説明

導電性複合繊維

【課題】導電性複合繊維を混用した構造物の意匠性を損なわず制電性能を向上させること。
【解決手段】導電糸混繊維構造物の導電糸に導電性無機粒子を35〜80重量%およびリチウム塩を0.05〜1重量%含有した導電層と、繊維形成性ポリマーからなる保護層とが接合されてなる導電性複合繊維。より好ましくは、導電層が導電性無機粒子を40〜80重量%とリチウム塩を0.08〜0.8重量%含有し、かつ導電性複合繊維の比抵抗が10Ω・cm未満である導電性複合繊維。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は意匠性を重視するユニフォーム、作業着、カーペット等に混用して使用する導電性複合繊維に関するものである。
【背景技術】
【0002】
カーボンブラックなどの導電粒子を混合したポリマーからなる導電層と繊維形成性ポリマーからなる保護層(非導電層)が接合されてなる導電性複合繊維は周知であり、帯電性の繊維構造体に混用して摩擦により帯電した電荷を導電性複合繊維のコロナ放電により、空気中に放電することで制電性能を発揮させる目的に使用される。
【0003】
しかしながらカーボンブラックを含有する繊維は、灰色もしくは黒く着色してしまう。機能性を重視する防塵衣であれば制電性能重視であり、繊維構造体の中に黒い導電性繊維が混用され、黒い筋が入っても特に問題にはしない。しかしながら、ユニフォーム、作業着、カーペット等意匠性を重んじる用途では導電糸もベースの非導電性繊維と同様に染色前では白色に近いものが必要であり、染色加工を施した後に、導電性繊維の混用を目立たなくすることが必要である。
【0004】
このために導電粒子に、カーボンブラックではなく、着色の少ないあるいは白度の高い導電性粒子例えば金属粒子、金属酸化物のような導電性無機粒子あるいは導電性金属酸化物で被覆された金属粒子を使用している。例えば特開昭57−11213号公報には導電性粒子として、導電性錫を使用している導電糸が記載してある。このような金属粒子は一般に密度が高く導電層に用いて性能を発揮するには多くの含有量が必要であると共に糸状で延伸すると著しく性能が低下し、本導電糸を使用した繊維製品の制電性能が悪くなるという欠点がある。
【0005】
【特許文献1】特開昭57−11213号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、導電性複合繊維を混用した繊維構造物の意匠性を損なわず制電性能を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は導電糸混繊維構造物の導電糸に導電性無機粒子を35〜80重量%およびリチウム塩を0.05〜1重量%含有した導電層と、繊維形成性ポリマーからなる保護層とが接合されてなる導電性複合繊維である。
【発明の効果】
【0008】
本発明品を繊維構造物に使用することにより、意匠性が損なわれずかつ制電性能が高く優れた繊維構造物とすることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の導電性無機粒子とは、金属粒子、導電性金属酸化物粒子、導電性金属酸化物粒子及び表面に金属または金属酸化物の導電性皮膜またはそれに類似する構造を有する無機物粒子など言う。
【0010】
金属粒子としては、金、銀、白金、アルミニウム、亜鉛、銅、ニッケル、クロム及びそれらの合金(例えば黄銅、洋銀、ステンレス鋼等)などの粒子及び、酸化防止等の安定性向上の為にそれらの表面に薄い酸化皮膜形成したものが挙げられる。
【0011】
金属酸化物粒子としては、酸化チタン、酸化錫、酸化亜鉛、酸化銅、亜酸化銅、酸化インジウム、酸化ジルコニウム、酸化タングステン、などの粒子が上げられる。金属酸化物の多くは、絶縁体に近い半導体であって、これら金属酸化物に適当な第2成分を少量(50%以下、特に25%以下)添加するなどの方法により、導電性を有することが出来る。このような導電性強化剤(ドーピング剤)としては、酸化錫に対して酸化アンチモンが、酸化亜鉛に対してアルミニウム、カリウム、インジウム、ゲルマニウム、錫などが知られている。
【0012】
リチウム塩としては、リチウムビスイミド、リチウムトリスメタンなどがあげられる。
【0013】
リチウム塩の含有方法は、一例としてエステル、ポリオール等に溶解し、導電性無機粒子をポリマーに2軸混練機などで含有する時点で、混練リチウム塩濃度が0.05〜1重量%好ましくは0.08〜0.8重量%となるように含有する方法があげられる。本発明品を織物の経糸に織り込んだ繊維製品はリチウム塩がイオン化し、リチウムイオンの伝導機構で、制電性能が発揮するので、無機粒子の制電性能との相乗効果で制電性能を良好にすることが出来る。
【0014】
導電層の導電性無機粒子の含有量が35重量%未満であると、導電繊維の導電性能が不足し、繊維構造体に使用して制電性能を良好にすることは出来ない。導電性粒子が85重量%を超えると、チップの流動性が著しく劣り、糸にならない。
【0015】
導電層のリチウム塩の含有量が0.05重量%未満であると、繊維構造体に使用して制電性能を良好にすることは出来ない。導電層のリチウム塩の含有量が1重量%を超えると、紡糸時導電性ポリマーよりリチウム塩の溶出の為導電糸にならない。
【0016】
導電性複合繊維の保護層に用いる繊維形成性ポリマーとしては、ポリエステル、ポリアミドが考えられるがポリアミドが好ましい。
ポリアミドとしては、6ナイロン、66ナイロン、11ナイロン、12ナイロン及びそれらの共重合体が用いられる。
【0017】
導電層のマトリックスポリマーと保護層のポリマーの組み合わせは、特に指定はしないが、剥離の問題より同種のポリマーが望ましい。導電性複合繊維の断面形状は、複合紡糸可能なる形状であれば特に規定はしないが、繊維構造体に混用して制電性能をより良好にするためにはコロナ放電がしやすい導電層の一部が表面に露出している断面形状であることが好ましい。
【0018】
導電層と保護層の比率は溶融紡糸を阻害しない比率であれば良いが、紡糸のし易さから、導電層と保護層の比率が面積比率で導電:保護=1:55〜2:1が好ましく、更に導電:保護=1:50〜1:1が好ましい。
【0019】
本発明は導電性無機粒子を35〜85重量%およびリチウム塩を0.05〜1重量%含有した導電層と、繊維形成性ポリマーからなる保護層とが接合されてなる導電性複合繊維である。紡糸操業性を考慮すると、導電層が導電性無機粒子を40〜80重量%とリチウム塩を0.08〜0.8重量%含有することが望ましく、かつ、繊維構造体への本発明の導電性複合繊維の混用率と制電性能の発現性を考慮すると、比抵抗が10Ω・cm未満であることが好ましい。
【0020】
導電性無機粒子とリチウム塩を含有したポリマーと、繊維形成性ポリマーを各々溶融して、例えば図1に示す断面形状となるような複合紡糸口金より吐出する。
吐出した複合導電糸を冷風にて冷却した後、油剤を付与して公知の巻き取り機にて巻き取りマルチフィラメントの未延伸糸を得る。巻き取り速度は導電層、保護層の組み合わせ、比率に適正なスピードであれば良いが、糸質、及び巻き取り易さなどより、600m/min〜1200m/minが望ましい。
得られた未延伸糸を、70℃〜120℃の熱をかけながら延伸をして、延伸糸を得る。
【0021】
得られた延伸糸を例えば、本発明品の混率を1%となるようにBCFと混用して、カーペットを得る。得られたカーペットは後加工を施すが、本発明の導電性複合繊維は目立たず、かつ優れた制電効果を発揮する。
【実施例】
【0022】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明する。なお、実施例における比抵抗は、フィラメントを12cmの長さにカットし、両端1cmに導電ペーストを塗布しアルミ箔を電極として測定して(式1)にて計算した値を用いる。
ρ=R・S/L・・・(式1)
ρ:比抵抗 R:複合繊維の抵抗測定値 S:複合繊維中の導電層の総断面積 L:抵抗測定をした複合繊維の長さ
抵抗測定機は、ヒューレットパッカード製ハイレジスタンスメーター4339Bを使用した。
【0023】
摩擦帯電圧は、筒編に7mmピッチで導電糸を2本入れた筒編みを精練染色して自然乾燥した後JIS L1094の摩擦帯電圧減衰法にて測定し直後の値と60秒後の値を記載した。
【0024】
意匠性は、筒編に7mmピッチで導電糸を2本入れた筒編みを精練してポリアミド用ブルー系の染料1%owfにて染色して自然乾燥したものを目視判断し意匠性を損なわなければ(導電性複合繊維が目立たなければ)○、損なえば(導電性複合繊維が目立てば)×とした。
【0025】
(実施例1)
酸化チタン粒子の表面に酸化アンチモンで活性化した酸化錫の皮膜を形成した導電性粒子を6ナイロンに65wt%とアジピン酸系特殊エステルを溶媒としたリチウム塩(サンコノール0862−20R:三光化学工業株式会社製)を0.18重量%添加し、2軸混練機にて270℃にて溶解しながら混練して押し出し、水冷しながら、カットし、導電性ペレットを得た。
【0026】
導電性ぺレットと酸化チタンを含む6ナイロンをそれぞれ270℃で溶融させ、図1に示す断面形状で導電層と保護層の比率1:7となるような吐出量で紡糸口金内を通し、直径φ0.25mmのオリフィスより紡出し、エアーにより冷却し、油剤付与後800m/minの速度で巻き取り、44dtexの未延伸糸を得た。更に未延伸糸を100℃のローラーヒーター上にて2倍に延伸し、更に130℃の熱板に接触させた後巻き取り延伸糸を得た。延伸糸を非導電の77dtexの6ナイロンセミダル糸筒編みの中に7mmピッチで編みこみ評価用筒編みを作製した。評価用筒編みはスコアロールと炭酸ソーダをそれぞれ2g/Lの溶液に漬け込み70℃に昇温して20分間漬け込みその後流水すすぎをして乾燥した。その後通常ポリアミド染色法にてナイロサンブルーFL1%owfの濃度にて染色し評価した。評価結果を表1に示す。
【0027】
(実施例2)
導電層と保護層の比率1:7の断面形状図2となるようにした以外は実施例1と同様にして導電性複合繊維を得た。評価サンプルを実施例1と同様にして作り評価した。評価結果を表1に示す。
【0028】
(比較例1)
酸化チタン粒子の表面に酸化アンチモンで活性化した酸化錫の皮膜を形成した導電性粒子の含有量を30重量%にした以外は実施例1と同様にして導電性複合繊維を得た。評価サンプルを実施例1と同様にして作り評価した。評価結果を表1に示す。
【0029】
(比較例2)
酸化チタン粒子の表面に酸化アンチモンで活性化した酸化錫の皮膜を形成した導電性粒子の含有量を90重量%にした以外は実施例1と同様にしたが導電層の流動性が低く導電性複合繊維を得ることが出来なかった。
【0030】
(比較例3)
リチウム塩の含有量を0.02重量%とした以外は実施例1と同様にして導電性複合繊維を得た。評価結果を表1に示す。
【0031】
(比較例4)
リチウム塩の含有量を2重量%にした以外は実施例1と同様にしたが、リチウム塩のブリードアウトが起こり、導電性複合繊維を得ることが出来なかった。
【0032】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0033】
本開発品は制電性能が必要なる化学工業、化学ユニフォーム、作業着、カーペット等に使用して制電性能を良好にすることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の導電性複合繊維の断面形状の一例。
【図2】本発明の導電性複合繊維の断面形状の一例。
【図3】本発明の導電性複合繊維の断面形状の一例。
【図4】本発明の導電性複合繊維の断面形状の一例。
【図5】本発明の導電性複合繊維の断面形状の一例。
【符号の説明】
【0035】
1:導電層
2:保護層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性無機粒子を35〜85重量%およびリチウム塩を0.05〜1重量%含有した導電層と、繊維形成性ポリマーからなる保護層とが接合されてなる導電性複合繊維。
【請求項2】
少なくとも導電層の一部が表面に露出しているように複合されてなる請求項1記載の導電性複合繊維。
【請求項3】
導電層と保護層の比率が面積比率で導電:保護=1:55〜2:1である請求項1記載の導電性複合繊維。
【請求項4】
導電性無機粒子が金属又は金属酸化物である、請求項1記載の導電性複合繊維。
【請求項5】
導電層が導電性無機粒子を40〜80重量%とリチウム塩を0.08〜0.8重量%含有し、かつ導電性複合繊維の比抵抗が10Ω・cm未満である請求項1記載の導電性複合繊維。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2006−316373(P2006−316373A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−139364(P2005−139364)
【出願日】平成17年5月12日(2005.5.12)
【出願人】(305037123)KBセーレン株式会社 (97)
【Fターム(参考)】