説明

小型電動車両

【課題】障害物の衝突によりリアバンパが変形しても後輪のアライメントに悪影響を及ぼすことがなく,またパワーユニットの電動モータをリアバンパにより障害物から保護し得るようにした小型電動車両を提供する。
【解決手段】乗車用シート6と,電動モータ53及び減速装置62よりなるパワーユニット5と,このパワーユニット5の左右両側に配置される左右一対の後輪2r,2rとを支持する車体フレーム1に,後輪2r,2rの後方へ張り出すリアバンパ86を設けた小型電動車両において,電動モータ53を減速装置62の上部に配置し,リアバンパ86を,シート6直下の車体フレーム1に前端部を固着して電動モータ53の左右両側面に対向するように斜め後方に延びる左右一対の側面ガード部86a,86aと,それらの後端部間を一体に連結して電動モータ53の後面に対向する後面ガード部86bとで構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,電動車椅子のように,歩道を走行できて高齢者等による利用に好適な小型電動車両に関し,特に,乗車用シートと,電動モータ及び減速装置よりなり,前記シートの下部に配置されるパワーユニットと,このパワーユニットの左右両側に配置され,このパワーユニットの出力により駆動される左右一対の後輪とを車体フレームに支持し,この車体フレームに,後輪の後方へ張り出すリアバンパを設けた小型電動車両の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
かゝる小型電動車両の後部懸架装置は,特許文献1に開示されるように,既に知られている。
【特許文献1】特開平10−94561号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1に開示される小型電動車両では,リアバンパに後輪の駆動軸を取り付けていたので,リアバンパが障害物の衝突により変形すると,後輪のアライメントに狂いが生じることになって好ましくない。
【0004】
本発明は,かゝる事情に鑑みてなされたもので,障害物の衝突によりリアバンパが変形しても後輪のアライメントに悪影響を及ぼすことがなく,またパワーユニットの電動モータをリアバンパにより障害物から保護し得るようにした前記小型電動車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために,本発明は,乗車用シートと,電動モータ及び減速装置よりなり,前記シートの下部に配置されるパワーユニットと,このパワーユニットの左右両側に配置され,このパワーユニットの出力により駆動される左右一対の後輪とを車体フレームに支持し,この車体フレームに,後輪の後方へ張り出すリアバンパを設けた小型電動車両において,前記電動モータを前記減速装置の上部に配置し,前記リアバンパを,前記シート直下の前記車体フレームに前端部を固着して前記電動モータの左右両側面に対向するように斜め後方に延びる左右一対の側面ガード部と,これら側面ガード部の後端部間を一体に連結して前記電動モータの後面に対向する後面ガード部とで構成し,前記後面ガード部を車体持ち上げ用グリップに兼用するようにしたことを第1の特徴とする。
【0006】
また本発明は,第1の特徴に加えて,前記リアバンパの前端部を,前記車体フレームに着脱可能に固着したことを第2の特徴とする。
【0007】
さらに本発明は,第1又は第2の特徴に加えて,前記シート直下の車体フレームに固着されて前記パワーユニットの上方に略水平に配置されるキャリア部材の後端部に,前記リアバンパの前記後面ガード部に連結される支持脚を一体に連設したことを第3の特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の第1の特徴によれば,リアバンパは,後輪の懸架と関係なく車体フレームに固着されることになり,したがってこのリアバンパが障害物の衝突により変形しても,後輪のアライメントに狂いが生じることを回避することができる。しかもリアバンパは,電動モータの左右両側面に対向するように斜め後方に延びる左右一対の側面ガード部と,この両側面ガード部の後端部間を一体に連結して電動モータの後面に対向する後面ガード部とで構成されるので,電動モータを,その左右側方及び後方から接近する障害物から保護することができる。
【0009】
さらに前記後面ガード部は,車体持ち上げ用グリップとして使用可能であるから,補助者による小型電動車両の後部の持ち上げ性が良好であり,また小型電動車両の運搬車両への搭載時,後面ガード部は,小型電動車両を荷台に保持するための保持具の係止部としても使用でき,利便性が高い。
【0010】
本発明の第2の特徴によれば,リアバンパを車体フレームから取り外して,パワーユニットのメンテナンスを容易に行うことができる。
【0011】
本発明の第3の特徴によれば,パワーユニットの上方空間を利用してキャリア部材を配設することができると共に,リアバンパを利用してこのキャリア部材を強固に支持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の実施の形態を,図面に示す本発明の好適な実施例に基づき以下に説明する。
【0013】
図1は本発明の実施例に係る小型電動車両の斜視図,図2は同小型電動車両の正面図,図3は同小型電動車両の側面図,図4は同小型電動車両の車体フレームを示す側面図,図5は同車体フレームを示す平面図,図6は図3の6−6線断面図,図7は図6の7−7線断面図,図8は可動フェンダの外側面図,図9は図6の9−9線断面図,図10は図7の10−10線断面図,図11は図10の11−11線断面図,図12は図3の12−12線断面図,図13は図12の13−13線断面図,図14は図12の14−14線断面図,図15は図5の15−15線断面図である。
【0014】
図1〜図5において,小型電動車両Vは,車体フレーム1,この車体フレーム1の前端部に転向可能に懸架される左右一対の前輪2f,2f,操向ハンドル3,この操向ハンドル3の動きを両前輪2f,2fに伝達するステアリング機構4,車体フレーム1の後端部に懸架されるパワーユニット5,このパワーユニット5の左右両側に配置されと共に,その出力により駆動される左右一対の後輪2r,2r,車体フレーム1に支持されてパワーユニット5の上方に配置される乗車用シート6,並びにレッグシールド7等の車体カバー類を備えており,これらについて以下に順次詳細に説明する。尚,以下の説明中,左右・前後とは,小型電動車両Vを基準にして言うものである。
【0015】
先ず,車体フレーム1は,図4及び図5に示すように,左右に離隔して配置される一対のパイプ状のメインフレーム10,10を有する。各メインフレーム10は,前端から後ろ下がりに傾斜して延びるフレーム前部10aと,このフレーム前部10aの後端から後方へ水平に延びるフレーム中間部10bと,このフレーム中間部10bの後端から後ろ上がりに傾斜して延びるフレーム後部10cとからなっており,両メインフレーム10,10のフレーム前部10a,10aは互いに平行するように配置され,フレーム中間部10b,10bは,相互の間隔を後方に向かって広げるように配置され,フレーム後部10c,10cは互いに平行に配置される。フレーム前部10a,10aには,これらを相互に連結する鋼板製のサブフレーム11が溶接され,フレーム中間部10b,10bの後端には,これらを相互に連結するパイプ状のクロスメンバ12が溶接され,さらにフレーム中間部10b,10bの上部には,これらを相互に連結する方形のフロアパネル13が溶接される。フレーム後部10c,10cの上端には,これらを相互に連結するシートレール16が溶接される。またフレーム前部10a,10aの前端部には,後方にやゝ傾いた左右一対の支柱17,17の下端部が溶接される。以上により車体フレーム1が構成される。
【0016】
シートレール16には運転者用のシート6が取り付けられる。またフレーム後部10c,10c間には,前面側からバッテリ19等の補機を収容する補機収納箱18が取り付けられる。
【0017】
図2,図3及び図6に示すように,前記サブフレーム11に左右の前輪2f,2fがそれぞれ前部懸架装置20,20を介して独立懸架される。各前部懸架装置20は,内端側を前後二股状に分岐させたA型のフロントサスペンションアーム21と伸縮型のフロントダンパ22とを備える。フロントサスペンションアーム21は,その内端の前後一対のボス部21a,21aが,前記サブフレーム11に固設されて前後方向に延びる前後一対の枢軸23,23に弾性ブッシュ24,24を介して支持され,上記枢軸23,23周りに上下揺動し得るようになっており,各フロントサスペンションアーム21と,これと同側の支柱17との間に,フロントサスペンションアーム21の上下揺動を緩衝する前記フロントダンパ22が連結される。
【0018】
フロントサスペンションアーム21の外端,即ち揺動端には,それと同側の前輪2fを回転自在に支持するアクスル25を持ったナックル26がキングピン27を介して転向可能に連結される。
【0019】
一方,サブフレーム11及び左右の支柱17,17によって支持されるハンドルコラム28は,両支柱17,17間の中央部に配設され,このハンドルコラム28の上方に配設される前記操向ハンドル3がステアリング機構4を介して左右のナックル26,26に連動連結される。
【0020】
ステアリング機構4は,ハンドルコラム28に回転可能に支承されて上端部に前記操向ハンドル3が結合されるステアリング軸29と,このステアリング軸29の下端部に一体的に形成されて該軸29の後方に延びるステアリングアーム30と,このステアリングアーム30を左右のナックル26,26のナックルアーム26a,26aに連結する左右一対のタイロッド31,31とで構成される。ナックルアーム26aは,ナックル26の下端部からキングピン27より後方に延出しており,操向ハンドル3の操舵に応じてキングピン27周りに回動し,左右の前輪2f,2fを転向させることができる。
【0021】
図1〜図2,図6及び図7に示すように,各前輪2fの上方には,その前輪2fの上部の略半周面を覆う可動フェンダ35が配設され,この可動フェンダ35は,対応する前輪2fと一体となって転向し得るように対応する前記ナックル26に次のように取り付けられる。即ち,可動フェンダ35は合成樹脂製であって,前輪2fの外周面上部を覆う円弧状の周壁部35aと,前輪2fの内側面上部を覆う内側壁部35bと,前輪2fの外側面上部周縁を覆う外側壁部35cとを一体に連ねて構成され,その内側壁部35bには,その中央部に鉛直方向の第1取り付け部36が形成され,また後端部に水平方向の第2取り付け部37が形成される。一方,ナックル26には,その上端に起立する前後一対のブラケット38,38が形成され,これらブラケット38,38に第1取り付け部36がボルト39,39により締結され,またナックルアーム26aに第2取り付け部37がボルト40により締結される。上記ボルト39,40を外せば,可動フェンダ35をナックル26から取り外すことができる。
【0022】
左右の可動フェンダ35,35は,その少なくとも前端部がシート6に座った運転者Dの視界A内に入るように配置される(図2参照)。
【0023】
而して,運転者Dは,小型電動車両Vの運転中,左右の前輪2f,2fと共に転向する可動フェンダ35,35を目視することにより,道路上の前輪2f,2fの位置及び向きを的確に確認することができ,したがって悪路や狭い曲がり角での操縦を容易に行うことができる。
【0024】
しかも可動フェンダ35,35は,前輪2f,2fの直上を覆うだけの比較的小面積のもので足りるので,従来の小型電動車両の車体と一体の固定式フロントフェンダのように,転向する前輪を広範囲で覆うべく形成したものに比し,車体幅の縮小に寄与することができ,歩道での走行中,歩行者に威圧感を与えずに済む。
【0025】
また各可動フェンダ35の取り付けは,その内側壁部35bの第1及び第2取り付け部37を,前輪2fを軸支するナックル26のブラケット38,38及びナックルアーム26aにボルト止めすることにより簡単に行うことができると共に,可動フェンダ35,35の前輪2f,2fとの同時転向を確実にすることができる。
【0026】
さらに各可動フェンダ35は,単体でナックル26に脱着が可能であるので,その損傷時には,可動フェンダ35のみを他の部材に関係なく新規部品と交換することができて,メンテナンスコストの低減を図ることができる。
【0027】
図6〜図11に示すように,各可動フェンダ35において,その周壁部35aの後端部には,前輪2fに付着した泥を掻き落とす泥掻き手段43が設けられる。この泥掻き手段43は,可動フェンダ35の下端に全幅に亙り,したがって前輪2fの横幅より長く形成される第1排土片44と,この第1排土片44の直上で周壁部35aにその全幅に亙り開口するスリット46の下縁に形成される第2排土片45とで構成され,第2排土片45も前輪2fの横幅より長く形成される。第1排土片44は,その先端を前輪2fの外周面に対して斜め下向きにしていて,前輪2fの前転時,その外周面に付着した泥を掻き落とすようになっており,第2排土片45は,その先端を前輪2fの外周面に対して斜め上向きにしいて,前輪2fの後転時,その外周面に付着した泥を掻き落としてスリット46外に排出すようになっている。特に,第1排土片44は,その先端を前輪2fの外周面に対して斜め下向きに突出させ,第2排土片45は,その先端を前輪2fの外周面に対して斜め上向きに突出させているので,前輪2fの前端時及び後転時,第1及び第2排土片44,45が前輪2f外周面の泥に食い込み傾向となって,その泥をスムーズに掬い上げることができ,泥掻き効果の向上に寄与する。
【0028】
上記スリット46には,その左右中央部で上下両縁部を連結する,左右方向に薄い補強壁47が配設される。この補強壁47は,スリット46周りと第1及び第2排土片44,45とを補強する役割を果たす。また補強壁47は,両排土片44,45より前輪2fの外周面に近接するように配置され,可動フェンダ35の後端部が前輪2fに近接するように弾性変形したとき,補強壁47が前輪2fの外周面に当接して,両排土片44,45の前輪2fへの接触を防ぐようになっている。したがって,第1排土片44又は第2排土片45による前輪2fの泥掻き時,第1排土片44又は第2排土片45が泥に食い込んでも,補強壁47が前輪2fの外周面に当接することにより,各排土片44,45の過度の食い込みを防ぐことができる。
【0029】
図6,図8及び図10に示すように,各可動フェンダ35の外側壁部35cの後端部には,前輪2fの外側面に近接する第3排土片48が形成される。この第3排土片48は,その下端を第1排土片44の先端に連ねており,前輪2fの前転時,その外側面に付着した泥を掻き落とすようになっている。
【0030】
また図7,図10及び図11に示すように,可動フェンダ35の内側壁部35bの内面には,前下がりに傾斜して下端を内側壁部35bの下端縁に近づけながら前輪2fの内側面に向かって突出する排土片49が一体に形成され,この排土片49は,特に前輪2fの前進回転時,その側面に付着した泥を後方に掻き出すようになっている。
【0031】
而して,上記のようにして前輪2fに付着した泥を掻き落とすことにより,各前輪2f及び可動フェンダ35間への泥詰まりを防いで,各前輪2fのスムーズな回転を確保することができ,したがって泥濘の場所でもスムーズな走行が可能となり,その上,運転者Dは運転中に前輪2f,2fからの泥の掻き落とし状態を目視して,路面の泥濘状態を把握することができる。
【0032】
こゝで,可動フェンダ35のナックル26への取り付け構造について更に詳しく説明する。可動フェンダ35の内側壁部35bに形成される鉛直方向の第1取り付け部36には,前輪2fの回転軸線を含む鉛直面P(図9参照)を挟むように配置される前後一対の第1取り付け孔36a,36aが設けられ,また同内側壁部35bの下端部に形成される水平方向の第2取り付け部37には,泥掻き手段43に近接して第2取り付け孔37aが設けられる。これら第1及び第2取り付け孔36a,37aは前後方向に長い長孔とされる。そして第1取り付け部36は,ナックル26の上部の前後一対のブラケット38,38に,第1取り付け孔36a,36aに挿通されるボルト39,39により固着される。また第1取り付け部36は,ナックルアーム26aの後端部に,第2取り付け孔37aに挿通されるボルト40により固着される。それらの固着の際,可動フェンダ35を,第1及び第2取り付け孔36a,37aの長径方向に沿って前後動させることにより,特に,補強壁47,第1排土片44及び第2排土片45と前輪2fとの間隙が泥掻きに効果的な適正間隙に調整される。
【0033】
而して,可動フェンダ35は,上記のように泥掻き手段43に近接した第2取り付け部37でナックル26に支持されるので,泥掻き手段43による前輪2fの泥掻き時,可動フェンダ35に掛かる負荷を直接的にナックル26に伝達支持させて,可動フェンダ35の変形を極力防ぐことができる。
【0034】
また可動フェンダ35の第1取り付け部36は,前輪2fの回転軸線を含む鉛直面Pを挟むように配置される前後二箇所でナックル26に支持されるので,第2取り付け部37の支持と相俟って,可動フェンダ35全体を強固にナックル26に支持させることができる。しかも第1及び第2取り付け部36a,37aは,互いに直角をなしているので,可動フェンダ35の支持剛性が高く,可動フェンダ35の取り付け姿勢を安定化と振動防止に寄与し得る。
【0035】
図1,図4〜図6において,車体フレーム1の前部の左右両側には,同側のフロントダンパ22を囲みながら同側の前輪2f,2fの上方まで張り出す左右一対のガード部材32,32が配設される。各ガード部材32は,パイプ材をループ状に曲げてなるもので,前後方向に延びる直線状のグリップ部32gと,このグリップ部32gの両端から下方へ屈曲して延びる前後一対の脚部32a,32bとでループ状に形成されており,後側の脚部32bを前記メインフレーム10のフレーム前部10aの外側面に,また前側の脚部32aを同側の支柱17の外側面にそれぞれボルト等により固着することにより,車体フレーム1に支持される。そして両脚部32a,32bは,フロントダンパ22の前後両側を通り且つフロントカバー91,フロントサイドカバー90及びレッグシールド7と前輪2fとの間を通るよう,外端上向きに傾斜して配置され,グリップ部32gは前輪2f及び可動フェンダ35の上方位置を占めるようになっている。
【0036】
而して,左右のガード部材32,32は,落下物等の障害物がフロントカバー91及び前輪2f,2f間に侵入することを防ぎ,またその障害物から可動フェンダ35,前輪2f及びフロントダンパ22等を保護することができる。
【0037】
また各ガード部材32のグリップ部32gは,可動フェンダ35の上方に露出しているから,補助者が小型電動車両V前部の持ち上げる際には,そのグリップ部32gをフロントカバー91等に邪魔されることなく容易に把持することができて,持ち上げ作業性が向上する。またそのグリップ部32gは,可動フェンダ35の上方に配置されるので,前輪2fの飛散泥水を可動フェンダ35が受け止めることで,グリップ部32gの泥水による汚れを回避することができ,したがって上記補助者の手を汚すこともない。こうして,小型電動車両V前部の持ち上げ時の補助者の負担は軽減される。
【0038】
さらにガード部材32の両脚部32a,32bは,車体フレーム1に固着されるので,ガード部材32の支持強度が高く,持ち上げ荷重に充分に耐えることができる。
【0039】
図3,図12〜図14において,メインフレーム10の後部に後部懸架装置51を介してパワーユニット5が懸架され,このパワーユニット5に左右一対の後輪2r,2rが支持される。パワーユニット5のケーシング52は,リダクションケース52aと,このリダクションケース52aの下部の左右両側壁に一体的に突設される左右一対のアクスルケース52b,52bとからなっており,リダクションケース52aの上部一側に,前記バッテリ19を電源とする電動モータ53が取り付けられ,この電動モータ53の出力軸53aは,その先端部に形成されるピニオンギヤ54がリダクションケース52a内に突入するように配置される。
【0040】
リダクションケース52a内には,差動装置55のデフケース56が左右のアクスルケース52b,52bと同軸上に配置され,その左右両端部がボールベアリング57,57を介してリダクションケース52aに回転自在に支承される。このデフケース56には大径のファイナルギヤ58がスプライン結合される。またリダクションケース52a内では中間伝動軸59が出力軸53aとアクスルケース52b,52bとの中間部に配置され,その左右両端部がリダクションケース52aに回転自在に支承される。この中間伝動軸59には,前記ピニオンギヤ54に噛合する大径ギヤ60と,前記ファイナルギヤ58に噛合する小径ギヤ61とが固設されている。而して,上記ピニオンギヤ54,大径ギヤ60,小径ギヤ61及びファイナルギヤ58は,電動モータ53の出力軸53aの回転をデフケース56に一定の減速比をもって伝達する減速装置62を構成するもので,この減速装置62の上方に電動モータ53は配置される。
【0041】
デフケース56の両端部の内周面により,左右のアクスルケース52b,52bを貫通する左右の後車軸63,63がそれぞれ相対回転自在に支承され,これら後車軸63,63の,デフケース56内に突入した内端部にサイドギヤ64,64がそれぞれスプライン結合される。またデフケース56には,その回転軸線と直交すピニオン軸65が取り付けられ,上記両サイドギヤ64,64に噛合する一対のピニオンギヤ66,66がこのピニオン軸65に回転自在に支承される。而して,上記デフケース56,ピニオンギヤ66,66及びサイドギヤ64,64は,ファイナルギヤ58の回転を左右の後車軸63,63に分配する差動装置55を構成する。
【0042】
左右の後車軸63,63は,左右のアクスルケース52b,52bの外端部にボールベアリング67,67を介して支承される。左右のアクスルケース52b,52bの各外端から突出した左右の後車軸63,63の先端部に左右の後輪2r,2rが一体的に取り付けられる。したがって,後輪2r,2rは,後車軸63,63を介してアクスルケース52b,52bに支持されることになる。
【0043】
後部懸架装置51は,左右一対のリアサスペンションアーム70,70と,左右一対の伸縮型リアダンパ71,71とで構成される。各リアサスペンションアーム70は,その前端のボス部70aが,前記フレーム中間部10bの後端部のブラケット69に固着されて左右方向に延びる枢軸72に前部弾性ブッシュ73を介して支持され,上記枢軸72周りに上下揺動し得るようになっている。
【0044】
各リアサスペンションアーム70の後端部には前後一対の支持台75,75が溶接により固設されており,これら支持台75,75の上方に配置される前後一対の支持腕76,76′が同側のアクスルケース52bの前後両面に一体に突設される。これら支持腕76,76′には軸線を上下に向ける後部弾性ブッシュ77,77が次のように設けられる。
【0045】
即ち,各後部弾性ブッシュ77は,その内外周面に互いに同心に配置される外筒78及び内筒79が焼き付けられており,前後の後部弾性ブッシュ77,77の外筒78,78が支持腕76,76′にそれぞれ圧入される。そして前後の後部弾性ブッシュ77,77の内筒79,79が,これらを貫通するボルト80,80を介して前記支持台75,75及び押え板83間に挟持されて固着されるのである。
【0046】
以上において,各前部弾性ブッシュ73は,上下方向の弾性率が前後方向の弾性率より小さくなるように形成される。また各後部弾性ブッシュ77は,左右方向の弾性率が前後方向の弾性率より小さくなるように形成される。
【0047】
前側の各支持腕76には上方に起立するブラケット81が固着され,このブラケット81と前記フレーム後部10cの上端部とにリアダンパ71の両端部が連結される。
【0048】
而して,パワーユニット5の出力による後輪2r,2rの駆動時,ケーシング52に作用する反力トルクは,アクスルケース52bの支持腕76,76′から前後一対の後部弾性ブッシュ77,77,ボルト80,80及び支持台75,75を介してリアサスペンションアーム70に伝達して受け止められる。その間,前後の後部弾性ブッシュ77,77の弾性変形により反力トルクの衝撃が適度に緩和されるのであるが,後部弾性ブッシュ77,77が後車軸63を挟んで前後に配置されていて,反力トルクに対する抗力を充分に発揮し得ること,並びにこれら後部弾性ブッシュ77の前後方向の弾性率が比較的大きく設定されることにより,パワーユニット5の支持剛性を高めることができ,したがって上記反力トルクによるパワーユニット5全体の過度の揺動を抑え,後輪2r,2rへの動力伝達を的確に行うことができる。
【0049】
またアクスルケース52b,52bの前側の左右の支持腕部76,76に連結された一対のリアダンパ71,71も,パワーユニット5の反力トルクに対抗するように働くので,パワーユニット5の支持剛性の強化に寄与することになる。
【0050】
小型電動車両Vの走行中,路面から左右の後輪2r,2rに異なる衝撃力が加わったときには,前部弾性ブッシュ73及び後部弾性ブッシュ77,77の弾性変形により,アクスルケース52b,52bは,路面からの衝撃力の大きい側を上向きにするように比較的容易に傾くことになり,それに応じて左右のリアサスペンションアーム70,70を相対的に上下揺動させることで,左右の後輪2r,2rの個別の昇降が可能となって,各後輪2rの接地性を高めることができ,乗り心地の向上に寄与し得る。特に,各後部弾性ブッシュ77の左右方向の弾性率を比較的小さく設定することは,左右のリアサスペンションアーム70,70の相対揺動を促進させて,各後輪2rの接地性の更なる向上を図る上に有効である。
【0051】
また旋回走行時,後輪2r,2rが横荷重を受けても,前後一対,左右二組の後部弾性ブッシュ77,77;77,77が互いに協働して充分な抗力を発揮し得るので,後輪2r,2rの横方向支持剛性を高め,後輪2r,2rの姿勢安定化を図ることができる。
【0052】
このような後部懸架装置51は,構造が簡単で組立てが容易であるので,安価に提供することができる。
【0053】
図1,図3〜図5において,前記シート6直下の車体フレーム1,即ちフレーム後部10cの上端部には,斜め下向きに突出する左右一対の第4ブラケット85,85が溶接され,これら第4ブラケット85,85に,パワーユニット5の電動モータ53を囲むようにコ字状をなしたリアバンパ86の両端部がボルト87により着脱可能に固着される。即ちリアバンパ86は,第4ブラケット85,85から電動モータ53の左右両側面に対向するように斜め後方に延びる左右一対の側面ガード部86a,86aと,これら側面ガード部86a,86aの後端部間を一体に連結して前記電動モータ53の後面に対向する後面ガード部86bとで構成される。
【0054】
こうしてリアバンパ86は,後輪2r,2rの懸架と関係なく車体フレーム1に固着されることになり,したがってこのリアバンパ86が障害物の衝突により変形しても,後輪2r,2rのアライメントに狂いが生じることを回避することができる。しかもリアバンパ86は,その左右一対の側面ガード部86a,86aと後面ガード部86bとにより電動モータ53を,その左右側方及び後方から接近する障害物から保護することができる。
【0055】
またリアバンパ86は,その後面ガード部86bを,車体持ち上げ用グリップとして使用可能であり,補助者による車体後部の持ち上げ性が良好であり,さらに小型電動車両Vの運搬車両への搭載時,後面ガード部86bは,小型電動車両Vを荷台に保持するための保持具の係止部としても使用でき,利便性が高い。
【0056】
しかも,リアバンパ86を車体フレーム1から取り外して,パワーユニット5のメンテナンスを容易に行うことができる。
【0057】
図3〜図5及び図15において,フレーム後部10c,10cの上端部間を連結する前記シートレール16の中間には,後方に突出する左右一対の第5ブラケット105,105が溶接されており,これら第5ブラケット105,105には,パワーユニット5上を後輪2r,2rの後方まで略水平に延びる左右のキャリア部材106,106がボルト104,104により着脱可能に固着される。これらキャリア部材106,106は,その後端から下方前向きに鋭角で屈曲する支持脚106a,106aを一体に備えており,各支持脚106aの下端部に溶接された取り付け片107が,前記リアバンパ86の後面ガード部86bの中間部に,それを貫通するボルト108により着脱可能に固着される。左右のキャリア部材106,106は,例えばそれらの上面に荷籠109を取り付けて使用される。この場合,荷籠109は左右のキャリア部材106,106間を連結して,それらの補強部材の役割を果たす。
【0058】
こうして,キャリア部材106,106は,パワーユニット5の上方空間を利用して配設することができ,またキャリア部材106,106を,支持脚106a,106aを介してリアバンパ86に強固に支持することができる。
【0059】
再び図1〜図3において,左右の前記支柱17,17には,これら支柱の左右両側面を覆うフロントサイドカバー90,90と,支柱17,17及びハンドルコラム28の前面を覆うと共に両フロントサイドカバー90,90間を連結するフロントカバー91と,支柱17,17及びハンドルコラム28の後面を覆うと共に両フロントサイドカバー90,90間を連結するレッグシールド7とがボルト(図示せず)により取り外し可能に固着される。こうして,レッグシールド7は,ハンドルコラム28の左右外側方に張り出して,前記シート6に座る運転者Dの両脚を前方から覆うに配置される。このレッグシールド7の横幅は,前記フロアパネル13と同様に,歩道ですれ違う歩行者に威圧感を極力与えないように,横幅が左右の可動フェンダ35,35の内側縁間距離より短く設定され,このレッグシールド7の下端には,それより幅広で左右の可動フェンダ35,35の後部及びその間を覆う後ろ下がりに傾斜した補助カバー92が一体に連設され,この補助カバー92の後端はフロアパネル13にボルト結合される。この補助カバー92の,左右の可動フェンダ35の後部を覆う両端部92a,92aは,可動フェンダ35の半径方向外方に膨出し且つ可動フェンダ35の外周に沿って円弧状に形成される。フロアパネル13の上面には,補助カバー92の結合部を覆うようにしてフロアマット14が敷詰められる。これらフロアパネル13及びフロアマット14により,運転者Dの足置き部,即ちステップフロア15が構成される。
【0060】
而して,上記補助カバー92は,レッグシールド7及びステップフロア15間に亙って左右の可動フェンダ35,35の後部及びその間を覆うようにレッグシールド7より横幅が広くなっているから,可動フェンダ35,35から漏れて後方へ飛散する泥水等を補助カバー92で受け止めることができる。
【0061】
しかも補助カバー92は,レッグシールド7の下部に連設されるので,その横幅がレッグシールド7より広くなっていても,歩行者に威圧感を及ぼすことがない。
【0062】
さらに補助カバー92の,左右の可動フェンダ35の後部を覆う両端部92a,92aは,可動フェンダ35の半径方向外方に膨出し且つ可動フェンダ35の外周に沿って円弧状に形成されるので,可動フェンダ35,35と補助カバー92との間の間隙を充分確保して,前輪2f,2fの転向時,可動フェンダ35,35と補助カバー92との干渉を回避することができる。
【0063】
さらにまた補助カバー92は,レッグシールド7及びステップフロア15間に配設されること,その横幅がレッグシールド7より広いこと,並びに後ろ下がりに傾斜していることから,この補助カバー92を,運転者Dが足を突っ張り状態で載せ得る補助ステップとしても利用することができ,居住性の向上に寄与し得る。
【0064】
フロントカバー91の下部には左右一対のヘッドライト93,93が取り付けられ,左右のフロントサイドカバー90,90の上部にはフロントフロントウインカ94,94が取り付けられる。またメインフレーム10の後部には,パワーユニット5及び左右の後輪2r,2rを覆うリアカバー95が固着され,このリアカバー95の後面にテイルライト96が取り付けられる。
【0065】
運転者用のシート6は,シートレール16に支持されるシートクッション6aと,このシートクッション6aの後端部から起立するシートバック6bとで構成される。シートバック6bは,その左右両側面に支持板97,97を一体に備えており,これら支持板97,97に左右一対のアームレスト98,98が,水平の使用位置と上方に起立した退去位置との間を回動し得るように軸支される。これらアームレスト98,98より上方の支持板97,97の上部にリアントウインカ95,95が取り付けられる。
【0066】
また図1に明示するように,メインフレーム10のフレーム中間部10b及びフレーム後部10cには,それらを覆うL字状のリアサイドカバー100が取り付けられる。このリアサイドカバー100,フロントサイドカバー90及び支持板97は,小型電動車両Vの車体の平坦な側面を代表するもので,これらの外面にその略全域に亙り反射体101もしくは発光体が付設される。反射体101にはメタリック塗膜,淡色系のグレー塗膜,反射鏡等が適当であり,メタリック塗膜,特にシルバーメタリック塗膜を採用する場合は,塗装により反射体101を簡単に構成することができ,しかも照射光に対する反射性が比較的高いので,視認性が良好である。
【0067】
また発光体には,蓄光性材料もしくは蛍光性材料が適当であり,これを採用する場合には,他車のヘッドライト等の照射光を受けると,積極的に発光するので,視認性が高い。
【0068】
また前輪2f,2f及び後輪2r,2rの外側面にも上記と同様の反射体102もしくは発光体が付設される。
【0069】
而して,夜間,小型電動車両Vによる車道の横断中,その車体側面に他車のヘッドライトが照射されると,上記反射体101,102の反射光もしくは発光体の発光によりリアサイドカバー100,フロントサイドカバー90及び支持板97,並びに前輪2f及び後輪2rが浮かび上がるので,小型電動車両Vの略全体を他車のドライバに容易に認識させることができ,夜間における小型電動車両Vの良好な側方視認性を得ることができる。
【0070】
本発明は,上記実施例に限定されるものではなく,その要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更が可能である。例えば,後輪2rを単輪にして小型電動車両Vを三輪車に構成することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明の実施例に係る小型電動車両の斜視図である。
【図2】同小型電動車両の正面図である。
【図3】同小型電動車両の側面図。
【図4】同小型電動車両の車体フレームを示す側面図である。
【図5】同車体フレームを示す平面図。
【図6】図3の6−6線断面図。
【図7】図6の7−7線断面図である。
【図8】可動フェンダの外側面図である。
【図9】図6の9−9線断面図である。
【図10】図7の10−10線断面図である。
【図11】図10の11−11線断面図である。
【図12】図3の12−12線断面図である。
【図13】図12の13−13線断面図である。
【図14】図12の14−14線断面図である。
【図15】図5の15−15線断面図である。
【符号の説明】
【0072】
V・・・・・小型電動車両
1・・・・・車体フレーム
2r・・・・後輪
5・・・・・パワーユニット
6・・・・・シート
53・・・・電動モータ
62・・・・減速装置
86・・・・リアバンパ
86a・・・側面ガード部
86b・・・後面ガード部
106・・・キャリア部材
106a・・支持脚

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗車用シート(6)と,電動モータ(53)及び減速装置(62)よりなっていて前記シート(6)の下方に配置されるパワーユニット(5)と,このパワーユニット(5)の左右両側に配置され,このパワーユニット(5)の出力により駆動される左右一対の後輪(2r,2r)とを支持する車体フレーム(1)に,後輪(2r,2r)の後方へ張り出すリアバンパ(86)を設けた小型電動車両において,
前記電動モータ(53)を前記減速装置(62)の上部に配置し,前記リアバンパ(86)を,前記シート(6)直下の前記車体フレーム(1)に前端部を固着して前記電動モータ(53)の左右両側面に対向するように斜め後方に延びる左右一対の側面ガード部(86a,86a)と,これら側面ガード部(86a,86a)の後端部間を一体に連結して前記電動モータ(53)の後面に対向する後面ガード部(86b)とで構成し,前記後面ガード部(86b)を車体持ち上げ用グリップに兼用するようにしたことを特徴とする小型電動車両。
【請求項2】
請求項1記載の小型電動車両において,
前記リアバンパ(86)の前端部を,前記車体フレーム(1)に着脱可能に固着したことを特徴とする小型電動車両。
【請求項3】
請求項1又は2記載の小型電動車両において,
前記シート(6)直下の車体フレーム(1)に固着されて前記パワーユニット(5)の上方に略水平に配置されるキャリア部材(106)の後端部に,前記リアバンパ(86)の前記後面ガード部(86b)に連結される支持脚(106a)を一体に連設したことを特徴とする,小型電動車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2007−131140(P2007−131140A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−325923(P2005−325923)
【出願日】平成17年11月10日(2005.11.10)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】