説明

導電性リールおよびその製造方法

【課題】表面からの導電性材料の脱離がなく、十分な導電性を保持することができる電子部品搬送用の導電性リールを得る。
【解決手段】 本発明の導電性リールは、ポリスチレン(PS)と導電性カーボン粉末とポリ乳酸(PLA)を含む導電性樹脂組成物から構成されている。導電性樹脂組成物における各成分の含有割合は、導電性カーボン粉末が組成物全体の1〜20重量%、PLAが10〜60重量%であり、残部をPSとすることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性リールおよびその製造方法に係り、さらに詳しくは、電子部品搬送用の導電性リールとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、表面実装技術の大幅な進歩に伴い、高性能で小型の電子部品、特にIC、トランジスタ、ダイオード等のチップ型電子部品の需要が増加している。これらのチップ型電子部品は、プラスチックシートを真空成形、圧空成形あるいはプレス成形等で二次成形して得られるキャリアテープまたはトレーに収納され、搬送・保管される。
【0003】
キャリアテープは、電子部品を収納するためのポケット部を有し、そのポケット部に電子部品が収納され、蓋材であるカバーテープでシールされた後、リールに巻かれ包装体としてユーザーへ搬送される。リールは、一対の対向する円板とこれらの円板の間の中心に配置された円形状の巻き芯部とから成り、電子部品を収容したキャリアテープは巻き芯部に巻き付けられる。
【0004】
このような包装体では、電子部品への帯電を抑え静電気による破壊を防止するため、キャリアテープやリールに導電性を付与することが行われている。そして、そのような目的のために導電性を付与された電子部品搬送用のリールとして、従来から、ポリスチレンに導電性材料(例えば、カーボン粉末)を加えて混練した組成物を、射出成形等により所定形状に成形したものが用いられている。
【0005】
しかしながら、このような従来の導電性リールにおいては、電子部品の実装作業等の際に、表面からカーボン粉末が脱離し、所定の導電性を保持することができなくなるばかりでなく、実装時に電子部品の回路がショートしてしまうなどの問題があった。また、粉塵となって飛散するカーボン粉末が人体へ悪影響を与えるなどの問題も起きていた。そのため、搬送作業や実装作業等に使用中にカーボン粉末の脱離が生じず、十分な導電性を保持する導電性リールが求められている。
【0006】
また、環境汚染の問題に対応するため、キャリアテープ等を生分解性プラスチックで作製することも提案されている。例えば、生分解性プラスチックであるポリ乳酸系樹脂とポリアルキルアルカノエート系樹脂の混合物に、導電性フィラー等を配合した生分解性導電性シートから形成されるキャリアテープが提案されている(特許文献1参照)。また、ポリ乳酸やセルロースアセテート等の生分解性プラスチックからなるベース層に、導電性材料を含む被覆層を設けたキャリアテープが提案されている(特許文献2参照)。
【0007】
さらに、ポリ乳酸やセルロースアセテート等の生分解性プラスチックと炭素粉末等の導電性材料を含有し、表面抵抗率が所定の値以下に保持された導電性の樹脂組成物により形成された電子部品搬送用の成形体(トレー等)も提案されている(特許文献3参照)。
【特許文献1】特開平11−39945号公報
【特許文献2】特開2000−85837公報
【特許文献3】特開平9−263690号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載されたキャリアテープにおいては、所望の表面抵抗を得るために、導電性フィラーを多量に配合する必要がある。そのため、フィラーが凝集してブツが発生しやすいという問題があった。また、特許文献2に記載されたキャリアテープにおいては、表面層のみが導電性を有するため、厚さ方向の体積抵抗率を低減することができない。そのため、接地がとりにくいばかりでなく、内部が帯電して電子部品を破損するおそれがあった。
【0009】
さらに、特許文献3に記載された電子部品搬送用の成形体においては、使用中にカーボン粉末の脱離が生じるため、十分な導電性を保持することができなくなるばかりでなく、電子部品の実装時に回路がショートしてしまうなどの問題があった。
【0010】
本発明はこれらの問題を解決するためになされたもので、表面からの導電性材料の脱離がなく、十分な導電性を保持することができる電子部品搬送用の導電性リールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明の一態様に係る導電性リールは、ポリスチレンと、導電性カーボン粉末と、ポリ乳酸をそれぞれ含む導電性樹脂組成物からなることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の別の態様に係る導電性リールの製造方法は、ポリスチレンと導電性カーボン粉末とポリ乳酸とを混練し、導電性樹脂組成物を得る工程と、前記工程で得られた導電性樹脂組成物を所定の形状に射出成形する工程とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る導電性リールによれば、導電性材料であるカーボン粉末の表面からの脱離が生じず、所定の導電性を保持することができる。また、電子部品の実装時に回路がショートしてしまうなどの問題を回避することができる。
【0014】
また、本発明に係る導電性リールの製造方法によれば、カーボン粉末の表面からの脱離がなく所定の導電性を保持する所定の導電性を保持する導電性リールを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。なお、図面は図解のために提供されるものであり、本発明はその図面に限定されるものではない。
【0016】
図1は、本発明の一実施形態に係る電子部品搬送用の導電性リール1を示す斜視図である。実施形態の導電性リール1は、一対の対向する円板状のリール板2a、2bと、これらのリール板2a、2bの間の中心に配置された巻き芯部3とを備えている。なお、リール板2a、2bや巻き芯部3の大きさ(径)や形状は特に限定されない。そして、この導電性リール1の巻き芯部3に、電子部品4を収容したキャリアテープ5が巻き付けされて搬送される。電子部品4は、キャリアテープ5のエンボス加工等により形成されたポケット部5aに収納され、その上には蓋材としてカバーテープ6が貼り付けられる。
【0017】
このような態様で使用される実施形態の導電性リール1は、ポリスチレン(PS)と、導電性カーボン粉末と、ポリ乳酸(PLA)をそれぞれ含む導電性樹脂組成物から構成されている。
【0018】
ポリスチレン(PS)としては、一般用ポリスチレン(GPPS)、ポリマー重合の際にポリブタジエン等を加えて耐衝撃性を改良したハイインパクトポリスチレン(HIPS)等があり、いずれも使用することができる。また、分子量についても特に限定されない。
【0019】
ポリ乳酸(PLA)としては、構造単位がL−乳酸であるポリL−乳酸、構造単位がD−乳酸であるポリD−乳酸、構造単位がL−乳酸およびD−乳酸であるポリDL−乳酸等があり、本発明の実施形態ではいずれも使用することができる。また、ポリ乳酸の合成方法としては、縮重合法、開環重合法等があるが、いずれの方法により得られたポリ乳酸(ポリ乳酸系重合体を含む。)も使用することができる。
【0020】
例えば縮重合法では、L−乳酸またはD−乳酸、あるいはこれらの混合物を直接脱水縮重合することにより、任意の組成を有するポリ乳酸系重合体を得ることができる。また、開環重合法では、乳酸の環状2量体であるラクチドを、必要に応じて重合調整剤等を用い選ばれた触媒を使用して重合することにより、ポリ乳酸系重合体を得ることができる。ラクチドには、L−乳酸の2量体であるL−ラクチド、D−乳酸の2量体であるD−ラクチド、さらにL−乳酸とD−乳酸からなるDL−ラクチドがあり、これらを必要に応じて混合して重合することにより、任意の組成および結晶性をもつポリ乳酸を得ることができる。本発明の実施形態で使用されるポリ乳酸(PLA)は、結晶性ポリ乳酸でも非結晶性ポリ乳酸でもどちらでもよい。
【0021】
本発明の実施形態で使用する導電性カーボン粉末としては、例えば、ケッチェンブラックEC、ファーネスブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラック等を挙げることができるが、少量の添加量で高い導電性が得られることから、ケッチェンブラックECの使用がより好ましい。ケッチェンブラックECを使用した場合には、添加量が少量で済むため、機械的特性の低下が少ない。
【0022】
これらの導電性カーボン粉末の平均粒子径は、0.01〜10μmの範囲が好ましく、0.05〜5μmの範囲が特に好ましい。導電性カーボン粉末の平均粒子径が0.01μm未満の場合には、ベースポリマー中でのカーボン粉末の分散性が悪く、10μmを超える場合には、得られるリールの剛性が高くなりすぎて、所望の特性が得られない。
【0023】
本発明の実施形態において、導電性組成物を構成する各成分の含有割合は、導電性カーボン粉末を導電性組成物全体の1〜20重量%とし、ポリ乳酸(PLA)を組成物全体の10〜60重量%、残部をポリスチレン(PS)とすることが望ましい。導電性カーボン粉末の含有割合が導電性組成物全体の1重量%未満では、所望の導電性が得られず、また20重量%を超えると、機械的強度が低下し、電子部品搬送用リールとして実用に供することが難しい。より好ましい含有割合は、導電性組成物全体の10〜15重量%である。
【0024】
また、ポリ乳酸(PLA)の含有割合が前記範囲を外れた場合には、導電性カーボン粉末がリール表面から脱離しやすくなり、所定の導電性を保持することが難しくなる。特に、ポリ乳酸(PLA)の含有割合が前記範囲を超えた場合には、ポリスチレン(PS)との混合が著しく難しくなる。
【0025】
前記割合でポリスチレン(PS)とポリ乳酸(PLA)および導電性カーボン粉末が配合された導電性樹脂組成物から成る実施形態の導電性リールにおいては、PSと導電性カーボン粉末から構成される従来からの導電性リール、および先行特許文献3に記載されたPLAと導電性カーボン粉末から成る導電性樹脂組成物を使用したリールに比べて、リール表面からの導電性カーボン粉末の脱離が抑制されるという優れた効果を有する。これは、以下に示す理由によるものと考えられる。
【0026】
すなわち、PSとカーボン粉末から構成される成形体(導電性リール)では、カーボン粉末と疎水性の有機ポリマーであるPSとの親和性が高いため、カーボン粉末が成形体の内部だけでなく表面にも均等に存在する結果、この表面に存在するカーボン粉末が機械的な摩擦力により脱離しやすい。また、PLAとカーボン粉末から構成される成形体では、カーボン粉末とPLAとの親和性が高くないため、PLAはカーボン粉末を取り込んで脱離を抑える力が十分ではない。そのため、成形体の表面に存在するカーボン粉末が外部からの摩擦力により脱離しやすい。
【0027】
これに対して、本発明の実施形態の導電性リールにおいては、PSに所定の割合でPLAを配合した組成物がベースポリマーとして使用されている。このベースポリマーから成る成形体では、親水基を有するPLAが空気中の水分に引き寄せられる結果、成形体の表面に内部よりPLAの含有割合が多いPLAリッチ層が形成される。そして、これらポリマーとともに配合されたカーボン粉末は、より親和性の高いPSに引き寄せられるため、成形体の表面に形成されたPLAリッチ層では、カーボン粉末の含有量が成形体の内部より大幅に少なくなる。したがって、機械的な摩擦力によるカーボン粉末の脱離が生じにくくなると考えられる。
【0028】
本発明の実施形態において、ポリスチレン(PS)と導電性カーボン粉末およびポリ乳酸(PLA)を混合するには、これらの成分を二軸押出機等の押出機に供給して混練することが望ましい。押出機を用いて混練する場合には、相溶化剤を加えてもよい。相溶化剤としては、一般にポリエステルとポリスチレンを混合する際に用いるものを使用することができる。また、PSと導電性カーボン粉末およびPLAの3成分は、押出機内で同時に混練することが好ましい。これは、PSと導電性カーボン粉末を混練した後にPLAを加えてさらに混練した場合、PSの熱劣化が生じ、好ましくないためである。
【0029】
こうしてPSと導電性カーボン粉末およびPLAを混練して得られた導電性組成物は、射出成形等の方法で成形され導電性リールが得られる。成形機や成形の際の金型としては、特殊な金型を使用する必要がなく、通常の成形機や成形金型を使用することができる。
【0030】
本発明の実施の形態は本発明の技術的思想の範囲内で拡張もしくは変更することができ、この拡張、変更した実施の形態も本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【0031】
以下に具体的な実施例を示すが、これらの実施例により本発明は何ら制限を受けるものではない。なお、カーボン脱離性の評価方法としては、1kgの荷重をかけた状態の導電性リールで白紙の上を10回摩擦し、このとき白紙の上に形成されたカーボン粉末の付着痕を肉眼で観察した。そして、カーボン粉末の付着によるラインが目視で十分に読み取れるものを×、ラインが薄く読み取れるものを△、全く読み取れないものを○と評価した。
【0032】
実施例1
ポリ乳酸(PLA)(商品名EcoPLA4040D;カーギル社製)、ポリスチレン(PS)(商品名G430;日本ポリスチレン社製)、および高導電性カーボンブラック(商品名ケッチェンブラックEC;ケッチェンブラック・インターナショナル社製)を、PLA/PS/高導電性カーボンブラッ=50/35/15の重量比で混合したものを、二軸押出機に供給し、溶融・混練してストランド状に吐出した後、ペレタイザーでペレット状に粉砕した。
【0033】
次いで、こうして得られた導電性樹脂組成物のペレットを用いて射出成形を行い、図1に示す形状を有する直径330mmのリールを成形した。得られたリールの評価を前記した方法により行ったところ、カーボン付着ラインは全く読み取れず、カーボンブラックの脱離は全く見られなかった。
【0034】
実施例2〜5、比較例1〜3
実施例1で使用したPLA、PSおよび高導電性カーボンブラックを、表1に示す割合(重量比)で混合し、実施例1と同様にしてリールを成形した。得られたリールのカーボン脱離性を前記した方法で評価したところ、表1に示す結果が得られた。
【0035】
【表1】

【0036】
表1からわかるように、実施例1〜5で得られた導電性リールにおいては、摩擦によるカーボンブラックの脱離が生じず、カーボン脱離性の評価で、目視でわかるようなカーボンブラックの付着ラインは形成されなかった。それに対して、PS/高導電性カーボンブラッ=85/15の重量比で混合した導電性組成物で成形された比較例1の導電性リールにおいては、目視ではっきり読み取れる付着ラインが形成され、摩擦によりカーボンブラックが著しく脱離ことしたことわかった。また、PLA/高導電性カーボンブラック=85/15および90/10の重量比で混合した導電性組成物で構成された比較例2および比較例3の導電性リールにおいては、薄くではあるがカーボンブラックの付着ラインが見られ、比較例1のリールほどではないが摩擦によりカーボンブラックが脱離することが確かめられた。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の一実施形態に係る電子部品搬送用の導電性リールを示す斜視図である。
【符号の説明】
【0038】
1…導電性リール、2a,2b…リール板、3…巻き芯部、4…電子部品、5…キャリアテープ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリスチレンと、
導電性カーボン粉末と、
ポリ乳酸をそれぞれ含む導電性樹脂組成物からなることを特徴とする導電性リール。
【請求項2】
前記導電性カーボン粉末の含有割合が、前記導電性樹脂組成物全体の1〜20重量%であり、かつ前記ポリ乳酸の含有割合が該樹脂組成物全体の10〜60重量%であり、残部がポリスチレンであることを特徴とする請求項1記載の導電性リール。
【請求項3】
前記導電性カーボン粉末が、ケッチェンブラックECであることを特徴とする請求項1または2記載の導電性リール。
【請求項4】
ポリスチレンと導電性カーボン粉末とポリ乳酸とを混練し、導電性樹脂組成物を得る工程と、
前記工程で得られた導電性樹脂組成物を所定の形状に射出成形する工程
とを有することを特徴とする導電性リールの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−120572(P2008−120572A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−308916(P2006−308916)
【出願日】平成18年11月15日(2006.11.15)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】