説明

導電ペーストおよび圧電素子の製造方法

【課題】 圧電性セラミック材料の導体層形成に用いることのできる安価で安定性の高い導電ペーストを提供すると共に、導体層の特性変化の少ない圧電素子の製造方法を提供する。
【解決手段】 導体成分として安価な銀パラジウム合金を用いても、導電ペースト中に平均粒径が10〜100(nm)の酸化セリウム、酸化イットリウム、酸化ネオジム等を添加すれば、低融点の導体成分が用いられているにも拘わらず、導電ペーストから形成される導体層の緻密性が高められ延いては耐熱性が向上させられ、延いては繰り返し焼成しても特性変化の少ない導電ペーストが得られ、安定した電気的特性を有する圧電素子が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電セラミックス、特にチタン酸ジルコン酸鉛(以下、PZTという)系の圧電セラミックスの導体層形成に好適な導電ペーストおよびこれを用いた圧電素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、ジルコン酸鉛(PbZrO3)とチタン酸鉛(TiZrO3)の固溶体から成るPZT(Pb(Zr,Ti)O3:チタン酸ジルコン酸鉛)に代表される圧電性セラミックスは、圧電トランス、アクチュエータ、超音波振動子等の種々の圧電素子の基材として利用される。特に、上記PZTは、優れた圧電性を有するので広く用いられている。
【0003】
圧電素子は、圧電性セラミックスから成る基材の一面に導体層を設けた基本構造を有し、その導体層に印加された電圧に応じて変形し、或いは、作用した機械的応力に応じて電圧が生じるもので、機械的エネルギーと電気的エネルギーの相互変換に用いられる。上記の導体層は、一般に、基材の一面に導電ペーストを所望の形状で塗布し、焼成処理を施すことによって形成される。この導電ペーストは、例えば、導体粉末と、必要に応じて添加される無機結合剤、ガラスフリット、フィラー等の種々の添加剤粉末とを、所定の有機媒質(ビヒクル)に分散させることにより調製される。
【0004】
近年、圧電素子を小型化しつつ大きな変位を得る目的で、基材層と導体層とを交互に複数枚(例えば数十枚〜数百枚)積層した積層圧電素子が用いられるようになっている。このような積層圧電素子では、上記導体粉末としてPt(白金)を主成分とする導電ペーストが用いられてきた(例えば特許文献1、2を参照。)。このようなPt系の導体ペーストによれば、Ptの融点が高く、しかも、セラミックスとの反応性も低いことから、例えば1200(℃)以上の高温で焼成される圧電セラミックス等の導体層形成用途に適し、導体層が複数の誘電体層を介して積層される積層圧電素子の内部電極にも好適に用いられる。
【0005】
しかしながら、上記各公報に記載されているような従来の導体ペーストを用いた積層圧電素子では、導体層と基材層とを交互に積層して繰返し焼成処理を施す過程や、高温で使用される際に、導体層の抵抗値が変化し、或いは導体層が発泡する等の特性変化が生ずる問題があった。発泡が生ずると基材層と導体層との密着性が阻害されて基板付着強度が不十分になる。
【0006】
因みに、積層圧電素子の製造方法としては、2つの方法が挙げられる。一つは、基材層を構成するためのグリーンシート上に導体ペーストを塗布して焼成処理を施し、焼成後にグリーンシートを積層して導体ペーストを塗布し焼成する工程を繰り返して、導体層の一層毎に焼成処理を施すものである。他の一つは、グリーンシートにそれぞれ導体ペーストを塗布して積層し、一括して焼成処理を施すものである。前者においては、内部電極を構成する導体層に繰り返し熱処理が施されることになる。後者においては、内部電極を形成するための焼成処理は1回であるが、外部電極を設ける際に再び焼成処理が施される。そのため、何れにしても、繰返し熱処理に対する耐性(すなわち、例えば抵抗値、膜厚、緻密性、基材への付着強度が維持されること)が要求される。
【0007】
従来から、導体ペーストやその主成分である導体粒子の熱的特性や強度等を改善する試みが多数為されている。例えば、特許文献3には、Ag/Pd粉末に有機チタン化合物とピンニング作用を有する金属有機化合物とを添加することにより、接着力を高めると共に焼成収縮を制御可能な積層コンデンサ用のAg/Pdペーストが記載されている。特許文献4には、結晶性Pd粒子を非晶質酸化ケイ素で被覆することにより、Pd粒子の酸化を抑制すると共に分散性を向上させ延いては電極の熱膨張を制御した積層コンデンサの内部電極用ペーストの粉体材料が記載されている。特許文献5には、NiやCo等の卑金属粒子を酸化銅で被覆した金属粉末を主成分とすることにより、卑金属粒子の酸化を抑制しつつ容易に脱脂が可能な積層コンデンサ用の導電性ペースト組成物が記載されている。特許文献6には、複数種類の金属が非合金状態で存在する核の表面を金属アルコキシド層で被覆した粉末を用いることにより、耐熱性を高めた積層コンデンサ用の導電性ペーストが記載されている。特許文献7には、セラミック結晶粒子と金属結晶粒子との凝集体粉末を含む耐蝕性および耐熱衝撃性に優れた電極材料が記載されている。特許文献8には、金属微粒子を他の金属の酸化物等で被覆することにより、強度と環境適性とを共に備えた金属微粒子が記載されている。
【0008】
しかしながら、これら特許文献に開示されている技術は、積層コンデンサの電極形成、金属電解用の電極材料、或いは人工骨や燃料電池電極に用いることを目的としたものであって、圧電素子に設けられる導体層の特性改善を目的としたものではない。
【特許文献1】特開平11−242913号公報
【特許文献2】特開2001−184942号公報
【特許文献3】特開平07−176209号公報
【特許文献4】特開平11−071601号公報
【特許文献5】特許第3527854号公報
【特許文献6】特開2006−028605号公報
【特許文献7】特開2004−531644号公報
【特許文献8】特開2000−219901号公報
【特許文献9】特開2004−288548号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
これらに対して、本願出願人は、Pt粉末を導体の主成分とし、平均粒径が10〜100(nm)の範囲内のCeO2やY2O3等の希土類酸化物粉末を含む圧電性セラミック用の導電ペーストを提案した(特許文献9を参照。)。これによれば、微細な希土類酸化物が混在する結果として導体層が緻密になり、耐熱性が向上する。
【0010】
ところで、上記特許文献9に記載された導電ペーストは、高価なPt粉末を導体成分とするため高コストであった。圧電性セラミック材料として一般に用いられるPZTの焼成温度は1200〜1500(℃)程度であり、このような高温で焼成可能な導体はPtを主成分とするものに限られていたのである。また、このような高温の焼成が必要であることから、焼成コスト自体も高くなる問題があった。
【0011】
そこで、近年、従来よりも低温で焼成可能な圧電性セラミック材料の開発が進められており、例えば、1000〜1150(℃)程度で焼成できる材料が提案されている。しかしながら、この焼成温度は、Pt粉末を他の導体材料に置き換えるには未だ高温であり、安価なAg/Pd粉末を利用可能にすることが望まれていた。一般に用いられる90/10〜70/30の組成のAg/Pdの融点は1030〜1170(℃)程度であるが、PZTは焼成による性状変化が大きくPb成分が揮発し易いため、その影響で導体成分の耐熱性が低下する。特にPZTの焼成に通常用いられているPZT雰囲気下ではPb成分を含む蒸気の影響で導体成分の焼結が一層進み易く耐熱性が著しく低下するので、導電ペーストは導体成分の融点よりも200(℃)程度だけ低い温度で焼成することが好ましい。そのため、上記のPZT材料に用いるためには少なくとも1200(℃)以上の融点を有することが必要で、Ag/Pd導電ペーストを用いると、焼成温度が高すぎるために発泡や断線等が生じるので、導体層の形成自体が困難であった。なお、PZT雰囲気とは、例えば、PbO、ZrO2、およびTiO2蒸気、或いはPb過剰のPbZrO3蒸気を含む高圧高温雰囲気である。
【0012】
本発明は以上の事情を背景として為されたものであって、その目的は、圧電性セラミック材料の導体層形成に用い得る安価で安定性の高い導電ペーストを提供すると共に、導体層の特性変化の少ない圧電素子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
斯かる目的を達成するため、第1発明の要旨とするところは、圧電性セラミックスから成る基材に導体層を形成するために用いられる導電ペーストであって、(a)銀パラジウム合金から成る導体粉末と、(b)平均粒径が10〜100(nm)の範囲内の希土類酸化物から成るセラミック粉末とを、含むことにある。
【0014】
また、第2発明の圧電素子の製造方法の要旨とするところは、(a)銀パラジウム合金から成る導体粉末と平均粒径が10〜100(nm)の範囲内の希土類酸化物から成るセラミック粉末とを含む導電ペーストを圧電セラミック材料から成る基材に塗布するペースト塗布工程と、(b)前記導電ペーストが塗布された基材を前記導体粉末の融点近傍の温度で焼成する焼成工程とを、含むことにある。
【発明の効果】
【0015】
前記第1発明によれば、導体成分として安価なAg/Pd合金が用いられているが、導電ペースト中に平均粒径が10〜100(nm)の希土類酸化物粉末が分散しているので、低融点の導体成分が用いられているにも拘わらず、導電ペーストから形成される導体層の緻密性が高められ延いては耐熱性が向上させられる。そのため、形成された導体層は、繰り返し焼成によっても熱収縮し難くクラックやひび割れの発生が抑制される。また、発泡も生じ難く基材への接着性に優れると共に、製造過程や使用中に繰り返し高温に曝されても導体層の抵抗値が変化し難い。以上により、圧電性セラミック材料の導体層形成に用い得る安価で安定性の高い導電ペーストが得られる。
【0016】
なお、希土類酸化物粉末の平均粒径が100(nm)を超えると、得られる導体膜の導電性が低下して好ましくない。また、平均粒径が10(nm)未満では、粒子が凝集し易くなるので良好な分散性が得られない。なお、本願において平均粒径は、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察して画像解析により求めたヘイウッド径の平均値である。
【0017】
また、前述したように、Ag/Pd合金はPZTの焼成温度と同程度の融点を有することから、著しく低温で焼成可能な特殊な(すなわち高価な)圧電材料で基材を構成するのでなければ、Ag/Pdを導体層材料として用いることは不適当で全く考えられていなかった。しかしながら、本発明者等が前記特許文献9に記載されたPtペーストと同様な希土類酸化物を添加した導電ペーストを調製して実験をしたところ、全く意外にも、Ag/Pdの融点程度の温度で焼成したにも拘わらず、良好な導体層を形成できることが確かめられた。しかも、Ptペーストの場合と同様な耐熱性向上効果も得られることが判った。本発明は、このような知見に基づいて為されたものである。
【0018】
また、本願において、銀パラジウム合金からなる導体粉末には、AgとPdの他にその特性を改善するための適宜の添加物が添加されたものも含まれる。
【0019】
また、前記第2発明によれば、前記第1発明の導電ペーストが用いられ、その導体粉末の融点程度の温度で焼成処理が施されることから、導体層の特性変化の少ない(すなわち電気的信頼性および耐熱性の高い)圧電素子(例えばトランス、アクチュエータ等)が得られる。なお、第2発明においては、基材を導体粉末の融点程度の温度で焼成することが必須であり、それよりも低温では基材の焼結が困難であり、焼成温度が高すぎると発泡や断線が生じる。
【0020】
なお、「融点近傍の温度」とは、融点よりも僅かに低い温度から融点程度までの範囲にある温度を意味する。上記「融点よりも僅かに低い温度」は、好ましくは融点よりも50(℃)程度低い温度であり、特に好ましくは、融点よりも30(℃)程度低い温度である。
【0021】
ここで、好適には、前記導電ペーストは、前記導体粉末100重量部に対して前記セラミック粉末を0.1〜3重量部の範囲で含むものである。セラミック粉末のこの範囲内の添加量で特に優れた耐熱性が得られる。希土類酸化物の添加量は、一層好適には、0.3〜2重量部の範囲、更に好適には、0.5〜1重量部の範囲である。
【0022】
また、前記希土類酸化物としては、例えば、酸化スカンジウム、酸化イットリウム、酸化ランタン、酸化セリウム、酸化プラセオジム、酸化ネオジム、酸化プロメチウム、酸化サマリウム、酸化ユーロピウム、酸化ガドリニウム、酸化テルビウム、酸化ジスプロシウム、酸化ホルミウム、酸化エルビウム、酸化ツリウム、酸化イッテルビウムおよび酸化ルテチウムが挙げられる。中でも、酸化イットリウム或いはセリウム族(軽希土類)に属する希土類(すなわちLa、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm)の酸化物が耐熱性向上効果の点で好ましい。セリウム族に属する希土類酸化物の中では、酸化セリウムが特に好ましい。添加する酸化物は1種類でよいが、2種類以上を混在させてもよい。
【0023】
また、添加する希土類酸化物粉末の平均粒径は、前述したように10〜100(nm)の範囲が好ましいが、一層好適には、20〜80(nm)、更に好ましくは30〜70(nm)である。希土類酸化物の平均粒径がこの所定範囲にあることにより、導体ペーストの基材に対するぬれ性が極めて良好となる。
【0024】
希土類酸化物粉末としては、上記所定の粒径範囲を有する市販品を用いてもよく、或いは、従来公知のいずれの手段を用いて製造したものであってもよい。
【0025】
また、ペースト全体に対する希土類酸化物の含有率は、0.05〜3(重量%)が適当であり、0.1〜2.0(重量%)程度が一層好ましく、特に0.2〜1.0(重量%)程度が特に好ましい。この含有率が0.05(重量%)未満ではぬれ性が不十分で好ましくない。一方、3.0(重量%)を越えると、得られる導体層の導電性が低下する傾向にあるため好ましくない。
【0026】
また、好適には、前記基材はPZTから成るものである。本発明は、PZT以外の圧電性セラミックスが用いられる圧電素子にも適用可能であるが、焼成による性状変化が比較的大きいPZTから成る基材に導体膜を形成する用途に好適である。特に、そのPZTから成る基材が、焼結が進み易く、焼成による性状変化が著しいPZT雰囲気で焼成処理される場合に顕著な効果が得られる。
【0027】
また、好適には、前記基材がPZTで構成される場合において、前記焼成工程はPZT雰囲気中で焼成するものである。このようにすれば、PbO、ZrO2及びTiO2蒸気、或いは、Pb過剰のPbZrO3蒸気を含み、且つ酸素含有率の低いPZT雰囲気で焼成処理が施されることから、PZT系圧電性セラミック基材が高密度に焼結し得る。この場合において、本発明の導電ペーストを使用すると、かかる高密度の焼結基材上に耐熱性および密着性に優れる導体層を形成することができる。
【0028】
また、前記第2発明の圧電素子の製造方法は、例えば、以下のようにして行うことができる。すなわち、先ず、前記基材を構成するための所定枚数のグリーンシートをシート成形或いは乾式加圧成形法等で製造し、各々に導電ペーストを所定の平面形状を以て所定の厚さ寸法に塗布する。次いで、それぞれ導電ペーストが塗布された基材を積層し、相互に圧着する。この際、積層体の最上層の表面および最下層の裏面には、必要に応じて導電ペーストが塗布される。次いで、この積層体を基材の種類毎に定められる所定の温度で焼成する。焼成雰囲気は基材の組成に応じて大気雰囲気或いはPZT雰囲気等が適宜選択される。積層体の焼成後、その端面に外部電極を形成するための導電ペーストを塗布し、焼成処理を施すことによりこの導電ペーストから外部電極を生成すれば、圧電素子が得られる。
【0029】
なお、導電ペーストの塗布方法は、従来から公知の適宜の方法を用いることができ、例えば、スクリーン印刷法やディスペンサー塗布法等が挙げられる。
【0030】
なお、積層体の焼成処理は、上記のように一括して行う他、導体層を一層塗布形成する毎に行っても良い。例えば、導体層上に基材を構成するためのセラミックペーストを塗布し、或いは基材を構成するための未焼成シートを積層圧着して、順次にPZT雰囲気中で焼成して製造することもできる。本発明は、このような積層型圧電素子の製造に好適に適用される。
【0031】
また、第2発明において、導電ペーストを塗布した後の焼成温度は、基材および導電ペーストのAg/Pd比に応じて適宜定められるもので、例えば、1000〜1150(℃)の範囲内の温度である。
【0032】
また、導電ペーストを構成するビヒクルは導体粉末を好適に分散させ得るものであればよく、従来から導電ペーストに用いられている公知のものを適宜用いることができる。例えば、エチルセルロース等のセルロース系高分子、エチレングリコールおよびジエチレングリコール誘導体、トルエン、キシレン、ミネラルスピリット、ブチルカルビトール、ターピネオール(テルピネオールとも言う)等の高沸点有機溶媒またはこれらの二種以上の組み合わせが挙げられる。この中でも、エチルセルロース、ターピネオール、或いはエチルセルロースとターピネオールとの混合液(好適には体積比は1:1)が好適である。
【0033】
また、導電ペースト中には、導体成分として、前記Ag/Pd導体粉末の他に、それ以外の金属成分を若干含むものであっても良い。含み得る金属成分としては、金のような貴金属や銅のような卑金属等が挙げられる。これらを含まない場合にも含む場合にも、導電ペーストにおける導体成分の含有率は、特に限定されないが、ペースト全体の50〜90(重量%)とすることができ、70〜90(重量%)とすることが好ましい。また、特に75〜85(重量%)が好ましい。導体成分の含有率がペースト全体の90(重量%)を超えると、ペーストの基材に対するぬれ性が低下する傾向にあり、一方、50(重量%)未満であると、導電性が劣る傾向にある。
【0034】
また、導電ペーストには、前述した本願の目的を達成し得る限りにおいてAg/Pdおよび希土類酸化物粉末の他の成分を適宜含むことができる。
【0035】
また、前記導体粉末を構成するAg/Pdは市販の適宜のものを用いることができ、粒径は特に限定されないが、緻密な導体層を形成するためには微細なものを用いることが好ましく、平均粒径が2.0(μm)以下のものが好ましい。特に0.1〜1.0(μm)の範囲内のものが好ましく、0.3〜0.8(μm)の範囲内のものを用いることが一層好ましい。また、粒径が10(μm)以上、特に粒径が5(μm)以上の粒子を含まないことが好ましい。
【0036】
また、導体ペーストは、前記導体成分およびビヒクルの他に、耐熱性や導電性等を著しく損なわない範囲で(すなわち用途に適した特性が維持できる範囲で)、種々の無機添加物を含み得る。無機添加物としては、種々の無機酸化物やガラス粉末、フィラー等が挙げられる。このような無機添加物は、導体ペーストがセラミックスに焼き付けられる際に熔融して接着強度を高める結合材として機能し得る。なお、無機添加物は、比表面積が0.5〜50(m2/g)の範囲内、平均粒径が2(μm)以下(特に好適には1(μm)以下)のものが、十分に高い導電性を確保するために好ましい。
【0037】
また、上記のような無機添加物は、導電ペースト全体の0.1〜10(重量%)の範囲内で添加することが好ましい。このようにすれば、導電性を実質的に損なうことなく、導電ペーストから生成される導体層とセラミックスに対する接着強度を十分に高めることができる。
【0038】
また、導電ペーストには、前記ビヒクルの他に、耐熱性や導電性を著しく損なわない範囲で種々の有機添加物、例えば、有機バインダやカップリング剤等を含むことができる。上記有機バインダとしては、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アルキド樹脂、セルロース系高分子、ポリビニルアルコール等をベースとするものが挙げられる。また、カップリング剤としては、シリコン系或いはアルミニウム系等のものが挙げられる。これらは、導電ペーストに適当な粘性や塗膜形成能を付与し得るものが好適である。また、これらの他、光重合性化合物や光重合開始剤等を添加して、光硬化性の導電ペーストを構成することもできる。
【0039】
また、導電ペーストには、更に、界面活性剤、消泡剤、可塑剤、増粘剤、酸化防止剤、分散剤、重合禁止剤等を適宜添加することができる。
【0040】
また、本発明の導電ペーストは、上述した導体成分、希土類酸化物粉末、およびビヒクルと、任意に添加される無機添加物および有機添加物等とを混和することにより製造されるものであるが、その混和工程は、例えば三本ロールミル等の適宜の混練機を用いて実施し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
以下、本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【0042】
図1は、本発明の一実施例の積層型圧電素子10の概略構成を説明するための断面図である。図1において、圧電素子10は、圧電性セラミックス例えばPZTから成る複数枚の基材層12と、その基材層12の層間に設けられた複数の導体層14と、端面に設けられた外部電極16と、表面18および裏面20にそれぞれ備えられた表面電極22とを備えている。なお、表面電極22は必要に応じて設けられるもので、必須のものではない。
【0043】
上記のような圧電素子10は、例えば以下のようにして製造される。すなわち、まず、基材層12を構成するためのPZT等から成るグリーンシートをシート成形法等の適宜の方法で製造する。次いで、導体層14を構成するための導電ペーストをそのグリーンシートに予め定められた形状および厚さ寸法で塗布する。次いで、それぞれ導電ペーストが塗布されたグリーンシートを積層・圧着する。次いで、この積層体を基材および導電ペーストに応じて予め定められた所定の焼成温度で例えば電気炉を用いて焼成する。焼成処理は、PZTから成る基材が用いられる場合にはPZT雰囲気とすることが好ましい。焼成処理温度は基材層12の構成材料に応じて適宜定められるが、例えば1000〜1150(℃)の範囲内である。焼成処理後、前記外部電極16を構成するための導体ペーストを端面に塗布して更に焼成処理を施す。これにより、前記圧電素子10が得られる。
【0044】
上記の導電ペーストは、例えば、銀パラジウム粉末と、酸化セリウム粉末と、ビヒクルとを用意して、予め定められた混合割合で混合し、例えば三本ロールミルで混練することによって調製される。銀パラジウム粉末は、例えば平均粒径が0.6(μm)の市販のものを用い得る。また、ビヒクルは、例えばエチルセルロースおよびαターピネオール(テルピネオール)を体積比1:1で混合した混合液を用い得る。
【0045】
以下、上記の圧電素子10の製造方法において、銀パラジウム粉末のAg/Pd比、添加する希土類酸化物の種類、平均粒径、および添加量、焼成雰囲気を種々変更して評価した結果を説明する。なお、以下の評価は、試験を簡便に実施するため、予め焼成したPZTから成る基材の上に導電ペーストを例えば4(μm)程度の厚みで塗布した一層構成で行った。
【0046】
下記の表1は、Ag/Pd比が80/20の銀パラジウム粉末を80(重量%)、酸化セリウム粉末を0.8(重量%)、ビヒクルを19.2(重量%)の割合で混合した導電ペーストを用いた評価結果をまとめたものである。上記混合割合は、銀パラジウム粉末100重量部に対して酸化セリウム粉末1重量部となるように定めた。酸化セリウム粉末の平均粒径は、実施例1が60(nm)、実施例2が100(nm)、比較例1が200(nm)、比較例2が400(nm)である。これらの平均粒径は、前述したようにSEM観察により求めた値である。また、評価に際しては、導電ペーストを厚さ寸法が0.5(mm)程度のPZT基板にスクリーン印刷法で塗布して、例えば遠赤外線乾燥機を用いて100(℃)で15分間の乾燥処理を施した後、1100(℃)で2時間の焼成処理を施した。乾燥処理は塗膜からビヒクル中の溶剤成分を揮発させるためのものである。また、焼成処理によって、ビヒクル中の残留成分であるエチルセルロースすなわち塗布膜中の有機成分が焼失させられると共に、導体粉末が熔融させられて相互に結合し、例えば2(μm)程度の厚さ寸法の導体層が形成される。
【0047】
【表1】

【0048】
また、上記の表1において、「初めの焼成」欄には導体ペーストを塗布後の1回目の焼成後の表面粗さRaを、「繰り返し熱処理1回」「繰り返し熱処理2回」欄には、それぞれその焼成後に焼成温度と同じ1100(℃)で2時間保持した後の表面粗さRaを示した。なお、表面粗さRaは、膜質変化の指標として採用したもので、株式会社東京精密製の表面粗さ計「サーフコム(登録商標)」により測定した。後述する各評価においても同じである。
【0049】
上記表1に示す結果によれば、Ag/Pd=80/20の銀パラジウム粉末を用いて1100(℃)で焼成処理を施すと、平均粒径が60〜100(nm)の酸化セリウムを用いた実施例1,2では、繰り返し熱処理2回の後にも表面粗さRaの変化が0.02(μm)以下で、発泡が全く認められなかった。特に、平均粒径が60(nm)の酸化セリウムを用いた実施例1では、2回の熱処理後にも全く表面粗さRaの変化が認められず、極めて高い耐熱性を有することが確かめられた。
【0050】
これに対して、平均粒径が200〜400(nm)の酸化セリウムを用いた比較例1,2では、熱処理を施す毎に顕著な表面粗さRaの変化が認められ、2回の熱処理後には発泡も生じた。特に、平均粒径が400(nm)の酸化セリウムを用いた比較例2では、初めの焼成後でも他の実施例および比較例に比べて表面粗さRaが大きくなり、耐熱性が著しく劣ることが明らかである。
【0051】
これらの結果によれば、平均粒径が60〜100(nm)の酸化セリウムを添加することによって導電ペーストの耐熱性が向上することが明らかである。
【0052】
下記の表2は、銀パラジウム粉末としてAg/Pd=70/30のものを用い、焼成温度および熱処理温度を1150(℃)とした他は、前記表1に示した場合と同様にして評価した結果をまとめたものである。この表2に示す結果によれば、Ag/Pd比が異なる銀パラジウム粉末を用いた場合にも、80/20の場合と同様に、平均粒径が60〜100(nm)の酸化セリウムを添加した実施例3,4では耐熱性の向上効果が認められ、平均粒径が小さい方が効果が一層顕著であった。これに対して平均粒径が200〜400(nm)の酸化セリウムが用いられた比較例3,4では、熱処理を繰り返す毎に表面粗さRaが増大し、耐熱性の無いことが明らかである。
【0053】
【表2】

【0054】
なお、圧電素子を製造する場合における焼成温度は、一般に、圧電性セラミックスから成る基材の適切な焼成温度に基づいて定められ、導電ペーストの導体成分である銀パラジウムのAg/Pd比は、その焼成温度に応じて決定される。すなわち図2に状態図を示すように、銀パラジウムは全率固溶体であり、パラジウムの割合が多くなるほど融点が高くなる。Ag/Pd=70/30の融点は1170(℃)程度で、80/20の融点は1100(℃)程度である。したがって、上記表1,表2において、焼成温度は、用いられている銀パラジウムの融点と同程度か、それよりも僅かに低い程度の温度に定められていることが判る。
【0055】
図3,図4は、上記の表1,表2に示した実施例および比較例について、繰り返し焼成回数と抵抗値変化率との関係を評価した結果を示したものである。何れにおいても、平均粒径が60〜100(nm)の酸化セリウムが用いられた実施例1〜4では、7回の繰り返し焼成でも抵抗値変化率が4(%)未満に止まっており、特に、平均粒径の一層小さい実施例1,3では3(%)未満に止まっている。これに対して、平均粒径が200〜400(nm)の酸化セリウムを用いた比較例1〜4では、2回の焼成後から抵抗率変化率が明らかに大きく、7回の繰り返し焼成後には8(%)を超えている。
【0056】
上記の結果によれば、平均粒径が60〜100(nm)の酸化セリウムを添加すれば、繰り返し熱処理による表面粗さRaの増大を抑制できるだけでなく、抵抗値変化も抑制できることが明らかである。また、酸化セリウムの平均粒径は小さい方が好ましいと言える。
【0057】
下記の表3は、更に条件を代えて評価を行った試験条件をまとめたものである。表3において、「対照」は、希土類酸化物を添加していない従来の銀パラジウム導電ペーストである。「Ag/Pd比率」欄は、導体成分である銀パラジウムの組成を表している。「酸化物種類」欄は、耐熱性改善の目的で添加した酸化物の種類を表している。「平均粒径」欄は、その酸化物の平均粒径である。「酸化物添加量」欄は、ペースト全体中における酸化物の添加量(重量%)を表している。その右欄にAg/Pd 100重量部に対する割合を示した。また、「熱処理雰囲気」欄の「Air」は大気雰囲気中で焼成したことを、「PZT」はPZT雰囲気中で焼成したことをそれぞれ表している。ここで、「PZT雰囲気」は、気密性の高い200(cm3)程度のAl2O3製容器に20(g)程度のPZT粉末を入れ、試料と同時に加熱処理を施すことで簡易的に形成した。この評価では、表3に示すように、酸化物の種類、添加量、焼成雰囲気、およびAg/Pd比を種々変更して評価した。
【0058】
【表3】

【0059】
対照および実施例5〜16の評価結果を表4に、比較例5〜18の評価結果を表5にそれぞれ示す。評価項目は、表面粗さ、基板付着強度、発泡の有無である。初めの焼成後のこれらの値と、繰り返し熱処理を1〜3回経た後のこれらの値とを比較した。
【0060】
【表4】

【0061】
【表5】

【0062】
なお、上記の各評価結果において、基板付着強度は、基板上に形成された2(mm)×2(mm)の矩形状導体膜にリード線(スズめっき銅線)を半田付けし、そのリード線を基板の面方向とは垂直方向に引っ張り、その接合面が破壊(分断)された時の負荷を付着強度とした。20(N/2mm□)以上の強度があれば合格と考えられる。また、発泡状態は、顕微鏡観察により、多数の発泡が見られるものを×、使用可能限界以下で発泡が見られるものを△、発泡が全く認められなかったものを○とした。
【0063】
表4,5に示されるように、実施例5〜16においては、初回焼成後の表面粗さRaが0.16(μm)で、3回の繰返し熱処理後にも、表面粗さRaは0.16〜0.18(μm)程度の極めて良好な表面粗さに保たれた。また、基板付着強度は、実施例5〜13の何れにおいても20(N/2mm□)以上の十分な大きさに保たれた。なお、実施例14〜16については、基板付着強度の評価は行っていないが、同等の結果を期待できる。また、発泡は実施例5〜16の何れにおいても、全く認められなかった。これらの評価結果によれば、Ag/Pd=70/30〜90/10の範囲で、酸化物として酸化セリウム、酸化ネオジム、酸化イットリウムの何れを用いた場合にも、Ag/Pdに対する添加量で0.1〜3重量部の範囲であれば、Air雰囲気においても表面粗さの悪化が無く、高い基板付着強度を有し、発泡も生じない。
【0064】
これに対して、対照例では、熱処理を繰り返す毎に表面粗さRaが悪くなり、3回目には0.30(μm)になった。また、酸化物として酸化アルミニウム、酸化珪素、酸化ビスマス、酸化銅を用いた比較例5〜8では、熱処理を施す毎に表面粗さRaが増大し、3回の繰返し熱処理後には、0.26〜0.30(μm)と実施例に比較して著しく悪い結果が得られた。すなわち、これらの酸化物の添加は何らの効果ももたらさなかった。
【0065】
また、酸化セリウムや酸化イットリウムを添加しているが、添加量がAg/Pdに対して0.05重量部或いは3.5重量部の比較例9〜14では、表面粗さの悪化は特に認められず、発泡も比較的少ないものの、基板付着強度が20(N/2mm□)に満たず、必要な強度を得ることができなかった。これらは、要求される付着強度次第では使用可能であるが、この結果によれば、添加量の適切な範囲が0.1〜3重量部の範囲にあることが明らかである。
【0066】
また、比較例15は、Ag/Pd=90/10の銀パラジウム粉末に対して酸化アルミニウムを添加して評価したものであるが、80/20に添加した場合と同等の結果であり、耐熱性の改善効果は全く認められない。
【0067】
また、比較例16〜18は、酸化アルミニウムおよび酸化珪素を添加してPZT雰囲気中で焼成および熱処理を施したものであり、表面粗さおよび発泡の有無のみを評価したものであるが、表面粗さRaの増大が顕著であると共に、発泡も認められ、PZT雰囲気で焼成を施しても改善しないことが明らかである。
【0068】
したがって、本実施例によれば、導体成分として安価な銀パラジウム合金を用いても、導電ペースト中に平均粒径が10〜100(nm)の酸化セリウム、酸化イットリウム、酸化ネオジム等を添加すれば、低融点の導体成分が用いられているにも拘わらず、導電ペーストから形成される導体層の緻密性が高められ延いては耐熱性が向上させられ、延いては繰り返し焼成しても特性変化の少ない導電ペーストが得られ、安定した電気的特性を有する圧電素子が得られる。
【0069】
すなわち、本実施例によれば、従来では圧電素子の導体に用いることが困難であった安価な銀パラジウム合金を利用可能となるので、安価で特性の優れた圧電素子を得ることができる。
【0070】
以上、本発明を図面を参照して詳細に説明したが、本発明は更に別の態様でも実施でき、その主旨を逸脱しない範囲で種々変更を加え得るものである。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】積層型圧電素子の構成例を説明するための断面図である。
【図2】銀パラジウム合金の状態図である。
【図3】実施例及び比較例に係る導体膜の繰り返し熱処理による抵抗値の変化を示すグラフである。
【図4】他の実施例及び比較例に係る導体膜の繰り返し熱処理による抵抗値の変化を示すグラフである。
【符号の説明】
【0072】
10:積層型圧電素子、12:基材層、14:導体層、16:外部電極、18:表面、20:裏面、22:表面電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電性セラミックスから成る基材に導体層を形成するために用いられる導電ペーストであって、
銀パラジウム合金から成る導体粉末と、
平均粒径が10〜100(nm)の範囲内の希土類酸化物から成るセラミック粉末と
を、含むことを特徴とする導電ペースト。
【請求項2】
前記導体粉末100重量部に対して前記セラミック粉末を0.1〜3重量部の範囲で含むものである請求項1の導電ペースト。
【請求項3】
前記希土類酸化物はセリウム族に属する希土類の酸化物である請求項1または請求項2の導電ペースト。
【請求項4】
前記希土類酸化物は酸化イットリウムである請求項1または請求項2の導電ペースト。
【請求項5】
銀パラジウム合金から成る導体粉末と平均粒径が10〜100(nm)の範囲内の希土類酸化物から成るセラミック粉末とを含む導電ペーストを圧電セラミック材料から成る基材に塗布するペースト塗布工程と、
前記導電ペーストが塗布された基材を前記導体粉末の融点近傍の温度で焼成する焼成工程と
を、含むことを特徴とする圧電素子の製造方法。
【請求項6】
前記基材はPZTから成るものである請求項5の圧電素子の製造方法。
【請求項7】
前記焼成工程はPZT雰囲気中で焼成するものである請求項6の圧電素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−198688(P2008−198688A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−30046(P2007−30046)
【出願日】平成19年2月9日(2007.2.9)
【出願人】(000004293)株式会社ノリタケカンパニーリミテド (449)
【Fターム(参考)】