説明

導電率分布画像の生成装置、その方法およびそれを用いた体脂肪測定装置

【課題】測定対象の生体インピーダンスを高精度で測定するインピーダンスCT法を実現し、簡便、安全かつ高精度な導電率分布画像の生成装置および内臓脂肪測定装置を提供する。
【解決手段】測定対象の外周上に環状に2組の電極群(51a,51b)が配置され、第1の電極群(51a)のうち順次選択される2つの電極間(A,Ai+2)に電流が印加され、第1の電極群の残りの電極(A,・・・,Ai−1,Ai+1,Ai+3,・・・,A)および第2の電極群(52b)のうち前記電流が印加される2つの電極に対応づけられる電極(B,Bi+2)における隣接電極の間の電位差が順次測定される。すべての電極位置における電位が測定されるため測定系の誤差が補償されて精度の高い生体インピーダンス測定が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インピーダンスCT法によって測定部位断面の体脂肪分布を画像化し、体脂肪を測定するための導電率分布画像の生成装置、その方法およびそれを用いた体脂肪測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
人体腹部に蓄積される脂肪は、その蓄積部位から、皮下脂肪と内臓脂肪に大別される。このうち特に内臓脂肪の蓄積は、糖尿病、高血圧、脂質異常症などの病態、およびこれらが重複して発症した病態であるメタボリックシンドロームの誘発因子となることが言われており、健康の維持、増進のために内臓脂肪量の管理の重要性が認識されている。
【0003】
測定部位断面の脂肪分布を画像化し、皮下脂肪量と内臓脂肪量のそれぞれを区別して測定可能な装置としては、X線CT、MRI等が知られている。しかしながら、これらの装置はきわめて高価で、装置の維持管理には費用と手間がかかり、さらに隔離された部屋と広い設置床面積を必要とするため規模の大きな装置となる。また、X線CTの場合には、放射線の被曝が健康被害を及ぼす可能性があり、一般人が健康管理のために日常的に使用するには適さない。
【0004】
測定部位断面での導電率分布を比較的簡易な装置で画像化する方法としてインピーダンスCT法が知られており、本発明者らはこのインピーダンスCT法を体脂肪測定に応用することに着目した。インピーダンスCT法は、特許文献1に開示されるように、測定部位に電流を流し、その外周表面上に誘起された電位分布から測定部位断面での導電率分布を推定する技術である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−339658号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで特許文献1において、得られた画像から脂肪面積を推定する方法は閾値を上回るか下回るかで二値化している。主な測定対象とする腹部は、人体の中でも断面サイズが比較的大きくかつ脂肪分布が複雑であるため、このような方法で脂肪比率を測定するには、X線CTに匹敵する十分な解像度が必要となる。
【0007】
また、生体インピーダンス計測では電極と真皮の接触抵抗による影響を避けるため4電極法を用いる。そのため、腹部をリング状に取り囲む電極を配置し、所定の2つの電極を電流を流すための電極(以下電流電極という。)とし、残りの電極を用いて隣接する電極同士の電位差を測定する。しかし、電流電極近傍の電位を測定することができないため測定精度に限界がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、このような従来の技術の課題に着目してなされたものであり、本発明によれば、より高精度に生体インピーダンスを測定して、良好なインピーダンス画像を取得し、より正確に内臓脂肪量を推定することができる。
【0009】
本発明の技術的側面によれば、体脂肪測定装置は、測定対象の外周上に環状に複数の電極位置が規定され、各電極位置に各電極が配置される第1電極群と、 前記各電極位置において前記第1電極群の電極の近傍に各電極が配置される第2電極群と、(i)前記第1電極群のうち順次選択される2つの電極位置の電極を電流電極として選択して電流を印加し、(ii)すべての電極位置について前記電流電極以外の電極を電位測定電極として選択し、隣接電極位置における前記電位測定電極間の電位差を順次測定するインピーダンス測定手段と、測定結果に基づいて前記測定対象の断面上の導電率分布を算出し、画像化する導電率分布算出手段と、算出された導電率分布に基づいて脂肪量を算出する脂肪量算出手段と、算出された脂肪量を表示する表示手段とを具備することを特徴とする。
【0010】
また、本発明の他の技術的側面によれば、さらに前記隣接電極位置の前記電位測定電極間の電位差の総和がゼロとなるように前記インピーダンス測定手段の測定誤差が補償されることを特徴とする。
【0011】
本発明のさらに別の技術的側面によれば、体脂肪測定方法は、測定対象の外周上に環状に規定される複数の電極位置に対して各電極位置に各電極が配置される第1電極群から順次選択された2つの電極間に電流を印加することと、前記各電極位置において前記第1電極群の電極の近傍に各電極が配置される第2電極群と前記第1電極群とからすべての隣接電極位置について前記電流を印加した電極以外の電極を順次選択して電位差を測定することと、前記隣接電極位置の電極間の電位差の総和がゼロとなるように各電位差の測定誤差が補償されることと、補償された各電位差に基づいて前記測定対象の断面上の導電率分布を算出して画像化することと、算出された導電率分布に基づいて脂肪量を算出することとを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、電極を二段構造とすることにより測定対象の腹部の一周にわたる電位差を万遍なく測定することができるため、キルヒホッフの第2法則を適用することが可能となり、測定回路におけるオフセットや排除が困難な飛来ノイズなどに由来する測定誤差を補償して精度の高いインピーダンス分布を測定することができる。また、誤差補償を自動化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態の体脂肪測定装置の構成図。
【図2】インピーダンス測定手段の構成図。
【図3】電極ユニットと回路ユニットの構成図。
【図4】電極群の平面配置図。
【図5】第1電極群と第2電極群の配置を示す斜視図。
【図6】第1電極群と第2電極群を用いたインピーダンス測定の概念図。
【図7】一体型電極部の構成図。
【図8】インピーダンス測定の他の実施形態の概念図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明の実施の形態について図1〜図8を参照して説明する。
【0015】
図1は本発明の第1の実施形態の体脂肪測定装置を示す構成図である。体脂肪測定装置は、被測定体(測定対象)の外周表面上に配置する複数の電極を有する2組の電極群1aおよび1bと、複数の電極のうち順次選択される二つの電極間に電流を流し、残りの電極の電位もしくは電極間の電位差を測定するインピーダンス測定手段2と、電極の位置から被測定体の輪郭情報を計測する輪郭情報測定手段3と、測定された電位または電位差および輪郭情報とから被測定体の測定部位断面上の導電率分布を求める導電率分布算出手段4と、得られた導電率分布に基づいて被測定体の体脂肪量、体脂肪率、内臓脂肪量、皮下脂肪量等を算出する脂肪量算出手段5と、その算出結果を表示する表示手段6とからなる。なお、体脂肪測定装置に含まれる2組の電極群1aおよび1bとインピーダンス測定手段2と輪郭情報測定手段3とは導電率分布画像の生成装置を構成する。
【0016】
<電極群の構成>
図2は電極群とインピーダンス測定手段の構成図である。本実施形態の電極群51a,51bを含む電極部70は図4に示すような平面図を有する構造をとることができる。リング状の支持板53上に、複数のエアシリンダ55a,55bがリングの中心を向いて固定され、エアシリンダ55a(55b)のロッド56a(56b)の先端には電極51a(51b)が配置されている。被測定体50は支持板53の開閉部52を開くことによって支持板51の中心部に入り込み、開閉部52を閉じた後に測定に供される。
【0017】
被測定体表面への電極51a(51b)の接触は、エアシリンダ55a(55b)に空気圧をかけてロッド56a(56b)を伸長し、電極51a(51b)を被測定体表面に押し付けることにより行う。測定部位をたとえば人体腹部とする場合には、被験者を支持板53の中心に立位で静止させ、支持板53の高さを被験者の臍高位に合わせることにより被験者の腹部外周上に電極を配置する。
【0018】
本実施形態の体脂肪測定装置は図5および図6に示すように2組の電極群51a,51bを上下二段のリング状に配置し、任意の2つの電極を電流源たる定電流回路23と接続する電極(電流電極)として選択し、その近傍に配置された電極を当該電極位置における電圧測定電極として選択することにより、腹部の一周にわたって電位差を測定することができる。本実施形態においては第1電極群51aの一対の電極を電流電極として選択し、当該電極位置における電圧測定電極は電流電極に対応する第2電極群51bを選択するものとして説明する。なお、図5において電極51a,51bを支持する構造は省略している。
【0019】
各電極51a,51bの近傍にはプリアンプ37a,37bが配置され,電極が電圧測定電極として選択された場合にはプリアンプ37a,37bの出力が選択スイッチ群36を介して差動増幅器26に出力される。また、電流電極として選択された電極51aはスイッチ群24を介して定電流回路23の電流源72a,72bに接続されるとともに、選択スイッチ群36は対応する第2電極群51bを電圧測定電極として選択する。なお、スイッチ群24の1単位は1対のスイッチからなり、各スイッチは電流源72a,72bのいずれかに接続されて、所定の電流電極を選択する。
【0020】
第1電極群51aは被測定体の外周表面上を取り巻くように複数(N個)の電極が1次元配置され、第2電極群51bは第1の電極群51aの各電極に対応するように複数(N個)の電極が隣接配置される。電極51a,51bの数Nは、測定部位の種類や大きさに応じて適宜選択することができるが、本実施形態においてはN=32個として説明する。
【0021】
被験者(測定対象)を導電率が3次元に分布する長形物体(仮想モデル体)とみなしたときに、第1電極群51aおよび第2電極群51bは物体の所定の高さ(腹部)で長手方向に直交するように配置される。この場合に、基準の位置(たとえば臍高位)から方位角方向に電極をリング状に実質的に等間隔に配置し、図6に示すように第1の電極群51aを{A,A,・・・,Ai−1,A,Ai+1,・・・,A}、第2の電極群51bを{B,B,・・・,Bi−1,B,Bi+1,・・・,B}と表すことにする。たとえば、電極Bは電極Aの近傍に配置され、本実施形態では電極Aに対して長形物体の長手方向に平行な方向(上下方向)の近傍に配置される。したがって、1つの電極位置(i=1,2,・・・,N)に第1電極群の電極(A)と第2電極群の電極(B)が相互に近傍に配置される。
【0022】
インピーダンスの精密測定には4電極法によらなければならない。したがって、第1の電極群51aのうち電極Aと電極Ai+2が電流電極として選択された場合には、従来であれば、電極Ai+1、Ai+3、Ai+4、Ai+5・・・A、A、A・・・Ai−1のN−2個の電極を用いて隣接電極間の電位差を測定していた。ただし、電極位置Ai+1は両隣りが電流電極のため、実質的に電位差測定に利用しにくい。これに対して、本発明は従来測定できなかった電極Ai−1、A、Ai+1、Ai+2、Ai+3の隣接電極間の電位差をそれとほぼ等価なAi−1、B、Ai+1、Bi+2、Ai+3の隣接電極間の電位差に置き換えて完全な測定を実現することができる。
【0023】
ここでi番目の電極位置にある電極(AまたはB)の電位をV、i+1番目の電極位置にある電極(Ai+1またはBi+1)の電位をVi+1、これらの電位差をΔV=Vi+1−Vと表現すると、隣接電極間電位差の総和はキルヒホッフの第2法則により、
【数1】

【0024】
が成立する。なお、電極A(B)の隣接電極はAN−1(BN−1)とA(B)とし、iはN(=32)を法とするものとして解釈する(A=A)。
【0025】
この場合、第1電極群の特定の2個の電極A、Ai+2を電流電極として選択すると、他の30個の電極Ai+3、Ai+4、Ai+5・・・A32、A、A・・・Ai−1、Ai+1と第2電極群のうち電極B、Bi+2が電圧測定電極として選択される。すなわち、第1電極群51aから順次選択される2つの電極位置(i,i+2)の電極を電流電極(A,Ai+2)として選択して電流を印加し、すべての電極位置(i=1,2,・・・,N)について電流電極以外の62個の電極から所定の一対の電極を電位測定電極として選択し、隣接電極位置における前記電位測定電極間の電位差(ΔV〜ΔV)を順次測定する。
【0026】
より具体的には、コンピュータ21に含まれるコントローラに制御されたスイッチ群24が任意の一対の電極51aを電流電極として選択する。スイッチ群24は図6に例示するように、定電流回路23の2本の出力線を特定の電極A,Ai+2に選択的に接続するスイッチ群であるが、図2においては簡略化して表現している。
【0027】
図2には32対の第1電極群51a、第2電極群51bのうち4対のみが例示されている。マルチプレクサ27等についても同様である。すなわち、図において上側の2対の電極群のうち第1電極群51aの2つの電極がスイッチ群24により電流電極として選択されてそれぞれ電流源72a,72bに接続され、対応する第2電極群51bの2つの電極がスイッチ群36により電圧測定電極として選択されている。
【0028】
また、図において下側の2対の電極群のうち第1電極群51aがスイッチ群36により測定電極として選択されるが、第2電極群51bはインピーダンス測定手段に接続されない。電圧測定はマルチプレクサ27で測定電極を順次切り換えることにより実行される。
【0029】
<電極ユニット>
図2では定電流回路23の接続相手の2つの電極51aをスイッチ群(マトリックススイッチ)24のON/OFFにより選択するように模式的に表現したが、正弦波発振器22に基づいて正弦波電流を発生する定電流回路23を各電極51aの近傍に配置し、スイッチ群24を配置してON/OFFを切り換えるように構成してもよい。
【0030】
図3は、1対の電極群51a,51bを含む電極ユニット40とこれに接続される回路ユニット41の一組のみを模式的に表現したものである。
【0031】
電極ユニット40は第1電極群51aの1つの電極(たとえばA)とその近傍に配置される第2電極群51bの1つの電極(たとえばB)および各電極に切り換え可能に接続されるプリアンプ37a,37bを含む。また、スイッチ群25は図2のスイッチ群24の断続機能を含み、第1電極群51aが電流電極として選択された場合には回路ユニット41の定電流回路23の電流を第1電極群51aに導き、それ以外の場合には第1電極群51aをプリアンプ37aの入力に択一的に接続する。また、スイッチ群36は、第1電極群51aが電流電極として選択された場合には第2電極51bに接続されたプリアンプ37bの出力を差動アンプ26に接続し、それ以外の場合には第1電極51aに接続されたプリアンプ37aの出力を差動アンプ26に択一的に接続する。スイッチ群36で選択された電圧信号はラインcを経由して回路ユニット41の差動増幅器26に出力されるとともにラインfを介して隣接する回路ユニットの差動増幅器(図示せず)に出力される。
【0032】
回路ユニット41は測定系として差動アンプ26、バッファアンプ43、および電流刺激系として位相反転器46、位相選択スイッチ47、電流源45を含む。差動増幅器26はスイッチ群36で選択された測定電極の電位と、隣接する回路ユニットからラインeを介して入力された隣接位置の測定電極の電位との電位差を増幅してバッファアンプ43を介してラインaからマルチプレクサ27に出力する。また正弦波発振器22からラインbを介して正弦波信号が位相反転器46に入力し、非反転出力と反転出力とがスイッチ47で選択される。選択された正弦波電圧信号は電圧制御型電流源45で電圧電流変換されて正弦波電流を発生し、ラインdを介して電流電極51aに出力される。
【0033】
図3のような電極ユニット40と回路ユニット41の構成により定電流回路23と電流電極とが近接配置されるため周波数特性が改善される。なお、32組の電極ユニット40と回路ユニット41は32組の電極部70に組み込まれるように構成してもよい。
【0034】
<電位測定>
全ての隣接電極間電位差ΔVが測定されると(N回)、任意の電極位置i,j間(i<j)の電位差ΔVijは測定で得られた電位差ΔVを用いて、
【数2】

【0035】
から算出することができる。
【0036】
被測定体表面で発生した電位は、電極51a,51bを通して差動増幅器26で増幅され、その出力信号がマルチプレクサ27を通ってバンドパスフィルタ(帯域通過フィルタ)28に導かれる。バンドパスフィルタ28を通過した信号は、位相検出型アンプ29に導かれ、移相器31からのタイミング信号を用いて正弦波発振器22と同一位相の成分(実部)と90度位相の遅れた成分(虚部)に分解された後、直流電圧信号に変換される。その後、直流電圧信号がA/D変換器(直流電圧計)30によってA/D変換され、コンピュータ21に取り込まれる。
【0037】
これらの操作をマルチプレクサ27の接点を移動させて繰り返し、すべての差動増幅器26からの出力信号を計測する。さらに、スイッチ群24(25)を順次切り替えて別の電極間に電流を流し、差動増幅器26からの出力信号を同様にして計測する。
【0038】
被測定体50に電流を印加するための電流電極51aは被測定体50の外周上に配置した電極から適宜選択できる。また、電流電極51aの電極間隔は電圧測定のダイナミックレンジ等を考慮して適宜設定できるが、本実施形態ではひとつおきに隣接する2つの電極すなわち隣接電極間隔の2単位分の距離を設定し、2つの電極を被測定体50の全周のすべての位置(電極位置iとi+2)について選択する。この場合には選択される電極位置の組み合わせは、{(i,i+2)}={(1,3),(2,4),(3,5)・・・(N−2,N),(N−1,1),(N,2)}とすることができる。
【0039】
<測定誤差の補償>
すでに説明したように、2組の電極群51a,51bを配置したことにより、1周にわたる隣接位置の電極間の電位差の総和が式(1)に示すように常にゼロになることを利用することができる。ところでプリアンプ37a,37b、差動増幅器26、ロックインアンプ29等の測定回路を介して現実に測定される電位差をΔV’、直流信号を処理するロックインアンプ29、A/D変換器30等で生じる誤差電圧(オフセット電圧等)をe、電位差の真値をΔVとすると、生の測定データはΔV’=ΔV+eと表現できる。この誤差電圧eには、生体インピーダンスにより生じた電位差とは関係なく電子回路で発生する飛来ノイズも含まれる。すなわち、プリアンプ37a,37bの入力インピーダンスは接触抵抗の影響を極力軽減するために非常に大きいため空中を伝搬する測定周波数と同一の飛来ノイズの影響を受けやすい。
【0040】
インピーダンス測定からインピーダンス分布の画像を再構成するためには一般に有効数字6桁の精度が必要とされる。したがってわずかな測定誤差があっても高精度な測定には深刻な問題となる。そこで、測定回路系に依存する測定誤差を簡便かつ確実に除去する方法が望まれていた。
【0041】
発明者らは測定対象50を一巡する欠けのない本発明の電位差測定法によれば、式(1)より、
【数3】

【0042】
となるので、
【数4】

【0043】
により測定誤差eが補償され、真値を容易に推定することができることを見いだした。すなわち、各電位差の実測値ΔV’およびその総和Vtotalに基づいてΔVを求めることができ、さらに式(2)より高い精度で任意の電位差ΔVijを算出することができる。
【0044】
<輪郭形状の計測>
複雑な脂肪分布を画像化するためには楕円等で近似するのでは足りず、現実の測定部位断面の輪郭形状を測定する必要がある。
【0045】
輪郭情報測定手段3は電極部70のエアシリンダ55a(55b)に配置された位置センサ57a(57b)とコンピュータ(コントローラ)21とから構成される。エアシリンダ55a(55b)にはロッド55a(55b)が駆出された量に応じた電気信号を出力する位置センサ57a(57b)が取り付けられている。コンピュータ21は、ロッド56a(56b)が完全に引き込まれた時の電極の位置情報と位置センサ57a(57b)によって検出されたロッド56a(56b)の駆出量情報とから、被測定体50に接触した状態の電極51a,51bの位置を算出する。したがって、すべてのエアシリンダ55a,55bにおける電極51a(51b)の位置を検知することにより、被測定体50の輪郭形状や断面積などが得られる。
【0046】
図7は1対の電極51a,51bを一体的に構成した電極部70を示す。電極部70は輪郭情報測定手段3、電極ユニット(図示せず)、回路ユニット(図示せず)を含んで構成される。1対の電極51a,51bは低摩擦空気シリンダ75のロッド76の先端に固定された電極支持部77に位置固定される。ロッド76は主軸が被測定体50の輪郭にほぼ垂直に向かう方向Aに伸縮自在である。また電極51a,51bの繰り出し量は位置センサ(リニアポテンショメータ)としてのスライド抵抗器78により検出される。すなわち、電極支持部77にスライド抵抗器78の可動部78aが位置固定され,抵抗体78bが低摩擦空気シリンダ75に位置固定されるため、電極51a,51bの繰り出し量が相応する抵抗値に変換されて位置検出される。このように電極部70を一体として構成することによって構造が簡素化されて小型化することができるとともに、回路部分(電極ユニット40、回路ユニット41)を電極近傍に組み込むことによって周波数特性やS/Nが向上する。
【0047】
<導電率分布の算出>
導電率分布算出手段4はコンピュータおよびそのコンピュータに組み込まれたソフトウエアを含み、取得されたデータに基づいて導電率分布またはインピーダンス分布を算出する。なお、インピーダンス[Ωm]は導電率[Ω−1−1]の逆数でこれらは等価である。
【0048】
まず、輪郭情報測定手段3によって求められた測定部位断面の輪郭形状ならびに測定部位外周上に配置された電極51a,51bの位置情報に基づいて被測定体50と同一の輪郭形状を有する仮想モデル面が構成される。次に、仮想モデル面上に初期値として適当な導電率分布を与え、インピーダンス測定手段2による測定と同様の電極間に同様の電流を流したとき、仮想モデル面外周上に発生する電位分布を有限要素法などによって計算する。
【0049】
算出した電位分布を、インピーダンス測定手段2で実際の被測定体50に対して測定された電位差ΔVijと比較し、両者の差(残差)が小さくなるように、仮想モデル面上の導電率分布を修正する。導電率分布を修正した仮想モデル面に対して、同様にして外周の電位分布を計算し、実測値と再度比較する。残差が所定の設定値以下になるまであるいは残差が一定値に収束するまでこれらの操作を反復し、仮想モデル面上に測定部位断面と同一の導電率分布を再現する。二次元的な仮想モデル面の代わりに、長手方向に同一の断面形状を有する三次元的な仮想モデル体を用いてもよい。
【0050】
<脂肪量算出>
脂肪量算出手段5はコンピュータに含まれ、導電率分布算出手段4によりえられた導電率分布画像に基づいて脂肪量を算出する。すなわち、脂肪と筋肉等の非脂肪部分とは導電率が異なるため、導電率の分布が脂肪、筋肉等の分布を反映しているので、たとえば所定のしきい値以下の導電率を有する領域を脂肪領域と判定し、それ以外の領域を非脂肪域と判定し、これらの結果に基づいて脂肪量を算出することができる。本発明には他の脂肪量算出方法も適用することができる。いずれの脂肪量算出方法であっても本発明のインピーダンス測定法によれば脂肪量の推定精度を向上させることができる。
【0051】
表示手段6は、液晶表示装置や有機EL表示装置等の映像表示装置あるいは紙、フィルム等の印刷媒体への印刷機器を用いることができる。映像表示装置の画面あるいは印刷機器の印刷媒体上には、算出した導電率分布画像や脂肪分布画像を表示したり、被験者のプロフィールなどの入力データや算出した体脂肪量などの出力データの数値および文字情報を表示することができる。
【0052】
(変更実施形態)
本発明はすでに説明したように、所定の電極位置(i,i+2)の電流電極が選択された場合に、すべての電極位置(i=1,2,・・・,N)について隣接電極間電位差ΔVを測定することを特徴とする。そのため、本実施形態では第1電極群から所定の電極位置の2個の電極を電流電極として選択し、電位測定面を電流電極位置とできるだけ一致させるように順次電圧測定電極を選択した。電流電極近傍の電圧測定電極がジグザグに選択されるためジグザグモードと呼ぶことにする。この場合には図6に示すように、第1電極群の電極51aと第2電極群51bから電極ユニット40および回路ユニット41を介して電圧測定電極を順次切り換える必要がある。
【0053】
図8には、電流電極を第1電極群51aから順次選択し、電圧測定電極を第2電極群51bから順次選択する変更実施形態を示す。電流電極位置からわずかにずれた平面上に電圧測定電極が配置されるのでパラレルモードと呼ぶことにする。この場合にも全ての電極位置について隣接電極間電位差ΔVを測定するのでキルヒホッフの第2法則を利用することができる。さらに、電極ユニット40においてスイッチ群25、36による電気的接続の切り換え等が不要となるためジグザグモードに比べて回路を簡素化、小型化することができる。
【0054】
本発明によれば、2組の電極群を用いて測定対象の精密なインピーダンス測定が可能となるため、より高い空間分解能の導電率分布画像や脂肪分布画像を算出することができる。
【符号の説明】
【0055】
1a,1b 電極群
21 コンピュータ(コントローラ)
22 正弦波発振器
23 定電流回路
24,25,36 スイッチ群
26 差動増幅器
27 マルチプレクサ
28 バンドパスフィルター
29 ロックインアンプ
30 A/D変換器
31 移相器
37a,37b プリアンプ
40 電極ユニット、 41 回路ユニット
51a 第1電極群、 51b 第2電極群
52 開閉部
53 支持板
55a,55b,75 エアシリンダー
56a,56b,76 ロッド
57a,57b,78 位置センサ
70 電極部
72a,72b 交流電流源
77 電極支持部
78 スライド抵抗器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象の外周上に環状に複数の電極位置が規定され、各電極位置に各電極が配置される第1電極群と、
前記各電極位置において前記第1電極群の電極の近傍に各電極が配置される第2電極群と、
(i)前記第1電極群のうち順次選択される2つの電極位置の電極を電流電極として選択して電流を印加し、
(ii)すべての電極位置について前記電流電極以外の電極から電位測定電極を選択し、隣接電極位置における前記電位測定電極間の電位差を順次測定するインピーダンス測定手段と、
測定結果に基づいて前記測定対象の断面上の導電率分布を算出し、画像化する導電率分布算出手段と
を具備することを特徴とする導電率分布画像の生成装置。
【請求項2】
前記隣接電極位置の前記電位測定電極間の電位差の総和がゼロとなるように前記インピーダンス測定手段の測定誤差が補償されることを特徴とする請求項1記載の導電率分布画像の生成装置。
【請求項3】
前記インピーダンス測定手段が選択する電位測定電極は、前記第1電極群のうち前記電流電極として選択されない電極および前記第2電極群のうち前記電流電極の電極位置の電極から選択されることを特徴とする請求項1または2記載の導電率分布画像の生成装置。
【請求項4】
前記インピーダンス測定手段が選択する電位測定電極は、前記第2電極群から選択されることを特徴とする請求項1または2記載の導電率分布画像の生成装置。
【請求項5】
前記第1電極群の各電極とそれに対応する前記第2電極群の電極が電極支持部に位置固定されて、前記電極支持部は測定対象の外周に向かう方向に移動自在であり、
前記電極支持部の移動量に基づいて前記測定対象の外周の輪郭形状を取得し前記導電率分布算出手段に出力する輪郭形状測定手段をさらに具備することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載の導電率分布画像の生成装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項記載の導電率分布画像の生成装置と、
算出された導電率分布に基づいて脂肪量を算出する脂肪量算出手段と、
算出された脂肪量を表示する表示手段と
を具備することを特徴とする体脂肪測定装置。
【請求項7】
測定対象の外周上に環状に規定される複数の電極位置に対して各電極位置に各電極が配置される第1電極群から順次選択された2つの電極間に電流を印加することと、
前記各電極位置において前記第1電極群の電極の近傍に各電極が配置される第2電極群と前記第1電極群とからすべての隣接電極位置について前記電流を印加した電極以外の電極を順次選択して電位差を測定することと、
前記隣接電極位置の電極間の電位差の総和がゼロとなるように各電位差の測定誤差を補償することと、
補償された各電位差に基づいて前記測定対象の断面上の導電率分布を算出して画像化することと
を含むことを特徴とする導電率分布画像の生成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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