説明

導電路

【課題】電磁ノイズ低減対策に新たなスペースや高機能対策部品を必要とせずに、ケーブル側シールド筐体に接続する際にもシールド効果の低下を抑制し、ノンシールド線から外部へ放射される電磁ノイズを低減すると共に、機器に接続する際の良好な作業性を確保することが可能な導電路を提供する。
【解決手段】導電路10は、ケーブルシールド12から露出した複数本のノンシールド線11は、複数本のノンシールド線11の端部に向かって末広がりとなるようにされ、開口シールド17は、ケーブルシールド12と電気的に接続されると共に、ケーブルシールド12の端部側から複数本のノンシールド線11の端部に向かって末広がりに形成され、開口シールド17の単位面積当たりの開口部18の面積の割合であるシールド開口率は、開口シールド17の全体に亘って一定であることを特徴とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノンシールド線から外部への電磁ノイズを遮蔽するための導電路に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図3(a),(b)に示すように、多相交流機器間を複数本のノンシールド線31(シールド層を有しない絶縁電線)で接続する場合には、これらノンシールド線31を一括して編組シールド32で覆い、その編組シールド32をケーブル側コネクタ33のケーブル側シールド筐体34に接続し、機器を内部に収容すると共にグランドされた機器側コネクタの機器側シールド筐体にケーブル側シールド筐体34を接続することにより、複数本のノンシールド線31から外部への電磁ノイズを遮蔽している(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3909763号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、複数本のノンシールド線31をケーブル側コネクタ33に接続する際には、複数本のノンシールド線31をケーブル側コネクタ33の対応する端子35に接続する必要があるが、これら端子35は規格等に適合した配置となっており、大抵の場合、複数本のノンシールド線31はその間隔を広げられて対応する端子35に接続される。
【0005】
そのため、特許文献1に記載された技術では、編組シールド32をケーブル側シールド筐体34に接続する際に、編組シールド32をほぐして広げてから接続する必要がある。この場合、編組シールド32のシールド開口率(編組シールド32の単位面積当たりの隙間36の面積の割合)がノンシールド線31側からケーブル側シールド筐体34側にかけて徐々に高くなる。
【0006】
シールド開口率が高くなるにつれて編組シールド32のシールド効果が低下していき、外部へ放射される電磁ノイズが増大する。この外部へ放射された電磁ノイズは、機器に悪影響を及ぼすこともある。
【0007】
これを解決するために、複数本のノンシールド線31を一括して金属シートで巻くという方法も考えられるが、この方法では作業性を確保するための十分な可撓性を得られないという問題があった。
【0008】
また、近年、自動車分野において、排ガス規制の強化等に伴って電気自動車の需要が拡大しており、同時に、車載インバータ及び駆動モータの適用が拡大している。その使用電圧は高電圧化、大電流化してきており、車載インバータの出力密度は増大傾向にある。
【0009】
そのため、機器に起因して発生する電磁ノイズのエネルギも増大し、その電磁ノイズが機器から直接空間に放射される、或いは機器と接続されているノンシールド線に伝導し、ノンシールド線及びケーブル側コネクタから放射される。この電磁ノイズの放射により、例えば、車内で使用されるラジオが聞きにくくなる等の障害(ラジオ周波数帯への電磁干渉増大)が懸念される。
【0010】
一方、機器側コネクタと接続されるケーブル側コネクタには、小型化、軽量化が求められており、コネクタ部において電磁ノイズ低減対策を図ることが困難な状況となっている。
【0011】
コネクタ部に施す電磁ノイズ低減対策が困難な理由としては、アクティブ回路等の高機能対策部品を設けるための空間が狭い(新たな部品設置可能スペースが狭い)こと、高機能対策部品を新たに設けると大幅な工数増、コスト増につながること、等が挙げられる。
【0012】
そこで、本発明は、これら事情に鑑み成されたものであり、電磁ノイズ低減対策に新たなスペースや高機能対策部品を必要とせずに、ケーブル側シールド筐体に接続する際にもシールド効果の低下を抑制し、ノンシールド線から外部へ放射される電磁ノイズを低減すると共に、機器への接続の際の良好な作業性を確保することが可能な導電路の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この目的を達成するために創案された本発明は、複数本の電線と、前記複数本の電線の一部を一括して覆う第1シールドと、前記第1シールドから露出した前記複数本の電線を一括して覆うと共に、複数の開口部が形成された第2シールドと、からなる一括シールドと、を備え、前記第1シールドから露出した前記複数本の電線は、前記複数本の電線の端部に向かって末広がりとなるようにされ、前記第2シールドは、前記第1シールドと電気的に接続されると共に、前記第1シールドの端部側から前記複数本の電線の端部に向かって末広がりに形成され、前記第2シールドの単位面積当たりの前記開口部の面積の割合であるシールド開口率は、前記第2シールドの全体に亘って一定であることを特徴とする導電路である。
【0014】
前記複数本の電線の端部に取り付けられる複数の端子と、前記複数の端子を収容するシールド筐体と、を有するコネクタを更に備え、前記第2シールドは、前記シールド筐体に接続されると良い。
【0015】
前記電線は、シールドが施されていないノンシールド線であると良い。
【0016】
前記シールド開口率が35%以下であると良い。
【0017】
前記第2シールドは、金属シートに前記開口部が形成されてなると良い。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、電磁ノイズ低減対策に新たなスペースや高機能対策部品を必要とせずに、ケーブル側シールド筐体に接続する際にもシールド効果の低下を抑制し、ノンシールド線から外部へ放射される電磁ノイズを低減すると共に、機器への接続の際の良好な作業性を確保することが可能な導電路を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の導電路を示す模式図であり、(a)は平面図、(b)は開口シールドを破線で示した平面図である。
【図2】放射電界強度のシールド開口率依存性を示す図である。
【図3】従来の導電路を示す図であり、(a)は平面図、(b)は編組シールドを破線で示した平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の好適な実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0021】
図1は、本発明の好適な実施の形態に係る導電路を示す模式図であり、(a)は平面図、(b)は開口シールドを破線で示した平面図である。
【0022】
(本実施の形態に係る導電路10の概要)
図1(a),(b)に示すように、本実施の形態に係る導電路10は、複数本(3本)の電線としてのノンシールド線11と、3本のノンシールド線11の一部を一括して覆う第1シールドとしてのケーブルシールド12と、ケーブルシールド12から露出した3本のノンシールド線11を一括して覆うと共に、複数の開口部18が形成された第2シールドとしての開口シールド17と、からなる一括シールド20と、を備え、ケーブルシールド12から露出した3本のノンシールド線11は、3本のノンシールド線11の端部に向かって末広がりとなるようにされ、開口シールド17は、ケーブルシールド12と電気的に接続されると共に、ケーブルシールド12の端部側から3本のノンシールド線11の端部に向かって末広がりに形成され、開口シールド17の単位面積当たりの開口部18の面積の割合であるシールド開口率は、開口シールド17の全体に亘って一定であることを特徴とする。
【0023】
以下、本実施の形態における各構成を詳細に述べる。
【0024】
(ノンシールド線11)
ノンシールド線11は、導体の外周を絶縁層で被覆した絶縁電線からなり、単体でシールド機能を有さないものを用いている。本実施の形態においては、一例として電気自動車における車載インバータと駆動モータとの間の接続を想定しており、三相交流を扱うために3本のノンシールド線11を用いている。本実施の形態において、後述するシールドケーブル13のケーブルシールド12に一括して覆われている3本のノンシールド線11の一部は、互いに螺旋状に巻きまわされて束のようにされている。また、ケーブルシールド12から露出した3本のノンシールド線11は、3本のノンシールド線11の端部に向かって末広がりとなるようにされている。即ち、3本のノンシールド線11は、本実施の形態において、機器と接続する側に向かって図1(b)における上下方向に間隔を広げられて末広がりとなるようにされている。これに伴い、後述するケーブル側コネクタ16の幅(図1(b)のおける上下方向の長さ)は、シールドケーブル13の径よりも大きくなっている。
【0025】
(シールドケーブル13)
シールドケーブル13は、3本のノンシールド線11と、3本のノンシールド線11の一部を一括して覆うケーブルシールド12と、絶縁と保護の観点からケーブルシールド12の外周を更にシース19で被覆したものである。なお、シールドケーブル13は、3本のノンシールド線11とケーブルシールド12との間に絶縁層を有するものや、ケーブルシールド12とシース19との間に補強編組層を有するものとすることも可能である。
【0026】
(ケーブルシールド12)
ケーブルシールド12は、上述した通り、3本のノンシールド線11の一部を一括して覆うものである。また、ケーブルシールド12は、本実施の形態において、複数本の金属素線を編み込んだ金属編組からなる。
【0027】
(一括シールド20)
一括シールド20は、シールドケーブル13の一部を構成する上述のケーブルシールド12と、開口シールド17と、からなる。ケーブルシールド12と開口シールド17とは、加締め接続(図1の部分A)して一体化され、一括シールド20を成している。
【0028】
(開口シールド17)
開口シールド17は、シールドケーブル13から露出した3本のノンシールド線11を一括して覆うものである。開口シールド17は、金属シートに複数の開口部18が形成されてなる。この金属シートとしては、金属箔や、金属以外のシート部材の表面に金属膜を施したもの等を用いることが可能である。また、開口部18を形成する方法としては、金属シートを打ち抜く方法等を用いることが可能である。開口シールド17のシールド開口率は、開口シールド17の全体に亘って一定にされている。
【0029】
上述した通り、ノンシールド線11のケーブルシールド12から露出した部分が末広がりとなるようにされ、ケーブル側コネクタ16の幅がシールドケーブル13の径よりも大きくなっていることに伴い、開口シールド17は、ケーブルシールド12と電気的に接続されると共に、ケーブルシールド12の端部側から3本のノンシールド線11の端部に向かって末広がりに形成されている。言い換えれば、開口シールド17は、ケーブルシールド12と電気的に接続されると共に、ケーブルシールド12の端部側から3本のノンシールド線11の端部に向かって末広がりとなる中空錐台形状に形成されている。なお、開口シールド17は、シールド開口率が一定となるように制御された編組部材からなるものとすることも可能である。
【0030】
(ケーブル側コネクタ16)
本実施の形態に係る導電路10は、更にケーブル側コネクタ16を備える。ケーブル側コネクタ16は、ノンシールド線11の端部に取り付けられる複数の端子14と、複数の端子14を収容するケーブル側シールド筐体15と、からなる。ケーブル側シールド筐体15には、開口シールド17が接続されている。ケーブル側シールド筐体15は、アルミニウム等の導電性に優れた材料で構成されており、ケーブル側コネクタ16を図示しない機器側コネクタに接続したときに、機器側コネクタに接続したときに、機器側コネクタの機器側シールド筐体に接触することでグランドに接続される。
【0031】
ここで、開口シールド17の好ましいシールド開口率の範囲について述べる。
【0032】
本発明者は、シールド開口率が放射電界強度に与える影響、即ち、放射電界強度とシールド開口率の相関を調査した。具体的には、シールド開口率が、65%(従来相当(編組シールドの一般的な開口率))、37%、24%、19%、15%、9%、0%(開口部18がない状態)のそれぞれの模擬シールドについて、100MHz、10MHz、1MHzの3つの周波数毎の放射電界強度をシミュレーションで求めた。そして、このシミュレーションの結果をシールド開口率が65%の模擬シールドの電界強度を基準として纏めたものが図2である。
【0033】
図2から分かるように、シールド開口率が35%以下であれば、放射電界強度をシールド開口率が65%の場合に比べて20dB(1桁)以上低減することができる。
【0034】
以上の検討から、本発明者は、開口シールド17のシールド開口率が35%以下であることが好ましいとの結論に至った。
【0035】
このようにシールド開口率を制御した開口シールド17は、その一端がケーブルシールド12の端部に加締め接続(図1の部分A)されると共に他端がケーブル側シールド筐体15に圧接、圧着又ははんだ付け接続(図1の部分B)される。
【0036】
これにより、シールドケーブル13のケーブルシールド12が開口シールド17を介してケーブル側シールド筐体15に接続され、更に機器側シールド筐体を介してグランドに接続される。
【0037】
(本実施の形態の作用効果)
この開口シールド17は、従来、編組シールド32が配置されていたスペースに設けられるため新たなスペースを必要とせず、また質量も編組シールド32と変わるところはなく、ケーブル側コネクタ16に求められている小型化、軽量化を阻害する要因とはならない。
【0038】
また、開口シールド17は、高機能対策部品を必要とせずに電磁ノイズ低減対策を施すものであり、導電路10の製造にあたって大幅な工数増、コスト増となることはない。
【0039】
更に、ケーブルシールド12と電気的に接続されると共に、ケーブルシールド12の端部側から3本のノンシールド線11の端部に向かって3本のノンシールド線11が末広がりとなるようにされている場合であっても、開口シールド17のシールド開口率は、開口シールド17の全体に亘って一定にされているので、従来の編組シールドのように、シールド開口率がノンシールド線側からケーブル側シールド筐体にかけて高くなることはなく、シールド機能の低下を抑制することが可能である。
【0040】
更にまた、開口シールド17は、開口部18を有しているため、良好な可撓性を有する。このため、導電路10を機器に接続する際の良好な作業性を確保することが可能となる。また、導電路10を例えば振動が加わる車両の内部の機器(例えば、インバータ等)に接続すると、導電路10と当該機器との接続部には振動による応力が発生してしまうが、開口シールド17は、良好な可撓性を有するので、その振動を吸収して応力を緩和することが可能である。
【0041】
以上説明したように、本発明によれば、シールド開口率が制御された開口シールド17を用いることで、電磁ノイズ低減対策に新たなスペースや高機能対策部品を必要とせずに、ケーブル側シールド筐体に接続する際にもシールド効果の低下を抑制し、ノンシールド線から外部へ放射される電磁ノイズを低減すると共に、機器に接続する際の良好な作業性を確保することが可能な導電路を提供することができる。
【0042】
また、開口シールド17として開口部18を有する金属シートを用いることで、編組シールドをほぐす手間を軽減することが可能であるという副次的な効果を奏する。
【0043】
(他の実施の形態)
本実施の形態は、上記実施の形態に限定されず、種々の変形を伴って実施することが可能である。その一例を以下に述べる。
【0044】
(1)上記実施の形態において、3本のノンシールド線11は、シールドケーブル13の一部を構成するものとしたが、3本のノンシールド線11は、剛性の高いシールド機能を有する金属製のパイプ(第1シールドに相当)に挿通することも可能である。この場合、開口シールド17は、金属製のパイプから露出した3本のノンシールド線11を一括して覆い、金属製のパイプの端部に金属バンド等で接続されると良い。
【0045】
(2)上記実施の形態において、開口シールド17は、ケーブルシールド12から露出した3本のノンシールド線11のみを一括して覆うものとしたが、ノンシールド線の全部を覆うことも可能である。
【0046】
(3)上記実施の形態において、電線としてノンシールド線11を用いたが、シールド線を用いることも可能である。また、電線は、2本であっても、4本以上であってもよい。
【符号の説明】
【0047】
10 導電路
11 ノンシールド線(電線)
12 ケーブルシールド(第1シールド)
13 シールドケーブル
14 端子
15 シールド筐体(ケーブル側シールド筐体)
16 コネクタ(ケーブル側コネクタ)
17 開口シールド(第2シールド)
18 開口部
19 シース
20 一括シールド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本の電線と、
前記複数本の電線の一部を一括して覆う第1シールドと、前記第1シールドから露出した前記複数本の電線を一括して覆うと共に、複数の開口部が形成された第2シールドと、からなる一括シールドと、
を備え、
前記第1シールドから露出した前記複数本の電線は、前記複数本の電線の端部に向かって末広がりとなるようにされ、
前記第2シールドは、前記第1シールドと電気的に接続されると共に、前記第1シールドの端部側から前記複数本の電線の端部に向かって末広がりに形成され、
前記第2シールドの単位面積当たりの前記開口部の面積の割合であるシールド開口率は、前記第2シールドの全体に亘って一定であることを特徴とする導電路。
【請求項2】
前記複数本の電線の端部に取り付けられる複数の端子と、前記複数の端子を収容するシールド筐体と、を有するコネクタを更に備え、
前記第2シールドは、前記シールド筐体に接続される請求項1に記載の導電路。
【請求項3】
前記電線は、シールドが施されていないノンシールド線である請求項1又は2に記載の導電路。
【請求項4】
前記シールド開口率が35%以下である請求項1〜3のいずれかに記載の導電路。
【請求項5】
前記第2シールドは、金属シートに前記開口部が形成されてなることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の導電路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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