説明

導電性クリヤー用水性組成物

【課題】透明性かつ導電性を有する被膜を形成可能で、しかも環境安全性および分散性に優れた導電性クリヤー用水性組成物を提供すること。
【解決手段】分子中に芳香環を有するスルホン酸系分散剤、アクリル系分散剤およびバインダー樹脂を含む水系媒体中に、少なくともシングルウォールカーボンナノチューブが分散された導電性クリヤー用水性組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性クリヤー用水性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
導電性被膜を得るための導電性塗料は、従来より、導電性顔料として黒色を中心とした有色タイプのものを用いた塗料が大半であり、添加量も多量であるため、導電性および透明性の高い被膜を得るのは困難であるとされていた。透明性の高い導電性被膜を得るための塗料としては、酸化インジウムを使用したものが知られている。しかしながら、酸化インジウムを用いた塗料は、酸化インジウムが高価であり、資源としての量にも限界があることが問題となっていた。
【0003】
そこで、基材の少なくとも片面に、極細導電繊維を含んだ透明な導電層が形成された電磁波シールド体であって、上記極細導電繊維が凝集することなく分散して互いに接触し、上記導電層が10Ω/□以下の表面抵抗率を備えていることを特徴とする電磁波シールド体が報告されている(特許文献1)。しかしながら、上記導電層を形成するための塗液はバインダーを揮発性溶剤に溶解した溶液に極細導電繊維を分散させて調製されるため、環境安全性の観点からVOC(揮発性有機化合物)が問題となっていた。
【特許文献1】特開2004−253796号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
環境安全性の問題を解決するために、水系樹脂(エマルジョン、コロイダルディスパージョン、水溶性)をバインダーとして系中に添加すると、塗液の分散性が低下し、凝集が顕著に起こった。凝集が顕著に起こった塗液は被膜形成のための使用に耐えない。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、すなわち、透明性かつ導電性を有する被膜を形成可能で、しかも環境安全性および分散性に優れた導電性クリヤー用水性組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は分子中に芳香環を有するスルホン酸系分散剤、アクリル系分散剤およびバインダー樹脂を含む水系媒体中に、少なくともシングルウォールカーボンナノチューブが分散された導電性クリヤー用水性組成物に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の導電性クリヤー用水性組成物はシングルウォールカーボンナノチューブおよびバインダー樹脂を、分子中に芳香環を有するスルホン酸系分散剤およびアクリル系分散剤とともに含有するため、調製時の分散性が良好であり、また透明性かつ導電性に優れた被膜を形成可能である。しかも本発明の導電性クリヤー用水性組成物は水系媒体が使用され、VOCの問題がほとんどないので、環境安全性が良好である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
(導電性クリヤー用水性組成物)
本発明の導電性クリヤー用水性組成物(以下、単に「水性組成物」という)は導電性クリヤー(導電性透明被膜)を形成するための水性組成物であり、少なくともシングルウォールカーボンナノチューブが、分子中に芳香環を有するスルホン酸系分散剤、アクリル系分散剤およびバインダー樹脂を含む水系媒体中に分散されているものである。
【0009】
シングルウォールカーボンナノチューブ(以下、単に「SWCNT」という)は、中心軸線の周りに、カーボンより形成される六角網目状シートを1枚で円筒状に巻いた構造を有するものである。SWCNTを用いることによって、添加量が比較的少量であっても、所望の導電性を有しつつ、透明性が顕著に優れた透明被膜を形成できる。透明性水性組成物中においてSWCNTは1本ずつ分離した状態で分散していてもよいし、または複数本が束になった状態で分散していてもよい。SWCNTの代わりにチューブ形態を有しない単なるカーボンブラック等の従来の導電性材料を用いると、所望の透明性が得られず、またSWCNTの代わりにマルチウォールカーボンナノチューブを用いた場合も、形成される被膜の透明性が低下する。
【0010】
SWCNTの寸法は通常、軸方向長さは1〜20μm、特に2〜15μmであり、外径は0.3〜2.0nm、特に0.5〜1.5nmである。
【0011】
そのようなSWCNTは市販品として、Shenzhen Nanotech Port Co.,Ltd.等より入手可能である。具体的には、「L.SWNT」(Shenzhen Nanotech Port Co.,Ltd.製)等が使用可能である。
【0012】
SWCNTの含有量は、本発明の目的が達成される限り特に制限されるものではなく、通常は水性組成物全量に対して0.1〜1.0重量%、特に0.1〜0.5重量%が好ましい。
【0013】
バインダー樹脂は、水性組成物中、分散されていてもよいし、または溶解されていてもよい。そのようなバインダー樹脂としては、水性組成物中、分散可能であるか、または溶解可能である水性樹脂であれば特に制限されず、例えば、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、アクリルシリコン系樹脂、非塩素化ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂等が挙げられる。バインダー樹脂が水性組成物中、分散される場合における分散粒子の平均一次粒径は通常、0.01〜1μm、好ましくは0.1〜1μmである。平均一次粒径はゼータサイザーナノ(シスメックス(株)製)によって測定され得る。
【0014】
バインダー樹脂が水性組成物中、分散される場合の当該水分散型バインダー樹脂は通常、市販品として水系分散液の形態で入手可能であり、好ましくは上記平均一次粒径で既に分散されたものが使用される。
ウレタン系樹脂の水系分散液は、例えば、ハイドランHW171(大日本インキ化学工業(株)製)、ハイドランAP−40N(大日本インキ化学工業(株)製)等として入手可能である。
アクリル系樹脂の水系分散液は、例えば、ボンコートHY364(大日本インキ化学工業(株)製)、ネオクリルXK−12(DSM社製)等として入手可能である。
アクリルシリコン系樹脂の水系分散液は、例えば、カネビノールKD4(日本NSC(株)製)等として入手可能である。
非塩素化ポリオレフィン系樹脂の水系分散液は、例えば、アローベースSB1010(ユニチカ(株)製)等として入手可能である。
ポリエステル系樹脂の水系分散液は、例えばバイロナールMD1245(東洋紡績(株)製)等として入手可能である。
【0015】
バインダー樹脂が水性組成物中、溶解される場合の当該溶解型バインダー樹脂は通常、市販品として水溶液の形態で入手可能である。
アクリル系樹脂の水溶液は、例えば、ジョンクリル60(ジョンソンポリマー(株)製)等として入手可能である。
【0016】
バインダー樹脂の水性組成物中における含有量は、本発明の目的が達成される限り特に制限されるものではなく、通常はSWCNT100重量部に対して100〜1200重量部が好適であり、被膜の強度の向上と被膜の導電性のさらなる向上との観点からは400〜1000重量部が好ましい。バインダー樹脂の上記含有量は樹脂自体の含有量を示すものであり、当該バインダー樹脂がいかなる形態で使用される場合においても、樹脂固形分の量が上記範囲内であればよい。
【0017】
本発明の水性組成物を構成する水系媒体は水であり、当該水系媒体に対して少なくとも分子中に芳香環を有するスルホン酸系分散剤およびアクリル系分散剤は溶解され、上記SWCNTは分散され、上記バインダー樹脂は分散または溶解されている。なお、本発明の目的を達成できる限り、水系媒体には有機溶剤が含有されていてもよい。
【0018】
分子中に芳香環を有するスルホン酸系分散剤は、界面活性剤の分野で従来より使用されているいわゆる陰イオン性界面活性剤であって、ナフタレンスルホン酸含有化合物、ベンゼンスルホン酸含有化合物やスチレンスルホン酸含有化合物等が使用される。スルホン酸基はナトリウムやカリウム等の金属塩の形態を有していても良い。
【0019】
そのようなナフタレンスルホン酸含有化合物としては、例えばデモールN、デモールNL、デモールRN(以上花王(株)製)、ポリティN−100K(ライオン(株)製)等が使用される。ベンゼンスルホン酸含有化合物としては、例えば、ネオぺレックスNo.6、ネオぺレックスG−65(以上花王(株)製)等が使用される。スチレンスルホン酸含有化合物としては、例えばポリティPS−1900(ライオン(株)製)等が使用される。
【0020】
アクリル系分散剤は、界面活性剤の分野で従来より使用されている陰イオン性のポリアクリル酸エステル共重合物やポリαメチルスチレン−スチレン−アクリル酸共重合物等が使用される。
【0021】
そのようなポリアクリル酸エステル共重合物は、例えば、市販のジュリマー60、ジュリマー80(以上 日本純薬(株)製)として入手可能である。ポリαメチルスチレン−スチレン−アクリル酸共重合物は、例えば、ジョンクリル57(ジョンソンポリマー(株)製)等として入手可能である。
【0022】
本発明では上記のように分子中に芳香環を有するスルホン酸系分散剤とアクリル系分散剤とを併用するが、それらのうちいずれか一方しか用いない場合、および両方ともに用いない場合、たとえそれら以外の分散剤(例えば、ラウリル硫酸ナトリウム塩等の界面活性剤)を用いたとしても、水性組成物調製時の分散性が低下し、水性組成物中においてSWCNTを分散することができない。そのため導電性クリヤーを形成できない
【0023】
水性組成物の分散性の観点から、本発明の水性組成物には分子中に芳香環を有するスルホン酸系分散剤として2種類以上含有されることが好ましい。特に、分子中に芳香環を有するスルホン酸系分散剤として、ナフタレンスルホン酸含有化合物とベンゼンスルホン酸含有化合物とを併用することがより好ましい。
【0024】
分子中に芳香環を有するスルホン酸系分散剤およびアクリル系分散剤それぞれの水性組成物中における含有量は、本発明の目的が達成される限り特に制限されるものではなく、水性組成物調製時の分散性および被膜の導電性のさらなる向上の観点からは以下の範囲内であることが好ましい。なお、以下の範囲はSWCNT100重量部に対する値である。
分子中に芳香環を有するスルホン酸系分散剤;200〜600重量部;特に300〜500重量部
アクリル系分散剤;50〜300重量部;特に100〜200重量部。
【0025】
分子中に芳香環を有するスルホン酸系分散剤を2種類以上使用する場合はそれらの合計量が上記範囲内であればよい。
アクリル系分散剤も2種類以上使用されてよく、その場合それらの合計量が上記範囲内であればよい。
【0026】
本発明の水性組成物には、レベリング剤、消泡剤、増粘剤等の添加剤がさらに含有されていてもよい。
【0027】
(製造方法)
本発明の導電性クリヤー用水性組成物は、分子中に芳香環を有するスルホン酸系分散剤およびアクリル系分散剤を含有する水溶液中にSWCNTを超音波分散機により分散させた後、該分散液にバインダー樹脂を添加・混合することによって製造可能である。
【0028】
SWCNTが添加される水溶液中の分子中に芳香環を有するスルホン酸系分散剤およびアクリル系分散剤の濃度は、後の工程で添加されるバインダー樹脂の水系分散液又は水溶液に含まれる水を考慮して、最終的に得られる水性組成物での濃度が前記範囲内になるように設定される。またそのように設定されることは、SWCNTの分散性の観点から好ましい。
【0029】
分散を行う超音波分散機は、被処理物に対して超音波を照射することで被処理物の混合・分散を達成するものである。超音波照射条件として、本発明の目的が達成される限り特に制限されず、例えば、分散工程での全量を500gとすると振幅は20〜40μm、特に30〜40μmであり、流速は1〜10g/s、特に2〜5g/sであり、処理時間は5〜120分間、特に10〜70分間であることが好ましい。そのような超音波照射が可能な分散機として、例えば、UH600(SMT(株)製)、RUS−600((株)日本精機製作所製)等が使用可能である。
【0030】
超音波分散機による他の分散条件は以下に示す範囲が好ましい;
冷却水温度5〜30℃;特に5〜15℃。
【0031】
分散を行った後は、得られた分散液に所定量のバインダー樹脂を添加し、撹拌して本発明の水性組成物を得る。バインダー樹脂は通常、水系分散液又は水溶液の形態で使用される。バインダー樹脂の添加は通常、系を撹拌しながら行われ、添加後は3〜30分間、特に5〜10分間撹拌を継続することが好ましい。得られた水性組成物は所望により遠心分離に供して上澄み液を用いてもよい。
【0032】
(導電性クリヤー塗膜)
導電性クリヤー塗膜(導電性透明被膜)は本発明の水性組成物を基材上に塗布し、乾燥することによって簡便に形成可能である。
【0033】
形成された導電性クリヤーは導電性および透明性に優れており、詳しくは例えば、PETフィルム上に形成された導電性クリヤーの膜厚が30〜600nmのときで、以下の物性値を達成する;
表面抵抗値1.0×1011Ω/□以下、全光線透過率80%以上、好ましくは85%以上;およびヘイズ5%以下、好ましくは2%以下。
【0034】
表面抵抗値は導電性クリヤー塗膜(導電性透明被膜)の単位表面積あたりの電気抵抗であり、本明細書中、表面抵抗値はロレスターEP(三菱化学(株)製)により測定された値を用いている。
【0035】
全光線透過率はクリヤー塗膜(透明被膜)への入射光に対する透過光の割合であって、散乱光も含めた透過光の割合であり、積分球を用いた装置で測定され得るJIS K 7361に基づく値である。本明細書中、全光線透過率はヘイズメーターNDH2000(日本電色工業(株)製)により測定された値を用いている。
【0036】
ヘイズはクリヤー塗膜(透明被膜)の内部又は表面の不明瞭なくもり様の外観の度合いのことで、散乱光も含めた透過光に対する散乱光の割合であり、積分球を用いた装置で測定され得るJIS K 7136に基づく値である。本明細書中、ヘイズは全光線透過率と同様ヘイズメーターNDH2000(日本電色工業(株)製)により測定された値を用いている。
【0037】
上記物性値は、PETフィルム(東洋紡績(株)製;全光線透過率90.1%、ヘイズ0.9、および厚み125μm)基板上に形成されたクリヤー塗膜(透明被膜)を基板ごと測定に供して得られた値である。
【0038】
また導電性クリヤー塗膜の強度は、水性組成物中におけるSWCNTに対するバインダー樹脂の含有量を前記範囲内で大きく設定することによって、向上させることができる。
【実施例】
【0039】
以下、「部」は「重量部」を意味するものとする。
(実施例1)
98.0部の水にナフタレンスルホン酸系分散剤(デモールN;花王(株)製)0.2部、ドデシルベンゼンスルホン酸塩の分散剤(ネオペレックスG−65;花王(株)製)0.2部、アクリル系分散剤(ジュリマー60;日本純薬(株))0.1部を溶解させた溶液に、0.1部のSWCNT(L.SWNT;Shenzhen Nanotech Port Co.,Ltd.製)を加え、乳鉢で解した。
続いて混合液を超音波分散機(UH600;SMT(株)製)にて出力ゲージ5、ポンプゲージ16(流速4g/s)、冷却水温度10℃で60分間分散させた。
その後、分散液をディスパー撹絆機により周速1.6m/sで撹絆しながら当該分散液にウレタン系樹脂の水系分散液(ハイドランHW171;大目本インキ化学工業(株)製)1.4部を添加し、更に5分間撹拌し、水性組成物を得た。
【0040】
(実施例2〜5、比較例1〜2および参考例1)
導電性材料及びバインダー樹脂の種類を表1に記載のように変更したこと、各種成分の使用量を表1に記載のように変更したこと以外、実施例1と同様の方法により、水性組成物を調製した。比較例1、2については、分散性が悪く、分散時にSWCNTの凝集が解れず、分散されなかったため、評価は行わなかった。
【0041】
(評価)
・分散性
調製直後の水性組成物の分散性を以下の基準に従って目視により評価した。
○;凝集・沈殿が全く観察されなかった;
△;凝集・沈殿が僅かに観察されたが実用上問題なかった;
×;凝集・沈殿が観察され実用上問題があった。
【0042】
調製直後の水性組成物をバーコーターNo.3を用い、PETフィルム(東洋紡績(株)製;125μmフィルム)に塗布した後、100℃で60秒加熱乾燥し、被膜を得た。当該被膜を、以下の評価項目について評価した。なお、PETフィルム単独の全光線透過率は90.1%、ヘイズは0.9である。
【0043】
・表面抵抗値
表面抵抗値は前記した方法により測定した。
【0044】
・全光線透過率およびヘイズ
全光線透過率およびヘイズは前記した方法により測定した。
【0045】
評価結果を膜厚とともに表1に示した。膜厚は下記式に基づいて算出した値である。
t=m(1/dt−ws/100ds)
t=ドライ膜厚理論値(μm)
m=単位面積あたりの塗布量(g/m
dt=塗料の比重(g/cm
ds=揮発分の比重(g/cm
ws=揮発分の重量比(%)
【0046】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の導電性クリヤー用水性組成物は、電子部品分野の帯電防止材として有用な導電性クリヤー塗膜(導電性透明被膜)を形成するための塗料に適している。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子中に芳香環を有するスルホン酸系分散剤、アクリル系分散剤およびバインダー樹脂を含む水系媒体中に、少なくともシングルウォールカーボンナノチューブが分散された導電性クリヤー用水性組成物。
【請求項2】
表面抵抗値1.0×1011Ω/□以下の導電性クリヤーを形成する請求項1に記載の導電性クリヤー用水性組成物。
【請求項3】
全光線透過率80%以上の導電性クリヤーを形成する請求項1または2に記載の導電性クリヤー用水性組成物。



【公開番号】特開2007−238859(P2007−238859A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−65978(P2006−65978)
【出願日】平成18年3月10日(2006.3.10)
【出願人】(594147534)大同塗料株式会社 (6)
【Fターム(参考)】