説明

導電性酸化物微粒子分散液と透明導電膜形成用塗布液、及び透明導電膜

【課題】液晶など各種表示デバイス等の透明導電膜を塗布法、特にインクジェット印刷で形成する際に用いることができる導電性酸化物微粒子が安定して分散した導電性酸化物微粒子分散液及び、これにバインダーを添加して得られる透明導電膜形成用塗布液、及びこれを塗布、乾燥、必要に応じ硬化して得られる透明導電膜を提供する。
【解決手段】ハロゲン元素で表面修飾された平均粒径1〜500nmの導電性酸化物微粒子(A)が、有機溶剤(B)に分散した導電性酸化物微粒子分散液であって、有機溶剤(B)が沸点230℃以上で、かつ、表面張力が40dyn/cm以下の5員環ケトン化合物を主成分とし、しかも、導電性酸化物微粒子100重量部に対し2重量部以下の分散剤(C)を含有していることを特徴とする導電性酸化物微粒子分散液などにより提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性酸化物微粒子分散液と透明導電膜形成用塗布液、及び透明導電膜に関し、より詳しくは、液晶や電子ペーパーなど各種表示デバイス等の透明導電膜を塗布法、特にインクジェット印刷法で形成する際に用いることができる、導電性酸化物微粒子が安定して分散した導電性酸化物微粒子分散液及び、これにバインダーを添加して得られる透明導電膜形成用塗布液、及びこれを塗布、乾燥、必要に応じ硬化して得られる透明導電膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、LCDなどの各種表示デバイス等の透明電極には、スパッタリングやイオンプレーティング等に代表される物理的成膜法を用いて形成されるインジウム−錫酸化物(ITO)の透明導電膜が用いられてきた。その中でも、スパッタリング法で得られる透明導電膜(以下、スパッタリングITO膜と略称する)が最も広く用いられている。
しかし、近年のディスプレイの大型化に伴い、スパッタリングITO膜の作製にかかる設備投資コストの増大や、省資源という観点からみたITO膜材料の利用効率の低さ等が問題になっている。即ち、大面積の基材上にスパッタリングITO膜を形成するためには、大空間を高真空にするための大掛かりな設備投資が必要である。また、ITOスパッタリングではターゲット材の2割程度しか実際の透明導電膜に利用されず、7割程度はスクラップとしてインジウムの回収に回されているのが実情である。
【0003】
そこで、高価な設備を必要としない塗布法を用いて、透明導電膜を形成する研究が行われている。塗布法とは、酸化インジウム、酸化錫、酸化亜鉛等を主成分とする導電性酸化物微粒子(透明導電フィラー)と樹脂バインダーを含有する塗布液(透明導電膜形成用塗布液)を基材上に塗布し、乾燥、硬化の過程を経て、透明導電膜を形成するものである。真空を必要としないため、スパッタリングITO膜を作製する場合と比較して、設備投資コストが大幅に抑えられる利点がある。また、必要な部分にだけ塗布液を塗布(印刷)すれば良いため、塗布法は透明導電材料の利用効率も高く、材料が節約できる省資源な方法でもある。
上記塗布液(透明導電膜形成用塗布液)においては、一般に、導電性酸化物微粒子の粒子径を小さくしていくと、粒子間の凝集力が増大して、微粒子同士が凝集し易くなる。透明導電膜形成用塗布液において、導電性酸化物微粒子の凝集が生じると、得られる透明導電膜のヘイズが悪化して透明性が低下し、膜の均一性が悪化して膜強度や膜抵抗が悪化するなどの問題を生じる。従って、透明導電膜形成用塗布液には、透明性や膜強度に優れた塗膜を形成するために導電性酸化物微粒子が十分な分散性を有することが求められる。また、透明導電膜形成用塗布液は、長期間にわたって容易に保存できるように、その導電性酸化物微粒子の分散安定性を長期間維持することが求められている。
【0004】
上記導電性酸化物微粒子の凝集防止(分散安定化)には、高分子ポリマーや界面活性剤等の分散剤を透明導電膜形成用塗布液に適用する方法が一般に用いられている。ここで、分散剤は、凝集する微粒子間に浸透しながら微粒子表面に吸着し、分散処理の過程で凝集状態をほぐしながら溶剤中への均一分散化を可能とする(特許文献1、2参照)。特許文献1では、分散剤として、キレート配位子がアルミニウムに配位したアルミニウム錯体を使用している。また、特許文献2では、分散剤として、分子構造内に親水基としてリン酸エステル基を有するアニオン系界面活性剤を使用している。
しかしながら、微粒子が小さくなるとその表面積が増大するため、十分に安定化させるためには大量の分散剤が必要になる。また、透明導電膜形成用塗布液に大量の分散剤を配合すると、当該塗布液を用いて形成した塗膜にも分散剤が多量に存在して導電性酸化物微粒子の表面を覆い、導電性酸化物微粒子同士の接触が阻害されるため、導電性が悪化するという問題があった。
【0005】
そこで、本出願人は、分散安定性に優れた塗布液(透明導電膜形成用塗布液)を得る方法として、例えば、ハロゲン元素で表面修飾された平均粒径1〜500nmの導電性酸化物微粒子を、分散剤を用いずにシクロペンタノン、シクロヘキサノン、2−(1−シクロヘキシニル)シクロヘキサノン、2−シクロヘキシルシクロヘキサノン、シクロヘプタノン、シクロオクタノン、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、γ−カプロラクトン、またはイソホロンから選ばれる少なくとも一種の環状ケトン化合物からなる有機溶剤に分散させた導電性酸化物微粒子分散液を提案した(特許文献3参照)。
【0006】
ところで、塗布法には、インクジェット印刷、スクリーン印刷、スピンコート、ロールコート、グラビア印刷、オフセット印刷などがあるが、インクジェット印刷法を用いると、直接描画でパターン印刷できるという利点がある。しかし、透明導電膜形成用塗布液における導電性酸化物微粒子の分散安定性に加えて、吐出安定性(液滴の飛行安定性、初期吐出及び間歇吐出でのノズル詰まり抑制)が必要となる。
特許文献3のような導電性酸化物微粒子分散液を用いることで、分散安定性を長期間維持することができ、透明導電膜形成用塗布液を長期間にわたって容易に保存できるようになった。しかし、塗布液(透明導電膜形成用塗布液)は、用いる有機溶剤の沸点が低く揮発しやすいため、インクジェット印刷において、次第にノズル詰まりを生じるという問題があった。
【0007】
このような状況下、インクジェット印刷において、ノズル詰まりを生じることがなく、分散安定性とインクジェット印刷性を両立できる透明導電膜形成用塗布液が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平5−120921公報
【特許文献2】特開2006−73300号公報
【特許文献3】特開2008−34345号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、このような従来技術の問題点に鑑み、液晶や電子ペーパーなど各種表示デバイス等の透明導電膜をインクジェット印刷法などの塗布法で形成する際に用いられる、導電性酸化物微粒子が安定して分散した導電性酸化物微粒子分散液及び、これにバインダーを添加して得られる透明導電膜形成用塗布液、及びこれを塗布、乾燥、必要に応じ硬化して得られる透明導電膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、導電性酸化物微粒子を含有する透明導電膜形成用塗布液を用いて透明導電膜を形成する際に、表面をハロゲン修飾した導電性酸化物微粒子に対して配合する有機溶剤の種類を変え、塗布液を種々調製した結果、特定の5員環ケトン化合物を主成分とする有機溶剤を用いると、塗布液への分散剤の添加量が極めて少量であっても、導電性酸化物微粒子を安定的に分散することができ、かつ、インクジェット印刷法を用いた場合に、優れた吐出安定性が確保でき、安定して透明導電膜が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、ハロゲン元素で表面修飾された平均粒径1〜500nmの導電性酸化物微粒子(A)が、有機溶剤(B)に分散した導電性酸化物微粒子分散液であって、有機溶剤(B)が沸点230℃以上で、かつ、表面張力が40dyn/cm以下の5員環ケトン化合物を主成分とし、しかも、導電性酸化物微粒子100重量部に対し2重量部以下の分散剤(C)を含有していることを特徴とする導電性酸化物微粒子分散液が提供される。
【0012】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、導電性酸化物微粒子(A)が、酸化インジウム、酸化錫、酸化亜鉛の群から選ばれる少なくとも一種の金属酸化物を主成分として含有する微粒子であることを特徴とする導電性酸化物微粒子分散液が提供される。
また、本発明の第3の発明によれば、第1の発明において、導電性酸化物微粒子(A)が、錫がドープされた酸化インジウムを主成分として含有する金属酸化物微粒子であることを特徴とする導電性酸化物微粒子分散液が提供される。
また、本発明の第4の発明によれば、第1の発明において、ハロゲン元素が塩素であることを特徴とする導電性酸化物微粒子分散液が提供される。
また、本発明の第5の発明によれば、第1の発明において、有機溶剤(B)が、2−ヘキシルシクロペンタノン、2−ヘプチルシクロペンタノン、2−シクロペンチルシクロペンタノンの群から選ばれる少なくとも一種の5員環ケトン化合物であることを特徴とする導電性酸化物微粒子分散液が提供される。
また、本発明の第6の発明によれば、第1または5の発明において、5員環ケトン化合物の含有量が、有機溶剤(B)全体に対して50質量%以上であることを特徴とする導電性酸化物微粒子分散液が提供される。
さらに、本発明の第7の発明によれば、第1の発明において、有機溶剤(B)の含有量が、分散液全体に対して50〜95質量%であることを特徴とする導電性酸化物微粒子分散液が提供される。
さらに、本発明の第8の発明によれば、第1の発明において、分散剤(C)が、リン酸エステル系化合物であることを特徴とする導電性酸化物微粒子分散液が提供される。
【0013】
一方、本発明の第9の発明によれば、第1〜8のいずれかの発明に係り、導電性酸化物微粒子分散液が、更にバインダー成分(D)を含有することを特徴とする透明導電膜形成用塗布液が提供される。
さらに、本発明の第10の発明によれば、第9の発明において、バインダー成分(D)が、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、常温硬化性樹脂、紫外線硬化性樹脂、電子線硬化性樹脂等の群から選ばれるいずれかの有機樹脂であることを特徴とする透明導電膜形成用塗布液が提供される。
【0014】
また、本発明の第11の発明によれば、第1〜8のいずれかの発明に係り、導電性酸化物微粒子分散液をプラスチック製基材またはセラミック製基材上に塗布し、乾燥して得られる透明導電膜が提供される。
さらに、本発明の第12の発明によれば、第11の発明において、導電性酸化物微粒子分散液が、インクジェット印刷で塗布されることを特徴とする透明導電膜が提供される。
また、本発明の第13の発明によれば、第9または10の発明に係り、透明導電膜形成用塗布液をプラスチック製基材またはセラミック製基材上に塗布し、乾燥した後に、硬化処理が施されて得られる透明導電膜が提供される。
さらに、本発明の第14の発明によれば、第13の発明において、透明導電膜形成用塗布液が、インクジェット印刷で塗布されることを特徴とする透明導電膜が提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、簡単且つ安価な塗布法、特にインクジェット印刷法によって、透明導電膜を形成可能な透明導電膜形成用塗布液、その調製に用いられる導電性酸化物微粒子分散液を提供することができる。
また、本発明の透明導電膜形成用塗布液を用いインクジェット印刷法により形成される透明導電膜は、直接描画により任意の形状に成膜することができるので、本発明の透明導電膜は、液晶ディスプレイ、電子ペーパー等の各種表示デバイス、タッチパネル等の透明電極等として好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
1.導電性酸化物微粒子分散液
本発明の導電性酸化物微粒子分散液は、ハロゲン元素で表面修飾された平均粒径1〜500nmの導電性酸化物微粒子(A)が、有機溶剤(B)に分散した導電性酸化物微粒子分散液であって、有機溶剤(B)が沸点230℃以上で、かつ、表面張力が40dyn/cm以下の5員環ケトン化合物を主成分とし、しかも、導電性酸化物微粒子100重量部に対し2重量部以下の分散剤(C)を含有していることを特徴とする。
すなわち、本発明は、表面がハロゲン元素で修飾された導電性酸化物微粒子に対して、2−ヘキシルシクロペンタノン、2−ヘプチルシクロペンタノン、2−シクロペンチルシクロペンタノンなど特定の5員環ケトン化合物を主成分とする有機溶剤を用いると、分散剤の量が極めて少なくても、導電性酸化物微粒子が良好に分散すること、上記有機溶剤が高沸点を有するためインクジェット印刷装置のノズル内で揮発しにくくノズル詰まりを抑制でき、しかも、有機溶剤の表面張力が比較的低いため、ノズルから吐出されやすくなることをベースにしている。
【0017】
(A)導電性酸化物微粒子
本発明において、導電性酸化物微粒子は、酸化インジウム、酸化錫、および酸化亜鉛の群から選ばれる少なくとも一種の金属酸化物を主成分として含有するものである。
すなわち、導電性酸化物微粒子としては、酸化インジウム、酸化錫、および酸化亜鉛の群から選ばれる少なくとも一種以上を主成分とする導電性酸化物微粒子であって、例えば、インジウム−錫酸化物(ITO)微粒子、インジウム亜鉛酸化物(IZO)微粒子、インジウム−タングステン酸化物(IWO)微粒子、インジウム−チタン酸化物(ITiO)微粒子、インジウムジルコニウム酸化物微粒子、錫アンチモン酸化物(ATO)微粒子、フッ素錫酸化物(FTO)微粒子、アルミニウム亜鉛酸化物(AZO)微粒子、ガリウム亜鉛酸化物(GZO)微粒子等が挙げられるが、透明性と導電性を具備していれば良く、これらに限定されない。
但し、中でも錫がドープされた酸化インジウムを主成分として含有するITOが、高い可視光線透過率と優れた導電性を両立できる点で最も高特性であり、好ましい。
【0018】
導電性酸化物微粒子の平均粒径は、1〜500nmが好ましく、5〜100nmがより好ましく、10〜80nmが更に好ましい。平均粒径が1nm未満では導電性酸化物微粒子分散液や透明導電膜形成用塗布液の製造が困難となり、また得られる透明導電膜の抵抗値が高くなり、一方、500nmを超えると、導電性酸化物微粒子分散液や透明導電膜形成用塗布液中で導電性酸化物微粒子が沈降し易く取扱いが容易でなくなると同時に、透明導電膜において高透過率と低抵抗値を同時に達成することが困難になるからである。
また、5〜100nmが更に好ましいのは、透明導電膜の特性(透過率、抵抗値)と導電性酸化物微粒子分散液や透明導電膜形成用塗布液の安定性(導電性酸化物微粒子の沈降)等をバランスよく兼ね備えることが可能となるからである。
導電性酸化物微粒子分散液や透明導電膜形成用塗布液中に含まれる上記導電性酸化物微粒子の形状としては、球状や粒状が一般的であり、それら球状、粒状が緻密に充填して得られる透明導電膜は、可視光線の散乱が少なく透明性に優れるという利点があり好ましい。一方、本発明においては、上記球状、粒状の導電性酸化物微粒子に加えて、繊維状(針状、棒状、ウィスカーも含む)や板状のものを用いることも可能である。
【0019】
これら繊維状や板状の導電性酸化物微粒子を用いて得られる透明導電膜は、透明導電膜形成用塗布液においてバインダー成分が多く含有されていても導電性酸化物微粒子間の接触が確保されやすく、したがって膜強度と導電性の両立を図りやすい利点がある。ただし、上記繊維状や板状の導電性酸化物微粒子は、緻密に充填した膜構造を形成し難いため、微粒子とバインダーマトリックスの界面で可視光線を散乱しやすく、ヘイズ値(曇り度合いを示す)が高い透光性導電膜になりやすい傾向がある。透明導電膜の用途によっては、例えば分散型エレクトロルミネッセンス素子の透明電極のように、可視光線の吸収のない透光性導電膜が求められるデバイスもあるため、導電性酸化物微粒子の形状は、その用途に応じ、適宜選択すればよい。
尚、本発明において、上記導電性酸化物微粒子の粒径は、球状や粒状の微粒子についてはその直径を示し、繊維状や板状の微粒子については、それぞれ、太さ、厚さを示す。
【0020】
また、導電性酸化物微粒子の表面は、ハロゲン元素で表面修飾されていることが重要である。ハロゲン元素には、フッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)等が挙げられ、中でも、取扱いが最も容易であり好適に使用できるという理由から、特に塩素で修飾されていることが好ましい。
導電性酸化物微粒子の表面がハロゲン元素で修飾されていない場合、導電性酸化物微粒子分散液や透明導電膜形成用塗布液において所望の分散性を得ることが難しく、得られる透明導電膜の導電性と透明性が低下しやすい。
ハロゲン元素による修飾方法については、導電性酸化物微粒子の表面にハロゲン元素を導入できれば、特に限定されるものではない。また、ハロゲン元素による表面修飾は、微粒子の製造工程において同時に行ってもよく、本発明の目的を害さない範囲で微粒子の製造後に行ってもよい。すなわち、微粒子の製造原料として、塩化インジウム、塩化錫、塩化亜鉛などのハロゲン化合物を使用したり、微粒子の製造後に上記塩化インジウム、塩化錫、塩化亜鉛などで表面処理したりして表面を修飾することができる。
あるいは、導電性酸化物微粒子表面を直接ハロゲン元素で修飾する代わりに、導電性酸化物微粒子分散液や透明導電膜形成用塗布液の製造工程において、分散液や塗布液中に、ハロゲン化合物(例えば上記塩化インジウム、塩化錫、塩化亜鉛など)を添加することで、導電性酸化物微粒子表面をハロゲン元素で修飾することも可能である(いわゆる「インテグラルブレンド法」)。
ここで、導電性酸化物微粒子を修飾するハロゲン元素の量としては、導電性酸化物微粒子の比表面積(粒子径)にもよるが、たとえば粒子径30nm程度であれば、導電性酸化物微粒子1モルに対して、0.005〜0.04モル、好ましくは0.01〜0.03モルとすると良い。0.005モル未満であるか、0.04モルを超える場合は、良好な分散を得ることができず、場合によってはゲル化してしまい、導電性酸化物微粒子分散液や透明導電膜形成用塗布液を得ることができなくなる。また、仮に透明導電膜形成用塗布液が得られたとしても、形成される塗膜はヘイズの高い不透明な膜となってしまう。
尚、上述したように、導電性酸化物微粒子の修飾に必要なハロゲン元素の量は導電性酸化物微粒子の比表面積に依存し、例えば、平均粒子径が2倍になれば、比表面積は1/2倍になるため、必要なハロゲン元素の量も上記の1/2倍となる。
【0021】
(B)有機溶剤
本発明において、有機溶剤は、導電性酸化物微粒子を分散させる溶媒であり、5員環ケトン化合物を主成分とするものを使用する。5員環ケトン化合物の沸点は、220〜280℃が好ましく、表面張力は、40dyn/cm[25℃]以下、より好ましくは36dyn/cm[25℃]以下である。沸点が220℃未満では、導電性酸化物微粒子分散液や透明導電膜形成用塗布液の乾燥速度が高くなるため、インクジェット印刷において液滴吐出ノズル内でノズル詰まりが発生しやすくなるという問題があり、280℃を超えるとインクジェット印刷後の塗布膜の乾燥速度が著しく低下するという点で好ましくない。また、表面張力が40dyn/cm[25℃]を超えると、導電性酸化物微粒子分散液や透明導電膜形成用塗布液のインクジェット印刷において、吐出ノズルからの液滴の吐出が困難になってくる点で好ましくない。液滴の吐出という観点からは、表面張力は低い方がより好ましい。
【0022】
具体的には、[化1]で示される2−ヘキシルシクロペンタノン[別名:2−ヘキシルシクロペンタンオン、2−ヘキシル−1−シクロペンタノン;CAS番号:13074−65−2](沸点246℃、表面張力32dyn/cm[25℃])、[化2]で示される2−ヘプチルシクロペンタノン[別名:2−ヘプチルシクロペンタンオン、2−ヘプチル−1−シクロペンタノン;CAS番号:137−03−1] (沸点264℃、表面張力36dyn/cm[25℃])、および[化3]で示される2−シクロペンチルシクロペンタノン[別名:2−シクロペンチルシクロペンタン−1−オン、1,1’−ビシクロペンタン−2−オン;CAS番号:4884−24−6](沸点233℃、表面張力36dyn/cm[25℃])の群から選ばれる少なくとも一種の5員環ケトン化合物である。
【0023】
【化1】

【0024】
【化2】

【0025】
【化3】

【0026】
このような5員環ケトン化合物が導電性酸化物微粒子を安定的に分散させる理由は定かではないが、その環状ケトン構造が、ハロゲン元素で修飾された導電性酸化物微粒子の表面と親和性を有するため、上記有機溶剤に極めて良好な分散性を示すものと考えられる。
本発明の導電性酸化物微粒子分散液には、成膜性を改善する等の目的で、2−ヘキシルシクロペンタノン、2−ヘプチルシクロペンタノン、2−シクロペンチルシクロペンタノンに加え、分散を悪化させない範囲で各種溶剤を少量添加することもできる。5員環ケトン化合物の含有量は、有機溶剤(B)全体に対して50%以上であることが望ましい。50%未満であると、分散性が悪化する場合がある。
【0027】
上記目的のために環状ケトン化合物と併用できる有機溶剤としては、環状ケトン化合物以外のアルコール系溶剤、ケトン系溶剤、エステル系溶剤、グリコール系溶剤、グリコール誘導体、ベンゼン誘導体などを挙げることができる。塗布液の粘度を低下させたり、塗布性を改善させたりするために、透明導電膜形成用塗布液に配合する溶剤としては、有機インジウム化合物、ドーパント用有機金属化合物、及びセルロース誘導体及び/またはアクリル樹脂を溶解させた溶液と相溶性があるものが良い。
具体的には、メタノール(MA)、エタノール(EA)、1−プロパノール(NPA)、イソプロパノール(IPA)、ブタノール、ペンタノール、ベンジルアルコール、ジアセトンアルコール(DAA)等のアルコール系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルプロピルケトン、メチルイソブチルケトン(MIBK)、シクロヘキサノン、イソホロン等のケトン系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、ギ酸アミル、酢酸イソアミル、プロピオン酸ブチル、酪酸イソプロピル、酪酸エチル、酪酸ブチル、乳酸メチル、乳酸エチル、オキシ酢酸メチル、オキシ酢酸エチル、オキシ酢酸ブチル、メトキシ酢酸メチル、メトキシ酢酸エチル、メトキシ酢酸ブチル、エトキシ酢酸メチル、エトキシ酢酸エチル、3−オキシプロピオン酸メチル、3−オキシプロピオン酸エチル、3−メトキシプロピオン酸メチル、3−メトキシプロピオン酸エチル、3−エトキシプロピオン酸メチル、3−エトキシプロピオン酸エチル、2−オキシプロピオン酸メチル、2−オキシプロピオン酸エチル、2−オキシプロピオン酸プロピル、2−メトキシプロピオン酸メチル、2−メトキシプロピオン酸エチル、2−メトキシプロピオン酸プロピル、2−エトキシプロピオン酸メチル、2−エトキシプロピオン酸エチル、2−オキシ−2−メチルプロピオン酸メチル、2−オキシ−2−メチルプロピオン酸エチル、2−メトキシ−2−メチルプロピオン酸メチル、2−エトキシ−2−メチルプロピオン酸エチル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、ピルビン酸プロピル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、2−オキソブタン酸メチル、2−オキソブタン酸エチル等のエステル系溶剤、エチレングリコールモノメチルエーテル(MCS)、エチレングリコールモノエチルエーテル(ECS)、エチレングリコールイソプロピルエーテル(IPC)、エチレングリコールモノブチルエーテル(BCS)、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールメチルエーテル(PGM)、プロピレングリコールエチルエーテル(PE)、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート(PGM−AC)、プロピレングリコールエチルエーテルアセテート(PE−AC)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル等のグリコール誘導体、トルエン、キシレン、メシチレン、ドデシルベンゼン等のベンゼン誘導体、ホルムアミド(FA)、N−メチルホルムアミド、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルフォキシド(DMSO)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、γ−ブチロラクトン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1、3−ブチレングリコール、ペンタメチレングリコール、1、3−オクチレングリコール、テトラヒドロフラン(THF)、クロロホルム、ミネラルスピリッツ、ターピネオール等、及びこれらのいくつかの混合液が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0028】
ただし、上記溶剤の中には吸湿しやすいものもあり、それらの溶剤を用いる場合には、導電性酸化物微粒子分散液や透明導電膜形成用塗布液への配合過程において、吸湿しないように十分な注意を要する。
これらの溶剤に水分が含まれる場合には、前述の理由から予め除去しておく必要があり、例えば、合成ゼオライトやアルミノシリケート等の脱水剤を用いて水分を吸着させる方法で行うことができる。前述のように、溶剤中の水分量が多くなると、導電性酸化物微粒子を一時的に良好に分散できたとしても、やがて分散体の構造が著しく破壊されてしまい安定な分散液とすることができない。
本発明の導電性酸化物微粒子分散液における有機溶剤(B)の含有量は、特に限定されるわけではないが、分散液全体に対して50〜95質量%であることが望ましい。有機溶剤(B)の含有量が50質量%未満であると、導電性酸化物微粒子の濃度が高くなりすぎて分散液としての液状を保てなくなってゲル化、または固形化してしまう。一方、95質量%を超えると導電性酸化物微粒子の濃度が低くなりすぎて、形成される透明導電膜の膜厚が薄くなりすぎるため好ましくない。より好ましい有機溶剤(B)の含有量は、分散液全体に対して60〜90質量%である。
【0029】
(C)分散剤
本発明において、分散剤(C)は、上記有機溶剤(B)とともに配合され、導電性酸化物微粒子を分散させるのに用いる添加剤であり、このような機能を有するものであれば特に限定されない。例えば、リン酸エステル系化合物、高分子ポリマーなどを使用することができる。
本発明において、好ましい分散剤(C)は、モノ−またはジ−オキシアルキレン置換基を有するリン酸エステル、リン酸トリアルキルエステルなどのリン酸エステル系化合物を主成分とするものである。オキシアルキレン置換基を有するリン酸エステルとしては、重合性末端基であるRが、オキシエチルメタクリロイル−、オキシエチルアクリロイル−、ポリオキシプロピルメタクリロイル−、グリセリルジメタクリロイル−、ジペンタエリスリトールペンタアクリロイル−、またはポリオキシエチルメタクリロイル−から選択される、(メタ)アクリレート基である化合物が挙げられる。
また、リン酸トリアルキルエステルとしては、例えばリン酸トリブチルエステル、リン酸トリ2−エチルヘキシルエステル、リン酸トリクレジルエステル、リン酸トリキシリルエステルなどが挙げられる。
【0030】
また、リン酸エステル系界面活性剤として、例えば、分子構造内に親水基としてリン酸エステル基を有するアニオン系界面活性剤が挙げられる。これらの詳細は、特開2006−73300号公報に記載されている。
さらに、高分子ポリマーとしては、ノニオン系高分子が好ましく、その中でも櫛形高分子が好適なものとして挙げられる。
【0031】
本発明の導電性酸化物微粒子分散液における分散剤(C)の含有量は、導電性酸化物微粒子100重量部に対して2重量部以下とする。2重量部を超えると最終的に得られる透明導電膜において導電性酸化物微粒子同士の間に介在する分散剤(C)の量が多くなりすぎて、透明導電膜の抵抗値が高くなりすぎるため好ましくない。ただし、分散剤(C)の含有量が0.01重量部未満であると、導電性酸化物微粒子の分散安定性が悪化して分散液としての液状を保てなくなってゲル化、または固形化してしまう。好ましい分散剤(C)の含有量は、導電性酸化物微粒子100重量部に対して0.01〜2重量部であり、0.05〜1重量部がより好ましい。
【0032】
また、本発明において、導電性酸化物微粒子分散液に含まれる水分の量は、導電性酸化物微粒子100重量部に対して、1.5重量部以下が良く、さらに好ましい水分の量は1.0重量部以下である。1.5重量部よりも水分量が多いと良好な分散を得にくく、場合によってはゲル化(クリーム状)してしまい、良好な導電性酸化物微粒子分散液を得ることができなくなる。また、仮に透明導電膜形成用塗布液が得られたとしても、それを用いて形成される塗膜はヘイズの高い不透明な膜になりやすい。
導電性酸化物微粒子分散液中の水分含有量がより少ない方が好ましいのは、良好な分散を得ることに加えて、大気中での分散安定性を確保するためでもある。すなわち、上記分散液、塗布液を大気中に放置すると、吸湿して次第に水分含有量が増加するからであり、水分含有量が少ないもの程大気中に放置されても長い間分散安定性を確保しやすい。
【0033】
2.導電性酸化物微粒子分散液の製造方法
本発明において、導電性酸化物微粒子分散液を製造するには、ハロゲン元素で表面修飾された平均粒径1〜500nmの導電性酸化物微粒子(A)を、5員環ケトン化合物を主成分とする有機溶剤(B)、および導電性酸化物微粒子100重量部に対し2重量部以下の量の分散剤(C)と、汎用の方法を用いて良く混合した後、導電性酸化物微粒子(A)の分散処理を施す。
【0034】
すなわち、本発明の導電性酸化物微粒子分散液は、例えば、表面がハロゲン元素で修飾された導電性酸化物微粒子に、導電性酸化物微粒子100重量部に対し2重量部以下の分散剤を添加し、2−ヘキシルシクロペンタノン、2−ヘプチルシクロペンタノン、2−シクロペンチルシクロペンタノンの群から選ばれる少なくとも一種の5員環ケトン化合物を含んだ有機溶剤に分散させて得ることができる。分散処理としては、超音波処理、ホモジナイザー、ペイントシェーカー、ビーズミル等の汎用の方法を適用することができる。
分散処理の雰囲気は、特に制限されるわけではないが、処理時間が長い場合は、処理液が入れられた容器を密閉するか、あるいは分散処理を行う空間(処理装置内や処理室)を除湿機により除湿するか、除湿した空気を供給する等して、空気中の水分が処理液中に混入しないようにすることが好ましい。また、処理時間は、用いる原料の種類、処理量、分散処理装置の種類などによっても異なるが、例えば超音波処理であれば、数十秒〜数十分とすることができる。
【0035】
このような分散処理によって、例えば、導電性酸化物微粒子の平均粒径が30nmである場合、分散液中の導電性酸化物微粒子の平均分散粒径を130〜150nm程度にすることができる。なお、導電性酸化物微粒子の平均粒径は、導電性酸化物微粒子分散液を透過電子顕微鏡(TEM)で観察して求めることができる。また、分散液中の平均分散粒径は、各種粒度測定装置(例えばレーザー散乱方式)を用いて測定することができる。
ここで、レーザー散乱方式等の粒度測定装置で測定される平均分散粒径は、一般に、測定試料として微粒子濃度を0.01質量%以下になるように溶剤で希釈してから求められるため、溶剤希釈時のソルベントショックによる凝集の影響を少なからず受けている。
したがって、例えば、上述のように平均分散粒径が130〜150nm程度の場合であっても、この値は、あくまでも粒度測定装置で測定された値であり、相対的な値として考える必要がある。通常、希釈を行わずに測定できる特殊な粒度測定装置で測定した場合の平均分散粒径は、試料の希釈を行って測定された値の1/3〜1/2程度であることが多い。
【0036】
3.透明導電膜形成用塗布液
本発明の透明導電膜形成用塗布液は、導電性酸化物微粒子分散液に対して、更にバインダー成分(D)を含有させたものである。
上記した本発明の導電性酸化物微粒子分散液は、そのまま基材に塗布してから乾燥させ、必要に応じ焼成させることで、透明導電膜を形成することも可能である。しかし、導電性酸化物微粒子同士の結合が弱いため、そのままでは膜強度が極めて弱い透明導電膜となることが多い。そのため、更に透明導電膜上に透明バインダー成分を含む塗布液等をオーバーコートする必要があって、成膜工程が煩雑になり、またオーバーコートによる2層構造となるため、透明導電膜の電極配線が絶縁性のオーバーコート層を介しない様に工夫しなければならず、必ずしも実用的とは言えない。そこで、本発明では、上記導電性酸化物微粒子分散液にバインダー成分を加えて透明導電膜形成用塗布液とすることが望ましい。
【0037】
(D)バインダー成分
バインダー成分は、導電性酸化物微粒子同士を結合して透明導電膜の導電性と強度を高めると共に、基材と透明導電膜の密着力を高める働きを有する成分である。バインダー成分としては、有機及び/または無機バインダーを用いることが可能であり、上記役割を満たすように、透明導電膜形成用塗布液を適用する基材や膜形成条件等を考慮して、適宜選定することができる。
有機バインダー(樹脂バインダー)としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、常温硬化性樹脂、紫外線硬化性樹脂、および電子線硬化性樹脂等の群から適宜選択することができる。
【0038】
例えば、熱可塑性樹脂は、その種類、構造によって種々のガラス転移点(Tg)をもつため、基材の耐熱性に合わせて適宜選択することが好ましい。熱可塑性樹脂としては、一般に知られた熱可塑性樹脂を用いることができるが、高いガラス転移点(Tg)を有するものが好ましい。ガラス転移点(Tg)が高いと、硬化のための加熱処理温度から室温まで冷却する過程で、バインダー樹脂の体積収縮をそのまま導電性酸化物微粒子同士の接合力に転化できるため、透明導電膜の導電性を向上させる効果を有するからである。また、熱可塑性樹脂としては、メタクリル樹脂等のアクリル樹脂、ポリエステル樹脂等が挙げられる。
【0039】
また、熱硬化性樹脂としては、例えばエポキシ樹脂、フッ素樹脂等を、常温硬化性樹脂としては、2液性のエポキシ樹脂や各種ウレタン樹脂等を、紫外線硬化性樹脂としては、各種オリゴマー、モノマー、光開始剤を含有する樹脂等を、電子線硬化性樹脂としては各種オリゴマー、モノマーを含有する樹脂等を挙げることができるが、これら樹脂に限定されるものではない。ここで、透明導電膜に耐溶剤性が求められる場合は、上記有機バインダーは、架橋可能な樹脂でなければならず、熱硬化性樹脂、常温硬化性樹脂、紫外線硬化性樹脂、および電子線硬化性樹脂等の群から適宜選定することができる。
【0040】
また、無機バインダーとしては、シリカゾル、アルミナゾル、ジルコニアゾル、チタニアゾル等を主成分とするバインダーを挙げることができる。例えば、上記シリカゾルとしては、テトラアルキルシリケートに水や酸触媒を加えて加水分解し、脱水縮重合を進ませた重合物、あるいはテトラアルキルシリケートを既に4〜5量体まで重合を進ませた市販のアルキルシリケート溶液を、更に加水分解と脱水縮重合を進行させた重合物等を利用することができる。
尚、脱水縮重合が進行し過ぎると、溶液粘度が上昇して最終的に固化してしまうので、脱水縮重合の度合いについては、基材上に塗布可能な上限粘度以下に調整する。ただし、脱水縮重合の度合いは、上記上限粘度以下のレベルであれば特に限定されないが、膜強度、耐候性等を考慮すると、重量平均分子量で500〜50000程度が好ましい。そして、このアルキルシリケート加水分解重合物(シリカゾル)は、透明導電膜形成用塗布液の塗布・乾燥後の加熱時において脱水縮重合反応(架橋反応)がほぼ完結し、硬いシリケートバインダーマトリックス(酸化ケイ素を主成分とするバインダーマトリックス)になる。
【0041】
バインダーとして、有機−無機のハイブリッドバインダーを用いることもできる。例えば、前述のシリカゾルを一部有機官能基で修飾したバインダーや、シリコンカップリング剤等の各種カップリング剤を主成分とするバインダーが挙げられる。
上記無機バインダーや有機−無機のハイブリッドバインダーを用いた透明導電膜は、必然的に優れた耐溶剤性を有しているが、基材との密着力や、透明導電膜の柔軟性等を考慮し、適宜選定する必要がある。
【0042】
これらの各種バインダーは、そのまま用いることもできるが、粘度が高いものである場合には、前記と同様な有機溶剤、すなわち2−ヘキシルシクロペンタノン、2−ヘプチルシクロペンタノン、および2−シクロペンチルシクロペンタノンの群から選ばれる少なくとも一種の5員環ケトン化合物を含んだ有機溶剤に溶解して用いることが好ましい。
また、透明導電膜形成用塗布液中の、導電性酸化物微粒子とバインダー成分の割合は、仮に導電性酸化物微粒子とバインダー成分の比重をそれぞれ7.2程度(ITOの比重)、1.2程度(通常の有機樹脂バインダーの比重)と仮定した場合、重量比で、導電性酸化物微粒子:バインダー成分=70:30〜97:3、好ましくは75:25〜95:5、更に好ましくは80:20〜90:10の範囲とするのが良い。その理由は、70:30よりバインダー成分が多いと透明導電膜の抵抗が高くなりすぎ、逆に97:3よりバインダー成分が少ないと透明導電膜の強度が低下すると同時に、基材との十分な密着力が得られなくなるからである。
本発明の透明導電膜形成用塗布液は、前記した表面がハロゲン元素で修飾された導電性酸化物微粒子を水分含有量の低い5員環ケトン化合物を主成分とする有機溶剤に混合して分散させた導電性酸化物微粒子分散液を用い、これにバインダー成分を配合し、同様に分散させて得ることができる。
【0043】
4.透明導電膜
本発明の透明導電膜は、前記透明導電膜形成用塗布液をプラスチック製基材またはセラミック製基材上に塗布し、乾燥した後に、必要に応じ、透明導電膜形成用塗布液の種類により加熱処理(乾燥硬化、熱硬化)、紫外線照射処理(紫外線硬化)、電子線照射処理(電子線硬化)等の硬化処理が施されて得られるものである。
【0044】
基材としては、有機基材や無機基材が適用でき、通常は各種プラスチック基材(板、フィルム)やセラミック基材などの透明基材が用いられる。具体的には、プラスチック基材であれば、エポキシ、アクリル、ポリカーボネート(PC)、ポリエーテルサルホン(PES)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ウレタン、ナイロン樹脂、シクロオレフィン樹脂(ゼオノア[日本ゼオン製]やアートン[JSR製]等)、フッ素系樹脂、ポリアミドイミド、ポリイミド(PI)等を用いることができる。中でも、安価で且つ透明性、強度に優れ、柔軟性も兼ね備えている等の観点から、PETフィルムを用いることが好ましい。また、セラミック基材であれば、例えば、ソーダライムガラス、無アルカリガラス、石英ガラス等の各種ガラス、アルミナ、ジルコニア等を用いることができる。
【0045】
基材の厚さは、特に制限されるものではなく、用途に応じて適宜選択できる。近年、各種表示デバイスの軽薄短小化の流れを受けて、基材としてなるべく薄いものが求められる傾向があり、プラスチック基材のPETフィルムであれば、厚さが100μm以下のものが好ましい。一方、ソーダライムガラス、無アルカリガラス等の各種ガラスであれば、厚さが3mm以下、より好ましくは1mm以下のものが望ましい。
尚、プラスチック基材には、透明導電膜との密着力を高めるために、易接着処理、具体的には、プライマー処理、プラズマ処理、コロナ放電処理、短波長紫外線照射処理、シリコンカップリング処理等を予め施しておくことが好ましい。
【0046】
上記透明導電膜形成用塗布液(及び、導電性酸化物微粒子分散液)は、インクジェット印刷による直接描画でパターン印刷できるが、それ以外の印刷方法として、スクリーン印刷、ブレードコーティング、ワイヤーバーコーティング、スプレーコート、スピンコート、ロールコート、ダイコート、スリットコート、グラビア印刷、フレキソ印刷、オフセット印刷、ディスペンサー塗布等の方法で基材上に塗布・乾燥された後、前述の硬化処理が施され、透明導電膜が得ても良い。インクジェット印刷によれば、デジタルデータから版を作ることなくそのまま出力できるオンデマンド印刷が可能なことから、スクリーン印刷に比べ、早く低コストで印刷でき、スピンコーティング法では、大面積ベタ印刷を容易に行うことができるという長所がある。
【0047】
基材の加熱処理温度は、その耐熱性や透明導電膜形成用塗布液中の溶剤の沸点等を考慮して、適宜選択することができる。例えば、基材がPETフィルムからなる場合、塗布膜を150℃以下で1〜30分間加熱することが好ましい。より好ましいのは、50〜120℃で5〜10分間加熱することである。150℃を超えるとフィルムが軟化して変形しやすくなると同時に、フィルムから低分子成分のオリゴマーがフィルム表面に析出して白化する現象を引き起こすからである。また、基材がガラスからなる場合には、基材の耐熱性が高いため、塗布膜の導電性をより向上させたい場合には、上記150℃を超える温度での加熱が可能である。具体的には、300℃以下で1〜30分間加熱することが好ましい。加熱装置の汎用性(価格や入手容易性)を考慮すると、より好ましいのは、150〜200℃で5〜10分間加熱することである。
これにより得られる透明導電膜の膜特性は、可視光透過率:80%以上、好ましくは85%以上、ヘイズ値:10%以下、好ましくは7%以下、表面抵抗値:5M(メガ)Ω/□以下、好ましくは1M(メガ)Ω/□以下である。
【実施例】
【0048】
以下、本発明の実施例を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。また、本文中の「%」は「質量%」を、また「部」は「重量部」を示すことがある。
なお、分散液中の導電性酸化物微粒子の平均分散粒径は、大塚電子(株)製のレーザー散乱式粒度分析計(ELS−800)を用いて測定した。
【0049】
また、得られる透明導電膜の透過率及びヘイズ値は、透明導電膜だけの値であり、それぞれ下記計算式1及び2により求めた。
[計算式1]
透明導電膜の透過率(%)=[(透明導電膜が形成された基材ごと測定した透過率)/基材の透過率]×100
[計算式2]
透明導電膜のヘイズ値(%)=(透明導電膜が形成された基材ごと測定したヘイズ値)−(基材のヘイズ値)
また、透明導電膜の表面抵抗は、三菱化学(株)製の表面抵抗計ロレスタAP(MCP−T400)を用い測定した。ヘイズ値と可視光透過率は、村上色彩技術研究所製のヘイズメーター(HR−200)を用いて測定した。
【0050】
(実施例1)
塩素で表面修飾された平均粒径0.03μmの粒状のITO微粒子(Sn含有量=6%、塩素=0.5%、ITO:Cl=1:0.02[モル比]、圧粉抵抗[100Kgf/cm]=0.18Ω・cm)20gを、溶剤として5員環ケトン化合物である2−ヘキシルシクロペンタノン(水分含有量:0.1%未満、沸点246℃、表面張力32dyn/cm[25℃])79.9g、リン酸エステル系分散剤0.1gと混合し、3分間、超音波分散処理を行い、平均分散粒径140nmのITO微粒子が分散した実施例1に係る導電性酸化物微粒子分散液を得た。水分量は、導電性酸化物微粒子100重量部に対し0.4重量部未満であった。この分散液は、密閉したガラス容器中での常温保管にて、1ヶ月以上良好な分散状態を維持した。この分散液の表面張力は、32.9dyn/cm(25℃)であった。
この導電性酸化物微粒子分散液(透明導電膜形成用塗布液)を、基材としてのソーダライムガラス基板(10cm×10cm×2mm厚さ、透過率:91.1%、ヘイズ:0.2%、屈折率:1.53)上にマイクロジェット社製の印刷機(商品名:IJET−2000H)を用いてインクジェット印刷したところ、ノズル詰まりもなくインク吐出性は良好で、かつ形成された塗布膜にはハジキもなく、インク広がり性も適正で、十分にインクジェット印刷可能であった。
次に、透明導電膜の形成をスピンコーティング法で行い、これを評価試料とした。すなわち、上記導電性酸化物微粒子分散液(透明導電膜形成用塗布液)を、基材としてのソーダライムガラス基板(10cm×10cm×2mm厚さ、透過率:91.1%、ヘイズ:0.2%、屈折率:1.53)上の全面にスピンコーティング(基板温度:25℃、400rpm×60秒)し、120℃で10分間乾燥して透明導電膜を得た。この透明導電膜の膜特性は、可視光透過率:94.9%、ヘイズ値:5.1%、表面抵抗値:5M(メガ)Ω/□であった。
尚、これらは同様の導電性酸化物微粒子分散液(透明導電膜形成用塗布液)を使用しているので、インクジェット印刷法等を採用しても、スピンコーティング法を採用しても、得られた透明導電膜における膜の特性には変わりはない。
【0051】
(実施例2)
溶剤として5員環ケトン化合物である2−ヘプチルシクロペンタノン(水分含有量:0.1%未満、沸点264℃、表面張力36dyn/cm[25℃])を使用した他は実施例1と同様にして、平均分散粒径140nmのITO微粒子が分散した実施例2に係る導電性酸化物微粒子分散液を得た。水分量は、導電性酸化物微粒子100重量部に対し0.4重量部未満であった。この分散液は、密閉したガラス容器中での常温保管にて、1ヶ月以上良好な分散状態を維持した。この分散液の表面張力は、37.4dyn/cm(25℃)であった。
この導電性酸化物微粒子分散液(透明導電膜形成用塗布液)を、基材としてのソーダライムガラス基板(10cm×10cm×2mm厚さ、透過率:91.1%、ヘイズ:0.2%、屈折率:1.53)上にインクジェット印刷したところ、ノズル詰まりもなくインク吐出性は良好で、かつ形成された塗布膜にはハジキもなく、インク広がり性も適正で、十分にインクジェット印刷可能であった。
上記導電性酸化物微粒子分散液(透明導電膜形成用塗布液)を用いた以外は実施例1と同様にして透明導電膜を作製した。この透明導電膜の膜特性は、可視光透過率:97.1%、ヘイズ値:4.4%、表面抵抗値:1M(メガ)Ω/□であった。
【0052】
(実施例3)
溶剤として5員環ケトン化合物である2−シクロペンチルシクロペンタノン(水分含有量:0.1%未満、沸点233℃、表面張力36dyn/cm[25℃])を使用した他は実施例1と同様にして、平均分散粒径140nmのITO微粒子が分散した実施例3に係る導電性酸化物微粒子分散液を得た。水分量は、導電性酸化物微粒子100重量部に対し0.4重量部未満であった。この分散液は、密閉したガラス容器中での常温保管にて、1ヶ月以上良好な分散状態を維持した。この分散液の表面張力は、37.4dyn/cm(25℃)であった。
この導電性酸化物微粒子分散液(透明導電膜形成用塗布液)を、基材としてのソーダライムガラス基板(10cm×10cm×2mm厚さ、透過率:91.1%、ヘイズ:0.2%、屈折率:1.53)上にインクジェット印刷したところ、ノズル詰まりもなくインク吐出性は良好で、かつ形成された塗布膜にはハジキもなく、インク広がり性も適正で、十分にインクジェット印刷可能であった。
上記導電性酸化物微粒子分散液(透明導電膜形成用塗布液)を用いた以外は実施例1と同様にして透明導電膜を作製した。この透明導電膜の膜特性は、可視光透過率:92.0%、ヘイズ値:6.9%、表面抵抗値:3M(メガ)Ω/□であった。
【0053】
(実施例4)
粒状のITO微粒子として、塩素で表面修飾された平均粒径0.05μmのもの(Sn含有量=8%、塩素=0.5%、ITO:Cl=1:0.02[モル比]、圧粉抵抗[100Kgf/cm]=0.15Ω・cm)20gを使用した他は実施例1と同様にして、平均分散粒径150nmのITO微粒子が分散した実施例4に係る導電性酸化物微粒子分散液を得た。
この導電性酸化物微粒子分散液(透明導電膜形成用塗布液)を、基材としてのソーダライムガラス基板(10cm×10cm×2mm厚さ、透過率:91.1%、ヘイズ:0.2%、屈折率:1.53)上にインクジェット印刷したところ、ノズル詰まりもなくインク吐出性は良好で、かつ形成された塗布膜にはハジキもなく、インク広がり性も適正で、十分にインクジェット印刷可能であった。
【0054】
(実施例5)
5員環ケトン化合物である2−ヘキシルシクロペンタノンの量を50.0g(分散液全体に対して50質量%)に減少させて、イソホロン(水分含有量:0.02%未満、沸点215℃、表面張力32.3dyn/cm[20℃])29.9gを使用した他は実施例1と同様にして、平均分散粒径140nmのITO微粒子が分散した実施例5に係る導電性酸化物微粒子分散液を得た。
この導電性酸化物微粒子分散液(透明導電膜形成用塗布液)を、基材としてのソーダライムガラス基板(10cm×10cm×2mm厚さ、透過率:91.1%、ヘイズ:0.2%、屈折率:1.53)上にインクジェット印刷したところ、ノズル詰まりもなくインク吐出性は良好で、かつ形成された塗布膜にはハジキもなく、インク広がり性も適正で、十分にインクジェット印刷可能であった。
【0055】
(比較例1)
塩素で表面修飾されていない平均粒径0.03μmの粒状のITO微粒子(Sn含有量=6%、塩素=0.05%以下、ITO:Cl=1:0.002以下[モル比]、圧粉抵抗[100Kgf/cm]=0.25Ω・cm)20gを用い、溶剤としての2−ヘキシルシクロペンタノン(水分含有量:0.1%未満、沸点246℃、表面張力32dyn/cm[25℃])79.9g、リン酸エステル系分散剤0.1gと混合し、超音波分散処理を行ったが、クリーム状になり良好な導電性酸化物微粒子分散液を得ることはできなかった。
クリーム状になってしまったため、透明導電膜形成用塗布液としての評価はしていない。
【0056】
(比較例2)
塩素で表面修飾された平均粒径0.03μmの粒状のITO微粒子(Sn含有量=6%、塩素=0.5%、ITO:Cl=1:0.02[モル比]、圧粉抵抗[100Kgf/cm]=0.18Ω・cm)20gを、5員環ケトン化合物溶剤であるシクロペンタノン[別名:シクロペンタン−1−オン;CAS番号:120−92−3](水分含有量:0.1%未満、沸点130℃、表面張力33.4dyn/cm[25℃])79.9g、およびリン酸エステル系分散剤0.1gと混合し、3分間、超音波分散処理を行い、平均分散粒径140nmのITO微粒子が分散した比較例2に係る導電性酸化物微粒子分散液を得た。この分散液は、常温保管にて、1ヶ月以上良好な分散状態を維持した。この分散液の表面張力は、35dyn/cm(25℃)であった。
この導電性酸化物微粒子分散液(透明導電膜形成用塗布液)を、基材としてのソーダライムガラス基板(10cm×10cm×2mm厚さ、透過率:91.1%、ヘイズ:0.2%、屈折率:1.53)上にインクジェット印刷したところ、徐々にノズル詰まりが発生しインク吐出性が不良となって、安定したインクジェット印刷が不可能であった。
上記導電性酸化物微粒子分散液(透明導電膜形成用塗布液)を用いた以外は実施例1と同様にして透明導電膜を作製した。この透明導電膜の膜特性は、可視光透過率:90.5%、ヘイズ値:4.5%、表面抵抗値:280k(キロ)Ω/□であった。
【0057】
(比較例3)
ITO微粒子20gに、溶剤としての2−ヘキシルシクロペンタノンを79g、リン酸エステル系分散剤を1g混合した以外は、実施例1と同様にして、平均分散粒径145nmのITO微粒子が分散した比較例3に係る導電性酸化物微粒子分散液を得た。
この導電性酸化物微粒子分散液(透明導電膜形成用塗布液)を、基材としてのソーダライムガラス基板(10cm×10cm×2mm厚さ、透過率:91.1%、ヘイズ:0.2%、屈折率:1.53)上にインクジェット印刷したところ、ノズル詰まりもなくインク吐出性は良好で、かつ形成された塗布膜にはハジキもなく、インク広がり性も適正で、十分にインクジェット印刷可能であった。
上記導電性酸化物微粒子分散液(透明導電膜形成用塗布液)を用いた以外は実施例1と同様にして透明導電膜を作製した。この透明導電膜の膜特性は、可視光透過率:94.5%、ヘイズ値:5.2%、表面抵抗値:5×1010Ω/□であった。
【0058】
「評価」
実施例1〜5を比較例1と比べると、塩素で表面修飾されたITO微粒子を2−ヘキシルシクロペンタノン、2−ヘプチルシクロペンタノン、2−シクロペンチルシクロペンタノンに分散させた各実施例の導電性酸化物微粒子分散液(透明導電膜形成用塗布液)が良好な分散性を示すのに対し、塩素で表面修飾されていないITO微粒子を、2−ヘキシルシクロペンタノンに分散させた比較例1の導電性酸化物微粒子分散液はクリーム状であり、良好な分散性を示していない。
実施例1〜3と比較例2を比べると、各実施例の2−ヘキシルシクロペンタノン、2−ヘプチルシクロペンタノン、2−シクロペンチルシクロペンタノンを有機溶剤に用いた導電性酸化物微粒子分散液が良好な分散性を示し、かつ、インクジェット印刷において良好な吐出安定性を示すのに対し、沸点が低いシクロペンタノンを有機溶剤に用いた比較例2の導電性酸化物微粒子分散液は、導電性酸化物微粒子分散液が良好な分散性を示すものの、インクジェット印刷においてノズル詰まりを生じ良好な吐出安定性を示していない。
一方、比較例3は、分散剤の量が多かったために、得られた透明導電膜中に分散剤が多量に存在し、それが導電性酸化物微粒子の間に介在して導電性酸化物微粒子同士の接触が阻害されたため、透明導電膜の導電性が著しく悪化した。
以上のように、本発明では、いずれも導電性酸化物微粒子分散液が良好な分散性を示し、かつ、インクジェット印刷において良好な吐出安定性を示すが、構成成分が本発明の範囲を外れると良好な分散性が得られなかったり、インクジェット印刷においてノズル詰まりを起こしたりして、安定した分散性を得ることができなくなることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハロゲン元素で表面修飾された平均粒径1〜500nmの導電性酸化物微粒子(A)が、有機溶剤(B)に分散した導電性酸化物微粒子分散液であって、有機溶剤(B)が沸点230℃以上で、かつ、表面張力が40dyn/cm以下の5員環ケトン化合物を主成分とし、しかも、導電性酸化物微粒子100重量部に対し2重量部以下の分散剤(C)を含有していることを特徴とする導電性酸化物微粒子分散液。
【請求項2】
導電性酸化物微粒子(A)が、酸化インジウム、酸化錫、および酸化亜鉛の群から選ばれる少なくとも一種の金属酸化物を主成分として含有する微粒子であることを特徴とする請求項1に記載の導電性酸化物微粒子分散液。
【請求項3】
導電性酸化物微粒子(A)が、錫がドープされた酸化インジウムを主成分として含有する金属酸化物微粒子であることを特徴とする請求項2に記載の導電性酸化物微粒子分散液。
【請求項4】
ハロゲン元素が、塩素であることを特徴とする請求項1に記載の導電性酸化物微粒子分散液。
【請求項5】
有機溶剤(B)が、2−ヘキシルシクロペンタノン、2−ヘプチルシクロペンタノン、および2−シクロペンチルシクロペンタノンの群から選ばれる少なくとも一種の5員環ケトン化合物であることを特徴とする請求項1に記載の導電性酸化物微粒子分散液。
【請求項6】
5員環ケトン化合物の含有量が、有機溶剤(B)全体に対して50質量%以上であることを特徴とする請求項1または5に記載の導電性酸化物微粒子分散液。
【請求項7】
有機溶剤(B)の含有量が、分散液全体に対して50〜95質量%であることを特徴とする請求項1に記載の導電性酸化物微粒子分散液。
【請求項8】
分散剤(C)が、リン酸エステル系化合物であることを特徴とする請求項1に記載の導電性酸化物微粒子分散液。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の導電性酸化物微粒子分散液が、更にバインダー成分(D)を含有することを特徴とする透明導電膜形成用塗布液。
【請求項10】
バインダー成分(D)が、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、常温硬化性樹脂、および紫外線硬化性樹脂、電子線硬化性樹脂等の群から選ばれるいずれかの有機樹脂であることを特徴とする請求項9に記載の透明導電膜形成用塗布液。
【請求項11】
請求項1〜8のいずれかに記載の導電性酸化物微粒子分散液をプラスチック製基材またはセラミック製基材上に塗布し、乾燥して得られる透明導電膜。
【請求項12】
導電性酸化物微粒子分散液が、インクジェット印刷で塗布されることを特徴とする請求項11に記載の透明導電膜。
【請求項13】
請求項9又は10に記載の透明導電膜形成用塗布液をプラスチック製基材またはセラミック製基材上に塗布し、乾燥した後に、硬化処理が施されて得られる透明導電膜。
【請求項14】
透明導電膜形成用塗布液が、インクジェット印刷で塗布されることを特徴とする請求項13に記載の透明導電膜。

【公開番号】特開2012−54209(P2012−54209A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−197956(P2010−197956)
【出願日】平成22年9月3日(2010.9.3)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】