説明

小型回転体及びマイクロ流路デバイス並びに小型回転体の制御システム

【課題】安価かつ小型にして微量の流体を攪拌・混合できるマイクロ流路デバイスと、これに適用可能な小型回転体と、小型回転体の移動制御及び回転制御に好適な制御システムとを提供する。
【解決手段】マイクロ流路デバイス11のマイクロ流路12内に、羽根部3が磁性体にて形成された小型回転体1を導入する。導入された小型回転体1の所定位置への設定をレーザーマニピュレーション装置21にて行い、設定された小型回転体1の回転駆動を回転磁界装置41にて行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザマニピュレーション装置によって任意の位置に移動されかつ回転磁界装置によって回転駆動される小型回転体と、この小型回転体を撹拌子としてマイクロ流路内に備えたマイクロ流路デバイスと、前記小型回転体の移動制御及び回転制御を行う制御システムとに関する。
【背景技術】
【0002】
微量の流体を攪拌・混合する技術は、マイクロ化学分析技術を実現するために必要不可欠な技術である。
【0003】
従来より、微量の流体を攪拌・混合するマイクロミキサーとしては、流路の壁面に多数の試薬吹出口を設け、これら試薬吹出口より流路内を流れる試料溶液中に所要の反応試薬を吹き出して試料溶液と反応試薬とを混合するもの(例えば、非特許文献1参照。)及びA液供給口、B液供給口及び吐出口を有する混合室内にモータで回転される斜板回転体を設け、A液供給口より供給されるA液及びB液供給口より供給されるB液を斜板回転体にて攪拌・混合して吐出口より吐出するもの(例えば、特許文献1参照。)などが知られている。
【非特許文献1】ジャーナル・オブ・マイクロメカニクス・アンド・マイクロエンジニアリング、1993年、第3巻、第168頁−第182頁
【特許文献1】特開平6−277482号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかるに、前記非特許文献1に記載の技術は、流路内に回転体を備えないので、試料溶液と反応試薬とを十分に攪拌・混合することが困難で、特に、供給される試料溶液及び/又は反応試薬の流量が微量になるほど、かかる不都合が顕著になる。
【0005】
一方、前記特許文献1に記載の技術は、混合室内に斜板回転体を設けたので、A液及びB液を十分に攪拌・混合することができるが、斜板回転体をモータで回転駆動する構造であるのでデバイスのマイクロ化が困難であるばかりでなく、各デバイスごとにモータを備えなくてはならないのでデバイスが高コスト化するという不都合がある。また、必要に応じて回転体を移動することができないので流路内に後から回転体を導入したり、流路内の設定位置を後から変更したり、故障や攪拌する流体の種類などに応じて適宜回転体を交換することができないなどの不都合もある。
【0006】
本発明は、かかる従来技術の不備を解決するためになされたものであり、その目的は、安価かつ小型にして微量の流体を十分に攪拌・混合することができ、しかも回転体の導入、移動及び交換を自在に行うことができる実用性の高いマイクロ流路デバイスと、これに適用可能な小型回転体と、前記マイクロ流路デバイス内に導入された小型回転体の移動制御及び回転制御に好適な制御システムとを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、前記の課題を解決するため、小型回転体に関しては、磁性体又は少なくとも一部に磁性体を含む材料をもって羽根部が形成され、レーザマニピュレーション装置で任意の位置への移動が可能で、かつ外部から印加した磁界を回転させることにより回転が可能であるという構成にした。
【0008】
また、マイクロ流路デバイスに関しては、攪拌しようとする試料の導入口と攪拌された試料の排出口とが開口されたマイクロ流路を有し、前記マイクロ流路内に、磁性体又は少なくとも一部に磁性体を含む材料をもって羽根部が形成され、非接触で回転と任意の位置への移動が可能な小型回転体が導入されているという構成にした。
【0009】
さらに、小型回転体の制御システムに関しては、磁性体又は少なくとも一部に磁性体を含む材料をもって羽根部が形成された小型回転体と、前記小型回転体を所要の位置に非接触で移動させるレーザーマニピュレーション装置と、前記羽根部に回転磁界を印加し、前記小型回転体を非接触で回転させる回転磁界装置とを備えるという構成にした。
【0010】
小型回転体の羽根部を磁性体又は少なくとも一部に磁性体を含む材料をもって形成すると、羽根部に回転磁界を印加することにより非接触で小型回転体を回転駆動することができるので、小型回転体の形状及び構成を簡略化することができ、小型回転体のマイクロ化が可能になる。また、この種の小型回転体をマイクロ流路内に導入すると、小型回転体を回転するためのモータを個々のマイクロ流路デバイスごとに備える必要がないのでマイクロ流路デバイスの小型化及び低コスト化を図れると共に、非接触で小型回転体の回転と移動とを行うことができることからマイクロ流路内への小型回転体の導入、マイクロ流路中での小型回転体の移動及びマイクロ流路デバイス内に備えられた小型回転体の交換を容易化できる。さらに、羽根部が磁性体又は少なくとも一部に磁性体を含む材料をもって形成された小型回転体は羽根部に回転磁界を印加することによって回転駆動することができ、マイクロ化された小型回転体はレーザーマニピュレーション装置で任意の位置への移動を行うことができるので、小型回転体とレーザーマニピュレーション装置と回転磁界装置とから小型回転体の制御システムを構築すると、小型回転体の移動制御と回転制御とが可能になり、マイクロ流路内における微量の流体の攪拌・混合や、微小物質の移動操作等を高能率に行うことができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の小型回転体は、羽根部を磁性体又は少なくとも一部に磁性体を含む材料をもって形成したので、マイクロ化が可能になり、マイクロ流路内における微量の流体の攪拌・混合や、微小物質の移動操作部材として適用することができる。
【0012】
本発明のマイクロ流路デバイスは、マイクロ流路内に羽根部が磁性体又は少なくとも一部に磁性体を含む材料をもって形成された小型回転体を備えたので、個々のマイクロ流路デバイスごとに小型回転体を回転するためのモータを備える必要がなく、マイクロ流路デバイスの小型化及び低コスト化を図ることができる。また、小型回転体の導入、移動及び交換を適宜行うことができるので、マイクロ流路の構成やサイズそれに攪拌・混合される流体に最適な小型回転体を備えたマイクロ流路デバイスを適宜組み立てることができ、マイクロ流路デバイスの実用性、経済性及び汎用性を高めることができる。
【0013】
本発明の小型回転体の制御システムは、磁性体又は少なくとも一部に磁性体を含む材料をもって羽根部が形成された小型回転体と、小型回転体を所要の位置に非接触で移動させるレーザーマニピュレーション装置と、羽根部に回転磁界を印加し、小型回転体を非接触で回転させる回転磁界装置とを備えたので、小型回転体の移動制御と回転制御とが可能になり、マイクロ流路内における微量の流体の攪拌・混合や、微小物質の移動操作等を高能率に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
まず、本発明に係る小型回転体の実施形態を図1乃至図3に基づいて説明する。図1は実施形態例に係る小型回転体の平面図、図2は実施形態例に係る小型回転体の側面図、図3は実施形態例に係る小型回転体の他の例を示す平面図である。
【0015】
図1及び図2に示すように、実施形態例に係る小型回転体1は、中心部に配置された非磁性体からなる球状の回転保持部2と、当該回転保持部2と一体に形成された磁性体からなる板状の羽根部3とから形成されている。回転保持部2を構成する非磁性体としては、SiO、Al、TiOなどを用いることができ、羽根部3を構成する磁性体としては、FeCo合金、FeNiCo合金又は磁性ステンレス合金などの合金、フェライトやガーネットなどの磁性酸化物、それにネオジウム鉄ボロン系合金などを用いることができる。
【0016】
回転保持部1及び羽根部2の構成材料並びにサイズは、小型回転体1が適用される流路のサイズや流量それに小型回転体1を回転する回転磁界の強度などに応じて設計される。一例として、本願発明者らは、直径が1μmのSiOからなる球形の回転保持部2と、Fe50Co50合金にて形成された平板状の羽根部3とからなる小型回転体1を作製した。羽根部3の全長は10μm、羽根部3の幅及び厚さは0.5μmとした。小型回転体1の作製は、回転保持部2と羽根部3とを別々に作製した後、羽根部3の中央部に形成された輪状部内に回転保持部2をはめ込むことにより行った。また、全体をSiOでコーティングした。
【0017】
なお、図1及び図2の例では、羽根部3を平板状に形成したが、本発明の要旨はこれに限定されるものではなく、流体の攪拌効率を高めたり微小物質の移動操作を高能率に行うため、図3(a)〜(c)に例示するように、羽根部3の形状については任意に形成することができる。また、羽根部3は、その全体を磁性体にて形成する必要はなく、回転磁界による回転が可能であるように構成する材料の少なくとも一部に磁性体を用いて形成することができる。
【0018】
小型回転体1は、レーザーマニピュレーション装置による任意の位置への移動を可能にするため、前記羽根部3の全長を10μm以下とすることが特に好ましい。即ち、レーザマニピュレーション装置には、波長が650nm程度の可視光領域のレーザが光源として備えられている。このような光を開口数が1以下の対物レンズで集光する場合、スポット径が略1μm以下となるので、この集束光によって捕捉可能な物体の大きさも直径が1μm程度以下のものとなるが、本発明の小型回転体1のように突起物構造の羽根部3がある場合には、最大10μmまで位置制御を行うことができる。
【0019】
本例の小型回転体1は、羽根部3を磁性体又は少なくとも一部に磁性体を含む材料をもって形成したので、羽根部3に回転磁界を印加することによって非接触で回転駆動することができる。よって、モータなどを用いる場合に比べて小型回転体1の形状及び構成を簡略化することができて小型回転体のマイクロ化が可能になり、微量の流体を攪拌・混合するための撹拌子や、微小物体を移動操作するための手段として適用することができる。また、羽根部3の中心部に球状の回転保持部2を形成したので、小型回転体1の回転を円滑なものにすることができ、回転磁界の小型化を図ることができる。なお、小型回転体1を高速で回転しない場合などには、この回転保持部2を省略することもできる。
【0020】
次に、前記小型回転体1の適用例として、微量流体の攪拌・混合に適用されるマイクロ流路デバイスの構成を図4に基づいて説明する。図4は実施形態例に係るマイクロ流路デバイスの透視斜視図である。
【0021】
図4に示すように、本例のマイクロ流路デバイス11は、所要のマイクロ流路12が形成された下ハーフ13と当該下ハーフ13の上面に貼り合わされた上ハーフ14とから構成されており、これら下ハーフ13及び上ハーフ14は、シリコン、ガラス、セラミクス又は樹脂若しくはそれらの組合せをもって形成されている。
【0022】
本例のマイクロ流路デバイス11においては、マイクロ流路12が、2つの試料導入口15,16と1つの試料排出口17とを有するY字形に形成されており、前記の各口に連通するマイクロ流路12の合流部に小型回転体1を導入して試料の攪拌を行う攪拌スペース18が設けられている。試料導入口15,16及び試料排出口17のうちの少なくとも1つは、小型回転体1を導入可能な形状及びサイズに形成される。小型回転体1は、形状及びサイズが小型回転体1を導入可能に形成された試料導入口15,16又は試料排出口17からマイクロ流路12内に導入され、攪拌スペース18内に設定される。
【0023】
マイクロ流路12は、溝幅が20μm〜30μm程度であり、フォトリソグラフィ技術によって所要の流路パターンが下ハーフ13に転写される。また、転写された流路パターンの加工は、化学的なエッチングや物理的なエッチングによって行われる。その他、下ハーフ13及び上ハーフ14の加工には、フォトリソグラフィ、エッチング及びマイクロ加工などが適用される。なお、マイクロ流路12の溝幅は、試料の混合効果及び混合効率とマイクロ流路12内を流れる試料の流動抵抗とを考慮して、羽根部3の全長よりも大きく、かつ、羽根部3の全長の3倍よりも小さく形成される。一例として、本願発明者らは、厚さが1mmの石英ガラスを下ハーフ13として用い、これにフォトリソグラフィ技術及びエッチング技術を応用して幅が20μmで深さが20μmのY字状の流路12を形成した後、当該下ハーフ13の流路形成面に厚さが0.3mmの石英ガラスからなる上ハーフ14を接着して、マイクロ流路デバイス11を作製した。
【0024】
このマイクロ流路デバイス11には、試料である流体の輸送を行うマイクロポンプやマイクロバルブ、試料の反応に使用されるマイクロリアクタ、混合された試料の解析に使用されるマイクロアナライザ等の図示しない各種の装置が必要に応じて接続される。
【0025】
本例のマイクロ流路デバイス11は、マイクロ流路12内への小型回転体1の導入及びマイクロ流路12内からの小型回転体1の排出を任意に行うことができるので、マイクロ流路12の構成と小型回転体1を構成とが異なる各種のマイクロ流路デバイス11を容易に構築することができ、多種多様な化学合成や化学分析に安価に対応することができる。即ち、試料導入口15,16や試料排出口17の開口数やマイクロ流路12の形状及びサイズ、それに薬液のフラックス量などが異なる各種のセル(小型回転体1を有しないマイクロ流路デバイス11)と、羽根部3の構成材料やサイズが異なる各種の小型回転体1とを用意しておき、化学合成や分析の内容に応じて最適のセルと小型回転体1とを組み合わせることにより、用途に応じた最適のマイクロ流路デバイス11を容易に構築することができるので、実験コストの低減とマイクロ流路デバイス11を用いて行うことができる化学合成又は化学分析の多様化を図ることができる。
【0026】
また、小型回転体1の性能が不十分であったり小型回転体1が故障した場合には、小型回転体1を交換するだけでマイクロ流路デバイス11の性能アップや原状への復帰を行うことができるので、修理交換に要する費用及び修理交換に伴う作業の中断を最小限にすることができる。また、事後的に新規かつ高性能の小型回転体1が開発された場合には、直ちにそれを投入することができ、新規なセルの開発が不要であるので、この点からも大きなコストメリットを得ることができる。
【0027】
次に、前記マイクロ流路デバイス11内に導入された小型回転体1の移動制御と回転制御とを行う小型回転体制御システムの構成を図5乃至図7に基づいて説明する。図5は実施形態例に係る小型回転体制御システムの構成図、図6は小型回転体に対するレーザ光の照射状態及び回転磁界の印加状態を示す説明図、図7はレーザーマニピュレーション装置による小型回転体の移動制御手順を示すフロー図である。
【0028】
図5に示すように、本例の小型回転体制御システムは、マイクロ流路12内に小型回転体1が導入されたマイクロ流路デバイス11と、小型回転体1をマイクロ流路12内の所要の位置に非接触で移動させるレーザーマニピュレーション装置21と、羽根部3に回転磁界を印加し、小型回転体1を非接触で回転させる回転磁界装置41とからなる。
【0029】
レーザーマニピュレーション装置21は、図5に示すように、波長が650nmの第1及び第2のレーザ光源22,23と、第1のレーザ光源22より出射されたレーザ光L1をスキャンニングする電子制御ミラー24と、第2のレーザ光源23より出射されたレーザ光L2を反射する第1のダイクロイックミラー25と、電子制御ミラー24にてスキャンニングされたレーザ光L1と第1のダイクロイックミラー25にて反射されたレーザ光L2とを合成する偏光ビームスプリッタ26と、レーザ光L1とレーザ光L2の合成レーザ光L3を反射する第2のダイクロイックミラー27と、マイクロ流路デバイス11が搭載されたXYステージ28と、マイクロ流路デバイス11中の小型回転体1に合成レーザ光L3を集光する対物レンズ29と、小型回転体1からの反射レーザ光を対物レンズ29、第2のダイクロイックミラー27及び偏光ビームスプリッタ26を介して受光する4分割フォトダイオード30と、マイクロ流路デバイス11に照明光L4を照射する照明用光源31及び照明用レンズ32と、マイクロ流路デバイス11及びXYステージ28を透過した照明光L4を対物レンズ29、第2のダイクロイックミラー27及び全反射ミラー33を介して受光する撮像装置34と、撮像装置34にて撮像されたマイクロ流路デバイス11の画像を表示するモニタ35と、4分割フォトダイオード30の出力信号及びモニタ35の出力信号に基づいて電子制御ミラー24の制御信号を算出する制御部(コンピュータ)36とからなり、XYステージ28の周囲には、回転磁界装置41が配置されている。
【0030】
前記電子制御ミラー24としては、ガルバノミラー、ピエゾ駆動ミラー、アクチュエータ駆動ミラーなどを適宜用いることができる。また、前記撮像装置34としては、CCDカメラやCMOSカメラなどを用いることができる。
【0031】
微小物体にレーザ光を照射すると、レーザ光の放射圧により微小物体を捕捉することができ、また、レーザ光の光軸を移動することにより捕捉された微小物体の移送を行うことができる。レーザーマニピュレーション装置21は、小型回転体1の捕捉と移送とに適用されるものであって、図7の手順にて小型回転体1の捕捉と移送とを行う。即ち、撮像装置34によって撮像された小型回転体1を含むマイクロ流路デバイス11の画像を制御部36にキャプチャし(手順S1)、キャプチャされた画像中に存在する小型回転体1の座標を求める(手順S2)。次いで、算出された小型回転体1の現在の座標から小型回転体1を設定する目的位置の座標までの最適行路を算出し(手順S3)。次いで、XYステージ28を操作して対物レンズ29と小型回転体1との相対位置を変更し、予め設定された前記相対位置の移動量から次時間における小型回転体1の移動先となる移動先座標を算出する(手順S4)。さらに、次時間における移動座標へ小型回転体1を導くように電子制御ミラー24のミラー角度の算出を行い(手順S5)、電子制御ミラー24のミラー角度が算出されたミラー角度と一致するように電子制御ミラー24に対して制御部から制御信号を出力する(手順S6)。前記手順S1〜手順S6を繰り返すことにより、小型回転体1を目標位置まで移送する。
【0032】
レーザーマニピュレーション装置21による小型回転体1の捕捉と移送に際しては、マイクロ流路デバイス11に形成されたマイクロ流路12内に小型回転体1を試料と共にポンプで注入し、しかる後にレーザーマニピュレーション装置21を操作して、小型回転体1を所定の攪拌スペース18に移動する。マイクロ流路デバイス11上に照射されるレーザ光のスポット径を約1μm、マイクロ流路デバイス11上におけるレーザ光の強度を約100mWとしたとき、前述した全長が10μmの小型回転体1を30秒で1.5mm移動させることができた。
【0033】
なお、レーザーマニピュレーション装置21の光学系を工夫することにより、同時に複数個の小型回転体1の捕捉と移送とを行えるようにすることもできる。
【0034】
回転磁界装置41は、図6に示すように、多数の電磁石41a〜41nを小型回転体1の設定位置をおおよそ中心とする円周上に配置したものであって、各電磁石41a〜41nに供給されるコイル電流を図示しないスイッチで適宜切り替えることにより、50〜2000Oeの回転磁界を小型回転体1に印加し、小型回転体1を60〜1200rpmで回転できるものが用いられる。この回転磁界装置41は、小型回転体1に均一な磁界を印加できることが必要である。一例として、本願発明者らは、段落〔0023〕に例示した図4のマイクロ流路デバイス11の2つの試料導入口15,16より水とメタノールとをマイクロ流路12内に注入し、マイクロ流路12の合流部に導入された段落〔0016〕に例示した小型回転体1に鉄芯を用いた電磁石により200Oeの回転磁界を印加して、小型回転体1を180rpmで回転した。そして、マイクロ流路デバイス11の試料排出口17より排出される混合体の混合度を測定したところ、試料が十分に混合されていることが分かった。
【0035】
本例の小型回転体制御システムは、レーザーマニピュレーション装置21にて小型回転体1の捕捉と移動とを行うので、マイクロ流路12に対する小型回転体1の導入や排出を非接触で行うことができる。また、本例の小型回転体制御システムは、回転磁界装置41にて小型回転体1の回転制御を行うので、マイクロ流路12内での小型回転体1の回転制御を非接触で行うことができる。よって、マイクロ流路12内における微量の流体の攪拌・混合を高能率に行うことができる。
【0036】
なお、前記実施形態例においては、マイクロ流路デバイス11内に導入された小型回転体1の移動制御と回転制御とを行うものを例にとって本発明の小型回転体制御システムを説明したが、本発明の要旨はこれに限定されるものではなく、レーザマニピュレーション装置の視野下で小型回転体1の移動制御と回転制御とを行う全ての制御システムに応用することができる。
【0037】
例えば、図8に示すように、小型回転体1を微小物質Pの操作子として用い、レーザマニピュレーション装置の視野下で小型回転体1の移動制御と回転制御とを行って、微小物質Pを微小範囲で移動させる制御システムにも応用することができる。即ち、レーザマニピュレーション装置は、レーザの集束光にて対象物を捕捉するため、対象物が加熱されてしまうという欠点があり、細胞などの熱に弱い物質を直接移動操作することが難しい。これに対して、図8に示すように小型回転体1を介して微小物質Pを間接的に操作すると、微小物質Pの加熱を防止することができるので、細胞などの熱に弱い物質の取扱いを容易かつ確実に行うことができる。この場合、微小物質Pの大きさや形状それに操作の内容に応じて、図2及び図3に例示するような各種の小型回転子1の中から適宜の小型回転子1を選択して操作することが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】実施形態例に係る小型回転体の平面図である。
【図2】実施形態例に係る小型回転体の側面図である。
【図3】実施形態例に係る小型回転体の他の例を示す平面図である。
【図4】実施形態例に係るマイクロ流路デバイスの透視斜視図である。
【図5】実施形態例に係る小型回転体制御システムの構成図である。
【図6】小型回転体に対するレーザ光の照射状態及び回転磁界の印加状態を示す説明図である。
【図7】レーザーマニピュレーション装置による小型回転体の移動制御手順を示すフロー図である。
【図8】実施形態例に係る小型回転体の他の使用方法を示す説明図である。
【符号の説明】
【0039】
1 小型回転体
2 回転保持部
3 羽根部
11 マイクロ流路デバイス
12 マイクロ流路
15,16 試料導入口
17 試料排出口
18 攪拌スペース
21 レーザーマニピュレーション装置
41 回転磁界装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性体又は少なくとも一部に磁性体を含む材料をもって羽根部が形成され、レーザマニピュレーション装置で任意の位置への移動が可能で、かつ外部から印加した磁界を回転させることにより回転が可能であることを特徴とする小型回転体。
【請求項2】
前記羽根部の中心部に非磁性体からなる回転保持部を有することを特徴とする請求項1に記載の小型回転体。
【請求項3】
前記羽根部の全長が10μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の小型回転体。
【請求項4】
攪拌しようとする試料の導入口と攪拌された試料の排出口とが開口されたマイクロ流路を有し、前記マイクロ流路内に、磁性体又は少なくとも一部に磁性体を含む材料をもって羽根部が形成され、非接触で回転と任意の位置への移動が可能な小型回転体が導入されていることを特徴とするマイクロ流路デバイス。
【請求項5】
複数の前記導入口と1つの前記排出口とを有し、前記複数の導入口から前記1つの排出口に続く前記マイクロ流路の合流部に前記小型回転体が配置されていることを特徴とする請求項4に記載のマイクロ流路デバイス。
【請求項6】
前記マイクロ流路の溝幅が、前記小型回転体の全長よりも大きく、かつ、前記小型回転体の全長の3倍よりも小さく形成されていることを特徴とする請求項4に記載のマイクロ流路デバイス。
【請求項7】
前記小型回転体は、前記導入口及び前記排出口の少なくともいずれか一方から前記マイクロ流路内に導入可能であることを特徴とする請求項4に記載のマイクロ流路デバイス。
【請求項8】
前記マイクロ流路を有するデバイス本体がシリコン、ガラス、セラミクス又は樹脂若しくはそれらの組合せをもって形成されていることを特徴とする請求項4に記載のマイクロ流路デバイス。
【請求項9】
磁性体又は少なくとも一部に磁性体を含む材料をもって羽根部が形成された小型回転体と、前記小型回転体を所要の位置に非接触で移動させるレーザーマニピュレーション装置と、前記羽根部に回転磁界を印加し、前記小型回転体を非接触で回転させる回転磁界装置とを備えたことを特徴とする小型回転体の制御システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−43607(P2006−43607A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−229517(P2004−229517)
【出願日】平成16年8月5日(2004.8.5)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】