説明

導電性ポリエステル繊維およびそれからなるブラシ製品

【課題】繊維長手方向における導電性の変動が温湿度変化に依存せず、かつ優れた導電性を示し、さらには高次工程における汚れや削れ、断糸が少なく工程通過性に優れた導電性ポリエステル繊維と、それからなるブラシ製品を提供する。
【解決手段】導電性カーボンブラックを含有する主たる繰り返し構造単位がトリメチレンテレフタレートから構成されるポリエステル(A)を鞘成分とし、ポリエステル(B)を芯成分とし、平均抵抗率が1.0×1012[Ω/cm]以下で、繊維長手方向10m当たりの抵抗率変動係数CVが0.1以下、糸−金属(梨地)動摩擦係数が0.1〜0.35μdである導電性ポリエステル繊維。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性に優れたポリエステル繊維およびそれからなるブラシ製品に関するものである。さらに詳しくは、温湿度が変化する際の導電性の安定性、繊維長手方向における導電性の変動が少ない優れた導電性を示し、さらには高次工程における汚れや削れ、断糸が少なく工程通過性に優れた導電性ポリエステル繊維と、それからなるブラシ製品などに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、主たる繰り返し構造単位がトリメチレンテレフタレートのポリエステルであるポリトリメチレンテレフタレート(PTT)からなる繊維は、近年、ポリアミド(ナイロン)繊維と、従来ポリエステル(例えばポリエチレンテレフタレート(PET)やポリブチレンテレフタレート(PBT)など、繊維の両方の特徴を兼ね備えた繊維として、特に、低弾性率、高弾性回復性、低温可染性に優れるとして開発が進んでいる。
【0003】
ところで、従来の、そしてこれからの繊維の機能性付与においては、「導電性」は重要な機能の一つであり、例えばクリーンルーム用の衣料用繊維として、あるいはカーペットへの混繊用繊維として静電気を除去するものであったり、またあるいは装置の中で電荷を付与するものであったりと、衣料用、産業用など幅広い分野において大きな需要が存在する。近年では、電子情報機器、特に携帯電話などの無線端末の普及により日常的な環境においても電磁波の暴露量が増加しており、健康への影響が懸念されていることから、導電性以外にも、電磁波遮蔽素材として利用する事例も増えている。
【0004】
例えば、PTTにカーボンブラックを添加させた黒原着ポリエステル繊維に関する技術が提案されている。この技術は、共重合PETにカーボンブラックを添加してそれをPTTにブレンドすることにより優れた風合い、黒色度及び防炎性を兼ね備えた繊維である(特許文献1参照)。該技術では実質的にカーボンブラックが直接PTTに接触して含有されるものではないため、高濃度添加は困難であり導電性は不十分であった。また、PTT繊維の特徴であるストレッチ性と導電性を組み合わせたPTT繊維の機能性付与に関する技術が提案されている。この技術は、ポリエステル系又はポリアミド系エラストマーにカーボンブラックを添加し、非導電層としてPTTを用いることにより、PTT繊維の特徴と導電性を組み合わせたものである(特許文献2参照)。該技術は、導電性成分が必ずしも繊維表面層に存在していないため、繊維長手方向の導電斑が大きい。また、これらの技術は導電成分の添加量が少なかったり、導電層が繊維表面に露出していても一部であるため繊維の電気抵抗率は10Ω/cmを得ることが出来るが、平均抵抗率変動係数CVは0.1を超えるものであり、導電性能としては不安定なものであった。
【0005】
一方、導電性成分を繊維形成性ポリマー中に高濃度で添加することで導電性を高めることが出来るが、導電性成分を高濃度に添加すると、ポリマーの流動性の低下に伴い、溶融紡糸において、曳糸性が低下し、糸切れが多発し、製糸が困難になることが知られている。そこで、曳糸性を確保するために非導電層を繊維形成性ポリマーとした複合繊維がいくつか提案されている。
【0006】
例えば、カーボンブラックを25重量%含有したポリブチレンテレフタレートを鞘成分とし、固有粘度0.68〜0.85であるポリエチレンテレフタレートを芯成分とする導電性複合繊維に関する技術が提案されている(特許文献3参照)。しかし、導電成分のみからなる繊維に比べ曳糸性は改善されるが、糸切れが多発し、生産性が低く、満足できるものではなかった。
【0007】
さらには、ポリアミドは高濃度でカーボンブラックを含有させても流動性の低下がポリエステルほど顕著ではなく、比較的良好な曳糸性を示すため、数多くの導電繊維に用いられている。
【0008】
例えば、導電性カーボンブラックを30重量部含有した12ナイロンを鞘成分とし、通常12ナイロンを芯成分とした導電性複合繊維に関する技術が提案されている(特許文献4参照)。しかし、この導電繊維は吸湿性を有するポリアミドを用いているため、温湿度変化に伴う導電性の変化が大きいという問題を有している。
【0009】
いずれの技術においても、導電性能を高くするために導電層となる鞘成分の比率を高くしたり、導電成分を多くすると、曳糸性が低下するため、その抵抗率はせいぜい10Ω/cmであった。そのため、様々な環境下における安定した優れた導電性と繊維長手方向における導電斑の少ない導電繊維は提供されていなかった。
【0010】
また、その後の高次工程における汚れや削れ、断糸が多発し、高次通過性が不良という問題もあった。
【特許文献1】特開2003−89926号公報
【特許文献2】特開2003−313727号公報
【特許文献3】特開2004−225214号公報
【特許文献4】特開平11−65227号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、上記従来技術の問題点を解消し、温湿度変化によらず、一定の導電性を有し、繊維長手方向における導電性の変動が少ない優れた導電性を示し、さらには高次工程における汚れや削れ、断糸が少なく工程通過性に優れた導電性ポリエステル繊維と、それからなるブラシ製品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、優れた導電性とその安定性を有する繊維を得るために鋭意検討を重ね、その中で特定の材料の組成からなる繊維となし、かつ特定の物性となすことにより上記従来技術の欠点を解消でき、かつ従来技術では達成しえなかった更なるメリットをも付与しうることを見いだし、本発明に到達したものである。
【0013】
すなわち本発明は、上記の課題を達成するため、以下の構成を採用する。
【0014】
(1)導電性カーボンブラックを含有する主たる繰り返し構造単位がトリメチレンテレフタレートから構成されるポリエステル(A)を鞘成分とし、ポリエステル(B)を芯成分とし、平均抵抗率が1.0×1012[Ω/cm]以下で、繊維長手方向10m当たりの抵抗率変動係数CVが0.1以下、糸−金属(梨地)動摩擦係数が0.1〜0.35μdであることを特徴とする導電性ポリエステル繊維。
【0015】
(2)繊維の、23℃相対湿度55%での平均抵抗率X[Ω/cm]と、10℃相対湿度15%での平均抵抗率Y[Ω/cm]との比Z(Z=Y/X)が1〜5の範囲である前記(1)記載の導電性ポリエステル繊維。
【0016】
(3)主たる繰り返し構造単位がトリメチレンテレフタレートから構成されるポリエステル中の導電性カーボンブラックの含有量が15重量%以上50重量%以下であることを特徴とする前記(1)または(2)に記載の導電性ポリエステル繊維。
【0017】
(4)前記(1)〜(3)のいずれか1項記載の導電性ポリエステル繊維を少なくとも一部に用いてなるブラシ製品。
【発明の効果】
【0018】
導電性を有する導電性カーボンブラック(CB)を含有する主たる繰り返し構造単位がトリメチレンテレフタレートから構成されるポリエステル(A)を鞘成分とし、ポリエステル(B)を芯成分とし、平均抵抗率、抵抗率変動係数、動摩擦係数を適正範囲とすることで、温湿度変化によらず、良好なの導電性を有し、かつ繊維長手方向における導電性の変動が極めて少ないく、さらには高次工程における汚れや削れ、断糸が少なく工程通過性に優れた導電性ポリエステル繊維と、それからなるブラシ製品を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明における繊維とは細く長い形状を指し、その長さは、一般的に言われる長繊維(フィラメント)であっても短繊維(ステープル)であっても良い。短繊維の場合は用途に応じて所望の長さにすればよいが、精紡あるいは後述するような電気植毛加工などに用いられることを考慮すると長さ0.05〜150mmであることが好ましく、0.1〜120mmであることがより好ましい。また、特に電気植毛加工に用いられる場合は0.1〜10mmの長さであることがより好ましく、0.2〜5mmであることが特に好ましい。
【0020】
また、本発明の導電性ポリエステル繊維の太さ、すなわち、単繊維直径に関しては特に制限されるものではないが、後述するような様々な用途に採用が可能であるという点で単繊維直径は1000μm以下であることが好ましく、0.1〜200μmであることがより好ましく、0.5〜50μmであることが特に好ましい。後述するブラシローラーに用いる場合で清掃装置あるいは帯電装置に組み込む用途に用いる場合には、清掃性能、あるいは帯電性能が優れるという点で該繊維直径は0.5〜30μmであることが特に好ましい。衣服の裏地やあるいはその他各種衣類に用いられる場合では、0.5〜25μmであることが特に好ましい。衣料用途以外の、車両内装材、建造物の壁材などの内装材、カーペットや床材など敷物などの非衣料用途に用いられる場合には、0.5〜150μmであることが特に好ましい。
【0021】
また、繊維の断面形状についても特に制限されるものではなく、丸形であれば均一な繊維物性および繊維断面内における等方的な導電性を有するため好ましく、また繊維をブラシ製品等に用いるために短繊維あるいは織物あるいは編物あるいは不織布の形状で組み込み、使用する用途あるいは目的に応じて、例えば繊維の曲がる方向に異方性を持たせて剛性を高める、あるいは後述する電子写真装置においてはトナーとの良好な接触性を得てより優れた清掃性能を発現させるといった場合には、偏平型、多角形、多葉型、中空型、あるいは不定形型などが好ましい。
【0022】
本発明の導電性ポリエステル繊維は、導電性カーボンブラック(CB)を含有する主たる繰り返し構造単位がトリメチレンテレフタレートから構成されるポリエステル(CB含有PTT)が繊維表面に露出している鞘成分となし、CB含有PTT以外の繊維形成能を有するポリエステル成分(非導電成分)を芯成分とした、複合紡糸されてなる繊維であり、繊維表層が全てCB含有PTTで覆われた繊維である。このCB含有PTTが本発明の導電性ポリエステル繊維において主たる導電性を担い、優れた導電性を発現するので繊維の長手方向に導電性斑の小さい安定した導電性を発現しうる。
【0023】
また、非導電成分はCB含有PTTを含まないことで本発明の導電性ポリエステル繊維の繊維物性、例えば強度や伸度を担う成分として必要である。ただし、本発明の目的を損ねない範囲において導電性カーボンブラック以外の導電剤を含有した別の機能を担う層であっても良く、あるいは機能性成分を含有したものであっても良い。
【0024】
本発明の導電性ポリエステル繊維は、主たる繰り返し構造単位がトリメチレンテレフタレートから構成されるポリエステル(PTT系ポリエステル)からなる。他の汎用的に用いられるポリエステル、例えば主たる繰り返し構造単位がエチレンテレフタレートから構成されるポリエステル成分(PET系ポリエステル)や主たる繰り返し構造単位がテトラメチレンテレフタレートから構成されるポリエステル成分(PBT系ポリエステル)の場合は、通常、導電性カーボンブラックを高濃度(10重量%以上)に含有させた場合には溶融紡糸中の糸切れが多発して全く引き取りができないが、該PTT系ポリエステル成分は、導電性カーボンブラックを多量に含有させた場合であっても、溶融粘度が大きく変化することがなく、繊維を形成させるためのプロセス、例えば溶融紡糸においても通常のPTT系ポリエステルのみを溶融紡糸するのと何ら変わりなく同じように溶融紡糸が達成でき、飛躍的に曳糸性が向上したことを本発明者らは見出したのである。これにより、従来はポリアミド系ポリマーで可能であった高い導電性を有する導電性繊維の製造が、ポリエステル系ポリマーであっても同じように高濃度の導電性カーボンブラックを含有させ、高い導電性を有する導電性繊維を形成することが可能となったのである。
【0025】
これは、PTT系ポリエステルはPET系ポリエステルと比較して、PTT独特のメチレン鎖の屈曲構造に由来して、分子鎖間がルーズな構造をとりうる。このような分子構造であるため、導電性カーボンブラックとの親和性が高くなるものと推定している。
【0026】
該PTT系ポリエステルは、カルボン酸であるテレフタル酸とグリコールであるトリメチレングリコールのエステル化反応により形成される、主たる繰り返し構造単位がトリメチレンテレフタレートから構成されるポリマーである。主たる繰り返し構造単位とは、50モル%以上を意味する。そしてトリメチレンテレフタレートから構成される成分が80モル%以上であることが好ましく、90%モル以上であることがより好ましい。
【0027】
該PTT系ポリエステルには、本発明の目的、すなわち高濃度で導電性カーボンブラックを含有しても高い溶融紡糸性を損ねない範囲で他の成分が共重合されていても良く、例えばジカルボン酸化合物を共重合せしめることができる。該ジカルボン酸化合物として例えば、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸、フェナントレンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、ジフェニルエタンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、5ーナトリウムスルホイソフタル酸、5−テトラブチルホスホニウムイソフタル酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、といった芳香族、脂肪族、脂環族ジカルボン酸およびそれらのアルキル、アルコキシ、アリル、アリール、アミノ、イミノ、ハロゲン化物などの誘導体、付加体、構造異性体および光学異性体を挙げることができ、これらジカルボン酸化合物のうち1種を単独で用いても良いし、または本発明の目的を損ねない範囲で2種以上を組み合わせて用いても良い。また、ジオール化合物を共重合せしめることができ、該ジオール化合物として例えば、エチレングリコール、テトラメチレングリコール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール、ハイドロキノン、レゾルシン、ジヒドロキシビフェニル、ナフタレンジオール、アントラセンジオール、フェナントレンジオール、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、4,4´−ジヒドロキシジフェニルエーテル、ビスフェノールS、といった芳香族、脂肪族、脂環族ジオール化合物およびそれらのアルキル、アルコキシ、アリル、アリール、アミノ、イミノ、ハロゲン化物などの誘導体、付加体、構造異性体および光学異性体を挙げることができ、これらジオール化合物のうち1種を単独で用いても良いし、または本発明の目的を損ねない範囲で2種以上を組み合わせて用いても良い。また、共重合成分としては、1つの化合物に水酸基とカルボン酸を具有する化合物、すなわち、ヒドロキシカルボン酸を挙げることができ、該ヒドロキシカルボン酸としては、例えば乳酸、3−ヒドロキシプロピオネート、3−ヒドロキシブチレート、3−ヒドロキシブチレートバリレート、ヒドロキシ安息香酸、ヒドロキシナフトエ酸、ヒドロキシアントラセンカルボン酸、ヒドロキシフェナントレンカルボン酸、(ヒドロキシフェニル)ビニルカルボン酸といった芳香族、脂肪族、脂環族のヒドロキシカルボン酸化合物およびそれらのアルキル、アルコキシ、アリル、アリール、アミノ、イミノ、ハロゲン化物などの誘導体、付加体、構造異性体および光学異性体を挙げることができ、これらヒドロキシカルボン酸のうち1種を単独で用いても良いし、または本発明の目的を損ねない範囲で2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0028】
本発明の導電性ポリエステル繊維においては、繊維が導電性カーボンブラックを含有するPTT系ポリエステル(CB含有PTT)を鞘成分とする以外に、該CB含有PTT以外の層としてポリエステル(B)(非導電成分)を芯成分として配置してなる。該非導電成分は繊維形成能を有するポリエステルである。該非導電成分であるポリエステル(B)は、カルボン酸とアルコールのエステル化反応により形成されるポリエステルであって、具体的には、例えばジカルボン酸化合物とジオール化合物のエステル結合から形成される重合体を挙げることができる。これらにかかるポリエステルとしては、その主たる繰り返し構造単位がエチレンテレフタレート、トリメチレンテレフタレート、テトラメチレンテレフタレート、エチレンナフタレート、プロピレンナフタレート、テトラメチレンナフタレートあるいはシクロヘキサンジメタノールテレフタレート、であるポリエステル、あるいは芳香族ヒドロキシカルボン酸を主成分とする溶融液晶性を有する液晶ポリエステルなどが挙げられる。
【0029】
そして、特に制限されるものではないものの、ジカルボン酸化合物とジオール化合物のエステル結合から形成されるポリエステル系ポリマーには、本発明の目的を損ねない範囲で他の成分が共重合されていても良く、例えばジカルボン酸化合物を共重合せしめることができる。該ジカルボン酸化合物として例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸、フェナントレンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、ジフェニルエタンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、5ーナトリウムスルホイソフタル酸、5−テトラブチルホスホニウムイソフタル酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、といった芳香族、脂肪族、脂環族ジカルボン酸およびそれらのアルキル、アルコキシ、アリル、アリール、アミノ、イミノ、ハロゲン化物などの誘導体、付加体、構造異性体および光学異性体を挙げることができ、これらジカルボン酸化合物のうち1種を単独で用いても良いし、または本発明の目的を損ねない範囲で2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0030】
また、ポリエステル系ポリマーの共重合成分としては、ジオール化合物を共重合せしめることができ、該ジオール化合物として例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール、ハイドロキノン、レゾルシン、ジヒドロキシビフェニル、ナフタレンジオール、アントラセンジオール、フェナントレンジオール、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、4,4´−ジヒドロキシジフェニルエーテル、ビスフェノールS、といった芳香族、脂肪族、脂環族ジオール化合物およびそれらのアルキル、アルコキシ、アリル、アリール、アミノ、イミノ、ハロゲン化物などの誘導体、付加体、構造異性体および光学異性体を挙げることができ、これらジオール化合物のうち1種を単独で用いても良いし、または本発明の目的を損ねない範囲で2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0031】
また、ポリエステル系ポリマーの共重合成分としては、1つの化合物に水酸基とカルボン酸を具有する化合物、すなわち、ヒドロキシカルボン酸を挙げることができ、該ヒドロキシカルボン酸としては、例えば、乳酸、3−ヒドロキシプロピオネート、3−ヒドロキシブチレート、3−ヒドロキシブチレートバリレート、ヒドロキシ安息香酸、ヒドロキシナフトエ酸、ヒドロキシアントラセンカルボン酸、ヒドロキシフェナントレンカルボン酸、(ヒドロキシフェニル)ビニルカルボン酸といった芳香族、脂肪族、脂環族ジオール化合物およびそれらのアルキル、アルコキシ、アリル、アリール、アミノ、イミノ、ハロゲン化物などの誘導体、付加体、構造異性体および光学異性体を挙げることができ、これらヒドロキシカルボン酸のうち1種を単独で用いても良いし、または本発明の目的を損ねない範囲で2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0032】
また、該非導電成分に用いられるポリエステルとしては、芳香族、脂肪族、脂環族などの1つの化合物がカルボン酸と水酸基を両方有したヒドロキシカルボン酸化合物を主たる繰り返し単位とする重合体であっても良く、これらヒドロキシカルボン酸からなる重合体としては、例えば乳酸、3−ヒドロキシプロピオネート、3−ヒドロキシブチレート、3−ヒドロキシブチレートバリレート、といったヒドロキシカルボン酸を主たる繰り返し構造単位とするポリエステルを挙げることができ、その他にも、これらヒドロキシカルボン酸としては、本発明の目的を損ねない範囲で芳香族、脂肪族、脂環族ジカルボン酸、あるいは芳香族、脂肪族、脂環族ジオール成分が用いられていてもよく、あるいは複数種のヒドロキシカルボン酸が共重合されていても良い。
【0033】
これらポリエステル(B)として、CB含有PTTとの界面接着性が良好で剥離が生じがたいという点で、その主たる繰り返し構造単位は、エチレンテレフタレート、トリメチレンテレフタレート、テトラメチレンテレフタレート、エチレンナフタレート、プロピレンナフタレート、テトラメチレンナフタレートおよびポリシクロヘキサンジメタノールテレフタレート、乳酸が挙げられる。そして特に、エチレンテレフタレート、トリメチレンテレフタレート、テトラメチレンテレフタレートを主たる繰り返し構造単位とするポリエステルは、CB含有PTTと主たる繰り返し構造単位が化学的に類似しているため界面接着性が良好であり特に好ましい。得られた繊維の弾性率が高く硬い繊維として様々な用途で用いられうるという点では、エチレンテレフタレートを主たる繰り返し構造単位とするポリエステルが特に好ましく、逆に得られた繊維の弾性率が低く柔らかい繊維として様々な用途で用いられうるという点では、トリメチレンナフタレートやテトラメチレンナフタレートを主たる繰り返し構造単位とするポリエステルが特に好ましい。
【0034】
そして、本発明の導電性ポリエステル繊維においては、上記の中から選ばれるポリエステルを1種類単独で用いても良く、また本発明の目的を損ねない範囲において複数種併用しても良い。
【0035】
本発明の導電性ポリエステル繊維においては、繊維の鞘成分をなす導電性カーボンブラックを含有するPTT系ポリエステル(CB含有PTT)と、繊維の芯成分をなすポリエステル(B)以外に、本発明の目的を損ねない範囲において、他のポリマー成分を含有してもよい。該他のポリマー成分としては、例えば、ポリアミド系ポリマー、ポリイミド系ポリマー、ポリオレフィン系ポリマーやその他ビニル基の付加重合により合成される、例えばポリアクリロニトリル系ポリマーなどのビニル系ポリマー、フッ素系ポリマー、セルロース系ポリマー、シリコーン系ポリマー、芳香族あるいは脂肪族ケトン系ポリマー、天然ゴムや合成ゴムなどのエラストマー、その他多種多様なエンジニアリングプラスチックなどを挙げることができる。より具体的には、例えば、ビニル基を有したモノマーが、ラジカル重合、アニオン重合、カチオン重合などの付加重合反応によりポリマーが生成する機構により合成されるポリオレフィン系ポリマーやその他のビニル系ポリマーとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン、ポリメチルペンテン、ポリスチレン、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリロニトリル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリ塩化ビニリデン、ポリシアン化ビニリデン、などが挙げられるが、これらは例えばポリエチレンのみ、あるいはポリプロピレンのみのように単独重合によるポリマーであっても良いし、あるいは複数のモノマー共存下に重合反応を行うことで形成される共重合ポリマーであっても良く、例えばスチレンとメチルメタクリレート存在下での重合を行うとポリ(スチレン−メタクリレート)という共重合したポリマーが生成するが、本発明の目的を損ねない範囲において、このような共重合体であるポリマーであっても良い。
【0036】
また、上記他のポリマー成分としては、例えば、カルボン酸あるいはカルボン酸クロリドと、アミンの反応により形成されるポリアミド系ポリマーを挙げることができ、具体的にはナイロン6、ナイロン7、ナイロン9、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン6,6、ナイロン4,6、ナイロン6,9、ナイロン6,12、ナイロン5,7、ナイロン5,6およびナイロン5,10などが挙げられるほか、本発明の目的を損ねない範囲で他の芳香族、脂肪族、脂環族ジカルボン酸と芳香族、脂肪族、脂環族ジアミン成分が、あるいは芳香族、脂肪族、脂環族などの1つの化合物がカルボン酸とアミノ基を両方有したアミノカルボン酸化合物が単独で用いられていてもよく、あるいは第3、第4の共重合成分が共重合されているポリアミド系ポリマーであっても良い。
【0037】
上記以外の他のポリマー成分としては、アルコールと炭酸誘導体のエステル交換反応により形成されるポリカーボネート系ポリマー、カルボン酸無水物とジアミンの環化重縮合により形成されるポリイミド系ポリマー、ジカルボン酸エステルとジアミンの反応により形成されるポリベンゾイミダゾール系ポリマーや、そのほかにもポリスルホン系ポリマー、ポリエーテル系ポリマー、ポリフェニレンスルフィド系ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン系ポリマー、ポリエーテルケトンケトン系ポリマー、脂肪族ポリケトンなどのポリマーの他、セルロース系ポリマーや、キチン、キトサンおよびそれらの誘導体など、天然高分子由来のポリマーなども挙げられる。
【0038】
本発明におけるPTT系ポリエステルに含有される導電性カーボンブラックは、好ましいものとして、例えば、ファーネス法により得られる導電性カーボンブラック(以下ファーネスブラック)、ケッチェン法により得られる導電性カーボンブラック(以下ケッチェンブラック)、アセチレンガスを原料とする導電性カーボンブラック(以下アセチレンブラック)、その他グラファイト、炭素繊維などが好適に用いられ、中でもファーネスブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラックが好ましい。さらに、導電性能とポリマー中への分散性、作業上の取り扱いの観点からファーネスブラック、アセチレンブラックがより好ましい。そしてそれら導電性カーボンブラックは導電性を有する必要があって、該導電性カーボンブラックの有する導電性は比抵抗値として5.0×10[Ω・cm]以下のものであることが重要である。特に好ましい該比抵抗値の範囲は、1.0×10−6[Ω・cm]〜5.0×10[Ω・cm]である。また本発明の導電性ポリエステル繊維に含有せしめた場合に繊維物性を損ねないことが好ましく、また凝集しないことが好ましいことから、該導電性カーボンブラックの粒子の大きさは、平均粒径で1〜200nmの範囲のものが好ましく、5〜80nmの範囲のものがより好ましく、またストラクチャーの大きさの指標となるジブチルフタレート吸収量(以下DBP吸収量と記載)が30〜600cm/100gの範囲のものが好ましく、35〜400cm/100gのものがより好ましい。該DBP吸収量は、ストラクチャーが大きく発達するほど高くなり、600cm/100gを超えると導電性は向上するが、導電層の流動性が悪化して曳糸性が低下する。また、カーボンブラック表面の官能基はカーボンブラック製造過程での雰囲気に由来し、例えば水素量は製造時の温度と時間に関係する。本発明に用いるファーネスブラックの水素量は、0.1〜0.4%であることが好ましい。表面の官能基を同定あるいは定量するためには、揮発分組成や揮発分量、pHなどを調べることで可能である。
そして該導電性カーボンブラックのPTT系ポリエステルにおける含有量は、従来のPET系ポリエステルやPBT系ポリエステルよりも高濃度の導電性カーボンブラックを含有した場合であっても繊維として高い形成能を有すること、および導電性を有した場合の繊維の強度や伸度などの物性が安定していることなどから、15重量%以上50重量%以下であることが好ましく、16重量%以上40重量%以下であることがより好ましく、16重量%以上35重量%以下であることが特に好ましい。
【0039】
本発明の導電性ポリエステル繊維は、様々な用途での瞬時の大きな応力に抵抗しうる、あるいは後述する電子写真装置に組み込まれるブラシローラー用に用いて、繊維の反発力で着色剤を掻き落とす際に、掻き落とし性が良好であるという点で、初期引張弾性率が10cN/dtex以上であることが好ましく、15cN/dtex以上であることが特に好ましい。そして高いほど好ましいものの、分子構造的な点から高々300cN/dtex以下のものが好適に製造される。
【0040】
本発明の導電性ポリエステル繊維は、衣料用途や後述するブラシローラー用など様々な用途で形状あるいは特性を安定して満足するために、破断強度が1.0cN/dtex以上であることが好ましく、1.3cN/dtex以上であることがより好ましく、2.0cN/dtex以上であることがさらにより好ましい。通常、導電性の高い繊維を作製するべく導電性カーボンブラックを高濃度で含有せしめたポリエステル系樹脂のみからなる繊維は、そもそも従来のPET系ポリエステルやPBT系ポリエステルを用いた場合には本質的に安定して繊維を得ることは困難であったし、仮に繊維を形成しえた場合であっても破断強度が低く(1.0cN/dtex未満)破断強度を高めることは困難であった。しかし本発明者らは、ポリエステルとして主たる繰り返し単位がトリメチレンテレフタレートから構成されるポリエステル成分を用いた場合に、導電性カーボンブラックが高濃度で含有されていたとしても、特異的に破断強度の高い繊維が得られることを見出したのである。そして該破断強度に関しては高いほど好ましいものの、生産性を考慮すると10.0cN/dtex以下のものが好適に製造される。
【0041】
本発明の導電性ポリエステル繊維は、平均抵抗率が1.0×1012[Ω/cm]以下である。該平均抵抗率の範囲においては、後述するような多様な用途、例えば衣料、アクチュエーターや発熱体などの配線物、ブラシローラー、あるいはこれらを組み込んでなる様々な製品などにおいて所望の導電性が付与される。平均抵抗率は、小さければ小さいほど導電性が高い、すなわち電気を流しやすいため、用途によっては低い平均抵抗率を持つ必要があるものの、該CB含有PTTに最大限含有せしめることが可能な導電剤の量を鑑み、平均抵抗率の下限としては1.0×10[Ω/cm]である。特に、後述するような電子写真装置に組み込むブラシローラーに本発明の導電性ポリエステル繊維を用いる際には1.0×10〜1.0×1012[Ω/cm]の範囲の平均抵抗率であることが好ましく、ブラシローラーの用いられる部材や装置の特性に応じて後述するような範囲の平均抵抗率の導電性繊維が採用される。また発熱体などの配線物においても、織物や編物となした後に所望の形状とするが、目的とする、流す電圧あるいは電流値に応じて適宜設定すれば良いものの、1.0×10〜1.0×10[Ω/cm]の範囲の平均抵抗率であることが好ましい。
【0042】
また、本発明の導電性ポリエステル繊維は、後述するような様々な用途で安定した導電性が確保されることが好ましいことから、繊維長手方向10m当たりの抵抗率変動係数CVが、0.1以下であることが好ましく、0.07以下であることがより好ましい。該抵抗率変動係数CVは小さい値をとるほど、繊維長手方向の導電性の斑が小さいということになり、つまり安定した優れた導電性を有することを意味する。前述の導電性繊維の平均抵抗率が1.0×10[Ω/cm]未満である場合には、該抵抗率変動係数CVが0.04以下であることが特に好ましい。また該抵抗率変動係数CVは前述の通り小さい値をとるほど好ましく、0.001までの値を通常とりうるし、全く繊維長手方向の導電性の斑が無い場合は、0.001以下の値もとりうる。
【0043】
本発明の導電性カーボンブラックを導電体とする導電性ポリエステル繊維は、導電性カーボンブラック起因の摩耗という問題がある。導電性カーボンブラックはPTT系ポリエステルとの親和性に比較的優れるが、擦過体との摩擦力によって容易に削れ、それによって発生する黒色粉体が製造工程を汚したり、断糸が起こったり、電子写真装置内で使用されるブラシ製品となった場合には印刷精度の低下を招いたりするといった欠点を有する。そのため、耐摩耗性が要求される用途には、繊維表面の動摩擦係数を低下せしめる工夫が必要となる。
【0044】
本発明の導電性ポリエステル繊維の糸−金属(梨地)動摩擦係数は、工程通過性において工程内に設置してあるセラミックスガイド、金属ガイド等との摩擦による汚れや削れ、毛羽(断糸)と密接に関係する特性である。動摩擦係数が小さい場合は、ガイド等との摩擦が生じたとき、繊維への応力が小さくなり黒色粉体の発生が少なくなる。また概念的には前述のように電子写真装置において、着色剤を掻き取った後に繊維から着色剤が容易に脱離する際の脱離の容易性にも関係することから、可能な限り低い方が望ましいが、低すぎると糸条の走行安定性が不安定になり製糸段階での断糸率が増加するとともに、ローラー上でのスリップが生じやすく、ひいては繊維物性、導電性の斑につながる。また巻取機によるドラム巻き上げ時にドラム端面部で綾落ちが生じ易くなる一因にもなりうるため、該糸−金属(梨地)動摩擦係数は、0.1〜0.35μdの範囲とする必要がある。
【0045】
また、本発明の導電性ポリエステル繊維に、本発明の目的を損ねない範囲で上記糸−金属(梨地)動摩擦係数の値を満足させるために油剤を付与することが好ましい。該油剤の付与は、後述するような、糸条(フィラメントの束)が割れてバラバラとなることを防止する意味でも好ましい。上記油剤には少なくとも平滑性を付与する変性シリコーンと前述成分の相溶性を上げ、摩擦挙動を安定させるR−COOHで示されるカルボキシル基を有する化合物が含まれていることが好ましい。変性シリコーンの例としては、フェニル変性シリコーン、エポキシ変性シリコーン、脂肪酸変性シリコーンなどが挙げられるが、中でもオルガノシロキサンにエチレンオキサイド、プロピレンオキサイドの両者を付加させて水溶性となしたポリエーテル変性シリコーンが好ましい。また、R−COOHで示されるカルボキシル基を有する化合物としては、Rは炭素数8〜25のアルキル基、アリール基、アルキルアリール基を示しこれらの基の末端または炭素中に水酸基、アミノ基またはエステル結合、エーテル結合およびアミド結合を含むものなどかある。R−COOHで示されるカルボキシル基を有する化合物の配合比は3wt%以上が好ましい。また、その他の油剤成分として例えば、平滑剤、乳化剤、帯電防止剤などを含むものを付与する。
具体的には、流動パラフィン等の鉱物油、オクチルパルミテート、ラウリルオレエート、イソトリデシルステアレート等の脂肪酸エステル、ジオレイルアジペート、ジオクチルセバケート等の2塩基酸ジエステル、トリメチロールプロパントリラウレート、ヤシ油等の多価アルコールエステル、ラウリルチオジプロピオネート等の脂肪族含硫黄エステル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンヒマシ油エーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、トリメチロールプロパントリラウレート等のノニオン界面活性剤、アルキルスルホネート、アルキルホスフェート等の金属塩あるいはアミン塩等のアニオン界面活性剤、ジオクチルスルホサクシネートナトリウム塩、アルカンスルホネートナトリウム塩等テトラメチレンオキシド/エチレンオキシド共重合体、プロピレンオキシド/エチレンオキシド共重合体、非イオン系界面活性剤、等を油剤に含有せしめる成分として挙げることができ、前述の高次工程の各工程の工程通過性を向上させるために、あるいは着色剤の脱離容易性を制御しうる適切な油剤付着処方を採用する。必要に応じて、さらに防錆剤、抗菌剤、酸化防止剤、浸透剤、表面張力低下剤、転相粘度低下剤、摩耗防止剤、その他の改質剤等を併用して油剤に含有せしめてもよい。そして該油剤には、前述の様々な成分を1種選択して含有せしめてもよく、必要に応じてかつ本発明の目的を損ねない範囲において複数種を選択して併用してもよい。なお該油剤成分を1〜20重量%含有する水系エマルジョンとして糸条に付与することが好ましい。該油剤の付着量は、繊維重量を基準として純分付着量が0.3〜3.0重量%であることが好ましい。
【0046】
さらに本発明の導電性ポリエステル繊維は、温湿度変化、具体的には例えば梅雨の時期のように湿った気候の場合であっても冬季のように低温で乾燥した気候であっても導電性繊維の性能は何ら変わらないことが好ましい。そこで該導電性繊維の、中温中湿度(23℃相対湿度55%)で平均抵抗率X[Ω/cm]と、低温低湿度(10℃相対湿度15%)での平均抵抗率Y[Ω/cm]との比Z(Z=Y/X)が、1≦Z≦5の範囲にあることが好ましく、1≦Z≦4の範囲にあることがより好ましく、1≦Z≦2の範囲にあることが特に好ましい。Y/Xは1に近い値をとるほど中温中湿度と低温低湿度との差が小さい、すなわち温度湿度依存性が小さく優れた繊維であるということになる。
【0047】
本発明の導電性ポリエステル繊維の非導電成分である芯成分は、繊維横断面積の5〜90%を占有することが好ましい。該芯成分は繊維物性(例えば強度、伸度等)を維持するための補完的役割を担う。本発明の導電性ポリエステル繊維を用いて繊維製品を製造する際の加工性を容易にし、生産性を高めるとともに、製品の耐久性を向上させるため、芯成分の比率は少なくとも5%以上であることが好ましく、より好ましくは20%以上である。また、非導電成分に繊維剛性の高いPET系ポリエステルを用いたり、繊維剛性の低いPBT系ポリエステルあるいはPTT系ポリエステルを用いることで、導電成分と非導電成分との比率を変えつつ、繊維剛性を制御することも可能となる。一方、導電成分である鞘成分の比率は繊維の導電性能を担い、高い導電性を付与するために、鞘成分の比率は少なくとも10%以上であることが好ましく、より好ましくは30%以上である。
【0048】
また、本発明の導電性ポリエステル繊維には交絡処理を施しても良く、CF値が20〜120の範囲が好ましい。CF値が20未満では、糸条の集束性が低くなりやすく、高次工程において糸条(フィラメントの束)がまとまらずバラバラと単繊維に分かれ易くなることがあって、その結果、単糸切れを誘発してしまうことがある。またCF値が120を越える場合には、毛羽などが増えることがあって、工程通過性や製品品位が低下することもある。該CF値は30〜100であることがより好ましく、40〜80であることが特に好ましい。
【0049】
本発明の導電性ポリエステル繊維は、本発明の目的を損ねない範囲で艶消剤、難燃剤、滑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、結晶核剤、蛍光増白剤、末端基封止剤等の添加剤を少量保持しても良い。またこれら添加剤は、該CB含有PTTおよび/または非導電成分のいずれに保持されていても良い。また本発明の導電性ポリエステル繊維が前述の他のポリマー成分を含んでなる場合には該CB含有PTTおよび非導電成分にこれら添加剤がなくて他のポリマー成分中にあってもよい。
【0050】
さらに本発明において、本発明の目的を損ねない範囲において、ポリエステル(B)は少量のカーボンブラックおよび/または他の導電性を有していてもよい。ここで「本発明の目的を損ねない」ためには、ポリエステルがカーボンブラックおよび/または他の導電剤を含みつつも主として導電性を担う成分として機能せず、芯をなすポリエステル(B)のカーボンブラック含有量は10重量%以下とし、その抵抗率が、1012[Ω/cm]を超えるもので、本発明の導電性ポリエステル繊維の鞘成分をなす導電性カーボンブラックを含有するPTT系ポリエステル部分の抵抗率よりも大きい、ということが重要になる。
【0051】
本発明においてPTT系ポリエステルに導電性カーボンブラックを含有せしめる方法としてはPTT系ポリエステルに添加する任意の方法が採用できる。具体的には、(a)不活性気体の雰囲気下、PTT系ポリエステルを溶融したのち、導電性カーボンブラックを添加し、エクストルダーや静止混練子のような混練機により常圧もしくは減圧下で混練する方法、(b)不活性気体の雰囲気下、PTT系ポリエステルと導電性カーボンブラックとをあらかじめ所定の割合でドライブレンドしたのち、好ましくはPTT系ポリエステルが粉体もしくは粒体となされたものと導電性カーボンブラックとをドライブレンドしたのち溶融し、エクストルダーや静止混練子のような混練機により常圧もしくは減圧下で混練する方法、(c)通常のPTT系ポリエステルの重合反応において、重合反応が停止する以前の任意の段階で導電性カーボンブラックを含有せしめて混練する方法、などが挙げられるが、簡便に混練が達成できかつ導電性カーボンブラックとPTT系ポリエステル成分とがより微細に混練されることから、好ましくは(a)あるいは(b)の方法が採用される。特にエクストルダーに関しては1軸あるいは2軸以上の多軸エクストルダーを好適に用いることができるものの、PTT系ポリエステル成分と導電性カーボンブラックとを混練した際に導電性カーボンブラックが微細混練するという点で、2軸以上の多軸エクストルダーを採用することが好ましい。そしてエクストルダーの軸の長さ(L)および軸の太さ(D)の比L/Dについては特に制限されるものではないが、混練性向上の点でL/Dは10以上であることが好ましく、20以上であることがより好ましく、30以上であることがさらにより好ましい。また該L/Dは大きい値をとるほどより混練にかかる時間が長くなり混練性が向上して好ましいものの、過度にL/Dが大きいと滞留時間が大きくなりすぎて、PTT系ポリエステルが劣化することもあり得るので、該L/Dは100以下であることが好ましい。また導電性カーボンブラックの添加は、前述の通りエクストルダーに供給する以前の段階でドライブレンドしておいても良く、あるいはエクストルダーに配設したサイドフィーダーを用いて溶融PTT系ポリエステルとエクストルダー中にて混合しても良い。また特に静止混練子に関しては、例えば溶融したPTT系ポリエステルの流路を2つあるいはそれ以上の複数に分割して再度合一するという作業(この分割から合一までの作業1回を1段とする)がなされる静置型の混練素子であれば特に制限されるものではないものの、より混練性が優れるという点で該静止混練子の段数は5段以上であることが好ましく、10段以上であることがさらにより好ましい。また流路の必要長さにも依るものの過度に長い場合には工程に組み込めない場合もあることから、上限としては50段以下であることが好ましい。
【0052】
本発明の導電性ポリエステル繊維で好ましいとするPTT系ポリエステル、あるいは前述したポリエステルや他のポリマー成分は、通常、合成繊維に供する粘度のポリマーを使用することができる。例えば、PET系ポリエステルであれば、固有粘度(IV)が0.4〜1.5であることが好ましく、0.5〜1.3であることがより好ましい。また、PTT系ポリエステルであれば、固有粘度(IV)が0.7〜2.0であることが好ましく、0.8〜1.8であることがより好ましい。あるいは、PBT系ポリエステルであれば、固有粘度(IV)が0.6〜1.5であることが好ましく、0.7〜1.4であることがより好ましい。またポリアミド系ポリマーは、例えばナイロン6であれば相対粘度ηrが1.9〜3.0であることが好ましく、2.1〜2.8であることがより好ましい。
【0053】
また、本発明のPTT系ポリエステルの溶融粘度は、添加する導電性カーボンブラックの添加量や繊維の構成により適宜設定すれば良いが、導電性カーボンブラックを含有した状態での該ポリエステルの溶融粘度は、溶融紡糸温度(240〜280℃)の範囲で、剪断速度が12.16[1/秒]の剪断粘度が10〜100,000[Pa・秒]のポリエステルが通常用いられ、好ましくは50〜10,000[Pa・秒]である。
【0054】
さらに、導電性カーボンブラックを含有するPTT系ポリエステル(A)を鞘成分とし、ポリエステル(B)を芯成分とし、溶融紡糸温度(240〜280℃の範囲)において(剪断速度1216[1/秒]時)芯成分(core)と鞘成分(sheath)の溶融粘度差(=log[ηcore]−log[ηsheath])が0以上であることが好ましい。これは、本発明の導電性ポリエステル繊維において、芯成分の溶融粘度を高くすることで芯成分に繊維形成能を担わせることある。このように芯成分が溶融紡糸における紡糸応力を受け持つことで、さらに鞘成分に大きな応力がかからず、CB含有PTTの導電性カーボンブラックストラクチャーを維持したまま、または、大きく破壊せず溶融紡糸が可能となり、高い導電性能のほか、繊維長手方向の導電斑が小さくなり、安定した導電性能を発揮できるのである。該溶融粘度差が0未満であれば鞘成分に大きな応力がかかり、CB含有PTTの導電性カーボンブラックストラクチャーが破壊され、導電性能が低下するほか、繊維長手方向の導電斑が大きくなる。また、該溶融粘度差が大きければ大きいほど鞘成分にかかる応力が小さくなり好ましいが、大きすぎる場合には芯鞘複合形成時の口金内での粘度バランスの関係が悪くなり、複合異常が生じたり、断糸、太さ斑により製糸が困難となることもあるため、好ましくは前述の溶融粘度差は1以下であり、さらに好ましくは0.5以下である。
【0055】
本発明の導電性ポリエステル繊維は、使用時の環境によっては高温に曝される場合もあることから、耐熱性に優れるという点で、160℃大気中で15分間保持した際の収縮率(乾熱収縮率)が20%以下であることが好ましく、10%以下であることが特に好ましい。低いほど好ましく0%までのものが好適に用いられる。
【0056】
本発明の導電性ポリエステル繊維は、衣料用途や後述するブラシローラー用など様々な用途での使用時の変形が小さいという点で、残留伸度が5〜100%であることが好ましく、30〜50%であることが特に好ましい。
【0057】
以下、本発明の導電性ポリエステル繊維の好ましい製造方法を例示する。
【0058】
本発明の導電性ポリエステル繊維は、溶融紡糸、乾式紡糸、湿式紡糸、あるいは乾湿式紡糸などの溶液紡糸など、種々の合成繊維の紡糸方法を採用して製造できるものの、繊維中に配設されたPTT系ポリエステルに導電性カーボンブラックを高濃度で含有せしめることが容易かつ可能であり、また繊維形状を精密に制御可能であることから溶融紡糸により製造されることが好ましい。そして導電性カーボンブラックを含有するPTT系ポリエステル(CB含有PTT)を鞘成分とし、繊維形成能を有するポリエステル(非導電成分)を芯成分として複合紡糸することで繊維を得る。図1に本発明の導電性ポリエステル繊維の好ましい繊維断面形状を示す。図中1は導電性成分で、2は非導電性成分である。
【0059】
溶融吐出された繊維は繊維を形成するポリマー成分(CB含有PTTと非導電成分)のうち低い方のガラス転移温度(Tg)以下の温度に冷却され、前述の油剤を付着せしめた後、100〜7000m/分の引取速度で、好ましくは4000m/分以下、より好ましくは3000m/分以下、更により好ましくは2500m/分以下の引取速度で引き取る。また生産性を考慮すると500m/分以上、好ましくは1000m/分以上の引取速度で引き取る。本発明で用いるPTT系ポリエステルは過度に高い引取速度で引き取った場合に、工程安定性に劣る場合もあることから、最も好ましいのが1200m/分〜2500m/分の範囲である。
【0060】
ここで、口金孔から吐出される繊維一束の本数(糸条の繊維本数)は目的とする使用方法あるいは用途に応じて適宜選択すればよく、1本のモノフィラメントの状態であっても、3000本以下の複数糸条からなるマルチフィラメントでも良いものの、諸物性の安定した繊維が得られ、各種用途に好適に採用されるという点で、2〜500本が好ましく、3〜400本が特に好ましい。また、前述したように油剤を付着せしめる場合は繊維の摩擦特性を制御する以外にも繊維の様々な用途に応じて適宜用いることができるが、本発明の導電性ポリエステル繊維を用いてなる電子写真装置の感光体が劣化することを防止するために感光体を劣化せしめるような化合物が含有されていないことが好ましい。
【0061】
前述で繊維を引き取った後巻き取ることなくもしくは一旦巻き取った後、繊維を構成するポリマー成分(CB含有PTTと非導電成分)のうち、低い方のガラス転移温度(Tg)+100℃以下の温度に加熱して、より好ましくはガラス転移温度が低い方のガラス転移温度Tg−20℃〜ガラス転移温度が高い方のTg+80℃の温度範囲に加熱して、延伸糸の残留伸度が5〜60%となる倍率で、好ましくは延伸糸の残留伸度が30〜50%となる倍率、すなわち1.1〜3.0倍の範囲の延伸倍率で1段目の延伸を施す。ここで一旦延伸したのち(すなわち1段目の延伸を終えた後)、さらに1倍以上2倍以下の倍率で2段目の延伸を施してもよい。
【0062】
延伸したのち、繊維は最終延伸温度以上融点(Tm)以下の温度で熱処理することが好ましい。延伸後に高温で熱処理を施すことで、繊維の耐熱性向上および導電性能の制御が可能となる。
【0063】
この前記熱処理は、本発明の導電性ポリエステル繊維の導電性能を担っている、導電性カーボンブラックの導電性能を決定する導電性カーボンブラックストラクチャー構造(以下、ストラクチャーと記載する)の形成と関係があると考えられる。すなわちポリマー中での導電性カーボンブラックはポリマー分子鎖の間隙をぬって導電性カーボンブラックの粒子がストラクチャー(連鎖構造)を形成していると推測されるが、この時、導電性ポリエステル繊維に電圧をかけると、前記ストラクチャーの炭素表面のπ電子がストラクチャーを伝わって移動することによって電気が流れることが一般に知られている。ここで、本発明の導電性ポリエステル繊維に前記熱処理を施すことによりポリマーの結晶化が促進され、結晶部から導電性カーボンブラックが排除されることにより、ストラクチャーの局在化、緻密化が起こることにより、より高い導電性を示すことになると推測される。また、前述平均抵抗率変動係数CVも低くなり、繊維長手方向の導電性の斑が小さく優れた繊維となすことができるのである。
【0064】
上記延伸方法あるいは延伸後の熱処理方法としては特に制限されるものではなく、加熱されたピン状物、ローラー状物、プレート状物などの接触式ヒーターや加熱した液体を用いた接触式バス、あるいは加熱気体、加熱蒸気、電磁波などを用いた非接触式加熱媒体などを採用することが可能であるものの、加熱されたピン状物、ローラー状物、プレート状物などの接触式ヒーターや加熱した液体を用いた接触式バスなどは装置が簡便で加熱効率が高いことから好ましく、加熱されたローラー状物が特に好ましい。また、巻き取ったパッケージやボビンの状態でオーブンなどの熱処理加熱装置にて熱処理を施しても良く、後述のブラシ製品とするまでの工程中やブラシ製品での熱処理を施しても良い。
【0065】
本発明の導電性ポリエステル繊維は、織物あるいは編物、さらには様々な衣料用途に用いる場合には仮撚り加工を施しても良い。仮撚り加工において繊維は、延伸糸あるいは未延伸糸を加熱することなくもしくは加熱されたピン状物、ローラー状物、プレート状物、あるいは非接触型のヒーターなどにより加熱した後、ディスク状物あるいはベルト状物によって仮撚り加工される。延伸仮撚り加工された繊維は、そのままもしくは特に制限されるものではないものの熱セットされた後に巻き取られることが好ましい。また本発明の導電性ポリエステル繊維は、前述仮撚り加工の代わりに、撚糸加工を施しても良い。
【0066】
前述の好ましいとされる範囲のCF値を得るために、紡糸及び/または延伸工程で交絡を付与することで達成しうる。紡糸で一旦巻き取る2工程法の場合、紡糸と延伸を直結した場合ともに、延伸熱処理後に−1〜+10%糸条をリラックス処理し、交絡付与ノズルにより交絡を付与する。交絡付与張力と交絡作動流体(圧縮空気が好ましい)圧を調整し、前述範囲のCF値を得る。
【0067】
本発明の導電性ポリエステル繊維は、特に短繊維となして電気植毛加工を行う際に、より効率的に加工が行えるという点で、比抵抗値が10〜10[Ω・cm]であることが好ましく、10〜10[Ω・cm]であることがより好ましい。そしてこれら好ましいとされる比抵抗値の値を有する短繊維とせしめるために導電調製剤等で処理することが好ましい。該導電調製剤としては例えばシリカ系粒子が混合された水系溶剤あるいは有機系溶剤を挙げることができ、その際のシリカ系粒子の粒径としては通常1nm〜200μmの大きさの粒子が用いられ、3nm〜100μmの大きさの粒径が好ましい。
【0068】
本発明の前記導電性ポリエステル繊維を少なくとも一部に用いてなる植毛体を、少なくとも一部に用いてなるブラシ製品、具体的にはブラシローラー等として形成し用いることができる。特に、棒状物体に直接植設されることが好ましい。ここで用いられる短繊維は、棒状物体に植設される際に、気体により短繊維を吹き付けても良くあるいは電気植毛加工を行っても良いが、棒状物体の表面に概ね直立したものが効率よく得られることから電気植毛加工により得られることが好ましい。このとき短繊維は、その50%以上が棒状物体の表面において10度から垂直(すなわち90度)の概ね直立状態に接着される。ここで、本発明の目的を損ねない範囲で、用いる短繊維には本発明の導電性ポリエステル繊維からなる短繊維以外に、本発明の導電性ポリエステル繊維ではない他の繊維からなる短繊維を混用して植設しても良い。また接着して植設する際の接着剤は特に制限されるものではなく、例えばアクリル系、ウレタン系、またはエステル系の接着剤が用途あるいは目的に応じて種々選択されて用いられ、ここで接着剤の層の厚さは1〜500μmであることが好ましく、単層あるいは必要に応じて、複数種の接着剤を混合してもしくは複数層に分けて用いても良い。また本発明の短繊維を少なくとも一部に用い、棒状物体に植設してなる前記ブラシローラーのブラシローラー自体の比抵抗値は10〜1011Ω・cmであることが好ましい。
【0069】
前述の棒状物体の芯となる主たる材質は、用いられる用途あるいは目的に応じて適切なものを採用すれば良く、金属、合成樹脂、天然樹脂、木材、鉱物などから単独で、もしくは複数種を組み合わせて選ばれるが、後述する電子写真装置に組み込む部材として用いる場合には、主として金属からなることが好ましい。さらに該棒状物体が金属である場合には、該金属の少なくとも一部もしくは必要とする部分の全面を中間層が覆い、その上に前記織物および/または編物および/または不織布が接着されるか、あるいは短繊維が接着して植設されることが好ましい。この中間層として用いられる素材は主としてクッション性を棒状物体に付与する、あるいはブラシ状の繊維の弾性・剛性のみでは達成し得ない場合に補助的に弾性・剛性を担うものであり、後述される例えば清掃装置におけるトナー除去性能、あるいは現像装置におけるトナー付与性能を格段に向上せしめる。そして特に制限されるものではないものの、該中間層には例えばウレタン系素材、エラストマー素材、ゴム素材あるいはエチレン−ビニルアルコール系素材などが好適に用いられる。そして該中間層の厚みは0.05〜10mmであることが好ましく、さらに必要に応じて前述の導電性制御剤あるいは磁性制御剤が添加されていても良い。
【0070】
本発明の導電性ポリエステル繊維は、安定した導電性を有しかつ所望の抵抗率に制御することが可能であることから、一定の電圧を印可した際に微弱な電流を流すことが可能であり、様々な配線物を形成させることができる。これを利用して、例えばその一例として、微弱な電流で信号を送られて制御・駆動されるアクチュエーターを形成することができる。このときに繊維の長さについては、長繊維(フィラメント)であっても前述のような短繊維であっても良い。該アクチュエーターは具体的に、例えば人間の筋肉と同じで微弱な電流を信号として伝達し、駆動することができるため、本発明の導電性ポリエステル繊維はこのアクチュエーターの電気信号回路に用いることができる。
【0071】
また、配線物の一例として、本発明の導電性ポリエステル繊維を少なくとも一部あるいは全部に用いてなる発熱体として用い、形成することもできる。このときに繊維の長さについては、長繊維(フィラメント)であっても前述のような短繊維であっても良い。発熱体となした場合に、本発明の導電性ポリエステル繊維は導電性に優れ、しかも必要とする平均抵抗率[Ω/cm]に設計することが可能であるため、印可電圧、ターゲットとする温度、などに応じた発熱体としうる。一定の電圧をかけることで、本発明の導電性ポリエステル繊維は抵抗体として機能し発熱する。発熱体を設計する際には、例えばごく少量の温度上昇でよい場合には本発明の導電性ポリエステル繊維を数本ごとにタテ糸および/またはヨコ糸として用いることが好ましい。または暖めるべき場所が面状である必要が生じる時には、本発明からなる繊維を経糸あるいは緯糸に用いるときに、より本数を増やせば面状で温度が上がりやすくなり、極限には、経糸および緯糸の全てに本発明の導電性ポリエステル繊維を用いて織物を形成すればよい。なお織物ではなく編物であっても良い。発熱体としては100Vの電圧を繊維の両端あるいは織物の両端に印可した場合に、少なくとも0.5℃/分の昇温速度で昇温されるものが、良好な発熱体として用いうる。
【0072】
本発明の導電性ポリエステル繊維を少なくとも一部に用いてなるブラシ製品、あるいはブラシローラーは、用いている本発明の導電性ポリエステル繊維の導電性に由来して、例えば電子写真装置の中に組み込まれている清掃装置の部材として好適に用いられる。ここで該清掃装置に用いられるブラシ製品、あるいはブラシローラーの導電性繊維の平均抵抗率は、1.0×10[Ω/cm]以上1.0×10[Ω/cm]以下、または1.0×10[Ω/cm]以上1.0×1011[Ω/cm]以下の範囲のものが好適に、かつ清掃装置の機構に応じて用いられる。清掃装置の中で該ブラシローラーは回転しながら、必要であれば電気を印可されながら、不要物(例えば電子写真装置の中であれば転写されなかった残存着色剤など)を捕捉して除去するのであるが、本発明の導電性ポリエステル繊維を用いた場合には前述のとおり、温度および湿度変化がある場合にも安定した導電性能を有する繊維であることから、この除去性能が格段に優れるのである。また該ブラシローラーの清掃装置内での用いられ方としては前述のとおり、感光体にブラシローラーが直接接触して清掃する以外に、感光体を清掃する部材(前記のとおり、ブラシローラーの場合もあれば、あるいは従来技術であればブレード状の部材)を清掃するためのブラシローラーとして、すなわち清掃装置自体を清掃するもの、もしくは回収した不要トナーを別の場所に移送するためのブラシローラーとしても用いられる。また本発明の清掃装置にはブラシローラーを目的、効果、清掃の機構に応じて1本用いてもあるいは2本以上の複数本用いても良い。
【0073】
本発明の導電性ポリエステル繊維を少なくとも一部に用いてなるブラシローラーは、本発明の導電性ポリエステル繊維の導電性に由来して、後述する電子写真装置の帯電装置に好適に組み込まれ使用される。該帯電装置に組み込まれるブラシローラーの導電性繊維の平均抵抗率は、1.0×10[Ω/cm]以上1.0×10[Ω/cm]以下の範囲のものが好適に用いられる。該ブラシローラーを用いてなる帯電装置の性能は、ブラシローラーの導電性能、すなわち導電性繊維の性能に依存するが、本来の目的である感光体を均一に帯電できることはもとより電子写真装置内の環境変化、すなわち電子写真装置が稼働中徐々に変化する温度や湿度の変化、あるいは季節による温度、湿度変化に対してブラシローラーの導電性は全く変化しないことが求められる。それに対して本発明の導電性ポリエステル繊維は、前述の環境変化に対して導電性は全く変化することがないため、感光体の帯電斑が起こりにくく、優れた帯電装置となる。加えて、該電子写真装置の感光体表面に、清掃が不十分なために残存したトナーがあった場合にも、該ブラシローラーはブラシ状であって、清掃ローラーを兼ねることができるため、現像あるいは印刷時の汚染がない、もしくは殆どないという点でも優れており、さらには電子写真装置を小型化する場合には、前記清掃装置および帯電装置を個別に設置することなく、清掃装置兼帯電装置として省スペース化を図ることも可能であるため、その点でも格段に優れている。また、該帯電装置中には、目的、機構に応じて前記ブラシローラーを1本あるいは2本以上の複数本用いても良い。
【0074】
本発明の導電性ポリエステル繊維を少なくとも一部に用いてなるブラシローラーは、用いている本発明の導電性ポリエステル繊維の導電性に由来して、現像装置に好適に組み込まれて用いられる。現像装置は後述の電子写真装置においては、前記帯電装置により一様に帯電された感光体表面にレーザーによって描かれた潜像を顕像化するものであるが、前述のような電子写真装置内の環境変化に対してもブラシローラーの抵抗率変化がないことから、顕像化するためのトナーが均一に感光体に供給され顕像化し、得られた現像物あるいは印刷物は汚染あるいは印刷斑のない、もしくは殆どない美しいものとなるため格段に優れている。
【0075】
本発明の導電性ポリエステル繊維を少なくとも一部に用いてなるブラシローラーは、用いている本発明の導電性ポリエステル繊維の導電性に由来して、後述する電子写真装置に用いられうる除電装置に好適に組み込まれて用いられる。該除電装置に組み込まれるブラシローラーの導電性繊維の平均抵抗率は1.0×10[Ω/cm]以上1.0×1011[Ω/cm]以下の範囲のものが好適に用いられる。特に後述する電子写真装置に用いる際には、ブラシローラーの導電性繊維が安定かつ斑のない除電効果を発現し、通常、除電装置のあとに配設される前記清掃装置での清掃効果をより高めることが可能であるほか、該電子写真装置を小型化する場合には該ブラシローラーを用いることで除電装置兼清掃装置として組み込むことができ格段に優れている。
【0076】
前記清掃装置および/または帯電装置および/または現像装置および/または除電装置を用いてなる電子写真装置、具体的にはレーザービームモノクロプリンター、レーザービームカラープリンター、発光ダイオードを用いたモノクロあるいはカラープリンターモノクロ複写機、カラー複写機、モノクロまたはカラーファクシミリあるいは多機能型複合機、ワードプロセッサーなどを挙げることができるが、帯電した感光体にレーザーおよび/または発光ダイオードで潜像を描きトナーを用いて顕像化するメカニズムにより現像あるいは印刷を行う装置は、前述のとおり、本発明の導電性ポリエステル繊維を用いていることから、電子写真装置内の環境変化、特に温度や湿度変化によらず安定した清掃・帯電・現像・除電性能を有し、得られた印刷あるいは現像物はモノクロの場合はもとより、複数種のトナーをかつ多量に用いるカラーの場合は特に美しいものとなるし、さらには電子写真装置の駆動速度をより高める、すなわち、単位時間あたりの印刷あるいは現像速度(枚数)を高めることが可能となる。また本発明の導電性ポリエステル繊維を用いてなる電子写真装置は、前述のとおり、さらなる小型化、省スペース化、省電力化を図ることができ、好ましい。
【0077】
以下実施例により、本発明を具体的かつより詳細に説明するが、本発明はこれら実施例のみに制限されるものではない。なお実施例中の物性値は以下の方法によって測定した。
【実施例】
【0078】
A.繊度[dtex]および単繊維繊度[dtex]の測定
マルチフィラメントを長さ100mカセ取りし、そのカセ取りした繊維の重量(g)を測定して得た値の100倍とし、同様に測定して得た3回の値の平均値を繊度とした。単繊維繊度は、前述の繊度をマルチフィラメントを構成する単繊維の本数で割った値を単繊維繊度[dtex]とした。
B.繊維の残留伸度、破断強度、初期引張弾性率の測定
試料をオリエンテック(株)社製TENSILON UCT−100でJIS L1013:1999(化学繊維フィラメント糸試験方法)8.5.1に示される定速伸長形でつかみ間隔20cmの条件で測定した。なお、破断伸度はS−S曲線における最大強力を示した点の伸びから求めた。また、初期引張弾性率は8.10に示されるとおりに測定した。
C.平均抵抗率P[Ω/cm]および抵抗率変動係数CVの測定
中温中湿度(23℃相対湿度55%)で測定すべき試料を少なくとも該雰囲気中に1時間保持した後、測定した。送糸ローラーと巻取ローラーからなる1対の鏡面ローラーで糸を走行させる際に、ローラー間に、東亜DKK(株)製絶縁抵抗計SM−8220に接続された2本の棒端子からなるプローブに走行糸が接するように設置した装置で、棒の太さφ2mm、棒端子間で接する糸の距離2.0cm、印可電圧100V、送糸速度1m/分、ローラー間の糸張力0.5cN/dtex、絶縁抵抗系でのサンプリングレート1秒で10mの長さ分、抵抗値を測定して、得られた抵抗値の平均[Ω]を棒端子間で接する糸の距離(2.0cm)で割った値を平均抵抗率P[Ω/cm]とした。また同時に得られた全ての抵抗値の標準偏差Qを算出したのち、PとQとの比から平均抵抗率変動係数CV(CV=Q/P)を算出した。
D.中温中湿度(23℃相対湿度55%)と低温低湿度(10℃相対湿度15%)との平均抵抗率の比(温湿度変化Z)
中温中湿度についてはC.項の測定方法を採用し、また低温低湿度においてもC.項と同様に測定して平均抵抗率を求め、それぞれ得た平均抵抗率X,Yの比Z(Z=Y/X)を求めた。
E.比抵抗値の測定方法
測定は前記中温中湿度で測定すべき試料を少なくとも該雰囲気中に1時間保持した後、測定した。測定物が長さ100mm以上の繊維状のものである場合には、繊維束を1000dtexの束にして50mmの長さに切断し(この時、繊維端面は斜めにカットする)、端面に導電性ペーストを塗布してから電極を取り付けて500Vで測定した。また測定物が長さ100mm未満の繊維状物あるいは粉体状のものである場合は、長さ10cm、幅2cm、深さ1cmの、両端面に電極を有する絶縁体の箱形容器に、10MPaの圧力で充填して密封したのち500Vで測定して、単位体積当たりの比抵抗値[Ω・cm]に換算して求めた。ガット状のものについては、1回の測定において、直径D(0.2〜0.3cmの範囲の直径のもの)で長さ12cmのガットについて、テスターを用いてテスターの2本の端子を任意の10cmの間隔でガットに押しつけ、その抵抗値R[Ω]を測定し、(比抵抗値)=R×(D/2)×π/10の式から該ガットの比抵抗値を求めた。そして5本の異なるガットについて各々1回ずつ比抵抗値を測定し、5回の平均値をそのガットの比抵抗値とした。
F.溶融粘度の測定
(株)東洋精機社製キャピログラフ1Bを用い、窒素雰囲気下、バレル径9.55mm、キャピラリー長10mm,キャピラリー内径1mmで、剪断速度12.16[1/秒]で測定した。測定温度は各々のポリマーの溶融紡糸温度(特に断り書きのない限り、PET系ポリエステルであれば290℃、PTT系ポリエステルであれば260℃)で測定した。そして5回測定した値の平均値を溶融粘度の測定値とした。なお測定時間については、試料の劣化を防ぐため5回の測定を30分以内で完了した。溶融粘度差については前述の剪断速度を1216[1/秒]として測定した。
G.乾熱収縮率の算出
JIS L1013:1999(化学繊維フィラメント糸試験方法)8.18.2の乾熱収縮率(A法)に示される条件で測定した。この時の処理温度は160℃とした。
H.ガラス転移点(Tg)および融点(Tm)の測定
パーキンエルマー社製示差走査熱量分析装置(DSC−7)を用いて試料10mgで、昇温速度16℃/分で測定した。Tm、Tgの定義は、一旦昇温速度16℃/分で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm)の観測後、約(Tm+20)℃の温度で5分間保持した後、室温まで急冷し、(急冷時間および室温保持時間を合わせて5分間保持)、再度16℃/分の昇温条件で測定した際に、段状の基線のずれとして観測される吸熱ピーク温度をTgとし、結晶の融解温度として観測される吸熱ピーク温度をTmとした。
I.導電性カーボンブラックの平均粒径の確認
繊維または樹脂をエポキシ樹脂中に包埋したブロックに酸化ルテニウム溶液を用いて染色を施し、ウルトラミクロトームにて切削して60nm〜100nmの厚さの超薄切片を作製し、透過型電子顕微鏡(TEM)観察装置(日立製作所製 H−7100FA型)にて、加速電圧75kVで、倍率2万〜10万倍の任意の倍率で観察を行い、得られた写真を白黒にデジタル化した。該写真をコンピュータソフトウェアの三谷商事社製WinROOF(バージョン2.3)において黒で見える導電性カーボンブラックを画像解析することによって平均粒径について確認した。平均粒径については写真上に存在する全ての導電性カーボンブラックの面積をそれぞれ計算し、該面積値から略円形と判断して計算した導電性カーボンブラックの直径の平均値によって算出した。
J.固有粘度(IV)、相対粘度ηrの測定
ポリエステル系ポリマーの場合は、試料をオルソクロロフェノール溶液に溶解し、オストワルド粘度計を用いて25℃で測定した(固有粘度(IV))。ポリアミド系ポリマーの場合は、試料を98%硫酸に溶解し、25℃でオストワルド粘度計で滴下秒数を測定し、98%硫酸に対する試料溶液の粘度比(滴下秒数比)で示す(相対粘度ηr)。
K.糸−金属(梨地)動摩擦係数の測定
駆動ユニット、テンションローラ、張力計測部、データ処理部、レコーダで構成された英光産業株式会社製の走行糸摩擦係数測定装置「HS−4000−μ」を用い測定した。金属摩擦体dは表面粗度が20sの梨地加工した直径35mm×長さ78.5mmの固定した金属円筒を用いて、測定糸条を該金属摩擦体dに180°接触させ、糸条の走行速度を55m/minとし、金属摩擦体dへ接触する前の糸条張力(T1)を9.81cNに設定し、30秒間走行させた。その時の金属摩擦体dへ接触する前の糸条張力(T1)と接触後の糸条張力(T2)を連続測定しレコーダに記録した。レコーダ記録のそれぞれの平均値を(T1)および(T2)とし、次式を用いて糸−金属(梨地)動摩擦係数(μd)を算出した。
糸−金属(梨地)動摩擦係数(μd)=(1/π)×ln(T2/T1)
L.CF値
JIS L1013:1999(化学繊維フィラメント糸試験方法)7.13の交絡度に示される条件で測定した。試験回数は50回とし、交絡長の平均値L(mm)から下式よりCF値(Coherence Factor)を求めた。
【0079】
CF値=1000/L
M.工程通過性
汚れと削れは工程内にあるセラミックスガイドを目視で観察し、以下に示す基準で3段階評価した。また、毛羽に関しては工程通過後の糸条を目視で観察し、以下に示す基準で3段階評価した。
(1)汚れ ○:無し、△:少々有り、×:汚れ多
(2)削れ ○:無し、△:少々有り、×:削れカス多
(3)毛羽 ○:無し、△:少々有り、×:断糸
N.紡糸性
総巻取量40kgにおいての紡糸性を、以下に示す基準で3段階評価した。
【0080】
○:1回以下、△:2〜4回、×:5回以上
O.画像評価方法
導電性ポリエステル繊維を後述する実施例1に示すとおりにブラシ加工し、清掃装置に組み込んで配設したモノクロレーザープリンターにて、長時間連続印刷を行った。2万枚印刷後の画像評価を以下に示す基準で3段階評価した。
【0081】
○:鮮明で均一な画像、△:少々異常放電跡有り、×:画像が不鮮明、スジ斑多
P.単繊維直径の測定
FEI Company社製 走査型電子顕微鏡(SEM) STRATA DB235を用いて、加速電圧2kVで、白金−パラジウム蒸着(蒸着膜圧:25〜50オングストローム)処理を行った後、繊維外径が全て視野に入る倍率(単繊維直径が25μm〜50μmであれば5千倍、15μm〜25μmであれば1万倍、5μm〜15μmであれば2万倍)で確認した。なおこの際、単繊維直径は少なくとも該測定を同一繊維において3cm以上の間隔をおいた任意の5点について観察、測定して得た平均値を単繊維直径とする。
Q.繊維中での、導電性カーボンブラックを含有する主たる繰り返し構造単位がトリメチレンテレフタレートから構成されるポリエステル(CB含有PTT)の割合の算出
割合を算出する繊維のフィラメントをエポキシ樹脂中に包埋したブロックを、ミクロトームにて繊維軸方向に垂直な繊維横断面方向に切削して薄切片をつくり、光学顕微鏡200倍で透過光で観察・撮影したのち、得られた繊維横断面写真について、前述三谷商事株式会社製WinROOFにおいてCB含有PTT部分と、ほかの成分との面積を画像解析することによってそれぞれ求めて割合を算出した。
R.CB含有PTT中における導電性カーボンブラックの含有量
前述Q.項で求めたCB含有PTTの割合から、CB含有PTT中における導電剤の含有量を算出した。溶媒に溶けないもしくは溶けにくい場合は、1Nの水酸化ナトリウム水溶液30℃で24時間撹拌して、遠心分離したのち、導電剤の量を秤量して求めた。
S.DBP吸収量の測定
JIS K6217−4:2001の「DBP吸収量の求め方」に準じ、アブソープトメータを用いて測定した。
(ポリエチレンテレフタレートの製法の一例)
テレフタル酸166重量部とエチレングリコール75重量部からの通常のエステル化反応によって得た低重合体に、着色防止剤としてリン酸85%水溶液を0.03重量部、重縮合触媒として三酸化アンチモンを0.06重量部、調色剤として酢酸コバルト4水塩を0.06重量部添加して重縮合反応を行い、通常用いられるIV0.67、溶融粘度181[Pa・秒](測定温度290℃、10[1/秒])のポリエチレンテレフタレート(以下PET)のペレットを得る。
(ポリトリメチレンテレフタレートの製法の一例)
テレフタル酸ジメチル130部(6.7モル部)、1,3−プロパンジオール114部(15モル部)、酢酸カルシウム1水和塩0.24部(0.014モル部)、酢酸リチウム2水和塩0.1部(0.01モル部)を仕込んでメタノールを留去しながらエステル交換反応を行うことにより得た低重合体に、トリメチルホスフェート0.065部とチタンテトラブトキシド0.134部を添加して、1,3−プロパンジオールを留去しながら、重縮合反応を行い、チップ状のプレポリマーを得た。得られたプレポリマーを、さらに220℃、窒素気流下で固相重合を行い、IV1.15、溶融粘度493[Pa・秒](測定温度260℃、10[1/秒])のポリトリメチレンテレフタレート(以下PTT)ペレットを得た。
【0082】
実施例1
固有粘度(IV)1.50、溶融粘度800(Pa・秒)(測定温度260℃、12.16(1/秒))、融点(Tm)229℃のポリトリメチレンテレフタレートペレットを150℃、10時間真空乾燥した後、窒素雰囲気下で粉粒体とし、導電性カーボンブラックとしてキャボット・スペシャルティ・ケミカルズ・インク社製ファーネスブラック(タイプVULCAN XC72、比抵抗0.45(Ω・cm)、平均粒径31nm、DBP吸収量174cm/100g、以下「FCB1」と記載)を窒素雰囲気下で粉体同士を混合した。続いて東芝機械(株)製2軸エクストルーダTEM35B(軸径D:37mm、L/D:38.9)にて軸回転数:300rpm、混練温度:250℃、吐出量:15kg/hr、ベント:約2Torrにて溶融混練した。ここで、FCB1の濃度は混練終了後に得られるPTT/FCB1混練物に対して25重量%となるように調製した。混練した後、吐出されたガット状の樹脂組成物を15℃の水道水で冷却したのちカッターで切断して導電層用のペレット(以下、「PTT−CB」と記載)を得た。該ペレットの溶融粘度を測定したところ、2010(Pa・秒)(測定温度260℃、12.16(1/秒))であった。ペレタイズ前のガットの平均比抵抗値を測定したところ101.4(Ω・cm)であった。
【0083】
上記PTT−CB(融点228℃)を鞘成分とし、イソフタル酸を7モル%、2,2ビス(4−2(ヒドロキシエトキシ)フェニル)プロパンを4モル%共重合したポリエチレンテレフタレート(融点228℃)を芯成分として、2軸エクストルーダ(軸長L/軸径D=35)を2台備えたエクストルーダ型複合溶融紡糸機を用いて、それぞれ別々に溶融し、紡糸温度265℃で芯鞘複合紡糸用口金(吐出孔直径0.5mm/孔深度1.0mm)を用い、芯鞘複合比(芯/鞘:重量%)80/20で吐出した。この時の芯成分と鞘成分の溶融粘度差は0.06であった。吐出後の糸条は冷却チムニーによって0.5m/sの冷却風で冷却・固化され、口金下2mの位置で給油装置にて集束させながら油剤を付与し、交絡ノズルにて流体として圧縮空気を用い作動圧0.1MPaで予備交絡を施し、周速度1500m/分の第1ゴデットロール(GD)、および第2GDにて引き取り、285dtex、48フィラメントの芯鞘複合構造の未延伸糸を2kg巻いたチーズパッケージとした。なお、巻取機の周速度は1482m/分とした。また、油剤としては平滑剤として重量平均分子量2000のポリエーテルを70重量%、重量平均分子量6000のポリエーテルを8重量%、エーテルエステルを12重量%、ポリエーテル変性シリコーンを2重量%、オレイルザルコシン酸を3重量%、その他添加剤(制電剤、抗酸化剤、防錆剤)を5重量%調整し、さらにこの油剤を濃度15重量%になるように水系エマルジョンとして調整し、純油分として繊維に約1.5重量%付着させた。紡糸性は良好であり、未延伸糸40kgのサンプリングで糸切れは発生しなかった。得られた未延伸糸の断面は図1に示すとおりであった。
【0084】
そして得られたマルチフィラメントについて延伸を行うに際し、送糸ローラーの送糸速度341m/分、第1ローラーは80℃で送糸速度341m/分、第2ローラーは140℃で送糸速度800m/分、第3ローラーは室温で送糸速度792m/分(1%リラックス)として繊維に延伸、熱処理を施し、リラックス状態下で交絡ノズルにて流体として圧縮空気を用い作動圧0.3MPaで本交絡を施した後、冷ローラーで糸をポリエステルのTg以下に冷却した後に巻き取った。延伸中に断糸やローラーへの単糸巻き付きの問題は発生せず、巻き上がったボビン表面上の毛羽も無く、延伸性は優れていた。糸物性について表1に示す。
【0085】
また、得られた延伸糸の強度は3.6cN/dtexであり、残留伸度41%、初期引張抵抗度56cN/dtex、乾熱収縮率9.1%、CF値58.3、平均抵抗率105.6Ω/cm、平均抵抗率変動係数CV0.02、糸−金属(梨地)動摩擦係数0.15μd、であった。
【0086】
得られた延伸糸を用いてパイル織物を作製して、パイルを起毛させて、更に1cm幅のスリット状にしたものをSUS304からなる金属棒状物体に巻き付けて、ブラシローラーを得た。得られたブラシローラーを清掃装置に組み込んで配設したモノクロレーザープリンターにて、長時間連続印刷(1分間あたり10枚印刷・排出)を行い、プリンター中の湿度変化と共に印刷性を確認したところ、印刷開始1000枚程度でプリンター中の相対湿度は初期の65%から33%まで低下し、さらに10000枚程度印刷した時点では27%まで低下したものの、印刷枚数が20000枚を越えた時点であっても印刷の鮮明性、トナー清掃性などは優れていた。
【0087】
また、ブラシローラー製作時の工程通過性は良好で、セラミックスガイド等での汚れ、削れは無く、毛羽の発生、断糸ない製品の品位も良好であった。
【0088】
繊維特性、評価結果等を表1に示す。
【0089】
実施例2〜3および比較例1,2
実施例1において、表1のとおり導電性カーボンブラックの含有量(実施例2〜3、比較例1〜2)、を変更した以外は、実施例1と同様に紡糸・延伸・評価を行った。
【0090】
導電性カーボンブラックの含有量が45重量%では紡糸時の糸切れが増えたが、問題のない範囲であり、16重量%では画像評価で少々の極微細な斑が認められたが問題のない範囲であった。また、55重量%となると、製糸を行うことが困難であり、10重量%となると、画像評価でスジや斑が多く、使用に耐えがたいものとなった。
【0091】
実施例4〜6
実施例1において、表1のとおり導電性カーボンブラックの種類を変更した以外は、実施例1と同様に紡糸・延伸・評価を行った。実施例4のカーボンブラックは電気化学工業株式会社製デンカブラック(粒状)、比抵抗0.19(Ω・cm)、平均粒径35nm、DBP吸収量160cm/100g、(以下「ACB1」と記載)、実施例5では、電気化学工業株式会社製デンカブラック特殊プレス品HS−100、比抵抗0.14(Ω・cm)、平均粒径48nm、DBP吸収量140cm/100g、(以下「ACB2」と記載)、実施例6では、デグサ社製「“Printex” L SQ」、比抵抗0.06(Ω・cm)、平均粒径23nm、DBP吸収量116cm/100g、(以下「FCB2」と記載)とした。
【0092】
導電性カーボンブラックの種類をACB1、ACB2、FCB2いずれに変更しても平均抵抗率や平均抵抗率変動係数、動摩擦係数も優れた値を示し、工程通過性も良好で画像評価においても何ら問題がなかった。
【0093】
実施例7〜9および比較例3
実施例1において、表1のとおりに芯成分ポリマーの種類(実施例7:通常用いられるIV0.67のPET、実施例8:東レ株式会社製PBT(タイプ1200S)、実施例9:PTT、比較例3:低IVPET(IV0.53))とし、実施例7の紡糸温度を285℃とした以外は、実施例1と同様に紡糸・延伸・評価を行った。
【0094】
芯成分ポリマー種を実施例7〜9のポリマーを使用するにあたって、高い導電性を示し、且つ繊維長手方向で安定した平均抵抗率を示し、何ら問題となるものではなかった。
【0095】
しかし、比較例3のように芯成分に低IVPETを用いると芯鞘の溶融粘度差が0未満となり、繊維長手方向の平均抵抗率の斑が大きくなり、画像評価においてスジや斑が多く、使用に耐えがたいものとなった。
【0096】
比較例4
実施例1で用いたPTT−CBを芯成分ポリマーとし、鞘成分ポリマーとしてCB非含有PTTとした以外は、実施例1と同様に紡糸・延伸・評価を行った。導電性を担っているPTT−CBを芯成分としたことにより、抵抗率が高くなったことにより、画像評価においてスジや斑が多く、使用に耐えがたいものとなった。
【0097】
【表1】

【0098】
実施例10,11および比較例5
実施例1において、表2のとおりに導電性成分の比率を変更した以外は、実施例1と同様に紡糸・延伸・評価を行った。
【0099】
導電性成分比率が10体積%、50体積%では何ら問題がなかった。しかし、5体積%では、平均抵抗率が高く、繊維長手方向の平均抵抗率の斑が大きくなり、画像評価においてスジや斑が多く、使用に耐えがたいものとなった。
【0100】
比較例6,7
実施例1において、表2のとおりに鞘成分ポリマー種(比較例6:極限粘度[η]2.5のポリアミド、比較例7:IV0.67のPET)とした以外は、実施例1と同様に紡糸・延伸・評価を行った。
【0101】
比較例6においては、温湿度変化が6.1となり、画像評価においてスジや斑が多く、使用に耐えがたいものとなった。
【0102】
比較例7においては、紡糸時の糸切れが多く製糸困難であった。
【0103】
比較例8,9,12
実施例1において、表2のような複合形態(比較例8:PTT−CB部分露出、比較例9:PTT−CB/PTTブレンド、比較例12:PTT−CB単独)とし、比較例8は部分露出型用複合口金を用い、比較例9は紡糸機内で静止混練子である東レエンジニアリング社製“ハイミキサー”を10段組み込み、単独成分用口金を用い、比較例12は単独成分用口金を用い、実施例1と同様な繊度となるように吐出量を調整し、それ以外は実施例1と同様に紡糸・延伸・評価を行った。
【0104】
比較例8,9は繊維長手方向の斑が大きくなり、画像評価においてスジや斑が多く、使用に耐えがたいものとなった。
【0105】
比較例12においては、糸切れが多発し、製糸困難であった。
【0106】
比較例10
実施例1において、本交絡時の作動圧を0.8MPaとした以外は、実施例1と同様に紡糸・延伸・評価を行った。
【0107】
CF値が高く繊維の収束性は上がっているものの、本交絡時の作動圧が高すぎてマルチフィラメントの一部の糸が切れ毛羽となり、工程通過時の毛羽が多く、製品品位が悪く、画像評価においてスジや斑が多く、使用に耐えがたいものとなった。
【0108】
比較例11
実施例1において、紡糸時の油剤を鉱物油のみとした以外は、実施例1と同様に紡糸・延伸・評価を行った。
【0109】
油剤を鉱物油のみとしたことにより、糸−金属(梨地)動摩擦係数が0.45となり、工程通過性が悪くなり、画像評価においてスジや斑が多く、使用に耐えがたいものとなった。
【0110】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0111】
【図1】本発明の導電性ポリエステル繊維の好ましい繊維横断面図である。
【図2】本発明以外の繊維横断面図である。
【符号の説明】
【0112】
1.導電性成分
2.非導電性成分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性カーボンブラックを含有する主たる繰り返し構造単位がトリメチレンテレフタレートから構成されるポリエステル(A)を鞘成分とし、ポリエステル(B)を芯成分とし、平均抵抗率が1.0×1012[Ω/cm]以下で、繊維長手方向10m当たりの抵抗率変動係数CVが0.1以下、糸−金属(梨地)動摩擦係数が0.10〜0.35μdであることを特徴とする導電性ポリエステル繊維。
【請求項2】
繊維の、23℃相対湿度55%での平均抵抗率X[Ω/cm]と、10℃相対湿度15%での平均抵抗率Y[Ω/cm]との比Z(Z=Y/X)が1〜5の範囲である請求項1に記載の導電性ポリエステル繊維。
【請求項3】
主たる繰り返し構造単位がトリメチレンテレフタレートから構成されるポリエステル中の導電性カーボンブラックの含有量が15重量%以上50重量%以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の導電性ポリエステル繊維。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の導電性ポリエステル繊維を少なくとも一部に用いてなるブラシ製品。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−101314(P2008−101314A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−234135(P2007−234135)
【出願日】平成19年9月10日(2007.9.10)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】