説明

導電性樹脂と金属部品との導通方法

【課題】表面の全てが絶縁層で覆われている導電性樹脂と金属部品とを電気的に導通させる場合において、温度差の激しい環境に繰り返しさらされたときでも電気的な接触抵抗の増加を抑える。
【解決手段】導電性を有する導電性繊維Pbと、この導電性繊維Pbより融点が低くこの導電性繊維Pbとの濡れ性が良好な低融点金属Pcとを混ぜ込んで成形され、この成形された表面の全てが絶縁層Sで覆われている導電性樹脂10と金属部品2との導通方法であって、本発明では、この導電性樹脂10に対して絶縁層Sを貫通するように金属部品2を組み付け、この組み付け状態のまま近傍の低融点金属Pcが溶融するように金属部品2を加熱することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性樹脂と金属部品との導通方法に関する。詳しくは、導電性を有する導電性繊維と、該導電性繊維より融点が低く該導電性繊維との濡れ性が良好な低融点金属とを混ぜ込んで成形され、この成形された表面の全てが絶縁層で覆われている導電性樹脂と金属部品との導通方法。
【背景技術】
【0002】
電子機器から発生する電磁波を外部に放出させないようシールドするための材料として、従来、熱可塑性樹脂に導電性繊維を混ぜ込んで成形された導電性樹脂が用いられている。下記特許文献1には、電子機器を収容するケースの一部としてこのような導電性樹脂によるカバーを用いたものが開示されている。導電性樹脂中の多数の導電性繊維は互いに接触しあうように分布しているため、総体として導電性を有する網目状の組織となっており、導体板に近似可能な電磁波シールド性を発揮する。このような導電性樹脂を用いたケースは金属製のケースより軽量であり、また通常の射出成形により容易に成形可能であることから広く用いられている。
【0003】
また、上記のような導電性樹脂中の導電性繊維同士の導通を確実なものとするため、導電性樹脂中にさらに低融点金属を混ぜ込むことが行われている。下記特許文献2には、このような導電性樹脂が開示されている。低融点金属は、導電性繊維より融点が低くかつ導電性繊維と濡れ性が良好なものが好ましく、導電性樹脂中の低融点金属は成形時に溶融して導電性繊維と付着する。これにより、導電性繊維は低融点金属を介して互いに結合し、導通がより確実なものとなるため、導電性樹脂の電磁波シールド性が向上する。
【0004】
ここで、図4に示すように、金属製のベース部材101を覆うように、導電性繊維102aと低融点金属102bとを含んだ導電性樹脂製のカバー102を設けることで電子機器のケース103を構成することを考える。この場合、電磁波をシールドするためにはカバー102の導電性樹脂をベース部材101の金属に対して導通させ、電気的に一体なものとする必要がある。しかし、一般的に導電性繊維102aを混ぜ込んで成形された導電性樹脂の成形品は、その成形過程において表面全体が導電性繊維102aを含まないいわゆる絶縁層で覆われる。この絶縁層の存在により内部の導電性を有する部分と外部とは電気的に隔離されるため、単に金属製のベース部材101にカバー102が接触しているのみでは両者は導通されていない。このため、図4に示すように、カバー102にボルト104による締結用の孔を開けることにより導電性を有する面105を露出させ、この面105に対して金属製のカラー106を接触させ、このカラー106を介してカバー102とベース部材101との導通をとることが行われていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−163483号公報
【特許文献2】特開2005−264097号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述の技術によると、導電性樹脂製のカバー102と金属製のカラー106とが熱膨張係数に差があるため、温度差の激しい環境に繰り返しさらされると両者の間に接触不良が生じ、電気的な接触抵抗が次第に増加するという問題があった。
本発明は、このような点に鑑みてなされたものであり、表面の全てが絶縁層で覆われている導電性樹脂と金属部品とを電気的に導通させる場合において、温度差の激しい環境に繰り返しさらされたときでも電気的な接触抵抗の増加を抑えることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
まず、本発明の第1の発明は、導電性を有する導電性繊維と、該導電性繊維より融点が低く該導電性繊維との濡れ性が良好な低融点金属とを混ぜ込んで成形され、この成形された表面の全てが絶縁層で覆われている導電性樹脂と金属部品との導通方法であって、
この導電性樹脂に対して絶縁層を貫通するように金属部品を組み付け、
この組み付け状態のまま近傍の低融点金属が溶融するように金属部品を加熱することを特徴とする。
【0008】
この構成によれば、溶融した低融点金属は金属部品に付着するため、金属部品の冷却後において、低融点金属と金属部品とが強固に結合する。したがって、導電性樹脂と金属部品とを電気的に導通させる場合において、温度差の激しい環境に繰り返しさらされたときでも電気的な接触抵抗の増加を抑えることができる。
【0009】
本発明の第2の発明は、第1の発明に係る導電性樹脂と金属部品との導通方法であって、前記の加熱は前記金属部品に対する誘導加熱であることを特徴とする。
この構成によれば、金属部品の性質を利用した誘導加熱により簡便に加熱できる。
【0010】
本発明の第3の発明は、第1または第2の発明に係る導電性樹脂と金属部品との導通方法であって、前記の金属部品はねじであり、前記の組み付けは該ねじを前記導電性樹脂にねじ込むことにより行われることを特徴とする。
この構成によれば、ねじにより簡便に伝導性樹脂の内部との接触が得られる。
【発明の効果】
【0011】
第1の発明によれば、温度差の激しい環境に繰り返しさらされても導電性樹脂と金属部品との間の電気的な接触抵抗が低減される。
第2の発明によれば、金属部品の性質を利用した誘導加熱により簡便に加熱できる。
第3の発明によれば、ねじにより簡便に伝導性樹脂の内部との接触が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】電磁波をシールドするケースを示す斜視図。
【図2】図1のケースをタッピンねじを通る平面で切断して示す断面図。
【図3】ケースとタッピンねじとの導通を得る方法を示す図。
【図4】従来の電磁波をシールドするケースを示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明を実施するための形態を、図1から図3までを参照しながら説明する。本実施形態のケース1は電子機器を収容するケースである。このケース1は、電磁波シールド性を有する材料で形成され、電子機器から発生する電磁波を外部に放出させず、また外部からの電磁波により電子機器が影響を受けないようにシールド可能である。
このケース1は、金属製のベース部材11と、このベース部材11にかぶせて設けられる導電性樹脂P製のカバー部材10とを備える。このカバー部材10はフランジ部を有し、このフランジ部がベース部材11に対して複数のボルト12によって締結される。後述のように、ベース部材11とカバー部材10との接触部には、これらのベース部材11とカバー部材10との導通をとるための金属製のタッピンねじ2が埋め込まれている。
【0014】
図2は、図1のケース1をタッピンねじ2を通る平面で切断して示す断面図である。カバー部材10は前記のように導電性樹脂P製である。この導電性樹脂Pは、図2に模式的に示すように、熱可塑性樹脂Pa中に導電性フィラーとしての導電性繊維Pbと低融点金属Pcとが分布した材料である。図2に示すように、導電性樹脂P中に分布する導電性繊維Pbは総体として導電性を有する微細な網目状の組織となっており、これにより導電性樹脂Pは導体板に近似可能な電磁波シールド性を発揮する。また導電性樹脂Pは、熱可塑性樹脂Pa材料中に導電性繊維Pbと低融点金属Pcとを混ぜ込み射出成形される。この射出成形時、熱可塑性樹脂Paが優先的に金型に付着するため、成形品の表面全体が導電性繊維Pbと低融点金属Pcとを含まないスキン層と呼ばれる絶縁層で覆われる。図2には、このようにしてカバー部材10に形成された絶縁層Sが示されている。
また、低融点金属Pcは、導電性繊維Pbより融点が低く、かつ導電性繊維Pbと濡れ性が良好な金属である。したがって、低融点金属Pcは成形時に溶融して導電性繊維Pbに付着する。導電性樹脂P中に分布するいくつかの導電性繊維Pbは互いに直接接触により導通しているが、上記のように低融点金属Pcが導電性繊維Pbに付着することによって、多くの導電性繊維Pbは低融点金属Pcを介して互いに結合し、導電性繊維Pb間の導通がより確実なものとなっている。
【0015】
図2中の部分拡大図に示すように、カバー部材10のフランジ部10aには、カバー部材10を覆う絶縁層Sを貫通するように、金属製のタッピンねじ2がねじ込まれている。本発明でいう「金属部品」はこのタッピンねじに相当する。このタッピンねじ2は、ねじ部21と柄部22と鍔部23とから成る。ねじ部21はカバー部材10の内部と直接接触しており、後述のように、特に導電性樹脂P中の低融点金属Pcがねじ部21に固着している。これにより、カバー部材10中の導電性を有する部分(導電性繊維Pbおよび低融点金属Pc)とタッピンねじ2との導通が得られ、これらは同電位となっている。また、タッピンねじ2の鍔部23および柄部22は、前記のボルト12による締結力により、金属製のベース部材11との接触が保たれている。これにより、タッピンねじ2とベース部材11との導通が得られ、これらは同電位となっている。したがって、概して金属製のベース部材11と導電性を有するカバー部材10とで構成されるケース1は、全体として同電位となり電磁波シールド効果を発揮する。
【0016】
以下、カバー部材10(カバー部材10中の導電性を有する導電性繊維Pbおよび低融点金属Pc)とタッピンねじ2との導通をとる方法を説明する。まず、図3(A)に示すように、導電性樹脂P製のカバー部材10に、このカバー部材10を覆う絶縁層Sを貫通するように、タッピンねじ2をねじ込む。これにより、カバー部材10内部の導電性繊維Pbと低融点金属Pcが分布する部分に対して、タッピンねじ2のねじ部21が直接接触する。次に、このようにねじ込まれたタッピンねじ2を、誘導加熱装置3を用いて誘導加熱(IH)の原理で加熱する。図3(B)に示すように、この誘導加熱装置3は、コイル31と、このコイル31に交流電流を流す交流電源32とを備える。タッピンねじ2の柄部22にコイル31を巻き交流電源32から交流電流を流すことにより、タッピンねじ2およびこの近傍のカバー部材10(導電性繊維Pbおよび低融点金属Pc)に渦電流が誘導され、この渦電流が発生するジュール熱によりこれらのタッピンねじ2およびこの近傍のカバー部材10が加熱される。この加熱により、ねじ部21の近傍にある熱可塑性樹脂Paおよび低融点金属Pcが溶融し、特に、金属との濡れ性が良好な低融点金属Pcが金属製のねじ部21に付着する。次に、このタッピンねじ2を冷却することにより、図3(C)に示すように、低融点金属Pcがねじ部21に強固に固着する。すなわち、低融点金属Pcとねじ部21とは金属同士の強い結合力を示す。図2に示すカバー部材10とタッピンねじ2との導通状態は以上のようにして得られる。低融点金属Pcとねじ部21とが強固に結合していることにより、温度差の激しい環境に繰り返しさらされたときでも、低融点金属Pcとねじ部21との間の接触不良が起きず、電気的な接触抵抗の増加を抑えることができる。
【0017】
本発明を実施するための形態は以上のように構成される。
この構成によれば、導電性樹脂P製のカバー部材10に、このカバー部材10を覆う絶縁層Sを貫通するようにタッピンねじ2がねじ込まれ、このタッピンねじ2が誘導加熱の原理で加熱され、ねじ部21の近傍にある低融点金属Pcが溶融し金属製のねじ部21に付着する。これにより、タッピンねじ2が冷却されると低融点金属Pcとタッピンねじ2とが強固に結合する。したがって、温度差の激しい環境に繰り返しさらされたときでも電気的な接触抵抗の増加を抑えることができる。
さらに、タッピンねじ2の金属部品としての性質を利用した誘導加熱により簡便に加熱できる。さらに、タッピンねじ2により簡便にカバー部材10の内部との接触が得られる。
【0018】
なお、本発明に係る導通方法は、上記の実施の形態に限定されるものではなく、その他各種の形態で実施できるものである。上記実施形態では加熱を誘導加熱により行っていたが、これ以外の加熱方法により加熱を行っても良い。なお、この加熱はタッピンねじ2の近傍の導電性樹脂のみを加熱できれば充分である。
また、上記実施形態では、カバー部材10の表面を覆っている絶縁層Sを貫通するようにタッピンねじ2をねじ込む方法により、カバー部材10内部の導電性を有する部分と金属部品であるタッピンねじ2との接触をとっていたが、切断等の方法でカバー部材10を加工することにより導電性を有する部分を露出させて、そこに金属部品を接触させる方法でも良い。
【符号の説明】
【0019】
1 ケース
10 カバー部材
10a フランジ部
11 ベース部材
12 ボルト
2 タッピンねじ
21 ねじ部
22 柄部
23 鍔部
3 誘導加熱装置
31 コイル
32 交流電源
P 導電性樹脂
Pa 熱可塑性樹脂
Pb 導電性繊維
Pc 低融点金属
Pc 低融点合金
S 絶縁層


【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性を有する導電性繊維と、該導電性繊維より融点が低く該導電性繊維との濡れ性が良好な低融点金属とを混ぜ込んで成形され、この成形された表面の全てが絶縁層で覆われている導電性樹脂と金属部品との導通方法であって、この導電性樹脂に対して絶縁層を貫通するように金属部品を組み付け、この組み付け状態のまま近傍の低融点金属が溶融するように金属部品を加熱することを特徴とする導電性樹脂と金属部品との導通方法。
【請求項2】
請求項1に記載の導電性樹脂と金属部品との導通方法であって、前記の加熱は前記金属部品に対する誘導加熱であることを特徴とする導電性樹脂と金属部品との導通方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の導電性樹脂と金属部品との導通方法であって、前記の金属部品はねじであり、前記の組み付けは該ねじを前記成形品にねじ込むことにより行われることを特徴とする導電性樹脂と金属部品との導通方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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