説明

導電部材、端子、導電部材の製造方法、及び端子の製造方法

【課題】特に、貴金属のような高価な材料を要することなく、長期間、接触抵抗を低く維持することができ、かつ、微摺動磨耗を抑制できる導電部材、及びこの導電部材を用いた端子を提供し、さらに、この導電部材及び端子を容易に製造できる製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】他の導体と接触する接触部位を有し、前記他の導体との接触によって、前記他の導体と電気的に接続される導電部材であって、銅系材料からなる基材と、前記基材の表面の少なくとも前記接触部位に配置される導電性皮膜とを備え、前記導電性皮膜が、銅とガリウムとを含む化合物からなることを特徴とする導電部材を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気接続端子等に用いられる導電部材、この導電部材を用いた端子、及びこれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気接続端子等に用いられる導電部材の基材には、導電率が高く、延性に富み、適度な強度を有する銅(Cu)が好ましく用いられている。しかし、銅を含む銅系基材は、その表面に酸化膜や硫化膜等の絶縁性の皮膜が形成されるため、他の導体との接触時における接触抵抗(境界抵抗)を高くしてしまう。その抵抗値は、例えば、材質や使用環境によっても異なるが、数Ωに達することもあり、電気回路の誤作動等を引き起こすこともある。
【0003】
そこで、導電部材としては、銅系基材表面にスズめっきを施したものが用いられている。スズは、他の金属と比較して硬度が低いので、このスズが酸化されて絶縁性皮膜が形成されても、この絶縁性皮膜は比較的弱い力で破壊される。従って、スズめっきを施した導電部材は、絶縁性皮膜を容易に破壊でき、新生面を露出させることによって、良好な電気的な接続を確保できる。
【0004】
一方、銅系材料を主成分とした他の材料としては、例えば、銅系材料を母材とし、他の導体と接触させる電気接点の表面から0.01〜0.1mmの表層部に、ホウ化物粒子を分散させた電気接点材料等が挙げられる(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開昭58−128609号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
スズめっきを施した導電部材は、上記のように、その表面に他の導体を接触させ、荷重をかけることによって、他の導体との接触抵抗を低下できる。しかしながら、スズめっきを施した導電部材は、その表面に他の導体の接触による荷重をかけた状態で、振動や温度変化等による微摺動した場合、導電部材の表面に存在するスズ酸化物の量が増大することによって、他の導体との接触抵抗が高くなる、いわゆる微摺動磨耗(Fretting corrosion)という現象が生じる。微摺動磨耗とは、スズめっき表面の酸化膜が摺動により剥がされてスズ新生面が大気に露出し、その新生面表面のスズを酸化することが繰り返されることによって、他の導体と接触する接触部位付近に大量のスズ酸化物が堆積し、この接触部位がこの大量の酸化物に乗り上げることによって、他の導体との接触抵抗が高くなる現象である(例えば、R.S.Mroczkowski著、「Electronic Connector Handbook」、p3.31−3.38参照)。この微摺動磨耗によって、接触抵抗が1Ωを超えることもある。
【0006】
また、このようなスズめっきを施した導電部材は、例えば、コネクタの端子等に用いられている。コネクタは、一般的に雄端子と雌端子とが雌雄嵌合するように構成されており、雌端子に雄端子を挿入(挿嵌)させると、雌端子のばね力によって雄端子に荷重をかけて、両端子の金属部分(接触部位)が接触するように構成されている。その際、雌端子のばね力は、スズ表面に形成される絶縁性皮膜が破壊されやすいとはいえ、実際には、不具合が発生しないように、絶縁性皮膜を破壊できる力より強くなるように構成されている。このような強いばね力は、コネクタの設計や製造を困難にするだけではなく、挿入時に接触部位にかかる摩擦力も増大させるので、特に、端子を多数集積させた多極コネクタにおける嵌合作業が困難になる。さらに、高温高湿状態などの過酷な使用環境では、厚い酸化膜等が形成されるため、長期間、接触抵抗を低く維持することは困難である。
【0007】
微摺動磨耗の発生を防止するためには、大気中で酸化しない金、白金及びパラジウム等の貴金属で端子の接触部位の表面をめっきすることが考えられる。しかしながら、金、白金及びパラジウム等の貴金属は、スズより高価であるため、導電部材自体の価格が高くなってしまう。
【0008】
また、特許文献1には、酸化に強い等の耐久性が高く磨耗しにくい、銅を主成分とする材料について開示されているにすぎず、特に貴金属を要することなく、微摺動磨耗を抑制する技術については、開示されていない。
【0009】
本発明は、かかる従来の問題点を解消するためになされたものであり、特に、貴金属のような高価な材料を要することなく、長期間、接触抵抗を低く維持することができ、かつ、微摺動磨耗を抑制できる導電部材、及びこの導電部材を用いた端子を提供し、さらに、この導電部材及び端子を容易に製造できる製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の導電部材は、他の導体と接触する接触部位を有し、前記他の導体との接触によって、前記他の導体と電気的に接続される導電部材であって、銅系材料からなる基材と、前記基材の表面の少なくとも前記接触部位に配置される導電性皮膜とを備え、前記導電性皮膜が、銅とガリウムとを含む化合物からなることを特徴とする導電部材である。
【0011】
この構成によれば、銅とガリウムとを含む化合物が、化学的に安定であるので、この銅とガリウムとを含む化合物からなる導電性皮膜は、その表面に形成される酸化膜が、スズ表面に形成される酸化膜と比較して非常に薄い。よって、銅とガリウムとを含む化合物からなる導電性皮膜は、その表面に比較的低い荷重をかけるだけで、その表面に形成されている酸化膜が容易に破壊され、この酸化膜の破壊によって、導電性を有する新生面が露出される。従って、この導電性皮膜が接触部位に配置される導電部材は、他の導体と良好な電気的な接続を確保できる。
【0012】
さらに、この導電性皮膜は、例えば、導電部材を大気中で高温にさらされる等の過酷な環境下であっても、表面の酸化が抑制され、酸化膜の厚みが、ほとんど変化せず、薄いままである。よって、銅とガリウムとを含む化合物からなる導電性皮膜は、過酷な環境下であっても、その表面に比較的低い荷重をかけるだけで、導電性を有する新生面が露出される。
【0013】
以上より、前記導電性皮膜にかける荷重が比較的低くても、低い接触抵抗を維持できる。また、この導電部材は、導電部材の振動や温度変化等によって、導電部材が微摺動した場合であっても、導電性皮膜上への酸化物の堆積が抑制される。従って、この導電部材は、特に、貴金属のような高価な材料を要することなく、長期間、接触抵抗を低く維持することができ、かつ、微摺動磨耗を抑制できる。
【0014】
また、前記導電性皮膜が、CuGa及びCuGaの少なくとも一方からなることが好ましい。
【0015】
また、前記導電性皮膜が、ガリウムを含む液体状態の金属を、前記基材の表面に塗布することにより形成されたものであることが好ましい。この構成によれば、前記基材の表面に形成される導電性皮膜が、銅とガリウムとを含む化合物からなる皮膜であって、その皮膜が、薄くかつ均一である。
【0016】
また、本発明は、相手方端子と接触する接触部位を有し、前記相手方端子と嵌合することによって、前記相手方端子と接触し、前記相手方端子と電気的に接続される端子であって、少なくとも前記接触部位を含む部分が、前記導電部材からなることを特徴とする端子である。
【0017】
この構成によれば、相手方端子と接触する接触部位に配置される導電性皮膜の表面に、相手方端子を接触させ、比較的低い荷重をかけるだけで、その表面に形成されている酸化膜は容易に破壊されるので、端子を嵌合したときに端子と相手方端子とを圧接させるためのばね力を弱くしても接触抵抗を低く維持できる。また、この端子は、振動や温度変化等によって、端子が微摺動した場合であっても、導電性皮膜上への酸化物の堆積が抑制されるので、特に、貴金属のような高価な材料を要することなく、長期間、接触抵抗を低く維持することができ、かつ、微摺動磨耗を抑制できる。
【0018】
また、端子は、相手方端子と嵌合させ、相手方端子と接触させた状態のまま、使用することが多いので、端子と相手方端子とが微摺動する可能性が高い。よって、端子に、微摺動磨耗を抑制できる本発明の導電部材を用いることは、特に好ましい。
【0019】
さらに、接触部位に配置される導電性皮膜は、その表面に比較的低い荷重をかけるだけで、その表面に形成されている酸化膜が容易に破壊されるため、ばね力を弱くすることができるので、挿入時に端子と相手方端子とにかかる摩擦力を低減でき、挿入しやすくなる。
【0020】
また、本発明の導電部材の製造方法は、他の導体と接触する接触部位を有し、前記他の導体との接触によって、前記他の導体と電気的に接続される導電部材の製造方法であって、銅系材料からなる基材の少なくとも前記接触部位の表面に、ガリウムを含む液体状態の金属を塗布することによって、導電性皮膜を形成する皮膜形成工程を含むことを特徴とする導電部材の製造方法である。
【0021】
この構成によれば、ガリウムを含む液体状態の金属を、基材の表面に塗布することによって、銅とガリウムとの化合物を含む導電性皮膜を基材表面に、薄くかつ均一に形成できるので、長期間、接触抵抗を低く維持することができ、かつ、微摺動磨耗を抑制できる導電部材を容易に製造できる。
【0022】
すなわち、ガリウムを含む液体状態の金属を、銅系基材に接触させると、銅とガリウムとの化合物を含む導電性皮膜が形成され、この導電性皮膜が、液体状態の金属と銅系基材との接触を阻害するので、新たな導電性皮膜の形成を阻害するからであると考えられる。
【0023】
また、前記皮膜形成工程は、前記液体状態の金属を塗布した後に余剰の金属を除去する金属除去工程を含むことが好ましい。この構成によれば、余剰の金属を除去することによって、基材の表面に塗布する液体状態の金属量を厳密に制御する必要がない。また、余剰の金属が、所定の箇所以外に垂れ落ちたり、流れること等により、所定の箇所以外に、液体状態の金属が接触してしまうことを防止できる。
【0024】
また、前記金属として、25℃以下の融点をもつものを塗布することが好ましい。この構成によれば、前記皮膜形成工程において、ガリウムを含む金属が、室温のままで、液体状態となるので、ガリウムを含む金属を予め加熱しなくてもよいので、より容易に導電部材を製造できる。
【0025】
また、ガリウムを含む金属を液体状態にするために、加熱して溶融させる必要がないので、導電部材を製造するための製造装置に、金属を加熱するための加熱装置が必要なく、装置を複雑にしなくてすむ。
【0026】
また、前記金属が、スズ、インジウム、及び亜鉛からなる群から選ばれる少なくとも1種をさらに含むことが好ましい。これらの金属が含有されると、前記金属の融点が低下するので、ガリウムを含む金属を液体状態にするための加熱が不要となり、もしくは、必要であっても、その加熱のための時間が短くてすむ。さらに、スズ、インジウム、及び亜鉛のいずれもが、銅と反応しないので、前記金属として、ガリウム融液を用いた場合と、同様の導電性皮膜が得られ、長期間、接触抵抗を低く維持することができ、かつ、微摺動磨耗を抑制できる。
【0027】
また、本発明の端子の製造方法は、相手方端子と接触する接触部位を有し、前記接触部位を含む部分を、前記導電部材の製造方法により製造することを特徴とする端子の製造方法である。この構成によれば、長期間、接触抵抗を低く維持することができ、かつ、微摺動磨耗を抑制できる端子を容易に製造できる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、特に、貴金属のような高価な材料を要することなく、長期間、接触抵抗を低く維持することができ、かつ、微摺動磨耗を抑制できる導電部材、及びこの導電部材を用いた端子を提供することができ、さらに、この導電部材及び端子を容易に製造できる製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
本発明の実施形態に係る端子の一例について説明する。ここでは、雄端子と雌端子とが嵌合可能な端子対であって、雄端子と雌端子とのいずれにも、本発明の導電部材を用いた端子である場合の端子対を例に挙げて説明するが、雄端子及び雌端子のいずれかのみに、本発明の導電部材を用いた端子であってもよい。
【0030】
図1は、本発明の実施形態に係る端子からなる端子対10を示す概略断面図である。端子対10は、雄端子11と雌端子21とから構成される。なお、図1は、端子対10の雄端子11と雌端子21とが嵌合した嵌合状態を示す。
【0031】
雄端子11は、挿入部12と、被覆電線の端末が接続される図略の電線接続部とを備える。雄端子11は、相手方端子である雌端子21に挿入(挿嵌)する部材である。挿入部12の形状は、雌端子21に挿入(挿嵌)可能であれば、特に限定されず、例えば、板状、棒状、円筒状等の種々の形状から適宜選択できる。
【0032】
雌端子21は、挿入部12が挿入(挿嵌)される端子嵌合部22と、雄端子11に接続されている被覆電線とは別の被覆電線の端末が接続される図略の電線接続部とを備える。
【0033】
端子嵌合部22は、雌型であり、筒状部23とばね片24とを備える。筒状部23は、雌端子21の相手方端子である雄端子11が挿嵌方向に沿って挿入(挿嵌)可能となるように、先端側が開口した角筒状に形成され、天井壁25(図1では上面)、底壁26(図1では下面)及び図略の側壁を備えている。
【0034】
ばね片24は、筒状部23の内側に、天井壁25に近接する方向(図1では斜め上方)に向かって傾斜しつつ、筒状部23の開口先端(底壁26の先端)から後方に向かって片持ち状に延設されている。そして、後方末端で下方にU字状に曲折させる曲折部24aを経て、底壁26に近接する方向(図1では斜め下方)に向かって傾斜しつつ、曲折部24aから前方に向かって延設され、さらに、底壁26の近傍で曲折して天井壁25に近接する方向に向かって傾斜した自由端となっている。さらに、ばね片24は、筒状部23の開口先端と曲折部24aとの間で、天井壁25に近接する方向に凸部24bが形成されている。このように構成されることで、雄端子11の挿入部12が、端子嵌合部22に挿嵌された際、この挿入部12とばね片24の凸部24bとが接触して、ばね片24は、凸部24bが下方に沈むように弾性変形する。このばね片24の弾性変形に基づく弾発力により、挿入部12がばね片24によって上方に押圧される。その結果、天井壁25とばね片24の凸部24bとで挿入部12が狭持され、電気的な接続がなされる。
【0035】
次に、雄端子11及び雌端子21の構成について説明する。
【0036】
雄端子11及び雌端子21は、銅系基材と、導電性皮膜とを備える。導電性皮膜は、雄端子11の場合、雄端子11と雌端子21とが嵌合したときに、ばね片24の凸部24bと接触する位置及び天井壁25と接触する位置(接触部位)を含む部分に配置されている。また、導電性皮膜は、雌端子21の場合、雄端子11と雌端子21とが嵌合したときに、雄端子11の挿入部12と接触する位置(接触部位)を含む部分に配置されている。従って、雄端子11及び雌端子21は、少なくとも接触部位を含む部分に後述の導電性皮膜が配置されており、図1に示す端子対10は、雄端子11の導電性皮膜と雌端子21の導電性皮膜との接触によって、電気的な接続がなされ、通電可能としている。なお、導電性皮膜は、少なくとも接触部位を含む部分に配置されていればよく、雄端子11と雌端子21との表面全面を被覆していてもよい。
【0037】
前記銅系基材は、銅を主成分として含む銅系材料からなっていればよく、例えば、銅単体からなっていてもよいし、銅合金からなっていてもよい。銅以外に含有する成分としては、例えば、鉄、珪素、亜鉛、マグネシウム、ニッケル、クロム、コバルト、モリブテン、スズ、リン及びアルミニウム等が挙げられる。また、銅合金としては、例えば、スズ及びリンを含有するリン青銅や亜鉛を含有する黄銅等が挙げられる。
【0038】
前記導電性皮膜は、銅とガリウムとを含む化合物からなる皮膜である。銅とガリウムとを含む化合物は、銅とガリウムとからなる化合物であることが好ましく、好適な具体例としては、例えば、CuGa及びCuGa等が挙げられる。よって、導電性皮膜は、CuGa及びCuGaの少なくとも一方からなることが好ましい。
【0039】
また、導電性皮膜は、ガリウムを含む液体状態の金属を、銅系基材の表面に塗布することにより形成されたものであることが好ましい。このように形成された導電性皮膜は、薄くかつ均一に形成できる。また、この導電性皮膜は、銅とガリウムとを含む化合物からなっており、X線回折等により、CuGaが主成分であると推定される。
【0040】
導電性皮膜の厚みは、特に制限されないが、0.1〜5μmであることが好ましい。導電性皮膜が薄すぎると、均一な皮膜となりにくく、銅系基材が露出する部分が形成されてしまう傾向があり、厚すぎると、銅系基材より導電性の低い導電性皮膜により、接触抵抗が高くなってしまう傾向がある。また、導電性皮膜を厚くしようとすると、液体状態の金属を銅系基材に接触させておく時間(処理時間)が長時間化したり、製造時に、液体状の金属が銅系基材から垂れ落ちること等による不具合が発生する傾向がある。
【0041】
なお、ガリウムを含む液体状態の金属との接触により形成すると、特別な制御をすることなく、数分間の接触により、約1μmの好適な厚みの薄くて均一な導電性皮膜を形成できる。このことは、ガリウムを含む液体状態の金属を、銅系基材に接触させると、銅とガリウムとの化合物からなる導電性皮膜が形成され、この導電性皮膜が、金属と銅系基材との接触を阻害するので、新たな導電性皮膜の形成を阻害するからであると考えられる。
【0042】
次に、雄端子11及び雌端子21の製造方法について説明する。
【0043】
まず、銅系基材の表面に形成されている酸化膜等の絶縁性皮膜を研磨や酸洗浄等で除去する。次に、この銅系基材を、プレス加工等によって、所定の形状に加工する。なお、この形状加工は、絶縁性皮膜の除去を行っていない銅系基材に施し、形状加工した後に、絶縁性皮膜の除去を行ってもよい。
【0044】
そして、得られた銅系基材の表面に、ガリウムを含む液体状態の金属を塗布する。そうすることによって、銅系基材の表面に、銅とガリウムとを含む化合物からなる導電性皮膜が形成される。この皮膜を形成する形成工程は、銅系基材の表面に前記金属を塗布する工程であることが好ましい。また、上記形状加工を施す前に、導電性皮膜を形成させ、その後、上記形状加工を施してもよい。
【0045】
前記金属は、ガリウムを含んでおり、銅系基材の表面に塗布するときに、液体状態であればよく、例えば、ガリウム単体であってもよいし、ガリウム合金であってもよい。なお、前記金属として、ガリウム単体を用いる場合、ガリウムの融点が29.7℃であるので、加熱して得られるガリウム融液にする必要がある。
【0046】
前記ガリウム合金としては、Ga及びInを含むGa−In系合金が好ましく、Snをさらに含む合金がより好ましい。ガリウム合金の具体例としては、例えば、Ga60〜80質量%、In10〜30質量%、Sn5〜20質量%からなる合金が好ましい。ガリウム合金のより具体的な例示としては、例えば、Ga62.5質量%、In21.5質量%、Sn16質量%からなる合金(融点10.7℃)、Ga62質量%、In25質量%、Sn13質量%からなる合金(融点10.6℃)、Ga62質量%、In23質量%、Sn13質量%、Zn2質量%からなる合金(融点9.8℃)等が挙げられ、これらの中でも、Ga62.5質量%、In21.5質量%、Sn16質量%からなる合金(融点10.7℃)がより好ましい。
【0047】
前記金属のガリウム以外に含有する好ましい成分としては、例えば、スズ(Sn)、インジウム(In)及び亜鉛(Zn)等が挙げられる。これらの金属は、銅と反応したり、銅系基材中に進入することがないので、これらの成分を含有していても、前記金属として、ガリウム融液を用いた場合と同様の導電性皮膜を形成できる。また、これらの金属が含有されると、前記金属の融点が低下するので、ガリウムを含む金属を液体状態にするための加熱が不要となり、もしくは、必要であっても、その加熱のための時間が短くてすむ。
【0048】
なお、前記金属のガリウム以外に含有する成分としては、上記成分に限られず、銅と反応したり、銅系基材中に進入することがなく、ガリウム融液を用いた場合と同様の導電性皮膜を形成できるものであればよい。
【0049】
また、前記金属の融点は、25℃以下であることが好ましく、10℃以下がより好ましい。融点が室温より高いと、製造時に、ガリウムを含む金属を加熱して、液体状態にする必要があり、また、融点が高すぎると、その加熱のための時間が長くなってしまう等、端子の製造に手間がかかってしまう。
【0050】
液体状態の金属の塗布方法は、特に限定されず、どのような塗布方法であっても採用できる。例えば、ディッピング法、スピンコーティング法、スプレー法、ローラー法、スクリーン印刷等の印刷法、ロールコーター法、カーテンフローコーター法、刷毛塗り法等が挙げられる。また、前記金属は、銅系基材の表面全面に塗布してもよいが、少なくとも接触部位に部分的に塗布すればよい。
【0051】
銅系基材と液体状態の金属との接触時間(処理時間)は、1分間〜1時間と広い範囲のいずれの処理時間であっても、形成される導電性皮膜の厚みがほとんど変わらないので、処理時間を厳密に制御する必要は特にないが、1〜15分間であることが好ましい。そうすることによって、導電性皮膜が確実に形成されており、さらに、製造効率が高い。また、銅系基材と液体状態の金属との接触させているときの処理温度は、特に制限されず、10〜130℃であることが好ましい。
【0052】
また、前記皮膜形成工程は、液体状態の金属を塗布した後に余剰の金属を除去する金属除去工程を含むことが好ましい。金属除去工程としては、例えば、綿棒、紙ウエス及び不織布等で余剰の金属を拭き取る工程や、高圧ガス又は液剤を吹き付ける工程等が挙げられる。
【0053】
以上、本発明の実施形態に係る端子について説明したが、本発明の導電部材は、端子に用いられる場合に限られず、他の導体と接触する接触部位を有し、前記他の導体との接触によって、前記他の導体と電気的に接続される導電部材であればよい。例えば、常閉スイッチの接点部分等に適用可能である。ただし、端子は、相手方端子と嵌合させ、相手方端子と接触させた状態のまま、使用することが多いので、端子と相手方端子とが微摺動する可能性が高い。よって、端子に、微摺動磨耗を抑制できる本発明の導電部材を用いることは、特に好ましい。
【実施例】
【0054】
以下に、本発明について、実施例を挙げて説明する。
【0055】
(実施例1)
実施例1では、図2に示すような電気接続構造30を製造し、後述の評価を行った。図2は、実施例に係る導電部材を用いた電気接続構造30の概略断面図を示す。図2に示す電気接続構造30は、第1導電部材31と第2導電部材32との一対の導電部材から構成されている。第1導電部材31及び第2導電部材32は、以下のように製造した。
【0056】
まず、表面に酸化膜等の絶縁性皮膜が形成されていないリン青銅板(銅系基材)35を用意した。このリン青銅板35を、プレス加工により、直径1mmの半球状の凸部33を形成した。そして、プレス加工を施したりん青銅板を、50℃に加熱して溶融したガリウム融液中に、約1分間浸漬させた後に、ガリウム融液から取り出した。そして、表面に付着している未反応のガリウム融液を、不織布で拭き取り、さらに、希塩酸で表面を洗浄して、リン青銅板の表面上のガリウム融液を除去した。そうすることによって、銅系基材35の表面上に導電性皮膜36が形成された第1導電部材31が得られた。
【0057】
また、別途用意したプレス加工を施していないリン青銅板35を、上記と同様の処理により、銅系基材35の表面上に導電性皮膜36が形成された第2導電部材32が得られた。
【0058】
そして、得られた2枚の導電部材(第1導電部材31及び第2導電部材32)を、図2に示すように対向させ、荷重を加えた。そうすることによって、電気接続構造30が得られた。
【0059】
なお、第2導電部材32と接触する第1導電部材31の凸部33の部位が、第1導電部材31の接触部位(接点)であり、第1導電部材31の凸部33と接触する第2導電部材32の部位が、第2導電部材32の接触部位(接点)である。導電性皮膜36は、図2に示すように、少なくとも接触部位には配置されている。また、第1導電部材31は、第2導電部材32にとっての、他の導体に相当し、第2導電部材32は、第1導電部材31にとっての、他の導体に相当する。つまり、第1導電部材31及び第2導電部材32は、それぞれ導電部材に相当し、それぞれ相手方部材の他の導体に相当する。
【0060】
実施例1の導電部材(第1導電部材31及び第2導電部材32)を垂直方向にスライスし、走査型電子顕微鏡で観察したところ、導電性皮膜16の厚みは約0.6μmの厚みであり、平坦であった。
【0061】
(実施例2)
実施例2は、ガリウム融液中にリン青銅板を約1分間浸漬させる代わりに、Ga62.5質量%、In21.5質量%、Sn16質量%からなる合金を、室温で、リン青銅板に塗布し、1分間保持すること以外、実施例1と同様である。
【0062】
実施例2の導電部材を垂直方向にスライスし、走査型電子顕微鏡で観察したところ、導電性皮膜の厚みは0.2〜0.4μmの厚みであり、平坦であった。また、実施例2の導電部材の表面を、エネルギー分散型蛍光X線分析装置(EDX)を用いて測定すると、InとSnは検出されず、導電性皮膜は、銅とガリウムとの化合物層であることがわかった。
【0063】
(比較例1)
比較例1は、リン青銅板の表面に、厚み1μmのスズめっきを形成した、従来の導電材料を用いたこと以外、実施例1と同様である。
【0064】
(比較例2)
比較例2は、未処理のリン青銅板を用いたこと以外、実施例1と同様である。
【0065】
上記実施例1,2及び比較例1,2は、以下の評価を実施した。
【0066】
(微摺動磨耗)
実施例1で得られた2枚の導電部材を、図2に示すように対向させ、荷重を加えた状態で、接触抵抗を測定しながら、一方の導電部材を水平方向に摺動させた。また、比較例1の導電部材も、同様に測定した。その結果を図3に示す。
【0067】
図3は、微摺動磨耗の評価結果を示すグラフである。縦軸は、接触抵抗(mΩ)を示し、横軸は、摺動回数を示す。また、折れ線41は、実施例1を示し、折れ線42は、比較例1を示す。
【0068】
図3に示すように、実施例1は、摺動回数にかかわらず、接触抵抗がほとんど増加せず、10mΩ以下に維持されているのに対し、比較例1は、摺動回数100回付近から接触抵抗が上昇し、1Ω近くまで上昇した。
【0069】
このことから、スズめっきを施した従来の導電部材は、微摺動磨耗が発生したが、銅とガリウムとの化合物からなる導電性皮膜とを備えた実施例では、微摺動磨耗が抑制されたことがわかる。
【0070】
(高温放置後の抵抗上昇1)
実施例1で得られた2枚の導電部材を、図2に示すように対向させ、荷重を加えた状態で、接触抵抗を測定し、その後、導電部材を160℃で300時間熱処理した後に、再び、接触抵抗を測定した。また、比較例1も、同様に測定した。
【0071】
その結果、実施例1では、熱処理後であっても、接触抵抗がほとんど変わらなかったのに対して、比較例1では、熱処理後の接触抵抗値は、熱処理前の約10倍となった。
【0072】
(高温放置後の抵抗上昇2)
実施例2で得られた2枚の導電部材を、180℃で4時間熱処理した後に、図2に示すように対向させ、荷重を加えた状態で、接触抵抗を測定した。また、比較例2も、同様に測定した。
【0073】
その結果、実施例1の接触抵抗値は、約10mΩと低かったのに対し、比較例2の接触抵抗値は、1Ωを超えており、非常に高かった。
【0074】
上記、高温放置後の抵抗上昇1及び高温放置後の抵抗上昇2の結果から、銅とガリウムとの化合物からなる導電性皮膜とを備えた実施例は、微摺動磨耗が抑制されるだけではなく、高温保存性の高い導電部材であることがわかる。
【0075】
(酸化膜の膜厚)
実施例1で得られた導電部材を160℃で300時間熱処理した後に、酸化膜の厚みを、X線光電子分光法(XPS)によって測定した。また、比較例2も、同様に測定した。
【0076】
その結果、実施例1の酸化膜の厚みは、熱処理前とあまり変化なく6nm以下であるのに対して、比較例2の酸化膜の厚みは、150nm程度であった。
【0077】
このことから、銅とガリウムとの化合物からなる導電性皮膜を備えた実施例は、熱処理しても、酸化膜が薄いので、接触抵抗が低く維持され、また、摺動によっても酸化膜が厚くならず抵抗が上がらないと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】本発明の実施形態に係る端子からなる端子対10を示す概略断面図である。
【図2】実施例に係る導電部材を用いた電気接続構造30の概略断面図を示す。
【図3】微摺動磨耗の評価結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0079】
10 端子対
11 雄端子
12 挿入部
21 雌端子
22 端子嵌合部
23 筒状部
24 ばね片
24a 曲折部
24b 凸部
25 天井壁
26 底壁
30 電気接続構造
31 第1導電部材
32 第2導電部材
33 凸部
35 銅系基材
36 導電性皮膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
他の導体と接触する接触部位を有し、前記他の導体との接触によって、前記他の導体と電気的に接続される導電部材であって、
銅系材料からなる基材と、
前記基材の表面の少なくとも前記接触部位に配置される導電性皮膜とを備え、
前記導電性皮膜が、銅とガリウムとを含む化合物からなることを特徴とする導電部材。
【請求項2】
前記導電性皮膜が、CuGa及びCuGaの少なくとも一方からなる請求項1に記載の導電部材。
【請求項3】
前記導電性皮膜が、ガリウムを含む液体状態の金属を、前記基材の表面に塗布することにより形成されたものである請求項1又は請求項2に記載の導電部材。
【請求項4】
相手方端子と接触する接触部位を有し、前記相手方端子と嵌合することによって、前記相手方端子と接触し、前記相手方端子と電気的に接続される端子であって、
少なくとも前記接触部位を含む部分が、請求項1〜3のいずれか1項に記載の導電部材からなることを特徴とする端子。
【請求項5】
他の導体と接触する接触部位を有し、前記他の導体との接触によって、前記他の導体と電気的に接続される導電部材の製造方法であって、
銅系材料からなる基材の少なくとも前記接触部位の表面に、ガリウムを含む液体状態の金属を塗布することによって、導電性皮膜を形成する皮膜形成工程を含むことを特徴とする導電部材の製造方法。
【請求項6】
前記皮膜形成工程は、前記液体状態の金属を塗布した後に余剰の金属を除去する金属除去工程を含む請求項5に記載の導電部材の製造方法。
【請求項7】
前記金属として、25℃以下の融点をもつものを塗布する請求項5又は請求項6に記載の導電部材の製造方法。
【請求項8】
前記金属が、スズ、インジウム、及び亜鉛からなる群から選ばれる少なくとも1種をさらに含む請求項7に記載の導電部材の製造方法。
【請求項9】
相手方端子と接触する接触部位を有し、前記相手方端子と嵌合することによって、前記相手方端子と接触し、前記相手方端子と電気的に接続される端子の製造方法であって、
少なくとも前記接触部位を含む部分を、請求項5〜8のいずれか1項に記載の導電部材の製造方法により製造することを特徴とする端子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−26500(P2009−26500A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−186037(P2007−186037)
【出願日】平成19年7月17日(2007.7.17)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】