説明

導電性合成樹脂フィラメント

【課題】耐久性と導電性を同時に満たす導電性合成樹脂フィラメントの提供。
【解決手段】合成樹脂モノフィラメントまたはマルチフィラメントからなる芯層と、この芯層の表面に溶融被覆した導電性被覆層とからなる導電性合成樹脂フィラメントであって、前記導電性被覆層が少なくとも熱可塑性エラストマーを含有し、JIS L−1095−7.10.2Bに準じた屈曲摩耗試験後に、芯層が露出しないことを特徴とする導電性合成樹脂フィラメント。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐久性と導電性を同時に満たす導電性合成樹脂フィラメントに関するものである。
【背景技術】
【0002】
導電性フィラメントは従来から種々の工業分野に使用されている。例えば、使用中の帯電による障害を防ぐことを目的とした小麦粉などの粉体篩分けフィルターや、紙おむつ、生理製品などといったサニタリー製品の製造時や、布帛の乾燥時に水分や有機溶剤を乾燥させることを目的としたドライヤーベルトおよび抄紙機のドライヤーカンバスなどの工業用織物の経糸および/または緯糸の少なくとも一部、或いはヘアブラシや工業用ブラシなどの用途にも広く使用されている。
【0003】
従来の導電性フィラメントとしては、主原料となる合成樹脂に導電性のカーボンブラックをブレンドした導電性樹脂を溶融押し出しし、冷却、熱延伸してフィラメント化したもの、或いは鞘成分や芯成分の一部を導電性樹脂とする複合フィラメントが主として知られていた。
【0004】
しかしながら、これら従来の導電性フィラメントは、溶融押し出し後に延伸されることによって、カーボンブラックの鎖状構造が破壊されるため、いずれの場合も十分な導電性が得られないという製造プロセス上致命的な問題点があった。
【0005】
この問題点を解決するための技術としては、合成樹脂モノフィラメントまたはマルチフィラメントからなる芯層の表面に、導電性樹脂を溶融被覆した導電性合成樹脂フィラメントに関する技術(例えば、特許文献1参照)が知られている。しかしながら、この場合には、導電性樹脂は芯層に被覆されるだけで延伸を伴わないため、確かに良好な導電性能を有する導電性フィラメントが得られるものの、被覆層が未延伸、即ち無配向な状態であることに起因してその構造が非常に脆く、織り工程において被覆層が削れたり、織物製品としての繰り返し使用した際に摩擦に対する耐久性が不十分であり、ひいてはそうした被覆層の削れによって、織物製品の導電性能が低下するといった新たな問題が生じていた。
【0006】
したがって、耐久性と導電性を同時に満たす導電性フィラメントは、各種用途で要望されながら、その技術課題をクリアするには至っていないのが実状であった。
【特許文献1】特開2002−339240号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述した従来技術における問題点の解決、すなわち、耐久性と導電性を同時に満たす導電性合成樹脂フィラメントの提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために本発明によれば、合成樹脂モノフィラメントまたはマルチフィラメントからなる芯層と、この芯層の表面に溶融被覆した導電性被覆層とからなる導電性合成樹脂フィラメントであって、前記導電性被覆層が少なくとも熱可塑性エラストマーを含有し、JIS L−1095−7.10.2Bに準じた屈曲摩耗試験後に、芯層が露出しないことを特徴とする導電性合成樹脂フィラメントが提供される。
【0009】
なお、本発明の導電性合成樹脂フィラメントにおいては、前記熱可塑性エラストマーがオレフィン系エラストマーであること、前記熱可塑性エラストマーの含有量が導電性被覆層の全体に対して5〜50重量%であること、体積固有抵抗値が1000Ω・cm未満であること、前記芯層の樹脂と導電性被覆層の熱可塑性エラストマー以外の樹脂とが同種のポリマー樹脂から構成されていること、および前記同種のポリマー樹脂がポリエチレンテレフタレートであること、がいずれも好ましい条件として挙げられる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、以下に説明するとおり、耐久性と導電性を同時に満たす導電性合成樹脂フィラメントを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0012】
本発明の導電性合成樹脂フィラメントは、合成樹脂モノフィラメントまたはマルチフィラメントからなる芯層と、この芯層の表面に溶融被覆した導電性の被覆層とからなり、JIS L−1095−7.10.2Bに準じた屈曲摩耗試験後に、芯層が露出しないことを特徴とする。
【0013】
本発明の導電性合成樹脂フィラメントにおいて、芯層を形成するポリマー樹脂については特に制限はなく、例えばポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン類、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、6ナイロン、66ナイロン、610ナイロン、612ナイロン、6/66共重合体などのポリアミド樹脂またはその共重合体、ポリエチレンテレフタレート(以下、PETという)、ポリブチレンテレフタレート(以下、PBTという)、ポリエチレンナフタレート、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレートなどのポリエステル類またはその共重合体、ポリフッ化ビニリデン、エチレン・テトラフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン・フッ化ビニリデン共重合体などのフッ素樹脂類、ポリカーボネート類、ポリフェニレンスルフィド(以下、PPSという)、ポリスルホン、非晶ポリアリレート、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリアリルエーテルニトリル、液晶ポリエステルなどが挙げられる。
【0014】
さらに、上記PETおよびPBTは、そのジカルボン酸成分であるテレフタル酸の一部を、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、ダイマー酸およびスルホン酸金属塩置換イソフタル酸などで置き換えたものであってもよく、またグリコール成分であるエチレングリコールまたは1,4−ブタンジオールの一部を、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノールおよびポリアルキレングリコールなどで置き換えたものであってもよい。また、これらを、単独成分として使っても良いし、複数成分のブレンド物として使っても良い。
【0015】
芯層を形成するモノフィラメントまたはマルチフィラメントは、エクストルーダーのような混練押出機、あるいはプレッシャーメルター型などの溶融紡糸機を用いてポリマー樹脂を溶融押出し、冷却・熱延伸・熱セットすることにより成形される。
【0016】
なお、芯層がモノフィラメントの場合のモノフィラメント断面直径は、用途によって適宜選択できるが、0.05〜3mmの範囲が最もよく使用され、またマルチフィラメントの場合は、これを撚糸として使用することができる。
【0017】
また、芯層を形成するモノフィラメントまたはマルチフィラメントの単糸断面形状は、とくに限定されるものではなく、例えば円形、正方形、扁平、楕円形、半月状、三角形、5角以上の多角形、多葉状、繭型および中空状などに形成することができるが、円形以外の異形断面形状としては、被覆層を形成する導電性ポリマー樹脂の付着性を向上させるために、3葉状以上であることが好ましい。
【0018】
一方、導電性被覆層を形成する導電性ポリマー樹脂としては、カーボンブラックを高濃度にブレンドしたポリマー樹脂組成物が使用されるが、その主成分となるポリマー樹脂については、前記芯層を形成するポリマー樹脂として例示したものと同様の樹脂を用いることができる。
【0019】
ここで、芯層と導電性被覆層は異種のポリマー樹脂であっても、同種のポリマー樹脂であっても良いが、同種のポリマー樹脂であることが、芯層と導電性被覆層の界面接着性が良好な状態となり、これによって耐屈曲摩耗性が向上するためより好ましい。また、本発明の導電性合成樹脂フィラメントをドライヤーベルトや抄紙機のドライヤーカンバスなどの工業用織物などの用途に使用する際には、熱セット工程を通過させることが必要になるが、この際フィラメントの寸法安定性が良い程、芯層と導電性被覆層の界面接着性が保たれることになる。この観点から、前記同種のポリマー樹脂は比較的寸法安定性の優れた樹脂であるポリエチレンテレフタレートであることがさらに好ましい。
【0020】
本発明の導電性合成樹脂フィラメント、JIS L−1095−7.10.2Bに準じた屈曲摩耗試験後に、芯層が露出しないことが特徴であり、この導電性合成樹脂フィラメントを使用した場合には、その優れた耐屈曲摩耗性によって、織り工程や織物製品として繰り返し使用した際にフィラメントが受ける摩擦や衝撃に対しても、従来になく極めて優れた耐久性を達成することが可能となる。
【0021】
本発明の導電性合成樹脂フィラメントは、その導電性被覆層に主原料となる合成樹脂や導電成分以外にも、粒子、艶消し剤、可塑剤、滑剤、難燃剤、消臭剤、抗菌剤、抗酸化剤、耐熱剤、耐光剤、紫外線吸収剤、着色顔料、その他機能性添加剤や各種改質剤などの添加物を必要に応じて含有させても良い。
【0022】
特に、導電性合成樹脂フィラメントの耐久性を向上させる観点では、導電性被覆層に熱可塑性エラストマーをブレンドすることが必要であり、中でもオレフィン系エラストマーをブレンドすることが好ましい。このメカニズムは現在のところ明確になっていないが、熱可塑性エラストマーをブレンドすることによって、無配向で構造の脆い導電性被覆層にゴム状の柔軟性が付与され、特に屈曲状態での摩擦の際に、導電性被覆層にかかる応力集中がエラストマーを介して緩和されることによって、導電性被覆層全体として摩耗を受けにくい構造に改質され、これに起因して導電性合成樹脂フィラメントの耐久性が向上するものと推定される。また、中でもオレフィン系エラストマーが好ましい理由としては、このエラストマー自体の摩耗特性が優れることや導電成分とのブレンド性が優れていることなどが挙げられる。
【0023】
なお、熱可塑性エラストマーとしては、スチレン系、塩ビ系、オレフィン系、ウレタン系、ポリエステル系、ニトリル系、ポリアミド系、フッ素系、塩素化ポリエチレン系、1・2ポリブタジエン、トランス1・4IR、シリコーン系、塩素化エチレンコポリマー架橋体アロイなどが挙げられるが、特に限定されず従来公知のものを用いることができ、例えば、化学工業日報社出版の「12093の化学商品」(977〜980頁)に記載されている熱可塑性エラストマーなども用いることができる。オレフィン系エラストマーの具体例としては、例えば、三井化学社製「ミラストマー」、AESジャパン社製「サントプレーン」「ジオラスト」「トレフシン」、住友化学社製「住友TPE」、三菱化学社製「サーモラン」「ゼラス」、日本ポリオレフィン社製「オレフレックス」、アプコ社製「ミラプレーン」「サーモラン」、東洋紡社製「サーリンク」、チッソ社製「ニューコン」、プラス・テク社製「アムゼル」、リケンテクノス社製「マルチユースドレストマー」、出光石油化学社製「出光TPO」などが例示できる。
【0024】
熱可塑性エラストマーは、本発明の導電性合成樹脂フィラメントの導電性や溶融被覆工程での工程通過性に影響を及ぼさない範囲内で添加することができる。特に、オレフィン系エラストマーの場合には、導電性被覆層の全体に対して5〜50重量%、より好ましくは15〜35重量%添加することが、耐久性および溶融被覆工程での工程通過性の両立が可能となるため好ましい。熱可塑性エラストマーのブレンド量が上記の範囲を外れる場合には、耐久性および/または工程通過性が阻害される傾向となるため好ましくない。
【0025】
また、本発明の導電性合成樹脂フィラメントは、特に体積固有抵抗値が1000Ω・cm未満であれば、小麦粉などの粉体篩分けフィルター、布帛の乾燥、紙おむつや生理製品などサニタリー製品製造時に水分や有機溶剤を乾燥させるドライヤーベルトおよび抄紙機のドライヤーカンバスなどの工業用織物の経糸および/または緯糸の少なくとも一部、あるいはヘアブラシや工業用ブラシなどの各用途に使用された場合にも、優れた静電防止効果を発現するため好ましい。同様の観点から、体積固有抵抗値が500Ω・cm未満であれば、さらに製品としての導電性能が向上するため好ましい。
【0026】
また、導電性被覆層を形成するポリマー樹脂に含まれる導電性カーブンブラックとしては、DBP給油量(9g法)が340ml/100g以上の高導電性のカーボンブラックが好ましい。このようなカーボンブラックとしては、ケッチェン・ブラック・インターナショナル社製“ケッチェンブラック”(商標)ECや“ケッチェンブラック”(商標)EC600JD などが知られている。その他アセチレンブラックも知られている。
【0027】
本発明の導電性合成樹脂フィラメントは、ポリマー樹脂を溶融押出し、冷却・熱延伸・熱セット処理した芯層のモノフィラメントまたはマルチフィラメントの表面に、導電性カーボンブラックを含むポリマー樹脂を溶融被覆することにより形成されるため、導電性被覆層のポリマー樹脂組成物としては、導電性カーボンブラックを6〜30重量%の高濃度で含有するものを使用することができ、導電性ポリマー樹脂が占める体積が小さくても優れた導電性を発現し、さらに真円性や線径斑の優れたフィラメントが得られる。しかし、それ以下のカーホンブラック濃度では十分な導電性が得られず、またそれ以上のカーボンブラック濃度ではポリマー樹脂の流動性が著しく低下し、被覆する際のダイで異常昇圧が発生する恐れが生じる。
【0028】
なお、本発明の導電性合成樹脂フィラメントの被覆成分として使用する導電性カーボンブラックを含むポリマー樹脂は、公知の方法、例えば2軸混練押出機やドウミキサーなどで加熱下に混練することにより得ることができる。また、この際、必要に応じて熱可塑性エラストマーなどの機能性添加剤や各種改質剤を混練させることができる。或いは、機能性添加剤や各種改質剤を、導電性カーボンブラックを含むポリマー樹脂とドライブレンドし、後述する溶融被覆装置に直接供することもできる。
【0029】
本発明の導電性合成樹脂フィラメントを製造するに際しては、芯層を形成するモノフィラメントまたはマルチフィラメントの製造には何ら特殊な方法を必要とせず、公知の紡糸方法で行うことができる。そして、熱延伸、熱セット処理され成形されたモノフィラメントまたはマルチフィラメントの表面には、溶融被覆装置により導電性カーボンブラックを含むポリマー樹脂が溶融被覆される。溶融被覆装置には、被覆されたポリマー樹脂の肉厚や外径の測定を行い、その結果をフィードバックして自動制御する外径検出器や、一定の速度と張力で送り出す送出機やダンサローラーが装備されていることが望ましい。
【0030】
かくして得られる導電性合成樹脂フィラメントにおいては、全断面積に対する導電性被覆層の占める割合が3〜60%であることが好ましい。導電性被覆層の断面積比率が大きくなると、導電性は向上するものの、糸の強度が低下するばかりか、導電性被覆層が肉厚になり線径斑が大きくなるため好ましくない。一方、断面積比率が小さいと、導電性が低下する傾向となるため好ましくない。
【0031】
このような構成からなる本発明の導電性合成樹脂フィラメントは、線径斑が小さく、例えば工業用織物として使用した場合に、織り斑がなく平面平滑性の優れた織物が得られる。
【0032】
また、本発明の導電性合成樹脂フィラメントの引張強度は、糸の用途により異なるが、工業用織物として使用される場合には、特に3.0cN/dtex以上であることが好ましい。
【0033】
以上説明したように、本発明の導電性合成樹脂フィラメントは、耐久性と導電性を同時に満たす従来にない新規な機能性フィラメントであることから、その特性を生かして、小麦粉などの粉体篩分けフィルター、布帛の乾燥、紙おむつや生理製品などサニタリー製品製造時に水分や有機溶剤を乾燥させるドライヤーベルトおよび抄紙機のドライヤーカンバスなどの工業用織物の経糸および/または緯糸の少なくとも一部、あるいはヘアブラシや工業用ブラシなどの各用途に好適に用いることができる。
【実施例】
【0034】
次に、実施例によって本発明を具体的に説明する。まず、本実施例および比較例で行った物性および性能評価方法について説明する。
【0035】
[断面積比]
導電性合成樹脂フィラメント試料をミクロトームで厚さ15μmに輪切りにし、その切片の断面をKEYENCE社製デジタルHDマイクロスコープ「VH−7000」の面積測定機能を使用して測定した。異形断面の面積は三十角形以上の多角形に近似して求めた。
【0036】
[耐屈曲摩耗性]
導電性合成樹脂フィラメント試料に対して、JIS L−1095−7.10.2Bに準じて屈曲摩耗試験を行い、次の方法でその耐屈曲摩耗性を評価した。
【0037】
まず、固定されたφ1.0mmの摩擦子(硬質鋼線(SWP−SF))の上に接触させた試料を、前記摩擦子の左右各55度角度で斜め下に設けたフリーローラー2個(ローラー間距離:70mm)の下に掛け、別の1個のフリーローラーの上を介して試料の一端に0.196cN/dtexの荷重をかけてセットした。次に、試料を接触往復回数速度105回/分、往復ストローク25mmの条件で摩擦子に100回の接触往復摩擦させた。
【0038】
上記屈曲摩耗試験後の試料の断面を顕微鏡で観察し、その断面状態から次の基準で試料の耐屈曲摩耗性を評価した。
◎:導電性被覆層の摩耗が殆どない。(耐屈曲摩耗性極めて良好)
○:導電性被覆層の摩耗が少ない。(耐屈曲摩耗性良好)
△:導電性被覆層は摩耗しているが芯層は露出していない。(耐屈曲摩耗性まずまず)
×:導電性被覆層の摩耗が激しく、芯層が露出している。(耐屈曲摩耗性不良)。
【0039】
[体積固有抵抗値]
東亜電波工業社製極超絶縁計「SM−10型」を使用して次の方法で測定した。
【0040】
導電性合成樹脂フィラメント試料5cmの両端にドータイトを塗り1時間乾燥させた後、試料の両端を電気抵抗の極めて低いクリンプ(電極)で十分把持し、印加して試料の抵抗値を測定し、次の計算式により体積固有抵抗値を求めた。なお、測定時の周囲条件は温度20℃、湿度65%とした。
体積固有抵抗値(Ω・cm)=測定抵抗値(Ω)×糸の断面積(cm)/電極間距離(cm)
【0041】
[耐久性]
導電性合成樹脂フィラメントを使用した織物を、ドライヤーベルトとして400m/分で30日連続使用した後の織物中の導電性合成樹脂フィラメントの状態から、次の基準で評価した。
◎:使用前と全く変わらない。(耐久性極めて良好)
○:導電性被覆層の削れが極僅かに存在する。(耐久性良好)
△:導電性被覆層の削れや剥離が僅かに存在する。(耐久性まずまず)
×:導電性被覆層の削れや剥離が多く存在し、その削れカスがベルトの表面に多く付着し ている。(耐久性不良)。
【0042】
[制電性]
春日電機社製デジタル静電電位測定器「KSD−0103」を使用し、400m/分で走行するドライヤーベルトから10cm、ブラシから2cmの位置における静電電位を測定し、次の基準で評価した。なお、測定時期は、走行開始直後及び30日後とした。
◎:10kV未満(制電性極めて良好)
○:10kV以上30kV未満(制電性良好)
△:30kV以上50kV未満(制電性まずまず)
×:50kV以上(制電性不良)。
【0043】
[実施例1]
PET樹脂(東レ社製「T750M」)47重量%、高分子量飽和共重合ポリエステル樹脂(東レ社製「ケミットQ−1500」)22重量%、オレフィン系エラストマー(出光石油化学社製「出光TPO(R110E)」)20重量%、カーボンブラック(CB)(ケッチェン・ブラック・インターナショナル社製「ケッチェンブラックTMEC」)11重量%を混合した後、ベントを有する径37mm、L/Dが38.9、同方向回転完全噛合型の2軸混練押出機(東芝機械社製「TEM35B」)に供給し、混練・押出し・冷却・カッティングを行って、導電性PET樹脂組成物(ペレット)を得た。次いで、この樹脂組成物を、6.7×10Pa以下の減圧下、120℃で10時間乾燥し、導電性被覆層2として使用した。
【0044】
一方、PET樹脂(東レ社製「T750M」)を、40mmφエクストルーダ溶融紡糸機で溶融押出して70℃の温水で冷却固化した後、180℃の熱風浴中で5.0倍に延伸し、4葉状異形断面を有し、その外径が500μm、内径が360μm、強度が3.0cN/dtexのモノフィラメントを作製し、これを芯層1として使用した。
【0045】
プラ技研社製横型成型装置「HT−65C」を使用し、芯層1に導電性被覆層2を溶融被覆することにより、直径610μmの導電性合成樹脂モノフィラメントを作製した。その物性評価結果を表1に示す。
【0046】
また、屈曲摩耗試験後の試料の断面写真を図1に示す。図1から明らかなように、導電性被覆層2に屈曲摩耗試験によって削れた部分3は認められたが、芯層1は露出していなかった。
【0047】
得られた導電性合成樹脂モノフィラメントを、工業用織物の例として、4本中1本の割合で緯糸の一部に使用して平織りの織物(密度:20/20(本/2.54cm)を作製した。この織物の性能評価結果を表1に示す。
【0048】
[実施例2]
導電性被覆層の厚さを変更したこと以外は、実施例1とほぼ同様にして、強度3.6cN/dtexの導電性合成樹脂モノフィラメントを作製した。また、得られた導電性合成樹脂モノフィラメントから実施例1とほぼ同様にして織物を作製した。これらの評価結果を表1に示す。
【0049】
[実施例3]
被覆層2を、PET樹脂(東レ社製「T750M」)57重量%、高分子量飽和共重合ポリエステル樹脂(東レ社製「ケミットQ−1500」)22重量%、オレフィン系エラストマー(出光石油化学社製「出光TPO(R110E)」)13重量%、カーボンブラック(CB)(ケッチェン・ブラック・インターナショナル社製「ケッチェンブラックTMEC」)8重量%からなる組成物に変更したこと以外は、実施例1とほぼ同様にして、導電性合成樹脂モノフィラメントを作製した。また、得られた導電性合成樹脂モノフィラメントから実施例1とほぼ同様にして織物を作製した。これらの評価結果を表1に示す。
【0050】
[実施例4]
被覆層2を、6ナイロン(N6)(東レ社製「M1021T」)60重量%、オレフィン系エラストマー(出光石油化学社製「出光TPO(R110E)」)20重量%、カーボンブラック(CB)(ケッチェン・ブラック・インターナショナル社製「ケッチェンブラックTMEC」)20重量%からなる組成物にに変更したこと以外は実施例1とほぼ同様にして、導電性合成樹脂モノフィラメントを作製した。また、得られた導電性合成樹脂モノフィラメントから実施例1とほぼ同様にして織物を作製した。これらの評価結果を表1に示す。
【0051】
[実施例5]
PPS樹脂(東レ社製「E2080」)を、40mmφエクストルーダ溶融紡糸機で溶融押出して、85℃の温水で冷却固化した後、101℃のスチーム浴および160℃の熱風浴中で4.5倍に延伸し、円形断面を有し、直径500μmのモノフィラメントを作製し、これを芯層1とした。
【0052】
上記芯層1と実施例4の導電性被覆層2を使用したこと以外は、実施例1とほぼ同様にして、導電性合成樹脂モノフィラメントを作製した。また、得られた導電性合成樹脂モノフィラメントから実施例1とほぼ同様にして織物を作製した。これらの評価結果を表1に示す。
【0053】
[実施例6]
1400dtexの66ナイロン(N66)(東レ社製「M3001」)のマルチフィラメントを、642t/127cmで下撚りし、更に下撚りした2本を323t/127cmで上撚りして相当直径590μmの撚糸を作製し、これを芯層1とした。
【0054】
上記芯層1と実施例4の導電性被覆層2を使用したこと以外は、実施例1とほぼ同様にして、導電性合成樹脂モノフィラメントを作製した。また、得られた導電性合成樹脂モノフィラメントから実施例1とほぼ同様にして織物を作製した。これらの評価結果を表1に示す。
【0055】
[比較例1]
被覆層2を、PET樹脂(東レ社製「T750M」)67重量%、高分子量飽和共重合ポリエステル樹脂(東レ社製「ケミットQ−1500」)22重量%、カーボンブラック(CB)(ケッチェン・ブラック・インターナショナル社製「ケッチェンブラックTMEC」)11重量%からなる組成物に変更したこと以外は、実施例1とほぼ同様にして、導電性合成樹脂モノフィラメントを作製した。その物性評価結果を表1に示す。
【0056】
また、屈曲摩耗試験後の試料の断面写真を図2に示す。図2から明らかなように、導電性被覆層2に屈曲摩耗試験によって削れた部分3が認められ、この部分3から芯層1が露出していた。
【0057】
また、得られた導電性合成樹脂モノフィラメントから実施例1とほぼ同様にして織物を作製した。この織物の性能評価結果を表1に示す。
【0058】
[比較例2]
導電性被覆層の厚さを変更したこと以外は、比較例1とほぼ同様にして、導電性合成樹脂モノフィラメントを作製した。また、得られた導電性合成樹脂モノフィラメントから実施例1とほぼ同様にして織物を作製した。これらの評価結果を表1に示す。
【0059】
[比較例3]
被覆層2を、6ナイロン(東レ社製「M1021T」)80重量%、カーボンブラック(CB)(ケッチェン・ブラック・インターナショナル社製「ケッチェンブラックTMEC」)20重量%からなる組成物に変更したこと以外は、実施例1とほぼ同様にして、導電性合成樹脂モノフィラメントを作製した。また、得られた導電性合成樹脂モノフィラメントから実施例1とほぼ同様にして織物を作製した。これらの評価結果を表1に示す。
【0060】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明の導電性合成樹脂フィラメントは、耐久性と導電性を同時に満たす従来にない新規な機能性フィラメントであることから、その特性を生かして、小麦粉などの粉体篩分けフィルター、布帛の乾燥、紙おむつや生理製品などサニタリー製品製造時に水分や有機溶剤を乾燥させるドライヤーベルトおよび抄紙機のドライヤーカンバスなどの工業用織物の経糸および/または緯糸の少なくとも一部、あるいはヘアブラシや工業用ブラシなどの各用途に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】実施例1で得られた導電性合成樹脂モノフィラメントの屈曲摩耗試験後の断面写真を示す。
【図2】比較例1で得られた導電性合成樹脂モノフィラメントの屈曲摩耗試験後の断面写真を示す。
【符号の説明】
【0063】
1:芯層
2:導電性被覆層
3:屈曲摩耗試験によって削れた部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂モノフィラメントまたはマルチフィラメントからなる芯層と、この芯層の表面に溶融被覆した導電性被覆層とからなる導電性合成樹脂フィラメントであって、前記導電性被覆層が少なくとも熱可塑性エラストマーを含有し、JIS L−1095−7.10.2Bに準じた屈曲摩耗試験後に、芯層が露出しないことを特徴とする導電性合成樹脂フィラメント。
【請求項2】
前記熱可塑性エラストマーがオレフィン系エラストマーであることを特徴とする請求項1に記載の導電性合成樹脂フィラメント。
【請求項3】
前記熱可塑性エラストマーの含有量が導電性被覆層の全体に対して5〜50重量%であることを特徴とする請求項1または2に記載の導電性合成樹脂フィラメント。
【請求項4】
体積固有抵抗値が1000Ω・cm未満であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の導電性合成樹脂フィラメント。
【請求項5】
前記芯層の樹脂と導電性被覆層の熱可塑性エラストマー以外の樹脂とが同種のポリマー樹脂から構成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の導電性合成樹脂フィラメント。
【請求項6】
前記同種のポリマー樹脂がポリエチレンテレフタレートであることを特徴とする請求項5に記載の導電性合成樹脂フィラメント。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−161190(P2006−161190A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−351064(P2004−351064)
【出願日】平成16年12月3日(2004.12.3)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【出願人】(000219288)東レ・モノフィラメント株式会社 (239)
【Fターム(参考)】