向に長軸を有する形状のものであればよい。
【0023】
なお、この2次元フォトニック結晶導波路1の具体例として、例えば、誘電体層2を構成する第1の誘電体の誘電率=6、高誘電体柱3を構成する第2の誘電体の誘電率=74、高誘電体柱3の直径d1=0.72mm、高誘電体柱3における周期的配列の周期d2=1.8682mm、導波路領域4の幅d3=8.28mmとしたもの(図2,図3)が挙げられる。
【0024】
次に、このような構成からなる誘電体層2および高誘電体柱3の作用について説明する。
【0025】
この2次元フォトニック結晶導波路1では、誘電体層2および高誘電体柱3がこのような構成となっていることで、2次元フォトニック結晶が構成され、所定の波長領域(例えば、図1中の電波W1)にバンドギャップを有するフォトニックバンドギャップが形成される。したがって、高誘電体柱3が周期的に配列されている領域では、このバンドギャップ間の波長を有する電波W1は存在することができず、言い換えれば、この所定の波長領域の電波W1は、高誘電体柱3が周期的に配列されている領域を伝播することができない。
【0026】
一方、この周期的配列の中において、高誘電体柱3が周期的に配列されていない導波路領域4では、フォトニックバンドギャップが形成されていないことから、存在することができる電波の波長領域は限定されず、所定の波長領域の電波W1も、この導波路領域4を伝播することができる。よって、この所定の波長領域の電波W1は、誘電体層2の延在方向において、導波路領域4に閉じ込められる。
【0027】
ただし、この2次元フォトニック結晶導波路1では、高誘電体柱3の周期構造は2次元配列(誘電体層2の延在方向)であるので、上記のようなフォトニックバンドギャップによる効果だけでは、上下方向については、所定の波長領域の電波W1を閉じ込めることができない。このような2次元フォトニック結晶の効果だけで閉じ込めるには、誘電体層2および高誘電体柱3からなる構造を、上下方向に無限遠まで形成しなければならず、現実的にはその方向には電波W1を閉じ込めることはできないからである。そこで、本実施の形態の2次元フォトニック結晶導波路1では、図4(図2に示した2次元フォトニック結晶導波路1おけるA−A部分の矢視断面図)に示したように、誘電体層2の上下に、一対の導体層5A,5Bを設けている。
【0028】
これら一対の導体層5A,5Bは、上記のように、所定の波長領域の電波W1を上下方向について閉じ込めるためのものであり、例えば銀ペーストなどの金属材料により構成されるが、このような金属材料には限られず、導電性を有する材料であればよい。
【0029】
ここで、上記のようにフォトニックバンドギャップの効果により、誘電体層2の延在方向において導波路領域4に閉じ込められた所定の波長領域の電波W1では、例えば図5に斜視図で示したように、その磁界ベクトルMが誘電体層2の延在方向をなす一方、その電界ベクトルEは、上下方向、つまり高誘電体柱3との平行方向をなす(いわゆるTMモード)ようになっている。
【0030】
このように、TMモードの伝送モードにおいては、電界ベクトルEが高誘電体柱3との平行方向をなすことから、マクスウェル方程式の境界条件により、例えば図6に断面図で示したように、電界ベクトルEは、一対の導体層5A,5Bに対して必ず垂直入射することとなる。よって、前述のように誘電体層2および高誘電体柱3からなる構造を上下方向に無限遠まで形成する代わりに、このような一対の導体層5A,5Bを設けることで、所定の波長領域の電波W1を、誘電体層2の延在方向と直交する上下方向においても、有限長で閉じ込めることができる。
【0031】
なお、これら一対の導体層5A,5Bの間隔は、任意の値に設定することができ、例えば、従来のフォトニック結晶を用いた導波路よりも薄型の導波路を構成することも可能である。また、図6に示したように、この電界ベクトルEは、導波路領域4に沿った真ん中の領域から端の領域にいくにつれて、徐々にその大きさが減衰していくようになっている。
【0032】
次に、このような構成からなる2次元フォトニック結晶導波路1の特性について説明する。
【0033】
図7は、2次元フォトニック結晶導波路1の通過特性の一例を表したものであり、この2次元フォトニック結晶導波路1の構成を、前述のように、誘電体層2を構成する第1の誘電体の誘電率=6、高誘電体柱3を構成する第2の誘電体の誘電率=74、高誘電体柱3の直径d1=0.72mm、高誘電体柱3における周期的配列の周期d2=1.8682mm、導波路領域4の幅d3=8.28mmとした場合の通過特性である。図7において、横軸は、この導波路に適用する電波(例えば、電波W1)の周波数を、縦軸は、その電波の反射率および透過率を示している。また、図7中の符号S11,S21で示したのは、それぞれこの導波路の反射特性(すなわちSパラメータのS11特性)、および通過特性(すなわちSパラメータのS21特性)を示したものである。このように、この2次元フォトニック結晶導波路1では、約29GHz程度までの周波数の電波W1に対して、低損失特性を実現できることが分かる。
【0034】
次に、このような構成からなる2次元フォトニック結晶導波路1の製造方法の一例について説明する。
【0035】
まず、例えばセラミックグリーンシートを所定の層数で積層し、誘電体層2を形成する。その際、下から数層目に該当するセラミックグリーンシートの上面に、導体層5Bを形成するため、例えば銀ペーストなどからなる導電ペーストを印刷しておくようにする。なお、このようにして導体層5Bだけを予め形成しておくのは、一対の導体層5A,5Bのうちの下層であるこの導体層5Bを、後の工程において、セラミックグリーンシートを反転させながら形成するようにするのが困難だからである。
【0036】
次いで、例えば機械的加工やレーザ加工などにより、導波路領域4となる領域を取り囲むようにして、周期的な配列で複数のスルーホールを形成する。そしてこれら複数のスルーホールに対して、前述した第2の誘電体からなる誘電体ペーストを充填し、高誘電体柱3を形成する。
【0037】
次いで、積層されたセラミックグリーンシートの最上面に、導体層5Aを形成するため、やはり例えば銀ペーストなどからなる導電ペーストを印刷する。そして最後にこれらを焼成することにより、図1に示した構成の2次元フォトニック結晶導波路1が完成する。
【0038】
この2次元フォトニック結晶導波路1では、第1の誘電体からなる誘電体層2中に、この第1の誘電体の誘電率よりも高い誘電率を有する第2の誘電体からなる高誘電体柱3が周期的に配列されていることで、2次元フォトニック結晶が構成され、所定の波長領域(例えば、図1中の電波W1)にバンドギャップを有するフォトニックバンドギャップが形成される。したがって、高誘電体柱3が周期的に配列されている領域では、このバンドギャップ間の波長を有する電波W1は、高誘電体柱3が周期的に配列されている領域を伝播することができない。また、この周期的配列の中において、高誘電体柱3が周期的に配列されていない導波路領域4では、フォトニックバンドギャップが形成されていないことから、存在することができる電波の波長領域は限定されず、所定の波長領域の電波W1も、この導波路領域4を伝播することができる。よって、この所定の波長領域の電波W1は、誘電体層2の延在方向において、導波路領域4に閉じ込められる。
【0039】
ここで、誘電体層2の上下に、一対の導体層5A,5Bが設けられていることで、導波路領域4における所定の波長領域の電波W1(TMモード)の電界ベクトルEが、これら一対の導体層5A,5Bに対して垂直入射し、所定の波長領域の電波W1が、誘電体層2の延在方向と直交する上下方向においても閉じ込められる。すなわち、この所定の波長領域の電波W1は、導波路領域4内に3次元的に閉じ込められて、ここを選択的に伝播する。
【0040】
以上のように、本実施の形態では、誘電体層2中に、所定の欠陥領域(導波路領域4)を取り囲むようにして2次元フォトニック結晶を構成すると共に、誘電体層2の上下に、一対の導体層5A,5Bを設けるようにしたので、所定の波長領域の電波(例えば、電波W1)に対しては、誘電体層2の延在方向のみならず、この延在方向と直交する上下方向においても閉じ込めることができる。よって、2次元フォトニック結晶を用い、伝播される波が電波(電波W1)の場合であってもその波を3次元的に閉じ込めることができ、導波路領域4を選択的に伝播させることが可能な導波路を得ることが可能となる。
【0041】
また、この2次元フォトニック結晶導波路1は、従来の2次元に周期的に配列されたフォトニック結晶に対して、上下に一対の導体層5A,5Bを設けるだけでよいので、特に従来のものと比べて製造工程を複雑化させることなく、簡易に形成することが可能である。
【0042】
以上、実施の形態を挙げて本発明を説明したが、本発明はこの実施の形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。
【0043】
例えば、本発明の2次元フォトニック結晶導波路では、例えば図8に示したように、誘電体層2中において導波路領域4を取り囲む領域、すなわち高誘電体柱3が周期的に配列されている領域に、誘電体層2をなす第1の誘電体の誘電率よりも低い誘電率を有する第3の誘電体によって、周期的に配列された複数の低誘電体柱6をさらに設けるように構成してもよい。この場合、この低誘電体柱6は、誘電率が最も低い(誘電率=1)空気からなる空気柱であることが好ましい。このように構成した場合、上記実施の形態における効果に加え、誘電体層2中の導波路領域4を取り囲む領域において、低誘電体柱6の存在により誘電体層2の平均誘電率が小さくなるため、高誘電体柱3をなす第2の誘電体の誘電率と、誘電体層2の平均誘電率との差がより大きくなることから、フォトニックバンドギャップの幅をより広げ、この導波路に適用することが可能な電波の波長領域をより広げることが可能となる。なお、この低誘電体柱6は、図8に示したような三角格子状配列のものには限定されず、正方格子状配列のものや、その他の誘電体層2の延在方向に周期的配列のものでもよい。さらに、この低誘電体柱6は、図8に示したような円柱状のものには限られず、高誘電体柱3と同様に、導体層5A,5Bと直交する方向に長軸を有する形状のものであればよい。
【0044】
また、本発明の2次元フォトニック結晶導波路では、例えば図9に示したように、誘電体層2中における高誘電体柱3の周期的配列の外縁に沿って、例えば銀ペーストなどの金属材料を含む導電性材料からなる複数の導体柱7をさらに設けるように構成してもよい。なお、導体柱7同士の間隔gは、導体柱7の直径d4以下となるように設定される。このように構成した場合、フォトニック結晶の効果により所定の波長領域の電波に対して十分な減衰を施すことができないような場合でも、この導体柱7を導体壁とすることでその電波を閉じ込める作用を強化することができ、導波路における放射損失をより減少させることが可能となる。なお、図9に示した例では、導体柱7の内部は全て導電性材料で充填されているが、このような場合には限定されず、少なくともその形状の表面を導電性材料により構成するようにすればよい。また、この導体柱7は、図9に示したような円柱状のものには限られず、高誘電体柱3や低誘電体柱6と同様に、導体層5A,5Bと直交する方向に長軸を有する形状のものであればよい。
【0045】
また、上記実施の形態において説明した各構成要素の材料、厚みおよび長さなどは限定されるものではなく、他の材料、厚みおよび長さとしてもよく、また他の成膜方法および成膜条件としてもよい。
【0046】
さらに、上記実施の形態では、2次元フォトニック結晶導波路の構成を具体的に挙げて説明したが、全ての構成要素または全ての層を備える必要はなく、また、他の構成要素または他の層を備えていてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の一実施の形態に係る導波路の構成を表す斜視図である。
【図2】導波路の構成を表す上視図である。
【図3】導波路の他の構成例を表す上視図である。
【図4】導波路の構成を表す断面図である。
【図5】電界ベクトルおよび磁界ベクトルの方向を説明するための斜視図である。
【図6】電界ベクトルの方向を説明するための断面図である。
【図7】導波路の通過特性の一例を表す特性図である。
【図8】導波路の他の構成例を表す上視図である。
【図9】導波路の他の構成例を表す上視図である。
【符号の説明】
【0048】
1…2次元フォトニック結晶導波路、2…誘電体層、3…高誘電体柱、4…導波路領域、5A,5B…導体層、6…低誘電体柱、7…導体柱、W1…電波、E…電界ベクトル、M…磁界ベクトル。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに対向する一対の面を有し、第1の誘電体からなる誘電体層と、
前記誘電体層中の所定の欠陥領域を取り囲むようにして周期的に配列され、前記第1の誘電体の誘電率よりも高い誘電率を有する第2の誘電体からなる複数の高誘電体柱と、
前記誘電体層の一対の面にそれぞれ配設された一対の導体層と
を備えたことを特徴とする導波路。
【請求項2】
前記誘電体層中の所定の欠陥領域を取り囲むようにして周期的に配列され、前記第1の誘電体の誘電率よりも低い誘電率を有する第3の誘電体からなる複数の低誘電体柱をさらに備えた
ことを特徴とする請求項1に記載の導波路。
【請求項3】
前記低誘電体柱は、空気からなる空気柱である
ことを特徴とする請求項2に記載の導波路。
【請求項4】
前記高誘電体柱の周期的配列の外縁に沿って前記誘電体層中に配列された複数の導体柱をさらに備えた
ことを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の導波路。
【請求項1】
互いに対向する一対の面を有し、第1の誘電体からなる誘電体層と、
前記誘電体層中の所定の欠陥領域を取り囲むようにして周期的に配列され、前記第1の誘電体の誘電率よりも高い誘電率を有する第2の誘電体からなる複数の高誘電体柱と、
前記誘電体層の一対の面にそれぞれ配設された一対の導体層と
を備えたことを特徴とする導波路。
【請求項2】
前記誘電体層中の所定の欠陥領域を取り囲むようにして周期的に配列され、前記第1の誘電体の誘電率よりも低い誘電率を有する第3の誘電体からなる複数の低誘電体柱をさらに備えた
ことを特徴とする請求項1に記載の導波路。
【請求項3】
前記低誘電体柱は、空気からなる空気柱である
ことを特徴とする請求項2に記載の導波路。
【請求項4】
前記高誘電体柱の周期的配列の外縁に沿って前記誘電体層中に配列された複数の導体柱をさらに備えた
ことを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の導波路。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【公開番号】特開2006−178209(P2006−178209A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−371775(P2004−371775)
【出願日】平成16年12月22日(2004.12.22)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年12月22日(2004.12.22)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】
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