説明

導電性マイエナイト化合物および金属導体を含む電極の製造方法

【課題】金属導体の脆化を抑制することが可能な、導電性マイエナイト化合物を含む電極の製造方法を提供する。
【解決手段】導電性マイエナイト化合物および金属導体を含む電極の製造方法であって、(1)マイエナイト化合物の粉末を調製する工程と、(2)前記マイエナイト化合物の粉末を含む成形体を準備する工程と、(3)前記成形体を金属導体と組み合わせて、一体化物を得る工程と、(4)前記一体化物において、前記金属導体の露出部分を、遮蔽部材で覆う工程と、
(5)前記一体化物を、アルミニウム蒸気を含む環境下で、1230℃〜1360℃の温度範囲に保持する工程と、を含むことを特徴とする製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性マイエナイト化合物および金属導体を含む電極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マイエナイト化合物は、12CaO・7Alで表される代表組成を有し、三次元的に連結された直径約0.4nmの空隙(ケージ)を有する特徴的な結晶構造を持つ。このケージを構成する骨格は、正電荷を帯びており、単位格子当たり12個のケージを形成する。このケージの1/6は、結晶の電気的中性条件を満たすため、内部が酸素イオンで占められている。しかしながら、このケージ内の酸素イオンは、骨格を構成する他の酸素イオンとは化学的に異なる特性を有しており、このため、ケージ内の酸素イオンは、特にフリー酸素イオンと呼ばれている。マイエナイト化合物は、[Ca24Al2864]4+・2O2−とも表記される(非特許文献1)。
マイエナイト化合物のケージ中のフリー酸素イオンの一部または全部を電子と置換した場合、マイエナイト化合物に導電性が付与される。これは、マイエナイト化合物のケージ内に包接された電子は、ケージにあまり拘束されず、結晶中を自由に動くことができるためである(特許文献1)。このような導電性を有するマイエナイト化合物は、特に、「導電性マイエナイト化合物」と称される。
【0003】
導電性マイエナイト化合物は、2.4eVと比較的仕事関数が低く、さらに導電性を有すると言う特徴を有するため、例えば蛍光ランプ等の電極材料としての適用が期待されている。
【0004】
導電性マイエナイト化合物は、例えば、マイエナイト化合物の成形体をアルミニウムとともに蓋付きアルミナ容器に入れ、真空中で1300℃で熱処理することにより製造することができる(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2005/000741号
【特許文献2】国際公開第2006/129674号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】F.M.Lea,C.H.Desch,The Chemistryof Cement and Concrete,2nd ed.,p.52,Edward Arnold&Co.,London,1956
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述のように、導電性マイエナイト化合物は、還元剤としてアルミニウムを含む高温の真空下において、マイエナイト化合物を含む成形体を還元焼結処理することにより製造することができる。
【0008】
一方、蛍光ランプ等の電極は、導電性マイエナイト化合物と、該導電性マイエナイト化合物に電気的に接合された導線のような金属導体とで構成され得る。本願発明者らは、このような電極を製造する場合、マイエナイト化合物を含む成形体と金属導体とを予め一体化させておいてから、この一体化物をアルミニウムを含む環境下で熱処理して、導電性マイエナイト化合物を生成させることができることを見出した。
【0009】
しかしながら、このような方法で電極を製造した場合、導電性マイエナイト化合物と一体化された金属導体には、脆化が生じる場合がある。これは、導電性マイエナイト化合物を生成するための還元焼結処理の際に、条件によっては、金属導体とアルミニウム蒸気とが反応して、脆性の劣る金属アルミナイド(例えばNiAl、FeAl、およびCoAl等)が生成するためである。
【0010】
本発明は、このような問題に鑑みなされたものであり、本発明では、金属導体の脆化を抑制することが可能な、導電性マイエナイト化合物を含む電極の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明では、
導電性マイエナイト化合物および金属導体を含む電極の製造方法であって、
(1)マイエナイト化合物の粉末を調製する工程と、
(2)前記マイエナイト化合物の粉末を含む成形体を準備する工程と、
(3)前記成形体を金属導体と組み合わせて、一体化物を得る工程と、
(4)前記一体化物において、前記金属導体の露出部分を、遮蔽部材で覆う工程と、
(5)前記一体化物を、アルミニウム蒸気を含む環境下で、1230℃〜1360℃の温度範囲に保持する工程と、
を含むことを特徴とする製造方法が提供される。
【0012】
ここで、本発明による製造方法において、前記金属導体は、導電性マイエナイト化合物の融点より高い融点を有する金属または合金であっても良い。
【0013】
また、本発明による製造方法において、前記金属導体は、ニッケル、モリブデン、およびタングステンのいずれか一つを含んでも良い。
【0014】
また、本発明による製造方法において、前記遮蔽部材は、マイエナイト化合物を含む部材で構成されても良い。
【0015】
また、本発明による製造方法において、前記(5)の工程は、100Pa以下の圧力下、または窒素ガスを除く不活性ガス雰囲気下で実施されても良い。
【0016】
また、本発明による製造方法において、前記(4)の工程は、前記一体化物および前記アルミニウム蒸気の蒸気源を、カーボンを含む容器に入れた状態で行われても良い。
【0017】
また、本発明による製造方法において、前記アルミニウム蒸気の蒸気源として、アルミニウム粉末が使用されても良い。
【0018】
さらに、本発明による製造方法において、
前記一体化物は、底面、側面および開放された上面を有するカップ状の成形体と、前記底面に設置された金属導体とで構成され、
前記一体化物は、複数存在し、
第1の一体化物は、前記カップ状の成形体の底面が、第2の一体化物の前記カップ状の成形体の上面側となるようにして、前記第2の一体化物上に配置され、これにより
前記第1の一体化物の金属導体は、前記第2の一体化物の成形体で覆われても良い。
【発明の効果】
【0019】
本発明では、金属導体の脆化を抑制することが可能な、導電性マイエナイト化合物を含む電極の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明による電極の製造方法の一例を示したフロー図である。
【図2】一体化物の金属導体に遮蔽部材を設置する際の形態の一例を模式的に示した図である。
【図3】遮蔽部材を用いて、一体化物の金属導体を覆う際の別の例を模式的に示した図である。
【図4】第1の加熱処理方法に使用され得る処理装置の一例を模式的に示した図である。
【図5】第2の加熱処理方法に使用され得る処理装置の一例を模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明では、
導電性マイエナイト化合物および金属導体を含む電極の製造方法であって、
(1)マイエナイト化合物の粉末を調製する工程と、
(2)前記マイエナイト化合物の粉末を含む成形体を準備する工程と、
(3)前記成形体を金属導体と組み合わせて、一体化物を得る工程と、
(4)前記一体化物において、前記金属導体の露出部分を、遮蔽部材で覆う工程と、
(5)前記一体化物を、アルミニウム蒸気を含む環境下で、1230℃〜1360℃の温度範囲に保持する工程と、
を含むことを特徴とする製造方法が提供される。
【0022】
ここで、本願において、「マイエナイト化合物」とは、ケージ(籠)構造を有する12CaO・7Al(以下「C12A7」ともいう)およびC12A7と同等の結晶構造を有する化合物(同型化合物)の総称である。
【0023】
また、本願において、「導電性マイエナイト化合物」とは、ケージ中に含まれる「フリー酸素イオン」の一部もしくは全てが電子で置換された、電子密度が1.0×1015cm−3以上のマイエナイト化合物を表す。
【0024】
本発明では、「導電性マイエナイト化合物」の電子密度は、1.0×1018cm−3以上であることが好ましく、1.0×1019cm−3以上であることがより好ましく、1.0×1020cm−3以上であることがさらに好ましい。
【0025】
なお、一般に、導電性マイエナイト化合物の電子密度は、マイエナイト化合物の電子密度により、2つの方法で測定される。電子密度は、1.0×1018〜3.0×1020cm−3未満の場合、導電性マイエナイト化合物粉末の拡散反射を測定し、クベルカムンク変換させた吸収スペクトルの2.8eV(波長443nm)の吸光度(クベルカムンク変換値)から算出される。この方法は、電子密度とクベルカムンク変換値が比例関係になることを利用している。以下、検量線の作成方法について説明する。
【0026】
電子密度の異なる試料を4点作成しておき、それぞれの試料の電子密度を、電子スピン共鳴(ESR)のシグナル強度から求めておく。ESRで測定できる電子密度は、1.0×1014〜1.0×1019cm−3程度である。クベルカムンク値とESRで求めた電子密度をそれぞれ対数でプロットすると比例関係となり、これを検量線とした。すなわち、この方法では、電子密度が1.0×1019〜3.0×1020cm−3では検量線を外挿した値である。
【0027】
電子密度は、3.0×1020〜2.3×1021cm−3の場合、導電性マイエナイト化合物粉末の拡散反射を測定し、クベルカムンク変換させた吸収スペクトルのピークの波長(エネルギー)から換算される。関係式は下記の式を用いた:

n=(−(Esp−2.83)/0.199)0.782

ここで、nは電子密度(cm−3)、Espはクベルカムンク変換した吸収スペクトルのピークのエネルギー(eV)を示す。
【0028】
また、本発明において、導電性マイエナイト化合物は、カルシウム(Ca)、アルミニウム(Al)および酸素(O)からなるC12A7結晶構造を有している限り、カルシウム(Ca)、アルミニウム(Al)および酸素(O)の中から選ばれた少なくとも1種の原子の一部が、他の原子や原子団に置換されていても良い。例えば、カルシウム(Ca)の一部は、マグネシウム(Mg)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、セリウム(Ce)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)および銅(Cu)からなる群から選択される1以上の原子で置換されていても良い。また、アルミニウム(Al)の一部は、シリコン(Si)、ゲルマニウム(Ge)、ホウ素(B)、ガリウム(Ga)、マグネシウム(Mg)、チタン(Ti)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、セリウム(Ce)、プラセオジウム(Pr)、スカンジウム(Sc)、ランタン(La)、イットリウム(Y)、ヨーロピウム(Eu)、イットリビウム(Yb)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)およびテリビウム(Tb)からなる群から選択される1以上の原子で置換されても良い。また、ケージの骨格の酸素は、窒素(N)などで置換されていても良い。
【0029】
前述のように、導電性マイエナイト化合物は、還元剤としてアルミニウムを含む高温の真空下において、マイエナイト化合物を含む成形体を還元焼結処理することにより製造することができる。
【0030】
通常、蛍光ランプ等の電極は、導電性マイエナイト化合物および金属導体で構成され得る。このような電極を製造しようとした場合、製造条件によっては、金属導体がアルミニウム蒸気と反応してアルミナイド化合物を生成し、脆化することがある。
【0031】
本発明による電極の製造方法は、マイエナイト化合物を還元焼結処理する際に、成形体と金属導体の一体化物において、金属導体の露出部分を、遮蔽部材で覆う工程を含むという特徴を有する。
【0032】
この特徴のため、本発明による電極の製造方法では、一体化物の高温処理中に、金属導体がアルミニウム蒸気に晒されることを回避または抑制することができる。従って、本発明による電極の製造方法では、電極の製造後に金属導体が脆化することが有意に抑制される。
【0033】
(本発明による電極の製造方法)
以下、図面を参照して、本発明による電極の製造方法について、詳しく説明する。
【0034】
図1には、本発明による電極の製造方法のフローの一例を概略的に示す。
【0035】
図1に示すように、本発明による電極の製造方法は、
(1)マイエナイト化合物の粉末を調製する工程(工程S110)と、
(2)前記マイエナイト化合物の粉末を含む成形体を準備する工程(工程S120)と、
(3)前記成形体を金属導体と組み合わせて、一体化物を得る工程(工程S130)と、
(4)前記一体化物において、前記金属導体の露出部分を、遮蔽部材で覆う工程(工程S140)と、
(5)前記一体化物を、アルミニウム蒸気を含む環境下で、1230℃〜1360℃の温度範囲に保持する工程(工程S150)と、
を有する。以下、それぞれの工程について説明する。
【0036】
(工程S110:粉末調製工程)
まず、マイエナイト化合物粉末を合成するための原料粉末が調合される。
【0037】
原料粉末は、カルシウム(Ca)とアルミニウム(Al)の割合が、CaO:Alに換算したモル比で、12.6:6.4〜11.7:7.3となるように調合される。CaO:Al(モル比)は、約12:7であることが好ましい。
【0038】
なお、原料粉末に使用される化合物は、前記割合が維持される限り、特に限られない。
【0039】
原料粉末は、カルシウムアルミネートを含むか、または、カルシウム化合物、アルミニウム化合物、およびカルシウムアルミネートからなる群から選定された少なくとも2つを含むことが好ましい。原料粉末は、例えば、カルシウム化合物とアルミニウム化合物とを含む混合粉末であっても良い。原料粉末は、例えば、カルシウム化合物とカルシウムアルミネートとを含む混合粉末であっても良い。また、原料粉末は、例えば、アルミニウム化合物とカルシウムアルミネートとを含む混合粉末であっても良い。また、原料粉末は、例えば、カルシウム化合物と、アルミニウム化合物と、カルシウムアルミネートとを含む混合粉末であっても良い。さらに、原料粉末は、例えば、カルシウムアルミネートのみを含む混合粉末であっても良い。
【0040】
カルシウム化合物としては、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸水素カルシウム、硫酸カルシウム、メタリン酸カルシウム、シュウ酸カルシウム、酢酸カルシウム、硝酸カルシウム、およびハロゲン化カルシウムなどが挙げられる。これらの中では、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、および水酸化カルシウムが好ましい。
【0041】
アルミニウム化合物としては、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、およびハロゲン化アルミニウムなどが挙げられる。これらの中では、水酸化アルミニウムおよび酸化アルミニウムが好ましい。
【0042】
次に、原料粉末が高温に保持され、マイエナイト化合物が合成される。合成は、不活性ガス雰囲気下や真空下で行ってもよいが、大気下で行うことが好ましい。合成温度は、特に限られないが、例えば、1200℃〜1415℃の範囲であり、1250℃〜1400℃の範囲であることが好ましく、1300℃〜1350℃の範囲であることがより好ましい。1200℃〜1415℃の温度範囲で合成した場合、C12A7の結晶構造を多く含むマイエナイト化合物が得られ易くなる。合成温度が低すぎると、C12A7結晶構造が少なくなるおそれがある。一方、合成温度が高すぎると、マイエナイト化合物の融点を超えるため、C12A7の結晶構造が少なくなるおそれがある。
【0043】
高温の保持時間は、特に限られず、これは、合成量および保持温度等によっても変動する。保持時間は、例えば、1時間〜12時間である。保持時間は、例えば、2時間〜10時間であることが好ましく、4時間〜8時間であることがより好ましい。原料粉末を1時間以上、高温で保持することにより、固相反応が十分に進行し、均質なマイエナイト化合物を得ることができる。
【0044】
合成により得られるマイエナイト化合物は、一部または全てが焼結した塊状である。塊状のマイエナイト化合物は、スタンプミル等で、例えば、5mm程度の大きさまで粉砕処理される。さらに、自動乳鉢や乾式ボールミルで、平均粒径が10μm〜100μm程度まで粉砕処理が行われる。ここで、「平均粒径」は、レーザ回折散乱法で測定して得た値を意味するものとする。以下、粉末の平均粒径は、同様の方法で測定した値を意味するものとする。
【0045】
さらに微細で均一な粉末を得たい場合は、例えば、C2n+1OH(nは3以上の整数)で表されるアルコール(例えば、イソプロピルアルコールを溶媒として用いた、湿式ボールミル、または循環式ビーズミルなどを用いることにより、粉末の平均粒径を0.5μm〜50μmまで微細化することができる。
【0046】
以上の工程により、マイエナイト化合物の粉末が調製される。
【0047】
粉末として調整されるマイエナイト化合物は、導電性マイエナイト化合物であってもよい。導電性マイエナイト化合物は非導電性の化合物より粉砕性に優れるからである。なお、導電性マイエナイト化合物の粉末を用いても、後の工程において成形体と金属導体との一体化物を調整する際に、酸化され導電性のないマイエナイト化合物となる場合がある。
【0048】
導電性マイエナイト化合物の合成方法は、特に限定されないが、下記の方法が挙げられる。例えば、マイエナイト化合物を蓋付きカーボン容器中に入れて、1600℃で熱処理して作製する方法(国際公開第2005/000741号)、マイエナイト化合物を蓋付きカーボン容器に入れて、窒素中1300℃で熱処理して作製する方法(国際公開第2006/129674号)、炭酸カルシウム粉末と酸化アルミニウム粉末から作られる、カルシウムアルミネートなどの粉末を蓋付きカーボン坩堝に入れて、窒素中1300℃で熱処理して作製する方法(国際公開第2010/041558号)、炭酸カルシウム粉末と酸化アルミニウム粉末を混合した粉末を、蓋付きカーボン坩堝に入れて、窒素中1300℃で熱処理して作製する方法(特開2010−132467号公報)などがある。
【0049】
導電性マイエナイト化合物の粉砕方法は、上記マイエナイト化合物の粉砕方法と同様である。
【0050】
以上の工程により、導電性マイエナイト化合物の粉末が調整される。なお、マイエナイト化合物と導電性マイエナイト化合物の混合粉末を用いても良い。
【0051】
(工程S120:成形体準備工程)
次に、工程S110で調製したマイエナイト化合物粉末を含む成形体が準備される。
【0052】
成形体は、粉末または粉末を含む混練物からなる成形材料の加圧成形により、調製しても良い。
【0053】
成形材料には、必要に応じて、バインダ、潤滑剤、可塑剤または溶媒が含まれる。バインダとしては、例えば、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリビニルブチラール、EVA(エチレンビニルアセテート)樹脂、EEA(エチレンエチルアクリレート)樹脂、アクリル系樹脂、セルロース系樹脂(ニトロセルロース、エチルセルロース)、ポリエチレンオキシド、などが使用できる。潤滑剤としてワックス類やステアリン酸が使用できる。可塑剤としてフタル酸エステルが使用できる。溶媒としては、トルエン、キシレンのような芳香族化合物、酢酸ブチル、テルピネオール、ブチルカルビトールアセテート、化学式C2n+1OH(n=1〜4)で表されるアルコール(例えばイソプロピルアルコール)等が使用できる。溶媒として水を使用すると、マイエナイト化合物が水和による化学反応を起こすため、安定したスラリーが得られないおそれがある。n=1、2のアルコール(例えばエタノール)も水和しやすい傾向があり、n=3、4のアルコールが好ましい。
【0054】
成形材料をシート成形、押出成形、または射出成形することにより、成形体を得ることができる。ニアネットシェイプ成形が可能である、すなわち、最終製品に近い形状を生産性よく製造可能であることから、射出成形が好ましい。
【0055】
射出成形では、予めマイエナイト化合物の粉末とバインダを加熱混練して成形材料を用意し、この成形材料を射出成形機へ投入して、所望の形状の成形体を得ることができる。例えば、マイエナイト化合物の粉末をバインダと加熱混練し、冷却することで、大きさ1〜10mm程度のペレットまたは粉末状の成形材料を得る。加熱混練では、ラボプラストミルなどが用いられ、せん断力により粉末の凝集がほぐれ、粉末の1次粒子にバインダがコーティングされる。この成形材料を射出成型機に投入し、120〜250℃に加熱してバインダに流動性を発現させる。金型は予め50〜80℃で加熱しておき、3〜10MPaの圧力で金型へ材料を注入することで、所望の成形体を得ることができる。
【0056】
あるいは、前述の調製粉末または該粉末を含む混練物からなる成形材料を金型に入れ、この金型を加圧することにより、所望の形状の成形体を形成しても良い。金型の加圧には、例えば、等方静水圧プレス(CIP)処理を利用しても良い。CIP処理の際の圧力は、特に限られないが、例えば、50〜200MPaの範囲である。
【0057】
成形体の形状は、特に限られない。成形体は、例えば、シート状、ロッド状、ブロック状、またはカップ状等であっても良い。
【0058】
成形体は、300μm以上の厚みを有することが好ましく、500μm以上がより好ましく、1mm以上が特に好ましい。成形体がロッド状の場合、直径は2〜5mm、長さは10〜20mmが好ましい。成形体がカップ状の場合、外径は2〜5mm、内径は1〜4mm、長さは10〜20mm、カップの底の厚みは2〜8mmが好ましい。成形体が円柱と円錐が合わさったペンシル形状の場合、円柱部の直径は2〜5mm、円柱部の長さは2〜10mm、円錐部の長さは2〜10mmが好ましい。
【0059】
(工程S130:一体化物形成工程)
次に、工程S120で得られた成形体を金属導体と一体化させて、一体化物が構成される。
【0060】
金属導体の材質は、金属(合金を含む)である限り特に限られず、金属導体は、例えば、ニッケル、鉄、コバルト、タングステン、およびこれらの合金(例えばステンレス鋼、ニッケル基合金など)等であっても良い。ただし、金属導体は、以降の工程S150における熱処理において、溶融したり気化したりしない材料から選定される必要がある。金属導体は、導電性マイエナイト化合物の融点より高い融点を有する金属(例えばニッケル、モリブデン、タングステン)または合金(例えば、コバール)が好ましい。
【0061】
なお、本発明では、後に示す工程S140のため、金属導体の材料として、高温でアルミニウムと合金化してアルミナイド化合物を生成する金属も、選定できることに留意する必要がある。
【0062】
金属導体の形状は、特に限られず、金属導体は、線状、板状、または棒状等であっても良い。
【0063】
一体化物を構成する方法は、特に限られない。例えば、ロッド状またはカップ状の成形体の底面に、線状または棒状の金属導体を差し込んで、一体化物を構成しても良い。
【0064】
(脱媒、脱脂処理)
成形体を調製した場合であって、成形体が溶媒を含む場合は、予め成形体を50〜200℃の温度範囲で20分〜2時間程度保持し、溶媒を揮発させて除去しても良い。また、成形体がバインダを含む場合は、予め成形体を200〜800℃の温度範囲で30分〜6時間程度保持し、バインダを除去しても良い。あるいは、両者の処理を同時に行っても良い。
【0065】
ただし、この脱媒、脱脂処理は、必ずしもこの段階で実施する必要はない。脱媒、脱脂処理は、以降に示す工程S140の後に実施しても良い。脱媒、脱脂処理したものを、特に「脱脂体」と言う。
【0066】
(工程S140:金属導体遮蔽工程)
次に、工程S130で得られた一体化物において、金属導体の露出部分が遮蔽部材で覆われる。
【0067】
遮蔽部材は、金属導体の露出部分を、環境中のアルミニウム蒸気から適正に遮蔽することができる限り、いかなる部材であっても良い。ただし、遮蔽部材は、それ自身がアルミニウムの蒸気源にはならない部材から選定される必要がある。例えば、遮蔽部材は、一体化物を構成する成形体とは別の成形体、または(導電性)マイエナイト化合物で構成されても良い。
【0068】
また、遮蔽部材の形状は、特に限られず、遮蔽部材は、例えば、蓋状、または一端が密閉された管状(いわゆる「カップ状」)であっても良い。
【0069】
遮蔽部材は、金属導体と触れないように設置することが好ましい。
【0070】
図2には、遮蔽部材の設置形態の一例を模式的に示す。
【0071】
図2に示すように、一体化物110は、ロッド状の成形体120と、該成形体120の上面125から、成形体120の内部に向かって一部が差し込まれた金属導体130とで構成される。
【0072】
この一体化物110の金属導体130を覆うため、遮蔽部材150が使用される。遮蔽部材150は、カップ形状になっており、底面155と、側面156とを有する。この遮蔽部材150の開放された面(上面)を、成形体120の上面125と合わせるようにして、遮蔽部材150を一体化物110の上部に配置することにより、遮蔽部材150で金属導体130を覆うことができる。
【0073】
このような遮蔽部材の設置により、以降の工程S150の加熱処理の際に、金属導体が環境中のアルミニウム蒸気と接触することが抑制され、アルミナイド化合物の生成が抑制される。また、これにより、金属導体の脆化を軽減させることが可能となる。
【0074】
なお、図2の構成は一例であって、その他の態様で、遮蔽部材を用いて、一体化物の金属導体を覆っても良い。
【0075】
図3には、遮蔽部材を用いて、一体化物の金属導体を覆う際の別の構成例を示す。
【0076】
図3に示すように、この構成では、一つの一体化物の金属導体を遮蔽する遮蔽部材は、隣接する別の一体化物の成形体によって構成される。
【0077】
すなわち、図3に示す組立体200は、第1の一体化物210A、第2の一体化物210B、第3の一体化物210C、および第4の一体化物210Dと、最下部の遮蔽部材250とを有する。各一体化物210A〜210Dは、それぞれ、カップ状の成形体220A〜220Dと、該成形体に一部が挿入された金属導体230A〜230Dとを有する。
【0078】
第1の一体化物210Aの金属導体230Aは、第2の一体化物210Bの成形体220Bによって、環境260側から遮蔽されている。また、第2の一体化物210Bの金属導体230Bは、第3の一体化物210Cの成形体220Cによって、環境260側から遮蔽されている。第3の一体化物210Cの金属導体230Cも同様である。なお、第4の一体化物210Dの金属導体230Dは、最下部のカップ状の遮蔽部材250によって覆われる。
【0079】
このような組立体200では、複数の一体化物(210A〜210D)をまとめて、以降の工程S150の処理を一度に行うことが可能となるため、電極の生産性が向上する。
【0080】
(工程S150:加熱処理工程)
次に、金属導体部分が遮蔽された一体化物の脱脂体が加熱処理される。なお、加熱処理の方法は、複数存在するため、以下、代表的な2通りの加熱処理方法のそれぞれについて、説明する。
【0081】
(第1の加熱処理方法)
第1の加熱処理方法では、加熱処理は、アルミニウム蒸気を含む環境下において、1230℃〜1360℃の温度範囲で行われる。
【0082】
金属アルミニウムの還元力により、多くのフリー酸素が以下の反応により置換される:

3O2−+2Al → Al+6e (1)式

処理雰囲気の圧力は、例えば、100Pa以下(例えば20Pa)の減圧環境であっても良い。あるいは、処理雰囲気は、大気圧の不活性ガス雰囲気であっても良い。ただし、不活性ガスとして、窒素ガスを使用することは好ましくない。高温では、窒素ガスは、アルミニウムと反応して、窒化アルミニウムを生成する。このため、雰囲気中に窒素が含まれる場合、この窒素によってアルミニウム蒸気が消費されてしまい、アルミニウム蒸気の還元剤としての効果が失われるからである。
【0083】
なお、アルミニウム蒸気源としては、特に限られないが、例えばアルミニウム粉末が使用されても良い。
【0084】
図4には、第1の加熱処理方法に使用され得る処理装置の一例を模式的に示す。
【0085】
この処理装置400は、密閉空間410内に配置された耐熱容器420を有する。耐熱容器420の底部には、アルミニウム蒸気源として、アルミニウム粉末が層状に敷き詰められ、これによりアルミニウム層430が形成されている。また、耐熱容器420内には、複数の貫通孔を有する台440が配置される。台440は、アルミニウム層430の上部に、アルミニウム層430から離間して配置され、台の上部には、金属導体455の部分が遮蔽部材460で覆われた、一体化物450が置載される。
【0086】
このような処理装置400において、真空処理により、例えば、密閉空間410内を100Pa以下の減圧状態にする。あるいは、密閉空間410内に、窒素以外の不活性ガスを流通させ、密閉空間410内を不活性ガス環境とする。
【0087】
次に、密閉空間410を1230℃〜1360℃まで加熱すると、アルミニウム層430からアルミニウム蒸気が放出される。アルミニウム蒸気は、密閉空間410内の酸素を除去し、密閉空間410内を「還元性雰囲気」とする役割を果たす。
【0088】
従って、この加熱処理により、脱脂体457中のマイエナイト化合物粉末が焼結して、焼結体が形成されると同時に、このマイエナイト化合物が還元され、導電性マイエナイト化合物が生成される。
【0089】
ここで、金属導体455は、遮蔽部材460で覆われているため、アルミニウム蒸気とは直接接触しない。従って、金属導体455のアルミナイド化合物の形成反応が抑制され、加熱処理後に、金属導体455が脆化することが回避される。
【0090】
最高温度における保持時間は、5分〜48時間の範囲であることが好ましく、30分〜12時間の範囲であることがより好ましく、1時間〜10時間の範囲であることがさらに好ましく、2時間〜8時間の範囲であることが最も好ましい。保持時間が5分未満の場合、十分な導電性を得ることができなくなるおそれがある。また、保持時間を長くしても、特性上は特に問題はないが、作製コストを考えると、保持時間は、6時間以内が好ましい。
【0091】
(第2の加熱処理方法)
次に、第2の加熱処理方法について説明する。
【0092】
第2の加熱処理方法においても、加熱処理は、1230℃〜1360℃の温度範囲で行われる。
【0093】
ただし、この第2の加熱処理方法では、還元剤として、アルミニウム蒸気の他、CO(一酸化炭素)ガスが利用される。この場合、環境中の酸素分圧をより低くすることが可能になり、マイエナイト化合物(非導電性)から導電性マイエナイト化合物への生成反応を促進することができる。
【0094】
なお、CO源は、例えば、カーボンであっても良い。また、カーボンは、例えば、一体化物と金属アルミニウムとを、蓋付きカーボン容器内に配置することにより、環境中に配置しても良い。
【0095】
図5には、第2の加熱処理方法に使用され得る処理装置の一例を模式的に示す。
【0096】
この処理装置500は、密閉空間510を有するカーボン容器570を有する。密閉空間510内には、蓋525付きの耐熱容器520が配置される。耐熱容器520の底部には、アルミニウム粉末を層状に敷き詰めることにより構成されたアルミニウム層530が配置されている。また、耐熱容器520内には、複数の貫通孔を有する台540が配置される。台540は、アルミニウム層530の上部に、アルミニウム層530から離間して配置され、台540の上部には、金属導体555の部分が遮蔽部材560で覆われた、一体化物550が置載される。
【0097】
このような処理装置500において、真空処理により、例えば、密閉空間510内を100Pa以下の減圧状態にする。あるいは、密閉空間510内に、窒素以外の不活性ガスを流通させ、密閉空間510内を不活性ガス環境とする。
【0098】
次に、密閉空間510を1230℃〜1360℃まで加熱すると、アルミニウム層530からアルミニウム蒸気が放出される。アルミニウム蒸気は、密閉空間510内の酸素を除去し、密閉空間510内を「還元性雰囲気」とする役割を果たす。
【0099】
また、この加熱処理中に、金属アルミニウムの還元力により、多くのフリー酸素が電子に置換される。
【0100】
従って、この加熱処理により、脱脂体557中のマイエナイト化合物粉末が焼結して、焼結体が形成されると同時に、このマイエナイト化合物が還元され、導電性マイエナイト化合物の焼結体を生成することができる。
【0101】
なお、前述の第1の加熱処理方法の場合と同様、金属導体555は、遮蔽部材560で覆われているため、アルミニウム蒸気とは直接接触しない。従って、金属導体555において、アルミナイド化合物の形成反応が抑制され、加熱処理後に、金属導体555が脆化することが回避される。
【0102】
高温での保持時間は、第1の加熱処理方法と同様である。
【0103】
以上の加熱処理により、マイエナイト化合物粉末が焼結して焼結体が形成されるとともに、マイエナイト化合物が導電性マイエナイト化合物に還元される。
【0104】
第2の加熱処理方法では、電子密度が、例えば1.0×1021cm−3以上の、極めて高い電子密度を有する導電性マイエナイト化合物を含む電極を容易に得ることができる。このような高電子密度の導電性マイエナイト化合物を含む電極を、蛍光ランプ等に使用した場合、電極の抵抗によるエネルギー損失が減少するため、蛍光ランプの発光効率を高めることが可能となる。
【0105】
以上、2通りの加熱処理方法について説明した。しかしながら、これらは一例であって、その他の方法で加熱処理を実施しても良いことは、当業者には明らかである。
【0106】
以上の工程S110〜S150により、脆化が有意に抑制された金属導体と、導電性マイエナイト化合物とを含む電極を製造することができる。
【実施例】
【0107】
次に、本発明の実施例について説明する。
【0108】
(実施例1)
以下の方法で、導電性マイエナイト化合物および金属導体からなる電極を製造した。
【0109】
(マイエナイト化合物粉末の作製)
酸化カルシウム(CaO):酸化アルミニウム(Al)のモル比換算で12:7となるように、炭酸カルシウム(CaCO)粉末313.5gと、酸化アルミニウム(Al)粉末186.5gとを混合した。次に、この混合粉末を、大気中、300℃/時間の昇温速度で1350℃まで加熱し、1350℃に6時間保持した。その後、これを300℃/時間の冷却速度で降温し、約362gの白色塊体を得た。
【0110】
次に、アルミナ製スタンプミルにより、この白色塊体を大きさが約5mmの破片になるよう粉砕した後、さらに、アルミナ製自動乳鉢で粗粉砕し、白色粒子(以下、粒子「A1」と称する)を得た。レーザ回折散乱法(SALD−2100、島津製作所社製)により、得られた粒子A1の粒度を測定したところ、平均粒径は、20μmであった。
【0111】
次に、粒子A1を350gと、直径5mmのジルコニアボール3kgと、粉砕溶媒としての工業用ELグレードのイソプロピルアルコール350mlとを、2リットルのジルコニア製容器に入れ、容器にジルコニア製の蓋を載せてから、回転速度94rpmで、16時間、ボールミル粉砕処理を実施した。
【0112】
処理後、得られたスラリーを用いて吸引ろ過を行い、粉砕溶媒を除去した。また、残りの物質を80℃のオーブンに入れ、10時間乾燥させた。これにより、白色粉末(以下、粉末「B1」と称する)を得た。X線回折分析の結果、得られた粉末B1は、C12A7構造であることが確認された。また、前述のレーザ回折散乱法により得られた粉末B1の平均粒径は、3.3μmであることがわかった。
【0113】
(マイエナイト化合物の成形体の作製)
前述の方法で得られたマイエナイト化合物の粉末B1を79.8g、成形用バインダとしてポリエチレンオキサイドを13.0g、可塑剤としてフタル酸ジブチルを0.2g、潤滑剤としてステアリン酸を7.0gを配合し、150℃に加熱させて混練させた。得られた混練物を射出成形用の成形型に流し込み、室温まで冷却させた。
【0114】
これにより、直径3.4mm、長さ15mmのロッド状の成形体C1を得た。同様に、外径3.4mm、内径2.8mm、長さ15mm、深さ10mmのカップ状の成形体D1を得た。
【0115】
(一体化物の形成)
次に、以下の方法で、ロッド状の成形体C1と金属ニッケル線とからなる一体化物を形成した。
【0116】
まず、リューターを使って、成形体C1の一つの底面の中心に、直径0.5mm、深さ2.5mmの穴を形成した。
【0117】
次に、この穴内に、150℃に加熱した線径0.5mm、長さ10mmのニッケル線を挿入した。ニッケル線は、加熱されているため、成形体C1との接触部分の樹脂は軟化し、ニッケル線を容易に挿入することができた。ニッケル線の挿入深さは、2.5mmとした。
【0118】
(脱バインダ処理)
次に、得られた一体化物の脱バインダ処理を行った。
【0119】
一体化物をアルミナ板上に置いた状態で電気炉内に設置し、大気中で、40分間で200℃まで加熱した。さらに8時間で600℃まで加熱した後、2時間で室温まで冷却させた。得られた脱脂体E1は、白色であり、ロッド形状を維持していた。また、ニッケル線に脆化は認められなかった。
【0120】
同様の方法で、カップ状の成形体D1についても脱バインダ処理を行い、カップ状の脱脂体F1を得た。
【0121】
(還元焼結処理)
次に、脱脂体E1を高温に保持することにより、マイエナイト化合物の粉末を還元焼結させ、金属線と一体化された導電性マイエナイト化合物の電極を作製した。
【0122】
まず、前述の脱脂体E1に、カップ状の脱脂体F1を被せ、ニッケル線部分が脱脂体F1で被覆された組立体を形成した。この際には、ニッケル線が脱脂体F1とは直接接触しないようにして、脱脂体F1を設置した。さらに、この組立体を、脱脂体F1の側が下側となるようにして、外径40mm×内径30mm×高さ50mmの第1のカーボン容器内に設置した。
【0123】
次に、外径16mm×内径10mm×高さ20mmのアルミナ坩堝の底部に、2gのアルミニウム粉末を敷き詰めた。また、このアルミナ坩堝を、前述の第1のカーボン容器内に配置した。この際には、アルミナ坩堝は、組立体の横に離間して配置した。また、第1のカーボン容器の上部には、カーボン製の蓋をした。
【0124】
さらに、第1のカーボン容器を、外径80mm×内径70mm×高さ75mmの第2のカーボン容器内に入れ、第2のカーボン容器の上部に、カーボン製の蓋をした。
【0125】
次に、第2のカーボン容器を電気炉内に設置した。ロータリーポンプおよびメカニカルブースターポンプで電気炉内を真空引きし、炉内の圧力を5Pa以下になるまで減圧した。
【0126】
その後、炉内を300℃/時間の昇温速度で1250℃まで加熱した。この温度で6時間保持した後、300℃/時間の降温速度で室温まで冷却させた。
【0127】
これにより、黒色の焼結体が得られた。この黒色の焼結体から、元の脱脂体F1に相当するカップ状部分を分離することにより、ニッケル線と一体化された黒色焼結体(以下、「一体化焼結体G1」と称する)を採取した。
【0128】
(金属線の脆化状態評価)
得られた一体化焼結体G1のニッケル線の脆化状態について評価した。
【0129】
脆化状態の評価は、金属線を指で数回曲げた際に、金属線が破損するかどうかで判定した。すなわち、金属線を数回曲げても破損しなかった場合、および金属線を曲げることができなかった場合を「脆化未発生」とした。
【0130】
脆化状態の評価の結果、一体化焼結体G1のニッケル線には、脆化が生じていないことが確認された。
【0131】
なお、ニッケル線を挿入していないロッド状の成形体C1を用いて、同様の還元焼結処理を実施した。これにより、黒色物質(以下、黒色物質G1'と称する)が得られた。黒色物質G1'の相対密度は、97.2%であった。
【0132】
また、この黒色物質G1'の電子密度測定を行うため、アルミナ製スタンプミルにより、黒色物質G1'を、大きさが約5mmの破片になるよう粉砕した後、アルミナ製自動乳鉢で粗粉砕した。
【0133】
得られた粉末は、焦げ茶色をしており、X線回折分析の結果、黒色物質G1'は、C12A7構造だけを有することがわかった。また、得られた粉末の光拡散反射スペクトルからクベルカムンク法により求められた電子密度は、1.6×1021cm−3であり、導電率は、17S/cmであった。このことから、黒色物質G1'は、導電性マイエナイト化合物であることが確認された。
【0134】
(実施例2)
前述の実施例1と同様の方法により、金属線と一体化された導電性マイエナイト化合物の電極を作製した。ただし、この実施例2では、使用する金属線を、ニッケル線の代わりに、ニッケル基合金(コバール)線とした。コバール線の線径は、0.7mmであり、長さは10mmとした。その他の条件は、実施例1の場合と同様である。
【0135】
これにより、前述の(還元焼結処理)の工程後に、黒色の焼結体が得られた。この黒色の焼結体から、コバール線と一体化された黒色焼結体(以下、「一体化焼結体G2」と称する)を採取した。
【0136】
実施例1と同様の方法により、得られた一体化焼結体G2を用いて、金属線の脆化状態評価を行った。その結果、コバール線には、脆化が生じていないことが確認された。
【0137】
(実施例3)
前述の実施例1と同様の方法により、金属導体と一体化された導電性マイエナイト化合物の電極を作製した。ただし、この実施例3では、前述の(還元焼結処理)において、カップ状の脱脂体F1の代わりに、同形状の焼結体F3を使用した。すなわち、脱脂体E1のニッケル線部分を、カップ状の脱脂体F1ではなく、焼結部材F3で遮蔽した。
【0138】
この焼結部材F3は、導電性マイエナイト化合物で構成され、相対密度は、97.2%であり、電子密度は1.6×1021cm−3であり、導電率は、17S/cmである。
【0139】
その他の条件は、実施例1の場合と同様である。
【0140】
これにより、前述の(還元焼結処理)の工程後に、黒色の焼結体が得られた。この黒色の焼結体から、焼結部材F3を取り外し、ニッケル線と一体化された黒色焼結体(以下、「一体化焼結体G3」と称する)を採取した。
【0141】
実施例1と同様の方法により、得られた一体化焼結体G3を用いて、金属線の脆化状態評価を行った。その結果、ニッケル線には、脆化が生じていないことが確認された。
【0142】
なお、焼結部材F3を数回使用しても、結果は同様であり、焼結部材F3は、繰り返し使用することができることがわかった。
【0143】
(実施例4)
前述の実施例1と同様の方法により、金属線と一体化された導電性マイエナイト化合物の電極を作製した。ただし、この実施例4では、ニッケル線の代わりに、ニッケル板を使用し、前述の(マイエナイト化合物の成形体の作製)の工程以降を、以下のように変更した。
【0144】
(マイエナイト化合物粉末のグリーンシートの作製)
前述の方法で得られた粉末B1を40g、トルエン10g、イソプロピルアルコール(IPA)6g、フタル酸ジオクチル(DOP)2.4g、および分散剤(BYK180、ビッグケミー社製)0.4gを、250mLの蓋付きプラスチック容器に入れ、さらに、メディアとして、2mmφのジルコニアボールを250g添加した。この混合溶液を90rpmで1時間混合した後、メディアを除去した。この混合溶液に、予めビヒクル状に調製したポリビニルブチラール(PVB)を固形分換算で14g加えて混合し、脱泡することで、スラリーを得た。ビヒクルの固形分は25重量%で、溶媒はトルエン:IPAを5:3の重量比で混合したものであった。
【0145】
得られたスラリーを、厚さ200μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に塗布し、ステンレス鋼製のアプリケーターを使用して、これを膜状にした。さらにこの膜を、80℃で乾燥させることにより、平均厚さ200μmのグリーンシートを得た。
【0146】
(積層体の作製)
このグリーンシートを12mm×20mmの大きさに切断し、このグリーンシートを6枚積層し、積層体を構成した。
【0147】
次に、幅2mm、長さ10mm、厚さ0.1mmの短冊状のニッケル板を準備し、このニッケル板をグリーンシートの積層体の上部に設置した。さらに、ニッケル板の上部に、下側のグリーンシートの積層体と重なるようにして、別の6枚のグリーンシートを積層した。これにより、ニッケル板の上面(2mm×10mmの表面の一方)および下面(2mm×10mmの表面の他方)は、いずれもグリーンシートで完全に覆われ、露出部分は存在しなくなった。
【0148】
この積層体を、積層方向から一軸プレスした。一軸プレスの際の圧力は、1MPaとし、温度は、80℃とした。
【0149】
(脱バインダ処理)
その後、得られた積層体を使用して、前述の実施例1の場合と同様の(脱バインダ処理)を行った。
【0150】
(還元焼結処理)
次に、得られた脱脂体を使用して、前述の実施例1の場合と同様の(還元焼結処理)を行った。これにより、黒色の焼結体(以下、「一体化焼結体G4」と称する)を得た。
【0151】
得られた一体化焼結体G4の一部を剥がすことにより、ニッケル板の上面の約半分の領域、および下面の約半分の領域を露出させた。
【0152】
実施例1と同様の方法により、得られた一体化焼結体G4を用いて、ニッケル板の脆化状態評価を行った。その結果、ニッケル板には、脆化が生じていないことが確認された。
【0153】
また、ニッケル板を挿入していない積層体を用いて、同様の還元焼結処理を実施した。これにより、黒色物質G4'が得られた。黒色物質G4'のX線回折分析の結果、黒色物質G4'は、C12A7構造だけを有する導電性マイエナイト化合物であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0154】
本発明は、蛍光ランプの電極等に使用され得る、導電性マイエナイト化合物の製造方法に適用することができる。
【符号の説明】
【0155】
110 一体化物
120 成形体
125 上面
130 金属導体
150 遮蔽部材
155 底面
156 側面
200 組立体
210A〜210D 一体化物
220A〜220D 成形体
230A〜230D 金属導体
250 遮蔽部材
260 環境
400 処理装置
410 密閉空間
420 耐熱容器
430 アルミニウム層
440 台
450 一体化物
455 金属導体
457 脱脂体
460 遮蔽部材
500 処理装置
510 密閉空間
520 耐熱容器
525 蓋
530 アルミニウム層
540 台
550 一体化物
555 金属導体
557 脱脂体
560 遮蔽部材
570 カーボン容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性マイエナイト化合物および金属導体を含む電極の製造方法であって、
(1)マイエナイト化合物の粉末を調製する工程と、
(2)前記マイエナイト化合物の粉末を含む成形体を準備する工程と、
(3)前記成形体を金属導体と組み合わせて、一体化物を得る工程と、
(4)前記一体化物において、前記金属導体の露出部分を、遮蔽部材で覆う工程と、
(5)前記一体化物を、アルミニウム蒸気を含む環境下で、1230℃〜1360℃の温度範囲に保持する工程と、
を含むことを特徴とする製造方法。
【請求項2】
前記金属導体は、導電性マイエナイト化合物の融点より高い融点を有する金属または合金であることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記金属導体は、ニッケル、モリブデン、およびタングステンのいずれか一つを含むことを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記遮蔽部材は、マイエナイト化合物を含む部材で構成されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一つに記載の製造方法。
【請求項5】
前記(5)の工程は、100Pa以下の圧力下、または窒素ガスを除く不活性ガス雰囲気下で実施されることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一つに記載の製造方法。
【請求項6】
前記(4)の工程は、前記一体化物および前記アルミニウム蒸気の蒸気源を、カーボンを含む容器に入れた状態で行われることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一つに記載の製造方法。
【請求項7】
前記アルミニウム蒸気の蒸気源として、アルミニウム粉末が使用されることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一つに記載の製造方法。
【請求項8】
前記一体化物は、底面、側面および開放された上面を有するカップ状の成形体と、前記底面に設置された金属導体とで構成され、
前記一体化物は、複数存在し、
第1の一体化物は、前記カップ状の成形体の底面が、第2の一体化物の前記カップ状の成形体の上面側となるようにして、前記第2の一体化物上に配置され、これにより
前記第1の一体化物の金属導体は、前記第2の一体化物の成形体で覆われることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一つに記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−238523(P2012−238523A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−107905(P2011−107905)
【出願日】平成23年5月13日(2011.5.13)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】