説明

導電体の製造方法

【課題】導電性の向上した導電体が得られる導電体の製造方法の提供。
【解決手段】スルホン酸基および/またはカルボキシ基を有する水溶性導電性ポリマー(A)、塩基性化合物(B)、および溶剤(C)を含む導電性組成物を基材に塗布して塗膜を形成する工程と、前記塗膜に対し、125〜180℃で加熱処理を行う工程とを順次行う導電体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
導電性ポリマーとしてはドープされたポリアニリンが良く知られている。その製法として、スルホン酸基置換アニリンまたはカルボキシ基置換アニリンなどの酸性基置換アニリンを、塩基性化合物を含む溶液中で重合する方法(例えば特許文献1,2)が提案されている。これらの方法は、従来スルホン酸基またはカルボキシ基を有するアニリン類はそれ単独では重合しにくく、高分子量の重合体を得難いと云う定説に反し、高分子量の重合体の製造が可能である利点を有する。しかも、該方法により得られた導電ポリマーは、酸性からアルカリ性の何れの水溶液にも優れた溶解を示す。
しかし、該方法では、副反応の併発や、それに基づくと考えられるオリゴマー成分の副生等が完全には抑制されず、これが導電性ポリマー中への不純物混入の要因および導電性向上の妨げとなっている。また、不純物の混入により、不純物の除去工程が煩雑になるという課題点も有している。
【0003】
これら課題点を解決する為に、酸性基置換アニリンを、塩基性化合物を含む溶液中で重合する際に、重合触媒である酸化剤の溶液に上記酸性基置換のアニリンと塩基性化合物を含む溶液を滴下することで、発生する不純物を抑制できる方法が提案されている(例えば特許文献3)。この方法においては、オリゴマー成分の生成を抑制でき、高純度且つ、高導電性の酸性基置換のアニリン系導電性ポリマーが得られる。
【特許文献1】特開平7−196791号公報
【特許文献2】特開平7−324132号公報
【特許文献3】特開2000−219739号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記方法においても、導電性の向上は不充分であり、更なる向上が求められる。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、導電性の向上した導電体が得られる導電体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、鋭意検討の結果、スルホン酸基および/またはカルボキシ基を有する導電性ポリマーを含む導電性組成物中に含まれる塩基性化合物が該導電性ポリマーと塩を形成し、該導電性ポリマーの自己ドープを阻害し、本来の導電性が発揮されるのを阻害していることを見出した。そして、該導電性組成物を特定の温度で加熱することにより、該塩基性化合物が充分に除去され、得られる導電体の導電性が大きく向上することを見出し、本発明を完成した。
すなわち本発明は、スルホン酸基および/またはカルボキシ基を有する水溶性導電性ポリマー(A)、塩基性化合物(B)、および溶剤(C)を含む導電性組成物を基材に塗布して塗膜を形成する工程と、前記塗膜に対し、125〜180℃で加熱処理を行う工程とを順次行う導電体の製造方法である。
【発明の効果】
【0006】
本発明の導電体の製造方法によれば、導電性の向上した導電体が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
<導電性組成物>
本発明に用いられる導電性組成物は、スルホン酸基および/またはカルボキシ基を有する水溶性導電性ポリマー(A)(以下、成分(A)という。)、塩基性化合物(B)(以下、成分(B)という。)、および溶剤(C)を含有する。
【0008】
(成分(A))
成分(A)における「水溶性」とは、25℃の水に0.1g程度以上均一に溶解することを意味する。
成分(A)は、スルホン酸基(−SOH)および/またはカルボキシ基(−COOH)を有する。成分(A)において、スルホン酸基、カルボキシ基は、それぞれ、酸の状態(−SOH、−COOH)で含まれていてもよく、イオンの状態(−SO、−COO)で含まれていてもよい。
成分(A)は、下記一般式(1)〜(3)で表される繰り返し単位からなる群から選択される少なくとも1種の繰り返し単位(以下、繰り返し単位(a1)という。)を有することが好ましい。
【0009】
【化1】

【0010】
式(1)中、R〜Rは、各々独立に、−H、−SO、−SOH、−R11SO、−R11SOH、−OCH、−CH、−C、−F、−Cl、−Br、−I、−N(R12、−NHCOR12、−OH、−O、−SR12、−OR12、−OCOR12、−NO、−COOH、−R11COOH、−COOR12、−COR12、−CHOまたは−CNであり、R11は、炭素数1〜24のアルキレン基、炭素数1〜24のアリーレン基または炭素数1〜24のアラルキレン基であり、R12は、炭素数1〜24のアルキル基、炭素数1〜24のアリール基または炭素数1〜24のアラルキル基であり、RおよびRのうちの少なくとも一つは、−SO、−SOH、−R11SO、−R11SOH、−COOHまたは−R11COOHである。
【0011】
【化2】

【0012】
式(2)中、R〜Rは、各々独立に、−H、−SO、−SOH、−R11SO、−R11SOH、−OCH、−CH、−C、−F、−Cl、−Br、−I、−N(R12、−NHCOR12、−OH、−O、−SR12、−OR12、−OCOR12、−NO、−COOH、−R11COOH、−COOR12、−COR12、−CHOまたは−CNであり、R11は、炭素数1〜24のアルキレン基、炭素数1〜24のアリーレン基または炭素数1〜24のアラルキレン基であり、R12は、炭素数1〜24のアルキル基、炭素数1〜24のアリール基または炭素数1〜24のアラルキル基であり、R〜Rのうちの少なくとも一つは、−SO、−SOH、−R11SO、−R11SOH、−COOHまたは−R11COOHである。
【0013】
【化3】

【0014】
式(3)中、R〜R10は、各々独立に、−H、炭素数1〜24の直鎖もしくは分岐のアルキル基、炭素数1〜24の直鎖もしくは分岐のアルコキシ基、酸性基、水酸基、ニトロ基、−F、−Cl、−Brまたは−Iであり、R〜R10のうちの少なくとも一つは酸性基である。
ここで、「酸性基」は、スルホン酸基またはカルボキシ基を示す。つまり、式(3)中、R〜R10のうちの少なくとも一つは、−SO、−SOH、−COOHまたは−COOである。
製造が容易な点では、R〜R10のうち、いずれか一つが炭素数1〜4の直鎖または分岐のアルコキシ基であり、他のいずれか一つが−SOまたは−SOHであり、残りがHであるものが好ましい。
【0015】
成分(A)中、繰り返し単位(a1)の割合は、当該成分(A)を構成する全繰り返し単位(100モル%)のうち、20〜100モル%が好ましく、50〜100モル%がより好ましく、100モル%がさらに好ましい。
成分(A)は、1分子中に、繰り返し単位(a1)を10以上有することが好ましい。
【0016】
成分(A)の質量平均分子量は、5000〜1000000が好ましく、5000〜20000がより好ましい。成分(A)の質量平均分子量が5000以上であれば、導電性、成膜性および膜強度に優れる。成分(A)の質量平均分子量が1000000以下であれば、溶媒への溶解性に優れる。
成分(A)の質量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定される質量平均分子量(ポリエチレングリコール換算)である。
【0017】
(成分(B))
成分(B)は、酸性基置換アニリン等、成分(A)の原料となる単量体を溶液中で酸化重合する際に用いられる。それが残存して導電性組成物に含有される。成分(B)としては、たとえば前記特許文献3に記載の塩基性化合物が挙げられる。本発明において、成分(B)としては、特に、アミンが好ましい。
本発明において、成分(B)は、次工程での加熱処理の際に導電性組成物から揮発しやすい点で、25℃におけるpKaが10以下の塩基性化合物が好ましい。該pKaは、8以下がより好ましい。また、該pKaは、成分(A)の溶解性の点から、4以上が好ましく、5以上がより好ましい。
該pKaは、「化学便覧 基礎編II」(日本化学会編、丸善、昭和41年9月25日発行)に記載されている数値を利用できる。
【0018】
pKaが10以下の塩基性化合物の具体例としては、2−アミノエタノール(pKa=9.5)、ジエタノールアミン(pKa=9.0)、トリエタノールアミン(pKa=7.7)、トリメチルアミン(pKa=9.8)、α−ピコリン(pKa=6.2)、β−ピコリン(pKa=5.5)、γ−ピコリン(pKa=6.0)、ピリジン(pKa=5.2)、ベンジルアミン(pKa=9.4)、メトキシエチルアミン(9.2)、アミノピリジン(6.7)、エチレンジアミン(6.84)等が挙げられる。これらのアミンは、いずれか1種を単独で用いてもよく、2種以上混合して用いてもよい。
【0019】
(溶剤(C))
溶剤(C)としては、成分(A)および成分(B)を溶解するものであればよく、たとえば、水、または水と水溶性有機溶剤との混合溶媒が挙げられる。
混合溶媒を用いる場合、水と水溶性有機溶剤との混合比は、特に限定されず、任意であるが、通常、水:水溶性有機溶剤=1:100〜100:1の混合溶媒が好ましく用いられる。
水溶性有機溶剤は、水と混合するものであれば特に限定はない。水溶性有機溶剤として、具体的には、水、またはメタノール、エタノール、イソプロパノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類、アセトン、エチルイソブチルケトン等のケトン類、エチレングリコール、エチレングリコールメチルエーテル等のエチレングリコール類、プロピレングリコール、プロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールエチルエーテル、プロピレングリコールブチルエーテル、プロピレングリコールプロピルエーテル等のプロピレングリコール類、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類、N−メチルピロリドン、N−エチルピロリドン等のピロリドン類等が挙げられる。これらの中でも、アルコール類、アセトン、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等が好ましく、特にアルコール類が好ましい。アルコール類としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール等が好ましく用いられる。
溶剤(C)としては、特に、水または水とアルコール類との混合溶媒が好ましい。また、該混合溶媒は、水を50質量%以上含有することが好ましい。
【0020】
導電性組成物には、任意に、公知の添加剤を混合することが出来る。該添加剤としては、基材への塗布性、成膜性、造膜性、密着性等を向上させるものが好ましく、たとえばノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、水溶性高分子、エマルション高分子、等が挙げられる。
【0021】
前記導電性組成物は、たとえば、重合して成分(A)を与えるモノマーを、成分(B)の存在下、酸化剤を用いて重合(酸化重合)させ、得られた生成物を溶剤(C)に溶解する工程により調製できる。
たとえば前記一般式(3)で表される繰り返し単位を有する水溶性導電性ポリマーは、下記一般式(3a)で表される化合物(酸性基置換アニリン)を重合させることにより得られる。
【0022】
【化4】

【0023】
式(3a)中、R17〜R20は、各々独立に、−H、炭素数1〜24の直鎖もしくは分岐のアルキル基、炭素数1〜24の直鎖もしくは分岐のアルコキシ基、酸性基、水酸基、ニトロ基、−F、−Cl、−Brまたは−Iであり、R17〜R20のうちの少なくとも一つは酸性基である。該酸性基は、前記式(3)における酸性基と同じものを示す。
【0024】
前記酸性基置換アニリンとしては、酸性基としてスルホン酸基を有するスルホン酸基置換アニリン、酸性基としてカルボキシ基を有するカルボキシ基置換アニリンが挙げられる。
スルホン酸基置換アニリンの代表的なものとしては、アミノベンゼンスルホン酸誘導体が挙げられる。カルボキシ基置換アニリンの代表的なものとしては、アミノ安息香酸誘導体が挙げられる。これらのうち、アミノベンゼンスルホン酸誘導体は、アミノ安息香酸誘導体に比べ導電性が高い傾向を示し、一方、アミノ安息香酸誘導体は、アミノベンゼンスルホン酸誘導体と比較して溶解性が高い傾向を示す。これらの誘導体は、目的に合わせ任意の割合で混合して用いることもできる。
【0025】
スルホン基置換アニリンとしては、o−,m−またはp−アミノベンゼンスルホン酸、アニリン−2,6−ジスルホン酸、アニリン−2,5−ジスルホン酸、アニリン−3,5−ジスルホン酸、アニリン−2,4−ジスルホン酸、アニリン−3,4−ジスルホン酸等のアミノベンゼンスルホン酸類;メチルアミノベンゼンスルホン酸、エチルアミノベンゼンスルホン酸、n−プロピルアミノベンゼンスルホン酸、iso−プロピルアミノベンゼンスルホン酸、n−ブチルアミノベンゼンスルホン酸、sec−ブチルアミノベンゼンスルホン酸、t−ブチルアミノベンゼンスルホン酸等のアルキル基置換アミノベンゼンスルホン酸類;メトキシアミノベンゼンスルホン酸、エトキシアミノベンゼンスルホン酸、プロポキシアミノベンゼンスルホン酸等のアルコキシ基置換アミノベンゼンスルホン酸類;ヒドロキシ基置換アミノベンゼンスルホン酸類;ニトロ基置換アミノベンゼンスルホン酸類;フルオロアミノベンゼンスルホン酸、クロロアミノベンゼンスルホン酸、ブロムアミノベンゼンスルホン酸等のハロゲン置換アミノベンゼンスルホン酸類;などを挙げることができる。これらのなかでは、アミノベンゼンスルホン酸類、アルキル基置換アミノベンゼンスルホン酸類、アルコキシ基置換アミノベンゼンスルホン酸類、ヒドロキシ基置換アミノベンゼンスルホン酸類などが実用上好ましい。これらのスルホン酸基置換アニリンはそれぞれ単独で用いてもよく、2種以上を任意の割合で混合して用いてもよい。
【0026】
カルボキシ基置換アニリンとしては、o−,m−またはp−アミノベンゼンカルボン酸、アニリン−2,6−ジカルボン酸、アニリン−2,5−ジカルボン酸、アニリン−3,5−ジカルボン酸、アニリン−2,4−ジカルボン酸、アニリン−3,4−ジカルボン酸等のアミノベンゼンカルボン酸類;メチルアミノベンゼンカルボン酸、エチルアミノベンゼンカルボン酸,n−プロピルアミノベンゼンカルボン酸、iso−プロピルアミノベンゼンカルボン酸、n−ブチルアミノベンゼンカルボン酸、sec−ブチルアミノベンゼンカルボン酸、t−ブチルアミノベンゼンカルボン酸等のアルキル基置換アミノベンゼンカルボン酸類;メトキシアミノベンゼンカルボン酸、エトキシアミノベンゼンカルボン酸、プロポキシアミノベンゼンカルボン酸等のアルコキシ基置換アミノベンゼンカルボン酸類;ヒドロキシ基置換アミノベンゼンカルボン酸類;ニトロ基置換アミノベンゼンカルボン酸類;フルオロアミノベンゼンカルボン酸、クロロアミノベンゼンカルボン酸、ブロムアミノベンゼンカルボン酸等のハロゲン基置換アミノベンゼンカルボン酸類;などを挙げることができる。これらのなかでは、アミノベンゼンカルボン酸類、アルキル基置換アミノベンゼンカルボン酸類、アルコキシ基置換アミノベンゼンカルボン酸類、ヒドロキシ基置換アミノベンゼンカルボン酸類などが実用上好ましい。これらのカルボキシ基置換アニリンはそれぞれ単独で用いても、また2種以上を任意の割合で混合して用いても良い。
【0027】
上記酸化重合において、成分(B)の使用量は、得られる成分(A)の導電性が向上する点で、モノマー1モルに対して0.5〜3モルが好ましく、0.5〜2モルがより好ましい。
【0028】
酸化重合に用いる酸化剤は、標準電極電位が0.6V以上である酸化剤であれば特に限定されないが、ペルオキソ二硫酸、ペルオキソ二硫酸アンモニウム、ペルオキソ二硫酸ナトリウムおよびペルオキソ二硫酸カリウムなどのペルオキソ二硫酸類、過酸化水素等が好ましく用いられる。これらの酸化剤は、いずれか1種を単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。
酸化剤の使用量は、モノマー1モルに対して1〜5モルが好ましく、1〜3モルがより好ましい。
【0029】
重合方法として、より具体的には、酸化剤溶液中にモノマー溶液を滴下する方法、モノマー溶液中に酸化剤溶液を滴下する方法、別の反応器に酸化剤溶液およびモノマー溶液を同時に滴下する反応方法が挙げられる。
また、このとき、触媒として、鉄、銅などの遷移金属化合物を添加することも有効である。
重合は、重合系内を撹拌しながら行うことが好ましい。攪拌は、通常、攪拌動力0.01〜5kw/mで行うことが好ましい。
重合時の反応温度は、50℃以下が好ましく、−15〜50℃がより好ましく、−10〜40℃がさらに好ましい。該反応温度が50℃を越えると、副反応の進行や、主鎖の酸化還元構造の変化により導電性が低下するおそれがある。また、−15℃未満では、反応時間が長びくことがある。
【0030】
重合後、得られた反応液中には未反応のモノマーが溶解している。そのため、該反応液から生成物を分離する操作を行う。この際用いる分離装置としては、減圧濾過、加圧濾過、遠心分離、遠心濾過等が用いられるが、特に遠心分離、遠心濾過などの分離装置を用いることが、高純度のものが得られやすく好ましい。
分離後、得られた生成物の精製を行ってもよい。精製は、洗浄溶剤を用いて実施でき、該洗浄溶剤としては、メタノール、エタノール、iso−プロパノール、n−プロパノール、t−ブタノール等のアルコール類、アセトン、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド,N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド等が、高純度のものが得られるため好ましい。特にメタノール、エタノール、iso−プロパノール、アセトン、アセトニトリルが効果的である。
【0031】
上記の様にして得られた生成物中には、成分(A)と、成分(B)とが塩を形成して存在している。そのため、これを溶剤(C)に溶解することにより、本発明に用いられる導電性組成物が得られる。
導電性組成物中、成分(A)の含有量は、溶剤(C)100質量部に対して0.5〜10質量部が好ましく、0.5〜5質量部がより好ましい。該含有量が0.5質量部以上であると、導電性が充分に得られ、10質量部以下であると、導電性組成物の粘度が高くなりすぎるのを防止でき、取り扱いが容易である。
導電性組成物中、成分(B)の含有量は成分(A)100質量部に対して1〜50質量部が好ましく、1〜30質量部がより好ましい。該含有量が1質量部以上であると、成分(A)の溶解性が向上し、30質量部以下であると、導電性が向上する。
【0032】
本発明においては、上記導電性組成物を基材に塗布して塗膜を形成する工程と、前記塗膜に対し、125〜180℃で加熱処理を行う工程とを順次行うことにより導電体を製造する。
導電性組成物を塗工する基材としては、特に限定されず、高分子化合物、木材、紙材、セラミックス及びそれらフィルムまたはガラス板などが用いられる。例えば高分子化合物からなる基材としては、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリスチレン、ABS樹脂、AS樹脂、メタクリル樹脂、ポリブタジエン、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリフッ化ビニリデン、ポリアミド、ポリイミド、ポリアラミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルニトリル、ポリアミドイミド、ポリエーテルサルホン、ポリサルホン、ポリエーテルイミド、ポリブチレンテレフタレート等のいずれか1種または2種以上を含有する高分子フィルムなどが挙げられる。これらの高分子フィルムは、少なくともその一つの面上に、前記導電性組成物からなる導電膜を形成させるため、該導電膜の密着性を向上させる目的で上記フィルム表面にコロナ表面処理またはプラズマ処理が施されていることが好ましい。
【0033】
導電性組成物の塗工方法としては、一般に塗料の塗工に用いられる方法が利用できる。例えばグラビアコーター、ロールコーター、カーテンフローコーター、スピンコーター、バーコーター、リバースコーター、キスコーター、ファンテンコーター、ロッドコーター、エアドクターコーター、ナイフコーター、ブレードコーター、キャストコーター、スクリーンコーター等の塗布方法、スプレーコーティング等の噴霧方法、ディップ等の浸漬方法等が用いられる。
【0034】
前記塗膜に対する加熱処理は、125〜180℃が好ましい。
該加熱処理の温度が125℃以上であると、当該加熱処理により、成分(A)と塩を形成している成分(B)を揮発させることができ、高い導電性を発現する導電体が得られる。一方、該温度が125℃未満の場合は導電性組成物からの成分(B)の揮発が充分でなく導電性が充分発現しない。該温度が180℃を超えると、成分(A)の分解が生じ、酸性ガスを発生するおそれがある。
【実施例】
【0035】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
[製造例1(重合体粉末(1)の製造)]
2−アミノアニソール−4−スルホン酸100mmolを0℃で4mol/l濃度のN,N−ジメチルアニリンの水:アセトニトリル=5:5溶液30ml(N,N−ジメチルアニリン120mmol)に溶解し、ペルオキソ二硫酸アンモニウム100mmolを含む水:アセトニトリル5:5溶液100ml中に冷却下で滴下した。滴下終了後25℃で12時間更に攪拌したのち、反応生成物を遠心濾過器にて濾別後、メチルアルコールにて洗浄後乾燥し、重合体粉末(1)12gを得た。
【0036】
[製造例2(重合体粉末(2)の製造)]
2−アミノアニソール−4−スルホン酸100mmolを0℃で4mol/l濃度のピリジンの水:アセトニトリル3:7溶液30mlに溶解し(ピリジン120mmol)、ペルオキソ二硫酸アンモニウム100mmolを含む水:アセトニトリル3:7溶液100ml中に冷却下で滴下した。滴下終了後25℃で12時間更に攪拌したのち、反応生成物を遠心濾過器にて濾別後、メチルアルコールにて洗浄後乾燥し、重合体粉末(2)16gを得た。
【0037】
[製造例3(重合体粉末(3)の製造)]
2−アミノアニソール−4−スルホン酸100mmolを0℃で4mol/l濃度のα−ピコリンの水:アセトニトリル3:7溶液30mlに溶解し(α−ピコリン120mmol)、ペルオキソ二硫酸アンモニウム100mmolを含む水:アセトニトリル3:7溶液100ml中に冷却下で滴下した。滴下終了後25℃で12時間更に攪拌したのち、反応生成物を遠心濾過器にて濾別後、メチルアルコールにて洗浄後乾燥し、重合体粉末(3)16gを得た。
【0038】
[製造例4(重合体粉末(4)の製造)]
2−アミノアニソール−4−スルホン酸100mmolを0℃で4mol/l濃度のトリエタノールアミンの水:アセトニトリル3:7溶液30mlに溶解し(トリエタノールアミン120mmol)、ペルオキソ二硫酸アンモニウム100mmolを含む水:アセトニトリル7:3溶液100ml中に冷却下で滴下した。滴下終了後25℃で12時間更に攪拌したのち、反応生成物を遠心濾過器にて濾別後、メチルアルコールにて洗浄後乾燥し、重合体粉末(4)12gを得た。
【0039】
[製造例5(重合体粉末(5)の製造)]
2−アミノアニソール−4−スルホン酸100mmolを0℃で4mol/l濃度のジエタノールアミンの水:アセトニトリル3:7溶液30mlに溶解し(ジエタノールアミン120mmol)、ペルオキソ二硫酸アンモニウム100mmolを含む水:アセトニトリル7:3溶液100ml中に冷却下で滴下した。滴下終了後25℃で12時間更に攪拌したのち、反応生成物を遠心濾過器にて濾別後、メチルアルコールにて洗浄後乾燥し、重合体粉末(5)11gを得た。
【0040】
[製造例6(重合体粉末(6)の製造)]
2−アミノアニソール−4−スルホン酸100mmolを0℃で4mol/l濃度のトリエチルアミンの水:アセトニトリル3:7溶液30mlに溶解し(トリエチルアミン120mmol)、ペルオキソ二硫酸アンモニウム100mmolを含む水:アセトニトリル3:7溶液100ml中に冷却下で滴下した。滴下終了後25℃で12時間更に攪拌したのち、反応生成物を遠心濾過器にて濾別後、メチルアルコールにて洗浄後乾燥し、重合体粉末(1)17gを得た。
【0041】
[製造例7(重合体粉末(7)の製造)]
2−アミノアニソール−4−スルホン酸100mmolを0℃で4mol/l濃度のジエチルアミンの水:アセトニトリル=5:5溶液30mlに溶解し(ジエチルアミン120mmol)、ペルオキソ二硫酸アンモニウム100mmolを含む水:アセトニトリル5:5溶液100ml中に冷却下で滴下した。滴下終了後25℃で12時間更に攪拌したのち、反応生成物を遠心濾過器にて濾別後、メチルアルコールにて洗浄後乾燥し、重合体粉末(7)16gを得た。
【0042】
[調製例1〜7]
(1.導電性組成物の調製)
室温にて、表1に示す重合体粉末を、溶剤(C)に、表1に示す配合量で溶解して導電性組成物1〜7を調製した。
また、表1に、各重合体粉末の製造に用いた成分(B)の種類とそのpKaを併記する。
【0043】
【表1】

【0044】
[試験例1(導電性評価)]
ガラス基材に、上記導電性組成物1〜をそれぞれスピンコート塗布(500rpm×5秒間+2000rpm×60秒間)した後、ホットプレートにて表2に示す温度で2分間加熱処理を行い、膜厚約0.1μmの導電膜を形成して導電体を得た。
得られた導電体の表面抵抗値を、ハイレスタMCP−HT260(三菱化学社製)を用い2端子法(電極間距離20mm)にて測定した。その結果を表2に示す。また、その結果から、加熱処理の温度(ベイク温度)を横軸にとり、表面抵抗値を縦軸にとってグラフを作成した。該グラフを図1に示す。
これらの結果から、ベイク温度が125℃以上になると、得られる導電膜の表面抵抗値が急激に低下し、導電性が向上することが確認できた。
【0045】
【表2】

【0046】
[試験例2(揮発状態評価)]
導電性組成物2(成分(B)としてピリジンを使用)、および導電性組成物6(成分(B)としてトリエチルアミンを使用)について、加熱発生ガス質量分析(EGA−MS)法を用い、下記測定条件にて、成分(B)の揮発状態の分析を実施した。結果を図2〜3に示す。
(測定条件)
測定温度:50℃〜200℃(昇温速度 5℃/min)
【0047】
図2は、導電性組成物2について、EGA−MSにてピリジン(pka=5.2、沸点115℃)の代表的なイオン(m/z)=79の揮発を観察した結果である。図3は導電性組成物6について、EGA−MSにてトリエチルアミン(pka=10.9、沸点90℃)の代表的なイオン(m/z)=86の揮発を観察した結果である。
これらの結果より、導電性組成物2中のピリジンは、70℃付近から揮発しはじめ、125〜180℃の温度範囲においてその大部分が除去されていることが確認できた。
一方、導電性組成物6中のトリエチルアミンは、ピリジンに比べて揮発しにくく、加熱後も導電性組成物中に残存しやすいことが確認できた。
これらの結果から、pKa10以下の塩基性化合物が、pKa10超の塩基性化合物に比べて、125〜180℃の加熱により除去しやすいことが示された。導電体中に残存する塩基性化合物は導電性に悪影響を及ぼすと考えられることから、成分(B)としては、pKa10以下の塩基性化合物が好適である。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】試験例1において、導電性組成物1〜7について、横軸にベイク温度(℃)、縦軸に導電体の表面抵抗値(Ω)をプロットしたグラフであり。
【図2】試験例2において、導電性組成物2について、EGA−MSにてピリジン(pka=5.2、沸点115℃)の揮発を観察した結果である。
【図3】試験例2において、導電性組成物6について、EGA−MSにてトリエチルアミン(pka=10.9、沸点90℃)の揮発を観察した結果である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スルホン酸基および/またはカルボキシ基を有する水溶性導電性ポリマー(A)、塩基性化合物(B)、および溶剤(C)を含む導電性組成物を基材に塗布して塗膜を形成する工程と、前記塗膜に対し、125〜180℃で加熱処理を行う工程とを順次行う導電体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−67448(P2010−67448A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−232292(P2008−232292)
【出願日】平成20年9月10日(2008.9.10)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】