説明

小動物用気管内サンプル投与補助器具

【課題】 小型動物の口腔に安全に挿入可能であって、所定量のサンプルを気管に直投与することができる小動物用気管内サンプル投与補助器具を提供する。
【解決手段】 本発明の小動物用気管内サンプル投与補助器具は、小動物の口腔内から気管支入り口にサンプルを投与する際に用いる気管内サンプル投与補助器具であって、両端が開放した円錐台形状を有し、径小側端部を小動物の口に挿入して開口状態を保持する開口器、小動物の口腔内から唾液を排除する唾液除去手段、及び小動物の口腔内を照らす光源を備えていることを特徴とする。前記小動物用気管内サンプル投与補助器具は、さらに、小動物の口腔内の気管支入り口を拡大観察可能とする拡大観察手段を備えていてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小動物用の口腔から気管内にサンプルを容易に且つ正確に投与可能な器具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、吸気による気管内への影響を調べたり、気管が標的となるアレルギー物質を調査する際に、マウスやハムスターなどの体重100g以下程度の小型実験動物を用いて、気管内に化学物質やタンパク質などのサンプルを投与する方法が利用されている。気管内にサンプルを投与する手段としては、例えば、ガス状やミスト状にしたサンプルを鼻や咽頭部から吸入させる手段が挙げられる。しかし、上記手段によっては、サンプルが気管以外の皮膚や眼粘膜、消化器粘膜などから吸収される可能性があるため、気管内への影響を正確に評価する手段としては適さず、また、投与したサンプルのうちどの程度の量が気管に到達したかが不明確であるため、定量的な評価を行う場合には精度が十分でない。
【0003】
また、ラットやモルモットなどの比較的大型の実験動物の気管内にサンプルを投与する場合には、小児科用の咽頭鏡やスタイレットなどが代用されているが、マウス等の小型実験動物においては口腔の大きさに対して器具が大きすぎるため、使用することは困難である。一方、特開2001−276231号公報には、マウス等の麻酔に使用する器具として、小動物用の気管内挿管器具が提案されている。しかし、この器具は、マウスの口腔に接触する部位が金属製であって、口腔を2方向に押し広げる態様で使用されるため、器具と接触する部分においてマウスに対し損傷を与えやすい。また、麻酔を正確に投与する目的で、口腔内を小型のCCDカメラで観察する方法が開示されているが、このような装置は高価であり、器具全体が複雑な構造となってしまうという問題があった。
【0004】
【特許文献1】特開2001−276231号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、小型動物の口腔に安全に挿入可能であって、所定量のサンプルを気管に直投与することができる小動物用気管内サンプル投与補助器具を提供することにある。
本発明の他の目的は、上記特性に加えて、安価な装置でサンプルの投与を正確に行うことができる小動物用気管内サンプル投与補助器具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、小動物の口腔を開口した状態を保持し、口腔内を除湿しつつ、光源で気管支入り口を照らすことができる構造を有する補助器具によれば、サンプルを小動物の気管内に直接且つ正確に、定量的に投与することができることを見いだし、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、小動物の口腔内から気管支入り口にサンプルを投与する際に用いる気管内サンプル投与補助器具であって、両端が開放した円錐台形状を有し、径小側端部を小動物の口に挿入して開口状態を保持する開口器、小動物の口腔内から唾液を排除する唾液除去手段、及び小動物の口腔内を照らす光源を備えていることを特徴とする小動物用気管内サンプル投与補助器具を提供する。前記開口器は、弾性を有する素材で形成されていることが好ましい。本発明の小動物用気管内サンプル投与補助器具は、さらに、小動物の口腔内の気管支入り口を拡大観察可能とする拡大観察手段を備えていてもよい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、小型実験動物の狭い口腔から、所定量のサンプルを気管支入り口に直接投与することができ、しかも器具が接触する口腔付近に損傷を与えにくいため、実験動物に対する負担を軽減することができる。また、唾液除去手段により口腔内の唾液が除去されているためサンプルを容易に投与することができ、さらに、光源により狭い口腔内が照らされているため気管支入り口等の目的とする位置へ的確に投与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しつつ説明する。図1は本発明の小動物用気管内サンプル投与補助器具の一例を示す正面図である。図1に示される小動物用気管内サンプル投与補助器具は、両端が開放した円錐台形状からなる開口器1、胴部5、拡大観察手段4からなる器具本体と、チューブパイプ2aとポンプ2bとで構成される唾液除去手段2、及び電池収容部兼握り手6と結合した光源3を備えている。拡大観察手段4は、図2に示されるように、拡大観察手段4が有する接合部4aを、胴部5の一端部に設けられた接合部5aに固定することにより、該拡大観察手段4が胴部5の一端を完全に覆うことなく、部分的に開放した状態を維持できるように設置されている。唾液除去手段2は、拡大観察手段4を設けた側の胴部5の開放部位から挿入され、胴部5の軸方向中央付近に配された光源3に沿うように固定されている。
【0010】
前記開口器1は、両端が開放した円錐台形状を有している。両端が開放した円錐台形状には、円錐台、及び円錐台様形状、すなわち、径大側端部から径小側端部に向かって細く絞られた形状が含まれる。円錐台様形状の具体例としては、例えば、漏斗様形状、じょうご様形状等などの径小端部が管状である形状等が挙げられる。
【0011】
開口器1は、径小側端部を小動物の口に挿入して開口状態を保持する目的で使用される。開口器1の径小側端部は、小動物の口から奥深く、例えば気管支入り口付近に達する程度まで挿入して使用される。このため、開口器1の径小側端部から他端に向かって1.5cm程度の部分(挿入部:図3の1b)の最大径(図3の1a)は、例えば0.3〜3cm、好ましくは0.5〜2cm程度である。一方、開口器1の径大側端部の最大径(図3の1c)は、接合する胴部5の開口径に応じて、例えば1cm〜5cm、好ましくは1.5〜3cm程度である。
【0012】
開口器1を形成する素材としては、特に限定されず、例えば、ゴム、エラストマー、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂等の樹脂、金属等の何れを用いることもできる。特に、小型動物の口腔に対する損傷を防ぐ目的で、口腔の接触する部分が、ゴム、エラストマー等の弾性を有する素材で形成されることが好ましい。
【0013】
拡大観察手段4としては、口腔内、特に気管支入り口を拡大して観察可能な慣用のものを用いることができ、例えばレンズ等を利用できる。拡大観察手段4は複数設置してもよく、例えば、レンズを複数枚使用することも可能である。
【0014】
胴部5は、両端が開放した筒状体で構成されており、一端に開口器1、他端に拡大観察手段4を接合した形態で使用される。拡大観察手段4を接合する側の端部には、拡大観察手段4を接合するための凹形状の接合部5aが設けられており、拡大観察手段4が有する凸形状の接合部4aがはめ込まれる。胴部5を形成する素材は特に限定されず、開口器1の素材として例示のものを用いることができる。なお、胴部5は開口器1と一体となっていてもよい。
【0015】
唾液除去手段2は、チューブパイプ2aにポンプ2bが連結した構成を有しており、該チューブパイプ2aが器具本体の拡大観察手段4が設置されている側より挿入されて先端が器具本体胴部5の内部に固定されており、ポンプ2bからチューブパイプ2aを通って口腔内へ送風することにより唾液の除去を行うことができる。チューブパイプ2aは、図1に示されるように、光源3に沿って固定されていることが好ましい。唾液除去手段2の形態は、上記の例に限定されず、少なくとも一部が胴部5の内部に設置可能な形態を有していれば特に限定されず、1又は複数の部材で構成されていても良い。
【0016】
唾液除去手段2としては、図1に示されるポンプ2bとチューブパイプ2aとからなる送風手段に限定されず、他の構成からなる送風手段や、吸引手段などであってもよく、唾液を除去可能な手段として慣用の方法を利用できる。なかでも、送風手段は、唾液の除去と同時に気管を開放することができるため、サンプル投与をより容易に行うことができる点で好ましい。
【0017】
光源3は、光源として慣用のものを使用できる。光源3を用いることにより、狭い口腔の奥の気管支周辺を照らし出し、気管支入り口に確実にサンプルを投与することができる。光源3としては、器具本体内部に収容でき、且つサンプル投与手段等の妨げとならない程度の大きさであれば特に限定されず、慣用のものを使用できる。光源3は、電池収容部兼握り手7と結合して、器具本体の胴部5の中央付近の片側を貫通し固定されている。
【0018】
本発明の小動物用気管内サンプル投与補助器具は、図1に示される構成に限定されず、少なくとも両端が開放した円錐状の形状からなる開口器、唾液除去手段2、及び光源を備えていればよい。例えば、器具本体が構成の一部に拡大観察手段4を設けることなく、眼鏡タイプの拡大鏡を実験者等が装着することにより細部を拡大観察することも可能である。
【0019】
図4は、本発明の小動物用気管内サンプル投与補助器具の使用例の一例を示す模式図である。図4では、ホルダー9を介して小動物8を手10で掴んで固定し、図1に示される小動物用気管内サンプル投与補助器具の開口器1を小動物8の口に挿入して開口状態を保持し、該器具にサンプル投入手段7を通して小動物7の口に挿入することにより、サンプルを投入する様子が示されている。サンプル投入手段7は、図5に示されるように、唾液除去手段2と同様、器具本体の拡大観察手段4が接合された側から胴部5内部に挿入される。なお、小動物は、一般的に使用される固定器具で固定してもよい。
【0020】
サンプル投与手段7としては、例えば、シリンジ、スポイト等を使用できる。
【0021】
気管内サンプル投与補助器具を適用する小動物8とは、体重が100g以下の小型動物を意味しており、なかでも15〜70g程度の小型動物が好適であり、具体的にはマウス、ハムスターなどの小型実験動物を用いることができる。
【0022】
投与するサンプルは、液体の他、粉体などの固体であってもよく、例えば、毒性試験用サンプル、卵白アルブミンなどのアレルギー誘因性の評価用サンプル、アレルギータイプの評価用サンプル、コピートナーや粉塵などの異物の肺吸入試験用サンプルなどの各種試験、評価用サンプル;ぜんそく等の治療薬;麻酔薬などが挙げられる。
【0023】
本発明の小動物用気管内サンプル投与補助器具によれば、アレルギー性や毒性などの試験を行う場合に、粘膜や皮膚に接触させることなく気管支に直接サンプルを投与できるため、投与サンプルの気管支に対する影響をより正確に検査することができる。また、投与時にサンプルが粘膜等に付着したり、ミストとなって飛散することがなく、気管支へ所定量のサンプルを確実に投与できるため、定量的な試験を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の小動物用気管内サンプル投与補助器具の一例を示す正面図である。
【図2】図1の本発明の小動物用気管内サンプル投与補助器具の部分拡大図である。
【図3】本発明の小動物用気管内サンプル投与補助器具の一部を構成する開口器の一例を示す正面図である。
【図4】本発明の小動物用気管内サンプル投与補助器具の使用例の一例を示す模式図である。
【図5】図4の本発明の小動物用気管内サンプル投与補助器具の使用例の部分拡大図である。
【符号の説明】
【0025】
1 開口器
1a 挿入部の最大径
1b 挿入部
1c 開口器1の径大側端部の最大径
2 唾液除去手段
2a チューブパイプ
2b ポンプ
3 光源
4 拡大観察手段
4a 接合部
5 胴部
5a 接合部
6 電池収容部兼握り手
7 サンプル投与手段
8 小動物
9 ホルダー
10 手

【特許請求の範囲】
【請求項1】
小動物の口腔内から気管支入り口にサンプルを投与する際に用いる気管内サンプル投与補助器具であって、両端が開放した円錐台形状を有し、径小側端部を小動物の口に挿入して開口状態を保持する開口器、小動物の口腔内から唾液を排除する唾液除去手段、及び小動物の口腔内を照らす光源を備えていることを特徴とする小動物用気管内サンプル投与補助器具。
【請求項2】
さらに、小動物の口腔内の気管支入り口を拡大観察可能とする拡大観察手段を備えている請求項1記載の小動物用気管内サンプル投与補助器具。
【請求項3】
挿入部が弾性を有する素材で形成されている請求項1又は2記載の小動物用気管内サンプル投与補助器具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−136348(P2006−136348A)
【公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−325878(P2004−325878)
【出願日】平成16年11月10日(2004.11.10)
【出願人】(000002901)ダイセル化学工業株式会社 (1,236)
【出願人】(504258527)国立大学法人 鹿児島大学 (284)
【Fターム(参考)】