説明

導電性粉体とその製造方法

【課題】軽量で化学的安定性や耐熱性に優れ、安価に実施できるうえ、導電性などの物性を良好に発揮できるようにする。
【解決手段】 α−アルミナを主成分とする板状アルミナの粒子の表面に銀などの金属被膜を無電解メッキ法により形成する。基材となる板状アルミナ粒子は、水熱合成法により形成し、平均厚みが0.01〜1μm、平均粒子径が0.5〜50μmであり、厚みに対する粒子径の比率であるアスペクト比が5〜500である。この板状アルミナ粒子の粒度分布幅は、小径のものから順に累積した10%累積での粒子径と90%累積での粒子径との差を平均粒子径で除した値が2.0以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性粉体とその製造方法に関し、さらに詳しくは軽量で化学的安定性や耐熱性に優れ、安価に実施できるうえ、導電性などの物性を良好に発揮できる、導電性粉体とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に導電性粉体は、導電性塗料や導電性樹脂フィルム、導電性接着剤など、導電性を備えた各種の複合材料にフィラーとして使用される。すなわち、これらの複合材料には母材(マトリックス)中に導電性粉体が分散させてあり、これによりこの複合材料が導電性を発現している。
【0003】
上記の導電性粉体としては、一般に金や銀、ニッケル、アルミニウム、鉄合金などの、金属粒子が広く使用されている。特に近年は、電子機器類の小型化・軽量化に伴い、粒子間の接触頻度を高め充填量を低減できるフレーク状の金属が広範囲に使用されている。中でも銀フレークは優れた導電性を備えており、導電性粉体の主流を占めている。
【0004】
しかしながら、銀フレークは導電性に優れるものの、比重が大きいため、これをフィラーとして使用すると、複合材料の軽量化が容易でない問題がある。また、金属銀は高価であるうえ、これをフレーク状にするにはボールミル等による偏平化加工が必要であり、安価に実施できない問題がある。さらにこの偏平化加工では、粒子の厚みを均一にすることが容易でなく、従って、厚みに対する粒子径の比率であるアスペクト比が不均一になり易いうえ、粒度分布幅が広くなる。このため、この銀フレークなどの金属フレークを充填した複合材料は、導電性などの物性にバラツキを生じ易い問題がある。
【0005】
そこで従来、より軽量で安価であり、高いアスペクト比を備えた導電性粉体として、鱗片状ガラス粉体、即ちガラスフレークの表面にニッケル合金の被膜を形成したものが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
しかしこのガラスフレークからなる導電性粉体は、アルカリや酸に腐食され易く、化学的安定性に劣るうえ、耐熱性にも劣る問題がある。さらにこのガラスフレークは粒度分布幅が広いうえ、強度が低いため処理中などに割れ易く、粒度分布幅を狭くすることが容易でない。このため、アスペクト比が不均一となり易く、これを充填した複合材料は、上記の銀フレークの場合と同様、導電性などの物性にバラツキを生じ易い問題がある。
【0006】
【特許文献1】特開2002−30232号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の技術的課題は上記の問題点を解消し、軽量で化学的安定性や耐熱性に優れ、安価に実施できるうえ、導電性などの物性を良好に発揮できる導電性粉体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は上記の課題を解決するため、次のように構成したものである。
即ち、本発明1は導電性粉体に関し、板状アルミナの粒子の表面に金属被膜を形成したことを特徴とする。
【0009】
上記の板状アルミナの粒子は、表面の平滑性が優れており、均一な金属被膜を容易に形成することができる。ここで、この金属被膜は無電解メッキ法により形成でき、例えば金やニッケル、アルミニウム、鉄、銅、或いはこれらの合金の被膜であってもよいが、銀被膜にすると、特に導電性に優れるので好ましい。
【0010】
上記の板状アルミナの粒子は特定の粒子径等に限定されないが、平均厚みが0.01〜1μm、平均粒子径が0.5〜50μm、アスペクト比(厚みに対する粒子径の比率)が5〜500であると、粒子の形状が均一化されるので配向され易く、各種のマトリックス材料に好適に充填され、しかも優れた導電性など各種の物性を発揮できるので、好ましい。
【0011】
上記の板状アルミナの粒子は、粒度分布幅が狭いほど、これを充填した複合材料の物性が均一となるので好ましい。具体的には、小径のものから順に累積した際の10%累積での粒子径と90%累積での粒子径との差を、50%累積での粒子径(即ち平均粒子径)で除した値により、粉体の粒度分布幅を表示したとき、この値が2.0以下、好ましくは1.5以下、より好ましくは1.25以下であると、粒子の厚みや大きさが揃うので、これを充填した複合材料の強度を高くでき、導電性などの各種物性のバラツキを抑えることができる。この粒度分布幅の狭い板状アルミナ粒子は、例えば結晶制御剤を添加する水熱合成法により形成できる。
【0012】
上記の板状アルミナは、特定のアルミナに限定されないが、α−アルミナを主成分とすると、化学的に安定しており耐候性や耐熱性に優れるので、好ましい。
【0013】
また本発明2は導電性粉体の製造方法に関し、水熱合成法により、平均厚みが0.01〜1μm、平均粒子径が0.5〜50μm、厚みに対する粒子径の比率であるアスペクト比が5〜500の板状アルミナ粒子を形成し、この板状アルミナ粒子の表面に、無電解メッキ法で金属被膜を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明は上記のように構成されることから、次の効果を奏する。
【0015】
(1) 基材として板状アルミナの粒子を用いるので、従来のガラスフレークに比べて強度が高く、耐腐食性などの化学的安定性が優れるうえ、耐熱性に優れる。また、従来の銀フレーク等の金属粉体に比べて比重が小さく、これをフィラーとして充填した複合材料の重量を軽量にすることができる。
【0016】
(2) 粒子は板状であるので、接触面積が広く導電性等を良好に発揮できる。このため充填量を低減できるうえ、金属被膜は表面にのみ形成すればよく、高価な銀等の使用量を低減できるので、安価に実施することができる。
【0017】
(3) 板状アルミナは、例えば水熱合成法により、任意の粒度で狭い粒度分布幅に形成でき、厚みを薄くして高アスペクト比に揃えることができる。このため、マトリックス中で良好に配向して層状となり易く、導電性などの物性を良好に発揮できる。例えば塗料にフィラーとして充填した場合には、この導電性粉体が層状に配向することから、得られた塗料は導電性に優れるうえ、塗膜の劣化を良好に防止でき、液体の侵入や気体の透過を抑制して耐湿性や耐水性を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
最初に、本発明の板状アルミナ粒子は、例えば特開平6−316413号公報や特開平9−59018号公報に開示の、水熱合成法で製造される。この水熱合成法では、例えば水酸化アルミニウムに水酸化ナトリウム、ケイ酸ナトリウム、リン酸などが結晶制御剤として添加され、これにより肉厚が薄く、従って、アスペクト比(板状粒子の直径/厚み)の大きな粒子が形成され、また、合成条件を設定することで、任意の粒径で且つ粒度分布幅の狭い板状アルミナ粒子が得られる。
【0019】
次に、上記の水熱合成法により得られた板状アルミナ粒子を基材とし、この基材の表面に、無電解メッキ法により銀を析出させて被膜を形成する。即ち、銀イオンを錯イオン化させた溶液(銀メッキ液)に上記の板状アルミナ粒子を分散させ、これに還元液を添加することで、金属銀をこの板状アルミナ粒子の表面に析出させる。
上記の還元液は特定の種類に限定されないが、水にグルコースと酒石酸ナトリウムカリウムを添加したものを用いるとよい。
【0020】
上記の無電解メッキ法は、具体的には例えば次の手順で処理される。
(1)銀メッキ液の調製
硝酸銀をイオン交換水に溶解させて硝酸銀水溶液を調製し、この硝酸銀水溶液に水酸化ナトリウム水溶液を室温にて混合すると、茶褐色の錯体物が沈殿する。これにアンモニア水を、上記の沈殿物がなくなるまで添加していく。得られた銀メッキ液に、基材となる所定の粒度分布の板状アルミナ粒子を投入し、スターラー等により均一に分散撹拌する。
【0021】
(2)還元液の調製
約80℃程度のイオン交換水に、グルコースと酒石酸ナトリウムカリウムとを順次溶解したのち、室温にまで冷却する。
【0022】
(3)銀被膜の形成
上記の板状アルミナ粒子が均一分散した銀メッキ液に、上記の還元液を銀メッキ液と同等量添加する。これにより金属銀が析出するため、溶液の色が白色から黒色へと変化していく。このときの溶液温度は、銀の析出反応が効果的に進行するように、20〜50℃に設定され、より好ましくは25〜35℃に設定される。20℃未満では銀の析出反応が遅くなり、処理時間が長くなる。一方、50℃を越えると、析出反応が過剰に激しくなり、基材表面に均一な被膜を形成することが困難となる。
【0023】
上記の処理液が黒色となった時点からさらに5〜45分程度、好ましくは15〜30分程度撹拌を継続し、無電解メッキ処理を進行させる。この撹拌時間が5分より短いと充分な銀被膜を形成できない場合があり、また、撹拌時間を過剰に長くしても、それ以上の反応が生じず、銀被膜の形成が進まないのでその必要がない。
【0024】
上記の撹拌の終了後、減圧濾過等により固液分離し、得られた固形分をイオン交換水で洗浄して付着している不純物を充分に除去したのち、150℃にて乾燥する。これにより板状アルミナの粒子の表面に銀被膜を形成した導電性粉体が得られる。
【実施例】
【0025】
平均粒子径とアスペクト比の異なる板状アルミナ粒子を基材として、これに銀被膜を以下の手順で形成した。なお、用いた板状アルミナ粒子(キンセイマテック株式会社製)は次の通りである。
・実施例1と実施例4で用いた板状アルミナ粒子
10%累積での粒子径(D10)が5.0μm、90%累積での粒子径(D90)が15.0μm、平均粒子径(D50)が10.0μm、粒度分布幅が1.00、厚みが0.3μm、アスペクト比が33である。
・実施例2と実施例5で用いた板状アルミナ粒子
10%累積での粒子径(D10)が3.5μm、90%累積での粒子径(D90)が10.5μm、平均粒子径(D50)が7.0μm、粒度分布幅が1.00、厚みが0.1μm、アスペクト比が70である。
・実施例3と実施例6で用いた板状アルミナ粒子
10%累積での粒子径(D10)が1.5μm、90%累積での粒子径(D90)が4.0μm、平均粒子径(D50)が2.0μm、粒度分布幅が1.25、厚みが0.04μm、アスペクト比が50である。
【0026】
(1)銀メッキ液の調製
硝酸銀100g(関東化学株式会社製)をイオン交換水400gに溶解させて硝酸銀水溶液を得る。また、水酸化ナトリウム(関東化学株式会社製)10gをイオン交換水490gに溶解させて、0.5mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を調製する。上記の硝酸銀水溶液に上記の水酸化ナトリウム水溶液を添加すると、茶褐色の沈殿物が生成する。これに、アンモニア水(関東化学株式会社製)を500g添加し、得られた無色透明の銀アンモニア錯イオン溶液を銀メッキ液とする。
【0027】
(2)還元液の調製
酒石酸ナトリウムカリウム四水和物(関東化学株式会社製)15gを、約80〜90℃に加熱したイオン交換水1500gに溶解させる。次いで、D−グルコース150gを添加して完全に溶解させたのち、室温にまで冷却して還元液とする。
【0028】
(3)銀被膜の形成
上記の銀メッキ液をスターラーにより撹拌しながら、その中に基材を添加して均一な混合液とする。基材に対する銀メッキ液の比率は、実施例1〜3では5とし、実施例4〜6では15とした。次に、この混合液に上記の還元液を、銀メッキ液と同等量だけ加える。数秒後には銀アンモニア錯イオンが還元されて金属銀が析出するため、上記の混合液は黒褐色となる。そのまま20分撹拌を続けたのち、濾過して固形分を水洗し、150℃にて乾燥することにより、導電性粉体を得た。
【0029】
上記の導電性粉体は、外観が実施例1〜3では黄土〜山吹色に、実施例4〜6では暗灰色〜黒灰色となり、いずれも平均粒子径が大きいほど光輝感が認められた。また、走査型電子顕微鏡での観察により、各板状アルミナ粒子の表面に銀被膜が均一に形成されていることが確認された。さらにX線回折チャートを分析したところ、全ての粉体においてα−アルミナとともに銀の安定したピークが検出された。
【0030】
上記の各実施例で得た粉体のタップ密度は、0.68〜1.00g/cmであり、市販の銀フレークのタップ密度(2.0〜4.0g/cm)に比べて比重が大幅に小さいことがわかった。また、上記の処理で得られた導電性粉体の平均径と厚みとを測定した。これらの測定結果を図1の一覧表に示す。
【0031】
上記の測定結果から明らかなように、板状アルミナ粒子の表面に無電解メッキ法で銀被膜を形成した場合、平均粒子径やアスペクト比が異なっても、基材の表面に銀被膜が均一に形成されていた。このため、この導電性粉体をフィラーとして用いた複合材料は、従来の銀フレークと同様の導電性能を発揮することができた。また、上記の銀被膜を形成した導電性粉体は、粒度分布幅が狭く厚みが均一であり、従ってアスペクト比の揃った粒子であるため、配向性が極めて良好であり、比重が小さく、化学的安定性や耐熱性に優れることと相俟って、各種複合材料のフィラーとして有効に利用できた。
【0032】
上記の実施形態や実施例で説明した導電性粉体やその製造方法は、本発明の技術的思想を具体化するために例示したものであり、被膜を構成する金属の種類、被膜の形成方法、使用する薬品類、反応条件などは、これらの実施形態等に限定するものではなく、本発明の特許請求の範囲内において種々の変更を加え得るものであり、また、基材となる板状アルミナ粒子の粒度や厚み、アスペクト比なども、特定の数値範囲に限定されないことはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の導電性粉体は、軽量で耐食性に優れ、安価に実施できるうえ、導電性などの物性を良好に発揮できるので、導電性塗料や導電性樹脂フィルム、導電性接着剤など、導電性を備えた各種の複合材料にフィラーとして好適に使用される。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の各実施例で得られた導電性粉体の、処理条件と寸法等を示す、測定結果一覧表である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状アルミナの粒子の表面に金属被膜を形成したことを特徴とする、導電性粉体。
【請求項2】
上記の金属被膜を無電解メッキ法により形成した、請求項1に記載の導電性粉体。
【請求項3】
上記の金属被膜が銀被膜である、請求項1または請求項2に記載の導電性粉体。
【請求項4】
上記の板状アルミナ粒子の平均厚みが0.01〜1μm、平均粒子径が0.5〜50μmであり、厚みに対する粒子径の比率であるアスペクト比が5〜500である、請求項1から3のいずれか1項に記載の導電性粉体。
【請求項5】
上記の板状アルミナ粒子は、小径のものから順に累積した際の10%累積での粒子径と90%累積での粒子径との差を、50%累積での粒子径で除した値が2.0以下である、請求項1から4のいずれか1項に記載の導電性粉体。
【請求項6】
上記の板状アルミナを水熱合成法により形成した、請求項5に記載の導電性粉体。
【請求項7】
上記の板状アルミナが、α−アルミナを主成分とする、請求項1から6のいずれか1項に記載の導電性粉体。
【請求項8】
水熱合成法により、平均厚みが0.01〜1μm、平均粒子径が0.5〜50μm、厚みに対する粒子径の比率であるアスペクト比が5〜500の板状アルミナ粒子を形成し、この板状アルミナ粒子の表面に、無電解メッキ法で金属被膜を形成することを特徴とする、導電性粉体の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−331703(P2006−331703A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−150347(P2005−150347)
【出願日】平成17年5月24日(2005.5.24)
【出願人】(591136193)キンセイマテック株式会社 (6)
【Fターム(参考)】