説明

導電性炭化珪素質多孔体の製造方法

【課題】簡易な工程で、比抵抗値を広い範囲内で容易に調整することが可能な導電性炭化珪素質多孔体の製造方法を提供する。
【解決手段】製造方法は、導電性を有する多孔質の炭化珪素質セラミックスの焼結体を、所定の加熱温度で所定加熱時間にわたり酸化雰囲気下で加熱し、炭化珪素質粒子の表面に二酸化珪素層を形成させる酸化処理工程を具備し、該酸化処理工程における加熱温度及び/または加熱時間を変化させることにより比抵抗値の異なる導電性炭化珪素質多孔体を製造するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通電により発熱させる導電性炭化珪素質多孔体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
炭化珪素は、熱伝導率が高いことに加えて熱膨張率が小さいことから、耐熱衝撃性に優れるため、炭化珪素質セラミックスの多孔体は、高温下で使用されるフィルタの基体として用いられている。また、高純度の炭化珪素は電気抵抗が高く絶縁体に近いが、導電性が付与された炭化珪素質セラミックスの多孔体は、通電により発熱させる自己発熱型のフィルタ基体として使用することが可能である。
【0003】
例えば、ディーゼルエンジンから排出されるガスに含まれる粒子状物質を捕集除去するディーゼルパティキュレートフィルタ(以下、「DPF」と称することがある)では、捕集された粒子状物質がある程度堆積した時点で、粒子状物質を燃焼させる再生処理が行われる。その際、通電によりフィルタ基体を自己発熱させて、粒子状物質を燃焼・除去すれば、外部加熱により粒子状物質を燃焼させる場合とは異なり、バーナーやヒーター等の加熱装置が不要となる。また、外部加熱の場合は、局所的な加熱によりフィルタ基体が溶損するおそれや、大きな温度勾配によってフィルタ基体に亀裂や割れが発生するおそれがあるところ、自己発熱型のフィルタ基体の場合は、そのようなおそれが少ないという利点も有している。
【0004】
ここで、炭化珪素に導電性を付与する方法としては、微量の不純物を添加することにより半導体とする方法が公知である。また、炭化珪素を除く炭化物、窒化物、ホウ化物、酸化物から選ばれる少なくとも一種の添加剤を炭化珪素に添加することにより、導電性を有すると共に粒子状物質の捕集に適した気孔を有するDPFを製造する「排気ガスフィルタの製造方法」が提案されている(特許文献1参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の技術では、窒化アルミニウム、窒化チタン、二ホウ化チタンなどの添加剤を、炭化珪素100重量部に対して5〜15重量部と、多量に添加する必要があった。また、原料の炭化珪素粉末と添加剤とを水で混練するために、予め撥水性を有する樹脂で添加剤を被覆しておく工程が必要であり、製造工程が複雑で手間がかかるという問題があった。
【0006】
また、特許文献1により製造された炭化珪素質多孔体の比抵抗値は10−2〜1Ω・cmと小さく、応用範囲が限定されると考えられた。これは、導電性の炭化珪素質セラミックスは、温度の上昇に伴って電気抵抗が減少するNTC特性を有するため、比抵抗値が小さい場合は、目的とする温度まで昇温させるための電流値が過大となるおそれがあるためである。
【0007】
加えて、実用的な炭化珪素質多孔体の製造について、比抵抗値をより広い範囲で調整できることが要請されている。これは、例えばDPFであれば、取付け対象の車体の大きさや構造によってDPFのサイズが規定されることにより、求められるフィルタ基体のサイズが極めて多種類となるためであり、これに伴い、再生処理の際に所定時間内で所定温度まで昇温させるために要請される比抵抗値も、多様となるためである。
【0008】
そこで、本発明は、上記の実情に鑑み、簡易な工程で、比抵抗値を広い範囲内で容易に調整することが可能な導電性炭化珪素質多孔体の製造方法の提供を、課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、本発明にかかる導電性炭化珪素質多孔体の製造方法は、「導電性を有する多孔質の炭化珪素質セラミックスの焼結体を、所定の加熱温度で所定の加熱時間にわたり酸化雰囲気下で加熱し、炭化珪素質粒子の表面に二酸化珪素層を形成させる酸化処理工程を具備し、該酸化処理工程における加熱温度及び/または加熱時間を変化させることにより、比抵抗値の異なる導電性炭化珪素質多孔体を製造する」ものである。
【0010】
本発明者らは、酸化処理によって意図的に炭化珪素質粒子の表面に二酸化珪素層を形成させることにより、導電性炭化珪素質多孔体の比抵抗値を変化させることができ、酸化処理工程を行う酸化雰囲気が同一であれば、加熱温度及び加熱時間の一方または双方を変化させることによって、比抵抗値を制御可能であることを見出し、本発明に至ったものである。
【0011】
従って、上記構成の本発明によれば、ある比抵抗値を有する多孔質の炭化珪素質セラミックスの焼結体を得るまでの工程は単一とし、付加的に酸化処理工程を行い、その際の加熱温度及び/または加熱温度を変化させるのみで、種々の比抵抗値を有する導電性炭化珪素質多孔体を製造することができる。
【0012】
従来技術のように、原料粉末に添加する添加剤の種類や添加量を調整することによって、炭化珪素質多孔体の比抵抗値を調整しようとすると、多種類の比抵抗値を有する導電性炭化珪素質多孔体が要請されるのに対応して、多種類の組成の原料を調製しなくてはならず、多大な労力を要すると共に経済性にも劣る。これに対し、本発明によれば、同一組成の原料から単一の焼結体を製造し、処理条件の異なる酸化処理工程を付加的に行うのみの簡易な方法で、広い範囲内で比抵抗値が相違する多種類の導電性炭化珪素質多孔体を製造することができる。
【0013】
本発明にかかる導電性炭化珪素質多孔体の製造方法は、上記構成において、「前記加熱温度は900℃〜1300℃で、前記加熱時間は5時間〜40時間である」ものとすることができる。
【0014】
後述のように、900℃〜1300℃の加熱温度、5時間〜40時間の加熱時間で、通電により発熱させるフィルタ基体や触媒担体等として実用的な比抵抗値を有する導電性炭化珪素質多孔体を製造することができる。
【0015】
ここで、加熱温度が900℃より低い場合は、酸化反応が起こりにくく二酸化珪素層が形成されにくい。一方、加熱温度が1300℃より高くなると、酸化反応が急速に進行し、比抵抗値の制御が困難となる。また、酸化時間が5時間より短いと、比抵抗値に影響を及ぼすほど十分な二酸化珪素層が形成されにくい。一方、酸化時間が40時間より長いと、導電性炭化珪素質多孔体の製造効率が低く、経済性にも劣るため、実用的ではない。
【0016】
本発明にかかる導電性炭化珪素質多孔体の製造方法は、上記構成において、「前記焼結体は、窒化珪素粉末と炭素質物質とからなり珪素と炭素のモル比が0.5〜1.5である炭化珪素生成原料、及び、骨材としての炭化珪素粉末を含む混合原料を成形する成形工程と、 該成形工程で得られた成形体を、1800〜2300℃の非酸化雰囲気下で焼成する焼成工程とを経て製造される」ものとすることができる。
【0017】
上記構成の本発明では、焼結体は、いわゆる反応焼結により生成した炭化珪素質セラミックスである。ここで、反応生成させる炭化珪素の珪素源は「窒化珪素粉末」であり、炭素源は「炭素質物質」である。従って、化学量論的には珪素及び炭素のモル比(Si/C)が1のときに過不足なく炭化珪素が生成する。ここで、Si/Cが0.5より小さいと、残存する炭素分が多すぎ、粗大気孔の原因となると共に生成した炭化珪素の粒子成長が阻害される。一方、Si/Cが1.5より大きい場合は、炭化珪素の反応生成量が少なく、反応焼結が不十分となる。なお、Si/Cは0.8〜1.2であれば、珪素及び炭素の過剰分または不足分が少なく、より望ましい。
【0018】
「炭素質物質」としては、黒鉛、石炭、コークス、木炭、カーボンブラックなどを使用可能である。また、導電性炭化珪素質多孔体をフィルタ基体として使用する場合は、「炭素質物質」として平均粒子径10μm〜50μmという粒径のものを用いれば、その消失跡にフィルタ基体として適した大きさの気孔が形成されるため、望ましい。また、平均粒子径10μm〜50μmという、比較的大きな粒径の炭素質物質を用いることにより、炭素源が微細な粒子である場合に比べて、炭化珪素の生成反応の開始は遅くなるものの、生成した炭化珪素がネック形成できるほどに粒子成長するのが早く、強固なネックを早期に形成させることができるため、高強度の多孔質焼結体を得ることができる。
【0019】
骨材としての炭化珪素粉末の混合原料における割合が小さ過ぎる場合は、得られる焼結体の強度が低いものとなり易く、大き過ぎる場合はその分炭化珪素生成原料の割合が小さくなり、反応焼結が不十分となるおそれがある。そのため、骨材としての炭化珪素粉末の混合原料における割合は、60〜95質量%とすることが望ましい。
【0020】
「成形工程」における成形方法は特に限定されず、例えば、押出成形、乾式加圧成形、鋳込成形とすることができる。
【0021】
「焼成工程」における「非酸化雰囲気」は、アルゴンやヘリウム等の不活性ガス雰囲気、或いは、真空雰囲気とすることができる。
【0022】
「焼成工程」の温度が低いと反応焼結が不十分となるおそれがあり、2350℃を超えると、生成した炭化珪素が昇華するおそれがあるところ、1800〜2300℃とすることにより、実用的な焼成時間で、十分な機械的強度の焼結体を得ることができる。
【0023】
上記構成の本発明では、珪素源と炭素源とから炭化珪素を反応生成させて焼結体を得ており、珪素源として窒化珪素を用いている。そのため、窒化珪素の分解により生じた窒素は、生成した炭化珪素に不純物としてドープされ、n型半導体となる。すなわち、炭化珪素を生成させる原料である窒化珪素が、炭化珪素に導電性を付与するドーパントを兼ねているため、導電性を付与するための添加剤を特に添加することなく、導電性の炭化珪素質セラミックスの焼結体を得ることができる。加えて、炭化珪素を反応生成させる炭素源である炭素質物質の消失跡には気孔が形成されるため、造孔剤を特に添加することなく、多孔質の炭化珪素質セラミックスの焼結体を得ることができる。
【0024】
従って、「導電性を有する多孔質の炭化珪素質セラミックスの焼結体」自体が簡易に製造されるため、その後に付加する酸化処理工程で比抵抗値を調整する本発明は、導電性炭化珪素質多孔体の製造方法として極めて簡易である。
【発明の効果】
【0025】
以上のように、本発明の効果として、簡易な工程で、比抵抗値を広い範囲内で容易に調整することが可能な導電性炭化珪素質多孔体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】酸化処理工程における条件(加熱温度、加熱時間)と酸素濃度との関係を示すグラフである。
【図2】酸素濃度と室温における比抵抗値との関係を示すグラフである。
【図3】温度を上昇させた際の電気抵抗値の変化を示すグラフである。
【図4】温度が異なる場合について、酸素濃度に対する比抵抗値の関係を示すグラフである。
【図5】酸素濃度と三点曲げ強度との関係を示すグラフである。
【図6】(a)試料14の試料表面、及び、(b)対照試料の試料表面の、SEM観察像及びEDX画像である。
【図7】試料14の破断面のSEM観察像及びEDX画像である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の一実施形態である導電性炭化珪素質多孔体の製造方法について説明する。本実施形態の導電性炭化珪素質多孔体の製造方法(以下、単に「製造方法」と称する)は、導電性を有する多孔質の炭化珪素質セラミックスの焼結体を、所定の加熱温度で所定の加熱時間にわたり酸化雰囲気下で加熱し、炭化珪素質粒子の表面に二酸化珪素層を形成させる酸化処理工程を具備し、酸化処理工程における加熱温度及び/または加熱時間を変化させることにより比抵抗値の異なる導電性炭化珪素質多孔体を製造する方法であり、加熱温度は900℃〜1300℃で、加熱時間は5時間〜40時間で変化させるものである。また、本実施形態の製造方法では、焼結体として、窒化珪素粉末と炭素質物質とからなり珪素と炭素のモル比が0.5〜1.5である炭化珪素生成原料、及び、骨材としての炭化珪素粉末を含む混合原料を成形する成形工程と、成形工程で得られた成形体を1800〜2300℃の非酸化雰囲気下で焼成する焼成工程とを経て製造されるものを使用する。
【0028】
より詳細に説明すると、本実施形態の成形工程では、単一の方向に延びて列設された隔壁により区画された複数のセルを備えるハニカム構造の成形体を成形する。具体的には、窒化珪素粉末と炭素質物質とからなる炭化珪素生成原料、及び、骨材としての炭化珪素粉末の混合原料に、メチルセルロース等の有機バインダー等の添加剤を添加し、水と混合・混錬して混錬物とし、これを押出成形することにより、ハニカム構造の成形体を得る。なお、本実施形態では、炭素質物質として平均粒子径(直径)が10μm〜50μmのものを使用する。
【0029】
この成形工程の後に、成形体を乾燥する乾燥工程を行ってもよい。このような乾燥工程は、調温調湿槽内での送風乾燥、外部加熱乾燥、マイクロ波照射による内部加熱乾燥等により行うことができる。なお、導電性炭化珪素質多孔体を、DPFの基体として使用する場合は、ハニカム構造の成形体について、一方向に開放したセルと他方向に開放したセルとが交互となるようにセルの一端を封止する封止工程を設ける。この封止工程は、成形工程と乾燥工程との間、或いは乾燥工程の後に設けることができる。
【0030】
焼成工程では、加熱炉を非酸化雰囲気として、成形体に熱衝撃を与えない速度で昇温し、1800〜2300℃の所定の焼成温度で一定時間保持する。焼成時間は、成形体のサイズにもよるが、例えば、10分〜3時間とすることができる。この焼成工程において、珪素源の窒化珪素と炭素源の炭素質物質とが反応して炭化珪素が生成し、骨材としての炭化珪素を取り囲むように反応焼結する。
【0031】
これと同時に、炭化珪素の生成反応に使用された炭素質物質の消失跡に、気孔が形成される。そして、更に、ネック形成できるほどに炭化珪素の粒子が成長し、粒子間に形成されたネックが更に成長する。ここで、本実施形態では平均粒子径が10μm〜50μmと大きい炭素質物質を使用しているため、その消失跡に形成された気孔は、炭化珪素の粒子成長及びネック成長によっても塞がることがなく、フィルタ基体として適した大きさの気孔が形成される。
【0032】
また、焼成工程では、炭化珪素の反応焼結、及び気孔の形成と同時に、窒化珪素の分解により生じた窒素が炭化珪素中に固溶し、純度が高ければ絶縁体である炭化珪素がn型半導体となる。このとき、窒素は、骨材としての炭化珪素より、反応焼結によってその周囲に新たに生成された炭化珪素、及び、炭化珪素の粒子間に成長するネック部分に、主に固溶すると考えられる。所定の焼成温度で所定時間保持した後は、熱衝撃を与えない速度で降温する。
【0033】
酸化処理工程は、焼成工程を経て得られた焼結体について行う。この酸化処理工程では、空気雰囲気など酸素ガスを含む酸化雰囲気とした加熱炉に焼結体を収容し、所定の加熱温度で所定の加熱時間にわたり保持する。ここで、加熱温度及び加熱時間は、導電性炭化珪素質多孔体の用途やサイズ等により要請される比抵抗値に応じて調整するが、詳細は後述する。この酸化処理工程において、炭化珪素の粒子の表面では、以下のように炭化珪素が酸素と反応して、二酸化珪素の層が生成する。その結果、導電性の炭化珪素における導電経路が二酸化珪素層によって制限され、比抵抗値が増加すると考えられる。
SiC + 2O → SiO + CO
【0034】
なお、酸化処理工程の前に、焼成工程において炭化珪素の生成反応に使用されずに残留するおそれのある炭素質物質を燃焼除去する目的で、脱炭工程を設けることができる。この脱炭工程は、酸化雰囲気下において650℃〜850℃で1時間〜3時間程度保持することにより行うことができる。この程度の温度及び保持時間であれば、脱炭工程では炭化珪素の酸化はほとんど生じない。
【実施例】
【0035】
次に、具体的な実施例について説明する。表1に示す組成の混合原料に、バインダーとしてメチルセルロース、潤滑剤としてオレイン酸、ポリオキシアルキレン系化合物(日油製、ユニルーブ(登録商標))を添加し、水を加えて混練して混練物を得た。この混練物を押出成形し、サイズ35mm×35mm×高さ150mm、セル密度300cpsi、隔壁の壁厚0.25mmのハニカム構造の成形体を作製した(成形工程)。
【0036】
【表1】

【0037】
得られた成形体を乾燥させた後(乾燥工程)、非酸化雰囲気下で2100℃,10分間焼成することにより反応焼結させ、ハニカム構造の焼結体(導電性を有する多孔質の炭化珪素質セラミックスの焼結体)を得た(焼成工程)。その後、空気雰囲気下において850℃で1時間加熱し、未反応分として残存するおそれのある炭素質物質の除去を行った(脱炭工程)。
【0038】
上記の工程を経た焼結体の試料1〜試料14について、表2に示す加熱温度及び加熱時間で、空気雰囲気下で酸化処理を行った(酸化処理工程)。各試料について酸化処理の前後で質量を測定し、酸化処理により増加した質量((酸化処理後の質量)−(酸化処理前の質量))から、酸化処理により増加した酸素濃度(質量%)を以下のように算出した。
酸化処理により増加した酸素濃度(質量%)=(酸化処理により増加した酸素の質量)/(酸化処理後の焼結体の質量)×100
ここで、(酸化処理により増加した酸素の質量)=(酸化処理により増加した焼結体の質量)×(酸素の分子量/((二酸化珪素の分子量)−(炭化珪素の分子量))
【0039】
また、酸化処理を行っていない焼結体における酸素濃度を、JIS R1616の酸素定量方法(不活性ガス融解−赤外線吸収法)に則り測定したところ、0.3質量%であった。そこで、酸化処理後の焼結体における酸素濃度(質量%)を以下のように算出した。
酸化処理後の焼結体における酸素濃度(質量%)=((酸化処理により増加した酸素の質量)+(酸化処理前の焼結体の質量)×0.3/100)/(酸化処理後の焼結体の質量)×100
【0040】
更に、酸化処理後の各試料の両端に、長軸方向に10cmの距離をあけて1cm幅に銀ペーストを焼き付けて電極とし、二つの電極間の電気抵抗をテスターで測定して、室温における比抵抗値を求めた。
【0041】
各試料について、酸化処理前後の焼結体の質量、酸化処理により増加した酸素濃度(質量%)、酸化処理後の焼結体における酸素濃度(質量%)、及び、室温における比抵抗値(Ω・cm)を表2にまとめて示す。
【0042】
【表2】

【0043】
上記の結果をもとに、酸化処理工程における加熱温度に対して、酸化処理により増加した酸素濃度(質量%)をプロットしたグラフを図1に示す。なお、図1では、第二Y軸を、酸化処理後の焼結体における酸素濃度(質量%)としている。以下では、酸化処理により増加した酸素濃度(質量%)、及び、酸化処理後の焼結体における酸素濃度(質量%)を区別する必要がない場合は、単に「酸素濃度」と称することがある。また、酸化処理後の焼結体が、本発明の「導電性炭化珪素質多孔体」に相当する。
【0044】
図1から明らかなように、加熱時間が5時間及び40時間の何れにおいても、加熱温度が高いほど酸素濃度は増加し、その増加曲線は、滑らかに湾曲し下向きに凸となる曲線を描いた。また、加熱時間が40時間の場合は、加熱温度が同一であっても加熱時間が5時間の場合より酸素濃度が高く、その差は加熱温度が高くなるほど大きくなった。また、これらの結果から、5時間と40時間との間の加熱時間の場合は、加熱時間が5時間の曲線と加熱時間が40時間の曲線との間で、同様な曲線を描くように加熱温度に伴って酸素濃度が増加すると考えられた。
【0045】
そして、酸化処理工程において加熱温度を900℃〜1300℃、加熱時間を5時間〜40時間の間で変化させることにより、酸素濃度を0.1質量%〜4.5質量%の範囲で増加させることができ、酸化処理後の焼結体における酸素濃度として0.4質量%〜4.8質量%の範囲で酸素濃度を調整することができる。この場合、加熱時間を一定として加熱温度を変化させることにより、或いは、加熱温度を一定として加熱時間を変化させることにより、また或いは、加熱時間と加熱温度の双方を変化させることにより、酸素濃度を上記範囲内の所望の値に調整可能であると考えられた。
【0046】
次に、酸化処理により増加した酸素濃度(質量%)に対して、室温における比抵抗値(Ω・cm)をプロットしたグラフを図2に示す。なお、図2では、第二X軸を、酸化処理後の焼結体における酸素濃度(質量%)としている。図2から明らかなように、室温における比抵抗値は、酸素濃度の増加に伴って直線を描くように増加した。そして、上記の酸素濃度の範囲で比抵抗値は5Ω・cm〜20Ω・cmの範囲であり、通電により発熱させるフィルタ基体等に使用する導電性炭化珪素質多孔体として実用的な値であった。
【0047】
以上の結果より、焼結体における酸素濃度を変化させることにより、室温における比抵抗値を酸素濃度の一次関数として変化させることができ、焼結体における酸素濃度は、酸化処理工程における加熱温度及び/または加熱時間によって調整することができる。すなわち、酸化処理工程の条件設定によって、酸素濃度を0.1質量%〜4.5質量%の範囲で増加させることにより、導電性炭化珪素質多孔体の比抵抗値を、5Ω・cm〜20Ω・cmという広い範囲内で制御することができる。
【0048】
次に、酸素濃度の異なる試料5,13,14について、昇温に伴う比抵抗値の変化を測定した結果を図3に示す。測定は、上記の二つの電極を使用して各試料に通電し、熱電対の指示温度が所定の温度に達した時点で、電圧及び電流を測定することにより行った。図3から、何れの試料においても、温度上昇に伴って滑らかに湾曲し下向きに凸となる曲線を描くように、比抵抗値は低下した。また、比抵抗値が減少する度合いは酸化濃度が高いほど大きいものであった。すなわち、各試料間の比抵抗値の差は温度上昇に伴って小さくなるが、温度が400℃近くに達するまでは各試料間の比抵抗値に差がある。一般的に、導電性炭化珪素質多孔体を揮発性有機化合物(VOC)分解装置の発熱体、或いは、加熱により触媒を活性化させる触媒担体として使用する場合は、200〜300℃まで加熱させる。従って、酸化処理によって二酸化珪素層を形成させることにより、約400℃に上昇するまで比抵抗値が異なる種々の導電性炭化珪素質多孔体を製造できる本実施形態の製造方法は、かかる用途の導電性炭化珪素質多孔体の製造方法として実用的である。
【0049】
また、導電性炭化珪素質多孔体をDPFの基体として使用する場合、堆積した粒子状物質を燃焼除去する再生処理に際しては、通常は500〜700℃まで加熱する必要があるが、触媒を担持させれば加熱温度を400〜500℃程度まで低下させることが可能である。従って、酸化処理によって二酸化珪素層を形成させることにより、約400℃に上昇するまで比抵抗値が異なる種々の導電性炭化珪素質多孔体を製造できる本実施形態の製造方法は、自己発熱型のDPFの基体としての導電性炭化珪素質多孔体の製造方法としても有用である。
【0050】
具体的には、導電性の制御された導電性炭化珪素質多孔体は、次のように製造することができる。まず、上記で図3を用いて説明した測定結果において、酸素濃度の異なる試料それぞれについて、温度上昇に伴う比抵抗値の変化を示す曲線の近似式を求める。求めた近似式を図3のグラフ内に示す。この近似式を用いて、ある温度のときの比抵抗値を計算することができる。そして、酸素濃度の異なる試料について、同一温度のときの比抵抗値を算出することにより、図4に示すように、ある温度のときの酸素濃度に対する比抵抗値の関係を知ることができる。
【0051】
そこで、例えば、温度100℃のときの比抵抗値が0.3Ω・cmである導電性炭化珪素質多孔体を製造したい場合は、図4に一点鎖線で示したように、酸化処理によって酸化濃度を2.5質量%増加させ、酸化処理後の焼結体の酸素濃度を2.8質量%とすればよいことが分かる。そして、そのために必要な酸化処理条件は、図1で例示した酸化処理工程における条件(加熱温度、加熱時間)と酸素濃度との関係を示すグラフから読み取ることができる。すなわち、図1から、一点鎖線で示すように、酸化処理によって酸化濃度を2.5質量%増加させて酸化処理後の焼結体の酸素濃度を2.8質量%とするには、加熱時間が40時間の場合は加熱温度を1100℃とすればよく、加熱時間が5時間の場合は加熱温度を1300℃とすればよいことが分かる。
【0052】
なお、一般的に抵抗発熱させるセラミックス発熱体は、抵抗値が初期値の4倍に達したときが使用限界であると言われている。炭化珪素の場合は、例示した用途における使用温度範囲では、上述したように温度の上昇に伴って電気抵抗が減少するNTC特性を有するため、より高い抵抗値まで使用可能である。しかしながら、使用に伴って酸化反応は徐々に粒子内部まで進行して、比抵抗値は増加する。そのため、導電性炭化珪素質多孔体の使用期間の長期化を主眼とする場合は、酸化処理工程における酸化の程度をある程度に留めておくことが望ましく、例えば、室温における比抵抗値の初期値が、酸化処理を行わない焼結体の室温における比抵抗値の4倍を超えない範囲とする。本実施例の試料と酸化処理を行わない以外は同一の方法で製造された焼結体の室温における比抵抗値は、平均値で約4Ω・cmであった。従って、導電性炭化珪素質多孔体の使用期間の長期化を主眼とする場合は、酸化処理後の焼結体の室温における比抵抗値を16Ω・cmを超えない範囲とするのが望ましい。そして、比抵抗値をこの範囲とするためには、酸化処理によって増加させる酸素濃度を3.4質量%を超えない範囲とし、酸化処理後の焼結体における酸素濃度を3.7質量%を超えない範囲とすればよいことを、図2(二点鎖線)から読み取ることができる。
【0053】
試料1〜4,7〜10,12について、三点曲げ強度を測定した結果を図5に示す。ここで、三点曲げ強度の測定には、上述の焼結体(サイズ35mm×35mm×高さ150mm、セル密度300cpsi、隔壁の壁厚0.25mmの成形体を2100℃,10分間焼成したもの)を、切断することなく一つの試験片として使用した。また、測定方法は、JIS R1601に準拠し、支点間距離10cm、クロスヘッドスピード1mm/minの条件下で、室温にて測定した。図5から分かるように、比抵抗値を制御する目的で酸素濃度を増加させることにより、三点曲げ強度が増加する効果を、付随的に得ることができる。
【0054】
次に、試料14(加熱温度1200℃,加熱時間40時間)について、走査型電子顕微鏡(日本電子株式会社製、JXA−840型)による観察(SEM観察)、及び、エネルギー分散型X線分析装置(日本電子株式会社製,JED−2200型)による元素分析(EDX分析)を行った結果を、酸化処理を行わない対照試料と対比して図6及び図7に示す。ここで、元素分析については、図6では酸素についての結果を、図7では珪素及び酸素についての結果を示す。
【0055】
試料表面のSEM観察像及びEDX画像を、試料14(図6(a))と対照試料(図6(b))とで比較すると、試料14では粒子の形状に一致して酸素が分布しているのが明らかであるのに対し、対照試料のEDX画像では酸素元素の分布は見られない。このことより、酸化処理工程を経ることによって、二酸化珪素層が生成していることが分かる。
【0056】
また、試料14の破断面について、SEM観察像及びEDX画像を図7に示す。図7より、破断面に表れる粒子の内部には酸素は存在せず、酸素は粒子の表面に沿ってのみ分布していることが明らかである。従って、酸化処理によって、二酸化珪素層は炭化珪素質粒子の表面に生成していることが確認された。
【0057】
以上のように、本実施形態の製造方法によれば、酸化処理工程で炭化珪素質粒子の表面に二酸化珪素層を形成することにより、酸素濃度に応じて比抵抗値が異なる種々の導電性炭化珪素質多孔体を製造することができる。また、酸化処理工程における加熱温度を900℃〜1300℃の範囲で、加熱時間を5時間から40時間の範囲で変化させることにより、室温における比抵抗値を5〜20Ω・cmという広い範囲で制御することが可能である。
【0058】
また、本実施形態の製造方法では、酸化処理を施す焼結体として、窒化珪素を窒素源として炭素源と反応焼結させた炭化珪素質焼結体を使用している。そのため、もともと導電性を付与するために添加剤を添加する必要がなく、加えて、酸化処理工程を付加することによって、添加剤によらずに比抵抗値を変化させることができる。これにより、導電性炭化珪素質多孔体の製造工程が、全体として極めて簡易である。
【0059】
以上、本発明について好適な実施形態を挙げて説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、以下に示すように、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計の変更が可能である。
【0060】
例えば、本発明の製造方法により製造される導電性炭化珪素質多孔体は、ディーゼルエンジンから排出されるガスを浄化する自己発熱型のDPFの基体として使用できる他、その他の内燃機関や蒸気タービン等で排ガスの浄化に使用される自己発熱型フィルタの基体、加熱により触媒を活性化させる触媒担体、或いは、ハニカム構造とした場合のセルまたは連続気孔中を流通する流体を加熱する加熱装置の基体として、使用することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0061】
【特許文献1】特許第3431670号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性を有する多孔質の炭化珪素質セラミックスの焼結体を、所定の加熱温度で所定の加熱時間にわたり酸化雰囲気下で加熱し、炭化珪素質粒子の表面に二酸化珪素層を形成させる酸化処理工程を具備し、
該酸化処理工程における加熱温度及び/または加熱時間を変化させることにより、比抵抗値の異なる導電性炭化珪素質多孔体を製造する
ことを特徴とする導電性炭化珪素質多孔体の製造方法。
【請求項2】
前記加熱温度は900℃〜1300℃で、前記加熱時間は5時間〜40時間であることを特徴とする請求項1に記載の導電性炭化珪素質多孔体の製造方法。
【請求項3】
前記焼結体は、
窒化珪素粉末と炭素質物質とからなり珪素と炭素のモル比が0.5〜1.5である炭化珪素生成原料、及び、骨材としての炭化珪素粉末を含む混合原料を成形する成形工程と、
該成形工程で得られた成形体を、1800〜2300℃の非酸化雰囲気下で焼成する焼成工程とを経て製造される
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の導電性炭化珪素質多孔体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−51748(P2012−51748A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−194674(P2010−194674)
【出願日】平成22年8月31日(2010.8.31)
【出願人】(000220767)東京窯業株式会社 (211)
【Fターム(参考)】