説明

導電性ローラ

【課題】製造時に有機過酸化物の分解ガスに起因する不快臭を発生せず、得られる導電性ローラに臭気が残らず、更には、硬度及び圧縮永久歪が低い導電性ローラを提供する。
【解決手段】シャフト2と、シャフト2の外周に形成された弾性層3とを具えた導電性ローラ1において、弾性層3に、(A)成分:シス-1,4-結合含量が90%以上のポリブタジエンゴム又はポリイソプレンゴムに対して、(B)成分:1,1-ジ(t-ヘキシルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン及び/又は1,1-ジ(t-アミルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサンと、(C)成分:導電剤とを配合してなるゴム組成物を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性ローラ、特に複写機、ファクシミリ、プリンタ等の電子写真複写装置に使用する導電性ローラに関するものである。
【背景技術】
【0002】
昨今、複写機、ファクシミリ、プリンタ等の電子写真方式の画像形成装置においては、オゾンの発生を防止するために、コロナ放電方式に代わって接触方式が一般的になってきている。該接触方式の画像形成装置においては、現像ローラ、転写ローラ、帯電ローラ、給紙ローラ、クリーニングローラ、定着用の加圧ローラ等として、ロール形状の導電性部材、即ち導電性ローラが多用されており、該導電性ローラは、通常、シャフトと、該シャフトの外周に配設された弾性層とを備えている。
【0003】
近年の画像形成装置の高画質化、高速化、高耐久化に伴い、上記導電性ローラは、低硬度で且つ低圧縮永久歪性を有することが求められている。この要望に応えるため、上記導電性ローラの弾性層には、アクリロニトリル・ブタジエンゴム(NBR)、エチレン・プロピレン・ジエンゴム(EPDM)、天然ゴム(NR)、エピクロルヒドリンゴム(ECO)等の固形のゴム成分を主成分とし、これに導電性を付与するためにカーボンブラック、金属酸化物、イオン導電剤等の導電剤を添加し、更に架橋剤として有機過酸化物を配合したゴム組成物が使用されており、有機過酸化物による架橋で弾性層の圧縮永久歪を低くする方法が一般に採られている。
【0004】
【特許文献1】特開平5−117434号公報
【特許文献2】国際公開第91/10942号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来使用されていた有機過酸化物は、分解温度が低く、架橋反応を低温且つ短時間で行えるものの、架橋反応の際に発生する分解ガスの臭気が強く、得られる導電性ローラに強い不快臭が残存するという問題がある。また、架橋反応で臭気の強い分解ガスが発生するため、製造プロセスに安全衛生上の問題がある。更には、導電性ローラに付着した強い不快臭が製品にも持ち込まれるため、製品を使用する室内に不快臭が充満するという問題もある。
【0006】
そこで、本発明の目的は、上記従来技術の問題を解決し、製造時に有機過酸化物の分解ガスに起因する不快臭を発生せず、得られる導電性ローラに臭気が残らず、更には、硬度及び圧縮永久歪が低い導電性ローラを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、シス-1,4-結合含量が高いポリブタジエンゴム又はポリイソプレンゴムに対して導電剤と共に架橋剤として特定構造の有機過酸化物を配合したゴム組成物を導電性ローラの弾性層に用いることで、製造時に有機過酸化物の分解ガスに起因する不快臭が発生せず、低硬度で且つ圧縮永久歪みが小さい導電性ローラが得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
即ち、本発明の導電性ローラは、シャフトと、該シャフトの外周に形成された弾性層とを備えた導電性ローラにおいて、前記弾性層に、(A)成分:シス-1,4-結合含量が90%以上のポリブタジエンゴム又はポリイソプレンゴムに対して、(B)成分:1,1-ジ(t-ヘキシルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン及び/又は1,1-ジ(t-アミルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサンと、(C)成分:導電剤とを配合してなるゴム組成物を用いることを特徴とする。ここで、上記ポリブタジエンゴム及びポリイソプレンゴムのミクロ構造は、赤外線吸収スペクトル法によって求めることができる。
【0009】
本発明の導電性ローラの好適例においては、前記弾性層用ゴム組成物が、更に(D)成分:液状ポリイソプレンゴムを含む。ここで、該液状ポリイソプレンゴムは、室温(25℃)で液状である。
【0010】
本発明の導電性ローラにおいて、前記弾性層用ゴム組成物中の(B)成分の含有率は、0.3〜3.0質量%の範囲が好ましい。
【0011】
本発明の導電性ローラにおいて、前記弾性層用ゴム組成物中の(C)成分の含有率は、12.4〜20.1質量%の範囲が好ましい。
【0012】
本発明の導電性ローラの弾性層用ゴム組成物において、(D)成分の配合量は、(A)成分100質量部に対して10〜40質量部の範囲が好ましい。
【0013】
本発明の導電性ローラの他の好適例においては、前記導電剤がカーボンブラックである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、シャフトと、該シャフトの外周に形成された弾性層とを備えた導電性ローラにおいて、該弾性層にシス-1,4-結合含量が高いポリブタジエンゴム又はポリイソプレンゴムに対して導電剤と共に架橋剤として特定構造の有機過酸化物を配合したゴム組成物を用いることで、製造時に有機過酸化物の分解ガスに起因する不快臭を発生せず、得られる導電性ローラに臭気が残らず、更には、硬度及び圧縮永久歪が低い導電性ローラを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に、本発明の導電性ローラを図を参照しながら詳細に説明する。図1は、本発明の導電性ローラの一例の断面図である。図示例の導電性ローラ1は、シャフト2と、該シャフト2の外周に形成された弾性層3とを備える。本発明の導電性ローラにおいては、弾性層3に、(A)成分:シス-1,4-結合含量が90%以上のポリブタジエンゴム又はポリイソプレンゴムに対して、(B)成分:1,1-ジ(t-ヘキシルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン及び/又は1,1-ジ(t-アミルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサンと、(C)成分:導電剤とを配合してなるゴム組成物を用いることを特徴とする。
【0016】
上記弾性層用ゴム組成物は、ゴム成分、即ち(A)成分として、シス-1,4-結合含量が90%以上のポリブタジエンゴム又はポリイソプレンゴムを含む。また、特に限定されるものではないが、上記高シスのポリブタジエンゴムは、ビニル結合含量が5%以下で、ムーニー粘度ML1+4(100℃)が25〜60の範囲にあるのが好ましく、一方、上記高シスのポリイソプレンゴムは、ビニル結合含量が5%以下で、ムーニー粘度ML1+4(100℃)が65〜90の範囲にあるのが好ましい。ポリイソプレンゴムのムーニー粘度ML1+4(100℃)が65より小さいと、ゴム成分のブレンドに問題があり、また、90より高いと、練工程でカーボンブラック等の導電剤のストラクチャーが破壊されてしまう。なお、上記ゴム組成物には、他のゴム成分を本発明の目的を害しない範囲で配合してもよい。
【0017】
上記弾性層用ゴム組成物は、有機過酸化物、即ち(B)成分として、1,1-ジ(t-ヘキシルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン及び/又は1,1-ジ(t-アミルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサンを含む。これらの有機過酸化物は、製造時に分解ガスに起因する不快臭を発生しないため、安全衛生上の観点からもメリットが大きく、また、得られる導電性ローラに臭気が残るのを防止することもできる。
【0018】
上記弾性層用ゴム組成物中の(B)成分の含有率は、0.3〜3.0質量%の範囲が好ましい。(B)成分の含有率がゴム組成物中0.3質量%未満では、ゴム組成物を充分に架橋することができず、圧縮永久歪みが増大し、一方、3.0質量%を超えると、ゴム組成物の硬度が高くなりすぎ、所望の硬度の導電性ローラを得られなくなる。ここで、上記ゴム組成物を用いた本発明の導電性ローラは、アスカーC硬度が45〜75度であるのが好ましく、圧縮永久歪みが10%以下であるのが好ましい。
【0019】
上記弾性層用ゴム組成物は、(C)成分として導電剤を含有する。ゴム組成物に導電剤を配合することで、ゴム組成物の抵抗値を適宜調整することができ、該ゴム組成物を用いた導電性ローラのローラ抵抗を所望の範囲に調整することができる。ここで、本発明の導電性ローラは、特に限定されるものではないが、ローラ抵抗が103〜109Ωであるのが好ましい。
【0020】
上記導電剤としては、カーボンブラック等の電子導電剤が好ましい。ここで、該カーボンブラックとしては、SAF、ISAF、HAF、FEF、GPF、SRF、FT、MT等のゴム用カーボンブラック、酸化処理等を施したカラー用カーボンブラック、熱分解カーボンブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラック等の導電性カーボン等が挙げられる。これらカーボンブラックは、一種単独で用いても、二種以上を混合して用いてもよい。上記カーボンブラックは、特に限定されるものではないが、窒素吸着比表面積(N2SA)が30〜250m2/gで、DBP(ジブチルフタレート)吸収量が120〜250mL/100gであるのが好ましい。
【0021】
上記弾性層用ゴム組成物中の(C)成分の含有率は、12.4〜20.1質量%の範囲が好ましい。導電剤の含有率がゴム組成物中12.4質量%未満では、ゴム組成物の導電性が低く、導電性ローラに所望の導電性を付与できず、一方、20.1質量%を超えると、ローラの導電性が高くなり過ぎ、良好な画像が得られなくなる。
【0022】
本発明の導電性ローラに用いるゴム組成物は、軟化剤、即ち(D)成分として、液状ポリイソプレンゴムを更に含有するのが好ましい。軟化剤として、液状ポリイソプレンゴムを配合することで、混練り時のカーボンブラック等の導電剤のストラクチャー破壊を抑制して、導電性ローラに良好な導電性を付与することができる。また、特に限定されるものではないが、上記液状ポリイソプレンゴムは、重量平均分子量(Mw)が20,000〜50,000であるのが好ましい。
【0023】
上記弾性層用ゴム組成物において、(D)成分の配合量は、(A)成分100質量部に対して10〜40質量部の範囲が好ましい。(D)成分の配合量が(A)成分100質量部に対して10質量部未満では、ゴム組成物のムーニー粘度が高くなり過ぎ、カーボンブラック等の導電剤のストラクチャー破壊が生じ易く、良好な導電性が得られないことがあり、一方、40質量部を超えると、ゴム組成物のムーニー粘度が低くなり過ぎ、ニーダー等での混練りが困難となることがある。
【0024】
上記弾性層用ゴム組成物には、上記(A)成分、(B)成分、(C)成分、(D)成分の他に、ゴム工業界で通常使用される各種配合剤、例えば、充填剤、ステアリン酸等を、本発明の目的を損なわない範囲で適宜選択して配合することができる。これら配合剤は、市販品を好適に使用することができる。なお、上記ゴム組成物は、(A)成分に、(B)成分及び(C)成分と、必要に応じて適宜選択した各種配合剤とを配合して、ニーダーやロール等を用いて公知の方法で製造することができる。
【0025】
本発明の導電性ローラのシャフト2としては、良好な導電性を有する限り特に制限はなく、例えば、鉄、ステンレススチール、アルミニウム等の金属製の中実体からなる芯金や、内部を中空にくりぬいた金属製円筒体等の金属製シャフトを用いることができる。
【0026】
本発明の導電性ローラは、画像形成装置の現像ローラ、転写ローラ、帯電ローラ、トナー供給ローラ、給紙ローラ、クリーニングローラ、定着用の加圧ローラ等として使用することができる。該導電性ローラの製造方法は、特に制限されるものではないが、例えば、中心部に金属製のシャフトを配置した所望の形状の金型内に、上記ゴム組成物を射出し、架橋させて製造することができる。
【0027】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0028】
森山製作所製の3Lニーダーを用いて、表1に示す配合処方のゴム組成物を混練し、未加硫ゴム組成物を得た。該未加硫ゴム組成物を予めシャフトが装着された金型に所定量射出し、170℃に加熱されたオーブン中で30分間加熱してゴム組成物を架橋させた。次に、架橋させたローラを金型から取り出し、取り出し直後の臭気を確認した。また、取り出したローラを冷却した後、水口製作所製研磨機を使用して、所定のローラ径まで研磨し、研磨後の臭気を再度確認した。得られた導電性ローラに対して、下記の方法で硬度、圧縮永久歪み及び静止ローラ抵抗を測定した。結果を表1に示す。
【0029】
(1)硬度
アスカーC硬度計[高分子計器(株)製]を用い、ローラのアスカーC硬度を測定した。
【0030】
(2)圧縮永久歪み
JIS K-6301に準拠し、直径29mmで高さ12.7mmの試験片を高さ方向に25%圧縮して70℃のオーブン内に22時間放置した後、試験片をオーブンから取り出し、取り出し後30分での残留歪みを求めた。
【0031】
(3)静止ローラ抵抗
ローラの両端に各500gfの荷重をかけ、抵抗測定器R8340[アドバンテスト(株)製]を用い、印加電圧10V、室温25℃、湿度50%の条件下でローラ抵抗を測定した。
【0032】
【表1】

【0033】
*1 日本ゼオン社製高シスポリブタジエンゴム, BR1220L, シス-1,4-結合含量=97%, ムーニー粘度ML1+4(100℃)=29.
*2 日本ゼオン社製高シスポリイソプレンゴム, IR2200L, シス-1,4-結合含量=98%, ムーニー粘度ML1+4(100℃)=70.
*3 クラレ社製液状ポリイソプレンゴム, LIR−30, 重量平均分子量(Mw)=29,000.
*4 東海カーボン社製トーカブラック, TB#5500, N2SA=225m2/g, DBP吸油量=155mL/100g.
*5 1,1-ジ(t-ヘキシルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン.
*6 1,1-ジ(t-アミルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン.
*7 1,1-ジ(t-ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン.
*8 1,1-ジ(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン.
【0034】
表1から明らかなように、架橋剤として1,1-ジ(t-ヘキシルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン又は1,1-ジ(t-アミルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサンを用いることで、製造(架橋反応)中に不快臭が発生するのを防止することができる。また、実施例の導電性ローラは、硬度が低く且つ圧縮永久歪みが小さく、更に、ローラ抵抗が充分に低かった。
【0035】
一方、比較例の結果から、1,1-ジ(t-ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサンや1,1-ジ(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサンを架橋剤として用いた場合、製造中に不快臭が発生することが分る。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の導電性ローラの一例の断面図である。
【符号の説明】
【0037】
1 導電性ローラ
2 シャフト
3 弾性層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャフトと、該シャフトの外周に形成された弾性層とを備えた導電性ローラにおいて、
前記弾性層に、(A)成分:シス-1,4-結合含量が90%以上のポリブタジエンゴム又はポリイソプレンゴムに対して、(B)成分:1,1-ジ(t-ヘキシルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン及び/又は1,1-ジ(t-アミルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサンと、(C)成分:導電剤とを配合してなるゴム組成物を用いることを特徴とする導電性ローラ。
【請求項2】
前記弾性層用ゴム組成物が、更に(D)成分:液状ポリイソプレンゴムを含むことを特徴とする請求項1に記載の導電性ローラ。
【請求項3】
前記弾性層用ゴム組成物中の(B)成分の含有率が0.3〜3.0質量%であることを特徴とする請求項1に記載の導電性ローラ。
【請求項4】
前記弾性層用ゴム組成物中の(C)成分の含有率が12.4〜20.1質量%であることを特徴とする請求項1に記載の導電性ローラ。
【請求項5】
前記弾性層用ゴム組成物において、(D)成分の配合量が(A)成分100質量部に対して10〜40質量部であることを特徴とする請求項1に記載の導電性ローラ。
【請求項6】
前記導電剤がカーボンブラックであることを特徴とする請求項1又は4に記載の導電性ローラ。

【図1】
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【公開番号】特開2006−267568(P2006−267568A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−85773(P2005−85773)
【出願日】平成17年3月24日(2005.3.24)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】