説明

導電性ナノファイバー

【課題】高分子の特性のみを反映するものでなく、エレクトロスピニング法により作製されるナノファイバーにこれまでにない機能性を持たせることのできる新しいナノファイバーとその製造方法、特に、優れた導電性を有する高分子ナノファイバーを提供する。
【解決手段】エレクトロスピニング法により形成された高分子ナノファイバーに導電性を与えるために、該ナノファイバーにイオンを照射することにより、導電性を賦与した。原料高分子の特性はそのまま発現する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、ナノファイバーに関し、更に詳しくは、イオン注入された優れた導電性を有するナノファイバーに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、サブミクロンスケールの直径を持つファイバーを簡単に作製できる技術として、エレクトロスピニング法が注目されている。この方法は、高分子溶液に高電圧を印加することによって溶液をスプレーし、ファイバーを形成させるものである。ファイバーの太さは、印加電圧、溶液濃度およびスプレーの飛散距離に依存する。
【0003】
これまでの研究から、工業用熱可塑性ポリマー、生分解性ポリマー、ポリマーブレンド、そして、無機化合物を混入した複合材のファイバーがエレクトロスピニング法によって紡糸されている。ここ数年では、アルミナ、酸化ジルコニウム、酸化チタン、チタン酸ジルコン酸鉛等のセラミックスナノファイバーの作製例が盛んに報告されてもいる。通常、エレクトロスピニング法においては、溶媒に材料を溶解した溶液を紡糸材料として用いている。
【0004】
このエレクトロスピニング法により、例えば、各種形状の穴を有する電極を回転させてファイバーの配向をそろえるようにすること、糸巻き状のものをコレクタに、もしくは紡糸開始点とコレクタとの間に配置してナノファイバーを巻き取り配向性の不織布を得ること、紡糸開始点を2つ設定し2層構造や混合したファイバーを作製すること等が報告されている。
【0005】
このような進展が見られるエレクトロスピニング法によれば、基板上に連続的にファイバーを作製することによって、立体的な網目をもつ3次元構造の薄膜が得られることや、機能性薄膜を3次元構造にすることで、新しい特性の発見や機能の向上が期待できる。また、この手法では膜を布のように厚くすることが可能で、サブミクロンの網目をもつ不織布を作製することができる。この不織布は様々な新機能を有する布として、宇宙服や防護服などへの応用のほか、人工皮膚や人工臓器などへの応用が研究されている。
【0006】
しかしながら、高分子からなるナノファイバーは、エレクトロスピニング法により比較的容易に作製することができるものの、得られたナノファイバー不織布は、材料となった高分子の特性のみを反映するものでそれ以上の機能は望めないのが実情であった(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2006−326562号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本願発明は、以上のような背景から、従来技術の問題点を解消し、材料となった高分子の特性のみを反映するものでなく、エレクトロスピニング法により作製されるナノファイバーにこれまでにない機能性を持たせることのできる新しいナノファイバーとその製造方法を提供することを課題としている。
【0008】
特に、本願発明の課題は、優れた導電性を有する高分子ナノファイバーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明は、エレクトロスピニング法により形成された高分子ナノファイバーに導電性を与えるために、該ナノファイバーにイオンを照射することにより、上記課題を解決した。
【0010】
上記高分子としては、ポリイミド(PI)、ポリスチレン(PS)、ポリカーボネイト(PC)、ポリビニルクロライド(PVC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリアミド(PA)、ポリウレタン(PU)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリ乳酸(PLA)、ポリエチレングリコール(PEG)等およびこれらの混合体が挙げられる。
【0011】
照射するイオンとしては、ヘリウム、ネオン、アルゴン、酸素、窒素、クリプトン又は金属等が挙げられる。
【発明の効果】
【0012】
本願発明は、エレクトロスピニング法により形成された高分子ナノファイバーにイオンを照射することにより、該ナノファイバーに有効な導電性を与えることができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、本願発明を実施するための最良の形態を示す。
【実施例1】
【0014】
図1に示すように、エレクトロスピニング法の装置は、先の尖ったプラス電極(キャピラリー)と、平面状のマイナス(アース)電極で構成されている。両電極間には高電圧が印加されており、キャピラリーを出た電荷を帯びた溶融ポリマーまたはポリマー溶解液は、電界中をマイナス電極に向かって吸い寄せられる。このとき、ポリマーが低分子だとスプレー状になり、高分子だと複数に分かれた繊維がマイナス電極に向かって吸い寄せられ、電極上で薄い繊維の層を形成する。
【0015】
イオン注入による処理深さをシュミレーションソフトであるTrimより算出した。その結果、ヘリウム、ネオン、アルゴンではそれぞれイオンの潜り込み深さは1540nm、625nm、380nmであり、これらの処理深さにナノファイバー直径を制御した。まず、1540nmの直径のナノファイバーを作製するため、ポリイミド溶液の濃度を190mg/mLに調整し、送液速度2.4mL/h、印加電圧15kVと設定した。625nmの直径のナノファイバーを作製するため、ポリイミド溶液の濃度を170mg/mLに調整し、送液速度0.24mL/h、印加電圧10kVと設定した。380nmの直径のナノファイバーを作製するため、ポリイミド溶液の濃度を120mg/mLに調整し、送液速度0.24mL/h、印加電圧15kVと設定した。すべての条件において、紡糸開始点とコレクタ間の距離を10cmと設定した。コレクタには両端をアルミホイルで覆ったガラス板を用いた。このような条件でエレクトロスピニングによるナノファイバーの作製を行い、一晩、真空乾燥した。
【0016】
上記真空乾燥したナノファイバーに対して、ヘリウム、ネオンおよびアルゴンイオンを3とおりの照射量で照射した。その結果を以下の表1に示す。照射前のナノファイバーの面抵抗は、非常に高く測定不可能であったが、イオン照射することにより、導電性が下記の表に示されるように向上した。
【表1】

【0017】
また、図2に、含フッ素ポリイミド(6FDA−6FAP)のアルゴンを照射した場合と、照射していない場合のラマンスペクトルを示す。
【0018】
図2から、材料が炭素化されたことを示している。まだカーボンナノチューブのような高いグラファイト構造は形成されていないが、今後そのような構造の形成を企画している。

【産業上の利用可能性】
【0019】
本願発明に係る導電性ナノファイバーは、導電率が高いので、帯電防止剤、電磁シールド、電池の電極材料、気体拡散電極、スーパーキャパシタ電極又は線材化の技術がさらに進歩すれば半導体の配線等に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】エレクトロスピニング装置の概念図
【図2】ポリイミドのイオン照射前後のラマンスペクトル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性ナノファイバーの製造方法であって、
導電性部材をエレクトロスピニング装置の電極基板上に配置する行程、
高電圧の印加された高分子を該装置のキャピラリーから該部材に向けてスプレーする行程、
該部材上にナノファイバーを形成する工程及び
該ナノファイバーにイオンを照射する工程を有することを特徴とする導電性ナノファイバーの製造方法。
【請求項2】
請求項1において、上記高分子は、溶融高分子又は高分子が溶媒に溶解した高分子溶液であることを特徴とする導電性ナノファイバーの製造方法。
【請求項3】
請求項1において、上記高分子は、ポリイミドであることを特徴とする導電性ナノファイバーの製造方法。
【請求項4】
請求項1において、上記イオンは、ネオン又はアルゴンであることを特徴とする導電性ナノファイバーの製造方法。
【請求項5】
導電性ナノファイバーであって、エレクトロスピニング法により形成されたナノファイバーにイオンを照射することにより製造されることを特徴とする導電性ナノファイバー。
【請求項6】
請求項5において、上記ナノファイバーは、高分子により形成されていることを特徴とする導電性ナノファイバー。
【請求項7】
請求項6において、上記高分子は、ポリイミドであることを特徴とする導電性ナノファイバー。
【請求項8】
請求項5において、上記イオンは、ネオン又はアルゴンであることを特徴とする導電性ナノファイバー。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−138305(P2009−138305A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−317779(P2007−317779)
【出願日】平成19年12月8日(2007.12.8)
【出願人】(305027401)公立大学法人首都大学東京 (385)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【Fターム(参考)】