説明

導電性ペースト組成物

【課題】高い導電性と良好な密着性を備え、耐熱性と耐湿性にも優れた高い信頼性を有する電極を形成できる導電性ペースト組成物を提供すること。保管中に銀などの金属粉末が沈降、分離することのない導電性ペースト組成物を提供すること。比較的低温の焼成によっても密着性に優れた皮膜が得られる導電性ペーストを提供すること。
【解決手段】本発明の導電性ペースト組成物は、導電性粉末、アルキルシリケート、有機チタンキレートおよび高粘性溶媒を含有する。有機チタンキレートが、チタンジイソプロポキシビス(エチルアセトアセテート)およびチタンジイソプロポキシビス(アセチルアセテート)からなる群から選択される少なくとも1種である

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は導電性ペースト組成物に関し、電子部品の基材、基板などに塗布または印刷し、これを加熱硬化させることにより、優れた接着性と導電性を有する電極、電気配線または皮膜などを形成することのできる導電性ペースト組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
加熱硬化型導電性ペーストを、電子部品の基材または基板などに塗布または印刷し、加熱して硬化させることにより、電極や電気配線を形成する方法が知られている。
【0003】
例えば、導電性ペーストを用いてアモルファスシリコン層を有する太陽電池の集電電極を形成する場合、銀などの導電性金属粉末とエポキシ樹脂またはフェノール樹脂などの熱硬化性樹脂を含有する導電性ペーストを電子部品に印刷し、これを比較的低温で加熱硬化する方法が行われている。
【0004】
しかし、この方法は、導電性ペーストの導電性および基材に対する密着性が変換効率に与える影響が大きいので、変換効率を上げるために、密着性に優れ且つ低抵抗である導電性ペーストが要求されている。このような要求に応えるために、次の技術が提案されている。
【0005】
特許文献1(特開2002−161123号公報)には、銀粉末と、加熱硬化性成分としてブロック化ポリイソシアネート化合物、エポキシ樹脂および硬化剤を含有する導電性ペースト組成物が開示されている。この特許文献1に開示の組成物は、ブロック化ポリイソシアネート化合物の硬化収縮によって銀粉末どうしを密に接触させて低抵抗化し、エポキシ樹脂により高密着性を得るものである。
【0006】
特許文献2(特開平8−92506号公報)には、銀粉末と、分子量が900以上のエポキシ樹脂と、そのエポキシ樹脂の硬化に最低限必要な添加量の2倍以上のイミダゾール系硬化剤とを含有する導電ペーストが開示されている。この特許文献2に開示の導電ペーストは、分子量900以上のエポキシ樹脂の緩やかな硬化により半田付け性を確保し、かつエポキシ樹脂の硬化に十分な量のイミダゾール系硬化剤を含有するので所定の端子引張強度を確保するというものである。
【0007】
特許文献3(特開平7−15022号公報)には、リン片状のニッケル、モリブデンおよび/またはグラファイトであるオーミック性導電粒子、ならびにリン片状の銀粒子またはリン片状の銀粒子と銀粉との混合物を含み、シリコーン系またはフッ素樹脂系の熱硬化性樹脂をバインダーとして用いた導電ペーストにより、オーミック性接触を有し、変換効率の変化が小さい太陽電池用電極が提案されている。
【0008】
従来から、導電性ペーストで形成した電極の信頼性を向上させる方法として、電極の金メッキ処理、電極への封止樹脂のコーティングの処理が行われている。
【0009】
この点で、特許文献1に記載された導電性ペーストは、ブロック化ポリイソシアネート化合物の加熱硬化時の収縮によって銀粉末どうしを密に接触させようとするものであるが、その加熱硬化により生成するウレタン化合物は湿分により劣化して密着性が低下する可能性があるので、必ずしも十分な信頼性を備えているとは言えない。
【0010】
特許文献2に記載された導電ペーストは、樹脂成分として分子量900以上のエポキシ樹脂を使用することで緩やかな硬化により半田付け性を改善しようとするものであるが、分子量900以上のエポキシ樹脂であっても、エポキシ当量が500〜1000のエポキシ樹脂を使用すると、熱硬化時のペーストの収縮により発生した内部応力が原因で、そのペーストからなる電極が基材から剥がれることがある。
【0011】
特許文献3には、得られる電極の比抵抗は50×10-6Ω・cm以上であることが記載されており、これでは十分な導電性を備えているとは言えない。
【0012】
そこで、高い導電性と良好な密着性を備えるとともに耐熱性と耐湿性に優れた電極を形成するために、特許文献4(特開2007−224191号公報)には、シリコーン樹脂と、導電性粉末と、熱硬化性成分と、硬化剤と、溶剤とを含有する導電性ペースト組成物が提案されている。
【0013】
しかし、特許文献4に開示の導電性ペースト組成物では、エポキシ樹脂などの熱硬化性成分を含むので、導電性と密着性には優れているものの、耐熱性が未だ充分とはいえない。
【0014】
そこで、樹脂成分を含まない導電性ペースト組成物として、特許文献5(特開2007−242912号公報)には、銀粉末、ガラスフリット、および有機ビヒクルを含む太陽電池電極用ペーストが提案されている。しかし、この特許文献5に開示の組成物は、ガラスフリットを含むので、形成された電極上への半田の接着性が劣る。さらに、ペーストを焼成するためには500〜900℃の温度を用いる必要があるので、電子部品が熱劣化する。
【0015】
特許文献6(特開2004−71309号公報)には、溶媒、シリカゾルおよび銀微粒子を含有する導電性ペースト組成物が提案されている。しかし、この特許文献6に開示の組成物においては、保管中に銀粒子が沈降、分離する。
【0016】
特許文献7には、a)ゾル−ゲル法によって得られるポリオルガノシロキサンに基づくマトリックス形成縮合物、b)銀などの伝導性充填剤及び/又は触媒活性の充填剤、c)少なくとも150℃の沸点を有する高沸有機溶媒、及びd)レオロジーコントロール剤を含む組成物が提案されている。
【0017】
しかし、特許文献7に開示の組成物は、魚油、セルロースなどのレオロジーコントロール剤を含むので、この組成物を用いて形成された皮膜にこれらの有機物を残さないためには、組成物を400℃以上に加熱する必要がある(実施例)。そのため、この組成物はプラスチックの基板に適用することはできず、また高温で熱劣化する電子部品を備えた箇所へ適用することはできない。
【0018】
特許文献8には、バインダー樹脂、アルコキシシラン化合物、銀粒子を含有する焼結性導電ペーストが開示され、また特許文献9には、特定組成のアルコキシ化合物と銀粒子を含有する焼結性導電ペーストが開示されている。
【0019】
しかし、これらの特許文献8および9に記載のペーストにおいても、接着性を上げるためにバインダー樹脂を含有するために、これを消失させる必要性から300℃以上で加熱をしている。そのため、この焼結性導電ペーストはプラスチックの基板に適用することはできず、また高温で熱劣化する電子部品を備えた箇所へ適用することはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】特開2002−161123号公報
【特許文献2】特開平8−92506号公報
【特許文献3】特開平7−15022号公報
【特許文献4】特開2007−224191号公報
【特許文献5】特開2007−242912号公報
【特許文献6】特開2004−71309号公報
【特許文献7】特表2003−510774号公報
【特許文献8】特開2008−106145号公報
【特許文献9】特開2008−108569号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
本発明は上記従来技術を解消するためになされたものであって、その目的は、高い導電性と良好な密着性を備え、しかも耐熱性と耐湿性にも優れた高い信頼性を有する電極を形成することのできる導電性ペースト組成物を提供することにある。
【0022】
本発明の他の目的は、ガラスフリットなどを含有せず、半田の接着性のよい皮膜が形成される導電性ペースト組成物を提供することにある。
【0023】
本発明のさらに他の目的は、保管中に銀などの金属粉末が沈降、分離することのない導電性ペースト組成物を提供することにある。
【0024】
本発明のさらに他の目的は、比較的低温の焼成によっても密着性に優れた皮膜が得られる導電性ペーストを提供することにある。
【0025】
本発明のさらに他の目的は、200℃以下の乾燥、加熱により、アルキルシリケートが熱分解し、また高粘性溶媒も蒸発することで、有機成分を実質的に含まないSiO無機骨格と銀等の導電粉のマトリックスによる無機電極を形成することができる導電性ペーストを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0026】
従って、本発明は以下を提供する。
(項目1)
有機チタンキレート、ジルコニウムアルコキシド、ジルコニウムキレート、ジルコニウムアシレートおよびイソシアネートシランからなる群から選択される少なくとも1種、導電性粉末、アルキルシリケート、および高粘性溶媒を含有する導電性ペースト組成物。
(項目2)
前記有機チタンキレートが、チタンジイソプロポキシビス(エチルアセトアセテート)およびチタンジイソプロポキシビス(アセチルアセテート)からなる群から選択される少なくとも1種である項目1に記載の導電性ペースト組成物
(項目3)
前記有機チタンキレートが、チタンジイソプロポキシビス(エチルアセトアセテート)を0.5〜2.0重量%、およびチタンジイソプロポキシビス(アセセチルアセテート)を1.0〜4.0重量%含有する請求項1に記載の導電性ペースト組成物
(項目4)
前記高粘性溶媒が、ターピオネール、ジヒドロターピネオールまたはイソボルニルシクロヘキサノールである項目1に記載の導電性ペースト組成物。
(項目5)
前記導電性粉末を60〜90重量%、前記アルキルシリケートを3〜10重量%、前記有機チタンキレートを1.5〜6.0重量%、前記高粘性溶媒を1〜20重量%含有する項目1に記載の導電性ペースト組成物。
(項目6)
さらに、アモロファスシリカを1〜3重量%含有する項目1に記載の導電性ペースト組成物。
(項目7)
さらに、溶剤を1〜20重量%含有する項目1に記載の導電性ペースト組成物。
(項目8)前記導電性ペースト組成物を基材に塗布した後、200℃以下の加熱により実質的に無機物の硬化皮膜を形成し得る項目1に記載の導電性ペースト組成物。
(項目9)
前記アルキルシリケートが、モノマーと縮合物との混合物である項目1に記載の導電性ペースト組成物。
(項目10)
前記ジルコニウムキレートが、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート、ジルコニウムトリブトキシモノアセチルアセトネート、ジルコニウムモノブトキシアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)、ジルコニウムジブトキシビス(エチルアセトアセテート)、ジルコニウムトリブトキシモノステアレートおよび塩化ジルコニウム化合物アミノカルボン酸からなる群から選択される少なくとも1種である項目1に記載の導電性ペースト組成物。
(項目11)
前記イソシアネートシランが、テトライソシアネートシランおよびメチルトリイソシアネートシランからなる群から選択される少なくとも1種である項目1に記載の導電性ペースト組成物。
(項目12)
導電性粉末、アルキルシリケート、有機チタンキレートおよびアモロファスシリカを含有する導電性ペースト組成物。
(項目13)
項目1〜12のいずれかに記載の導電性ペースト組成物を電極に用いた太陽電池セル。
【発明の効果】
【0027】
本発明の導電性ペースト組成物は、導電性粉末、アルキルシリケート、有機チタンキレートおよび高粘性溶媒を含有するので、導電性ペースト組成物の粘度が上がるため導電性粉末の分散安定性が増し、そのため導電性粉末が沈降して分離することがない。また、このペースト組成物はバインダ樹脂を含有しないので、従来のように、200℃以上に加熱してバインダ樹脂を分解する必要がなく、そのため200℃以下の加熱乾燥によって、導電性および密着性に優れた導電性皮膜を形成することができる。
【0028】
従って、本発明の導電性ペースト組成物は、プラスチックの基板に適用することができ、また高温で熱劣化する電子部品を備えた箇所へ適用することもできる。また、高粘性溶媒は加熱によって蒸発するので、残った皮膜は実質的に無機物のみとなり、従って耐熱性、耐湿性にも優れている。さらに、導電性ペースト組成物によって形成された硬化皮膜の上に半田を密着性良く接着させることができる。
【0029】
有機チタンキレートが、チタンジイソプロポキシビス(エチルアセトアセテート)およびチタンジイソプロポキシビス(アセチルアセテート)を含有することにより、皮膜の屈曲性および柔軟性が向上する。チタンジイソプロポキシビス(エチルアセトアセテート)のみを使用した場合には、皮膜が割れ易く、耐衝撃性に劣る場合がある。
【0030】
さらに、組成物が溶剤を1〜20重量%含有することにより、導電性ペースト組成物が安定化しそのポットライフを延長させることができる。
【0031】
アルキルシリケートがモノマーと縮合物との混合物であることにより、基材に対する密着性がさらに向上する。
【0032】
上記のように、本発明は、バインダ樹脂を添加することなく高粘度化を達成し、ペースト状の組成物を得るものであるが、このペーストの粘度は温度特性を有している。例えば、25℃でのペーストの粘度に比べ、15℃でのペーストは、50%程度粘度が高くなり、印刷性や、ピン転写法のような場合、ペーストを冷却しながら作業することで、印刷性を向上させることができる。
【0033】
すなわち、一般の樹脂をバインダとするペーストの場合、粘度に温度特性があることは知られているが、バインダ樹脂を含まない本発明においても、粘度の温度特性があるために、上記のように塗布時の温度を低下させることで印刷性を向上させることができる。
【0034】
また、導電性ペースト組成物が、導電性粉末、アルキルシリケート、有機チタンキレートおよびアモロファスシリカを含有する場合にも、バインダ樹脂を含有しないので、200℃以上の高温に加熱してバインダ樹脂を分解する必要がなく、200℃以下の加熱乾燥によって、導電性および密着性に優れた導電性皮膜を形成することができる。従って、上記したのと同様に、この導電性ペースト組成物はプラスチックの基板に適用することができ、また高温で熱劣化する電子部品を備えた箇所へ適用することもできる。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下に本発明の好ましい実施の形態について説明する。
【0036】
本発明の導電性ペースト組成物は、アルキルシリケートの溶液に、金属粉末お以下の各成分を分散させることにより調製される。各成分の分散は、導電性ペーストの製造に使用される慣用手段により行うことができる。
(1)アルキルシリケート
本発明に使用されるアルキルシリケートとしては、少なくとも1個、好ましくは2個以上、さらに好ましくは3個以上のアルコキシル基を有する任意の1種または2種以上のシラン化合物を使用することができる。
【0037】
アルキルシリケートの具体例としては、テトラエトキシシラン(=エチルシリケート)、テトラプロポキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルトリエトキシシランが挙げられる。
【0038】
好ましいアルキルシリケートは、比較的安価で容易に加水分解するメチルシリケート、エチルシリケートである。
【0039】
また、アルキルシリケートとしては、オルトアルキルシリケートに水や酸触媒を加えて加水分解しかつ脱水縮重合を進ませた縮合物、あるいは、既に4〜5量体まで重合を進ませた市販のアルキルシリケート溶液に水や酸触媒を加えてさらに加水分解と脱水縮重合を進行させた縮合物等を使用することもできる。
【0040】
基材に対する密着性を上げるために、アルキルシリケートは、上記したモノマーと縮合物との混合物であるのが好ましい。モノマーと縮合物との重量比は好ましくは2/1〜5/1である。
【0041】
アルキルシリケートからなる皮膜は、加水分解を受けるとアルコールが脱離し、生成したOH基同士が縮合して、シリカゾルが形成される。このゾルを加熱して焼付けると、縮合がさらに進んで硬質のシリカ(SiO2)皮膜が形成される。従って、アルキルシリケートは、無機皮膜形成剤としてシリカ質皮膜を形成するために使用され、導電性粉末と一緒に皮膜化した場合には、導電性粉末を結合する無機バインダーとして機能する。
(2)導電性粉末
本発明に用いる導電性粉末としては、導電性を有するものであれば、一般に用いられているものを使用することができる。例えば、銀、銅、ニッケル、アルミニウム、銀被覆銅、銀被覆アルミニウム等の金属粉末が挙げられる。
【0042】
金属粉末の粒径は、典型的には、平均一次粒子径が1〜10μm、より好ましくは2〜5μmである。金属粉末の粒子形状は特に制限されず、球状、不規則形状、偏平状、針状などのいずれでもよい。
【0043】
金属粉末の平均粒径が1μmより小さいと、高粘度化により、ペースト化することが困難になるので好ましくない。金属粉末の平均粒径が10μmより大きいと、メッシュスクリーンを用いて導体パターンを印刷する場合、スクリーンの目詰まりが起こったり、微細配線の形成が困難となるので好ましくない。
【0044】
ペースト組成物中における金属粉末の含有割合は、60〜90重量%が好ましい。金属粉末の含有割合が60重量%未満である場合、金属粉末の接触密度が小さく(金属粉末同士の接触不良により)、導電性が不充分となる。金属粉末の含有割合が90重量%より多くなると、バインダーにより金属粉末の均一な分散ができず、基材に一様に印刷または塗布できる粘度とはならず、カスレたり、不均一な導体が形成される。
(3)有機チタンキレート
有機チタンキレートはアルキルシリケートの触媒および/または架橋剤として働く。
【0045】
触媒として働く場合は、アルキルシリケートを加水分解しかつ脱水縮重合を進行させる。
【0046】
この有機チタンキレートは触媒として使用する場合、ペースト組成物に対して0.1〜5重量%、好ましくは0.2〜2重量%の量で使用するのがよい。0.1重量%未満では上記の効果を得ることができず、また耐湿性が低下し、密着性も低下する傾向にある。5重量%を超えると、金属粉末粒子間における電子パスが阻害されて導電性が低下する。
【0047】
好ましい触媒には、チタンジイソプロポキシビス(エチルアセトアセテート)(商品名:オルガチックスTC750、松本製薬工業株社製)がある。その他に、(商品名:オルガチックスTC200、オルガチックスTC401、それぞれ松本製薬工業株社製)を使用することもできる。
【0048】
さらに、従来より公知の触媒を併用することもできる。そのような触媒としては、アルコキシチタン、チタンカップリング剤等のチタン化合物がある。
【0049】
アルコキシチタンとしては、テトライソプロポキシチタン、テトラキス(2−エチルヘキソキシ)チタン、テトラステアロキシチタンなどのテトラアルコキシチタン、ならびにジイソプロポキシ・ビス(アセチルアセトナト)チタン、ジ−n−ブトキシ・ビス(トリエタノールアミナト)チタン、ジヒドロキシ・ビス(ラクタト)チタン、チタン−i−プロポキシオクチレングリコレート等のトリ、ジもしくはモノアルコキシチタンが挙げられる。好ましいのはテトラアルコキシチタンである。アルコキシチタンはその加水分解物として使用することもできる。アルコキシチタンの加水分解は、アルキルシリケートの加水分解と同様に実施できる。
【0050】
チタンカップリング剤の例には、イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリデシルベンゼンスルホニルチタネート、イソプロピルトリス(ジオクチルパイロホスフェート)チタネート、テトライソプロピルビス(ジオクチルホスファイト)チタネート、テトラオクチルビス(ジトリデシルホスファイト)チタネート、テトラ(2,2−ジアリルオキシメチル−1−ブチル)ビス(ジ−トリデシル)ホスファイトチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)オキシアセテートチタネート、トリス(ジオクチルパイロホスフェート)エチレンチタネートなどがある。
【0051】
有機チタンキレートを架橋剤として使用する場合には、例えば、チタンジイソプロポキシビス(アセチルアセテート)(商品名:オルガチックスTC100)があげられる。
【0052】
この架橋剤は、ペースト組成物に対して0〜4重量%、好ましくは1〜4重量%の量で使用するのがよい。架橋剤を使用することにより、硬化後の皮膜の加水分解抑制が可能になり、信頼性が向上する。
【0053】
例えば、チタンキレート架橋剤と硬化触媒を使用し、加熱(180℃〜190℃1時間で乾燥)して有機、無機ポリマーにし、練りこんだ銀粉(金属粉)の印刷物を基材に接着させることができる。
また、チタンキレートと同様の働きをする材料として、ジルコニウムアルコキシド、ジルコニウムキレート、ジルコニウムアシレート、イソシアネートシランを使用することもできる。添加量は、ほぼチタンキレートと同量で、ほぼ同様の効果を得ることが出来る。
すなわち、これらのジルコニウムアルコキシド、ジルコニウムキレート、ジルコニウムアシレート、イソシアネートシランは、ペースト組成物に対して0.1〜5重量%、好ましくは0.2〜2重量%の量で使用するのがよい。0.1重量%未満では上記の効果を得ることができず、また耐湿性が低下し、密着性も低下する傾向にある。5重量%を超えると、金属粉末粒子間における電子パスが阻害されて導電性が低下する。
好ましい触媒には、ジルコニウムキレートとしては、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート、ジルコニウムトリブトキシモノアセチルアセトネート、ジルコニウムモノブトキシアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)、ジルコニウムジブトキシビス(エチルアセトアセテート)、ジルコニウムトリブトキシモノステアレートおよび塩化ジルコニウム化合物アミノカルボン酸がある。好ましいジルコニウム触媒の商品名には、ジルコニウムテトラアセチルアセテート(商品名:オルガチックスZC700)がある。
イソシアネートシランとしては、テトライソシアネートシラン、メチルトリイソシアネートシランがある。好ましいイソシアネートシランの商品名には、テトライソシアネートシラン(商品名:オルガチックスSI400)がある。
(4)高粘性溶媒
高粘性溶媒は、導電性ペースト組成物における導電性粉末の分散安定性を良くするために使用する。
【0054】
本発明では、高粘性溶媒として、200℃以下で蒸発し得る溶媒を使用するのが好ましい。そのような高粘性溶媒としては、ターピオネール、ジヒドロターピネオール、イソボルニルシクロヘキサノール(商品名:テルソルブMTPH)がある。イソボルニルシクロヘキサノールは、テルペンとシクロヘキサノールを結合させ、高沸点、高粘度で溶剤と樹脂の特性を併せ持った安定なテルペン誘導体である。この高粘性溶媒は、沸点が260℃であり、加熱乾燥のみで導電性無機膜を形成することができる。
【0055】
高粘性溶媒の配合量は、ペースト組成物に対して、1〜20重量%が好ましく、さらに好ましくは2〜15重量%である。
(5)溶剤
溶剤は、アルキルシリケートを溶解し、金属粉末を分散することができるものであれば特に制限されないが、好ましい溶剤は、1種もしくは2種以上のアルコールまたはアルコールと他の相溶性有機溶剤および/もしくは水との混合溶剤からなるアルコール性溶剤である。
【0056】
アルコールとしては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、ヘキサノールなどの1価アルコールのほか、トリメチルペンタンジオールモノイソブチレート、2−メトキシエタノールなどのアルコキシアルコールを単独で、または1価アルコールと混合して使用できる。好ましくは、トリメチルペンタンジオールモノイソブチレートである。
【0057】
溶剤の配合量は、組成物に対して1〜20重量%が好ましく、さらに好ましくは2〜15重量%である。溶剤を組成物に添加することにより、触媒作用(ゲル化)を抑えることができる。
(6)アモロファスシリカ
アモロファスシリカは、ペースト組成物にチクソトロピー性を付与するために使用する。アモロファスシリカとしては、アエロジルを使用することができる。種々の一次粒子の径のものを使用することができる。
【0058】
アモロファスシリカの配合量は、0.5〜3重量%が好ましい。さらに好ましくは2〜3重量%である。配合量が少なすぎると導電性ペースト組成物にチクソトロピー性を付与する効果が小さく、多すぎると導電性が低下する傾向にある。
【0059】
アモロファスシリカは、添加剤として使用し、上記の高粘性溶媒と併用してもよく、あるいは高粘性溶媒に替えて使用してもよい。
(7)添加剤
本発明の導電性ペースト組成物は、さらに導電性ペーストの慣用の添加剤を含んでもよい。
【0060】
このような添加剤としては、金属粉末の分散性向上に有効な界面活性剤(カチオン系、アニオン系、ノニオン系)、アルキルシリケートの加水分解を促進させるための酸などがある。さらに、導電性ペーストは着色性、発光性、充填剤を含むことができる。
(8)導電性ペースト組成物
本発明の導電性ペースト組成物は、上記各成分を当業者に公知の方法、例えばらいかい器、ロールミル又はボールミルを用いた混合によってペースト状とし、製造することができる。導電性ペーストの粘度は5〜30Pa・s、特に10〜15Pa・s(ブルックフィールド粘度計 スピンドルナンバー14、1rpm時)の範囲が好ましい。
【0061】
導電性ペースト組成物に含まれる各成分の配合割合は、導電性粉末60〜90重量%、アルキルシリケート3〜10重量%、有機チタンキレート1.5〜6.0重量%、高粘性溶媒1〜20重量%、残りが溶剤とするのが好ましい。
【0062】
さらに好ましくは、導電性粉末80〜90重量%、アルキルシリケート5〜8重量%、有機チタンキレート2.0〜4.0重量%、高粘性溶媒2〜8重量%、残りが溶剤である。
【0063】
アモロファスシリカを高粘性溶媒に替えて使用する場合は、導電性ペースト組成物に含まれる各成分の配合割合は、導電性粉末60〜90重量%、アルキルシリケート3〜10重量%、有機チタンキレート1.5〜6.0重量%、アモロファスシリカ2〜3重量%、残りが溶剤とするのが好ましい。
【0064】
さらに好ましくは、導電性粉末80〜90重量%、アルキルシリケート5〜8重量%、有機チタンキレート1.5〜6.0重量%、アモロファスシリカ2〜3重量%、残りが溶剤である。
なお、ジルコニウムアルコキシド、ジルコニウムキレート、ジルコニウムアシレート、イソシアネートシランを有機チタンキレートに替えて同量使用することもできる。
(9)導電性ペーストの塗布および焼付け
一般には導電性ペーストが使用されるあらゆる方法が可能である。好ましくは、スクリーン印刷、オフセット印刷及びパッド印刷、スプレー法、スピンコート法、浸漬法などによって行うことができる。
【0065】
導電性ペースト組成物は、フィルムや基板や電子部品等の基材に塗布または印刷し、200℃以下、特に120〜190℃で加熱硬化するのが好ましい。120℃より低温の場合は硬化が不充分で接着性が低下し、200℃より高温の場合は電子部品等に悪影響を及ぼすおそれがある。また、プラスチックを基板として使用することはできない。
【実施例】
【0066】
以下に本発明の実施例を説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものでない。
(実施例1)
(A)導電性ペースト組成物の作製
銀粉85.1重量部、シリケートD5.82重量部、チタン触媒1.08重量部、チタン架橋剤1.98重量部、テレソルブ3.86重量部、およびT.M.P.I(トリメチルペンタンジオールモノイソブチレート)2.16重量部を配合し、らいかい器で混練してペースト化することにより、導電性ペースト組成物を得た。
【0067】
なお、上記銀粉は、平均粒径が2μmの球状銀粉末を用いた。
【0068】
上記シリケートDは、以下の成分である。
【0069】
オルトケイ酸テトラメチルSi(OCH・・・45.07重量%
ポリオルトケイ酸テトラメチルSi(OCH・・・17.6重量%
上記チタン触媒は、チタンジイソプロポキシビス(エチルアセトアセテート)(商品名:オルガチックスTC750)を用いた。
【0070】
上記チタン架橋剤は、チタンジイソプロポキシビス(アセチルアセテート)(商品名:オルガチックスTC100)を用いた。
【0071】
上記テレソルブは、イソボルニルシクロヘキサノールである。
【0072】
得られた導電性ペースト組成物を、14日間、5℃の条件で放置した後、目視にて観察したが、銀粉の沈降、分離は生じていなかった。
(B)特性評価用サンプルの作製
ガラス基板上に、上記で得られた導電性ペースト組成物を用いて印刷した。線長は20mmで、線幅は100μm、線間隔は100μmであった。
【0073】
ガラス基板を190℃の熱風乾燥機中で60分間加熱し、導電性ペーストを硬化させた。
【0074】
得られた導電層を碁盤目ーテープ法(JIS−K−5400/すきま間隔:1mm、ます目
数:100個)で密着性の評価を行った。その結果、剥離数は0であり、良好な密着性を示した。
(実施例2)
(A)導電性ペースト組成物の作製
銀粉84.85重量部、シリケートD5.82重量部、チタン触媒1.98重量部、チタン架橋剤1.98重量部、テレソルブ3.86重量部、およびT.M.P.I(トリメチルペンタンジオールモノイソブチレート)1.51重量部を配合し、らいかい器で混練してペースト化することにより、導電性ペースト組成物を得た。
【0075】
なお、上記銀粉は、平均粒径が5μmの球状銀粉末を用いた。
【0076】
得られた導電性ペースト組成物を、14日間、5℃の条件で放置した後、目視にて観察したが、銀粉の沈降、分離は生じていなかった。
(B)特性評価用サンプルの作製
ガラス基板上に、上記で得られた導電性ペースト組成物を用いて印刷した。線長は20mmで、線幅は100μm、線間隔は100μmであった。
【0077】
ガラス基板を190℃の熱風乾燥機中で60分間加熱し、導電性ペーストを硬化させた。
【0078】
得られた導電層を碁盤目ーテープ法(JIS−K−5400/すきま間隔:1mm、ます目
数:100個)で密着性の評価を行った。その結果、剥離数は0であり、良好な密着性を示した。
(実施例3)
銀粉82.35重量部、シリケートA 11.76重量部、チタン触媒1.47重量部、チタン架橋剤2.06重量部、およびT.M.P.I(トリメチルペンタンジオールモノイソブチレート)2.36重量部、およびアエロジル2重量部を配合し、3本ロールミルで混練してペースト化することにより、導電性ペースト組成物を得た。
【0079】
上記銀粉は、平均粒径が2μmの球状銀粉末を用いた。
【0080】
なお、上記シリケートAは次の成分である。
【0081】
オルトケイ酸テトラメチルSi(OCH・・・28.1重量%
ポリオルトケイ酸テトラメチルSi(OCH・・・40.93重量%
得られた導電性ペースト組成物を、14日間、5℃の条件で放置した後、目視にて観察したが、銀粉の沈降、分離は生じていなかった。
【0082】
次に、実施例1と同様の方法で、碁盤目試験を実施したが、剥離数は0であり、良好な密着性を示した。
(実施例4)
銀粉82.35重量部、シリケートD 11.76重量部、ジルコニウムキレート2.42重量部、テレソルブ3.86重量部、およびT.M.P.I(トリメチルペンタンジオールモノイソブチレート)2.36重量部、およびアエロジル2重量部を配合し、3本ロールミルで混練してペースト化することにより、導電性ペースト組成物を得た。
上記銀粉は、平均粒径が2μmの球状銀粉末を用いた。
なお、上記シリケートDは次の成分である。
オルトケイ酸テトラメチルSi(OCH3)4・・・45.07重量%
ポリオルトケイ酸テトラメチルSi(OCH3)n・・・17.6重量%
上記ジルコニウム触媒は、ジルコニウムテトラアセチルアセテート(商品名:オルガチックスZC700)を用いた。
上記テレソルブは、イソボルニルシクロヘキサノールである。
得られた導電性ペースト組成物を、14日間、5℃の条件で放置した後、目視にて観察したが、銀粉の沈降、分離は生じていなかった。
次に、実施例1と同様の方法で、碁盤目試験を実施したが、剥離数は0であり、良好な密着性を示した。
(実施例5)
銀粉82.35重量部、シリケートD 11.76重量部、イソシアネートシラン2.22重量部、テレソルブ3.86重量部、およびT.M.P.I(トリメチルペンタンジオールモノイソブチレート)2.42重量部、およびアエロジル2重量部を配合し、3本ロールミルで混練してペースト化することにより、導電性ペースト組成物を得た。
上記銀粉は、平均粒径が2μmの球状銀粉末を用いた。
なお、上記シリケートDは次の成分である。
オルトケイ酸テトラメチルSi(OCH3)4・・・45.07重量%
ポリオルトケイ酸テトラメチルSi(OCH3)n・・・17.6重量%
上記イソシアネートシランは、テトライソシアネートシラン(商品名:オルガチックスSI400)を用いた。
上記テレソルブは、イソボルニルシクロヘキサノールである。
得られた導電性ペースト組成物を、14日間、5℃の条件で放置した後、目視にて観察したが、銀粉の沈降、分離は生じていなかった。
次に、実施例1と同様の方法で、碁盤目試験を実施したが、剥離数は0であり、良好な密着性を示した。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明の導電性ペースト組成物は、高温処理により特性が劣化するような電子部品等の電極、例えばアモルファスシリコン層を有する太陽電池の集電電極形成用に好適である。さらに、本発明は、有機ELディスプレイパネル、プラズマディスプレイパネル(PDP)、蛍光表示管(VFD)、液晶ディスプレイ(LCD)等表示装置の前面に使用される電磁障害防止フィルター製造用の導電性ペースト組成物にも好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機チタンキレート、ジルコニウムアルコキシド、ジルコニウムキレート、ジルコニウムアシレートおよびイソシアネートシランからなる群から選択される少なくとも1種、導電性粉末、アルキルシリケート、および高粘性溶媒を含有する導電性ペースト組成物。
【請求項2】
前記有機チタンキレートが、チタンジイソプロポキシビス(エチルアセトアセテート)およびチタンジイソプロポキシビス(アセチルアセテート)からなる群から選択される少なくとも1種である請求項1に記載の導電性ペースト組成物
【請求項3】
前記有機チタンキレートが、チタンジイソプロポキシビス(エチルアセトアセテート)を0.5〜2.0重量%、およびチタンジイソプロポキシビス(アセセチルアセテート)を1.0〜4.0重量%含有する請求項1に記載の導電性ペースト組成物
【請求項4】
前記高粘性溶媒が、ターピオネール、ジヒドロターピネオールまたはイソボルニルシクロヘキサノールである請求項1に記載の導電性ペースト組成物。
【請求項5】
前記導電性粉末を60〜90重量%、前記アルキルシリケートを3〜10重量%、前記有機チタンキレートを1.5〜6.0重量%、前記高粘性溶媒を1〜20重量%含有する請求項1に記載の導電性ペースト組成物。
【請求項6】
さらに、アモロファスシリカを0.5〜3重量%含有する請求項1に記載の導電性ペースト
組成物。
【請求項7】
さらに、溶剤を1〜20重量%含有する請求項1に記載の導電性ペースト組成物。
【請求項8】
前記導電性ペースト組成物を基材に塗布した後、200℃以下の加熱により実質的に無機物の硬化皮膜を形成し得る請求項1に記載の導電性ペースト組成物。
【請求項9】
前記アルキルシリケートが、モノマーと縮合物との混合物である請求項1に記載の導電性ペースト組成物。
【請求項10】
前記ジルコニウムキレートが、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート、ジルコニウムトリブトキシモノアセチルアセトネート、ジルコニウムモノブトキシアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)、ジルコニウムジブトキシビス(エチルアセトアセテート)、ジルコニウムトリブトキシモノステアレートおよび塩化ジルコニウム化合物アミノカルボン酸からなる群から選択される少なくとも1種である請求項1に記載の導電性ペースト組成物。
【請求項11】
前記イソシアネートシランが、テトライソシアネートシランおよびメチルトリイソシアネートシランからなる群から選択される少なくとも1種である請求項1に記載の導電性ペースト組成物。
【請求項12】
導電性粉末、アルキルシリケート、有機チタンキレートおよびアモロファスシリカを含有する導電性ペースト組成物。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれかに記載の導電性ペースト組成物を電極に用いた太陽電池セル。

【公開番号】特開2011−60752(P2011−60752A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−178143(P2010−178143)
【出願日】平成22年8月6日(2010.8.6)
【出願人】(504366051)日本金液株式会社 (2)
【Fターム(参考)】