説明

導電ゴム組成物

【課題】未架橋の状態でも導電ゴム同士が張り付くことがないという加工性に優れた導電ゴム組成物を提供する。
【解決手段】ムーニ粘度MLが40以下のベースゴムに導電性付与剤を添加した導電ゴムにおいて、前記ベースゴムにエチレン−αオレフィン共重合体を、その合計100質量部に対して前記エチレン−αオレフィン共重合体が5〜40質量部となるように添加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コードスイッチ等の導電部材に用いる導電ゴム組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電磁波シールドや帯電防止、感圧スイッチの電極などに用いられる導電ゴムとして、ベースゴムにカーボン等の導電性付与剤を添加するタイプのものが使用されている。たとえば、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)に導電性付与剤としてカーボンを添加したもの(特許文献1)や、シリコーンゴムにカーボンを添加したもの(特許文献2)がある。導電ゴムは、カーボンを添加すると粘度が上昇して加工がし難くなるため、ベースゴムのムーニ粘度ML1+4(100℃)が40以下の低粘度のものが使用される。
【0003】
そして、導電ゴムを架橋する方法としては、硫黄架橋、過酸化物架橋、電子線照射架橋、などがある。この中で、硫黄架橋、過酸化物架橋は、熱をトリガーとして架橋させるため、シートなどを押出成形等する際は、架橋が進まない温度で押出等を行う必要がある。これに対して電子線照射架橋は、電子線を成形体に照射させて架橋させるため、高温で押出等の成形をしても押出機等の装置内で架橋が起こり成形不良になるようなことがなく、高温成形が可能という特長がある。
【0004】
特に、導電ゴムの体積抵抗を低くしたい場合、カーボン等の導電性付与剤を大量に添加する必要があり、高粘度で加工性が非常に悪くなる。そこで、高温で低粘度化して成形可能な電子線照射架橋は、低抵抗の導電ゴムを架橋する方法として有効となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−126439号公報
【特許文献2】特開平10−30059号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、電子線照射架橋の場合、金型成形や押出成形等した後に、別工程で電子線照射架橋を行う場合が多い。これは、電子線照射装置が非常に高価であり、成形工程の中に組み込むことが難しいためである。このため、未架橋のシート等の成形体を次工程の電子線架橋工程に移動する場合、取り扱いの観点から、成形体同士を重ね合わせたり、ボビンに何重にも巻きつけることがある。しかし、このとき導電ゴムが未架橋のため、成形体同士が密着して張り付いてしまう課題があった。さらに、ベースゴムのムーニ粘度ML1+4(100℃)が40以下の低粘度の場合、張り付きが顕著となる課題があった。
【0007】
そこで本発明の目的は、電子線照射架橋を行う導電ゴムにおいて、未架橋の状態でも導電ゴム同士が張り付くことがなく加工性に優れた導電ゴム組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を達成すべく請求項1の発明は、ムーニ粘度MLが40以下のベースゴムに導電性付与剤を添加した導電ゴムにおいて、前記ベースゴムにエチレン−αオレフィン共重合体を、その合計100質量部に対して前記エチレン−αオレフィン共重合体が5〜40質量部となるように添加したことを特徴とする導電ゴム組成物である。
【0009】
請求項2の発明は、前記エチレン−αオレフィン共重合体のゴム硬度が60〜95である請求項1に記載の導電ゴム組成物である。
【0010】
請求項3の発明は、前記エチレン−αオレフィン共重合体のメルトフローレートが5以上である請求項1または2に記載の導電ゴム組成物である。
【0011】
請求項4の発明は、前記導電性付与剤がカーボンである請求項1〜3のいずれかに記載の導電ゴム組成物である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、電子線照射架橋を行う導電ゴムにおいて、未架橋の状態でも導電ゴム同士が張り付くことなく加工性に優れた導電ゴム組成物を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明において実施例及び比較例の張り付き強度測定サンプルの作製方法を示す模式図である。
【図2】本発明において実施例及び比較例の張り付き強度を測定するための引張試験方法を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好適な一実施の形態を詳述する。
【0015】
本発明の導電ゴム組成物は、ベースゴムと、導電性付与剤と、エチレン−αオレフィン共重合体とからなるものである。
【0016】
エチレン−αオレフィン共重合体は、半結晶性の樹脂であり、未架橋の状態でも、樹脂同士が密着することがないので、導電ゴムに添加することで、密着を防ぐことができる。
【0017】
エチレン−αオレフィン共重合体の添加量としては、ベースゴムとの合計が100質量部となるように、5〜40質量部添加するのがよい。5質量部未満であると、導電ゴム同士の密着を防ぐ効果がほとんどなくなる。40質量部より多いと、圧縮永久歪が大きくなるなど、導電ゴムとしての特性が失われてしまう。
【0018】
エチレン−αオレフィン共重合体のゴム硬度(ショアA硬度)は60〜95であるとよい。60未満であると、導電ゴム同士の密着を防ぐ効果がほとんどなくなってしまう。95を超えると、導電ゴム自体が硬くなりすぎてしまい柔軟性を失ってしまう。
【0019】
エチレン−αオレフィン共重合体のメルトフローレートは5以上であるとよい。メルトフローレートは溶融時の流れ性の指標であり、値が大きいほど流れ性がよい。この値が5未満であると、導電ゴム加工時の粘度が大きくなり、加工性が極端に悪くなる。
【0020】
エチレン−αオレフィン共重合体のαオレフィン部樹脂としては、プロピレン、ブテン等が挙げられるがこれに限るものではない。
【0021】
ベースゴムの材質については、EPDM(エチレン−プロピレン−ジエンゴム)、NBR(アクリロニトリルブタジエンゴム)、SBR(スチレンブタジエンゴム)等が挙げられるがこれに限定されるものではない。また、ベースゴムとしては、100℃におけるムーニ粘度ML1+4(100℃)が40以下であるゴムを用いる。
【0022】
導電性付与剤としては、カーボンを用いる。
【0023】
また、エチレン−αオレフィン共重合体は非極性の樹脂であるため、金属と接着し難く成形時の金型離型性が良くなる、金属芯線に導電ゴムを押出被覆した成形物の端末の導電ゴム剥離が容易になる、という利点もある。
【0024】
次に、導電ゴム組成物を構成する材料を各種ミキサーを用いて均一に混錬し、金型成形や押出成形などして、シートなどの成形体とする。この成形体を電子線照射工程へ移動し、架橋を行うことで、架橋導電ゴムとされる。
【0025】
本発明では、エチレン−αオレフィン共重合体を配合しているので、成形体を電子線照射工程に移動する際、成形体同士を重ね合わせても張り付くことがない。
【実施例】
【0026】
以下、本発明の実施例1〜6及び比較例1〜6について説明する。
【0027】
まず、表1に実施例1〜6及び比較例1〜6で用いたエチレン−αオレフィン共重合体の物性を示す。
【0028】
【表1】

【0029】
表1は、今回検討したエチレン−αオレフィン共重合体(商品名:タフマー、三井化学(株)製)のショアAによるゴム硬度(ASTM D2240)とメルトフローレート(230℃、ASTM D1238)を示したものである。
【0030】
次に、表2に実施例1〜6及び比較例1〜6で用いたベースゴムの物性を示す。
【0031】
【表2】

【0032】
表2は、今回検討したベースゴム(EPゴム、三井化学(株)製)のムーニ粘度ML1+4(100℃)(JIS K6300−1)を示したものである。
【0033】
表3に実施例1〜6及び比較例1〜6の配合と特性を示す。
【0034】
【表3】

【0035】
表3のベースゴムとしては表2に示したEPゴムを使用し、カーボンとしては、ケッチェンブラック・インターナショナル製ケッチェンブラックEC600JDを使用した。エチレン−αオレフィン共重合体は表1に示した物性のものを使用した。
【0036】
実施例1〜6及び比較例1〜6の配合材を、プレスを用い、温度180℃で1mm厚のシートに成形した(未架橋の状態)。
【0037】
導電ゴム同士の密着性を評価するため、図1に示すように、幅5mm、長さ20mmに切り出したシート2枚1,1’を、5mmラップさせ(接着面2の面積は5mm×5mm)、ラップ面に1kgの重り3をのせて、60℃で1時間放置したサンプルを作製した。その後、図2に示すように、引張速度50mm/minで引張試験を行い、張り付き強度を測定した。
【0038】
また、未架橋の導電ゴムについて加工性の指標であるコンパウンドムーニ粘度ML1+4(180℃)(JIS K6300−1)を測定した。
【0039】
成形した1mm厚シートについて電子線照射架橋(照射量18Mrad)を行い、架橋導電ゴムシートを得た。この後、このシートを用いて圧縮永久歪試験(JIS K6262;150℃、25%圧縮、22h放置)と体積抵抗測定(JIS K7194;四端子四深針法)、ゴム硬度測定(ASTM D2240、ショアA)を行った。
【0040】
実施例1〜6は、エチレン−αオレフィン共重合体の配合量が5〜40質量部であり、張り付き強度15N以下、圧縮永久歪50以下、コンパウンドムーニ粘度120以下、ゴム硬度95以下と良好である。
【0041】
これに対して比較例1は、実施例1〜3と同じエチレン−αオレフィン共重合体(タフマーA70090)を用いたものであるが、配合量が3質量部と少ないため、未架橋の状態での導電ゴム同士の張り付き強度が19Nと、目標(実用上問題ないレベル)の15Nを超えてしまった。
【0042】
比較例3は、実施例4,5と同じエチレン−αオレフィン共重合体(タフマーA35070S)を用いたものであるが、配合量が2.5質量部と少ないため、未架橋の状態での導電ゴム同士の張り付き強度が20Nと、比較例1と同様に目標の15Nを超えてしまった。
【0043】
比較例4は、比較例1,3とは別のエチレン−αオレフィン共重合体(タフマーA1050S)を用いたものであるが、配合量が3質量部と少ないため、未架橋の状態での導電ゴム同士の張り付き強度が24Nと、比較例1,3と同様に目標の15Nを超えてしまった。
【0044】
よって、エチレン−αオレフィン共重合体の配合量は5質量部以上がよい。
【0045】
また、比較例2は、実施例1〜3と同じエチレン−αオレフィン共重合体(タフマーA70090)を用いたものであるが、配合量が50質量部と多いため、圧縮永久歪が56と、目標の50を超えてしまい、実用上問題があった。
【0046】
比較例5は、比較例2とは別のエチレン−αオレフィン共重合体(BL4000)を用いたものであるが、配合量が50質量部と多いため、圧縮永久歪が58と、目標の50を超えてしまい、比較例2と同様に実用上問題があった。
【0047】
よって、エチレン−αオレフィン共重合体の配合量は40質量部以下がよい。
【0048】
また、比較例6は、実施例2と同じエチレン−αオレフィン共重合体(タフマーA70090)を同じ配合量としたものであるが、ベースゴムのムーニ粘度ML1+4(100℃)が45と大きいEPT4045を使用したため、コンパウンドムーニ粘度が140と非常に大きくなってしまい、加工が困難となった。この結果から、ベースゴムのムーニ粘度ML1+4(100℃)は40以下がよいことがわかる。
【0049】
さらに、比較例1と比較例4を見ると、エチレン−αオレフィン共重合体の配合量は3質量部で同じであるが、比較例4のタフマーA1050Sはメルトフローレートが2.2と小さいため、コンパウンドムーニ粘度が126と目標値(120以下)より大きくなってしまっている。よって、メルトフローレートは5以上であることが好ましい。
【0050】
また、比較例2と比較例5を見ると、エチレン−αオレフィン共重合体の配合量は50質量部で同じであるが、比較例5のタフマーBL4000はゴム硬度が99と大きいため、架橋導電ゴムのゴム硬度も98と目標値(60〜95)より大きくなって柔軟性が失われている。この結果から、エチレン−αオレフィン共重合体のゴム硬度は60〜95であることが好ましい。
【0051】
以上の結果より、本発明によれば、電子線照射架橋を行う導電ゴムにおいて、未架橋の状態でも導電ゴム同士が張り付く不具合がなく、加工性に優れ、架橋後には圧縮永久歪が小さく、体積抵抗が低く、柔軟性のある導電ゴムを得ることができることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ムーニ粘度MLが40以下のベースゴムに導電性付与剤を添加した導電ゴムにおいて、 前記ベースゴムにエチレン−αオレフィン共重合体を、その合計100質量部に対して前記エチレン−αオレフィン共重合体が5〜40質量部となるように添加したことを特徴とする導電ゴム組成物。
【請求項2】
前記エチレン−αオレフィン共重合体のゴム硬度が60〜95である請求項1に記載の導電ゴム組成物。
【請求項3】
前記エチレン−αオレフィン共重合体のメルトフローレートが5以上である請求項1または2に記載の導電ゴム組成物。
【請求項4】
前記導電性付与剤がカーボンである請求項1〜3のいずれかに記載の導電ゴム組成物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−162745(P2011−162745A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−30316(P2010−30316)
【出願日】平成22年2月15日(2010.2.15)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】